優駿〜・オロッパス記念〜

■シリーズシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:7〜13lv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月09日〜03月16日

リプレイ公開日:2005年03月15日

●オープニング

──冒頭
 先日のレースでの出来事は、6貴族の間でも様々な審議がおこなわれた。
 どのような過酷な状況でも駆け抜けるためのライディングホース。
 それを育成するという意味合いからも、あのレベルの『障害レース』をここから先取りやめることはできない。
 最終的にはその方向で合意に達し、貴族達はまたいつものお茶会を始めていた。

「天空のヴァルク? あの馬を参加させるのですか?」
 そう問い掛けているのはディービー卿。
 静かなお茶会の席は、にわかに活気付いてくる。
「ええ。うちの厩舎で『風のグルーヴ』の次点といえば『天空のヴァルク』だけですから。グレード的には低いですが、如何なものでしょうか?」
 そいいつつ、静かにハーブティーを飲むのはオロッパス卿。
「私共は一行に構いません。ここでオロッパス卿がレースから手を引かれても盛り上りに欠けますから」
 カイゼル卿が他の貴族達の代表としてそう話していた。
「では、その方向で。早速調教師と調教騎手の方に話を付けてきましょう」
 そう告げると、オロッパス卿は早々に席を立っていく。
「オロッパス卿の所の調教騎手というと?」
「ええ・・・・ジャパン出身の『若武者』の異名を持つ、えーーっと・・・・『豊武(とよ・たけし)』とか言う人物ですね。初期訓練をあの男が行うということは、かなり危険ですか・・・・」
 オークサー卿のその言葉で、其の日のその話題は静かに幕を閉じた。

 
──ということで冒険者ギルド
「あ、これはこれは。次のレース、愉しみにしています。『風のグルーヴ』の容態はどうですか?」
 新米受付の兄さんが、心配そうな表情でそう問い掛けた。
「今期G1は絶望的です・・・・まあ、代走として、うちの期待の馬を参加させますので・・・・」
 そう呟くオロッパス卿。
「と、ここからは依頼です。次回レースはオロッパス記念。私、オロッパスが主催者です。コースは『街道に作られたS字型コース』、距離2000m。平坦ですが、今までの草原コースではない、地膚剥き出しのダートです。今回も冒険者の皆さんにお任せしますので、よろしくお願いします」
 そして依頼書を作りあげると、オロッパス卿は静かにギルドを後にした。

●今回の参加者

 ea0144 カルナック・イクス(37歳・♂・ゴーレムニスト・人間・ノルマン王国)
 ea1911 カイ・ミスト(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3266 氷室 明(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5804 ガレット・ヴィルルノワ(28歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 ea5894 マピロマハ・マディロマト(26歳・♀・神聖騎士・シフール・ノルマン王国)
 ea8106 龍宮殿 真那(41歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●はじまりましたよ!!
──ドレスタット郊外
 オロッパス記念。
 今回のレース、コースは街道に作られたS字型コースで、距離2000mのダート。
 三つの直線と二つのコーナーによって構成されている複雑なコースである。
 最初の直線は500m、そこから300mのカーブ、再び400mの直線と、また300mのカーブ。そして最後の直線500mと、実に複雑なコースとなっている。
 今回の依頼に参加した冒険者一行は、コースの下見をおこなったのち、それぞれが自分達の厩舎へと移動、対策を練り始めていた。


──アロマ厩舎
「・・・・疲れていないのか?」
「はい。もう『怒りのブライアン』は回復しています・・・・スタミナだけは化け物というこの子の特徴が、ここにきて発揮されましたね・・・・」
 カルナック・イクス(ea0144)は、厩務員に『怒りのブライアン』の体調や疲労度などを問い掛けてみた。
 と、厩務員も呆れ顔の回復力であることを説明されると、カルナックは素早く『怒りのブライアン』に跨った。
「そうか・・・・ここで、他の馬との差がでたんだろうな・・・・いけるか」
──ブルルルルッ
 『怒りのブライアン』は軽くいななくと、そのままコースの下見に出発した。


──オロッパス厩舎
「風のグルーヴ。・・・・前回、グルーヴを止められなかったのは自分の責任ですね・・・・」
 放牧され、静かに草を食んでいる『風のグルーヴ』を見つめながら、カイ・ミスト(ea1911)はオロッパス卿にそう呟いた。
「『風のグルーヴ』はまだこれからですよ。当分は放牧で体調を整える事にしましょう・・・・過酷なレースを戦いぬいたご褒美ですよ」
 オロッパス卿もそう返事を返すと、そのまま自分の馬に跨った。
「私は執務が残っていますので、こちらはお任せしますね」
「判りました。今は怪我を治すことに専念してください。完治したら、また走りましょう」
 そう『風のグルーヴ』に告げると、カイは『天空のヴァルク』の待つ厩舎へと向かった。
──そして
「逃げの馬ではないのですか?」
「ええ。『天空のヴァルク』はどちらかというと『追込み』なんですよ。ですから、どこで仕掛けるかのタイミングを見切ることが大切ですね・・・・」
 前回のレース結果を教えてもらい、カイは調教騎手である豊武と『天空のヴァルク』についての綿密な打ち合わせを行なっていた。
「初日は馬の歩調を知る程度に慣らし。2日目以降は砂地の体力向上を目的とした走り込み。調整最終日は休養。これが私のやり方ですがよろしいか?」
「私の考えと同じですね。では、引き継ぎは全て完了です。シーズン中は貴方が調教師。またレースが終わったら、『天空のヴァルク』は私が調整しておきます」
 その言葉にカイは満足であった。


──オークサー厩舎
「速さを求めつつも、過酷な状況に耐えきろと。両立させるのは難しいですが・・・・、やれるだけやるしかありませんね」
 氷室明(ea3266)はそう呟きつつ、『レディエルシエーロ』の毛並みを整える。
「問題は、レースまでにこの疲労が取れるかどうかです・・・・」
 疲労が抜けていないという程度ではない。
 回復しきれていないのである。
 食べて回復しようとしていたのであろうが、その結果馬体はやや重くなり、絞るにもスタミナを落としかねない状況となっていた。
「取り敢えず、馬体に無理を掛けない程度に走るしかないですね・・・・」
 調教方針はダートでの『馬なり』。
 それで少しずつ疲労を取り除きつつ、ダートにも慣れさせていく。
「あと一週間あれば、万全の体勢を維持できたのですけれど・・・・」
 それでもレース前日までにはある程度は回復。
 残るスタミナの使い方が、勝負の鍵となっていた。


──ディービー厩舎
「いやいや、疲れが取れている馬なんていないですよ。あのハードレースの直後ですからねぇ・・・・」
 厩務員はガレット・ヴィルルノワ(ea5804)にそう説明する。
 今回も『旋風のクリスエス』の馬体の調子を厩務員に訪ねていたのであるが、厩務員はそう切替えしてきた。
「そんなにひどいのですか?」
「いや、やっぱり脚に掛かった負荷は大きいですよ。まだ熱を持っていますから・・・・」
 その言葉にガレットも『旋風のクリスエス』の足に触れる。
 確かに、まだ熱を持っている。
 疲労により筋肉は固く締まり、動きが鈍っている。
「あわわわわわ、大変だぁ〜」
 慌てて薬草入り特製湿布を作ると、それで『旋風のクリスエス』の脚の熱を取り除く。
「取り敢えず、無茶しない程度には訓練しないと・・・・」
 脚力強化とスピードの保持。
 そして多少きつめのカーブ練習と、やらなければならない事は多い。
 その中で『旋風のクリスエス』の脚に負荷の掛からないようなタイミングを取るのは、正直きつかったらしい。


──マイリー厩舎
「あのーーー。また足、引きずっていますけれどーー」
 前回のレースの時にも懸念していた事。
 あのハードなコースでは、どの馬でも脚に負荷が掛かっているであろうと思い、マピロマハ・マディロマト(ea5894)はそう厩務員に問い掛けた。
「あー、またですかぁ〜。今回もクレリックさんに頼んでリカバー掛けてもらいましょう!!」

 この、ブルジョワ厩舎め!!

 そして翌日。
 マイリー卿に頼み込み、マピロマハは今回のコースと同じ形のダートコースを用意して貰った。 
 そしてそこに泥を捲き、『最強のキングズ』と共に泥の中を駆け巡っていた。
「うっはーい。私も『最強のキングズ』も泥だらけだね〜」
 ダートよりも重い馬場を作り、足腰の強化と慣れを体験させるマピロマハ。
 そして午後からはクレリックにリカバーを唱えてもらい、少しでも疲労が残らないように務めていた。
「キングズ。君と一緒だったからここまでこれたんだ。最後まで頑張ろうね・・・・」
 頬擦りをしながらそう呟くマピロマハ。
 

──カイゼル卿
「・・・・思ったよりも『静かなるスズカ』は丈夫ですねぇ。疲労もなし、筋肉の過剰な張りもなし。蹄鉄具合も問題なし。いい血筋ですよ」
 厩務員が『静かなるスズカ』の背中をトントンと叩きながらそう龍宮殿真那(ea8106)に告げる。
「そうであったか。よかったのう・・・・この前のレースでは、『風のグルーヴ』がシーズン出走停止にまで追込まれておったからのう。体調でも崩されていたら大事だったぞよ」
 にっこりと微笑みながら、真那も『静かなるスズカ』の首を撫でる。
 その行為のさ中、『静かなるスズカ』はじっと真那の瞳を見つめている。
『今度は必ず勝つから・・・・』
 そう伝えようとしていたのかもしれない。

「具体的にはバネかの。強靭な筋力と速い速度両方の反発に見合うだけのクッションがあれば、悪路を走る衝撃も受け止められるであろう」
 兎に角調教のしなおし。
 『静かなるスズカ』もその真那の心に轢かれ、じっと真那の指示に従って走りつづける。
 速度を落とすことなく、とにかく長時間同じペースを走りぬく。
 逃げの戦法で鍛えられた『静かなるスズカ』ならばの訓練方法であろう。
 訓練後のケアもかかすことなく、いよいよ『静かなるスズカ』は本戦に望むこととなった。


●レース当日〜エモン・クジョーの『俺に乗れ!!』〜
──スタート地点
 レース当日。
 今回はあいもかわらず大盛況。
 スタート地点には大勢の人が集っていた。
「お待たせしました。今の所一番人気は前予想を覆して『静かなるスズカ』です。ここ数回のレース、常に2着といういいラインまでコンスタンスな走りを見せていますから当然でしょう。そして二番手は今回初参戦の『天空のヴァルク』です。賭けの受付はそちらの帽子の男性の所へ。オッズは右の掲示板をご覧ください。あと、今回は予想屋のエモンさんは都合によりお休みということで・・・・」
 ちなみに、レース会場のとある片隅で、思いっきりハリセンで殴りつけられた痕の残っている腐乱死体・・・・もとい気絶したエモン・クジョーが発見されたのは、レース終了後の事である。
「ふむ・・・・死因はハリセンだな・・・・」
 チョウさん、死んでませんってば!!

 各馬一斉にスタートラインに到着。
 そして今回のレースの主催者である6貴族から、レースタイトルである『オロッパス記念』主催のオロッパス卿が代表として前に出て挨拶。
 そしてそれが終ると、各馬一斉にスタートラインにつく。
「それではっ。よーーーい、すたーーーとっ!!」

 各馬一斉にスタートしました。
 先頭を走るのは、やはりこの馬、『静かなるスズカ』。緩やかなカーブを華麗に駆け抜けます。続く二番手は『最強のキングズ』。その差1馬身。さらに半馬身差で『旋風のクリスエス』、『天空のヴァルク』『怒りのブライアン』『レディエルシエーロ』と続きます。
 ここまでの後続はほとんど鼻差。
 各馬ゆっくりとしたペースでのレース展開となっています・・・・。

「スーパーダッシュのポイントはあそこ!! そこまでは、このままの位置をキープっ!!」
 既にコースの下見をしたときから、ガレットはスーパーダッシュのポイントを決めていた。
 そこまでは兎に角遅れず急がず、他の馬とのペースを合わせて走りつづけている。
「仕掛ける所が難しい・・・・」
 氷室もまた、『レディエルシエーロ』の勝負所を入念に調べていたらしい。

 残り1500m、ファーストコーナー突入。
 順位に変動なし。

 残り1200m、直線に切替え。
 順位に変動あり。
「まずはここでインを取る・・・・」
 『怒りのブライアン』がいきなりダッシュ。
 ファーストコーナーでは大外であった『怒りのブライアン』だが、次のコーナーには最も内側を走ることになる。
 ここで勝負を仕掛けてきたのは『旋風のクリスエス』だぁ!!
「クリス、スーパーダッシュ!!」
 ビシッと手綱を打つガレット。
 それがスーパーダッシュの合図である。
 次のコーナーまでの直線で、いきなり先頭の『静かなるスズカ』と『最強のキングズ』を抜いて堂々のトップに踊り出た!!
「あの加速は一体・・・・」
「私のキングズが抜かれるなんて・・・・」
 真那とマピロマハは、一体何が起こったか理解していない。
 『旋風のクリスエス』のスーパーダッシュ!!
 その加速度にレース全体がいきなりハイペースに切り替わった!!

 残り800m、最終コーナー突入。
 順位に変動なし。
「ここで差を付けないと、直線では『静かなるスズカ』と『最強のキングズ』に負ける!!」
 そのままさらに差を離そうとするガレット。
「スズカよ、このまま一気に間合を縮めて・・・・」
 真那もさらに鞭をいれる。
「速力でこの『最強のキングズ』に勝てるとでも?」
 ついに『最強のキングズ』の脚が唸り始めた・・・・。
──タッ!!
 と、その瞬間、『静かなるスズカ』と『最強のキングズ』の横を駆け抜ける1頭の馬。
 
 『怒りのブライアン』

「一気にいこうぜ・・・・コーナーをインから入るのはセオリーだよな」
 このタイミングを待っていたらしいカルナック。
 そのまま先頭グループに突入していくが、さらに後方からの追い上げに、真那やマピロマハ、そしてガレットも恐怖を感じ始めた。
 
 ダートの天才児『天空のヴァルク』
 追込みの駿馬『レディエルシエーロ』

 まさかの最終コーナーでの追込みである。
「まだ追込みではありませんよ。これがこの馬の力なのですから・・・・」
 『天空のヴァルク』はまだスタミナを温存している。
 ダートでのパワー配分を十分体で覚えているようである。
 そして『レディエルシエーロ』。
「まさかこんなハイペースになるとは思っていませんでしたね・・・・ですが、もうさせません!!」
 『旋風のクリスエス』のようなスーパーダッシュはない。
 『最強のキングズ』のような化け物じみた脚質も持っていない。
 『怒りのブライアン』のようなスタミナはない。
 けれど、『レディエルシエーロ』には『天性の勝負師』としてのカンが備わっている。
 そして鬼脚ともいえる脅威の追込み。
 それが、一瞬だがコーナーラストではトップに走り出していたのである。


 残り500m、順位に大きな変動あり。
 コーナーを抜けた時点では、トップを走るのは『レディエルシエーロ』。
 続く二番手は『旋風のクリスエス』。
 そしてあとはほぼ同体で『怒りのブライアン』、『天空のヴァルク』、『最強のキングズ』、『静かなるスズカ』と続いている。
「このまま・・・・駄目だっ!!」
 『レディエルシエーロ』はここでパワー切れ。
 徐々に下がりつつある順位をどうにか維持しようと、最後のネパリを見せていたが限界。
 さらに『天空のヴァルク』もここで下がる。
 実戦経験の少なさが、勝負所を見切れなかったのであろう。
「それでも、次こそは・・・・」

 時代は4強へと絞られていく。

 そして最後の追込みを見せる『怒りのブライアン』と、さらにスーパーダッシュを仕掛ける『旋風のクリスエス』、化け物じみた脚の『最強のキングズ』、そして逃げの戦法を使い切り、気合のみで走る『静かなるスズカ』。
 全てが横一線に並んだ・・・・。

──そして
「ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉるっ」
 トップは『静かなるスズカ』念願の初勝利です!!
 そして二着は首一つで『怒りのブライアン』が勝利をもぎ取った。

1着:『静かなるスズカ』
2着:『怒りのブライアン』
3着:『旋風のクリスエス』
4着:『最強のキングズ』
5着:『レディエルシエーロ』
6着:『天空のヴァルク』

 トップと6着との差は1馬身。
 どの馬が勝利をもぎ取っていてもおかしくはなかった・・・・。
 そしてレースの終幕、ウィニングラン。
「? 妾の顔になにかついているのか?」
 トコトコと駆けていく『静かなるスズカ』は、時折『嬉しそうな瞳』で、真那を振り返っていた。
 初めての勝利、そして嬉しそうな表情の真那を見て、『静かなるスズカ』は幸せなのかもしれない。
 もう一度、その顔を見る為に・・・・。
 『静かなるスズカ』は走りつづけた。


●現在までの成績(1着−2着−3着)
『静かなるスズカ』  1−2−1
『風のグルーヴ』   2−0−1(特別ルールにより、『天空のヴァルク』と成績を統一)
『旋風のクリスエス』 1−0−2
『怒りのブライアン』 0−2−1
『最強のキングズ』  1−0−0
『レディエルシエーロ』0−1−0


〜To be continue