●リプレイ本文
●氷の女性〜無慈悲なるはその微笑み〜
──ニライ宅
「ほう。ご無沙汰していますね。本日は一体なんの御用でしょうか?」
眼の前に座っている男性に対して、ニライ・カナイ査察官は静かにそう問い掛けた。
「頼みがある‥‥」
そう口を開いたのは、チーム・ワイルドギースのリーダーであるカーツ・ザドペック(ea2597)。
今回のミハイル・ジョーンズ救出任務の為、地下闘技場などの必要な情報をニライ査察官に頼み込んで教えて貰おうというのであるが。
「どうぞ、続きを‥‥」
「考古学者のミハイル・ジョーンズ教授の事は御存知だな。あれだけ有名な教授だからな」
「ええ、古代魔法王国アトランティス。そこに繋がる遺跡を調べているということですね。彼の研究については王国の方でも興味を持っています。最近は、なにやら不穏な動きに巻き込まれたとかで‥‥」
そう告げると、ニライは窓の外を静かに見る。
「今回、ミハイル教授の救出調査を受けた。そして現在、教授は地下闘技場に囚われている可能性がある。俺は、教授を助ける為に、闘技場へ向かうことにした。だから‥‥」
そう告げたとき、ニライ査察官はテーブルの上に置いてある報告書を静かに眺め、ゆっくりと言葉をつむいだ。
「地下闘技場VIPエリア。サロンとは正反対の場所にある『選ばれし部屋』。そこにミハイル教授らしき『石像』があります。私の元で働いてくれた冒険者達によって確認し、報告は先程受けています‥‥ですが、貴方たちでは、あそこには入ることすら出来ないのでは?」
そう告げるニライ査察官に、カーツはゆっくりと肯きつつ。
「手はある‥‥」
と告げる。
「ふぅ。まあ良いでしょう。チームではなく、貴方が単体で動くというのですね?」
そう告げつつ、ニライはいままでの『地下闘技場潜入部隊(通称チーム・アインツェルカンプ)』のもたらした報告を幾つか説明する。
それを全て頭の中に叩き込むと、カーツはゆっくりとニライに頭を下げる。
「断わられるかと思っていた。助かった‥‥」
「まあ、誰でもない『グレイファントムを殴りつけた男』ですからねぇ‥‥」
そう告げると、ニライはカーツを玄関まで送る。
そして一言
「チーム・ワイルドギース。次の依頼まで、体調を整え万全の準備をしておいてください。いいですか、次が『ラストチャンス』ですから‥‥」
それが、ニライの優しさなのだろうか。
カーツは一通りの情報を纏めると、待っている仲間たちの元へと戻っていった。
●情報戦〜とにかく必要な事〜
──冒険者酒場・マスカレード
「‥‥情報ねぇ‥‥」
静かにそうえ呟いているのは情報屋のミストルディン。
「ええ。もし宜しければ、件の地下闘技場についての情報を教えて頂けないでしょうか?」
そう問い掛けているのはアリアン・アセト(ea4919)。
今回の依頼で、マクシミリアン自治区地下にある闘技場に潜入する為、アリアンは予め予備知識を得る為にここを訪れていたのである。
「残念だけど‥‥あそこについては、データが殆どないのよねぇ‥‥知合いの情報屋もあそこには行きたくないらしいし、それに‥‥ねぇ」
何かを告げたいらしいミストルディン。
静かにテーブルに置かれた羊皮紙の上で、ペンを走らせる。
『マクシミリアン自治区・地下闘技場はシルバーホークの資金源の一つ。私達情報屋に対して、騎士団から手を出すなとお布令が来たのよ』
そう書かれた羊皮紙を静かに眺めるアリアン。
「そうですか‥‥」
『ただ、グレイファントム領の自治区をまかされている貴族は、それなりの情報や見返りを差し出せば、待遇はしてくれるから‥‥』
コクリと肯くアリアン。
そして静かに仲間達の元へと戻っていった‥‥。
──その片隅では
「はい、50cね」
そう告げつつ、オイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)はラシュディア・バルトン(ea4107)に複製したペンダントを手渡す。
「高い‥‥のか?」
「安いわよ。材料費のみ、それでいて前回の奴よりもさらに細かい造りになっているから‥‥」
VIPルームに行く為の鍵となる『紋章付きペンダント』。
それを偽造しているオイフェミア。
やがて作業が終ると、オイフェミアは残った材料に対して『アースダイブ』を施し、それを外に放り投げる。
──カツン‥‥カカンカンカンカ‥‥
コロコロと転がっていく材料。
だが、それが大地に沈んでいく事はなかった。
そもそも、魔法が掛からない。
「理屈では、やっぱり無理なのよねぇ‥‥」
考え方としてはOK。
だが、やはり不可能であった模様。
●という事で〜やってきました危険な自治区〜
──マクシミリアン自治区・とある酒場
「‥‥フリー対戦?」
「ええ。いつでも対戦できるように手を回してはいますわ。貴方が来るのを心よりお待ちしていましたわよ」
窓辺の席で静かに話をしているのは貴族のメルリンスと、『ラブ評論家』のルイス・マリスカル(ea3063)。でも、今は流れの剣士『アルトゥロ』を名乗っている模様。
ここで再会したルイスは、まず自身が流れの剣士ゆえ、礼儀に疎いことなどを先に告げた。
メルリンスもそれを静かに受止めると、窓辺の席で今後についてゆっくりと打ち合わせをしている所であったが‥‥。
──カツカツ
と、一人の貴族の男性が酒場に入って来た。
そして二人の横に立つと、いきなりルイスを睨みつける。
「貴様かっ!! 俺の妻に手を出したリスターという若造はっ!!」
そう叫ぶと同時にいきなり手袋を外すと、ルイスに向かって叩きつける!!
「人の妻に手を出した場合、どうなるか身をもって教えてやるっ!! 決闘だっ!! こちらは代理人を用意する。後日改めて‥‥」
その叫びと同時に、一人、また一人とルイスの前にやってくる。
最終的にルイスの回りに集った貴族は全部で6名。
(あ、あの人はここで何をしていたんで‥‥ああ、そうか‥‥)
そうです。
ナニしてましたが何か?
そして同じくルイスを『リスター』と呼び捨てると、それぞれが決闘を申し込む。
当然、全員が代理人を付けるらしい。
「ちょっとまって頂戴。この人はリスターじゃないわよっ。明日のフリー対戦で私の雇った凄腕剣士なんだからっ」
「またそんな‥‥頼む。もう少しおとなしくしてくれ‥‥俺以外の男にそんな‥‥」
ヘナヘナと其の場にへたりこむと、 必至に哀願する貴族。
「判って居るわよ。でも、地下トーナメントのことは私が任されているんですから、余計な口出しはしないで頂戴。貴方は屋敷に戻っていてね。わたしはもう少し、この剣士さんと打ち合わせだから‥‥」
そう告げられて、スゴスゴと帰っていく貴族。
そして人違いと判ると、他の貴族達もブツブツと文句を言って酒場を後にした。
「ふう‥‥さて、話し合いの続きと行きましょうか?」
──酒場『大ぐらい猪亭』
「あんた、何者だ?」
物怖じせずに目の前に座っている貴族に対してそう問い掛けているのは、御存知『教授付きヘタレンジャー』のロックハート・トキワ(ea2389)。
あ、そろそろヘタレンジャーは卒業なのね、残念。
「私はこのグレイファントム領ヴォルフ自治区をまかされているものです。ここの地下闘技場の出資者の一人であり、戦いの好きな貴族ですよ‥‥」
そう告げつつ、カップに告げられているワインを飲み干すヴォルフ卿。
「何故俺を? 俺があんたなら誘わんが?」
「いい目をしている。胆の座った目。いくつもの死線を掻い潜り、修羅場を越えた男の目だ。それが答えだが不服か?」
「いや。それで十分だ。それで、俺に何をして欲しい?」
「なにが出来る?」
「俺はレンジャーだ。そういう戦いなら得意だが」
「ならそれでいい。あっさりと 決着を付けるわけでもなく、ただダラダラと長く戦うでもなく。観客を湧かせる戦いで十分だ‥‥相手は後日、登録される選手と魔物から選ばれる。ここで待つもよし、先に地下闘技場に行くもよし。いくなら着いてこい」
そう告げて、ヴォルフ卿は静かに立上がる。
それに続くように、ロックハートも地下闘技場へと向かっていった。
──酒場『明日の為に一杯』亭
「いませんねぇ‥‥」
ダージ・フレール(ea4791)はグレイファントム卿の足取りを追跡。
あちこちの酒場で聞き込みを行なったところ、『最近は見掛けていないですねぇ』という答えが帰ってきていた。
ちなみに生死については、どの酒場でも確認されている為、生きているということは判った。
だが、其の日は姿を表わしていないらしい。
「まいりましたねぇ‥‥ここで手詰まりですか」
はい、そうです!!
──その地下闘技場では
「ここが‥‥戦いの舞台か‥‥」
円形闘技場の中央で、フィル・フラット(ea1703)はそう呟いた。
「ええ。明日、貴方はここで戦う事になります。今回はデビュー戦ですので、ファイトマネーはありません。その次の戦い毎に、一定金額をお支払します。兎に角、貴方には負けることなく戦っていって欲しいのです。より強力な力を持つ闘士。それを抱えていることは即ち、私達のステータスでもありますから‥‥」
そう告げると、バルタザール卿は後から姿を現わした少女をフィルに紹介する。
「この娘の名前はペーネローペ。貴公と同じく、明日が初めての戦いとなります‥‥」
「まだ少女じゃないか‥‥本当にそんな子供が‥‥」
そう口では告げるフィル。
だが、その少女が『アサシンガール』であることを、フィルはいち早く感じ取った。
「感じましたか。実力は、今までのシリーズの中でも最高峰。パーフェクトを越えたパーフェクト『タイプ・プロフェート』と呼ばれる娘です。では、明日また‥‥ここに来るときは、先程渡したペンダントをかざしてください。貴族達の為の席まで入ることが許されますので、私はそこに‥‥」
そう告げると、バルタザールとペーネローベはそのまま其の場から立ち去った。
「相手が彼女でなくて良かったぜ‥‥」
そう告げると、フィルは一般参加階層と闘士階層を散歩。
VIP階層まではいけなかったものの、おおよその造りを確認できた模様。
●さて、そろそろ本番だ〜囮の皆さん頑張って〜
──地下闘技場・VIPエリア
「あら‥‥」
VIP席の当たりをうろうろとしているのは、ヘルメスより預かったペンダントを利用して潜入に成功したアリアン。
お供にカーツ、チルニー・テルフェル(ea3448)、フランシア・ド・フルール(ea3047)を連れての堂々とした潜入である。
そして同じく潜入したラシュディアと合流。
ダージはラシュディアと合流してここにはいった模様。
周囲の貴族に怪しまれないよう、堂々と、そして颯爽と歩いている。
「‥‥やは‥‥」
引き攣った笑みを浮かべているオイフェミアが、とある貴族を連れて‥‥逆、とある貴族に連れられて、VIP席に向かっていくのを確認する。
「お知合いかね?」
そうオイフェミアに問い掛けているのは『シルバーホーク卿』本人。
其の日は護衛は二人の少女のみ。
「ええ、昔‥‥。それでは行きましょう」
そそくさと一行の前から姿を消すオイフェミアだが、最後に一行に向けた表情から、彼女自身がシルバーホークの監視に入ったというところであろう。
そしてオイフェミアは、アリアンとすれ違う際に小さなメモをそっと手渡す。
(また無茶しているねぇ‥‥)
やれやれという表情のチルニー。
そして一行は、早速ミハイル探索を開始した。
「場所はオイフェミアさんが教えてくれましたわ‥‥」
先程のメモには、『石化した教授の居場所』が記されていた。
まあ、ちょっと前迄、オイフェミアはそこでシルバーホーク卿本人と酒飲んでいたらしいから。
──闘技場では
「‥‥死ぬ‥‥絶対に死ぬから‥‥」
息を切らせつつ、そう吐き捨てているのはロックハート。
その腕からは、大量の鮮血が吹き出している。
ちなみにロックハートの対戦相手は、何処かの自治区の自警団長。対戦ルールはスプラッシュデスマッチ。
百戦錬磨の手練れファィターと、変幻自在のレンジャーとの白熱の一戦。
目潰し作戦も駄目、投擲目的のダガーも全て遣い切り。
完全なる不意打ち作戦すら、相手に殺気を読まれてしまった為失敗。
正面から突撃してくる相手も、ロックハートがレンジャー特有のトリッキーな戦いを仕掛けてくるのが判った時点で、小細工は全て捨てて基本のみの戦いに切替えてきたから、さらに不利であった。
(‥‥あ、やべ‥‥頭がクラクラしてきた‥‥)
大量の血が流れる。
やがて、ロックハートは目の前の視界が霞み始め、其の場にダウン。
とどめを差すことなく、相手は勝ちどきを揚げてその戦いは終了した。
そして場内の『死体処理係』がロックハートの死体をズルズルと控え室に連れていった。
サイレントキル‥‥まさにサイレントな状態でキルでした。
合掌。
──その頃の探索組
「教授〜、こんな姿にぃ〜」
メソメソと泣きつつ、チルニーが石化したミハイルに抱きつく。
『選ばれし部屋』。
そこはシルバーホーク卿のみに出入りの許された部屋。
幸いなことに鍵は掛かっておらず、見張りも立っていない。
「チルニー、急いで魔法探知を」
ラシュディアはそう叫ぶと同時に、自身も印を組み韻を紡ぐ。
ブレスセンサーで近くを人が通らないか確認する為のものである。
もっとも、密閉された空間では、壁の向うのものまでは確認できない為、少しだけ扉は開けておく。
「メソメソ‥‥室内には魔法の反応はないよ‥‥」
とりあえず周辺の安全を確認した一行。
「それでは参ります‥‥神よ、かの者に施されし魔法を除去し‥‥」
石化したプロスト卿の前で、フランシア・ド・フルール(ea3047)がニュートラルマジックを詠唱。
全身が淡く黒く輝くと、そっと其の手を教授にかざす。
──ボゥッ
やがて石化していた教授が徐々に元の肉体へと戻っていくのを確認。
──ドサッ
そして崩れ落ちる教授を、カーツががっしりと掴む。
「あとは脱出だけだな」
そう呟くカーツ。
そしてフランシアは、宿屋から回収したミハイル教授のバッグパックから、マントと包帯を取り出すと、それをミハイルにぐるぐると巻き付ける。
「そのままではばれてしまいますから」
そしてラシュディアが扉の外を確認。
幸いなことに、現在闘技場はかなり盛り上がっている為、人の通りは全くない。
再びブレスセンサーで周囲を確認。
「今のうちだっ!!」
そのまま急いで部屋から飛び出す一行。
そして一気に階段を駆け昇ると、急いで入り口から外にでていった。
──その頃の闘技場
ガシッ!!
激しく撃ち鳴る拳と拳。
「いい腕をしていますね‥‥」
「そういうアンタもな‥‥」
かたや『アルトゥロ』。
そしてもうかたや、華国の闘士『隆・陸王』。
試合内容はベアナックル・ファイト。ギブアップありの激しい奴。
お互いの意地と意地の見せあい。
上半身ハダカの肉体の彼方此方に痣ができ、それでも痛みを堪えつつ殴りあう二人。
──ぶぅん
素早く右上段ストレートを叩き込む隆。
「甘いですっ!!」
それを難無く躱わすアルトゥロだが。
──右ストレート・キャンセル・右側倒蹴!!
ドゴッ
綺麗に一撃を受けるアルトゥロ。
だが、それで怯むアルトゥロでは無かった。
素早く次の攻撃のタイミングに身体を合わせ、グルッと半回転し敵に向かって背中を見せるアウトゥロ。
「隙だらけだ‥‥がぅ‥‥」
そのまま追撃に出ようとする隆。
だが、そのまま後方の龍に向かってバックナックルを叩き込むアルトゥロ。
──後方視界・右バックナックル
ドゴッ
そのまま体勢を整える隆に、さらに追撃。
隆の首を両手で掴むと、そのまま腹部に膝を叩き込む!!
──ドゴッドゴッ
激しいまでの膝蹴り。だが、力ずくで隆も首から手を外すと、さらに足を止めてナックルファイト!!
この戦い、結果は両者ダブルノックアウトで幕を閉じた。
だが、アルトゥロも隆も、血生臭い戦いではなく『男と男』の拳の戦いで幕を閉じた為、すがすがしい気分だったとか。
●その頃〜待っていたのね迎えの馬車〜
──マクシミリアン自治区
すでにこっそりと待機している馬車。
そこに逃げ込んだアリアンご一行は、意識の戻らないミハイル教授に魔法による手当を施していた。
フランシアが万が一の為、再度『ニュートラルマジック』を施す。
アリアンもリカバーを限界まで高めて使うが、教授の意識は戻らない。
「うう‥‥教授〜。どうして起きないの〜」
チルニーも自分の出来ることを考えてみたが、今は祈ることしか出来なかった。
──そのころの地下闘技場
一人、死に掛かっていますが。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
両手で構えた『エクスキュージョナーズソード』を目の前のオーグラに向かって叩き込むフィル。
フィルの戦い。
対戦相手はオーグラ。
戦い方は『ハードウェポン・デスマッチ』。
闘技場の壁全周に様々な武器が掛けられている。
対戦者は、その武器を自由に使ってよいということとなっている。
よく見ると、壁に掛かっているものはどれも『超重武器』と呼ばれる大型のものばかり。
それでもフィルは必死に武器を変え、オーグラの攻撃に耐えつづけている。
「こ、この武器は?」
壁に掛けられた奇妙な武器。
それを手にすると、内側の握り手を握る。
──ガシャッ
と、先端の刃が三つに分かれた。
それを両手にはめると、フィルは激しくオーグラに向かって戦いを挑む。
「グゥオオオオオオオオオオオッ」
絶叫を上げつつ突進してくるオーグラ相手に、果敢に挑むフィル。
──ヒュンッ
巨大な『金砕棒』を振りかざすオーグラ。
だが、フィルはオフシフトによってそれを躱わすと、がら空きの腹部に向かってカウンターの一撃を叩き込む!!
──ドシュッ
「ウガァァァァァァァァァァ」
「うるせぇーっ。叫びたいのはこっちだぁぁぁぁぁぁぁっ」
叫びつつ、腹部に突き刺さった武器を手放すと、後方の武器ラックに向かって走る。
──ガシャッ
そこに掛かっているトライデントに手を延ばすが、その刹那、後方からオーガが走りこみ、『金砕棒』をフルスイング!!
──ガギガギガギガギッ
一撃でトライデントがグニャリと曲る。
「ならばっ!!」
その横に落ちた『ウィングスピアー』と呼ばれる幅広のスピアを手に取ると、それでオーグラを牽制。
──ガギカギガキッ
長距離で撃ちなる両者の武器。
お互いに一歩も引けない。
だが、武器耐久ではオーグラに利があった。
──バギィッ
ウィングスピアーの柄が折れる。
「なにぃっ!!」
──ドゴォッ
そしてオーグラの綺麗なフルスイング。
『葬むらん!!』
とでもいいたげな表情のオーグラ。
そのまま右に吹き飛ばされたフィル。
慌てて立ち上がり、手近の武器を握り締める。
──ガシッ
それは、巨大な『草刈り鎌』。
戦闘用に改造された『バトルサイズ』。
──ブゥン!!
それを手に、フィルは横に構えて一気に走りこむ。
──ブゥン!!
そこにオーグラがカウンター。
だが、またしてもそれをギリギリのタイミングで躱わすと、フィルはバトルサイズを横一閃!!
──ジャキーーーン
オーグラの腹部を一気に切り裂く!!
──ボタボタボタホダ
大量の血、腹部から臓腑が零れ落ちる。
「ウゴーウガヴゴグヴァァァァァァァァァ」
叫びつつ武器を振回すオーグラ。
だが、この時点でフィルの勝利は決まった。
素早く後方に回りこむと、フィルは一気にバトルサイズをオーグラに叩き込んだ!!
「悪いな‥‥これでお終いだっ!!」
──ドシュッ
偶然の一撃。
オーグラの後部で振回した一撃は、その首を真っ二つに切断した!!
鮮血を吹き出し、胴部が床に落ちる。
勝ちどきを上げるフィル。
そして控え室に向かったとき、異変は起きていた。
既に戦いが終っているアルトゥロ。
その横では、死ぬ直前に回復魔法を施してもらったらしいロックハートがこの場から出る準備をしていた。
(1度も蝶は羽ばたいていませんか‥‥)
指にはめている『石の中の蝶』。
それはルイスがこの地下闘技場に来てから、1度も羽ばたくことは無かった。
そして警備員が3人のところに走ってくる。
「曲者が侵入した模様です‥‥兎に角気を付けてください!!」
貴族達の招待で参加している3人は怪しまれてはいない。
(どうやら、作戦は終ったか‥‥)
ロックハート達は、そのまま貴族達の元に挨拶に向かうと、またここに来ますとだけ告げて闘技場を立ち去る。
貴族達も、それなりに満足であったらしい。
そのままそれぞれが見送られると、一行は急いで馬車に向かい、仲間たちと合流。
そのまま一気に馬車はプロスト領へと走り出した!!
●そしてじじい〜魂のかけら〜
──ノートルダム大聖堂
意識を取り戻せないミハイル。
やむを得ず、一行はシャルトル・ノートルダム大聖堂にミハイルを連れていく。
そして司祭にどんな様子なのか、見てもらうことにしたのだが。
「怪我をしている訳でもありません。ですが生命力がかなり衰えています‥‥」
寿命?
「魔法で回復は?」
そう問い掛けるラシュディア。
「先程から行なっているのですが、全く効果が無いのです‥‥恐らくは‥‥」
その後の言葉が、一行を絶望の淵に追込んだ。
「悪魔に魂の一部を抜き取られたのでは‥‥奪われた魂を取り戻すまでは‥‥おそらく‥‥」
──ムクッ
そう告げた瞬間、ミハイルが静かに瞳を開ける。
ああ、折角の緊張感、ここで台無し。
「教授!! 全く無茶しやがって!!」
皆が思い思いの言葉をぶつける。
心配だった。
その思いをぶつけていく一行。
「うむ‥‥すまない‥‥なーに、体調が戻ったら、また遺跡のちょう‥‥」
そう告げて、二度意識を失うミハイル。
「教授!! 御願いです、教授を‥‥」
ルイスが再び司祭に問い掛ける。
だが、司祭は静かにこう告げるだけであった。
「奪われた魂を取り戻さなくては‥‥安静にしていれば、死ぬことは有りません。ですが、それまでは遺跡調査は多分‥‥」
それでもいい。
教授さえ生きていてくれれば。
「古代魔法語は知識よりも経験と閃き、だったよな教授‥‥なら」
教授が動けないのなら、自分や達が教授の為に遺跡をめぐる。
そう心に誓うラシュディアであった。
〜To be continue