ミハイルリポート〜古城の大掃除〜

■シリーズシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月15日〜10月25日

リプレイ公開日:2004年10月20日

●オープニング

──事件の冒頭
 ミハイル研究室では、日夜新たなる神秘の解析が行われている。
 其の日、教授の助手であるシャーリィ・テンプルは、ある石版の解析で悩んでいた。
「うーーん。ここの件の部分、この掛けた部分に何かを納めるとしっくりと来るんでしょうけれど‥‥うーーーん」
 古代魔法王国に関連している石版だけに、急いで解析する必要が有る。
 ミハイル教授自身も、自室に閉じこもって写本を紐解く為に日夜没頭している為、この程度の謎解きに教授の手をわずらわせる訳にはいかなかった‥‥。
「こんにちはー。シャーリィ・テンプルさんに御手紙でーす」
 窓の外で、シフール飛脚がシャーリィにそう話し掛けた。
 その手紙を受け取って差出人を確認すると、シャーリィは急いで封を開けた。

●手紙
 親愛なるシャーリィ・テンプル殿。
 貴方から頼まれていた『道標のペンダント』ですが、古くからの親友であり冒険者として切磋琢磨していた仲間であるミハイルの助手ならば、喜んでお貸ししましょう。
 ただ、ちょっと困った問題がおこりまして‥‥。


●そして冒険者ギルド
「はて? その依頼でしたら、確かプロスト卿からいつも頼まれていましたが?」
 薄幸の受付嬢が、シャーリィにそう話し掛けた。
 シャーリィがここに来た理由は只一つ。
 南ノルマンのプロスト卿の古城で発生したアンデットの駆逐を御願いしにやってきていたのである。

 シャーリィが受け取った手紙によると、地下迷宮の封印は完全に固定してあったはずだが、外の森林に立っている『嘆きの塔』の封印が破壊されてしまった為、第3階層まで全ての封印が解除されてしまったらしい。
 そして、古城内部を大量のアンデットが這い回っているらしく、それを排除してくれれば『道標のペンダント』を貸し出してくれる事になったのである。

「古城の地下室掃除ならぬ、古城の大掃除という所ですね。判りました、この依頼は掲示板に張付けておきますね」
「宜しく御願いします」
 そう告げると、シャーリィは一旦研究室へと戻っていった。

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1703 フィル・フラット(30歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2705 パロム・ペン(45歳・♂・レンジャー・パラ・イスパニア王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3173 ティルコット・ジーベンランセ(30歳・♂・レンジャー・パラ・フランク王国)
 ea4278 飛刀 狼(22歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea5753 イワノフ・クリームリン(38歳・♂・ナイト・ジャイアント・ロシア王国)

●リプレイ本文

●移動中の出来事〜流石の早馬〜
──街道筋
 ガラガラガラガラ。
 静かに馬車が街道を駆け抜ける。
 依頼の為にプロスト領へと向かう一行。
 普通の冒険者なら、馬車で街道など使いはしない。急務なら兎も角、報酬よりも高額な馬車代がかかる為である。
 が、今、一行はのどかな馬車の旅を満喫している。
 依頼人である『シャーリィ・テンプル女史』が、研究室で持っている馬車を出してくれていたのである。
「その、地下封印の仕方はシャーリィしか解らないのか?」
 馬車の中での打ち合わせ。
 風烈(ea1587)は、一冊の写本をじっと呼んでいるシャーリィに問い掛けた。
「ええ。その為の術を、今紐解いています。内部を徘徊しているアンデットさえ駆逐して頂ければ、あとは私が」
 そう呟くシャーリィに、フィルが話し掛ける。
「噂では、今回の古城の地下封印、かなり複雑になっているそうじゃないか? ミハイル教授と打ちあわせをしておいたほうがいいのでは?」
 フィル・フラット(ea1703)の提案。
 確かに、シャーリィの依頼があった直後、ミハイル教授も塔の探索任務を行うと話していた。
 そして、幾つかの多重構造封印。
 それらが繋がる場所を、シャーリィも幾つか模索していたらしい。
「封印の条件などは? ある程度教えていただけると、こちらとしても作戦を煉りやすいのですが・・・・」
 ルイス・マリスカル(ea3063)がシャーリィにそう問い掛ける。
 ちなみにルイス、これから向かう好事家領主プロスト卿の古城についてはエキスパート。
 かつて地下第三階層まで踏破し、さらに『嘆きの塔』『囁きの塔』の二つも調査済み。
 この依頼に最も適した情報を持っているといえよう。
「第三階層への扉、第二階層への扉、第一階層への扉、最後に全階層への立体封印の強化。一つの封印作業に一時間というところですね・・・・」
 そのシャーリィの言葉に、ルイスは時間調整を始める。
「今回はジジィのお守りじゃない分、気が楽だよなぁ・・・・とはいってもパロムのオッサンとは一緒か」
 悪態を付くように呟いているのはティルコット・ジーベンランセ(ea3173)。ちなみにティルコットとパロム・ベン(ea2705)、同じミハイル教授の依頼では常にライバル同士。
 今回はさらに、別の意味でのライバルとなるが、それは・・・・オチで。
「オッサン!! おいらは・・・・おっさんじゃないにゅ。『恋する中年』にゅ!!」
 子供のようにむきになるパロム。
 そんな二人のやり取りを尻目に、飛刀狼(ea4278)がシャーリィに問い掛けた。
「今までの説明とかを聞いていると。塔の封印を破壊したから、こっち側の封印が解けた、って解釈でいいのか? って事は、また同じ様な感じの事件が起こる可能性はあるんだよな。再発防止策でもあればいいんだろうが・・・・ 」
「ええ。それは私とミハイル教授の調査で判りましたわ。古城を取り巻く六芒星封印結界、その頂点に位置する6つの塔。塔の封印結界が解除された場合、古城の結封印界が連鎖的に解除されます。六芒星封印結界は3つの塔によるトライアングル構造が二つ連なって形成されていますので、教授の調査が終ってから、私は封印を完成させる必要があるのです・・・・」
 なんか、難しい。
 ざっと見渡すと、ウィザードやクレリックという頭脳労働専門家の姿はない。
 まあ、アンデットの駆逐ゆえ、それらの部分はシャーリィが担当の模様。
 それらの話を聞きつつも、グラン・バク(ea5229)はずっと烈の方を注意していた。
(この前の戦い・・・・奴は、アンデットと戦っていなように感じられた・・・・何か別の敵と戦い、アンデットをその仮想敵として・・・・もし今回もそんなことがあったら・・・・)
 死者への冒涜。
 グランは、それが起こった場合には、実力で烈を説き伏せる事も懸念している模様。
「・・・・早馬だな。シャーリィ、後ろから侍が走ってくるぞ」
 イワノフ・クリームリン(ea5753)が、後方から走ってくる早馬に気が付き、シャーリィにそう説明する。
「止めてください!!」
 御者がシャーリィの言葉を聞き、馬車を止める。
 と、馬は馬車の真横に止まる。
「ハアハアハアハア・・・・。シャーリィさん、ミハイル教授から伝令です。塔の調査で打ち合わせをしたいので、城下街の酒場で合流したいとの通達です」
 それは永倉平十郎。
 どうやら出発の準備に手間取ったミハイル教授達からの伝令の模様。
「判りました。それでは、『蒼き湖畔亭』で待っていますと伝えてください」
 シャーリィスの言葉を確認すると、平十郎は後方へと走っていった。
 そして一行は、真っ直ぐにプロスト領内・蒼き湖畔亭へと向かっていった。


●タイミングが全て〜失敗は許されないと〜
──蒼き湖畔亭
 シャーリィ班の到着より遅れること5時間。
 すでに日は沈み、先発隊であるシャーリィ班はいつでも出撃できるように体勢を整えていた模様。
 ミハイル班もようやく到着し、酒場の一角を占拠して作戦会議を始めていた。

「つまり、先に古城内部のアンデットの駆逐。それと同時進行で『呟きの塔』の探索・・・・。探索作業が全て終了し、全員が塔より脱出してから、古城の封印開始という所ですね」
 それはオイフェミア。
 途中の休憩でオイフェミアは一通りの説明を受けていた。そこからはじき出した方法として、そのような結論を引っ張りだした模様。
「そうですね。ミハイル教授、呟きの塔の探索、予定はどれぐらいですか?」
 ルイスがそう問い掛ける。
「ふむ、2日ぐらい・・・・明後日の正午までにはでなんとか・・・・」
 そのタイムスケジュールを聞いて、レイルが口を開く。
「教授、まさか特攻調査じゃないだろうな?」
 特攻調査。
 それは、ミハイル教授の十八番。
 とにかく少ない時間を有意義に使う為の、強行調査。精神も体力もボロボロになるという噂もあり、かなり熟練した冒険者でなければ不可能な技。
 かつてミハイル教授が冒険者だった時代、そのような方法を使っていたとレイルは聞かされた事があったらしい。
「フォフォフォ。もうそんな体力はないぞ。塔の構造は高さ6階層。細長く高い。時間的には2日というところじゃて。で、レニー。シャーリィ達が御前さんに話を聞きたいという感じじゃが?」
 ミハイルは後ろの卓で食事をしているレニー、即ち『レナード・プロスト』領主に話し掛ける。
 古城をアンデットに奪われてしまったので、現在は教会にて世話になっている模様。
「ふむ。まあいいでしょう。質問には、私の判る範囲でお答えしましょう」
 そのままミハイル班は集って食事しながら打ち合わせ。
 シャーリィ班は、プロフェッサーの異名を持つ『好事家領主殿』に話を振った。
「まだ、城内には珍獣が残っているのか?」
 烈がそう問い掛ける。
「いや、珍獣達は、今は森の方に専用の建物を作ってある。そちらに移してある為、アンデット化した珍獣は存在しない筈だ」
 つとめて冷静にそう呟くプロスト。
 まるで、新米冒険者に教えるかのように、ゆっくりと、それでいて嫌みなく話を続ける。
「家具を使ってバリケードを作っても大丈夫か?」
 このフィルの問いには、飛刀も肯く。
 実は飛刀も同じことを考えていたらしい。
「うむ、派手にやっても構わん。貴重な物品やアーティファクトは宝物庫にしまってあるし、あとは『金で買えるもの』ばかり。何物にも変えがたいものを守る為ならば、好きにやって構わぬ」
 さあ、領主様の御墨付きが出ましたよ。
「プロスト卿。出来れば、城内の地図を貸していただきたいのですが」
 ルイスがそう頼み込む。
 他に色々と訪ねたいことはあったものの、それらは全て先に言われた為、ルイスは城内見取り図の貸与を頼んだ。
「見取り図などない。少し時間を頂ければ、私が書き記そう」
 そう告げると、プロスト卿は短時間で、正確かつ綿密な地図を作成した。
 昔はマッパー担当と見た!!
「これでよいか? 多少いびつになってしまったが」
 完成した地図は、その辺りのマッパーでは太刀打ちできない精密さ。
「いえ、これで十分です。現役を退いたと言いましても、まだまだですね」
 ルイスが本音でそう告げる。
 と、流石のプロスト卿も、多少の照れがあったらしい。
「まあ、その話はここまで。あと何かあったら、私は教会にいるので、そちらに来て頂きたい」
 そう告げると、プロスト卿は其の場を立ちさって行く。
 そしてミハイルチームも、打ち合わせが終った為其の場をあとにした。


●魔の古城〜サーチ&デストロイ〜
──一階区画
 勝負は2日間。
 明日の正午には、ミハイル班の探索が終了し、シャーリィが封印作業を開始する。
 それまでに、古城内部の全てのフロアのアンデットを退治する必要が有った。
「・・・・」
 すでにかなりの数のアンデットを駆逐してきたものの、まだ大量に徘徊していると思われる。
「俺の記憶違いじゃなければ、ズゥンビやら何やらのアンデッドは元になる死体がないと出てこないモンスターだったよな。・・・・この城の地下には、一体どの程度のご先祖さんが眠ってるんだ?」
 そのフィルの言葉に、ルイスがふと何かを考える。
「ここまで倒してきたアンデットですが、ちょっと・・・・普通ではないですね」
「そうにゅ? おいらは、対して気にならなかったにゅ〜」
 ルイスの言葉に、パロムがそう告げる。
 パロムの役割は斥候。
 作戦上、古城を幾つかのエリアに分断、斥候としてそこの調査を行い、体勢を整えて突撃する。
 その作戦のさ中、パロムなりに色々と調べてはいたらしいが、どうもこれといったものには気付いていなかったらしい。
「・・・・レイスもいたからか? でもアンデットだし、問題ないんじゃないか?」
 パロムとは対象的に殿を務めていたティルコットがそう告げる。
 確かにズゥンビやスカルウォリアーといった『実体を持つ』アンデットの中に、今までは確認されていない『レイス』が存在していた。
 魔法か銀の武具でしか傷つく事の出来ないアンデット。
 飛刀がかろうじてオーラパワーを唱える事が出来た為、なんとか倒せた相手である。
「いや・・・・これは推測に過ぎないのですが。恐らく、地下三階の封印は解除されているかと・・・・」
 ルイスが恐い事を告げる。
「まさかだろ。ルイス、確か地下三階の封印は、あんたたちが以前確認してきた筈じゃなかったか?」
 烈がルイスにそう問い掛ける。
 ちょうど松明が消えてしまった為、ランタンに灯を移しながらそう話し掛けていた。
「ええ。第三階層までは全て、私と仲間たちが『駆逐』しました。アンデットなど、徘徊する筈が無いのです・・・・」
 つまり。

 第四階層に続く立体構造封印が解除されている・・・・。

 ゴクッと息を飲む一行。
 アンデットの駆逐と聞いてやってきたのだが、そこまで調査の手を伸ばす必要があるのかもしれない。
 そしてなによりも、封印作業に向かう為に、地下迷宮に挑む必要があるという事実。
 最悪、封じられていた魔人の確認、第5階層へと続く扉を調べ、そちらの調査再封印も行う必要が有った・・・・。
「計算外か。まあいい、出てくる敵は全て排除する」
 グランが静かにそう呟く。
「問題は時間か。シャーリィ、頭脳労働は苦手なので、どれぐらいの時間か調べてくれるか?」
 イワノフの言葉に、シャーリィが写本をめくる。
 パラパラと必要な部分を読み込み、そして思考。
「一つの扉に1時間・・・第五階層に続く扉の再封印まで考えると、最低でも5時間ですね・・・・」
 言葉に力が無い。
 いつもの強気な言葉ではなく、まだ見ぬ『魔人』を恐れているのであろう。
 彼女は研究員。冒険者ではない。
──ポンポン
 シャーリィの肩を、パロムが叩く。
「大丈夫にゅ。シャーリィちゃんはおいちゃんが必ず守ってあげるにゅ。シャーリィちゃんは、自分の出来る事に全力を傾けるにゅ。恐い魔人は・・・・このおいちゃんが退治してくれるにゅ!!」
 そう言いながら、パロムはグランを指差した。
「やれやれ。まあ、突っ込めといわれれば突っ込むけれどな・・・・」
 呆れた表情でそう呟くグラン。
「いずれにしても、このまま古城内部を駆逐していくよりは、先に地下エリアの確認をしたほうが早いか・・・・最悪、封印作業が終ってから古城内部の駆逐という手もある」
 フィルのその意見に、一行は静かに肯く。
 そして、各エリアを家具などで分断し、一行は真っ直ぐに地下迷宮エリアへと向かっていった。


●地下迷宮〜蟲蟲大行進ですな〜
──第一階層
「・・・・なんだって、こんなに大量の蟲がでてくるんだ?」
 眼の前に転がっているグランドスパイダーやらクレイジェルやら。
 大量の死体を目の前にして、烈がそう吐き捨てるように呟く。
「今までの経験上、グランドスパイダーのような蟲とは対峙した事があります。けれど、クレイジェルは・・・・」
 ルイスも顎に手を当てて考え込む。
「クレイジェルは大地のある所じゃないといない筈にゅ」
 パロムがクレイジェルの屍骸・・・・泥の塊の様な部分を突きながらそう呟く。
「てことは、噂の地下階層からやってきたって所じゃねーか?」
 ティルコットが投げたダーツを回収しながらそう返答。
「もしティルコットの言う事が正解なら、確実に第四階層への扉は開いていることになりますね・・・・これは、本気で気を引き締めていかないといけませんね」
 ルイスのその言葉に、一行はさらなる緊張感に包まれていった。

──第二階層
「飛刀、あと何体だ!!」
 激しい剣の一撃が、目の前のズゥンビに叩き込まれる。
 グラン、力任せの必殺技炸裂。
 その横では、飛刀がオーラパワーを掛けたナックルでスカルウォリアーを粉砕していた。
「あとズゥンビ3体、スカルウォリアー4体だな・・・・」
 ちなみにこの二人、斥候から戻ってきたパロムが『引っ張ってきた』アンデットの殲滅に回ってきていた。
 別のルートからもズゥンビ達が姿を表わした為、他のメンバーはそちらに向かった模様。
「とっととケリを付けさせてもらう!!」
 全身の筋肉がパンプアップ。
 そしてグランは、再びスマッシュを連打していった・・・・。

「・・・・あと2体!!」
 ズゥンビの攻撃をガードしつつ、カウンターアタックを叩き込んでいるのはイワノフ。
 その真横では、烈が必殺の鳥爪撃(ニャオ・ジャオ・ジィ)を、同じくズゥンビに叩き込んでいる。
「これであと一体!! パロム、他の敵は? 戦場の空気は読めるか?」
 烈が砕け散ったズゥンビの腹部から足を抜き取ると、後方でシャーリィのガードをしているパロムにそう問い掛けた。
「いや、もう敵はいないにゅ」
「あと2体。こっちに近づいてくる音が聞こえる・・・・」
 おっと、パロムに聞き取れなかった物音を、ティルコットが確認!!
「それは私が!!」
 ルイスがそう呟きながら、壁の向うから敵が姿を表わすのをじっと待っていた。
──コトッ!!
 と、壁の向うから姿を現わしたのはグランと飛刀の二人である。
 無事に前方の階段エリアの敵を殲滅し、只今帰還の模様。
「おつかれさまにゅ。首尾はどうだにゅ?」
「ああ。パロムの連れてきてくれたアンデット達のおかげで、いい肩慣らしになった・・・・」
「全くだ。まあ、敵の姿をいち早く取りえるのが斥候の務め。任務を果たしたのだから、あとは俺達の仕事だがなぁ・・・・」
 グランと飛刀がそう告げる。
「階段のほうはどうでした?」
 ルイスは、第三階層へと続く階段の先が気になっていた。
「・・・・暗くて判らない。それに、そろそろいい時間だろう?」
 無茶をしすぎない程度の行軍。
 松明やランタンの灯で時間を計り、体力に無理が掛かりそうになったら帰還するというイワノフの提案で、メンバー達は体力を温存していた。
 まあ、初日でここにたどり着く事が出来たのは良しというところである。
「では、手筈通りに・・・・」
 そのまま第三階層へと続く扉の手前で、シャーリィが飛刀とバトンタッチ。
 扉を閉じて、明日、またここに来るまで持続する『簡単な結界』を施してもらうことにした。
 そうすることで、ここから下層の魔物たちが上がってこれないようにするのが目的。
「しかし、こんな簡単に封印ができるのか・・・・」
 烈はシャーリィが持って来ていた石版をマジマジと見ている。
 そこには、古き魔法が記されている。
 シャーリィは考古学者。ウィザードのように魔法に精通している訳ではない。
 が、持ち前の知識をフル動員して、古き技を今に蘇らせているようである。
 なお、どんなものなのかを一行は説明してもらったらしいが、誰一人として理解することが出来なかった・・・・。
「・・・・これで良しです。明日、ここに来るまでは結界が持続する筈ですわ」
 そのシャーリィの言葉を聞くと、一行は1度地下迷宮エリアから脱出、城の外に退避した。


●第三階層アタック〜いや、マジでやばいって〜
──第三階層
 ドッゴォォォォォォォン
 激しいまでに力強い一撃。
 これまたグランの必殺技が炸裂、目の前のグールは音もなく吹き飛ばされていた。
 第三階層に入ってからは、敵の力が強大になりつつある。
 全ては、封印が破壊されている為であろう・・・・。
 大量のアンデット、最後に姿を現わしたグールも無事に撃破。
 そして扉の確認をしたとき、一行は絶望の不治に叩き込まれたような感覚に陥ってしまった。
 巨大なフロアの中央に位置する、地下第四階層への扉はすでに開かれている・・・・。
 シャーリィは壁に刻まれている文字の解析。
 それらから、階層封印の構造を紡ぎ出そうというのである。
「・・・・最悪の状況です・・・・」
 扉の奥からは激しい熱気が吹き荒れてくる。
 この第三階層事態が、その熱でむせ返るような状態になっていた。
 皆、額から汗がにじみ出し、アンダースーツに染みはじめている。
 扉の奥をフィルとルイスが監視する。
 いつ何が出てきてもおかしくないからだ。
「・・・・行くしかないだろう・・・・最悪、その魔人とやらに出会ったときは、扉の封印だけでも行なって逃げないとならないし・・・・」
「シャーリィーが扉を封じるまで1時間・・・・それよりも、封印開始時間は今日の昼。それまであと4時間。この地下階層で、正体が判らない魔人から4時間も逃げきるっていうのは無謀じゃん」
 烈のその言葉に、ティルコットがボソリと呟く。
「せめて、魔人の正体が判れば、対処もあるのだが」
 飛刀が静かに口を開いた。
「・・・・全く判らないわけではないが・・・・」
 イワノフが、倒してきたアンデットの傷を調べながらそう呟く。
「俺達が戦った相手が、全てこの地下からやってきた者と仮定しよう。こいつらは、俺達が戦う前に既に傷ついていた。この傷を付けたのが魔人だとすると・・・・」
 そう呟きながら、イワノフは千切られたり焼けただれた死体を調べながら、ゆっくりと思考する。
「それにあの熱気・・・・なんか、久しぶりに感じたみたいにゅ?」
 パロムにも、何か心当売りがあるようだ。
 腕を組んでしばし考えるパロム。
「イワノフ何か判るか?」
 グランの問いに、イワノフは嫌な顔をしてみせる。
「例えば。この傷口、千切られた部分や火傷による傷。そしてこの熱気・・・・俺もそれほど詳しくはないが、可能性としては・・・・恐らくはドラゴン・・・・」
 その言葉に、一行は寒気を感じる。
 長い間冒険者をやっていても、本物のドラゴンになど会う事は無い。せいぜい伝承程度であり、実際にこのノルマンでドラゴンを見たという噂は、ここしばらくは聞いた事も無いのである。
 ちょっと前にドラゴン退治の依頼がギルドに張られていたらしいが、噂ではフィールドドラゴンよりも小さく実害のないドラゴンであったり、悪魔が変身していたものであったりしたらしい。
 このノルマンでせいぜい見れたとしても、それほど実害のないフィールドドラゴン程度。それでも、このような激しい熱気を放つことはない。
 ならば、イワノフの言葉が真実だとすると、この奥に眠っているものはドラゴンか、それに等しい何かであろう。
「あ、この熱気、思い出したにゅ!! じっちゃんと一緒に行った『炎の迷宮』にゅ。あの時は暑かったにゅーーー」
 パロム、ようやく思い出した模様。
「なあパロム・・・・もし、この奥に、炎の迷宮の時のような火の精霊が存在した場合、広大な洞窟に広がっている地下迷宮に閉じこめなくてはならないものって、一体何者なんだ?」
 扉の奥をじっと見ながら、フィルがそう問い掛ける。
「ど、どういう事にゅ?」
「ここから下を見ていると、どうやらこの下の階層は『自然の洞窟』に手を加えたもののようです。階段の高さは大体10〜15m、かなり広大な地下迷宮。そしてあちこちの床が熱によって溶解しているような部分もあります・・・・この階段自体も・・・・」
 そのルイスの問いに、一行はしばし思案。
「炎の精霊か・・・・確か、学んだことあったが・・・・」
 イワノフは精霊系モンスターについて、過去に学んだ事があった。
 が、かじった程度で、あとは対して気に止めていなかったのが災いしてしまった。
「いずれにしても、これ以上地下に進むのは現状では不可能です。全滅するのがオチですよ・・・・」
──グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
 そのルイスの言葉に、地下から激しいうなり声が聞こえてくる。
 その咆哮だけで、全身が凍てつくように固まる。
「・・・・やばすぎる・・・・」
 グランは剣を手に構えていたが、その手が震えている。
 本能で、相手が危険過ぎると判断したのであろう。
「ルイスさん、急いで扉を締めてください!! こちらに私達が居る事を気取られると、地下から破壊されかねません!!」
 シャーリィの叫びに、急いで扉を締めるルイス。
「解析は終ったのか? 封印は?」
 そのフィルの問いに、暗い表情をするシャーリィ。
「私には・・・・ここの封印を行うだけの魔力はありません・・・・せめて、『ウィザード』の方が居て頂ければ・・・・」
「なら、しばらくはここで魔人が出てこないように見張りをしている必要があるか・・・・」
 烈が口惜しそうに呟く。
「あとは、教授達が無事に向うを終らせてくれるのを待つだけじゃん・・・・あっちには、ウィザードが居た筈だから」
 ティルコットの言葉に、一行は静かに肯いた。
 そして、地下の魔人はまだ目覚めたばかりで力を取り戻していない事、簡易結界のみで1度扉を固定し、その間に古城のエリアを徘徊するアンデットを少しでも駆逐する事などをシャーリィは提案。
 一行はそのまま地下迷宮エリアから外に出ていった。


●古城にて〜アクシデント発生!!〜
──第三階層
 ある程度の駆逐作業が終ったとき、ミハイル教授達『呟きの塔』班が合流した。
 そして全員で地下迷宮エリアに向かい、件の第三階層にやってきていた。
「なるほどのう・・・・」
 第四階層に繋がる扉には簡易結界が施されている。
 その回りに、シャーリィ達は待機していた。
 封印処理の為には膨大な魔力が必要という事態になっている。
 つまり、第四階層への封印まで解除されてしまっていたのである。
「それで、魔力をと思いましたけれど、私達の方にはウィザードがいないのです」
 ルイスがオイフェミア達に説明を行う。
「私とシルヴァリアの二人の魔力で足りるのかしら?」
 オイフェミアがシャーリィにそう問い掛けた。
「はい。一人でも十分なのですけれど、異なる属性力の魔力でしたら、より高い効果を期待できるのでは。この地下は恐らく『炎の加護』の強い階層のようですので、よろしく御願いします」
 そのままシャーリィの指示通りに魔法を酷使するオイフェミアとシルヴァリアの二人。
 そして第四階層、第3階層と次々と封印処理行い、昼過ぎには全ての処理を完了させた。
 
 そこからはサーチ&デストロイ。
 ミハイル班とシャーリィ班の二手に別れ、城内に残っているアンデットの駆逐を行った。
 それが終ったのは深夜すぎ、一行は一旦宿に戻り休息を取ると、翌朝にはプロスト卿に依頼完了報告を行った。


●そして〜無事に借りました!!〜
──パリ・ミハイル研究室
 一同は無事に教授の研究室に戻ってきた。
 シャーリィは無事にペンダントを借りられた為、さっそく写本の解析の為に部屋に籠ってしまう。
「ああ・・・・シャーリィちゃん、おいちゃんは哀しいにゅ」
 シャーリィを食事に誘おうとしたパロムだが、すでにシャーリィの頭の中は写本のことでいっぱいの模様。ちなみにパロムの前にティルコットも誘ったらしいがあえなく玉砕の模様。
「・・・・」
 烈は、静かに窓の外を眺めていた。
 プロスト卿に今回の報酬を断り、その代わりに『アルフレッド・プロスト』が闇オークションで競り落とした『鉱石』を貸して欲しいと頼み込んだのである。
 それが『死んだ鍛冶師』の片身の一つであるので、妹の元に見せに行きたかったのである。
 が、アルからの返事は、Noであった。
 正確には『今は貸し出す事が出来ません。まあ、いずれ時間が出来たときにでも、そうですねぇ・・・・ふらりと冒険に行くときにでも立ち寄ってくれれば・・・・』との事であった。
「ミハイル教授? あの塔の中での文字、何を記してあったのかしら?」
 それはオイフェミア。
 まだあの中で見た文字について教えて貰ってはいなかったのである。
「あ・・・・もうしばらく待っていてくれ。ワシでも難解なのじゃよ・・・・」
 そのまま一行は、しばらくの間、教授の研究室で旅疲れた身体を休めていたのである。

〜To be continue