●リプレイ本文
●ということで〜まずは移動中〜
──馬車の中
ガラガラガラ
軽快に街道を走る馬車。
目的地である廃墟群へは途中まで街道を使用、目的地の近くからは荷物を抱えての大移動となる。
すでに先発隊が前乗りし、ベースキャンプの設営や周辺の調査などを行なっている筈。
「さて‥‥今日も色々と聞きたいことがある‥‥」
ロックハート・トキワ(ea2389)がミハイル教授にそう問い掛ける。
だが、いつものような口調では無く、なんとなく怒っているような雰囲気が漂っている。
「ふむ、いいだろう。掛かってきなさい」
あ、教授、気が付いていないし。
「遺跡の規模はどれくらいだ?」
「小さな廃墟群。まあ、どこにでもあるような村程度。建物数はせいぜい10に満たないぐらいじゃな」
ちなみに、ロックハートとミハイルのやり取りが始まった直後、冒険者一行は全員がそのやり取りに耳を傾けていた。
「廃墟群について何か情報はあるか?」
「石版から得た情報じゃが。古代魔法王国に縁の在る者たちが住んでいた場所であるらしい。しかし、廃墟群の近くには広大な森が広がっており、時折魔物が徘徊してくるらしく、村の者たちは常に魔物との戦いを続けていたらしい。何時、どうして村が滅んでしまったのかは判らないが、今では生き物の気配もないらしい‥‥と。ロックハート、今日は随分と言葉に刺があるのう。何かあったのか?」
あ、何となく気付いているし。
「いや、特に変わったことはないが、気のせいでは?」
満面の笑みでそう呟くロックハート。
その雰囲気だけで、周囲の気温が確実に下がったであろう。
「まあ、それならそれで構わないが。今回もまた勝手にうろちょろするなよ?」
ミハイル教授御用達冒険者のレイル・ステディア(ea4757)がそう呟く。
「うむ、トラップに引っ掛かるなという事じゃな?」
「違うよ〜。『トラップを起動させるな』だよ、教授!!」
ミハイルのボケにすばやく突っ込むチルニー・テルフェル(ea3448)。
そんなこんなでやり取りを続け、一行は目的地へといざ参らん!!
●怪我人多数〜正直言う、反則だ〜
──廃墟群
「ハァハァハァハァ」
血まみれのソフトレザーアーマー。
額から血を流し、ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)が両手でクルスソードを構える。
──キィィィィィィィン
そのニルナの後方では、同じくあちこちを怪我しているオイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)と、口許から血を流しているシルヴァリア・シュトラウス(ea5512)が魔法詠唱を行なっていた‥‥。
一行が現地にたどり着いたとき。
先発隊が何者かの襲撃を受けたらしく、研究員達が無残な姿で発見された。
その直後、近くの森から大量の矢が雨の如く降って来ると、武装したバグベアー達が雄叫びを上げて走ってきたのである。
そこからは戦闘に突入!!
ミハイル教授は後方へと避難し、残った冒険者が敵バグベアー殲滅の為に武器を構えた!!
「研究員達を殺したのはお前たちかぁ!!」
シン・ウィンドフェザー(ea1819)が太刀を引き抜くと、そのまま前方から切りかかってくるバグベアーの攻撃をオフシフトで躱わし、カウンターアタックを叩き込む。
──ドシュッ
シンの激しいまでの一撃を受けて、バグベアーは後退。
だが、そこに上空よりチルニーのサンレーザーが容赦なく襲いかかる!!
──チュッ!!
「研究員さんの仇!!」
さらに次のターゲットを探すと、チルニーは上空で魔法詠唱階!!
──ドガガガガガガッ
飛刀狼(ea4278)が敵バグベアーの中でも体格の大きいものを見付けだすと、それに向かって突き進んだ!!
「こいつがボスだなっ」
すばやくオーラパワーにより打撃力の上がった拳を叩き込む飛刀。
だが、そのどれもが敵の分厚い鎧により止められてしまっていた。
「加勢する!!」
すばやく走りこんできたレイルが、バグベアーに向かってレイピアを叩き込んでいく。
──ドシュドシュッ!!
だが、そのレイルの攻撃でさえ、鎧の表面を貫く程度。
バグベアーの肉体にはかすり傷程度のダメージしか与えられなかった。
「下がってください!!」
その後方、先程までこのバグベアーと対峙していたニルナ達の魔法が完成した!!
──ピキピキッ
「アイスコフィン!!」
シルヴァリアのアイスコフィンが発動。
バグベアーの肉体が氷の棺によって固められていく。
さらに。
「アースダイブっ!!」
──ボコッ‥‥
氷づけのバグベアーの足元がぬかるむ。
「今よっ!!」
そのままニルナがダッシュ、それに続くようにレイル、飛刀も走り出すと、3人同時にジャンプ、バグベアーの頭上から地面に向かってドロップキック。
そのまま勢いを付けてずぶずぶと埋まっていくバグベアー。
その光景を見ていた雑魚バグベアー達は雄叫びを上げるとそのまま森へと逃走。
「前衛は森の方に警戒を。ニルナは怪我人の手当、チルニーは上空から索敵を頼む!!」
ロックハートが次々と指示を飛ばし、どうにか体勢を整えることが出来た。
●納得のいかない状態〜誰が?〜
──ベースキャンプ
研究員達の亡骸を埋葬すると、一行はそのままベースキャンプに戻っていく。
そして取り敢えず身体を休めていた時、シンがゆっくりと口を開いた。
「とりあえず、バグベアー程度の襲撃で良かったな。あいつらがまた来たとしたら、おそらく俺達では敵わないかもしれないから‥‥」
その言葉の意味が、一行には判らない。
「また? まるでここを襲ったのがシルバーホークの連中のような口調だな」
飛刀がそう問い掛ける。
「襲われた研究員達の受けていた傷が、バグベアーの持っていた武器では付く筈のない傷だったといったらどうする?」
ハーブティーを呑みつつ、シンがそう告げる。
「シン、どういう事なの?」
「バグベアーの武器は斧か棍棒のような振回し系タイプ。だが、研究員達の受けていた傷は、切り裂かれたもの。傷は深くないが、鋭い」
「シュライクだな‥‥」
ニルナの問いにそう告げるシン、そしてロックハートもそう呟くと、傷に付いての説明をおこなった。
ゴクリと息を飲む感覚が周囲を包み始める。
「今のところは大丈夫だ。この周囲で生きている存在は俺達のみだ」
レイルの肉体が漆黒の輝きを発した直後、静かにそう呟いた。『ディテクトライフフォース』を発動したらしい。
もしアサシンガール達を始めとするシルバーホークが襲ってきた場合でも、彼等の持つ生命力がレイルには感知できるようである。
「取り合えずは、警戒を強めた方がよさそうね」
ニルナの提案で、周囲に対しての警戒をより強めることとなった。
●ということで調査開始〜巨大な日時計〜
──廃墟中央
翌日からの調査には、慎重に慎重を重ねることとなった。
上空からはチルニーが索敵、レイルは一定のタイミングごとにディテクトライフフォースを発動させて周辺警戒を行なっていた。
さらに飛刀、シン、ニルナも教授から少し離れた場所で護衛を開始、ロックハートとレイルは教授のストッパーとトラップ関係の担当としてミハイル教授べったり。
「駄目ね。グリーンワードで色々聞いてみたけれど、昨日のバグベアーの襲撃のせいで情報が書き換えられているみたい」
オイフェミアが植物達に問い掛けていたものの、質問にあてはまるキーワードが昨日の襲撃により『書き換えられていた』ようである。
植物達は、もっとも新しい情報しか教えてはくれない。
例え有力な情報が有ったとしても、それを他の要因により書き換えられていくことはよくある。
「ふむ。シルヴァリアの方はどうじゃ?」
羊皮紙に廃墟の地図を書き込んでいたシルヴァリアに、ミハイル教授が問い掛ける。
「これが廃墟のおおよその見取り図。で、この場所が、廃墟の中央ね。巨大な石柱と、横に倒れている石の柱。多分ここに何かありそうね」
そのシルヴァリアの言葉に、上空からチルニーが話し掛けた。
「きょうじゅー。おっきい日時計があるよー」
「おお。どこじゃ?」
「そこー」
そう指差したのは、オイフェミア達のいる柱の部分。
「おお?」
そう呟きながら、教授が中央の柱に手を延ばす。
──ガシッ!!
と、レイルがミハイル教授を後ろから羽交い締め。
「さて‥‥ここからは本業の出番だな」
ロックハートが中央の石柱、そして周囲の柱をゆっくりと調査。
「あのー。この調査班って、いつもこんな感じなのですか?」
端から見ていると、ミハイル教授とレイル、ロックハートの行動が掛け合い漫才のように見えていたニルナ。
まあ、初めて参加したのであるから、この光景が異質に見えるのも無理はない。
「ん? ああ、いつもの事だ。もし教授が何かしたらいつでも逃げられるように準備だけはしておいてくれ」
シンも手慣れたもので。
そして一通りの解析が終ると、ロックハートは柱に刻まれていた文字の部分を教授に説明。
「ここの部分だけだな。あとはトラップもなにもとくになし。教授の出番だ」
そのまま石柱の手前で座り込むと、ミハイル教授は目の前の刻まれている古代魔法語をじっと睨みつける。
「むむむ?」
横からはシルヴァリアとオイフェミアが覗きこむ。
「むむむ?」
「ふむ‥‥」
「ふむ?」
「うーーむ」
「うーむ?」
「判らん(きっぱり)」
何?
「教授、らしくありませんねぇ‥‥」
オイフェミアがそう呟く。
「とりあえず文字の写しは取りましたけれど」
シルヴァリアは羊皮紙をてに、そう問い掛ける。
「らしくないと言われてものう。今回のは、今までのものとは訳が違うぞ。ここの部分が太陽を、これが月を示す。時の額冠とは、すなわちこの石柱を意味する。そこまでは判った。そしてここ、石柱による日時計がすなわち『暁の門』と呼ばれていることもな‥‥」
そこでミハイル教授、チルニーの方を振り向く。
「え、えとーーー。『求めなさい。六つの精霊武具。そして六つの精霊を従えなさい。ただ一つの杖を振るい、月夜の魔方陣から暁の魔方陣へ‥‥』だったかな?」
はい、チルニー正解。
「六つの精霊武具は手に入っておる。が、まだ精霊の加護を得られてはいない。ただ一つの杖はシャーリィ達がもとめている最中。月夜の魔法陣は月夜谷の廃墟。で、暁の魔法陣は、プロスト領の塔かと思ったが外れ。ここ、この日時計が『暁の魔法陣」なのじゃが‥‥」
「あのー。教授? そこまで解読できて、何処に詰まったのですか?」
そう問い掛けるオイフェミア。
「門の起動方法。月夜谷の時は『ムーンゲート』が必要。チルニーはジプシーじゃったな? 『サンゲート』という魔法は知っとるか?」
ブンブンと頭を振るチルニー。
「知らない知らない」
「そうじゃろうなぁ。ワシも知らんわい。ということは解読が違うのう‥‥」
そこから残りの調査時間、教授はただひたすら柱の解読を続けていた。
だが、どうしても解読方法が判らないままも、調査期間は終了したのである。
●研究所に帰還〜とりあえずは祝杯〜
──城下街・蒼き湖畔亭
「かんぱーーーい!!」
木のカップを手に、そこそこのワインを飲み始める冒険者一行。
但し、その片隅では、ミハイル教授が写本とシルヴァリアの写しを手に、何かブツブツと呟いている。
「教授〜。一緒に呑もうよー」
パタパタとチルニーが教授の元へと飛んでいく。
「ふむむ‥‥ふむ。よし理解。と」
来るっと振り向いて一行の方を見ると、ミハイル教授がゆっくりと口を開く。
「やはり、全ての精霊武具は『精霊の加護』を受けなくてはならない。それが揃った時、精霊武具を身につけたものは『月夜谷の魔法陣』にて待機し、『暁の魔法陣』の場所にて『ただ一つの杖』を使い、杖に付与されている魔法を発動させる。それと全く同じタイミングで『ムーンゲート』を発動させければ、『月夜谷』を起点として、二つの門が開く。それこそが、魔法王国へと向かう道である!!」
『おーーーー』
そのミハイル教授の言葉に、一行は地同時にそう呟く。
「それで、精霊の加護は何処で? どんな精霊でも構わないのですか?」
そう問い掛けるニルナに、ミハイル教授はドン、と胸を叩いて口を開く。
「ゲホゲホ。力の小さい精霊程度の過去ではいけない。少なくとも、ここに書かれている『魔人クラス』の精霊でなくては‥‥それに、加護を得る方法も精霊により様々じゃて。少なくとも、『古代の魔人クラスの精霊』の眠っている場所については見当がついておるわい!!」
それは、と誰もが問いたかった。
だが、その時、ミハイル教授は再び咳き込む。
「大丈夫ですか? 教授」
オイフェミアがそう問い掛ける。
「うーむ。ちょっと呑みすぎたかな?」
グイッと口許に手を当てる。
と、教授の口許には血が付いている。
「まて、じーさんそのまま動くな!! ニルナ、リカバーを頼む!!」
レイルが慌ててそう叫んだ時、ミハイル教授はゴホゴホと咳き込み、吐血し、其の場に崩れていった‥‥。
●そして〜洒落でなくて本当〜
──ミハイル研究所
ミハイル教授付き研究員の話では、この前の依頼から戻ってから、教授の体調はかなり崩れていたらしい。
この地の薬師に薬草の調合を頼み、一時的にではあるが体調も戻った。
だが、その薬草もそろそろ効果が無くなってきたらしい。
「シャーリィや大切な仲間たち‥‥貴方たちには内緒にしてくれって‥‥今はゆっくりと休んでいます。まだ薬も残っていますから、暫くは大丈夫でしょう。明日にでもなれば、またいつものように起きる事も出来る筈です‥‥」
そう告げると、研究員『シオン・マーベリック』は教授の部屋から一行を外に出した。
「何とか元気取り戻す‥‥助かる方法はないのでしょうか?」
「俺達に出来ることならなんでもする‥‥だから‥‥」
シルヴァリア、ロックハート、そして多くの仲間たちがシオンに問い掛ける。
「パリの冒険者街には、かなり腕利きの薬師が住んでいると聞いています。その方の調合した薬でしたら、どうにかなるのではないかと‥‥」
そうは言われても、冒険者街の薬師など、それこそ星の数ほどゴロゴロしている。
「その薬師さんの特徴を教えてください。そこを訪ねれば、なんとかなるかもしれないのですね?」
オイフェミアがシオンにそう問い掛ける。
「ええーっと。ちょっと待っててくださいね‥‥特徴特徴‥‥看板にホワイトラビットの絵が書いてありまして‥‥ウサギのような女性です」
ん? まてまて。
なにはともあれ、僅かな情報を希望の糧に冒険者一行はパリへと帰還していった。
〜Fin