●リプレイ本文
●いきなり嫌な感じです〜脱輪〜
──街道にて
シャーリィ達『古城班』が出発してから、ミハイル・ジョーンズ率いる『呟きの塔』班も準備を終えて出発した。
そして一時間後に、馬車は轍に引っ掛かってしまった。運悪く後部車輪が外れてしまうという事故が発生。
一行は、とりあえず補修作業を始める為に、荷物を馬車から降ろして一休みしている所であった。
──ムスゥゥゥッ
困り果てたような、腹を立てているような表情でじっと街道脇の草むらに座っているのはシン・ウィンドフェザー(ea1819)。
「何があったのじゃ?」
「写本が高かっただけだ。なんで、あのような専門の書物というのは高額なんだ?」
シンは前回の鑑定失敗を踏まえ、移動中に妖精関係の文献を調べておこうと思っていた。
そのため、街の中にある数少ない『写本屋』を巡ってみたのだが、とかく『妖精に関する文献』というのは高額である。
専門書となると更に高く、しかも写本という物自体が希少な為、一般市場には出まわっていないというのが現状であろう。
「ふぉふぉふぉ。専門書というのはそういうものじゃよ。そのうち妖精に詳しい人でも連れてきなさい、ワシの研究室には写本家もいるから、口伝を聞いて本にしてあげよう」
そのミハイルの言葉に、なんとか納得するシン。
「仕方ないか。誰か、暇なときに妖精について教えてくれ」
仲間たちにそう頼み込むシン。
そしてその直後、ミハイル教授は後ろを振り返り身構えた!!
「出たなロックハート!!」
そう叫ぶミハイル教授。
「出たなとは。また人を化け物みたいに・・・・」
「判かっとるわい。で、今日は何が聞きたいのじゃ?」
御存知ロックハート・トキワ(ea2389)の質問コーナー。
ミハイル教授の依頼では、すでに日常茶飯事となっているこの光景。
一行の知りたい事を、ロックハートがすべて代弁してくれているので、一行は二人の会話に耳を傾けはじめた。
「ゴホン・・・・まずは、『呟きの塔』の由来はわかるか?」
静かに問い掛けるロックハート。
「6つの塔全てに何かが封じられているのじゃよ。囁きの塔、嘆きの塔・・・・呟きの塔もまたしかり、封じられている何かの特徴を意味していると思われる。それ以上は判らん」
あっさりと言い切るミハイル教授。
今回はあらかじめ質問される覚悟を決め、おおよその答えを用意してきた模様。
「では・・・・塔の守護者について何かわかるか?」
「判らん!! 正確には、解析不能であったとしか言えないのじゃよ」
きっぱりと言い切る教授。
「精霊を従わせる具体的な方法は?」
と、さっきとは違い、教授は写本を手に静かに口を開く。
「精霊を従わせるというのは無理じゃよ。彼等は、自由な存在。本能のまま存在する者たち。以前説明してあった『従わせる』というのは、『加護を得る』『力による駆逐』といった意味合いが強い事が判ったのじゃよ。高き知性をもつ者は言葉により、そして獰猛なるものは、その勇敢なる剣にて・・・・というところじゃよ」
その説明には、なんとなく理解。
「依頼書に出ていた『時の額冠』とは何?」
流石の教授も、その言葉には驚いていた。
「な、確か消して在った筈じゃが・・・・ふむ。まあ隠していても無駄じゃな。『時の額冠』とは、精霊達の力を総べるものらしい。何れかの遺跡に封じてあるという事を写本から紐解いたのじゃよ。今回の遺跡である呟きの塔に封じてあるかも知れぬと思ったのじゃが、可能性は低かったので主軸から外した筈じゃが・・・・はて?」
あ、そういうことなのね。
「教授、質問いいかしら?」
それはオイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)。
「かまわんぞ。ロックハートの質問では足りなかったのか?」
そのミハイルの言葉に静かに肯くと、オイフェミアはゆっくりと言葉を繋ぐ。
「守護者はもういいとして。『陽炎の衣』は、どんなものなのかしら?」
「ふむ。この写本によると、陽精霊の加護を得る為に作られた織物だそうな。古くは、陽精霊を信仰していた者たちが、上位陽精霊に奉納する為の儀礼的な衣。それ以上の事は判らないのう・・・・」
「見つかったら、着ていいよね? 前に約束したよね!!」
チルニー・テルフェル(ea3448)がミハイルの回りをパタパタと跳びながら哀願する。
「おお、よしよし。チルニーは着ても構わんぞい!!」
不思議とシフールに甘いミハイル教授。
「爺さん、今回の封印について詳しい資料かなにかはないのか? 話を聞いている限りでは、随分と大掛かりな封印のようだが」
それはミハイル教授専属ストッパーのレイル・ステディア(ea4757)。
又の名を『押さえの切り札』とか、『大魔神』と呼ばれているかどうかはか定かではないが、レイルは今回の塔と古城の封印との関連についてミハイルに問い掛けた。
「まず、古城を中心とした立体構造封印。第3階層までは、その下の階層の封印を固定する為のエリア。第4階層より下には、古来『魔人』と呼ばれている存在が封じてある。その古城の封印をさらに強固なものとするためのトライアングル構造結界。そしてトライアングル構造結界を二つ重ねた『六芒星結界』。プロフェッサーから聞いた話を元に、ちょっと調べてみたのじゃよ。フォフォフォ」
流石はミハイル教授というところであろう。
遺跡の構造等については、専門の模様。
「写本にもそれらしい記述があるし、呟きの塔の封印は、最終的にはワシが行なわなくてはならないからのう・・・・と、シャーリィには、この事を説明してあるが・・・・ちと不安じゃな。今一度説明の必要があるわい」
と、ミハイル教授が思いたつ。
兎にも角にも、教授達の塔の探索が終るまでは、古城の結界は安定しないようである。
そこの説明と打ち合わせを行う必要が有った。
「なら、僕がひとっぱしり走って伝えてきましょうか?」
そう告げるのは永倉平十郎(ea4799)。
「すまんが頼む。ワシらは馬車の修理が終りしだい、すぐに向かうから、城下街の酒場で合流しようとな」
そのミハイルの言葉を聞き、平十郎は愛馬にまたがりひた走った!!
「あ、ミハイル教授・・・・」
馬車も無事に修理が終り、一考は再び出発。
その中で、シルヴァリア・シュトラウス(ea5512)はミハイル教授に静かに話し掛けた。
「んー? なんじゃ?」
写本片手に何か思案中のミハイル。
「もし、塔の内部で余計な動きをしましたら、容赦なくアイスコフィンで凍らせますわよ」
にっこり微笑ってそう告げるシルヴァリア。
以前の依頼で、彼女を始めとする冒険者達はあやうく海の藻屑と成る所であった。
その為であろう。
「あの時は・・・・正直すまんかった・・・・」
神妙な面持ちでそう呟くミハイル。
そして一行は、そのまま来るべき塔の調査の為に、少し体力を温存することにした。
──そして平十郎
前方にシャーリィ達の馬車が見えはじめた。
「あ、あれがシャーリィさん達の馬車ですね!!」
そのまま平十郎はさらにスピードアップ!!
「止めてください!!」
と、前方の馬車で、シャーリィが御者に馬車を止めるように指示している。
そして平十郎は、馬車の真横に馬を止めると中に乗っているシャーリィに伝言を伝えた。
「ハアハアハアハア・・・・。シャーリィさん、ミハイル教授から伝令です。塔の調査で打ち合わせをしたいので、城下街の酒場で合流したいとの通達です」
「判りました。それでは、『蒼き湖畔亭』で待っていますと伝えてください」
シャーリィスの言葉を確認すると、平十郎は後方へと走っていった。
●タイミングが全て〜失敗は許されないと〜
──蒼き湖畔亭
シャーリィ班の到着より遅れること5時間。
すでに日は沈み、先発隊であるシャーリィ班はいつでも出撃できるように体勢を整えていた模様。
ミハイル班もようやく到着し、酒場の一角を占拠して作戦会議を始めていた。
「つまり、先に古城内部のアンデットの駆逐。それと同時進行で『呟きの塔』の探索・・・・。探索作業が全て終了し、全員が塔より脱出してから、古城の封印開始という所ですね」
それはオイフェミア。
途中の休憩で畏怖ェミアは一通りの説明を受けていた。そこからはじき出した方法として、そのような結論を引っ張りだした模様。
「そうですね。ミハイル教授、呟きの塔の探索、予定はどれぐらいですか?」
ルイスがそう問い掛ける。
「ふむ、2日ぐらい・・・・明後日の正午までにはでなんとか・・・・」
そのタイムスケジュールを聞いて、レイルが口を開く。
「教授、まさか特攻調査じゃないだろうな?」
特攻調査。
それは、ミハイル教授の十八番。
とにかく少ない時間を有意義に使う為の、強行調査。精神も体力もボロボロになるという噂もあり、かなり熟練した冒険者でなければ不可能な技。
かつてミハイル教授が冒険者だった時代、そのような方法を使っていたとレイルは聞かされた事があったらしい。
「フォフォフォ。もうそんな体力はないぞ。塔の構造は高さ6階層。細長く高い。時間的には2日というところじゃて。で、レニー。シャーリィ達が御前さんに話を聞きたいという感じじゃが?」
ミハイルは後ろの卓で食事をしているレニー、即ち『レナード・プロスト』領主に話し掛ける。
古城をアンデットに奪われてしまったので、現在は教会にて世話になっている模様。
「ふむ。まあいいでしょう。質問には、私の判る範囲でお答えしましょう」
そのままシャーリィ班はプロスト卿に質問タイムの模様。
そしてミハイル班も食事を取りおえると、明日の朝からの調査の為に塔の近くのベースキャンプに戻り、詳細の打ち合わせを開始した。
●呟きの塔〜トラップがメインですか〜
──第一階層
正面の扉には、古代魔法語で刻まれた封印の文字が羅列している。
「・・・・教授、これを解除する方法は?」
まずは扉の調査と、今回のトラップ担当であるマナ・クレメンテ(ea4290)が、一通りの道具を開いてから教授に問い掛ける。
「ん? おお、これはな」
突然扉に手を掛ける教授。
──ガシッ
と、その行動を見切っていたのか、レイルが素早く教授を止める。
「だから・・・・今回はまあ、トラップマスターがいないので安心していたらすぐこれだ・・・・せめて説明してから行動してくれ」
そう呟くレイル。
しかし、トラップ解除専属担当がいないから安心というのは・・・・。
「で、扉はどうなんですか?」
「鍵は掛かっておらんよ。解除は今わしが行なおう」
マナの問いに、そのまま文字の一つ一つを読み込み、解除を行うミハイル。
そして解除が終った後。マナが鍵やトラップの調査。
一通りの調査も終り問題が無い事を確認した一行は、さっそく塔の内部に入っていった。
小さい塔にも関らず、内部は細く入り組んだ仕掛けになっていた。
その狭さは二人が横に並ぶと、もうスペースはないぐらいである。
もし戦いということになったら、戦えるのは一人のみ。後方からの援護は魔法が関の山というところである。
今までの広い空間での調査と違い、かなりの慎重さが必要とされる。
で、おきまりの隊列。
〜〜〜図解〜〜〜
・上が先頭になります
・遺跡内部での灯はチルニーとオイフェミアが担当
・二人はメンバーからランタンを借用
・マッパーはシルヴァリアが担当
トラップ関係はマナが担当
・戦闘時はミハイル教授が荷物の護衛
・また、必要に応じて各員が松明の準備
・戦闘時、マナはシンの後方へ
シン マナ
レイル 永倉
教授 オイフェミア
チルニー シルヴァリア
ロックハート
〜ここまで
いきなり迷宮に突入。
右へ左へ上へ下へ。
上り階段と下り階段、壁づたいに動けばなんとかなるという『迷宮の法則』を完全に無視するかのように、突然動いては形を変化させる『ムービングウォール』。
チルニーの魔法により、壁自体は魔法のギミックでないことは理解できたものの、その法則性も何も判らないまま、ただひたすらに一行は駆け抜けることとなってしまった。
加えて、トラップの数々。
壁の隙間から毒の塗られたダーツが飛んでくるのはもちろん、足元が崩れるピット、突然崩れる天井、はては古代魔法語の刻まれた謎解きに至るまで、とにもかくにも大変である。
それでもなんとか、翌日の夕刻には4階部分まで踏破できたのは、ひとえに『努力と根性』の賜物であろう。
──そして5階
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
目の前から襲いかかる、全身を布に包まれた守護者。
その鋭き爪をオフシフトで躱わすと、素早くカウンターアタックを叩き込むシン。
──ドゴォォォン
本来は、ここより遥かの地に眠る者たち。
それがどのような経緯でここに運びこまれ、そして何故守護者として扱われているのかは判らない。
ただ、それはまったく未知の敵であり、越えなくてはならない試練であることは間違いは無い。
敵は3体。
幸いな事に5階フロアは壁のない広い空間。
北東にある階段、その上にある扉。
窓の外からは朝日が差す。
間もなく、約束の時間。
シャーリィ達が封印を開始する時間まであと僅か。
この上には、恐らく『陽炎の衣』が安置されている。そこに向かう為にも、この試練を越えなくてはならなかった。
辛うじて平十郎のオーラパワーがあった為、一行は守護者との戦いを有利に持ち込む事ができるような感じであったが。
「はっはぁ!! 疾きこと『風』の如く! 貴様等に死の制裁を!」
勢いよくロックハートがダーツを投げる。
それを除ける事もなく、守護者はダーツをその身に受ける。
だが、痛みに動きが鈍ることなく、守護者は静かに襲い来る。
──ガギィィィン
シンが、襲ってきた守護者の鋭い爪を剣で受け流す。
「あんなの食らう訳にはいかない!!」
さらに別の一体は、レイルに向かって襲いかかる。
──ザシュッ!!
鋭い爪はレイルの肉を削ぐ。
「そんなやわな攻撃で・・・・っ」
突然視界がグニャリと揺らぐ。
何かか傷口より体内に侵入した模様。
──ガギィン
「大丈夫ですか!!」
その横では、最後の一体の攻撃を平十郎が受止めていた。
「ああ、一瞬だが、ぐらっと・・・・いや、今は大丈夫」
レイルはそのまま剣をかざすと、目の前の一体に向かって切り付けた!!
──ドシュドシュッ!!
素早い斬撃は、守護者の身体に突き刺さっていく。
が、やはり痛みを感じる事のない身体らしく、動きが全く鈍ることはない・・・・。
──ドッゴォォォン、ドッゴォォォォォン
平十郎必殺のスマッシュEX発動!!
その2撃で、守護者の一体はすでにボロボロとなった。
──ザシュッッッッッ
ロックハートが手にしたダガーで、シンの前の守護者に向かって高速で切り付けた。
切っ先のみで相手の肉体を切り刻む技、シュリイク!!
3連撃を叩き込んだものの有効打は一撃のみ。
さらに横からシンが、力一杯剣を叩き込んだ!!
──ドシュッドシュッ
その2連撃で、二人の前の守護者も満身創痍状態に陥ってしまった。
──ヒュゥゥゥゥゥゥゥ
シルヴァリアの周囲に冷気が漂いはじめる。
全身が淡く青く光り輝く。
まるで指揮をしているかのような動きの、華麗なる印の結び。口から発せられる『力ある言葉』は、やがて一つの魔術を具現化させた。
「い出よ!! 凍てつく嵐!!」
アイスブリザードが発動!!
タイミングよく前衛達は敵に攻撃を与えた後に体勢をずらしていた為、アイスブリザードの餌食にはならなかった。
さらにマナがギリリと弓を引き絞り、番えていた三本の矢をレイルの相手に叩き込む!!
「これでおしまい!!」
──ドスドスドスッ
体表に3本の矢が突き刺さったにも関らず、今だ守護者はピンピンとしていた。
「・・・・うそぉ!!」
動揺するマナだが、再び矢を番え直す。
そしてオイフェミアの術も完成。
「これでも食らいなっ!! グラビティキャノーーンっ」
──ドッゴォォォォォォォォン
力強い重力の塊。
その一撃を受けて、フラフラになる守護者。
これで3体共、ボロボロ状態である。
──キィィィィィィィン
窓の外に向かって羽根を広げているのはチルニー。
まるで、太陽の光を羽根に集めているようにも見える。
「太陽は出ているから・・・・サンレーザーーー」
太陽光を湾曲させて打ち込むチルニー。
今居る塔の高さと、窓の外の光、そして守護者の位置がぎりぎりであった為に発動成功。
だが、威力は・・・・残念!!
さらに守護者達の反撃開始。
それらをなんとか躱わしつづけている一行は、やがて守護者達を撃破した・・・・。
「ふむ。どれどれ・・・・」
部屋の隅に置かれている3つの石の棺桶。
その中をミハイル教授はゴソゴソと漁っている。
「教授!! また勝手に・・・・」
そう叫びながらレイルが教授に近付く。
と、ミハイル教授は小さな薬袋を棺桶から取り出すと、その中の一粒をレイルに手渡した。
「遅効性の病・・・・一週間以内に治療しなくては死ぬぞ。この薬を飲むがよい」
伊達に遺跡の研究をしているのではない。
その教授の言葉に従い、レイルは薬を飲み干した。
「・・・・不味い・・・・が、助かった。礼を言う」
「フォフォフォ。それも時間との勝負じゃて。さあ、進むぞい!!」
そのままマナは最後の扉のチェック。
「・・・・トラップありね・・・・これをこうして」
──カキカキカキッ
「ここが・・・・こうで・・・・」
──カチャカチャッ
「こうして・・・・と」
──ガチッ!!
あ、詰めで失敗の模様。
突然扉からガスが吹き出す。
いや、扉だけではない。
この第5階層のあちこちの壁の隙間から、異様な程のガスが噴霧する。
「・・・・危険で・・・・あうぅぅぅぅ・・・・」
あ、チルニーが失速して床に・・・・
そして一人、また一人と床に崩れていった。
──チルニー
ふと気が付いた時、チルニーは大量のふわふわに囲まれていた。
「白くて・・・・フワフワァァ」
とても幸せな気分になっているチルニー。
そのままフワフワを見つめたまま、じっとしていた。
──シン
そこは、何処かの貴族の屋敷。
どうやらシンはパーティーに列席しているらしく、硬苦しい正装姿で、これまた硬苦しいメンツの中に混ざって座っていた。
一つ、また一つとテーブルに料理が運びこまれる。
周囲の貴族は、音一つ立てずに静かに、礼儀正しく食事をしていた・・・・。
(こ、これは地獄だ・・・・)
礼儀作法の嫌いなシンにとっては、そこは正に生き地獄であった。
──ロックハート
暗い迷宮。
ロックハートは一振りの剣を構えていた。
漆黒に輝く異形の剣。
血塗られたその剣は、ロックハートの心臓と呼応するかのように、小さく鳴動を繰り返していた。
そして、ロックハートの周囲には、良く見知っていた仲間たちの姿。
その剣を得る為に、ロックハートが殺した仲間たちの姿がそこにある。
「ふっ・・・・ふふふっ・・・・はーーーっはっはっはっ」
涙を流しながら絶叫するロックハート。
魔剣を手に入れる為の代償が、かけがえのない仲間たちの命ということを、その時初めて理解した・・・・。
──マナ
どこまでも広がる青い空。
マナは、静かに草原に転がって、流れゆく雲をじっと見つめていた・・・・。
手を伸ばせば届きそうな、そんな感じを楽しみつつ、マナはしばらくの間空を眺めていた。
──レイル
目の前で神父が言葉を綴る。
レイルの横には一人の女性。
大切な彼女であるが、顔が思い出せない。
周囲からは、二人をしている声が聞こえてくる。
「そうだ。俺は彼女と結婚するんだ・・・・」
だが、彼女の顔が良く見えない。
彼女とは・・・・誰だったか・・・・。
レイルは意識を集中するが、やはり顔は見えない・・・・。
──その他
「しかし、随分と幸せそうな表情ですね・・・・」
平十郎が、床に横たわっているマナの顔を見ながらそう呟く。
「シンはうなされていますわ。よほど恐い幻覚を見ているのでしょうね」
シルヴァリアは、シンの様子を見ながらそう告げる。
その横では、オイフェミアがチルニーをそっと起こしてあげた。
チルニーもまた、幸せそうな表情である。
「教授、そろそろ気がつくころですか?」
オイフェミアがそう問い掛ける。
そしてミハイルは、レイルの難しそうな表情をじっと観察していた。
「幸せそうな・・・・じゃが、困ったような・・・・複雑な表情じゃな・・・・と、そろそろ起きる頃じゃろ。あの手の幻覚を見るガスの効果など、そんなに長く続くものではないぞ」
そう呟くミハイル。
と、一人、また一人と意識を取り戻した。
「気分はどうですか?」
シルヴァリアの問い掛けに、シンが頭を左右に振る。
「最悪だ・・・・一体何があった?」
そのシンの問い掛けに、平十郎が口を開く。
「幻覚性のガスです。このフロア全体に仕掛けてあったトラップですよ。僕達はなんとか耐えられましたけれど、皆さんはそのまま気を失ってしまいまして。大丈夫ですか?」
その言葉に、気を失っていた一行はなんとか自分を取り戻した。
そして最後の階へとレッツトライ!!
●そして〜太陽の言葉〜
──第六階層
中央の天井には、丸く形取られた水晶が取り付けられていた。
太陽の光を集めたそれは、天井から幾条もの光を室内に送り込んでいた。室内には、その水晶を通り抜けてきた光があちこちに差し込んでいる。
「何もいない・・・・か」
「ああ。取り敢えずマナ、手当たりしだいトラップ関係を頼む」
シンとレイルがそう告げながら、ミハイルをガシッと取り押さえる。
最近は慣れたもので、ミハイルも取り押さえられるのをじっと待っていた。
「了解。さて、調べましょうか♪〜」
そのままあちこちと調べまくるマナ。
そして見付けたのは、角に置かれた石のチェスト二つ。
「これ以外には何もないわね。鍵も掛かっていないけれど、どうします?」
そのマナの言葉に、ミハイルがようやく解放された。
「どれどれ」
静かに蓋を開こうとするが、其の手は直に止まった。
「この中に陽精霊が封じてあるが・・・・開けられぬな」
そのミハイルの言葉に、チルニーが質問。
「可哀想だから、出してあげてー」
「チルニー。この子を出してあげると、この塔の結界能力が『消滅』してしまうのじゃよ。この子は結界の媒体として扱われている。可哀想じゃが、今しばらくは駄目なのじゃ・・・・」
最初に説明が無かったら、チルニーも諦めなかったであろう。
だが、結界の説明を受けている以上、チルニーも無理な事は言えなかった。
「で、こっちが・・・・陽炎の衣じゃな」
綺麗な布を取り出すミハイル。
まだ裁断されていない布地。
古くはそれを元に、様々な衣類を作り出していたのであろう。
とりあえずその布をチルニーに手渡したとき、オイフェミアとシルヴァリアの二人は何かを発見。
「この光。中に文字が浮かび上がっていますわ」
「こっちの光もですわね。求める・・・・全ての・・・・古代魔法語だから、わたくしには難しいですわ」
天井から差す光。
それは水晶により乱反射し、壁の彼方此方に文字を浮かび上がらせていた。
以前のように水晶に傷が付いていたのではない。
良く見ると壁全体に、古代魔法語で様々な文字が刻みこまれていたのである。乱反射した光が照らし出す場所を一つ一つ見て回ると、どうやら言葉に繋がるようである。
「さて・・・・と、ふむふむ・・・・」
壁から壁へとチョロチョロするミハイル。
シルヴァリアはその文字を一つ一つメモ。
そして一通りの解析が終ると、ミハイルは一行に話し掛けた。
「急いで撤収じゃな。ここにはこれ以上の文献はない。シャーリィ達の方も心配じゃて」
そのミハイルの言葉に、一行は急いで出口へと向かう。
あらかじめ記してあった地図と壁に付けた印。
それらを元に塔の外まで飛び出すと、ミハイル教授は急いで扉を締めて封印処理を開始した。
そして1時間後、ミハイル教授が無事に封印処理を終えると、一行はそのまま古城へと向かっていった・・・・。
●古城にて〜アクシデント発生!!〜
──第三階層
「なるほどのう・・・・」
第四階層に繋がる扉には簡易結界が施されている。
その回りに、シャーリィ達は待機していた。
封印処理の為には膨大な魔力が必要という事態になっている。
つまり、第四階層への封印まで解除されてしまっていたのである。
「それで、魔力をと思いましたけれど、私達の方にはウィザードがいないのです」
ルイスがオイフェミア達に説明を行う。
「私とシルヴァリアの二人の魔力で足りるのかしら?」
オイフェミアがシャーリィにそう問い掛けた。
「はい。一人でも十分なのですけれど、異なる属性力の魔力でしたら、より高い効果を期待できるのでは。この地下は恐らく『炎の加護』の強い階層のようですので、よろしく御願いします」
そのままシャーリィの指示通りに魔法を酷使するオイフェミアとシルヴァリアの二人。
そして第四階層、第3階層と次々と封印処理行い、昼過ぎには全ての処理を完了させた。
そこからはサーチ&デストロイ。
ミハイル班とシャーリィ班の二手に別れ、城内に残っているアンデットの駆逐を行った。
それが終ったのは深夜すぎ、一行は一旦宿に戻り休息を取ると、翌朝にはプロスト卿に依頼完了報告を行った。
●そして〜無事に借りました!!〜
──パリ・ミハイル研究室
一同は無事に教授の研究室に戻ってきた。
シャーリィは無事にペンダントを借りられた為、さっそく写本の解析の為に部屋に籠ってしまう。
「ああ・・・・シャーリィちゃん、おいちゃんは哀しいにゅ」
シャーリィを食事に誘おうとしたパロムだが、すでにシャーリィの頭の中は写本のことでいっぱいの模様。ちなみにパロムの前にティルコットも誘ったらしいがあえなく玉砕の模様。
「・・・・」
烈は、静かに窓の外を眺めていた。
プロスト卿に今回の報酬を断り、その代わりに『アルフレッド・プロスト』が闇オークションで競り落とした『鉱石』を貸して欲しいと頼み込んだのである。
それが『死んだ鍛冶師』の片身の一つであるので、妹の元に見せに行きたかったのである。
が、アルからの返事は、Noであった。
正確には『今は貸し出す事が出来ません。まあ、いずれ時間が出来たときにでも、そうですねぇ・・・・ふらりと冒険に行くときにでも立ち寄ってくれれば・・・・』との事であった。
「ミハイル教授? あの塔の中での文字、何を記してあったのかしら?」
それはオイフェミア。
まだあの中で見た文字について教えて貰ってはいなかったのである。
「あ・・・・もうしばらく待っていてくれ。ワシでも難解なのじゃよ・・・・」
そのまま一行は、しばらくの間、教授の研究室で旅疲れた身体を休めていたのである。
〜To be continue