●リプレイ本文
●まずは準備〜情報は大切です〜
──ミハイル研究室
まずはミハイル研究室に向かい、当時の様子など様々な情報を得ようと考えた一行。
既にミハイル研究室では、シャーリィの護衛任務を受けた冒険者達が打ちあわせを行なっていた。
その横で、ミハイル救出班も打ち合わせなどを開始。
「ったくよぉ、捕まってるなよな、あのジジィ。ま、もっともあのジジィのほうを攫った奴らも可哀想だけどよ」
そう悪態を突きながら準備に勤しむのはティルコット・ジーベンランセ(ea3173)。
「まあまあ。そんな事をいうものではないですわよ」
そうティルコットを窘めつつも、自分の荷物のチェックを行なっているのはオイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)。
と、外からドアを開けて飛刀狼(ea4278)が室内に戻ってくる。
「交渉成立だ。ベースキャンプを張る予定の調査員たちが、馬車に便乗させてくれる事になった!!」
時間の短縮。
飛刀は研究室の研究員達に頼み込み、馬車のチャーターを頼み込んだらしい。
幸いなことに、教授を助けた後の調査の為、研究員達は馬車の準備を終えていた。
交渉は成立し、いつでも馬車を出してくれることになったのである。
「これで時間短縮も可能か。しかし‥‥爺さんを攫うとは‥‥奴等も考えたな‥‥大人しく待っていてくれればいいが‥‥」
静かにそう呟くのはレイル・ステディア(ea4757)。
「そうですわね。まあ、いつもの調子で教授を連れて調査にでも向かったとしたら‥‥あら、案外事はスムーズに行きそうな予感がしますわ‥‥」
ポン、と手を叩いてそう告げるのはシルヴァリア・シュトラウス(ea5512)。
まあ、今までの状況や体験を考えると、『教授の扱いかたを知らない奴等』の方が危険であることは一同納得。
「逆もまた然りだ。教授を押さえることの出来る奴がいないという事だ‥‥」
装備を纏めつつ、グラン・バク(ea5229)がそう告げる。
「あ‥‥それって危険じゃん。教授一人なら不味いじゃん!!」
ティルコットが慌てて荷物を纏める。
「まあ、今は早く教授達に追い付く事を考えましょうよー」
チルニー・テルフェル(ea3448)も気が気でないらしい。
「そうだな。何ていうか、敵もなりふり構ってられないって感じだな。普通、誘拐ってかなり切羽詰まった相手でもない限りやらない気がするんだが。‥‥こうなると教授の無事を祈るばかりだな」
その飛刀の言葉には、一行も静かに肯く。
なにはともあれ、一行は荷物を纏めると次々と馬車に積み込みはじめた。
──シャーリィの部屋
「すいません。私が動けたら同行できたのですが‥‥」
ベットに横になったまま、頭を下げるシャーリィ。
両脚が折れ、今は添え木をし包帯をしっかりと巻いてある。
折られてからすぐにクローニングを受ければもっと早く完治したであろうが、寺院にて治療を受けたときにはすでにクローニングの効果もなかったのである。
「安心しな。じーさんは無事に連れ戻すよ」
そう言いながらニコリと笑うのはシン・ウィンドフェザー(ea1819)。
そしてシンの横から顔を出すと、静かにシャーリィの頭に手を置くロックハート・トキワ(ea2389)。
「‥‥大丈夫だ、教授は必ず助け出す…あんたはゆっくり寝ていろ‥‥」
そう言いながら、ロックハートはシャーリィの髪をくしゃくしゃっと軽く掻く。
「はい。皆さんもお気をつけてください」
そう告げるシャーリィ。
「あ、そうそう。シャーリィにも伝えておくわね。シルバーホークのメンバーの中に、少女のアサシン、『アサシンガール』っていう子がいるらしいのよ。いい? 少女には十分気を付けてね」
それはオイフェミア。
荷物の積み込を終えてシャーリィの容態を見にやってきたらしい。
このパリの冒険者たちのなかには、既に『シルバーホーク=アサシンガールの存在』という構図が出来つつある者も存在する。
もっとも、その構図を持っているのはシルバーホークについて調べていたり、奴等と間接的にでも関与した者たちのみ。
知らない者たちにとっては、アサシンガールたちは只の少女。
用心せずに接触した場合、命を落とすこともあり得るのである。
「アサシンガールですね。判りました」
そう告げると、シャーリィは静かに瞳を閉じる。
どうやら体調が優れないらしい。
そのまま一言だけ、皆が安全に戻ってくるようにと告げると、シャーリィはスヤスヤと寝息を立てはじめた。
●風吹く洞穴〜既に調査は始まっている模様〜
──街道より侵入。
さて。
馬車により先回りを行なおうとしていた冒険者達であるが、それも叶わずに現地近くに到着する事となった。
街道沿いで馬車は待機、一行と調査員達は荷物を持ってゆっくりと草原を歩きはじめる。
「写本によると、この先の丘陵地帯に地下洞穴への入り口がポッカリと開いているのです」
調査員のリーダーが、一行にそう説明をする。
「うーーん。よし!!」
チルニーが上空に羽ばたいて、突然印を組み韻を紡ぐ。
全身が金色色の淡い色に輝く。
そしてじっと遠くを見つめると、下で待機している仲間たちに静かに報告開始。
「前方5kmぐらいかなぁ。ポッカリと穴が空いていて、その近くにベースキャンプ。テントが5つと馬が8頭。あ、馬5頭とロバさん3頭だ〜。監視みたいな人が‥‥えーっと‥‥10人ぐらい。どんな人かはよく判らないけれどねー」
テレスコーブによる長距離確認。
今回のような場合、魔法の選択が勝機となることもある。
「魔法はどうだ?」
グラン・バク(ea5229)がチルニーに問い掛ける。
「ちょっとまっててね‥‥ムニュムニュ」
再び魔法詠唱開始。そしてリヴィールマジックも発動。
チルニーが、ぐるりと周囲を見渡したが、特に魔法の掛かっている場所は見当たらなかった。
「んーーと。得になしー」
「なら、ここからは俺の出番じゃん!!」
ティルコットが前方に立ち、周囲の確認。
草原の中で『自然でない場所』を探しはじめる。
現状、ティルコットの気になるような場所は確認できなかった為、一行は作戦開始となった。
「アースダイブによる奇襲ね。もう少し近づいてからでないと、途中で魔法が解けて地下で溺れそうね」
アースダイブ担当のオイフェミアがそう告げる。
「ならば、もう少し距離を縮めるか‥‥チルニーは魔法の感知を、ティルコットはトラップの方を頼む」
レイルが二人にそう指示を飛ばす。
「了解!!」
「判っているじゃん。まあ、大船に乗った気持ちで!!」
そのまま一行は、低い姿勢でゆっくりと間合を近づけはじめる。
そしてある程度の間合を詰めると、一行は静かに周囲の確認を行う。
ぽっかりと開いた竪穴。
縄梯子らしきものがいくつも設置され、その近くには3名の監視の男。
近くのベースキャンプにも、研究員が2名と、同じく監視員らしき戦士のような男達が5名。
戦えるような感じの人物は合計で8名。
こちらの戦力は、戦闘特化のグラン、シン、飛刀、レイルの4名と、後方支援のレンジャーであるロックハート、ティルコットの2名。
そして魔法支援のオイフェミア、チルニー、シルヴァリアの3名、合計で9名である。
どう考えても、戦力不足の感じは否めない。
「高速詠唱があれば、直にでも戦力を削ぎ落とせるのに‥‥」
オイフェミアが静かにそう告げる。
だが、今の戦力では、地下にいるかも知れない敵に自分達の存在を知られてしまうことは必死。
「俺達が瞬時に敵を沈黙させ、さらに魔法の援護と後方支援も完璧のタイミングで発動。すべてが一瞬で決まることがない限り、騒がれて連絡されるのが落ちか‥‥。」
冷静に分析を始めるレイル。
そうは考えてみたものの、どう見ても戦力が足りないのは事実。
「あと一人‥‥前衛で突撃できる戦力が5名だったら、近いベースキャンプの護衛を潰せる。後方のは魔法により固定‥‥アイスコフィンとストーンで二人。ロックハートのシュライクとティルコットのダブルシューティングで一人‥‥。チルニーは上空から研究員達を威す‥‥駄目だ、どうしても足りない!!」
もう一つ、何かがあればうまくいく筈。
だが、その何かが足りないのである。
「ねー。風吹く洞穴って、あの竪穴?」
研究員にチルニーがそう問い掛ける。
「いや、写本では、あれは入り口、そこから横に続く長い洞窟がありますけれど」
その言葉に、チルニーが何かを思い付いた。
「オイフェミアー。あたしにアースダイブかけて!!」
「うーん。ちょっと待っててね‥‥」
オイフェミアがチルニーに触れながら魔法を発動。
その直後にチルニーもエックスレイビジョンを発動させると、そのまま一行に『ちょっと待っててねー』といって地上に高飛込み!!
「何か思い付いたな‥‥」
グランはそのまま前方に意識を集中。
何か騒ぎがおこったら、すぐにでも飛び出せるような体勢を取った。
──一方チルニーはというと
ザブザブザブザブ
地底をすいすいと泳ぎつつ、ひたすら地下に潜っていく。
(巧くいきますように‥‥)
と、突然視界が開ける。
チルニーは中空に放り出されないように必死に羽根をばたつかせ、魔法の効果が切れないように身体を半分大地に沈ませたままにしておく。
広い空洞。
床までの高さは大体3m程。
一定の間隔で篝火が設置されており、自然洞のわりにはあちこちの壁が削られ、別の材質の石などが組み込まれている感じである。
そして奥の方からは、人の声がボソボソと聞こえていた。
(成功だぁぁぁぁぁ)
ガッツポーズを取りつつ、洞窟のほぼ中心で成功の雄叫びを心の中だけで叫ぶチルニー。
まあ、世界の中心で愛を叫ばれるよりは良いとして。
さて、ここからが問題。
アースダイブという魔法、このように地下迷宮などに潜り込むには最高の手段であるが、問題は1度でも全身が外に出てしまうと、魔法の効果が切れてしまうというところである。
今回の襲撃でも、アースダイブで近づいて奇襲という方法も考えていたのであるが、大地の中を泳ぐというこの魔法では、脚のふんばりがまったくといって良いほど効かない。
つまり、大地から全身を外に出すには、何かに捕まらなくてはならないのである。
外での襲撃でも、一気に間合を詰め、高速詠唱により敵にアースダイブを掛けるという方法も考えられるが、成功率、及び敵に抵抗されてしまった場合は効果を発揮しない。
アースダイブにより間合を詰めるにしても、水中から飛び出すほどの水泳技術を持っている者は皆無である。
幸いな事に、チルニーがこの方法を思い付いた為、敵に気取られる事無く地下洞穴への侵入が可能となった。
──ということで
「成る程な。それはいい作戦だ」
飛刀が、戻ってきたチルニーから地下の状況を聞き、そう肯いている。
「となると、早速侵入したほうが安全ということか、善は急げというしな」
グランは前方を見据えたままそう告げる。
「‥‥全員で9名かぁ‥‥ちょっと待っててねぇ」
オイフェミアが静かに詠唱開始。
一人ずつ触れながらアースダイブを掛けていくが、途中から魔力が枯渇しはじめる‥‥。
「あ、一人ぐらい残りそう‥‥」
そう呟いた時、後ろから研究員がオイフェミアに小さな小袋を手渡す。
「良かったら使ってください。収穫祭のときに手に入れたのですが、私には使えない代物でして」
袋の中には『ソルフの実』が二つ入っていた。
「助かりますわ‥‥でも、どうしてこれを?」
そう問い掛けるオイフェミアに対して、研究員はキッパリとこういい放った。
「いやあ。一月分の給料、全て福袋につぎ込みましたから‥‥はっはっはぁ‥‥」
あ、成る程ねぇ。
そしてオイフェミアは受け取ったソルフの実を全て使い魔力を回復。
全員にアースダイブが発動すると、いよいよ全員で地下へと飛込んだ!!
●地下洞穴〜天然の迷宮〜
──侵入エリア
まずは全員の点呼。
シルヴァリアはマッピングの準備を開始し、その他は隊列の組み方を考える。
どうやら冒険者達がここにくるずっと以前から、シルバーホークの連中はここを調査していたらしい。
通路は人が通れるほどの巨大さ、あちこちに篝火が灯っている所を見ると、つい最近になって誰かが侵入したのであろう。
(松明の燃え具合から察すると‥‥30分程前といった所か)
ロックハートが松明の燃え残りから時間を逆算。
その間に、ティルコットが洞窟前方の気配を確認。
(‥‥ちっょと先が曲がっていて‥‥何かいるじゃん。壁際でしゃがみこんで‥‥何しているんだ?)
とりあえず隊列を整え終ると、一行は早速洞窟の調査を開始。
自然洞を加工して作り上げた遺跡が途中から広がっている。
面白いことに、常に洞窟内部に風が吹きぬけ、一定の時間毎に強風が吹き抜けていく。
スカートなんて掃いていようものなら、女性は悲惨なことになるだろう。
そして、ティルコットの見つけた『壁際で何かしている人たち』の姿が見えたとき、一行は呼吸が止まりそうになった。
壁際にいたのは、全身をズタズタに切り刻まれた死体。
それが一定間隔ごとに壁に転がっているのである。
そこから先の壁には、様々な形の出っ張りや窪みが作られている。
(ちょっと、ここで待つじゃん)
静かに出っ張りに近づいていくティルコット。
足元、壁、天井の全てを丹念に調べ上げていくが、特に変わった仕掛けも何もない。
(お、おっかしい‥‥なにもないのに惨殺死体?)
そのままティルコットは、少し前の方を調べ始めた。
──ヒュゥゥゥゥゥゥ
また、風が強く吹きはじめた。
微風から弱風へ。
──スパッ
と、突然ティルコットの皮膚が裂け、血が滲みだす。
(痛っ‥‥魔法? トラップ?)
周囲を見渡すティルコット。
そしてその光景を見たオイフェミアは、慌ててティルコットに向かって走り出す!!
(ん?)
突然の出来事にティルコットは何が起ったのか理解できなかった。
が、オイフェミアはいきなりティルコットを掴むと、そのまま地面に向かって臥せた。
弱風から強風へ。
──ゴゥゥゥゥゥゥゥッ
突風が洞窟に吹きぬける。
そして突風が終ったとき、ティスルコットとオイフェミアはゆっくりと立上がる。
(何があったのか教えて欲しいじゃん)
(巧く説明できないけれど、風がトラップなのよ‥‥)
そう呟いた直後、オイフェミアが地面に膝を付いた。
良く見ると、背中がざっくりと切り裂かれ、血が吹き出していた。
(‥‥今の風か?)
(ええ‥‥大丈夫)
傷はざっくりと切れているのに、血はそれ程大量という感じではない。
リカバーポーションを取り出すが、それの口を開かずにオイフェミアは懐にしまい込んだ。
(あの窪みの所に避難して、風が吹きはじめたらじっと動かない。そういう感じか‥‥)
ティルコット、オイフェミアの二人の怪我を見て、トラップ自体がどういった作りなのかはわからないが、直感で風と壁や天井の構造が繋がっていることを理解するロックハート。
仲間たちにその事を告げると、時間はかかるものの、ゆっくりと風のタイミングを調べて移動開始した。
●たどり着いたのは〜殴ったなぁぁぁぁ〜
──最深層・神殿エリア
通路は前方で巨大な空間になっていた。
そこには、どう見ても戦士といういでたちの男が二人、漆黒のローブを身に纏ったクレリックが一人、そして研究員が一人、静かに壁の方を見つめている。
そして壁際には、ロープ゚で繋がれたミハイル教授が、真剣な表情で壁に刻まれた文字を睨みつけている。
「ふーむ。これは中々興味深いのう‥‥」
しげしげと壁を見ながら、ミハイルがそう告げる。
「で、その奥に進む為には何が必要なのかわかったのか?」
研究員らしき人物が、声を荒げながらそう問い掛ける。
「ふん。一対のペンダントをここにはめ込むだけじゃよ。もっとも、そんなものを儂がここに持ってきておるわけ無かろうて。この場所にたどり着くのにこんなに時間を掛けおって馬鹿者どもが!! 儂の知っている冒険者なら、もっと簡単に調査ができるぞ。遺跡調査にトラップぐらいは付きものじゃろうが!!」
そう吐き捨てるように告げるミハイルだが、次の瞬間、一人のファイターがミハイルに近付くと、胸倉を掴んで殴りつけた!!
──ドゴッ
「口喧しいジジイだ。まあ、別働隊がお前の研究室を襲っている。今までの『古代魔法王国』関係のアーティファクトを全て持って、ここにやってくる手筈になっているからな‥‥」
ファイターがそう呟くと、さらにミハイルに向かって殴りかかる。
──ドシュッ!!
だが、その拳は叩き込まれることがなかった。
ファイターの肩口に深々とダーツが突き刺さる。
「何者だ!!」
もう一人の男が叫びつつ通路を振り返る。
そこには、ダーツを投げたロックハートの姿があった。
「悪いな。そこの爺の専属冒険者さまご一行だ‥‥」
レイルがそう呟きながら剣を引き抜く。
あ、レイルまじ切れモード。
「おのれぇぇ。貴様達、何処から入ってきた!!」
研究員がそう叫ぶが、さらにティルコットが天井を指差す。
「泳いでだ!!」
ああ、茶化すことについてはこっちの冒険者の方が上手の模様。
さらにそんなやり取りの中、ミハイルは静かに通路に向かって走り出す。
「まてジジイ!!」
慌ててもう一人のファイターがミハイルの腕を掴むが、ミハイルの伸ばした手が丁度シルヴァリアの魔法射程内に突入!!
「アイスコフィン発動!!」
そしていきなりミハイル教授がアイスコフィンに包まれる。
そのまま凍り付いたミハイルを掴むと、ファイターはその首筋に剣を当てる。
「このジジイの首を、凍ったまま吹き飛ばすぞ。とっとと下がれっ!!」
そして、その言葉と同時にグランが剣を引き抜いた。
「先生、出番です!!」
ノリノリの雰囲気でそう呟くチルニー。
「ミハイル教授を襲撃し、古代王国の秘宝を奪おうとは腐った輩だ‥‥」
そのまま剣を構えると、グランが走った!!
人質のミハイル教授など無視。
そしてレイル、シン、飛刀も走った!!
──ドゴォォォッ
激しい一撃を敵ファイターに叩き込むグラン。
その一撃を剣で受止めようとするが、 ファイターは反応しきれていない。
胴部にスマッシュEXの直撃をうける敵ファイター。
大量の血が吹き出し、はらわたが飛び出す。
さらに返す刀でもう一撃。
──ドシュュュュュッ
その僅か2撃で、敵ファイターは其の場に崩れ落ちる。
「殺しはしない。が、死にたくなければ動くな‥‥もし動いたら、殺す!!」
殺気を放ちつつそう吐き捨てるグラン。
──ドゴッ!!
シンが一気に別のファイターに向かって間合を詰めると、いきなりその脚に向かって低い回し蹴りを叩き込む。
「くらえっ!!」
太刀の一撃が来るのを考えていたファイターは、氷づけのミハイルを楯にしようと咄嗟に構えた。
が、太刀ではなくトリッピングという高等技を受け、、脚から崩れて倒れこんでしまう。
そこに太刀の一撃。
「へっ、新しい装備‥‥伊達じゃねぇぜっ!!」
──ドシュッ
転倒したままでは受止めることも躱わすこともできない。
そのまま一撃を真面に受けてしまうファィター。
──シュッ
素早く剣を振るのはレイル。
必死に逃げようとしているクレリックに向かって剣の一撃を叩き込もうとするが、その剣に向かってクレリックが魔法発動。
剣はクレリックに当たる直前にくだけ散ったのである。
高速詠唱によるデストロイ。
まさかそのような高度な技を使ってくるとは、レイルも考えてはいなかったのであろうが。
砕けた剣の柄を握ったまま、その顔面に向かって拳を叩き込むレイル。
──ドゴォォォッ
「悪いな。俺もタロンの加護は受けている。神の御許に叩き込んでやるから覚悟しろ!!」
柄を捨てて、ぐっと拳を握り締めるレイル。
倒れてしまったファイターの元から、ロックハートとティルコットが氷づけの教授を回収。
そしてオイフェミアが研究員に向かって、グラビティーキャノンを叩き込んだ。
「シャーリィちゃんをあんな姿にして、ミハイル教授まで。貴方たちは許さない!! グラビティーキャノーン」
──ドッゴォォォォン
いつもより強烈なグラビティーキャノンの一撃。
そのまま壁まで叩きつけられて崩れる研究員だが‥‥。
グラビティーキヤノンの一撃により、壁にも亀裂が入ってしまう。
そして‥‥。
ファイター達は全面降伏、研究員も同じくギブアップ。
クレリックはレイルにタコ殴りにされた後、手と口を縛られ、目隠しもされてローブで固定。
「ふん。まあ、この剣で代用しておくか」
くだけ散ったレイピアの代わりに、研究員が護身用に持っていたレイピアを取り上げるレイル。
「さて。シルヴァリア、ミハイル教授を解放してくれ」
そうグランが告げるが、シルヴァリアは壁に記されている文字を羊皮紙に書き留めていく。
「この暖かさですと、あと1時間で溶けますわよ‥‥」
つまり、魔法の解除は不可能と。
「‥‥これって、アーティファクトじゃん。この研究員、もう他の遺跡から見付けてきたみたいじゃんか」
奥に置かれている研究員達の荷物を漁っていたティルコットが、不思議な形のブーツを取り出した。
「チルニー、これはマジックアイテムか?」
飛刀が次々と荷物の中からめぼしいものを並べていくと、チルニーに問い掛けた。
「ちょっとまってて‥‥リヴィールマジック!!」
再びチルニーの全身が金色に輝く。
「‥‥教授が青白く光っているだけだねぇ。あとは魔法かかっていないよー」
大切に別の箱にしまってあったブーツのみを確保し、一行は教授が解凍されるまでしばらくまった。
●と言うことで調査開始〜ペンダントをはめるだけ〜
──神殿奥
「ふう。すまなかったのう。おかげで助かったわい」
ミハイルが静かに礼を述べる。
解凍されてから、一行はミハイルが怪我をしていないか問い掛けた。
まあ、怪我らしい怪我は、さっきの拳による一撃で口の中を切った程度らしい。
そしてここに至るまでの時間などを問い掛けたところ、上部入り口からまともに入った場合、この神殿に至るまでの時間は実に4日間。途中のトラップは実に50以上、さらに守護者の守る部屋が三つ‥‥。
それらを全てパスして、最短ルートでやってきたのであるから、まさに『アースダイブさまさま』である。
「まあ、爺さんが無事でなによりだ。もう動けるか?」
レイルがそう問い掛ける。
「うむ。では、早速解析を始めるとしようかのう」
そう言うと同時に、シルヴァリアが羊皮紙を取り出し、ミハイルに手渡す。
「全て写し取っておきましたわ。如何ですか?」
「うむ。完璧じゃ。シルヴァリアも、うちの研究室で働くか? 考古学者ならいつでも歓迎じゃぞ」
まあ、普段のシルヴァリアは考古学者を生業としている。
冒険に出かけないときは、教授の研究室で仕事というのも悪くはないと思っていた。
そしてじっくりと見終った後、教授は皆にペンダントについて問い掛けた。
「持ってきているのか? 持ってきているのなら渡して欲しいのじゃが‥‥」
その言葉と同時に、一行はティルコットの方を向く。
「あー。偽者ならほれ、ポケットにしまってあるじゃん。本物は、研究員達のいる場所に止めてあるドンキーに積んであるけれど‥‥取りに行った方がいい?」
その直後、ティルコットはオイフェミアと共にアースダイブで地上へと泳いでいく。
丘陵地帯で適当に捕まれる木を見付けだし、それに捕まって這いあがると、ドンキーまで走って移動。
さらにティルコットのみがアースダイブで地下へと移動。
オイフェミアは魔力切れの為に地上の研究員達の元で待機していた。
●そしてパリ〜大団円〜
──ミハイル研究室
最後の神殿での調査も終えて、一行は『知識の兜』を回収することに成功。
捕まえたファイターや研究員達は騎士団まで連行し、そのまま重要参考人として突き出した。
地下での騒ぎに気が付いたのか、一行が地上に戻ってきたときには、地上にいた研究員達の姿はどこにも見当たらなかった。
そして、シルバーホークの研究員の持っていた『清水の靴』も回収し、無事に精霊六武具が勢揃いしたのである。
ちなみに集ったのは、これだけ。
『一対のペンダント(死者の眠る神殿、海底神殿)』
『道標の剣(魔の地下迷宮)』
『守りの楯(炎の迷宮)』
『月光鎧(月夜谷)』
『陽炎の衣(囁きの塔)』
『知識の兜(風吹く洞穴)』
『清水の靴(敵研究員より回収)』
残るは『ただ一つの杖』のみ。
「じーさん‥‥」
「ん? なんじゃ?」
静かに問い掛けるシンに対して、ミハイルがそう返答を返す。
「これで残るは『ただ一つの杖』だけ。古代魔法王国まであと一息だな、じーさん。尤も、次は来るかね‥‥シルバーホーク自身が」
そのシンの問い掛けに、ミハイルは静かに口を開いた。
「判らん。じゃが、動きはあるじゃろう。もっとも、ワシの知る限りでは、奴はまだ動かぬ。これらの武具は、まだ『精霊の加護』を全く受けていないのじゃよ? 精霊武具としての力は目覚めておらぬ。『ただ一つの杖』、そして『時の額冠』。まあ、額冠についてはまだまだ未知の部分がある。ただ一つの杖は、『全ての精霊の力を封じてある杖』らしいという事は判っておる。その場所をこれから解析せねばなるまいて‥‥」
そう呟くと、ミハイルはいきなり其の場に崩れ墜ちた。
「じ、じいさん、しっかりしろ!!」
──そして
静かにベットに横たわっているミハイル。
かなり体力が落ち、衰弱している。
気合のみでここまでやって来たのであるが、既に限界の模様。
「‥‥すまないのう‥‥」
静かに瞳を上げて、そう呟くミハイル。
「ミハイルじーちゃん、早く良くなってねー」
チルニーが心配そうにそう呟く。
「う‥‥む。そうじゃなあ‥‥最近は体力も限界じゃし‥‥そろそろ、休む時なのかのう‥‥」
弱気な言葉を呟くミハイル。
「まだまだ。アンタの野望は果てしなく続いているだろ?」
そのグランの言葉にも、ミハイルは静かに笑みを浮かべるのが精一杯のようであった。
「ずっと‥‥歩き続けて来たからのう‥‥」
「もう少しですよ。あと少しで、教授の悲願であった古代魔法王国が見えるのです。しっかりしてください!!」
オイフェミアも必死に励ます。
が、ミハイルは静かに瞳を閉じた。
「もう‥‥そろそろ‥‥立ち止まっても‥‥」
そして言葉は続かない。
「じーさん?」
「みはいるじーちゃん?」
「ジジイ‥‥マジか?」
レイルが、チルニーが、そしてシンがそう話し掛ける。
シルヴァリアが静かにミハイルの手を握る。
「こんな所で‥‥くたばるのかよ‥‥じじい!!」
ロックハートもまた、絶叫を上げる。
「‥‥皆さん‥‥」
シルヴァリアが其の場の皆に向かって、静かに口を開いた。
「ミハイル教授は‥‥今は静かにしてあげましょう」
そのまま、皆を部屋の外に出すシルヴァリア。
そして部屋の外で、シルヴァリアは皆に静かに話し掛けた。
「ミハイル教授は眠っていますから‥‥」
その言葉に、オイフェミアとチルニーの瞳からは涙が溢れる。
「嘘でしょ? もう少しなのよ‥‥あと少しで‥‥」
床に崩れ落ちるオイフェミア。
だが、シルヴァリアはオイフェミアの肩にポンと手を乗せると、にっこりと笑みを浮かべた。
「次の依頼迄には体力も気力も癒されていますわよ‥‥」
あ、じいさん死んでないし。
「‥‥生きているの? みはいるじーちゃん生きているの?」
チルニーの表情にも笑顔が戻った。
「ええ。だって、休むっていっていたじゃないですか?」
あ、本当だ。
と、皆の顔に安堵の色が戻った。
そしてフツフツと怒りが沸き上がると、一行はそのままミハイル研究室を後にした。
そして後日。
「はて‥‥この請求書には見覚えがないのじゃが‥‥」
冒険者酒場より、今回の依頼を受けた冒険者達が『ミハイル教授のツケ』で飲んだ飲食代の請求書が教授の元に届けられることになるが、それはまた後日と言うことで。
〜To be continue