●リプレイ本文
●3月15日 記録者:ララ・ガルボ
必要な事は勇気ある行動。
今回の黒幕であるグレイファントム卿について私は色々と調べていましたが、思ったよりも情報が少なかったです。
情報屋さんから得た情報を元に、私はグレイファントム領へと危険覚悟で向かう事にしました。
──冒険者酒場・マスカレード
「え? もう一度お願いします」
カウンターではなく奥の席で、ララ・ガルボ(ea3770)は情報屋のミストルディンと接触。
グレイファントムについて調べていたものの、情報があまりにも少なかった為に情報屋の御登場という事になった模様である。
初めてだったので無料サービスで簡単に情報を教えてもらうことが出来たのだが。
「いい? つまり南西ノルマン方面プロスト領の領主であるプロスト卿と、その隣接地域にあるグレイファントム卿は実は遠縁にあたるの。プロスト卿の奥さんがグレイファントムの姉にあたるらしいのよっ。それでいて、グレイファントム卿は姉に頭があがらないとかで・・・・」
思わぬところから思わぬ真実。
いや、この場所ならば当たり前。
「グレイファントム卿が領主としての地位に付いたのは、先代領主の病死による継承。もっとも、その事実を知っているものは少なく、実は毒殺されていたとしたらどうしますか?」
ニィッと笑いつつ、ミストルディンがそう告げる。
「それって暗殺・・・・一体なんの為にですか?」
「んー。ここからは情報があやふやなのよ。只、一般的なのが、領地の統合を避ける為だってさ。そこの所がいまいちピンとこないんだけれどね。で、ここまでが無料分ね。今後も私に会いたかったら、この店で『宿り木のハーブティー』を頼んでね」
そう告げると、ミストルディンはその場をあとにした。
そしてララもまた、更なる情報を求めてグレイファントム領へと出発したのである。
●3月17日 記録者イルダーナフ・ビューコック
心ここに在らず。
子供達の様子はまさにそんな感じだな。
俺自身も子供達に会って、ある一つの事に気が付いた。
この子たちは、ひょっとして洗脳されているんじゃないかと。
その確信はないが、唯一この子たちだけが生き残ったというのが引っ掛かる。
まあ、これもセーラ様の加護、この子たちには救いの手を差し伸べてくれたと感謝はしている。
だが、どうもどす黒いなにかが動いている感じがしてならねぇ。
──プロスト領・シャルトル大聖堂
「こちらにどうぞ」
そのままシャルトル大聖堂の大司教『聖ヨハン』に連れられて奥の間に案内されると、一行は窓辺のベットに横たわり、じっと窓の外を見ている子供達の元にやってきた。
そして、イルダーナフ・ビューコック(ea3579)はベットの横にしゃがむと、子供達の手を取る。
「生きているんだな・・・・良かった・・・・」
心から神に感謝すると、イルダーナフは静かに祈りを捧げる。
「なんて事だ・・・・」
同じく同行してきた氷雨絃也(ea4481)が拳を握り締めてそう呟く。
「俺の声は聞こえているかい?」
クオン・レイウイング(ea0714)もゆっくりと近付くと、そう優しく問い掛ける。
だが、子供達の瞳は焦点が合わず、じっと虚空を見つめている。
氷雨とクオンの二人は、ここで子供達のお見舞を行なった後で、少しでも情報を得ようと思っていたのである。
だが、この状態では、それも不可能。
「・・・・」
一瞬口を開いた氷雨であったが、言葉は紡がれない。
「イルダーナフ、俺達は情報を探しにパリに戻る。あとは頼む」
クオンがそうイルダーナフに告げると、氷雨と共に部屋から出ていった。
「ああ。てめえらも気を付けてな、セーラの加護のあらんことを」
──夕方
「じじい。済まないが、あんたの持っている文献を見せてほしい。どうやら俺達は悪魔を相手に戦わなきゃならないようだから・・・・」
そのイルダーナフの言葉に、大司教はイルダーナフを書庫へと案内する。
「ふぉっふぉっふぉっ。その無茶な頼みは昔から変わらないのう・・・・」
どうやら大司教とイルダーナフは旧知の模様。
そして様々な石版や木版、写本がおさめられている部屋に案内される。
そこでイルダーナフは、悪魔に付いての様々な文献や碑文を調べていった。
●3月17日 記録者 アリス・コルレオーネ
兎に角、私達には情報が足りなすぎる。
知人からミハイル教授を紹介してもらい、シルバーホークについて色々と教えて貰おうかと思っている。
まあ、そのついでに『教授の研究室』に潜入している奴等の手先を燻りだして、色々と情報を聞き出そうかと思っているのだが・・・・。
──プロスト領・ミハイル研究室
「オィッス、ミハイル先生! 秘密結社グランドクロス・エージェントのクリシュナと申します〜♪ この前のイフリート、危なかったっスね〜?」
いきなり研究室の入り口で挨拶をしているのはクリシュナ・パラハ(ea1850)。
ギュンター君の足取りを追い、ここにやってきたのは良かったが、それ以上の手掛りは全く掴めなかったようである。
──ギィィィィィ・・・・バタン
「・・・・クリシュナさん。只でさえシルバーホークとかに狙われている人に対して、秘密結社を名乗るのは問題があるかと思いますが」
ゼルス・ウィンディ(ea1661)がこめかみをヒクヒクさせてそう呟く。
「ミハイル教授、私達は怪しいものではありません!! ここにはロックハートさんの紹介でやってきました!!」
アリス・コルレオーネ(ea4792)が丁寧な口調で必死に扉をノックしながらそう叫ぶ。
──ガチャッ
「なんじゃ、ロックハートの知人か。なら先にそう告げてほしいぞ。取り敢えず入りなさい」
そのまま今に通される3人。
助手のシャーリィがハーブティーを持って来て、ゼルスに挨拶をしてから席に付く。
「で、話というのはなんじゃ?」
「実は、ちょっと・・・・」
そのままミハイル教授を呼ぶと、耳元で静かに話を始めた。
『この研究室にシルバーホークの密偵がいます。ムーンアローで調べてみますので』
その言葉に、ミハイルは静かに肯く。
そしてゼルスはスクロールを広げると、素早くそれを閉じる。
──ドシュッ!!
「うわっ!!」
突然廊下から悲鳴が。
「イマスィタ!!」
手近にあった『鑑定途中の剣』を引き抜くと、それを手にクリシュナが廊下に走る。
──チャキーーーン
「貴方ははシルバーホークの手下ですねっ!! いい加減に観念してください」
そう叫びつつ剣を首にピタピタと当てるクリシュナ。
そしてアリスが研究員の後ろに回りこむと、そのまま両手を縛り上げる。
「とりあえず、情報を聞き出して自警団にでも突き出してやる」
「おお、ならプロスト卿に引き取って貰え!! 奴なら色々と聞き出すことができるじゃろうて」
そのままゼルスとアリスの二人は、研究員を連れて一路プロスト卿の古城へと移動。
残ったクリシュナは、ギュンター君について見なかったか問い掛けていた。
「ギュンター君でしたら、私見ましたよ」
「何処でですか?」
「えーっと、少し前になるのですけれど、パリの郊外ですね。私が『ワルプルギスの剣士』についての調査を行っていた時ですから、1〜2週間程前でしょうか?」
その言葉に、クリシュナは頭を捻る。
「そのワルプルギスって何者でぃすか?」
「ワルプルギスの剣士です。先程クリシュナさんが引き抜いた剣も剣士の道標、剣の都に住まう、古の剣士達ですわ。人為らざる力を持ち、悪魔すら打ち倒すと伝えられています」
悪魔の所でピンとくるクリシュナ。
「この・・・・剣の持主がですか?」
「ええ。剣に認められ、『ワルプルギスの剣士』となった人たちですわ。石碑には確か、剣は全部で13本あるとかで、その剣には『龍の刻印』が記されています。他にも『蝙蝠』『牛』『虎』など、様々な刻印があるそうでして・・・・」
なにか魂がドキドキしてくるクリシュナ。
「こ、この刀身に刻まれているルーンはなんと記されているのでぃすか?」
「えーっと・・・・『どんな時もオーラを信じなさい。オーラと共にあらんことを・・・・』ですね」
──プロスト城
と言うことで、取り敢えずは研究員をプロスト卿に預ける二人。
しかし、いっこうに口を割る事も無く、じっと貝のように口を閉じたまま黙ってしまっていた。
「何か、いい方法はないか?」
そう問い掛けるアリス。
「そうですねぇ・・・・取り合えずは、私が預かって置きましょう。地下にある牢にでも閉じこめて、色々と聞き出してみる事にします。判ったことがありましたら、シフール便でご連絡しますので・・・・」
その言葉に従って、二人はクリシュナを回収した後パリへと戻って行った。
●3月18日 記録者:カーツ・ザドペック
グレイファントム領に向かい、最初の依頼で戦えなくなった子供達の元に挨拶に向かうことにした。
色々とやらなければならないことが多すぎるが、まずは一つ一つ確実に行なっていきたいものだ。
恐らくはノルマン王国の騎士団にも色々と情報が集っているのは確かであろう。
その方面からも色々と情報を仕入れたいものであるが・・・・。
──グレイファントム領・共同墓地
静かに雨が降っている。
「口封じか・・・・」
小さな墓碑には、以前カーツ・ザドペック(ea2597)達が教えていた子供の名前がある。
あの日の戦いで死んでしまった子供が3名。
足を切断し、その後この地に戻って事故で死んでしまった少女が一人。
そして、あの依頼によって『戦えなくなってしまった』子供達4名。
その最後の4名分の墓が静かに並んでいた。
死因は事故死。
家族は悲しみに暮れ、この地を去ってしまった。
「可哀想な事をしました・・・・」
カーツをここまで案内してくれたグレイファントムが、静かにそう呟いた。
──バキィィィッ
その横っ面をカーツは力一杯殴り飛ばした。
「いつか貴様の正体は暴いてやる!! 公の場に引きずり出して、全ての罪を償わせてやるから覚悟しておけ!!」
それだけを告げると、カーツはパリへと戻っていった。
●3月18日 記録者:グラン・バク
モンスター達の扱っていた武器。
それらの出所が判れば、なにか突破口が開けるかも知れない。
さいわいな事に、前回の依頼でオーグラの持っていたラージクレイモアが砦に残されている。
それを手に、ちょっと俺は一人で潜入調査も行なってみようと思ったのだが・・・・。
──グレイファントム領・マクシミリアン自治区
「では、このラージクレイモアはマクシミリアン卿の注文なのか?」
自治区にある大きな鍛冶工房で、グラン・バク(ea5229)は先日の戦いでオーグラが手にしていたラージクレイモアを鍛冶師に見せていた。
「ええ。間違いありませんぜ。この柄の所にある印はうちの工房作ですよ。今だってほら、これを仕上げている最中でして」
グランの目の前には『刃渡り3m超』の巨大な『エクスキュージョナーズソード』が置いてある。
「一体、何者がこれをつかうんだ?」
「さぁ? 闘技場で使うとか言っていましたけれど・・・・って、俺が闘技場の事話していたっていうのは内緒ですよ」
そのままグランは闘技場についての情報を得た後、潜入するために酒場へと向かっていった。
──夕方
そこは酒場『ワイルドヘブン』
店内はにわかにざわついている。
それも其の筈。
カウンターで飲んでいるグランについて、皆が様々な噂を立てているのである。
「おい・・・・あいつはグランだぜ、あの」
「知っている。俺も大会は見てきた。パリ・コロッセオトーナメント3連覇、かなり凄い戦いだったぜ」
「でも、そのチャンプがなんでこんなところに?」
「まさか・・・・地下トーナメントに?」
「可能性はあるな・・・・」
そんな噂を耳にしつつも、グランは静かにマスターと話をしている。
「では、地下トーナメントには参加できないということか・・・・」
「ええ。既に予選は終了、今はフリー対戦しかやっていません。それも、貴族の後ろ盾があったり、スカウトされた実力者でなくては参加は不可能です・・・・」
その言葉にグランはあきらめ顔。
「真に申し訳ありません。グラン・バク殿とお見受けしましたが」
それは一人の貴族。
「確かに。何のようだ?」
怪訝な顔をシつつ、グランがそう問い掛ける。
「私、地下闘技場でスカウトマンを行っています『クリストフ』と申します。単刀直入に申し上げます、地下闘技場に出場される意志はおありですか?」
内心、掛かったとグランは思った。
「どういうことだ?」
あえて直に返答は返さない。
「実は、タッグ戦に参加する筈だった選手が一人、怪我により参加出来なくなってしまったのです。それで、私共の選手のパートナーを務めて頂ければと思いまして」
そのままクリストフは、自分の後ろに控えている少女を紹介する。
「この娘は『ブランシュ』と申します・・・・」
ニィッと笑いつつ、頭を下げるブランシュ。
「コロシアムのチャンプがパートナーなら、私も今回は無傷でいけそうねっ!!」
ガシッとグランの手を掴むブランシュ。
「ブランシュ・・・・確かアサシンガール・・・・」
そう、わざと呟くグラン。
「まあまあ、ここじゃ私達の身は保障されているからそんなの気にしないきにしない。それよりも、正体隠さないと駄目だよねぇ・・・・」
「そうか・・・・なら俺は・・・・」
あらかじめ決めていた偽名を語ろうとしたとき、ブランシュがグランの頭にすっぽりとマスクを被せる。
「ほほう。ティーゲルですか」
クリストフがマスクを被ったグランを見て、そう呟いた。
「ティーゲル?」
「ええ。先月までは常勝無敗だった人。今月に入って私達のチームの『オーブ・ソワール』と戦って、1分で首が千切られたの。で、その戦いが一方的だったので偽者説まででちゃったのよ。だから、死んだアイツは偽者で、貴方が本物。いい、ティーゲルは正義の味方、モンスターの襲撃で両親を失った子供達が住んでいる孤児院に、賞金を全額寄付しているってイう設定だからね。その方が、貴族に受けがいいのよっ!!」
一方的に決定されると、グランは取り敢えず目的が達成したことに納得。
「一つ聞いていいか? そのオーブ・ソワールってかなり強いのか?」
その問いに、ブランシュはしばし考える。
「まあ、アサシンガールについて知っているのなら少しだけ教えてあげる。此処だけの話よ!! フロレンスはクラリスに一方的に負けるの。クラリスは今のアンリエットとほぼ互角、でも二人で掛かってきても私には勝てない。そんな私でもスピカには無傷というわけにはいかないし、スピカとステラはお互い互角。そのスピカとステラ二人がかりでもドールには勝てない。でも、ドールでもエンジェルモードにならないとオーブ・ソワールには勝てない可能性が高い。そして、オーブ・ソワールでもゼファーには触れることも出来ない。これでいい?」
その言葉に、グランは目眩がした。
そんなアサシンガールとタッグを組んで戦う相手とは一体・・・・。
──その夜
試合は静かに行われた。
対戦相手は常勝無敗のオーグラ兄弟『ブラッシュ&ブラッキン』。
そんな二人を相手に、苦戦しつつもグランはどうにか勝利をもぎ取った。
恐るべきは、パリトーナメントで培われた実力であろう。
そして試合が終った後で、グランはクリストフからあることを教えてもらった。
「もしこのさき、ここで地下闘技場に参加するのであれば、先程の酒場で私を指定して呼んで頂ければ結構です。今回のように『ヒーロー・ティーゲル』として参加して戴いて構いません。あとね今回の賞金については、とりあえず『孤児院』に寄付させて頂きます。セーラの子供達も喜ぶでしょう・・・・それに、貴方も、ここに潜伏したほうが、色々と情報を集められるのでは? 『チーム・ワイルドギース』のグラン殿・・・・」
そのままクリストフは其の場を後にした。
「参ったな。うまく使いやがったか・・・・」
それにしても、クリストフの真意も判らない。 グランは取り合えずパリに戻り、皆と情報交換することにした。
●3月20日 記録者:氷雨絃也
相手が『貴族』であり、『領主』である以上、我々は常に先手を打つ問いう事が難しくなっている。
奴には『権力』があり『財』がある。
だが、俺達は小さな冒険者でしかない。
強大な相手に立ち向かうには、やはり何処か『崩せる場所』を見つけることが必要である。
俺はクオンと共に、奴の鐘の回りを調べてみようと思ったのだが、やはりうまく情報は隠蔽されているようだな・・・・。
何処かから、からめ手を使うしかないようだが・・・・。
──パリ・冒険者ギルド・報告書閲覧室
様々な報告書の納められている書庫から必要なスクロールを抱えると、氷雨とクオンの二人はじっとスクロールを開いて目を通し始める。
二人の目的は『奴隷商人について』の調査。
いくつもそれらしい者は発見できたものの、そのどれもが『たいしたことのない小者』ばかりであり、しかも組織として動いているものはない。
「こいつは参ったな・・・・」
「ああ。正直、シルバーホークとかグレイファントムに少しでも絡んでいれば、俺達なら気がつくかもと思っていたのだけれど・・・・」
そんな片鱗すら見せない。
止むを得ず二人は、最後の勝負に出ることになった。
──と言うことで冒険者酒場・マスカレード
「・・・・なら、最初からここに来たら良かったじゃない。貴方たちも初めてのお客のようだから、サービスするわね・・・・」
情報屋のミストルディンが、クオンと氷雨に対してそう話し掛ける。
「必要なことは『グレイファントム領の金の流れ』と『奴隷商人について』」
「あと、『シルバーホーク』と『グレイファントム』との繋がりだな」
日覚めるに続いてクオンがそう告げる。
「まず、グレイファントム領のお金の流れは知らないわ。国から任命されて領地を持つ貴族、当然莫大なお金が『徴税』という形で入ってるのは容易に判るわよ。けれど、その内訳、ルートまでは無理ね。徴税官に知合いは居ないし、そういった情報はあんまり『お金にならない』のよ」
惜しい。
「でも、それじゃあ情報屋としては名折れだから、一つだけ面白い話を教えるわね。グレイファントム領中央よりも、辺境にあるマクシミリアン自治区の方がお金が潤っているというのは事実。その資金は『地下闘技場』により捻出されているの。周辺貴族がスリルと娯楽を求めて出資しているらしいのよ。そこにシルバーホークが関っているという話はあるわね・・・・」
取り合えずは一つ、手掛りを得ることの出来た。
「シルバーホークとグレイファントムとの繋がりは不明だけれど、今、話に出てきたマクシミリアン卿は繋がっていると思っても間違いはないわよ・・・・」
そう告げると、ミストルディンはなにかを思い出そうとしている。
「ああ、えっと・・・・その地下地下闘技場には、幼い少女がちょくちょく出場しているらしいから・・・・」
「その中に、アンリエットという少女がいるか?」
クオンがそう問い掛ける。
「ち、ちょっとまってて・・・・」
そのまま一旦席を外すミストルディン。
そして数分してから、とある書簡を手に戻ってきた。
「えーっと、ああ、いるわね。もうすぐ試合があるわよ、対戦相手が・・・・『とれすいくす虎真、ティルコット・ジーベンランセ、宮村武蔵』の3名で、アンリエットのチームは『アンリエット、フロレンス、オーブ・ソワール』の3名。3オン3マッチで、戦闘ルールは『ダガーオンマッチ』ね」
「ダガーオン?」
氷雨が嫌そうな顔でそう問い掛ける。
「ええ、実際に戦うのは二人、一人はダーガオンターゲット。仲間が身体に一撃受けるたびに、細身のダガーが突き刺さるわけ。3本1セットで3セットマッチ、先に2セット取られるか、ダガーオンターゲットが死亡したらゲームエンド」
嫌な戦いだ。
一部の酔狂な貴族は、そんなものを見て、スリルと興奮を得ているのである。
「最初の二人は、よく酒場『シャンゼリゼ』で見た顔だと思う・・・・そんな事に荷担していたとは・・・・」
「いやいや、はめられたらしいわよ」
しばし沈黙。
そして二人はミストルディンに礼を告げると、そのまま店を後にした。
●3月24日 記録者:カーツ・ザドペック
ようやく騎士団に連絡を取りつける事が出来た。
だが、待ち合わせ場所に姿を表わしたのは騎士では無かった。
むしろ、それよりも恐い存在。
幸いな事に、彼女は我々に力を貸してくれるようであるが・・・・。
──冒険者酒場『マスカレード』
「手紙を受け取りました・・・・」
そう呟きながらテーブルに付いたのは一人のシフール。
綺麗に名装飾の施された服装に身を包み、深々と被っていた帽子を取ると、彼女はゆっくりと頭を下げ、カーツに自己紹介を行った。
「ノルマン王国監察部、査察官のニライ・カナイと申します」
「カーツ・ザドペックだ。今回は手紙を受け取って頂いてありがとうございます」
ゆっくりとそう挨拶を返すと、カーツは静かに椅子に座り、まずはニライ査察官にハーブティーをさしだした。
「お忙しいところ恐縮です。手紙の内容は読んでいただけましたでしょうか」
騎士団に当てた手紙には、『グレイファントム卿についての考察』と『現在までの事情の全て』を記しておいた。
その上で、グレイファントムについて調べているのであれば、その情報を共有したいと思っていたのである。
「グレイファントムは悪魔と手を組むほどアホか? それともタダの嫌な奴か? 教えてくれ。後出せる情報も・・・・」
その言葉に、ニライはまずハーブティーをひとすすり。
「結論から言ってしまいましょう。『嫌な奴』です。それも、タダのなどという生易しいものでは有りませんね・・・・」
そのニライの言葉に、カーツは静かに耳を傾けている。
「彼の領地内では、様々な出来事が起こっていることは容易にも予測できています。例えば『マクシミリアン卿の地下闘技場』や『ブラックローズ卿のチャイルドファーム』、『ヴォルフ卿の魔獣兵団』など、あの人の領地では様々な噂が絶えません・・・・」
地下闘技場ならカーツの耳にも少しは届いているかもしれないが、その他の二つについては初耳である。
特に『チャイルドファーム』。
「ブロックローズ卿というのは、どんな奴なんだ? そのチャイルドファームとは?」
あせる気持ちを押さえきれず、カーツは激しい口調でそう叫ぶ。
だが、ニライはその口許に人差し指を当てる。
「大きな声を出すものではありません。何処で話を聞いているか解らないのですよ・・・・」
そのニライの言葉に、カーツは少し深呼吸をしてから椅子に座る。
「では、まずはこちらから提示できる情報を教えましょう。今回は『チャイルドファーム』のみ。『魔獣兵団』については、まだこちらでも調査の段階で確証は取れていませんから・・・・」
ニライは周囲を警戒すると、ゆっくりと小声で話を始めた。
「ブラックローズ自治区は、マクシミリアン自治区の隣にある森に囲まれた領内自治区です。その中に小さい湖があるのですが、そこの畔には幾重にも監視が置かれている区画が一つあります。そこがチャイルドファーム『セーヌ・ダンファン』です。近隣から子供を『攫ったり買い取ったり』してそこに収容し、様々な訓練を行なっているのです・・・・」
「何の為に・・・・」
そう問い掛けて、カーツはすぐに言葉を止める。
わかっている。
そこが『アサシンガール』の訓練施設なのであろう。
「当然、子供を商品として育成するのですよ。愛玩用、労働用、護衛用、食用・・・・とね。件のアサシンガールは、ここで一定の成績を納めたもののみが、別の訓練施設でさらに上級訓練と洗脳調整を行なっているそうですが、そこまでは私達も判りません・・・・」
そう聞くと、カーツはガタッと立上がる。
そして走り出そうとしたが、直にニライ査察官に静止される。
「貴方が一人で行っても犬死にするだけです。あの施設には、貴方たち『チーム・ワイルドギース』全ての情報は伝わっているそうです。貴方たちは、今まで通りに行動するしかないのです・・・・私の密偵も、帰ってきたときはもう・・・・」
その言葉にカーツは立ち止まる。
そしてテーブルを力一杯殴りつけた。
「そこまで判っていて、手を出せないというのか・・・・」
「貴方達自身はね。ですが、貴方たちには切り札があるじゃないですか」
そのニライの言葉に、カーツは頭を捻る。
そして今一度テーブルに付くと、ゆっくりとニライの言葉の続きを待つ。
「冒険者というのは、横の結束力は強いのでしょう? 以前、ギュンターというチビオーガの時もそうでした。あれ程の冒険者の心を動かすとは、たいしたものですねと思いましたよ・・・・そこで提案です」
ゴクッ・・・・。
「冒険者酒場『シャンゼリゼ』には、かなり大勢の冒険者が集っているではないですか。どうですか? 今、私が貴方に与えた情報を信頼できる仲間に託してみては。店の隅っこのテーブルにでも座って、今の件について共感できる仲間を探してみてください。もし、その仲間さんが時間をもてあましているのでしたら、『ふらりと冒険』に出たり、『風の向くまま冒険』に出るかもしれませんからね・・・・」
その言葉を聞くと、カーツは静かに席を立つ。
「そうそう、あまりあちこちのテーブルでは話をしないほうが無難ですよ。シルバーホークの密偵は、何処に隠れているか判りませんからね・・・・」
そしてカーツは店の外に出ていった。
●3月26日 記録者:ララ・ガルボ
領主であるグレイファントム卿は、貯まっていた執務の処理の為に謁見出来なかった。
「・・・・仕方ないわね」
ララは謁見できなかった為、町の中での情報収集を行なおうと思っていた。
が、不思議なことに、誰も領主については悪く言うものはいなかった。
むしろ『無関心』を装っている風にも感じられる。
「情報操作・・・・もしくは口止め? いずれにしても、会えなかったっていうのは痛いわね・・・・」
そのままララはパリへと帰還。
●3月30日 記録者:クリシュナ・パラハ
取り敢えず酒場に集った仲間たちは、皆それぞれの情報を公開しました。
中でも重要なのは、イルダーナフさんの入手した『悪魔の特徴』です。
特に重要な事は『通常の武器による傷を受けない』という所で、私達がそれらと戦うには、『魔法による武器の強化』、若しくは『魔法の武具』が必要となってくるのでしょう。
──冒険者酒場『マスカレード』
「あとはグレイファントム卿。あいつの正体が人か悪魔かという事に付いてだが、俺の魔法による反応では『人間』である事に間違いはない」
イルダーナフの言葉に、一行は静かに耳を傾ける。
「だが、あのヘルメスとかい女はほぼ『悪魔』と断定して構わないだろう」
「どういう事だ?」
アリスがそう問い掛けると、イルダーナフは静かに口を開く。
「セーラに使えるものとしての直感だ」
普通のセーラの使徒達がそれを告げても説得力はないが、このオッサンが自信満々に伝えると妙に説得力はある。
「あと、アイスコフィンでムーンアローを止められるかという実験については成功です。アイスコフィンで包まれた対象には、ムーンアローは突き刺さりませんし、なによりもアイスコフィン自体がムーンアローをはばみ、傷一つ付きません」
ゼルスのその言葉に、一行は笑みを浮かべる。
「しかし、傷一つ付かないとは、アイスコフィン恐るべしだな」
カーツが皆にそう告げる。
「ああ。実際にクリシュナにアイスコフィンを仕掛けてから試したから間違いはない」
アリスがキッパリと言う。
もっとも、その前に小石で実験をしていたので自信はあったらしいが、クリシュナにとっては冷や汗ものであったらしい。
「あと、悪魔と互角に戦った剣士の話を聞きましたが、それはまだ調査中だったという事ディス!!」
そのまま各自が得た情報について再検証していく一行。
今後の事については、これからの事であるとカーツがキッパリと言い切って、其の日の話は幕を閉じた。
〜To be continue