鋼鉄の冒険者達〜自警団救出〜
|
■シリーズシナリオ
担当:久条巧
対応レベル:7〜11lv
難易度:難しい
成功報酬:8 G 28 C
参加人数:9人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月23日〜03月10日
リプレイ公開日:2005年02月28日
|
●オープニング
──事件の冒頭
事件は突発的に起こった。
大人達の交代要員として、砦に子供達がやってきたのは今朝の出来事。
ノルマン江戸村での講習を『4日間』という異例の速度で卒業した子供達は真っ直ぐに交代として砦にやってきた。
そして午後には引き継ぎを全て終え、大人達は1日だけの休暇に入った。
だが、無事に休暇を終えて大人達が少し早めに砦に戻っていったとき、子供達の姿は見えなかった。
ただ、一枚の書き置きを残して。
『手柄を上げる為に、森に向かいます!!』
●冒険者ギルド
「で、森に入っていった子供達の救出を頼みたいと?」
執務室の奥、大量の書類の置かれているテーブルでギルドマスターが静かにそう呟く。
「ええ。最悪なことに大人達が砦にたどり着いてしばらくしてから、オーグラがまた襲撃を行なってきまして・・・・大人達は砦を放棄して領地に帰還してしまったのです。依頼内容は二つ。大人達と共に砦を奪回すること、そして森に入っていった子供達を救い出す事の二つです。大人達は、皆さんが子供達を助けてくるまでの間、砦の護衛を務めますので」
落胆した表情でそう呟くのはグレイファントム卿。
だが、その瞳の奥には、何かどす黒いモノを感じさせる。
「確かに、貴方の言葉を全て信用すればそれは美談となるでしょう。砦を奪回し、且、はやる気持ちを押さえられずに単独で森に向かった子供達を救出する冒険者・・・・」
──バン!!
テーブルを叩きつけ、ギルドマスターが立ち上がる。
「貴様、子供達に何を吹き込んだ!! 手柄を立てる為にだと? 貴様が何かを囁いたのだろう!!」
顔中を真っ赤にし、ギルドマスターがそう告げる。
だが、グレイファントム卿は頭を左右に振ると、静かに口を開いた。
「手柄を立てればお金が手に入る。これは昔からの約束事。ひょっとしたら、この前の依頼で冒険者の皆さんに訓練してもらったおかげで、実力が付いたと思い込んでしまったのかもしれませんねぇ・・・・」
ニィィィッと口許に笑みを浮かべるグ゚礼ファントム卿。
「まあ、子供達を無事に助け出してくれればよいのですよ。砦に掛けた予算も莫大なのです。これ以上『無駄な出費』を続けたくはないですから・・・・」
そう告げると、グレイファントム卿は静かに退室しようとする。
と、ギルドマスターも椅子に座ると、何かを思い出したかのようグレイファントム卿に話し掛けた。
「ファントム卿・・・・ニライ査察官をお見かけしましたよ」
──ビクッ!!
ギルドマスターのその言葉に、グレイファントム卿は一瞬足を止めるが、すぐに扉を開いて外に出る。
──チリン
テーブルに置いてあるベルを鳴らし、係員を呼ぶギルドマスター。
「至急、腕のたつ冒険者を・・・・大至急だ!!」
●リプレイ本文
●2月25日〜記録者・クリシュナ・パラハ
いつものようにパリを出てからの道中は、なにも変わったことのない静かな時間が過ぎていました。
パリを出発して3日。
グレイファントム領に入った私達は、そのまま領主のすまう町へとやってきました。
そこで『大人の自警団達』と合流。
襲われた時の状態等を細かく聞き出していました。
──自警団詰め所
一通りの説明が終り、出発の準備が出来たとき、詰め所に一人の人物がやってきた。
「もう出発ですか。どうか子供達を無事に救出し、生還してください」
丁寧に挨拶をした後、そう話し掛けてきたのはこの土地の領主であるグレイファントムであった。
「やれやれ、この前は卿の一言で酷い目に遭いましたよ‥‥。まあ、それはそれ。これはこれです。別に信頼してくれとは言いませんよ。信用して使っていただければ結構です。その方がいいでしょう? ‥‥お互いに」
そう笑顔でグレイファントムに話し掛けているのはゼルス・ウィンディ(ea1661)。
「あの後、大変でしたよ。私も主催者に色々と問いただされまして。当面は私も参加資格を剥奪されてしまいました・・・・まあ、別に構わないのですけれどねぇ・・・・」
そう告げると、グレイファントムはリーダであるカーツ・ザドペック(ea2597)の近くへと歩いていくと、後ろで控えていた従者からバックを受け取り、それをそのままカーツに手渡した。
「多少で申し訳ないのですけれど、無事に子供達を救出することが出来ましたら、これで何か美味しいものを食べさせてあげてください」
受け取る必要などなかったが、『子供達』という言葉を聞いてしまうとそうも行かない。
チーム・ワイルドギースのリーダーであるカーツはムスッとした表情でバックを受け取る。
(こいつが、グレイファントム・・・・嫌な感じだ)
彼が詰め所に姿を表わしてから、アリス・コルレオーネ(ea4792)はそのひとどなりを観察していたらしい。
が、どうにもこうにも一筋縄な性格でないということは判ったものの、それ以上は『胡散臭い』という雰囲気以外は読み取れなかった。
「では・・・・」
カーツはそれだけを伝えると、自警団の大人達と共に、砦に向かって出発した。
●2月28日〜記録者・イルダーナフ・ビューコック
無事に大人達と取手に到着した俺達は、素早く砦奪回の為に奇襲攻撃に切替えた。
幸いなことに、こっちには『パリ闘技場』のチャンプがついている。
戦闘士気はこっちが上。
油断をしている奴等に一撃を叩き込むと、砦奪回の攻防が開始された・・・・。
「安心しろ!! てめえらにはセーラ様の加護がある!! これは正しき戦いだっ!! 神よ、彼の者たちに祝福を・・・・グッドラック!!」
イルダーナフ・ビューコック(ea3579)がセーラの奇跡を発動。
砦に突入するまえに、最後の打ち合わせを行なった後、イルダーナフは仲間たちに次々と神の祝福を行った。
──ガギィィィィィン
素早く振りおろされるロングソードの一撃を、目の前のオーグラは其の手に持ったクレイモアで弾きかえした。
「そんな武器を、何故貴様がっ!!」
弾き飛ばされたソードを、遠心力でそのまま切替えし叩き込むグラン・バク(ea5229)だが。
──ガギィィィィン
またしても弾かれる。
「グラン、援護する!!」
そのままオーグラの正面に踏込むと、そのまま真横に飛びつつ抜刀する氷雨絃也(ea4481)。
──ザシュッ
流石に数で攻められるとオーグラも防ぎきれないらしい。
胴部の皮膚が切り裂かれ、血が滲みだす。
「ありがたい・・・・」
グランも体勢を整えると、そのまま武器を投げ棄て、側に投げてあったラージクレイモアに武器を取り替えた。
──ゴゥゥゥゥッ
「とっとと砦を明け渡しなさい!!」
砦側面では、アリスがアイスブリザードを発動。
柵のむこうで身構えているオーガの一団を一気に蹴散らす。
さらに逃げ惑うオーガの群れの中心に向かって、ゼルスがトルネードを発動。
「ここは、貴方たち魔物がすまう土地ではないのです。自分達のテリトリーに戻ってください!!」
そう叫ぶゼルスの心は通じず、運良くトルネードの範囲から逃れたオーガたちは、砦外にいるゼルス達に向かって襲いかかる。
──キン!!
「我が一刀『疾風(ハヤテ)』よ、命の輝き、オーラを刃に込め・・・・舞え!!」
ゼルス達とオーガの間に割って入ったのはアマツ・オオトリ(ea1842)。
そのまま手にした日本刀を構えると、素早くオーガ達に向かって切り込んだ。
「向かってくる奴等は私が押さえる!! 魔法の援護を頼む!!」
そのアマツの言葉に、ゼルスとアリスは印を組み韻を紡ぐ。
「どっかぁぁぁぁぁぁぁん」
一方砦の正面。
逃げ惑うオーガ達に向かって、クリシュナ・パラハ(ea1850)がその身を『炎の鳥』に変化させて襲いかかっていた。
「そう。あと正面に2体!!」
全体の状況を把握するためにララ・ガルボ(ea3770)が砦のオーガ達の撃ってくる矢を躱わしつつ指示を飛ばす。
「正面ですね。いっきまーす!!」
そのまま最後の2体に向かって炎の体当たりを行うと、クリシュナはそのまま砦正面でストップ。
全身から炎が消え去り、クリシュナは周囲の状況確認。
「・・・・普通、ウィザードって体術は鍛えていないものですよね・・・・」
その圧倒的な破壊力にそう呟くララ。
と、クリシュナはララの方を向くと、ヒュッと顔の前でVサイン、それをスッと振る。
「鍛えてますから!!」
いや、それは嘘。
──ドッゴォォォォン
激しい攻防の幕を降ろしたのは、やはりグランの必殺の一撃。
胴部を真っ二つにされたオーグラが、絶叫を上げて其の場に崩れていった。
そしてその絶叫を耳にしたオーガの残党は、手にした武器も投げ棄てると、素早く森に向かって走り出した・・・・。
●3月01日〜記録者・アマツ・オオトリ
砦の奪回に成功した翌日。
他の仲間たちはあの直後装備の再点検を行ない森に突入。
私とクリシュナは砦に留まり、後片付けの指示を行ないつつ、皆の帰る場所を守ることにした。
もっとも午後には、また別のオーガの来訪があったが・・・・。
「うぇっ?」
「ギュンタークン、ドウシテゴゴニイルディズガ?」
午後になって砦近くを歩いている“はぐれ”オーガを発見。
クリシュナが単独でオーガ殲滅に向かったのだが、そこには見知った顔のオーガがいた。
「うぁ、くりすな。ぎゅんた、おかねかせぐ」
「お金? どうして?」
キョトンとするクリシュナ。
「とーるいきかえるおかねかかる。ぎゅんた、とうぎぢょうでたたかっておかねかせぐ。おぢさんそうおしえてくれた」
「えーーっと。ぎゅんたーくん? 闘技場はこっちじゅないよ。パリかドレスタットに戻らないと・・・・って、そっちは街道じゃないよー。街道は1度戻るんだよー」
「あい。ありがとー。かいどうあるく、さきにぐれふぁとむのとうぎぢょうある。ぎゅんたおしえてもらた・・・・ばいばい!!」
にっこりと微笑って、ギュンターは街道の向うに駆けていった。
一緒に行くにも、依頼を放棄することが出来なかったクリシュナは、そのまま砦に戻っていった。
●3月03日〜記録者・カーツ・ザドペック
子供達を一刻も早く救出するため、我々は今だ人の踏み込んだことのない未踏破地帯へと侵入した。
昼なお光の差しこまない程の鬱蒼とした森林地帯。
あちこちの大地はぬかり、聞いたこともない奇妙な奇声が時折聞こえてくる。
正直、ここは地獄だ・・・・。
すでにどれぐらい踏込んだのだろう。
今日が最後の調査日である。
見つからなかったら、我々は子供達を見捨てて帰るのだろうか・・・・。
「カーツ隊長!! 正面に人影っ!!」
「判って居る!! 全員警戒体勢を取れ」
森の中に飛込んだ一行。
斥候を務めるのは隊長であるカーツ。
その後方では、ララが少し上空から周囲を偵察していた。
静かにカーツは前方に倒れている人影に近付く。
そしてその姿を見たとき、思わず胸の前で十字を切り、神に祈った・・・・。
「自警団の子供だ・・・・イルダーナフ、神の御許に・・・・頼む」
「判った・・・・」
倒れていた子供の死体。
首から上が失われており、そこから血の跡が点々と奥に向かって続いている。
「こんな・・・・子供になんて事を!!」
「まてアマツ!! 単独で動くと危険だっ」
アマツがそう叫ぶと、カーツの静止を振り切って奥に走り出した。
そして一行もまた、アマツに続いて走り出した。
──1時間後
そこには、小さな礼拝堂が立っていた。
全体を蔦が覆い付くし、かなりの年月が立っていることを感じさせている。
そして、血の跡はその中まで点々と続いている。
「扉の回りだけ蔦が払われている・・・・誰かいるのか?」
グランが静かにそう呟きつつ、周囲を警戒しながら近づいていく。
そして扉のノブに手を掛けると、仲間たちに合図を送り、勢いよく引っ張った!!
──ギィィィィィッ
開かれた扉。
小さな礼拝堂の内部はガランとしている。
そして、その目にも異質な光景が、一行の視界に飛込んでくる。
「なんて事を・・・・」
巨大な魔法陣。
血文字で綴られた、見た事のない紋様。
そして、彼方此方に点在する子供達の四肢・・・・。
「一体何者だっ!! これだけのモノを作りあげることの出来る存在、魔物の類ではない筈だ!! 誰だっ、何をしていた!!」
天井を見上げ、氷雨が叫ぶ。
「酷すぎる・・・・どうして・・・・この子たちにはなにも罪はないのに・・・・」
ララがそう呟きつつ、近くに転がっている男の子の頭を抱きかかえる。
「これもすべて・・・・あの男の差し金なのっ!! グレイファントム、一体何を企んでいるのっ!!」
そう叫ぶアリスだが、ゼルスは務めて冷静に魔法陣を調べている。
「悪魔召喚の法なのか? それにしても・・・・」
血文字をひとつひとつ解析しようと試みるが、ゼルスには不可解な部分が多い。
──ガタッ
「それは貴方たちでは解析することはできませんよ・・・・」
突然入り口から聞こえてくる声。
その声に全員が素早く反応し、戦闘態勢を整える。
「貴様何者だっ!!」
カーツが目前に立つ、漆黒のローブを身に纏った女性に向かってそう叫ぶ。
「さあ・・・・貴方たちに告げる必要はないでしょう・・・・それよりも、早くこの場所から撤退したほうがよいのでは? 血の匂いを嗅ぎつけて、様々な魔物が集ってきますよ・・・・」
──ズバァァァァァッ
その言葉の直後、グランは踏込んで女性に向かって渾身の一撃を叩き込む。
が・・・・。
「全く、これだから冒険者っていうのは・・・・」
手応えがない。
スマッシュEX、それが女性の胴部に直撃した筈。
だが、衣服は破れるものの、その肉体にまでは刃は届いていない。
瞬時にギリギリのラインを見切り、トン、と後ろに飛んだようである。
恐ろしいほどの洞察力であろう。
「馬鹿な・・・・今のを躱わすだと?」
そう呟くグランに、女性はそっと外を指差す。
「ここで貴方たちと戦っても構いませんが・・・・この先には、まだ生き残っている子供もいます。先程もおっしゃった通り、血の匂いに敏感な魔物はそろそろ・・・・ねぇ」
その言葉の直後、アマツ、氷雨、ララ、そしてカーツは外に飛び出す。
一歩遅れてイルダーナフが女性の横を歩いていくが。
「お前・・・・人間じゃねぇな?」
「私はシルバーホーク様の側近です。それ以上でもそれ以下でも無い・・・・ただそれだけの存在ですよ・・・・」
とだけ告げていた。
●3月04日〜記録者・ララ・ガルボ
悪夢の翌日。
私達は無事に砦に戻ってきました。
生き残った自警団員は二人。
クレリック見習いの子と、レンジャー見習いの子だけでした。
ですが、森の中で子供達がどんなことを体験したのかは判りません。
救出されてからも、子供達は言葉を交わすことなく、表情一つ変える事の無い変わり果てた姿になっていました・・・・。
午後からは私達もパリに戻らなくてはなりません。
あとのことは、自警団員の大人達に託すしかなかったのです・・・・。
「・・・・持っていってくれ・・・・」
そう呟きながら大人達が冒険者に手渡したのは大量の保存食である。
「どうしてですか?」
アリスには、大人達がどうして自分達を支援してくれるのかその真意がわからなかった。
今までの依頼での出来事はギルドに提出されている報告書を呼んでいるから大体の事は察しが付く。
大人達にとって、ここの子供達は『使えるか使えないか』の二つに一つ。
死んでしまった子供達の為に何かをしてやろうという大人は居なかった。
それなのに。
「折角の好意だ、受け取っておく。アンタ達にもセーラの加護がありますように・・・・」
イルダーナフは大人達から食糧を受け取ると、それを仲間たちに手渡した。
●3月06日〜記録者・アリス・コルレオーネ
砦を出て2日。
救出した子供を連れて私達は領主のすまう町に戻ってきました。
そこで今回の顛末を領主であるグレイファントムに伝えると、私達はパリへと戻ることになったのです・・・・。
「そうですか・・・・森の奥では、その様なことがあったのですか・・・・」
カーツからの報告を聞き、落胆した表情でそう告げるグレイファントム卿。
「そのような事ですって? 全て貴方の仕組んだことだったのでしょう? 正直に白状しなさいよっ」
いきなりグレイファントムの胸倉を掴むと、そう涙声で叫ぶアリス。
「仕組んだなどと・・・・言いがかりは止めて頂きたい。未探索地域に何があったかなど、この私に調べられるものではないでしょう? それよりも、その子供は私が責任を持って治療させて頂きます・・・・」
「いや、済まないがアンタには任せられない」
イルダーナフはそう告げると、仲間たちに目配せをする。
「ここからパリに戻る途中、プロスト領を抜けて戻ることにする。あそこの城下街にある『シャルトル・ノートルダム大聖堂』の大司教にこの子は預ける事にするんでね・・・・」
そう告げると、一行はグレイファントムに挨拶することなく其の場を立ち去っていった。
〜To be continue