●リプレイ本文
●という事で〜ラストゲーム・スタートしますっ〜
──ニライ宅
「ニライ査察官殿。今回の一連の依頼、シルバーホークの人脈調査だけなのか、地下武闘会中止にあるのか、地下武闘会から繋がる悪事の存在を調べることなのか‥‥どこにつながるのか教えてほしい」
そう問い掛けているのはファットマン・グレート(ea3587)。
確かに、ファットマンにとってはそこの所をしっかりと把握しておかないと、今回の依頼における意気込みが違ってくるのであろう。
「すべてです。現在、私の調査した限りでは、シルバーホークの存在はこのノルマンにとって『悪』であり、国の『利』『益』には繋がりません。ですが、地下闘技場はある意味『必要悪』。そこから繋がる悪魔の存在などは、『絶対悪』以上のなにものでもありません。可能ならば、地下闘技場をシルバーホークから切り離したいと思っています。目を瞑れるところは瞑りましょう。ですが、このジーザス圏においての悪魔の存在など、絶対に許してはなりませんから‥‥。まして、『どこぞの変態貴族のように』悪魔に魂を売るようなものがいたとしたら、全力を持って叩き潰します。これで良いですか?」
丁寧な口調でそう告げるニライ。
「うむ、済まなかった。これで安心して働ける」
ニィッと笑うファットマンを見て、ニライはハァ‥‥と溜め息。
「何かあったのか?」
そうニライに問い掛けるのは無天焔威(ea0073)。
「いえ、冒険者というのが、貴方たちのようなはっきりと判りやすい方たちなら、こんなに苦労はしませんよということです‥‥イタタタ‥‥」
胃の当たりを押さえつつ、ニライは薬の入った小瓶を一気に飲み干した。
「悩み事なら相談にのるよ‥‥」
そう話し掛ける焔威。
だが、ニライもニィッといつもの微笑を見せると、焔威に話し掛けた。
「それは私のセリフですよ。、何かありましたか、無天焔威。いつもの貴方とはまったく雰囲気が違う。まさか、『あの女』のように、貴方まで自分の利を求めて依頼を断わるとでも?」
そう告げるニライ査察官。
だが、焔威は臆すことなく、話を続けた。
「受けた依頼は遂行するよ。それが冒険者だから。今回の依頼で、頼み事が二つあるだけだよ。一つは今回の依頼の直後、ニライ査察官には身を隠してもらいたい。どうかんがえても、貴方は奴等にとっての『絶対悪』だからね‥‥何時襲われてもおかしくないし」
その忠告には、ニライも予想外。
「ありがとう。その忠告は素直に受ける事にしましょう。私に何か用事があったら、そうですね‥‥まあ、ギルドにでも次の依頼のときには貼り紙をしておきますので、それを手掛りに訪れてください。もっとも、王宮入り口で『貴方や今回の依頼を受けて頂いたメンバーが』私を呼ぶように御衛士に告げてくれれば、時間が空いていたら面会しましょう」
少し機嫌を良くしたらしいニライ。
「そしてもう一つ‥‥今回の依頼、敵員と協力を引き換えに減・無罪は可か?」
その言葉の真意は、ニライも今ひとつ掴めていない。
「具体的にお願いします」
「敵アサシンガール‥‥ブランシュを助けたい。そのために、今回の依頼で一か八か、別のアサシンガールを捕まえてくる。そいつを以後の調査などで協力させるから、ブランシュの罪を軽減して欲しいんだ‥‥」
真剣な表情でそう告げる焔威。
「うーん。まず一つ目。敵を捕獲してくれる。これは歓迎します。本当に相手がこっちに寝返って、協力してくれるというのならね」
コクリと肯く焔威。
「二つめ。罪を軽減といいますが、そのブランシュというアサシンガール、どのような罪を犯したのですか?」
そのニライの言葉には、焔威も驚く。
「アサシンガール。暗殺の為に育てられたプロフェッショナルだから‥‥」
「ですが、彼女がどのような罪を犯しているのか、その報告はなされていません。地下闘技場においては、今まで私の調べた限りでは全て『犯罪者やモンスター相手』の戦いのみ。その程度で罪というのでしたら、過去に『サン・ドニ修道院』にて保護されていたアンリエットやフロレンス、そして山賊・海賊・暴漢を切り伏せている多くの冒険者の方が、罪は相当重いでしょう。まあ、エムロードという前例もありますから、いちがいにそうとは言い切れないでしょうが‥‥」
その言葉に、焔威はホッとする。
「そして三つめ。何故貴方がそこまでするのですか? 助けるならば全てのアサシンガールを。なのに、どうして一人の少女を‥‥」
おっと。
「‥‥もう、あいつの哀しそうな顔は見たくないんだ‥‥」
その呟きに、ニライは静かに呟く。
「惚れた弱みですか‥‥はぁ。いいでしょう。ですが一つ忠告しておきます。その感情に振回されて、冷静な判断が出来なくなるようなことはないように」
それで話はついた。
──ガチャッ
「失礼する。査察官殿、例のアサシンガールについての追加報告書が‥‥」
そう告げて室内に入ってくる金髪の騎士。
「レビンですか。報告書でしたらそこに置いておいてください」
そのままレビンと呼ばれた騎士は、報告書を机の上に置くと、静かに部屋から出ていった。
「一つ訪ねたいことがある」
そう話を切り出したのはレイ・コルレオーネ(ea4442)。
「答えられる範囲で良ければ」
「なら。これまでに判明した、グレイファントム領地内での行い。それらと合わせ、奴が悪魔召還に関わったという確たる証拠が出たら、国は奴を捕まえられるか?」
かなりきわどい質問をするレイ。
「愚問ですね。何時でもその身を捉える準備は出来ています。ですがせめて、彼等の意志は尊重したいところですので‥‥関ったものとしても、ここで私達や騎士団が全て解決してしまったら口惜しいでしょう。まあ、彼等が今後、どのように行動するかによって‥‥ねぇ」
その言葉が『チーム・ワイルドギース』をさしているのは、レイには瞬時に理解できた。
●魔剣〜哀しい過去〜
──冒険者酒場・マスカレード
「そんなことがありましたか‥‥」
カウンターの中でそう話しているのはここのマスターである『マスカレード』。
しかし、あんた随分変わったよ。
昔の『あーーっはっはっはっ』というバカ貴族だった時代がなつかしいよ。
そんな事はおいといてと。
「ええ、ディンセルフの剣・アイテムスレイヤー。そんな物語と流れがありまして‥‥」
そう話しているのはアハメス・パミ(ea3641)。
マスカレードのマスターに、魔剣アイテムスレイヤーの顛末を説明していたのである。
「また恐らく。未だ剣は鍛え直されておらず、時期が来ていないと考えられる事等から、彼女との接触は控えて欲しい‥‥この事は、他の人たちにも他言無用でお願いしたい」
その言葉に、マスカレードも静かに肯く。
そして腰から一振りの剣を外すと、それをカウンターに置いた。
「私のこの剣も、刀匠ディンセルフのものです。父が、私が神聖騎士として剣を受けたときに、とある理由で託してくれたものです‥‥」
綺麗な装飾の施されている剣。
「伺ってよろしいですか?」
そのアハメスの言葉に、マスカレードは静かに肯く。
綺麗な刀身。
そして刻まれているルーン。
「これはなんと?」
「ああ、そこには『The Aura Will be with you・・・・Always』と記されています。私は神聖騎士ですのでオーラとは関係ないのですけれどね‥‥」
そう告げてから、マスカレードはそれを腰に携えた。
「理由とは?」
「正当なる所持者が現われるまでは私が。もし現われたなら、私が管理し、そのものに貸与せよと‥‥」
柄に刻まれている紋章は『雄牛』。
それが『ワルプルギスの紋章剣』であることを、まだ彼は知らない。
──そして
「‥‥つまり、ここが『ハウス』ということか?」
マスカレードの二階席で、リスター・ストーム(ea6536)は焔威を呼びつけた。
そして情報屋のミストルディンを交えて、様々な打ち合わせを行なっていたのである。
今までの王国歌劇団の情報を、リスターがなんとか頼み込んで焔威に説明していた。
「セーヌ・ダンファン。つまりアサシンガール達の拠点である『ハウス』ね。そこまでの道筋、内部情報、全て王国歌劇団・闇組がデータを確保しているわよ。でも、それ以上の事はいえないのよ‥‥ごめんなさいね」
そう告げるミストルディン。
「うーん。同じ王国歌劇団のメンバーだろ? 今夜でもベットの中で力一杯愛してやるから‥‥」
そう呟くリスターを無視して、焔威に話を振る。
「実はここだけの話。近いうちに大掛かりな作戦があるのよ。私達王国歌劇団とノルマン王国騎士団との共同作戦。ターゲットは幾つかに絞られているけれど、その中でも最も有力なのが『セーヌ・ダンファン襲撃』なのよねぇ‥‥」
その横で、ポカーーンと口を開いているリスター。
「そ、そんな話があったのか‥‥知らなかった‥‥大変なんだねぇ」
あんた、光組だろ?
「その作戦‥‥俺は参加できないかな?」
そう問い掛ける焔威。
「難しいのよ。騎士団サイドの責任者が頭を縦に振るとは思えないしねぇ‥‥。まあ、交渉だけしといてあげる」
ちなみに、その責任者が『ニライ査察官』であることを、焔威は瞬時に読み取った。
そして一行は、いよいよ魔窟『マクシミリアン自治区』へと向かっていった。
●最後の一手〜グレイファントム起死回生のチャンス〜
──酒場『大ぐらい猪亭』
「トーナメントには参加しないと?」
震える手をぐっと握り締めて、その男は静かに語った。
レイの目の間には、グレイファントム卿が座っている。
依然見たあの豪快さはすっかりなくなり、細くやせ衰えてしまっている。
髪には白髪が混ざり、この一ヶ月ほどで10歳以上年を取ってしまったかのように見える。
「私は少々年をとり過ぎまして‥‥『正攻法』じゃ、若い人たちに勝てないんですよ」
静かにそう告げるレイ。
グレイファントムとしては、今回、レイにバトルロイヤルに参加してもらい、トーナメントを優勝して欲しいと願っていた。
だが、レイの出した結論はNo。
「それでは困る‥‥こまるのだよ‥‥これが最後のチャンス‥‥あれを回収することができない以上、このトーナメントで私の手の者が優勝しないと‥‥私は殺されてしまう‥‥」
そう震えるグレイファントム。
「‥‥噂は色々聞いていますよ。貴方のそばにいると、『力』を手に入れるチャンスがありそうなのでね」
そう意味ありげに告げるレイ。
と、グレイファントムはハッとした表情で、レイの方を見る。
「力‥‥お前は、あの事を知っていたのか‥‥なら、アレを私の元に持ってきて欲しい‥‥アレさえあれば、私は今一度力を得る‥‥」
そうすがるグレイファントム。
当然、レイにはそれがなんであるか判らない。
もしグレイファントムに真面な思考が残っていたら、すぐにこの話はレイのはったりであることに気がつくであろう。
だが、もう彼にはそんな余裕はないのかもしれない。
「私はアレについてあまり詳しくはありません‥‥良かったら教えていただけますか?」
●噂のアレ〜鍵の一つ〜
──地下闘技場・VIP席・サロン
「クスクス‥‥きましたよ」
冷笑がサロンに響きわたる。
入り口から入ってきたのは、護衛のウィザード・レイを連れたグレイファントム。
「おや、まだ生きていたのですか。随分としつこいようで‥‥」
とある貴族が、そう冷たく言い放つ。
だが、以前のように何かを仕掛ける様子はない。
今回はレイが護衛として着いているからである。
(ふむ、レイは巧くグレイファントムと接触したか‥‥)
その光景を、パトロンであるカミュオン卿と共に見つめていたファットマンと、さらに奥の席で未亡人貴族の膝枕でまったりとした空間を作っているリスター。
(おいおい‥‥うまくやってくれよ‥‥こっちの身がもたねぇぜ‥‥グフグフフッ‥‥)
「では、すでにグレイファントムの後任は決まっていると?」
そう話しているのはファットマン。
「ええ。あの者は事実上行方不明のまま。国としても、そう長い間、領主不在をよしとはしないでしょう。先日、来月より正式に『グレイファントム領』を受け継ぐ形になったと、『ヴォルフ卿』から話がありましたよ。来月にはグレイファントム領は『ヴォルフ領』となるそうです‥‥」
そう告げてワインを飲み干すカミュオン卿。
「カミュオン卿はどうするのですか?」
「どうするといいますと?」
そこで腹を括ったファットマン。
「シルバーホーク卿。私の聞いた噂では、あまり良いことを行っていないようで‥‥なんでも秘密結社を組織しているとか‥‥」
「ああ、そうですよ。ですが、私は今のスタイルを変えるつもりはありません。深くは関与しすぎず、かといって離れるつもりもない。この距離が大切です。私は、あの方の為に『知識』を貸し出す。その見返りを戴いているだけです‥‥」
そんなさ中、カミュオンは入り口から一人の使いが入って来るのを確認する。
「許可が降りたようですね。では参りましょうか」
そうファットマンに告げるカミュオン。
そしてファットマンは、そのままカミュオンの後をついて行った。
──VIP席奥、『選ばれし部屋』
普段はとある貴族の専用室となっている為、選ばれたものにしか入室を許されていない『選ばれし部屋』。
その前に立つと、静かに扉をノックするカミュオン。
「入りたまえ」
ギィッと扉が開く。
そして中から一人の騎士がカミュオンとファットマンに中に入るように伝える。
室内は綺麗な造り。
奥に一枚、さらに扉がある。
その表面には、様々な『古代魔法文字』が刻まれており、そこから先の空間がまったく別の場所であることを物語っていた。
そして室内に安置されている様々な人の彫像。
(‥‥ミハイル教授‥‥だったか‥‥)
そのなかの一体は、まさしく『ミハイル・ジョーンズ』本人である。
驚愕した表情の彫像。
それがその部屋に安置されている。
そして奥の椅子に座って静かにワインをたしなんでいる若い男性。
「久しぶりですね、ミスター・カミュオン。そちらが私に紹介してくれる闘士ですか?」
「はい。シルバーホーク卿もおかわりなく。こちらが私の元で戦ってもらった闘士の『ファットマン』です」
「いい目をしているな‥‥」
ゆっくりと立上がると、シルバーホーク卿はファットマンの前に立つ。
「人を殺した事は?」
「まだ‥‥です」
「なら殺して見たまえ。今までの自分に見えないものが見えてくる。強くなるということはそういうものだ‥‥」
ニィッと笑いつつ、席に戻るシルバーホーク。
そしてカミュオンとファットマンに前に座るよう話し掛けると、自ら二人のカップにワインを注いだ。
「本日はご機嫌ですね」
「ああ‥‥」
そう告げつつ、ファットマンの方をチラッとみる。
「貴公の許せるものなら構わないか。扉の封印、第三段階まで解除が終っている。鍵は揃った。あとは贄が必要だ‥‥それも大量に‥‥」
その言葉の後、カミュオンは奥の封印されている扉に視線を走らせる。
「贄ですか‥‥それはバルタザール卿の任務では?」
「あの者は『少女達』の方で手が放せない。グレイファントムは最後のチャンスとしてここでの戦いを求めているが‥‥奴にこれ以上何かをさせることは危険だ。尻尾が捕まれ、組織が剥がされる前に奴は切り離す‥‥ヴォルフには、これから『窓口』となってもらう必要がある。彼には暫く危険な事は回さない。現在のグレイファントム領中央にヴォルフ卿が回されるというのはかなり手痛いが、自治区での任官はすべて奴の権限となる。カミュオン卿、貴公は奴の代わりにヴォルフ自治区に収まり、このノルマン全域から贄を集めよ‥‥資格を持った‥‥な」
そう告げてから、シルバーホークはファットマンにも話を振る。
「いい機会だ。貴殿にもチャンスをやろう。今、我々を脅かす存在がこのノルマンに存在する。手始めに『うるさい査察官』を始末してほしい。名前はニライ・カナイ。グレイファントム失脚の仕掛人であり、我々の邪魔をしている奴だ。この地下闘技場にも、奴の手によって送られた冒険者が1名。まあそいつは戦いの中で死んでもらう仕掛になっているから構わない。すぐにとはいわない。もし査察官を仕留めたら、奴の首でも持ってきたまえ。貴殿にも、新たなる力を約束しよう」
そのまま暫くは簡単な雑談に花が咲いた。
そしてカミュオン卿とファットマンは、そのまま部屋を跡にしてサロンへと戻っていった。
──地下闘技場エリア
フラフラと一般参加者エリアを歩いているのは響清十郎(ea4169)。
ヴォルフ卿の元で闘士としてここに出入りすることを許された清十郎。
トーナメントには参加できないものの、フリー対戦の為に、ここで待機するのを許されているのである。
そして今は、脱出経路の確認を行なっているところであった。
「ああ、そこの君、ちっょと手伝ってくれないか」
そう清十郎に話し掛ける警備員。
「あー、何かあったのですか?」
「侵入者だ。先程処理したのだが、重くて構わない。そこまで運ぶから手伝ってくれ」
全身血まみれ、首の飛ばされた死体。
それをズタ袋に詰め込むと、それをずるずるとひっぱっていく。
そして控え室の一角、ほとんど人の出入りの内場所まで運んでいく。
「‥‥何かあったのか?」
ちょうどそこには、シン・ウィンドフェザー(ea1819)とレイル・ステディア(ea4757)が立ち話をしていた。
というのは真っ赤な嘘。
二人とも、逃げ道を確保する為あちこちを調べていたのである。
壁の薄いところを調べていたレイルと、逃走用の通路を捜していたシン。
二人の行き着いた先が、この場所であった。
「ああ、あんたたちも闘士だな。そこの『廃棄口』を開いてくれないか?」
「廃棄口?」
そう問い返すレイル。
「そこの壁だよ。壁‥‥新人闘士は知らないのか‥‥なら、こっちを手伝ってくれ」
そう告げると、警備員は壁の一角に手を掛けて引く。
──ガチャッ
と、壁の一角が外れ、漆黒の空間が広がった。
「よし、そいつをここに投げてくれ」
そのまま清十郎とレイルが袋に詰められたてる死体をその中に投げ入れる。
と、そのまま真下に落下していった。
──ドバァァァァン
やがて水音が聞こえてくると、警備員は再び壁を元に戻した。
「一つ聞いていいか? ここの先にはなにがある?」
そう問い掛けるシン。
「さあ? 昔から、ここで死んだ奴の処理はこうだって‥‥元々、何かを投棄していたらしいけれどねぇ。降りて調査した奴なんていないから、わからないなぁ‥‥」
成る程。
ここに参加してから、数多くの死を見てきた一行。
死んだものの処理はどうなっていたか疑問であったが、ここでその疑問も解消された。
(正面入り口以外の、唯一の逃げ道か‥‥)
だれもがそう思った。
だが、そこから先も、生きて戻れる保障は全くない。
●そして戦う〜準決勝まであと一歩〜
・ニ回戦Cブロック第一試合
──『赤い亜麻布の女主人』vs『燃える鉄拳・李雲花』
歓声の中、ゆっくりとセクメトが闘技場に入る。
「さて、おてやわらかにおねがいしますわね」
そう正面に立っている雲花に話し掛けるセクメト。
と、雲花は静かに両手を上げると、左拳を握り締め、そしてそれに右掌を被せていく。
そしてそれを頭上からゆっくりと下げると、目の前でセクメトに向かって突き出す。
「力一杯行きますので、宜しくお願いします」
礼儀正しくそう告げる雲花。
「セクメトがんばるんだぁぁぁぁ!!」
「なにも出来ないけれど、俺たちが着いているっっっっっ」
一回戦で見事に敗退している『フリーデル』と『ギルベルト』のコンビがそう叫んでいる。
「ふぅ‥‥まあ応援は助かりますけれど‥‥」
そう告げつつ、セクメトは静かに手袋をはめる。
そして対戦相手である雲花は、鉄の丸い輪の端を握り締めた。
「変わった武器ね‥‥ルールではありなのかしら?」
「これは『圏(けん)』ね。拳の延長、握って殴りつける武器としてOKがでていますわ」
そうニコリと告げる雲花。
そして会場の壁際に、ハンマーを担いだ闘士達が入ってくる。
「それでは、はじめっ!!」
素早く間合を詰めていく二人。
──ガキッガキッ
次々と来る圏の攻撃を手袋の甲で受け流すセクメト。
「ただの手袋じゃないのね‥‥」
「ええ。ヴォルフ卿から借りてきたものよ。鉄粉が仕込んであってね‥‥殴りつけたり、甲で武器を受け流すものなのですよ‥‥」
つまり『闇器』。
一進一退の攻防が続く。
正正堂堂とした『殴り合い』。
雲花の放つスマッシュは紙一重で躱わしつつ、自分の拳は常に相手の視界に見えない位置に持っていく。
そして体さばきで思いっきり捻りを加え、ギリギリまで打撃点を見せずに戦うセクメト。
見えない位置からのブラインドアタックに、雲花は壁際までおいこまれて‥‥。
──ドゴトゴドゴドゴドゴッ
哀れハンマーでめったうち。
「ぎ‥‥ぎぶあっぷ‥‥」
「あら‥‥あっさりと負けを認めるのね‥‥まだまだ私は戦えるわよ?」
そっと手を差し伸べて雲花を立ち上がらせるセクメト。
だが、両者共に激しい戦いにより体力は消耗していた。
唯一の違い。
セクメトは『冒険』で様々な事を 体験してきた為、体力には自信があった模様。
そこが勝負の決めてであった。
「勝者‥‥セクメトっ!!」
・ニ回戦Dブロック第一試合
『疾風のレイル・ステディア』vs『東洋の悪魔・ブシドー長崎』
先日のバトルロイヤルを勝ち抜いたのは、侍甲冑に身を包んだベアナックルファイターの『ブシドー長崎』。
──ブッ・シッ・ドー。ブッ・シッ・ドー
観客席からはブシドーコールが始まった。
どうやら私設応援団も一緒にここにやってきて、応援旗を降りつつ音頭を取って叫んでいる。
「それでは‥‥はじめっ」
開始早々激しい戦いを見せる二人。
お互い手首を切り裂いてのスプラッシュマッチ。
真っ向から殴りに向かうレイルと、オーラ魔法全開で戦ってくる長崎。
オーラショットにオーラパワー、間合を取ってオーラソードと、オーラリカバーを酷使しているその戦いは、ある意味『手強い』相手である。
それでもレイルは殴り続ける。
相手が離れたときは間合をとってデストロイを炸裂。
かなり激しい怪我をしたにも関らず、長崎は臆さない。
「‥‥どうしたどうした、そんな程度の攻撃で、この俺か倒せると思っているのかぁ!!」
全身の筋肉をプルンプルンと振るわせつつ叫ぶ長崎。
さらにオーラを高めると、全身から激しいほどの気合が発せられた。
「いや‥‥そのプルンっていうのが嫌なんだ‥‥それに、お前だって怪我をしているだろうさ‥‥」
そしてレイルはここぞといわんばかりに魔法詠唱開始。
「神聖騎士の弱点は、その詠唱時間にあるっ!!」
──ドゴォォッ
激しく殴りつける長崎だが。
レイルの詠唱はとまらなかった。
そして素早く其の手を掴むと、魔法発動!!
──メタポリズム‥‥
瞬時に長崎の怪我は癒されていく。
「ふん、敵にも慈悲を与えるのが貴様の‥‥」
そう告げた瞬間、ガクッと長崎が膝を落とす。
彼の全身からオーラの輝きが消えた。
所詮は駆け出しのオーラ戦士。
オーラマックスの効果がここで切れたのである。
「ふん‥‥これしきの怪我、我がオーラで‥‥」
先程の全身から溢れた気合もオーラマックスによるもの。
既に全身はボロボロなのにもかかわらず、さらに魔法を発動させようとするが。
もう、長崎には魔力は残っていない。
「ぐっ‥‥な。、何故だ‥‥こりの俺が負けるのかっ‥‥」
そう叫びつつ崩れていく長崎。
「貴様の敗因はただ一つ‥‥自分の力を過信しすぎた事だ‥‥」
勝ち鬨をあげて退場するレイル。
いよいよ次は、準々決勝。
・三回戦Aブロック第一試合(準々決勝)
『冒険者代表・無天』vs『旋風のアルジャーン』
──バシッバシッ
すでに激しい攻防が始まっている一戦。
今までに見た事のない構えから来る斬撃、目に見えない神速の攻撃に、焔威はただ守りの状態。
「‥‥その振りの鋭さ、ジャパンの剣技『居合』かっ‥‥」
──カチィィィン
そう叫ぶ焔威に、アルジャーンは手にした刀を鞘に納める。
「とっとと貴方を殺さないと。判って居るの? ブランシュの調整は最終段階を『越えている』のよ。人格なんてもう崩壊している。教官と私達の区別もはっきりとしていない。そんな彼女が‥‥」
再び一閃。
だが、それを素早く躱わす焔威。
「なんで貴方の名前を呼びつつフラフラとしているのか判らないのよっ‥‥いい、あの子は‥‥ブランシュは最後の選択をしてしまったのよっ‥‥『ヘルメスとの契約』も完了して、もう‥‥人間では無くなってしまったのよっ‥‥」
魂を売り飛ばした
その言葉が、焔威に一瞬の隙を見せる。
──ガシッ
その刹那、アルジャーンの一撃が焔威の喉笛をねらった。
だが、それを焔威は待っていた。
──バシィィィッ
カウンター。それもいくつものフェイントを合わせた焔威会心の一撃。
「アルジャーン。俺の攻撃、わからなかったろう‥‥このまえ、ブランシュとの戦いで確信したんだ‥‥お前たちアサシンガールは、ブラインドアタックを捕らえることはできないだろう?」
はっとした表情のアルジャーン。
だが、全身に鞭を絡まれたアルジャーンはなにも出来ない。
「これで終りにしてあげるよ‥‥『君達を俺が助けるから‥‥君も、彼女も、全てを受け入れるから‥‥じっとしていて‥‥』」
最後の方は、アルジャーンにしか聞こえない。
そして素早くナイフを引き抜くと、アルジャーンの胸に突き刺した。
──ブシューーーーーーーーーッ
鮮血が吹き出し、絶叫するアルジャーン。
そしてぐったりとするのを確信すると、焔威は静かに会場を立ち去った。
「勝者‥‥無天焔威っ!!」
・三回戦Bブロック第ニ試合(準々決勝)
『ドラゴンキラー・シン』vs『漆黒の剣士ダース・ブラウザー』
会場では信じられない事が起こっている。
──ガキィィィンガキィィィィン
激しく打ちなる剣戟。
シンの日本刀とダース卿の『不死鳥の紋章剣』は火花を散らしつつ打ち合う。
「この戦い‥‥あの、グランという『剣士』と戦って以来だな‥‥貴様も、私を満足させるか‥‥」
卑怯な手を使うことなく一騎打ちに近い形で戦いを挑んでくるダース。
それに対して、シンはとにかく時間を稼ぎたい。
仲間たちが逃げる時間を作りたかったのであろう。
徐々に追い詰められ始めるシンだが、運命の女神はシンに微笑んだ!!
──バキィィィィィィィン
ダース卿の『紋章剣』の刀身がくだけ散った!!
激しい打ち合いに刀身が絶えられなかったのであろう。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
絶叫を上げるダース。
そして素早くシンはダース卿の背後から飛びつき、両足でダース卿の頭を挟み、勢いを付けて上体を後ろに反らし、思いっきり頭を床に叩きつけた。
──ドゴォッ
死角からの不意打ちに、ダースは頭に手を掛けてゆっくりと立ち上がる。
──今しかない‥‥
素早く入り口に向かって走り出すシンだが。
「それが貴様の戦いか‥‥何故逃げる? 何故戦いを止める? 決着が付くまで戦わないのか‥‥それでも、貴様は戦士なのか‥‥」
ゆっくりと立上がると、ダース卿は静かにオーラを高める。
その手の中にオーラソードを生み出すと、折れた『紋章剣』を鞘に納めた。
だが、シンは走った。
「‥‥戦士の風上にもおく事はできない。所詮はその程度の存在か‥‥戦うにも価しない『クズ』だったか‥‥」
ダース今日もそのまま別の入り口から出ていった。
デスマッチの為、勝者は存在しない。
協議の結果、ダース卿の判定勝ちという事で、話は終った。
●そしてパリ〜アサシンガール捕獲成功〜
──ニライ宅
実に奇怪な出来事であった。
一行が地下闘技場を脱出する際、誰も追っ手を差し向けようとはしなかった。
むしろ、『どうしてそんなに急ぐのですか?』と声をかける者がいたぐらいである。
「つまり、闘技場では貴方たちを始末する気は無かったという所ですか‥‥」
報告をきいてそう告げるニライ査察官。
「ええ。どうもそうみたいです。私とレイルはベスト8まで残ったので、最後に闘技場に招かれて紹介されましたから。ほーちゃんは次が準決勝、相手はダース卿ですよ」
そう告げるアハメス。
「さて、ニライ査察官。これが俺の成果だ‥‥」
リスターはまたしても『エラそうに』ドサッと報告書をテーブルに置く。
「地下闘技場の最下層の古い遺跡ですか‥‥また、貴族夫人達を垂らしこんでの情報収集ですか?」
「クフフフッ‥‥役得役得。まだ解析は終っていないそうだよ‥‥」
「ファットマンと貴方の情報、廃棄口の存在、あの地下に何かがあることは明白ですか。あとは、シルバーホーク本人の隠れ家を突き止めれば‥‥」
そしてミハイル教授の手掛り。
まだ、戦いは続くのであろう。
「さて、これで俺たちへの依頼は一時終了だね? 俺はやらないとならないことがあるから‥‥」
焔威はそう告げると、酒場・マスカレードに向かっていった。
そこに、こっそりと『アルジャーン』がかくまわれているから。
そして彼女は、『妹達』を助け出すこと、その際には自分も戦うということを条件に、情報を提供すると約束したのである‥‥。
「グレイファントムの隠れ家はここです。マクシミリアン自治区のこの場所に、手下10名と共に‥‥」
そう告げて地図と手下の名簿を差し出すレイ。
その名簿の中に、『アザートゥス』という名前があったのは何故であろう。
〜To be continue