●リプレイ本文
●まだパリ〜貴族の調査〜
──冒険者酒場マスカレード
「何が伺いたくて、ここに来たのかはご存じなのでしょう?」
静かに『宿り木のハーブティー』を静かに飲みつつ、アハメス・パミ(ea3641)はそう目の前の女性に話し掛けた。
「おおよそね‥‥それで、調べて欲しいのはどちらの方かしら?」
そう静かに告げる情報屋のミストルディン。
「ヴォルフ卿についてです。出来れば、ブランシュ騎士団長の最近の動向についても教えて頂けると助かるのですが」
ここに来る前に、ニライ査察官に同様の質問をしてみたのだが、ヴォルフ卿は武芸百般の武闘派貴族であるということ、領地が『魔獣の森』と呼ばれるエリアに隣接している為、自治区には腕自慢の強者が大勢雇われているといううことしか判らなかった。
ブランシュ騎士団長については『任務上秘密です』としか告げてもらえなかったし。
「元々あの地に住み着いていた蛮族の遺跡を使った『自然の要塞』。そこに拠点として自治区を納めている古強者ってところね。とくに腕のいい鍛冶師を集めて様々な武具の作成を行なっている所からも、武闘派貴族の異名を貰っているみたいね。魔獣の森の討伐なんて、ヴォルフ卿自ら出陣するぐらいですし‥‥」
そのままミストルディンはしばし考える。
「うーーーん。騎士団長の動向はいまいち掴みきれていないのよねぇ‥‥っていうか、ブランシュ騎士団には手を出すなが、私達情報屋の暗黙のルールだしねぇ‥‥」
「それってどういう事ですか?」
そう問い掛けるアハメス。
「まあ、色々あるのよ。実際には『真っ当なお金にならない』っていうのと、情報を悪用された場合の責任問題もあるから、他の貴族とかの情報なら、別にたいしたことにはならないけれど、こと、国が関与しているとなると、情報屋としての立場が危うくなるから‥‥」
そう告げると、ミストルディンは静かにハーブティーを飲む。
「色々と助かりました‥‥」
そう告げて、アハメスは静かに外に出る。
「‥‥また情報料とり忘れたわ‥‥」
そう呟くミストルディン。
あんたこれで何度目だよ!!
●と、言うことで〜やってきましたマクシミリアン自治区〜
さて。
今回の依頼も全員が単独行動。
迂闊にも仲間が居ることがばれようものなら、そこから自分達の正体がばれて‥‥まあ、闘技場で公開処刑だよね。
──もっとも公開処刑に近い男・リスター
「どういうことだ?」
そんな独り言を呟きつつ、リスター・ストーム(ea6536)はマクシミリアン自治区に到着。
(さて‥‥。何処かで金持ち貴族の奥方を捕まえて騙し、俺様のベットテクニックであんな事やこんなこと‥‥グフグフグフッ‥‥)
そんな事を考えつつ、リスターは近くの酒場『ワイルドヘブン』に入ると、適当に空いている席を探して静かに座る。
「親父‥‥ちょっと強めの酒を一つ‥‥(くぅ〜。俺って渋いっ。この雰囲気を肌で感じ取ってくれる美人はいないかなー)」
ああ、よこしま100%で静かにエールを煽ると、そのまま店内をゆっくりと見渡す。
「‥‥美人はいないか‥‥」
声に出ているって、おい。
──ギィィィッ
と、店の扉がゆっくりと開く。
そして現われたのは御存知『柄の悪い客3名』。
確か先月、『セクメト達』によって袋叩きにあった筈なのに、懲りない面々は再びやってくる。
(むさい男にゃ興味はねぇな‥‥)
そうはいっても、この手の輩は『自分より弱い奴を苛めるのが趣味』である。
適当にドカッと座り込んでは、そのままゲラゲラ笑いつつ酒を飲み始める。
(‥‥この店は外れか‥‥)
そう思いつつ、リスター・ストーム(ea6536)はそのまま席を立ち、勘定を終えて店の外に出ようとしたのだが。
「おい、こんな所に優男がいるぞ!!」
「はっはーーん。大方ナンパでもして、そのまま相手がいないから‥‥もてない男は哀しいねぇ‥‥」
──ムッ
としたリスター、そのまま店の外に出ることなく、後ろ手でなにやらごそごそしつつ、男達の周囲を歩きだす。
「ふーん。まあ、こんな昼間に男達3人で飲んでいるところを見ると、やることも無くただブラブラしている道楽息子集団か、それとも‥‥ホモ達なんだねぇ‥‥」
ニィッと笑いつつ、入り口に向かって歩いていくリスター。
「なんだとっ!!」
「ふざけるなよこの野郎っ!!」
「やっちまえっ!!」
ガタガタと騒ぎ出しリスターに向かって歩きだそうとした瞬間!!
──グイッ
後ろ手のリスターが突然手を前に出す。
其の手には、ロープの端が握られていた。
それを勢いよく引っ張ると、そのままロープは店内のあちこちを走りまわってピーーンと張り詰める。
──ギシッ‥‥ミシミシミシッ
それは男達の足を引き、縛り上げ、さらに倒れかかったところで首に捲きつき、3人が一つに纏め上げられる。
「桃色体術・捕縛法の2‥‥亀甲ジャパーーン。そのままホモホモしていろって‥‥」
フッと笑みを零しつつ、リスターはそのまま退場。
ああ、なんか良い感じだねぇ、本気のリスターも。
●結婚〜嫌です〜
──宿屋の酒場にて
「その依頼でさー白とか赤マントとか子供も3人あってさ。10対7+足手纏いで取り逃がすってへぼ過ぎと思わん?」
ブランシュとの楽しいランチタイム。
無天焔威(ea0073)はアサシンガールのブランシュとここで待ち合わせをし、楽しいランチタイムを決めていた。
「えーっと、確か‥‥ワルプルギスの剣士の話かな?」
「そうそう。俺もその依頼を受ける事になっちゃってねー」
そう呟くほーちゃん。
「そうなんだぁ。じゃあ、次に会うときは敵同士だねっ」
にっこりとそう告げるブランシュ。
「ん? どういう事?」
「あの時のアサシンガールは再調整だってさ。その代わり、私達『実戦部隊』が投入される事になったの‥‥」
そうあっさりと告げるブランシュ。
「そんな大事なこと、バラしていいの?」
「貴方がここに居る時点で、もうばれてもおかしくないでしょ? それよりも‥‥」
素早くほーちゃんの耳元に口を寄せると、ボソッと呟くブランシュ。
(ここに貴方『達』冒険者が居る理由‥‥大方あいつに依頼されて調査にでも来たんでしょ?)
おっとぉ。
「んーーー。どうかねぇ‥‥」
そう告げつつ食事を続けるほーちゃん。
「まあ、所詮あいつはそれだけの存在なのよ。シルバーホーク様の援助を切られ、さらに領主としての地位すら危うくなってきたんだからねぇ‥‥名前からして『グレイでファントム』でしょ?」
あら? ほーちゃんの予測と違うぞ?
そんなこんなで、楽しい一時を過ごしていましたとさ。
なお、ほーちゃんのプロポーズはあっさり淡白にやんわりと断わられたそうで。
久しぶりに‥‥合掌。
●日常という名の非日常〜やっぱり日常〜
──酒場『大ぐらい猪亭』
「私ね、ジャパンに行ってたんですよ。京都って町でアンデットが大量発生して大騒ぎになりましてね。緊急召集されまして〜。あ、これお土産です♪」
いつもやってきては、一般客として地下闘技場に連れていってくれる酒場のマスターに『どぶろく』と『般若の面』をお土産としてプレゼントしているのはレイ・コルレオーネ(ea4442)。
「これはウエイトレスさんに。ジャパンの女性は必須の『かんざし』です♪」
そういってにっこりと微笑みつつお土産を手渡すレイ。
「ああ、すまないねぇ‥‥」
「わぁ。ありがとうございますっ!!」
そう告げつつ、喜びのあまりレイに抱きつくウェイトレス。
そしてカウンターに席を陣取ると、レイはマスターの奢りでまずは一杯。
──グビグビッ
ぷはーーっ。
「ねえ、マスター。フリー対戦でもいいから闘技場に参加したいんですけど‥‥何か心当たりありません?」
そう本題を切り出すレイ。
「貴族のパトロンねぇ‥‥どこかにいいパトロンでも入ればいいんだけれどねぇ‥‥」
そうマスターが告げた時、窓辺の席に座っていた一人の人物が静かに話しに割って入ってきた。
「地下闘技場トーナメントですか。では、私が貴方のパトロンになりましょう‥‥初めまして、グレイファントムと申します」
大御所キターーーーー。
流石にパリ冒険者ギルド所属のレイは、幾つかの依頼報告書からその名前(悪評)は聞き及んでいる。
だが、今は危険であろうとなかに入ることが大切。
「では、宜しくお願いします」
そう告げて握手を交わすレイ。
「フリーではなく、貴方もトーナメントに入れるように取り計らってあげましょう‥‥。後日、ここに迎えを寄越させますので。連絡は随時この酒場で宜しいですね?」
そう告げると、グレイファントムは静かに其の場を後にした。
(やばいよねぇ‥‥これって‥‥)
●ということで地下競技場へズームイン〜シュパパパパパッ〜
──地下競技場VIP席・サロン
VIP席の中でも、とくに選ばれたものしか入ることの許されていない場所・サロン。
その一角で、ファットマン・グレート(ea3587)は、パトロンであるカミュオン卿と静かにティータイムと洒落込んでいた。
「まあ、フリー対戦はいつでも参加できますから、そんなに落ち込まないでくださいね‥‥」
そうファットマンに話し掛けるカミュオン卿。
ファットマンはそれに静かに相づちを打ちつつも、周囲の話し声に耳を傾けている。
『‥‥とうとう、あの方も終りですか‥‥』
『ええ。卿から正式に通達されたらしいですからねぇ‥‥すでに、領地を離れる算段でもしているのではないですか‥‥と、噂をすれぱ』
そんな話し声の中、サロンに一人の貴族がやってくる。
「これはこれはグレイファントム卿。随分とご無沙汰していますね‥‥」
そう挨拶を交わす貴族達。
当然ながらカミュオン卿もファットマンに静かに会釈をすると、そのままグレイファントムと呼ばれた男の元へと歩いていく。
「このような場所で、またお会いできるとは思っていませんでしたよ。『あの方』から正式に通達が届いたそうですね。抜け駆けは一切禁止、それが私達のルールだったのでは?」
そんな話を持ち掛けるカミュオン卿。
「シルバーホークは何処に居る?」
──ドガッ
そう呟いたグレイファントムに、一人の貴族が手にしていたカップを投げ付ける。
「呼び捨てとはいい身分だな、グレイ」
そうあざけ笑うかのような言葉に、グレイファントムは肩を振るわせつつ、静かに言葉を紡いだ。
「クッ‥‥シルバーホーク様は、どちらにいらっしゃるのですか‥‥」
そう告げたとき、一人の貴族がグレイファントムの近くに歩いていく。
「あの方は、旧友との久しぶりの再会だそうだ。邪魔はしないようにとの通達があったが、今日にはこちらに戻ってくる筈だ。今更命乞いか?」
その途端、あちこちからクスクスッと笑う声が聞こえてくる。
そして静かに外に出て行くグレイファントムを見て、一行はどっと笑った。
(‥‥いやな空気だ‥‥)
そう思いつつも、ファットマンは戻ってきたカミュオン卿が、『大変お見苦しいところを見せて申し訳有りません』と頭を下げたので取り敢えずはよしというところであろう。
「今の方は‥‥」
そう問い掛けるファットマン。
「この領地の元領主・グレイファントムですよ。あ、まだ領主ですけれど、もうすぐいなくなるでしょうから‥‥」
意味深にそう告げるカミュオン。
「シルバーホークというのは?」
生命線ギリギリの質問。
「ああ、貴方は関与しないほうが賢明ですよ。そういう御方だということだけ覚えていてくだされば‥‥まあ、そのうち気が向いたら、謁見を申し込んでおきましょうね」
──そして
「ふぅん。そんなことがあったんだぁ‥‥」
貴族の未亡人を垂らしこんで、まんまとVIP席に座って酒を飲んでいたリスター。
一連の騒動もじっと観戦し、それでいてどっかりと座っている所はあんた大物だよ!!
「リスター様、そろそろ別室で‥‥ね‥‥」
そうしなをつくって見せる未亡人の腰をそっと抱きしめると、リスターは静かに立ち上がる。
「それでは、俺様達もそろそろ第三回戦といきますか‥‥」
もう手を出していたのかよっ!!
●ということで本戦〜今回も色々とありまして〜
──VIP席
「‥‥まあ、ここにいると退屈しないですみそうだよなぁ‥‥」
シン・ウィンドフェザー(ea1819)は静かにそう呟きつつ、闘技場で行われている戦いをじっと眺めていた。
──コツコツ
と、シンの横に一人の男性が腰掛ける。
「貴方は選手では? ここはVIP専用の席ですよ‥‥」
ニコリと微笑みつつそう告げるのは、ローブを着込んだ一人の青年。
「生憎、俺はコレがあるのでね‥‥それより貴方は?」
先月入手した紹介状をチラッと見せるシン。
「あ、これは失礼しました。私はジェラールと申します。とある貴族の護衛でここにやってまいりました」
そう告げたとき、後ろから二人の人物が近づいてくる。
「ジェラール。卿がお探しでしたよ」
静かな女性の声。
そしてそちらを振りむくと、シンは一瞬心臓が止まりそうになる。
妖艶な美女と、その横の異形の騎士。
「おや、ヘルメスさん、それにダース卿も。卿は到着したのですか?」
静かに立ち上がると、ジェラールはそう話し掛けていた。
「ええ。真に申し訳有りません。私達はこれから仕事ですので、ジェラールをお借りしますね」
そうシンに話し掛けるヘルメス。
「仕事でしたら。それでは‥‥」
そう挨拶をすると、シンは再び前を向いて観戦を楽しむことにしたが。
(‥‥何で拳を握っているんだ? それに)
いつのまにか拳を握っているシン。
其の手には、じっとりと嫌な汗が流れている。
そしてさっきの二人を思い出すと、シンはぞっとした。
特にあの異形の騎士。
いつかは戦うことになるかも知れないと、シンはこの時覚悟した。
──別の場所
「‥‥たいしたものですね」
セクメトは仲間である『フリーデル』『ギルベルト』、そして先月から加わった響清十郎(ea4169)の4名と共に、地下闘技場内部にある貴族用控え室で団欒していた。
ちなみにヴォルフ卿、試合当日になってようやくマクシミリアン自治区にやってきたほど、最近は執務多忙のようである。
「そういえばヴォルフ卿。つかぬ事をお聞きしますが。卿の以前の出場履歴やパトロンはどのような方なのですか?」
そう問い掛けるセクメトに、ヴォルフ卿は静かにエール片手に話を始める。
「私はトーナメントには参加していませんね。フリー対戦で何度か、負けたことはありませんよ。あと、私がパトロンとなった者も、ある程度実戦経験を積ませるに留めて、そのまま自治区の騎士団に所属して貰いました。みな強者ですよ‥‥」
そう告げるヴォルフ卿。
「‥‥過去のトーナメントはどうだったのですか? 優勝者と彼らの現状についてもお聞かせ頂きたいのですが」
「ええ。構いませんよ。今回もシード選手で登録はされています。もっとも、このトーナメント自体、始められてからは日が浅いのですよ」
そう告げると、ヴォルフ卿は静かに天井を見上げる。
「第一回大会、私は決勝で破れまして‥‥その時のチャンピオンは、今のシルバーホーク卿の側近である『ジェラール』というウィザードが攫っていきました‥‥もっとも、当時はフリーの傭兵だったそうで。優勝してから、シルバーホーク卿に召し上げられたそうです」
そう告げたとき、セクメト達は一瞬だけ耳を疑った。
まさかウィザードが勝てるとは思っていなかったのである。
「それ以後は、ずっと優勝者はシルバーホーク卿の側近として雇用されました‥‥今回もジェラールとダース卿はシードではなく一回戦から参加しているようです。もっとも、対戦相手があの二人である事を告げられたら、皆さん辞退してしまっているようですけれどね‥‥」
それでヴォルフ卿の話は終った。
優勝者達は全てシルバーホーク卿の側近として迎えられていく。
ここは、力のあるものを『篩(ふるい)』に掛ける為の場所であるのか。
「それにしてもすごい施設ですねぇ。一体ドレぐらいの人が、この地下闘技場に関わっているのですかぁ?」
そう問い掛ける清十郎。
「さて、どれぐらいなのでしょうかねぇ。100人以上は居ると思いますけれど‥‥」
ヴォルフ卿はあくまでも出資者の一人でしかないという感じでそう告げている。
「まあ、フリー対戦の相手もそろそろ決まる頃でしょうから、愉しみに待っていてくださいね」
そして清十郎の相手はと‥‥。
●それでは〜前座試合〜
──地下闘技場
今回は第一回戦の残りと第二回戦の半分が行われる。
その前に、まずは恒例の前座試合。
今回の前座を仕切るのは‥‥。
──ワーーーーッ
「それではっ。メインイベント前の軽い余興試合をっ。対戦者はこの二人ですっ!!」
深紅に塗られたコーナーからは響清十郎の姿が。
そして青く塗られたコーナーからは、レイ・コルレオーネの姿が現われた。
(‥‥登録してすぐに前座に使ってもらえると喜んだのですけれど‥‥)
そう心の中で呟く清十郎と、静かに正面を見つめているレイ。
(相手が響さんとは‥‥ちょっと厄介ですねぇ‥‥)
そのまま二人は、正面に置かれている巨大な的をじっと見る。
そこに、二人の運命が色々と記されているのである。
──カツーーーン
と、固定してある台から、回転している的に向かってクロスボウが打ち込まれる。
『対戦方法:ベアナックルファイト』
『決着方法:ギブアップありノックアウト』
『捕捉 :魔法あり』
──オーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
喝采が響く闘技場。
そのまま両者はゆっくりと準備すると、審判の合図で試合開始となった!!
「悪いね‥‥」
静かにそう呟くと、レイはいきなり高速詠唱。
そのまま自身にフレイムエリベイションを発動させると、そのまま相手の出方を待つ。
「‥‥魔法使いですかぁ。ちょっと難しいですけれど、ギブアップありという事だったらねぇ」
そのまま清十郎は距離を取ったまま、レイに向かって回し蹴り!!
「そんな距離で‥‥」
──ビシィィィッ
いきなり顔面になにかを強打されるレイ。
「??????」
フラフラとしつつも、そのまま体勢を整えると、ゆっくりと清十郎の間合を調べる。
「魔法でない‥‥清十郎の攻撃パターンが読めない‥‥」
──ビシッ
また一撃。
まるで、清十郎の蹴りの威力が飛んでくるかのような攻撃である。
「近づいたらぶん殴るし。離れたまんまならこうしてちまちまと攻撃を続けられる‥‥ギブアップするのなら今しかないよっ」
そう告げる清十郎だが。
──ダッ!!
顔面を護るように両手をクロスさせ、レイはいきなり間合を詰めていく。
「そんな無茶な戦法が通じるとでも?」
そのまま間合を取りつつ後方へと下がる清十郎だが。
──ドン!!
闘技場の壁際にまで追込まれてしまった。
「この一撃に賭けます!!」
素早く拳を叩き込む。
その瞬間、拳が瞬時に燃え上がった!!
「バーニングソードですか!! でもっ!!」
──ジュュュュッッッッッ
その拳を素手で受止める清十郎。
皮膚が焼け付き、肉の焦げる匂いがする。
「諦めてくださいよ。ウィザードであり魔法を高速で使える貴方が、おいらに素手で勝てる筈はないんだからね‥‥」
その一言で、レイは断念。
「勝負ありっ!!」
歓声の中、清十郎はゆっくりと控え室へと戻って行った。
●一回戦Cブロック第二試合〜でたなヨン様〜
──『赤い亜麻色の女主人』vs『破壊王ヨシュアス』
ルールはパンクラチオンルール
闘技場では、上半身裸の二人がゆっくりとお互いの間合を取っている。
ちなみに両者共に仮面つき、セクメトは女性ということもあり、胸の回りを布で覆う事を許可された。
──ガシッ
いきなり間合を詰めると、両手で相手の手を掴む二人。
まずは力で相手をねじ伏せる算段なのであろう。
「‥‥この戦い、負けて欲しいのです‥‥」
そう告げるヨシュアス。
「どういう事ですか?」
そう聞き返すセクメトに対し、ヨシュアスは静かに告げる。
「シルバーホークに近付くことができるのは、優勝者に対してベルトを巻く瞬間だけ。そのチャンスに、私は彼を捕まえ、白日の元にその正体を晒さなくてはならないのです‥‥」
真剣な口調のヨシュアス。
一瞬だけ。セクメトの力が弱まった。
「‥‥判ってください‥‥」
さらにヨシュアスに力が入る。
「‥‥それは、誰でも出来るのではないか!!」
すかさず仮面に向かって拳をいれるセクメト。
その一撃で仮面が剥がれ、ヨシュアスの素顔が見える。
セクメトの考えでは、このヨシュアスは偽者。
仮面を剥いでしまえばと思ったのであるが。
──キャアアアアアアアアアアアッ
素顔が晒された瞬間、観客席からは黄色い声援と突如『ヨン様コール』が沸き上がった。
その素顔、まさしくヨシュアス。
「どうしても‥‥駄目ですか‥‥」
ふわっと髪を掻きあげる仕種をするヨシュアス。
と、いきなりセクメトはそのままタックル、ヨシュアスを大地にねじ伏せると、そのまま乱撃を叩き込む。
──ゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズッ
「貴様がヨシュアスを語るのは100年早いわよっ。偽ヨシュアスさん!!」
そのまま抵抗出来ずにヨシュアスはギブアップ。
勝ちどきを上げるセクメトに対して、顔面凹凹のヨシュアスが静かに呟く。
「ど、どうひてわはひがにせほほはと(どうして私が偽者だと)?」
その言葉に、セクメトは自分の耳を指差してこう告げる。
「ヨシュアス様はエルフ。貴方はハーフエルフ。遠目には判らないし、髪で隠していたら判らなかったでしょうけれどね‥‥」
──ガクッ
●一回戦Dブロック第一試合〜それでも神聖騎士ですから〜
──『疾風のレイル・ステディア』vs『ローマの赤い風・アザートゥス』
吹き出す血飛沫。
手首を切り裂いた二人は、お互いに早期決着を付ける為に次々と攻撃を仕掛けていく。
──ガキィィィィン
激しい剣戟、そして鍔迫り合い。
「聞いたことのある名前だとおもったら‥‥あのときの噂の外道か‥‥」
沈着冷静にそう告げるレイル・ステディア(ea4757)に、アートゥスは激しく怒りを覚える。
「外道だと? 畜生であるオーガを助けた貴様達こそ外道ではないのかっ!! 魔物に手を貸す冒険者風情がっ!!」
今だに根に待っているらしいアザートゥス。
(蛇のようにしつこいか‥‥しかし、これは不味いな‥‥)
知られてはいないが、二人とも神聖騎士。
剣術+魔法を戦闘パターンとしている為、お互いの力は均衡している。
──ギリギリッ
再び内なる剣戟。
そして二人同時に、魔法詠唱が開始される。
『我が神タロンよ、かの者に聖なる鉄槌をっ!!』
全く同時の二人。
そして先に発動したのは、僅差でレイル!!
──ブゥゥゥン
左手に生み出された漆黒の球体。
それがアザートゥスに向かって叩き込まれた。
──バシュッ
そのまま後方に下がるアザートゥス。
「まだまだっ!!」
再び間合を詰めると、アザートゥスは渾身の一撃を叩き込んでいく。
──ギィィィィン
スマッシュ。
だが、それはレイルの手にしているレイピアで受け流されてしまった。
「激しいが‥‥そんなに興奮すると、出血がひどくなるぞ‥‥」
実力は互角。
魔法においても然り。
ならば、この勝負を決定するものはただ一つ。
──フラッ
いきなりアザートゥスが目眩を覚える。
「なんだ‥‥まだ戦え‥‥る‥‥」
血が足りない。
スマッシュなどの大技を次々と駆使していったアザートゥス。
その末路は、自滅。
──ドサッ
そしてアザートゥスは動かなくなった。
「勝者、レイル・ステディアっ!!」
審判の言葉と同時に、白クレリック達がレイルの元に駆けつける。
そして敗者は、そのまま癒されることなく、控え室へと連れられていった。
運が良ければ、酔狂な参加者から施しを受けられるであろう。
だが、大抵は、そのまま放置され、静かに床に横たわって死んでいく‥‥。
「神に祈るんだな‥‥」
そう告げると、レイルは右腕を高々と掲げて退場。
●二回戦Aブロック第ニ試合〜見たか、伝説の秘儀〜
──『冒険者代表・無天』vs『トリック三男』
二刀流。
クウェークは両手にナイフを構え、離れた距離からソニックブームを飛ばしてくる。
試合開始早々から、クウェークは間合を取り、遠距離攻撃に絞っている。
「‥‥避けれるんだよなぁ、これが‥‥」
太刀筋さえ見切れば、飛んでくる衝撃波の軌跡も見切る。
実力のある冒険者なら、それは当たり前なのかもしれない。
そのまま一気に間合を詰めると、ほーちゃんは素早くフェイントアタックで攻撃を叩き込むが。
──スカッ
その一撃を瞬時に交わすと、クウェークは両手のダガーを投げ棄て、一気にほーちゃんの懐に飛込んだ!!
スタッキングと呼ばれる長接近戦闘。
その間合から必死に逃れようと動くほーちゃんだが、間合は離れられない!!
「その瞳をいただくっ!!」
──バシィィィィッ
クウェークの右ストレートが炸裂。
そのままほーちゃんの瞳をえぐるような殴りつける。
左目は眼帯が付いている為、ほーちゃんはこれで両目が失われた‥‥とクウェークは思ったが。
後方に崩れていくほーちゃんだが、そのまま眼帯を外すと、しっかりと瞳を開く!!
「惜しいー左目は別に見えてないわけじゃないからっ」
そのまま一気に間合を詰め、フェイントアタックを叩き込むほーちゃん。
あとは完全にこちらのペース。
死なない程度に攻撃を続け、崩れ落ちて身動きも出来ずに動けなくなったクウェークの喉元に向かって蹴りを叩き込む。
──ドゴッ
「世の中、家督相続とか肉親での死合いはザラだろ‥‥肉親にすら使えない? 笑わせんなよ」
それで勝利は確定。
●二回戦Bブロック第一試合〜セコンドあり〜
──『ドラゴンキラー・シン』vs『不死王(ノーライフキング)・アッチモ』
バキバキバキバキッ!!
灼熱に燃え盛るシン・ウィンドフェザー(ea1819)の腕。
セコンドの存在が認められた為、急遽レイがシンのセコンドとして着任。
試合開始早々にシンの両手にバーニングソードを発動させた。
その直後、アッチモと名乗る少年の表情がサーーーッと青くなった。
「ち、ちょっとまって、審判。セコンドは有効なのか?」
「ええ。貴方も申請していればよかったのでしょうけれどね‥‥」
にぃっと笑う審判。
「という事だ。それでは楽しいパーティーをしようじゃないが」
──ゴゥゥゥッ
あとはただ殴るだけ。
「何故ノーライフキングと名乗っているのか説明してほしいか?」
そう告げつつとにかく殴るシン。
「し、知っているのですか!!」
かわすことも出来ずに殴られるアッチモ。
「ああ、冒険者ギルドの報告書に、お前の眷族が乗っていた。ドジな悪魔だったな‥‥」
「ニッチモの事か!! あいつはたしかに俺様達のリーダーだったが‥‥」
そう告げてハッとするアッチモ。
そう。
その言葉の瞬間、シンがにぃっと笑ったのである。
「やっぱりなぁ‥‥ならば、叩き殺すしかないな。悪魔だし‥‥」
さらに拳を振り上げて顔面に向かって振りおろすシン。
「降参だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
アッチモの絶叫。
そして拳は顔面すれすれで止まった。
「ゲームオーバーだな」
無事に二回戦も順調に進んでいく。
出番のない冒険者たちは、それぞれが得た情報を手に、パリへと帰還した。
●そして報告〜そろそろ潮時ですかねぇ〜
──ニライ宅
いつものように一通りの報告をする一行。
「これで、過去のアサシンガール達の売買リスト。買い取り先についてはちっょと癖のある貴族達ばかり。売り主はすべてシルバーホーク卿本人で、こっちが使われていた販路と商人のリストだな‥‥」
バサッと一連のリストを提示するリスター。
あんた、仕事していたのかよッ!!
「随分と手際の良いことで。いったいどうやって‥‥」
そう問い掛けるニライに、リスターは一言。
「まあ、俺は決勝まで勝ち抜いた男だぜ。最後はバトルロイヤルだったけれどなぁ‥‥グフクブッ」
ああ、なんとなく判ったよ。
あんた、あちこちの貴族夫人とねんごろになったな。
「グレイファントムもそろそろ終りですねぇ‥‥とりあえずは報告の件、ご苦労様です。こちらもそろそろ体勢を整えていますので、次の依頼もよろしくお願いしますね‥‥」
そう告げると、ニライは偽の報告書を手に、冒険者ギルドへと向かっていった。
〜To be continue