●リプレイ本文
●まずは恒例の準備から〜どうしたのギュンター君〜
──トール宅
まずは、依頼場所である村への移動。
一行はギュンター君を迎えに行った。
まあ、のどかな天気、まだ温かい気候。
幸いなことに、今回の依頼主の好意により、商隊ごとギュンター君の村にやってきていた。
もっとも、荷物の搬入なども在った為、ついでに立ち寄ったともいえるのだが。
そして、いつものようにギュンター君の家にやってきた一行。
相変わらず監視の自警団『ニャルラ&テップ』の二人が暇そうにしている。
「こんにちは。また監視ですか?」
ソフィア・ファーリーフ(ea3972)が、監視の二人に声を掛けた。
「お、いつぞやの冒険者だねー。またギュンター君の所に仕事?」
「トールさんなら出かけているよ。自警団詰め所にね」
ニャルラとテップの二人が、一行にそう告げる。
「自警団詰め所? 何か事件でも起ったのかしら?」
ミリランシェル・ガブリエル(ea1782)がそう二人に問い掛ける。
「まあ、ちょっとねぇ・・・・。村の子供がギュンター君の宝物のバッチを取り上げちゃってね。ギュンター君はキョトンとしたまま、取り上げた子供に返せと話していたらしいんだけれど、返して貰えなかったらしくて・・・・」
「まさか、喧嘩でも?」
ルイス・マリスカル(ea3063)がそう問い掛けるが、ニャルラは頭を左右に振る。
「まっさか。トールさんとの約束で、子供には暴力を振るったら駄目だっていうことになっているらしいんだ。だってギュンター君はオーガだろ?」
今度はテップのフォロー。
「なら、どうして? 喧嘩にならなかったのなら自警団に呼び出されるなんてことにはならないのでは?」
そう告げるアシュレー・ウォルサム(ea0244)に、ニャルラが静かに口を開いた。
「子供がバッチを持って帰ったらしくて。で、ギュンター君が親の所に返してて貰うよう頼みに行ったのだけれど、親が『モンスター嫌い』でね。ギュンター君の姿を見た瞬間に腰が抜けるわ絶叫するわで・・・・まあ、直にうちの団長が其の場に駆けつけて、有無をいわさずにギュンター君を殴りつけたらしくてねぇ・・・・その抗議らしいよ」
「事情も聞かずにいきなり殴ったのか?」
ガブリエル・アシュロック(ea4677)のその言葉に、テップが肯く。
「なんていうか・・・・うちの団長、ギュンター君が問題を起すの待っている感じがしていてねぇ」
「おや? 噂をすれば・・・・」
ユーウィン・アグライア(ea5603)が、家の庭からトコトコと歩いてくるギュンター君を発見。
そのままギュンター君に手を振ると、ギュンター君は全力で駆け寄ってきた。
「ゴ、ゴニチハ!! マタミンナトアソブ」
楽しそうにそう告げるギュンター。
「そうだな。今日は皆で馬車に乗って旅にでような」
マリオーネ・カォ(ea4335)がパタパタと飛びながらギュンター君の頭に直地。
「初めまして、ギュンター君。僕の名前はリョウ・アスカ。リョウって呼んでくださいね」
膝を曲げてギュンター君の視線の高さに自分も合わせているのはリョウ・アスカ(ea6561)。
「うぁい。リョウ、よろジグ〜」
以前よりはしゃべれる単語も増えたらしいギュンター君。
まだイントネーションがおかしいが、それはそのうち。
そして、丁度帰ってきたトールさんに挨拶を行うと、一行はそのままギュンター君を連れていざ冒険の旅へ!!
●まずは南ノルマンへ〜内緒の買い物〜
──街道にて
パリより南に伸びる街道。
そこを馬車で2日間の移動。
この街道は大勢の旅人や商人がよく行き来する為、山賊や盗賊、モンスターの襲撃などとは無縁とも思われている。
「そう・・・・そこで手綱を絞って・・・・」
ガブリエルはギュンター君を愛馬に乗せて、自分は後ろについて乗馬を教えている所であった。
「うぇっ・・・・うぇっ・・・・うぇ?」
スマイルマスクの奥から、喜ぶ声が聞こえてくる。
「筋はいいですね。まあ、その馬の大きさならちょっと大きすぎるところがありますか・・・・ギュンター君になら、ドンキー辺りが丁度いい大きさでしょうね」
ルイスもまた、商隊の最前列を馬で移動していた。
もっともルイスは、トールさんから聞いた(見た)事をゆっくりと思い出し、色々と想いを巡らせていたところである。
もし、ギュンター君が同族と遭遇したとき、一体どうすればいいか・・・・
いずれは冒険者になろうと頑張っているギュンター君である。
もし冒険者ギルドから『オーガ討伐』といった依頼があった場合、また、他の冒険の最中にオーガと遭遇した場合。
どのように対処として良いか。
トールは一つの結論に達したらしい。
それは『ギュンター君の思うままに』
ルイスたち冒険者も山賊や盗賊といった『同じ人間』と戦うこともある。
それと同じなのですよと、トールは哀しそうに告げた。
ただ、今はまだギュンター君は小さい。
出来る限りそういう事のないように気を付けてあげてくださいと、頭を下げられたルイス。
「その時は、私達が代わりに戦いますよ・・・・」
そうトールに告げて、ルイスはこの依頼に出たのである。
──プロスト領・城下街
最初の荷物の搬入も終り、一行は翌日までの休みを得ることが出来た。
ユーウィンの頼みで、ギュンター君に支払われる『お駄賃』は、街に付くたびに分割で支払われることになった。
「すごいねギュンター君。初めてのお小遣いだねー」
パチパチと手を叩きながら、ソフィアがそう話し掛けた。
「うぁい。おこづがい」
楽しそうに掌の上のお小遣いを数えるギュンター君。といっても銅貨が50枚。
「ギュンター君は、それをどうするのかなー?」
優しく問い掛けるソフィアに、ギュンター君は頭を捻る。
「そうだ。初めての遠出だし、そのお小遣いでトールさんにお土産を買ってあげたらどうかな?」
ユーウィンがギュンター君にそう話し掛ける。
「オミヤゲ?」
頭を捻りつつ問いかけるギュンター君。
「そう、トールさんに、旅に出た記念に何か買ってあげるの。それを持って帰って、『コレ。オミャゲ』って言えば、トールさん喜ぶわよ」
ユーウィンの言葉に、ギュンター君は満面の笑みを浮かべているようだ。
「かう。ぎゅんた、おみゃげかう」
「なら、お姉さんも一緒に見立ててあげるね─」
ソフィアとユーウィン、二人でオミヤゲの見立てを行ったあと、ギュンター君は一人で散歩をしたいといってフラリと何処かに出かけていった。
心配だった為、マリオーネが上空偵察? という事でついて行ったが、ギュンター君はワゴン売りの果物とか露店などを見て回ると、何かを買って戻ってきた。
「初めてのお小遣いだから、楽しいんだろうな・・・・」
仲間たちには対した事は無かったとだけ告げて、いよいよ翌日は旧街道での旅が始まった。
●旧街道〜最初の襲撃〜
──旧街道、2つ目の村へ
最初の村までは何事もなく無事に到着。
その翌日には、次の村への旅が始まった。
村を出て5時間程経過したとき。
一行の前に、ゴブリンが5匹姿を現わした。
「グァッグァッ!!」
「ウォッウォッ」
それぞれが武器を手に商隊を威嚇している感じである。
「たかがゴブリン如き。行くわよギュンター君!!」
そう叫びながら馬車から飛び出すミリランシェル。
その後方では、リョウも武器を手に飛び出す。
──ギリリリリ
ゆっくりと弓を振り絞り、ターゲットを前方のゴブリンにセットするアシュレー。
「先に行かせて貰います!!」
そうアシュレーが叫ぶとほぼ同時に、ギュンター君がガブリエルの馬から飛び降りてゴブリンに向かって走り出した!!
「ギュンター君、無茶です!!」
「そんな一人で先行するなんて!!」
ルイスとミリランシェルがギュンターに追い付くように走りはじめるが。
「うぇ? なにじでるでぢずがぁ・・・・ヴェイ、ウァウォウィィグゥア」
ゴブリンに向かって話し掛けているギュンター君。
と、オーク語が通じたらしく、ゴブリンもギュンター君と話を始めた。
「ウガガガグゥギィィィ、グゥゲェイグァア」
「うえーーーーーい。ミリー、ガブー、こいつら、おなかへた。ごはんほしい」
──ガクッ
その言葉に、全員の拍子が抜ける。
「なななな・・・・どういうことだ?」
マリオーネも慌ててギュンターの元に飛んでいく。
「ナニガァアッタディスガ・・・・かな?」
「まりおー。こいつらはらへた。ごはんあげるー」
あ、成る程。
「・・・・おーい。このゴブリンたち、腹が減ったから襲いかかろうとしていたらしい。食い物をあげれば退散するらしいがどうする?」
マリオーネが皆にそう告げる。
「ふむ。余計な戦いを起す必要もなし。ちょってと待っていろ」
ガブリエルが商隊の責任者の元に歩いていく。
そして数分後、ラージザック一杯の保存食を持ってくると、ギュンターに預ける。
「ギュンタ─君、これをあげるからもう人を襲うんじゃないと話してくれるか?」
そう丁寧に話し掛けるガブリエル。
「うぇい。コレ・・・・グエ。ヒトオーソウイグナイ・・・・グェイイグゥア?」
「ヴア!!」
どうやら話は纏まったらしく、ゴブリンたちはラージザックを担いで森の中へ。
「ギュンター君凄いね─。話し合いで解決したねー。偉い偉い」
ソフィアがギュンター君を撫でながらそう話し掛ける。
「ヴア!!」
どうやら照れているようだが、ミリランシェルはギュンターに近寄って行くと、膝を付いて、ゆっくりと話し掛けた。
「いくら言葉が通じるからといって、むやみに近づいていってはいけません。騙して襲いかかる事もあるのですからね」
丁寧な口調でそう諭すミリランシェル。
「うあ・・・・」
頭を捻るギュンター君。
「ソフィア、通訳御願い」
ミリランシェルに頼まれて、ソフィアが通訳開始。
「ギュンター君。モッドヂュウイ、ダマサリルドイダイ」
「うぇい」
あ、また通じているし。
流石『お姉さん』。
ギュンター君の扱いはもう『達人2レベル』ぐらい?
●襲撃〜最後の村を出発して〜
──パリに戻る街道
それは突然の出来事であった。
街道横の森から姿を表わしたのは、巨大な魔物。
「敵襲!!」
ガブリエルがそう叫ぶと同時に、冒険者達が飛び出してくる。
──ギリリリ・・・・ドシュッ!!
アシュレーの放った矢が、体長約3m弱の魔物に突き刺さるが・・・・体表に軽く突き刺さっただけである。
「ギュンター君、今度こそいくわよっ!!」
ミリランシェルがギュンターの元に駆け寄るが、ギュンター君は硬直している。
「お、お、お、おーぐらぁぁ」
愛用の巨大ハンマーを握り締めたまま、ギュンター君はガクガクと震えている。
「オーグラだと?」
「なんだってそんな奴がこんな所に!!」
アシュレーとマリオーネ、二人とも知識の底からオーグラについて引っ張りだしたらしい。
濃い褐色の肌をした巨大な鬼。
肉食で、特に人肉を好んで食べるともいわれている。
そして、手下にオークやオーガを連れて歩いていることもしばしば・・・・ということは。
「ミリランシェル!! ギュンター君はオーグラとは戦えない。本能で、適わない相手と認識している!!」
マリオーネがそう叫ぶ。
そしてルイスとガブリエル、リョウがオーグラに向かって突っ込んだ!!
──ガギィィィィン
真っ先に飛込んだリョウがオーグラに向かって横一閃!!
だが、その鋭い攻撃さえも、オーグラは手にした棍棒で受け流してしまった!!
「なんですって? この攻撃を受け流すというのですか?」
ちなみにリョウ。
剣術の腕は達人クラス。
その神速とも言える一撃を、いとも簡単に受け流してしまったのだから、これはかなり不味い。
「グォッグォッグォッ」
笑うようにそう呟くオーグラ。
──ドシュュュッ
手にした鉄弓でオーグラを狙い撃つユーウィンだが、それをも身体を反らして躱わしてしまう。
「うそ!! あたしの弓を避けるなんて!!」
鉄弓の腕には自信があった。
が、目の前のオーグラは、その自信すらも打ち砕く。
──スカァァァン
「たかが一体のオーグラ如きにっ!!」
ガブリエルの一撃。
だが、それも余裕で躱わすオーグラだが・・・・。
「アグラベイション!!」
ソフィアの魔法『アグラベイション』発動。
多少は効果があったらしく、オーグラの動きが鈍くなったのを一行は感じ取った。
「今ならっ」
「いけます!!」
──ズパァァァン
ルイスとミリランシェルのダブルアタック。
それを真面に受けるオーグラ。
「ギュンター君、しっかりしなさい!! 仲間が頑張っているのに、貴方はどうしてそこで震えているの!!」
ミリランシェルの叫び。
と、ギュンター君の瞳に力が戻る。
「みりー。ギュンタ、たたかうー」
ハンマーをブンブンと振回してオーグラに突っ込んでいくギュンター。
そして・・・・。
●依頼完了〜ありがとう〜
──ギュンターの家
無事に依頼を終えた一行。
最後のオーグラとの戦いは流石に無傷とはいかなかったが、手持ちのポーションをフルに使用してどうにか生き延びたというところである。
全身ぼろぼろの戦いではあったが、それでも辛うじて勝利し、一行は帰路に付く事が出来た。
「うぁーーーぃ」
馬車から飛び降りて、ギュンターが玄関で待っているトールに手を振る。
「じゃあ、またな」
ガブリエルがそういいながらギュンターの肩をトンと叩くが、ギュンターは其の場に座り込んで、バックパックをゴソゴソと漁りはじめた。
「うぁ!! おみゃげ」
と、バックの中から『木彫りのペンダント』を取り出すと、ギュンターは、この旅の記念にこっそりと買って来た『おみゃげ』を、冒険者達に手渡した。
「じゃあ、またあそぶ!!」
元気な挨拶をソフィアと約束したギュンター。商隊の人たちの冷たい視線にも、ソフィアが一緒にいてフォローくれたから頑張ってこれたのかもしれない。
そしてなにより、ギュンターは大切な仲間と冒険に出たことを誇りに思っているのかもしれない・・・・。
だが。
これが、元気だったギュンター君の・・・・。
〜To be continue