●リプレイ本文
●まずは準備〜下調べはOK?〜
──ミハイル研究室・シャーリィ部屋
まずはミハイル研究室に向かい、当時の様子など様々な情報を得ようと考えた一行。
「すいません。皆さんにご迷惑を御掛けしまして‥‥」
ベットに横になったまま、頭を下げるシャーリィ。
両脚が折れ、今は添え木をし包帯をしっかりと巻いてある。
折られてからすぐにクローニングを受ければもっと早く完治したであろうが、寺院にて治療を受けたときにはすでにクローニングの効果もなかったのである。
「大丈夫にゅー。おいちゃんはシャーリィちゃんの為なら、たとえ火の中水の中にゅ〜」
それはパロム・ペン(ea2705)。
道化師の格好でシャーリィちゃんのお見舞いにやってきたパロムである。
「日銭を稼ぐためにブラブラしているように見せれば、護衛とは思われないだろうしにゅー」
と言うことで変装しての参戦である。
「シャーリィちゃんは綺麗だね〜。傷ついても諦めない行為が‥‥本当に綺麗だね」
にこにことしながらそう告げるのは、無天焔威(ea0073)ことほーちゃん。
そのままシャーリィのベットの横に小さな袋を括りつけると、その中にヒーリングポーションを入れておいた。
「これは万が一の時の非常用だからね〜」
「えーっと‥‥ありがとうございます。もしもの時には使わせて戴きますけれど‥‥そんなに高価な薬代、私払えないのですが‥‥」
ちょっと困った表情のシャーリィ。
「あー。金は‥‥そうだね〜。将来に教授でなくて君が探索とか行くときにでも仕事を回してくれれば、いわゆる〜出世払い?」
そう告げるほーちゃん。
「判りました。それでしたら、使わせていただきますわ」
にっこりと笑みを浮かべるシャーリィ。
「お、おいちゃんもその時は行くにゅー。このトラップマスターの異名を持つ、オイラがいればどんな罠も完璧にゅ」
ズイッと前に出てそう告げるのは、やっぱりパロム。
「まったく、この中年親父は‥‥」
そう呟きながら、フィル・フラット(ea1703)がシャーリィの元に歩いていく。
「センスがなくて悪いが、シャーリィさんにお見舞いの品だ。可愛い女の子の役に立つなら、ご先祖様の遺産を元手に福袋を買い漁った甲斐もあったかな」
そう言いながら、ピンクのリボンを結んだ綺麗な袋をシャーリィに手渡す。
「あ、ありがとうございます!! 開けてもいいてでしょうか?」
うれしそうなシャーリィの笑顔。
「どうぞ」
フィルに進められて、シャーリィは袋の中からリカバーポーションとヒーリングポーション、そしてハーブにーの詰まった香り袋を取り出した。
「いい香りですね。でも、このお薬は‥‥」
「ああ、いいって事。あぶく銭だから気にしない気にしない」
そのままシャーリィは袋の中にポーションをしまい込むと、香り袋の匂いを胸一杯に吸い込んだ。
「シャーリィさん。怪我の事もありますが、そうでなくても、毎日徹夜で解析作業なんて無茶し過ぎですよ。いい機会ですから、シャーリィさんはゆっくり休んでて下さい。及ばずながら、写本の解析は私の方でもやれるだけやっておきますから」
シャーリィにそう言い含めているのはゼルス・ウィンディ(ea1661)。
ミハイル教授と同じ様に、写本や石碑解析などが始まると、シャーリィ自身も自分の感情に抑えが聞かなくなり無茶をしてしまう。
ゼルスはそんなシャーリィを窘め、もう少し年相応の女性としての楽しみかたも見付けて欲しいと思ったのかもしれない。
テヘッと下を出して笑うシャーリィ。
「まあ、護衛は俺達に任せて、今は身体を直すことに専念するんだな」
それはイワノフ・クリームリン(ea5753)。
いつものようなそっけない言い方。
だが、仲間たちは彼の中に秘められている熱いものを感じとっているのかもしれない。
「初めまして。アミ・バと申します。宜しく御願いしますね」
「同じく、あたしは本多桂。見てのとおりジャパンの浪人よ」
「ランディ・マクファーレンだ」
丁寧にシャーリィに挨拶をするアミ・バ(ea5765)と本多桂(ea5840)、そしてランディ・マクファーレン(ea1702)の3名。
「シャーリィ・テンプルです。宜しく御願いします」
そう告げると、シャーリィは薬の時間らしく、側にあるテーブルから薬を取ると、それを飲んでベットに横たわった。
「さて、ではここでおいちゃんが余興を見せるにゅ!!」
懐から借りてきたタロットカードを取り出すと、素早くシャッフルするパロム。
そしてテーブルの上に一枚ずつ裏返しで並べると、口上を述べた。
「さてお立ち会いにゅ〜」
そのまま一枚のカードを取り上げると、素早くそれをひっくり返す。
「さて、と‥‥『嘲笑う者』は『想い』を知り、『道』を歩む『愚者』となるにゅ」
ひっくり返したカードを指差しつつ、そう告げるパロムだが‥‥。
「あー。パロム、『愚者』じゃなくて、『塔』を引いているぞ? 」
誰かの突っ込みに、パロムは素早くカードを見る。
──ダラダラダラダラ
脂汗がにじみ出るパロム。
「も、もう1度にゅ〜、さて、この『愚者』のカード!!」
開いたカードは『悪魔』。
「これ違うにゅ〜こっちにゅ‥‥『死神』‥‥な、なんで‥‥」
──ガックリ
床に手をついてがっくりと落ち込むパロム。
(あ‥‥タネを仕込む場所を間違えているにゅ)
そう思い出し、最後の挑戦‥‥とおもいきや。
「はいはい。散々笑わせてくれましたので、そろそろお開きですねー」
むんずと襟首を桂に捕まれで、パロムはいそいそと退場。
「しゃーりーちゃーん、ごめんにゅーーー」
そう叫ぶパロムだが、扉の向うでシャーリィが笑っていたのがなによりであった。
●警備開始〜昼組〜
──研究室内にて
作戦は、参加メンバーの二分割による警備。
ちなみに配置はこんな感じ。
・昼組
ランディ(屋内)
アミ (屋内)
本多 (屋内)
・夜組
フィル (随時対応)
イワノフ (屋外)
ほーちゃん(屋内)
ゼルス (屋内)
これに、市街と研究室の行き来をする昼組パロムが加わり全員である。
「さて、これでアーティファクトは全部か」
研究室の今に並べられたアーティファクトを見ながら、ランディが静かにそう告げる。
「ええ。大切なものはこれで全てです。倉庫の中には、使い終えた石版等が保管してありますけれど、これは『古代魔法王国関連』のものです。解析もまだ終っていないものから、道標のアイテムに至るまでの全てです」
「で、こっちが、俺の集めてきた偽物のガラクタねー」
そのアーティファクトの横に、適当なガラクタを並べるほーちゃん。
「ガラクタの方は、この建物の外れの部屋に集めましょう。入り口から最も遠い場所で、ほーちゃんの提案通りロープなどで固定すれば良いですね」
ゼルスの言葉に、一行は肯く。
そしてほーちゃんは本物のアーティファクトを抱えてシャーリィの部屋へと移動。
一人でごそごそとアーティファクトを隠しにいってきた模様。
「本物は何処に?」
その桂の問いに対しては、ほーちゃんはにっこりと笑いながら『秘密です!!』とだけ告げる。
まあ、シャーリィの部屋に分散して隠してあることは説明してあるので、取り敢えずは良しとした。
「さっき、じーさん救出隊の人たちがシャーリィのお見舞にきていたにゅ。なんでも、『子供の暗殺者?』に気を付けるように話していたにゅ?」
それはパロム。
「それについてですが。聞いた話では、最近『彼ら』の関係した事件で、幼い少女を暗殺や特殊工作のために送り込んできた例もあるそうですから、子供に対しても油断は禁物ですね」
ゼルスがそう捕捉を付け加えた。
一通りの作業を終えると、一行はいよいよ作戦開始。
夜組は寝袋に潜り込み仮眠モードへ。
そして昼組は全員配置に付き、護衛が始まった。
●数日間〜こんな昼間から来ることはないでしょうけれど‥‥〜
──研究所の近所
何事もなく静かな時間が過ぎている。
近所では、路地で遊ぶ子供達や買い物に出かけていた主婦の姿がちらほらと見え隠れしている。
そんな中、陽気に歌を歌いつつ歩いているのは導化師姿のパロムである。
「子供が一杯いるにゅー」
ふと周囲を見渡すと、近所の子供達が楽しそうに遊んでいるのに気が付いた。
「気を付けないといけないにゅー」
そのまま子供達に注意しつつ、パロムは周辺警戒を続行。
実際、護衛を開始してから数日は、何事もない平穏無事な日々が過ぎ去っていた。
昼組、夜組共に、いつでも戦えるように自分達のペースを維持しつつ、日々を過ごしていた。
そして、異変が起ったのは護衛を開始して4日目のことであった。
●4日目〜奇襲!!〜
──ミハイル研究室
のどかな昼下がり。
研究員達は別室にて石碑の解析作業。
シャーリィも薬を飲み静かに眠っている。
そして冒険者一行も、自分達の持ち場に戻りつつ、護衛を続行していた。
──外
「こう毎日が平和だと、油断してしまうにゅ〜」
実際には周囲の警戒を続け。何かが起っても直に対処できるように動いているパロムであるが。
──ガラガラガラガラ
突然高速で走ってくる馬車が2台。
勢いよくパロムの横を通り過ぎると、そのままミハイル研究室の前に止まった!!
「敵襲にゅ!!」
力一杯叫ぶパロム。
だが、馬車からは覆面を付けた一団が飛び降り、素早く研究室の扉を開く!!
──ドッゴォォォン
が、その扉を開いた男はいきなり後方に吹っ飛んだ。
「‥‥判りやすい奇襲ね‥‥」
それはアミ。
正面扉の奥で、アミはパロムの声を聞いた。
そして扉が力一杯開かれた時、躊躇せずにソニックブームを叩き込んだのである。
「他の仲間たちを起して!!」
手近の研究員にそう告げると、さらにソニックブームを叩き込む。
──ブゥゥゥン
そのアミの一撃をギリギリで躱わした覆面男は、素早く扉のなかに飛込んできたが‥‥。
──ガッシャァァァァン
だが、ちょうどカウンターアタック気味に、横から出てきた本多が、持っていた大徳利を顔面に叩き込んだのである。
「まだ残っていたのに‥‥ヒック!!」
研究室の奥で発掘した大徳利。
頼み込んで譲ってもらい、ミハイル教授の寝酒をしこんで置いたのだが。
「桂っ、そいつらは敵よっ!!」
素早くソードを構えて次の一撃の準備にはいるアミ。
「判っているわわよぉ‥‥ヒック!!」
スラァッとゆっくりとしたモーションで日本刀を引き抜く本多。
「さぁ‥‥どこからでも掛かっていらっしゃぁい」
その言葉の後、3名の覆面達が飛込んできた‥‥。
──裏口
小さな扉。
普段は使われていない裏口からも、敵が飛込んできたのだが‥‥。
──スッ
突然襲いかかってきた覆面の一撃を、アミの言葉で叩き起こされてきたフィルはいとも簡単に躱わしていた。
オフシフトである。
そして。
──ドシュュュッ
カウンターアタック。
体勢を崩していた覆面男の胴を横一閃に薙ぐフィル。
「悪いな。今日の俺の気分は最悪だ‥‥貴様達がやってきたおかげでな」
今回の依頼を受けた時点で、敵のやり方に腹を立てていたフィル。
その怒りが爆発したのである。
──建物横
襲撃は、建物の周囲全域から開始された。
──バッギィィィィン
鎧戸が破壊され、室内に飛込んできた男が一人。
「目標はシャーリィ一人だ、残りは皆殺し‥‥ブヒャァッ」
他の仲間たちに指示を飛ばしていた男であったが、入った部屋が不味かった。
「この建物には病人が眠っている。静かにしないか‥‥」
ブゥンとメタルロッドを構えつつ、イワノフがそう呟く。
咄嗟に飛込んできた男の顔面に向かって、ロットを叩き込んだのが直撃したらしい。
言葉を途中で遮られたまま、男は窓の外に吹き飛ばされていた。
そして入れ代わりに別の男達が二人、室内に飛込んでくるが、それもカウンターアタックで鳩尾あたりを力一杯突き、またしても窓の外へとご退場願う。
「ふん。それだけか‥‥」
ロッドを床にカツーーンと立て、イワノフがそう吐き捨てる。
「今度はこちらから行かせて戴く!!」
──研究室奥
「‥‥ここまでこれたのは凄いかと思います。ですが、貴方はもう少し物事を考えた方が良いかと思いますが‥‥」
それはゼルス。
囮の置かれている部屋で休んでいた所を突然の襲撃である。
素早く飛込んできた男はナイフ片手にゼルスに向かって切り掛かったが、ゼルスは高速詠唱で切りかかってきた男の足元にライトニングトラップを発動!!
切り裂く為に踏込んだ脚がトラップに飛込み、男は感電して其の場に崩れる。
さらに奥からは、両手にナイフを持ったほーちゃんが出現。
素早く男の腕を踏みつけて武器を手から放すと、素早く男を縛り上げていた。
「全く。ここには『綺麗』が眠っているんだぞ!! それを汚す貴様には生きる資格なーし」
にこやかにそう告げると、ほーちゃんはナイフを静かに構える。
「ほーちゃん、殺さないでください。騎士団に突き出して、組織の全容を調べなくてはなりません」
ゼルスの言葉に、ほーちゃんはナイフを構えた手を止める。
「運がよかったねぇ‥‥もし止められなかったら‥‥ねぇ?」
そうニィッと笑いながら告げるほーちゃん。
どことなく恐い性格である。
──外では
「うっひゃあ。凄いにゅ」
ブゥンと視界に飛込んできたクレイモアの一撃を、パロムは華麗に躱わしていた。
急いで研究室に戻ろうとしていたパロムであったが、馬車の後ろから大男が降りてきてパロムに襲いかかったのである。
鋭い攻撃は的確にパロムに向かって叩き込まれていたが、パロムはかすりもせずに全てを躱わしていた。
「そんな一撃、絶対にあたらないにゅー。見よ、じっちゃんと鍛えた華麗なる回秘術にゅ」
別名、『トラップから逃げる為の回避』。
それでも、男の攻撃がまったく当たらないのを確認すると、パロムは素早く男の脇をすり抜けて路地裏へと飛込んでいった。
「シャーリィちゃん、無事でいて欲しいにゅ!!」
──シャーリィの部屋
突然の襲撃。
そしてそのタイミングで、2階にあるシャーリィの部屋の鎧戸が破壊され、一人の少女が飛込んでいった。
ロープを使い、屋根からぶら下がっての奇襲。
こんなに素早く出来るものなのかと、室内に飛込んでシャーリィを庇う体勢を取っていたランディは心のなかで思っていた。
そして飛込んで来た人物の姿を見て、改めて驚く。
綺麗なロングのブラチナブロンド。
その髪を頭の左右で結ぶ、ツインテールの髪型。
日焼けした精悍な顔つきは仮面の如く無表情。
そして、どう見てもその少女は14、5歳にしか見えなかった。
「アサシンガールか‥‥相手にとって不足なし!!」
仲間たちがここに気が付くまで、ランディは時間を稼がなくてはならない。
全周囲からの、しかもまっ昼間からの奇襲など、誰にも想像できる筈がない。
もしパロムが外に居なかったら、完全に奇襲は成功していたであろう。
──ヒュッヒュッ
アサシンガールの拳が中空を切る。
武器は持っておらず、徒手での戦いが基本のようである。
「拳か‥‥」
すかさず楯を身構えると、ランディは静かに間合を取る。
──ひゅっ!!
何かが飛んでくる。
素早く楯を構えてそれを橋で弾き飛ばす。
楯で弾かれたものは、床に突き刺さった。
それは、小さな針である。
「私の針に気付くとはねぇ‥‥たいしたものね」
含み針と呼ばれている闇器。
アサシンガールの名前は伊達じゃないというところであろう。
「‥‥他人が苦労して掻き集めた物を横から掠め取ろうと言うのは、感心しないな!」
素早く日本刀の2連撃を叩き込むランディ。
だが、それは難無く躱わされてしまう。
「それは私の任務ではないわ‥‥」
力一杯踏込み、ランディの懐に向かって拳を叩き込むアサシンガール。
素早く楯で受止めようとしたが、速度は少女の方が早かった!!
──ドゴッ
後ろの扉まで吹き飛ばされるランディ。
その衝撃で扉が開く。
「武道家‥‥違う、その技は‥‥」
骨がいったかも知れない。
それでも少女はすばやく間合を詰めてきて、ランディに向かって止めの手刀を叩き込んでくる。
──ドゴッ
その一撃はギリギリの所で回避。
床板を突き破る少女の手刀。
おそらくは、手にはめているグローブに細工が施されているのであろう。
「マスターは『陸奥』と教えてくれたわ。遥か東方の地に伝わる暗殺術‥‥」
そう呟いた時、少女は後方に飛んだ。
そして、入れ違いにナイフを手に切りかかっていたほーちゃんの一撃を難無く躱わす。
「ランディー。巧く時間かせいでくれてありがとさん!!」
いつものおちゃらけ口調だが、そのナイフの軌跡は本気であった。
「ああ。高くつくぞ」
ランディもゆっくりと身を起して少女の方を向き直る。
だが、少女は既に窓の外に飛び出していた。
「作戦失敗。全員撤収だ!!」
少女のその叫びが何処まで聞こえるか定かではない。
が、建物のあちこちから覆面を付けた人物が飛び出して、走り出した馬車に飛び乗っていった。
逃げ遅れた覆面は全部で4名。
冒険者達の手によって捉えられると、近所の人たちの報告で駆けつけた騎士団に突き出す事となった。
──再びミハイル研究室
「‥‥大丈夫ですか?」
静かに問い掛けるのはゼルス。
「ええ。襲われる前にランディさんが助けてくれましたし。皆さんこそ大丈夫ですか?」
シャーリィが、ベットの回りに集っていた皆の方を見渡してそう告げていた。
「おいちゃんは大丈夫にゅー」
瞳をウルウルとさせながら、パロムがそう告げる。
「私は腕が疲れましたわ‥‥もう、あんなにソニックブームを飛ばしたのは、修行時代以来の事ですわよ」
アミが腕を揉みながらそう告げる。
「シャーリィさん。もう大徳利はないのかしら?」
口の開いたワインを手に、桂がそう問い掛ける。
「大徳利ですか‥‥すみませんが、予備はないのですよ。プロスト卿なら大量に持っていそうですけれどね‥‥」
「‥‥ぷっはぁぁぁぁぁ。それじゃあ仕方ないわねぇ‥‥」
残ったワインを一気に飲み、空になったワインボトルで自分の肩をトントンと叩き、桂が静かにそう告げた。
「いずれにしても、ここはもう安全ではないな。何処かに身を隠すしかないか‥‥」
フィルがシャーリィにそう告げる。
「安全な場所ですか‥‥そうだ!! 困ったときは力を貸してくれるって言う方がいらっしゃいます。そちらに一旦移動したほうが良いですか?」
ポン、と手を叩いてそう告げるシャーリィ。
「シャーリィちゃん、ひょっとしてプロスト卿にゅ?」
パロムがそう呟く。
「ええ。以前から自分の領地にきたら、今後の研究も楽だろうと教授におっしゃって居ましたから」
ならば善は急げ。
てきぱきと馬車手配し、シフール飛脚でプロスト卿の元へと連絡を入れる。
調達した馬車は全部で4台、そのうちの2台にはアーティファクトと護衛の冒険者が乗り込み、1台にはシャーリィと同じく護衛の冒険者が乗る。
最悪、もう一度襲撃がある可能性があったため、護衛は慎重に慎重を重ねることにしたらしい。
そして一行は、プロスト卿の元へと走りはじめた。
●奇襲〜はい、お約束の襲撃です〜
──街道
プロスト領までの道程は馬車で2日。
南に向かう街道を真っ直ぐに南下し、途中で分岐している道を西へと向かう。
同じプロスト領の北部には、知る人ぞ知る『ノルマン江戸村』が建築されていた。
パリから西に伸びる街道を西へ向かい、途中で南下したところにあるのがノルマン江戸村、南街道を真っ直ぐに南下して、途中で西に向かうとプロスト卿の城下街。
同じ領地でありながらも、複雑な地形になっている。
パリを出て1日。
明日にはプロスト領に到着すると思われる昼下がり、後方から一台の馬車が走ってくるのに一行は気が付いた。
「さてとー。皆さんお仕事ですよー」
ほーちゃんがそう言いながらシルバーナイフを手に取る。
後方から走ってきた馬車は一行の馬車を追い抜く。
そして速度が一気に下がったかと思うと、馬車の後方にある荷台の扉が開き、二人の少女が飛び出してくる。
さらに荷台では、クロスボウを構えた男が二人、シャーリィ達の乗っている馬車に狙いを定めている。
既に襲撃を予測していたシャーリィ達も馬車を急いで止める。
そのままだとぶつかりそうであるから。
──ゴォォォォォッ
「風よ‥‥」
高速詠唱開始。
すばやく魔法詠唱を開始するゼルス。
そして刹那のタイミングでトルネードを発動。
場所は敵の馬車と自分達の馬車の中間。
クロスボウのクォーラルが飛んでこないよう、トルネードによる竜巻の壁を形成したのである。
わずか10秒の壁。
だが、その時間があれば、手練れの冒険者ならば体勢を整えることができる。
「そんなもので狙うなんて、不粋ねぇ!!」
馬車から飛び降りたアミがソニックブームを馬車の扉目掛けて飛ばす。
トルネードが収まり、その後方から飛んでくるソニックブーム。
それを受止める為に、男達は扉を急いで閉める。
「扉が開いたらソニックブームの餌食よ!!」
勝ち誇ったかのようにそう叫ぶアミ。
そして戦いは始まった。
「人の旅行にまで付いてくるなんて、暇なんだねぇ〜」
ほーちゃんが、先日も見たツインテールの少女に向かってトリプルアタック(ダブルアタックEX)を叩き込む。
──ヒュッ‥‥ガシィッ
その一撃をすり抜けると、カウンターアタックで腕をガシッと掴む少女。
その瞬間、ほーちゃんの身体が中空に投げ飛ばされる。
「なんのっ!!」
すばやく体勢を整え、膝を曲げて着地。
そのほーちゃんと入れ違いに、ランディとフィルが飛込む。
「悪いな。俺は外見には騙されない‥‥」
すかさず踏込み、日本刀の二連撃を叩き込むランディ。
だが、それは命中しない。少女は切っ先をぎりぎりの所で躱わし、横で身構えたフィルに向かって間合を取る。
「そこまでだ悪党っ!!」
──ヒュンヒュンッ
すばやく日本刀の二連撃を叩き込むフィルだが、既に体勢を整えている少女は難無く躱わす。
「‥‥ノルマンの冒険者っていうのは、この程度の腕しかないの?」
確かに少女はそう呟いた。
まるで落胆したような口調。
なにかを期待して戦いを挑んできたのか?
──一方
「大丈夫。おいちゃんが必ず守って見せるにゅ!!」
パロムはシャーリィの護衛。
その外では、イワノフと桂が一人の少女と相対峙している。
濡れるような長髪の少女。
ナイフを両手に構え、ゆっくりとイワノフ達との間合を取る。
もう一人の少女が『動』ならば、こちらは『静』という所であろう。
「どうしたのお嬢ちゃん。掛かってきなさいよ‥‥」
桂が挑発。
さらにイワノフもメタルロッドを身構えて威嚇するが、少女は常に間合を取る。
「脚使い‥‥構え‥‥貴方は夢想流。飛込んだらおしまいね。そちらのお兄さんはエンペラね‥‥臨機応変な戦いのプロ。そして二対一なら、分が悪すぎるわ」
その瞬間、少女は後方へと走りだす。
そのタイミングで前方の馬車もいきなり走り出した!!
「ブランシュ‥‥ブランシュネージュ!! 撤収よ」
「了解クラリス!!」
ブランシュと呼ばれたツインテールの少女も全速で走りだす。
そして馬車の後ろに飛び乗ると、入れ違いに大量のクロスボウが飛んでくる。
「‥‥風よっ!!」
再びゼルスのトルネードが発動。
クロスボウは高速で紡がれ発動した竜巻に巻き上げられる。
「残念‥‥」
静かに構えを得アミ。
少女が走った瞬間、彼女に向かってソニックブームを叩き込んだのである。
それは直撃し、背中にざっくりと傷を作ったのだが、動きを止めるほどの威力はなかった。
●プロスト領〜城下街の古い建物〜
──謁見の間
一行はプロスト領まで逃げてきた。
あの後さらに襲撃があるかと警戒していたが、静かに領地に入ることが出来た。
不思議なことに、冒険者達は、もうこれ以上の襲撃がないような感じがしている。
まるで、この地には手を出せないかのような‥‥。
「判りました。シャーリィ女史とあのジジイの身柄をこちらで保護しましょう。幸いな事に、私の城下街には古い建物があちこちで余っています。そちらに住まわれると良いでしょう」
「ありがとうございます‥‥」
丁寧に礼を告げると、シャーリィはそのまま仲間に連れられて(イワノフにお姫さまだっこ)、謁見の間から外に出る。
あ、その光景を涙を流しつつ見守っているパロムは放置の方針。
古い建物ゆえ、一行はまずは掃除開始。
とりあえず必要な日曜雑貨をアミと桂の振りが買い出しに、男達は家財道具の調達に出かける。
パロムとほーちゃんは近所の調査、怪しいところはないと思うが、二人にとっては見知らぬ土地である。用心に用心を越したことはない。
アーティファクトを鍵のかかる奥の間にしまい込むと、一行はようやく一息入れることが出来た。
そして残った時間を、一行は静かに過ごした。
パリまでは定期便の馬車が出ている。
が、それには乗り込まず、来るときに使用した馬車で、一行は依頼帰還終了の為、シーャリィに別れを告げて帰路へと付いた。
後ろ髪を引かれる思いはあるものの、プロスト卿が自警団から数名、護衛に付けてくれると約束してくれたので、今はそれを信じるしかなかった‥‥。
〜To be continue