●リプレイ本文
●はじまりましたよ!!
──ドレスタット郊外
ノルマン・ディービーカップ。
今回のレース、コースは全長2500mのU字型コース。
やや長く、コーナー手前からは上り坂、そしてコーナー中央からは下り坂が続き、直線に入るという複雑なコース。
直線は900mが二つ、それに続く長さ700mの曲線コース部分が一つ。
今回の依頼に参加した冒険者一行は、コースの下見をおこなったのち、それぞれが自分達の厩舎へと移動、対策を練り始めていた。
──アロマ厩舎
「また、今までよりもさらに気迫が感じられますね・・・・」
カルナック・イクス(ea0144)は、『怒りのブライアン』と久しぶりの対面である。
どうやら『怒りのブライアン』もカルナックの事を気に止めていたらしく、近くに寄ってきては回りをうろうろと回っている。
『どうだ、この俺を見てくれ!!』
とでもいいたそうな目つきを、カルナックも感じ取っている。
「一体、どんな調教をしてきたのですか?」
「まあ、基本的には放牧でした。ですが、放牧していた場所の近くにゴブリンが現われまして・・・・毎日追いかけられていましたよ。もっとも、そのゴブリンも近くの冒険者を雇って変装させたもので、本物ではありませんよ」
危機感を感じた『怒りのブライアン』の闘志に火が付いたというところであろう。
──オロッパス厩舎
「・・・・さて、今回のレースは特に負けられませんからね・・・・とはいえ、あまり有利とは言いがたいですが」
そう呟きつつ、厩舎で『風のグルーヴ』の世話をしているのはカイ・ミスト(ea1911)。
今回のレースは負けられない。
その闘志を心の奥で燃やしつつ、カイは丁寧に毛繕いをしている。
「体調も完全に戻りました。懸念していた事が一つありましたが、それも無事に解決しましたし・・・・」
その厩舎員の言葉に、カイは頭を捻る。
「訓練中に何かあったのですか?」
「ええ。ペルーリという調教騎手がちょっと無理をさせてしまいまして。右後ろ足を少し捻ったらしいのですよ。ですが腫れもすっかり引いているので、もう大丈夫でしょう」
その言葉にカイは『風のグルーヴ』の足をさする。
(まだ腫れている・・・・無理はさせないほうがいいか・・・・)
レースを棄権することは出来ない。
「今回のレースは、諦めるしかないですね・・・・。まだ腫れが完全にひいてはいないのですから」
そう呟くカイ。
──グイッ
と、突然『風のグルーヴ』がカイの服の袖を加えて引く。
『私は大丈夫・・・・』
そんな瞳で、カイをじっと見つめる『風のグルーヴ』。
ドレスタットの女帝・・・・その二つ名を持つ『風のグルーヴ』の母『レディ・ダイナ』。
母娘2代の悲願を果たす為、『風のグルーヴ』は走ることを望んだ・・・・。
「判りました。ですが、私は鞭をいれません。貴方の好きに走ってください・・・・」
それでも『風のグルーヴ』は、服の裾を放そうとはしない。
「・・・・勝ちましょう!!」
そのカイの気迫のこもった声に、『風のグルーヴ』もようやく口を放した。
──オークサー厩舎
「また、貴方と走れる時が来ましたか・・・・。宜しくお願いしますよ」
下見したコースをゆっくりとあるく『レディエルシエーロ』と氷室明(ea3266)。
一歩一歩、ゆっくりとコースを踏みしめては、その感触を肌で感じとっている。
「ここからが下り・・・・」
横を歩いているだけではそれほどきつい傾斜とは感じられない。
だが、実際に『レディエルシエーロ』にまたがって覗きこんだとき、その恐怖感は半端なものではない。
ここを高速で駆けおりていくのであるから、その恐怖感はさらに増す事であろう。
「坂の上り下りは、誰が思うより馬の脚に負担を掛けるはず・・・・。この恐怖感を含めても」
そのままゆっくりと坂を下っていく氷室。
「成る程。如何に脚を消耗せずに走れるかは重要な鍵になるはずです、出来る事は全部やっておきましょう」
そのまま自分達の厩舎へと戻っていくと、氷室は『レディエルシエーロ』と共に特訓を開始した。
──ディービー厩舎
「マッサージ、マッサージ!!」
厩舎の外で、ガレット・ヴィルルノワ(ea5804)は『旋風のクリスエス』にブラシを掛けている。
「精が出ますねぇ・・・・」
そう呟きながら、ディービー卿がガレットの元にやってくる。
「はい。少しでもこの子とコミュニケーションを取る事が大切なんです。騎乗技術とかはニの次ですって、この前のレースで思い知らされましたからっ」
2歳新馬戦。
ガレットはディービー厩舎に所属する『漢・ジービー』に騎乗してレースに赴いた。
だが、結果は芳しくなかった・・・・。
その事を考えて、ガレットはコミュニケーション重視の訓練を行なっていたようである。
「まあ、今回のレースだけは『風のグルーヴ』に前を走らせないようにしてくださいね・・・・」
その言葉の真意はよくわからない。
ただ、ガレットは『旋風のクリスエス』と共に、楽しいレースを行うだけであった。
──マイリー厩舎
「足、引きずっていますけれどーー」
久しぶりの『最強のキングズ』の背に飛び乗ろうとして、マピロマハ・マディロマト(ea5894)は目の前を歩いている『最強のキングズ』の様子をじっと観察。
ほんの僅かながら、『最強のキングズ』が右前足を引きずっているのをマピロマハが発見。
以前のマピロマハなら見逃していたであろうが、ここ最近は動物についての勉強を行なっていたらしい。
その知識が早速ここで生かされたのである。
「えええっ。何処ですか?」
慌てた厩舎員が『最強のキングズ』の右前足を調べる。
「ああ、腱が炎症を起こしかけていますねぇ。取り敢えずクレリックでも呼んできて、リカバーでも掛けて貰いましょう!!」
わざわざクレリックを呼んでの治療ですか?
これだから金持ち貴族って奴は・・・・。
翌日には『最強のキングズ』も元気になり早速マピロマハはマイリー卿の作った仮設コースでの特訓なった!!
「うわ、うわわわわわ・・・・曲るよーーー」
コーナーだろうと何処であろうと、『最強のキングズ』は兎に角曲る。
多少の減速はあるものの、確実に曲る走りを身につけていた。
──カイゼル卿
「・・・・おや? またさらに大きくなりました? 美味しいものでも食べているんじゃないですかぁ?」
勝負服の直しのさ中、女性服飾師にそう問われてまたしてもドキッとしているのは龍宮殿真那(ea8106)。
「い、いや・・・・その様なことはないぞよ・・・・甘いものなど決して・・・・多分・・・・」
最後のほうはゴニョゴニョ口調。
──さて。
ドドドドドドドドドトッ
同じ厩舎の馬である『絹のジャスティス』、『草原のワンダー』の二頭との併せ。
同じ厩舎の馬でもあるが、『静かなるスズカ』は臆するどころか威風堂々と先頭を『逃げ』きっている。
「カイゼル卿、『静かなるスズカ』はイギリスでどのような特訓をしてきたのぢゃ?」
「特訓といいますか・・・・ただひたすら地方の貴族の元を巡っては、レースをしていただけですよ。圧巻でしたのは、地方貴族ばかり6人集ってのレース。ちょうど2月14日でしたので、『パレンタインカップ』という名前で記念レースを行なってきたのですが、兎に角その時期には圧巻としかいいようのない『完全勝利』でした」
その話を聞いて、さらに特訓に磨きを掛ける真那。
果たしてレースの結果は如何に・・・・。
●レース当日〜エモン・クジョーの『俺に乗れ!!』〜
──スタート地点
レース当日。
今回もあいもかわらず大盛況。
スタート地点には大勢の人が集っていた。
「待たせたな皆の衆!! 今の所一番人気は前予想の通り『風のグルーヴ』だぁ!! 誰もが見たかった『母娘2代の悲願。』親子でのディービーカップ完全勝利をものにする為に。今こそ熱く駆け抜けろ!! 今回はこいつに賭けろ!! そして二番手は覆ったぞ『旋風のクリスエス』。賭けの受付はそちらの帽子の男だぁ。オッズは右の掲示板を見やがれ畜生!! ついでに『静かなるスズカ』の騎手は伴侶募集中!! 受け付けはこの俺のところに来い!!」
予想屋のエモン・クジョー、どさくさに紛れて何を口走っていることやら。
各馬一斉にスタートラインに到着。
そして今回のレースの主催者である6貴族から、レースタイトルである『ノルマン・ディービー』主催のディービー卿が代表として前に出て挨拶。
そしてそれが終ると、各馬一斉にスタートラインにつく。
「それではっ。よーーーい、すたーーーとっ!!」
各馬一斉にスタートしました。
先頭を走るのは『静かなるスズカ』。今までよりもより強い走りでの『逃げの戦法』。
続く二番手は『風のグルーヴ』。その差鼻一つ。
さらに半馬身差で『旋風のクリスエス』、『レディエルシエーロ』が続きます。
遅れて1馬身差で『最強のキングズ』と『怒りのブライアン』。
各馬早めのペースでのレース展開となっています・・・・。
「スーパーダッシュのタイミングを掴むまで・・・・今はついて行くしかないみたい」
ガレットは後半でのスパートの為に、まずは体力を温存という方法に出た。
「失敗したっ!!」
「やばいッ!!」
下馬評では上位であった『最強のキングズ』と『怒りのブライアン』がまさかのスタート失敗。いきなり後続からのスタートとなってしまった。
「今は前に詰めるだけ・・・・行くぞブライアン!!」
ビシィッと鞭を振るうカルナック。
そしてマピロマハもまた、素早く手綱を叩く。
残り2300m
順位に大きな変動あり。
「なんぢゃと? もう後続が?」
先頭を駆け抜けていた『静かなるスズカ』。
その後方ではすでに団子状態の様子が見て取れる。
横に一杯広がった形での攻防。
トップである『静かなるスズカ』とその一団の差は半馬身。
尤も内には割り込んできた『最強のキングズ』が、そして大外では『風のグルーヴ』が静かに走っている。
「縮まらない・・・・この差があの馬の底力なのですか?」
カイは『風のグルーヴ』の容態に注意しつつも、徐々に内側へと回りこもうと試みていた。
残り1600m
順位に変動あり。
いよいよ心臓破りの坂に突入。
コースはここからコーナーに突入する。
「これぐらいの坂、一番恐い下りまでに間合を詰めさせてもらう!!」
『怒りのブライアン』がここで前にでた!!
そしてその後方では、『レディエルシエーロ』も間合を詰めつつある。
「ここから仕掛ければ・・・・」
氷室は前に出たがっている『レディエルシエーロ』の手綱をゆるめ、馬なりに仕掛けた。
そして案の定、『レディエルシエーロ』は『怒りのブライアン』と並びいきなり二番手に追い付く。
残り1200m
順位に大きな変動。
ここからコーナーは下りに入る。
「頼むぞブライアン・・・・」
鞭を打ちこまず、下りは馬なりで越えていく。
カルナックは『怒りのブライアン』の足にかかる負荷を押さえようというのであろう。
同じく氷室も手綱を少しだけ絞る。
勢いを殺すが、馬の足には負担を掛けたくないというところであろう。
自分から勢いを殺しているのは『旋風のクリスエス』。
あくまでも馬の意志を尊重するガレットならではであろう。
そして『最強のキングズ』はいきなり大外に向かって走り出す。
距離を稼いで足にかかる負荷を減らす作戦のようである。
そんな中にも関らず、全開で駆け抜けるのは『静かなるスズカ』。
すでに後方で風に乗ってかけてくる『風のグルーヴ』とも3馬身差である。
「このままいくぞよっ!!」
残り500m
さにらに順位は変動。
トップを走るのは『静かなるスズカ』。
続い2番手には2馬身差で『風のグルーヴ』。
そこからは『最強のキングズ』、『旋風のクリスエス』、『レディエルシエーロ』、『怒りのブライアン』がほぼ横一杯に並ぶ。
「ここで・・・・ここで負ける訳にはいかないのです・・・・いきますよっ!!」
『風のグルーヴ』がいきなり加速!!
さらに『旋風のクリスエス』もスーパーダッシュが炸裂。
鬼脚とも呼べるその加速力で、一気に『静かなるスズカ』に追い付く二頭であった・・・・。
──そして
「ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉるっ」
トップは『風のグルーヴ』。
そして二着はまたしても鼻差で『静かなるスズカ』が勝利をもぎ取った。
1着:『風のグルーヴ』
2着:『静かなるスズカ』
3着:『旋風のクリスエス』
4着:『怒りのブライアン』
5着:『最強のキングズ』
6着:『レディエルシエーロ』
トップと6着との差は半馬身。
どの馬が勝利をもぎ取っていてもおかしくはなかった・・・・。
そしてレースの終幕、ウィニングラン。
だが・・・・『風のグルーヴ』はウィニングランを走ることが出来ない。
其の場で立ち尽くして、動くことはなかった・・・・。
──脚部大腿炎症。
次レースの出走中止がこの時決定した。
そして、このレースの悲劇は、『風のグルーヴ』だけではなかった。
激しいまでの走りを見せる馬達。
その足に掛かる負荷の恐怖を、騎手達はこれから思い知ることになった。
ここで出走中止を決定した『風のグルーヴ』は、むしろ幸せであったのかもしれない・・・・。
〜To be continue