●リプレイ本文
●という事で〜空は快晴、心は曇り〜
──パリ・冒険者 酒場マスカレード
静かにたたずんでいる一体の石像。
その頬をそっと撫でつつ、無天焔威(ea0073)は静かに何かを呟いている。
「ミスミ‥‥一体どこに言ってしまったんだ‥‥君の妹は、必ず甦生するって約束するのに‥‥」
ミスミ、即ちアルジャーン。
先日の一件以来、彼女の消息はまったくといってよいほど跡絶えてしまっていた。
このまま探しに向かいたいところであるが、既に焔威にはやらなくてはならないことがある。
「それじゃあな‥‥」
そう石像に別を告げると、焔威は其の場を後にした。
●策謀〜必要悪の処遇〜
──ニライ宅
「‥‥なるほどねぇ‥‥色々と助かりますよ」
そう告げつつ、ニライ査察官は眼の前に座っている焔威から、様々な情報を教えてもらっていた。
「アサシンガールの最大の恐怖、それは『エンジェルモード』というのにあるらしい。現在判って居る彼女達の弱点『ブラインドアタック』すら無効化し、さらに全身能力の限界まで戦闘能力を高めることができるようだ。発動キーワードは人それぞれらしいけれど、感情の高まりが、感覚の鋭敏化が、それを引き金にするらしい‥‥」
そうアサシンガールの特性について報告する焔威。
「エンジェルモードねぇ。まあ、ハーフエルフの『狂化』みたいなものでしょうけれどね」
そう告げつつも、ニライはそのまま焔威と話を続けた。
「それで。例の件ですが、マクシミリアン卿、こっちに抱き込むことは可能でしょうか?」
「ああ。それについてだが‥‥」
そう告げると、焔威はニライの耳元で何かを呟いた。
どうやら色々と裏があるようで。
●ロイ教授の家庭の事情〜そんなものはありません〜
──ロイ考古学研究室
「随分と久しぶりのようなそうでないような‥‥」
そう告げつつ頭を捻るのはロイ教授。
「私は先日、こちらに来たばかりですよ、教授」
ニコリと微笑みつつ、そう告げるアハメス・パミ(ea3641)。
そしてその横では、シン・ウィンドフェザー(ea1819)が丁寧に頭を下げている。
「いつぞや、うちの娘がお世話になりまして‥‥」
まずはそう挨拶。
そしてすかさず本題に切替えるシン。
「ロイ教授が保管している『紋章剣』を見せて欲しい。その上で、もし可能ならば、貸し出しして欲しいのだが」
そう告げるシン。
「どれ、ちょっともってくるか‥‥」
そう告げると、教授は席を離れ、倉庫からふた振りの剣を持ってきた。
「一振り増えていますけれど、どうしたのですか?」
「ああ、ちょっと前に入手したんじゃよ。といっても、その『剣士の末裔』に頼まれて、このふた振りの剣はプロスト領に届けることになったのじゃ」
そう告げるロイ。
そのさ中、シンは静かに剣を受け取ると、じっとそれを握り締める。
一振りは錆びがひどいが、もう一振りは錆び一つ存在しない。
そしてどちらも、柄の部分に『翼』の紋章が記されている。
「この刀身の記されている文字は‥‥」
「『オーラと共にあらんことを、そして‥‥』じゃな」
「そして?」
その問いに、ロイ教授は頭を捻る。
「解析不能。削りとられてしまっているからのう‥‥本来の紋章剣とは異なるふた振りの『翼の紋章剣』。これは『旋風』を、そして対となるこれは『業火』を表わしている」
そう告げるロイ。
「詳しい話はワシよりも、実際に遺跡などに向かって調査していたらしいシャーリィ・テンプル女史の方が詳しいじゃろう。このふた振りの剣は後日、ノートルダム大聖堂にて身体を休めているマスター・オズの元に届けなくてはならない。『剣士の後継者』というのを決定しなくてはならないそうじゃから」
そう告げているさ中、シンは静かに剣を握り締める。
そして意識を集中し、心の中で『オーラと共にあらんことを‥‥』を呟く。
──シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
体内から何か力が沸き上がることはない。
ただ、シンの言葉に剣が反応し、わずかに輝いていたのである。
「シン‥‥貴方、まさか?」
「ああ‥‥素質は十分という所か。この剣『旋風』は、俺を受け入れてくれそうだぜ‥‥」
そう告げた瞬間、意識がスッと遠くなりかける。
「基礎からの修練が必要か。ワルプルギスの剣士というのは、たいしたものだな‥‥」
そう告げていたとき、ロイ教授はシンに鞘を手渡した。
「ほれ、今回の依頼の間だけでも持っていきなさい。終わったら、それを持って報告に来てくれればよい。そのあとどうしても必要となったならば、マスター・オズの元で修行でもしたらよいじゃろうて‥‥」
そのままシンは紋章剣を預かると、アハメスと共に一路地下闘技場へと出発。
●グレイファントム邱〜破滅の魔法陣〜
──屋敷にて
「‥‥ふぅん‥‥」
グレイファントム邱の中に収めてある古い写本を眺めつつ、レイ・コルレオーネ(ea4442)は何か思案中。
現在、グレイファントム卿は自室にて眠っている。
というのも、レイの持ち掛けた話に、自身の保身を見出したようである。
「命が惜しいなら一応、組織の詳しい情報をエサに国と取引をする、という選択肢もあると思うんですが‥‥なんにしても、事を起こすには早い方がいいでしょう。協力する為にも、今貴方が持っている戦力やシルバーホークの情報、貴方が具体的に何が欲しいのか、何をしたいのか。‥‥全て教えてもらえませんか?」
この言葉に、グレイファントムはすがった。
あとはレイの思うまま。
屋敷の中を自由に歩き回ってよいという許可を得、護衛やガード、その他様々な人たちから情報を得ることが出来たのである。
そして破滅の魔法陣が、このノルマンに3つ存在すること、その内の一つが『地下闘技場』の最下層に存在するという事までは確認できた。
だが、それを起動する為には『より純粋な命』を贄とする必要がある。
それがどんなものであるか、レイは必死に文献を調べていた。
●決闘〜まあ、それなりに〜
──マクシミリアン自治区・カミュオン宅
「これが新しい通行許可証ですね。貴方のはVIP席まで入れるように申請してあるものですから」
パトロンであるカミュオン卿の元を訪れたファットマン・グレート(ea3587)は、まずは新しい許可証を受け取ると、それをじっと眺めていた。
「実は、頼みがある‥‥」
そう力強く口を開くファットマン。
「なんでしょうか?」
「前回の負け試合以来闘技場に上がっていない。負け癖を無くすためにも一勝負。聞けば、決闘裁判の企画があるという。かなりみみっちい理由だが、1対6というのはなんだかなぁと。で、その1の方の代理人として参加してみたい。復帰戦としてはかなり盛り上がると思う。どうだろうか?」
そう提案するファットマン。
「ふむ。確かに戦ってみるにはいい機会かもしれませんね。まあ、貴族達の代理人があの方である以上、いい戦いを見せて頂けるとは思いますけれど‥‥」
なにはともあれ、決闘代理人としての参加は認められたファットマン。
「勝利条件は?」
「普通の決闘とはルールが異なります。何でもありのデスマッチです。もっとも、ギブアップありのルールとなっていますので‥‥」
●決闘前夜〜ぐふ、ぐふふふふ〜
──とある貴族宅
コソーーーーーッ
深夜の夜這いを終えたリスター・ストーム(ea6536)が、こっそりと貴族の家から抜けていく。
明日には決闘が始まる。
その前夜、彼はその屋敷の主である未亡人の元を訪れては、様々な打ち合わせを行なっていた。
この地下闘技場に最近、かなりの数の冒険者が侵入していること、それも『国の査察官』からの依頼で入り込んでいた輩が多いという事をリスターは未亡人から改めて聞き出した。
そしてその中の一人として、リスター自身がマークされている事、今回の決闘裁判は、その裁判という名前に託けて、リスター自身を暗殺しようとしているということらしい。
そしてその後ろでは、決闘裁判の貴族側代理人として、シルバーホークの手練れれがかなり導入されているという事実も知ることが出来た。
それならばと、リスターも手を打つ。
あとは、明日の決闘を待つばかりであった。
それを終れば、後日、地下闘技場の更なる地下迷宮について、未亡人自らが色々と教えてくれることになった。
●でも先にトーナメント〜こっちがメインですから〜
──地下闘技場・モンスターエリア
「‥‥こっちがこうで‥‥と」
ゴソゴソと何かを探っているのはシンと響清十郎(ea4169)の二人。
清十郎はヴォルフ卿から貰った新しい許可証で、シンはマクシミリアン卿に謝罪して新しい許可証を受け取ってきたようである。
そのまま二人は、自分達の試合が無いことを確認すると、そのまま地下迷宮へと続いているであろう回廊をひたすら探しまわっていた。
一通り調べて回ってみたが、それらしい場所は発見できない。
そのため、二人は立ち入り禁止区画である『モンスターエリア』に潜入。
彼方此方に仕掛けられている罠のうち、地下へと続く落とし穴が幾つかあるのを確認した二人は、それらの一つ一つを念入りに調べていた。
──ガチャッ‥‥ヒュゥゥゥゥゥゥ
「ここも深いですねぇ‥‥」
「ああ。風も流れているか‥‥風?」
そう、風。
「風を感知する魔法があれば、あるいは‥‥」
シンはそう告げつつ、落とし穴を静かに上げる。
「なにはともあれ、ここが最後のエリアでしたよ。こっちからは地上へと続くスロープ。モンスターの運びだし口ですね」
そんなものがあったとは、いままで気付かなかった一行。
もっとも、常識的に考えてみれば、当たり前。
とりあえず二人は、そのスロープから外に向かう広い通路に出ると、そのまま一気に外に飛び出して、すぐに中に戻った。
外には4名の『純白のマントを付けた御衛士』が待機していたのである。
運良くあちらには見つかっていない。
そのまま二人は一旦地下に戻ると、さらに地図に道筋を追加。
「街の位置とこの屋敷、そしてその直線上のこの辺りか。岩だらけの森と思っていたが、ひょんな所に出口があったものだな」
モンスターエリア入り口と外とはかなりの距離が離れている。
そのまま二人は地図をそっと隠し、モンスターエリアから撤収。
一通り完成した地図、残るはさらに地下の迷宮エリアのみ。
そこにどのようにして潜入するかが、今後の課題であろう。
●三回戦Cブロック第一試合
──『赤い亜麻色の女主人』vs『限界を越えた男・インクレティヴ』
会場には様々な武器が括りつけられている。
そこにやってきたのはセクメトと、マスクを付けた小太りの男インクレティヴ。
どこかおどおどしているインクレティヴだが、セクメトは臆す様子もない。
「それでは開始っ!!」
素早く壁際に向かって走り出す二人。
まずはお互い、目を付けていた武器を手に取ると、そのまま間合を近づける。
──ガギィィィィン
激しい剣戟。
撃ち鳴るハルバードとグレイヴ。
「いい腕です。間合の取り方といい、最高の対戦相手です」
ニィッと笑い、そう告げるインクレティヴ。
「貴方こそ。なぜこのような場所に?」
そう問い掛けるセクメト。
──ガギィィィィン
「私はかつて、『冒険者』でした。様々な依頼を受け、様々な戦いを経験してきた。だが、家族ができ、護るべきものが見つかったとき、私は引退を余儀なくされました‥‥」
──ガギィィィン
「その家族を捨てて、再び戦いの緊張の中にか‥‥下らない!!」
──ガギィィィィン
「お金が必要なんだ。娘と息子が事故に巻き込まれて死んだ‥‥高名な魔法使いに死体が腐らないよう処置を頼んである。高位の司祭に甦生を頼むには、最低でも1000Gは必要だから‥‥私はここで、家族を助ける為に戦っているのですっ!!」
──ガギィィィィィン
セクメトのグレイブが吹き飛ぶ。
「不味い‥‥この流れは嫌いだ‥‥」
素早く防御姿勢を取るセクメトだが、インクレティヴは追撃してこない。
「早く武器を選びなさい。無手の方を相手に、超重武器を振るうような非道な戦いはしません!!」
そう告げたとき、そして先程までの戦いの流れを見て、セクメトは判った。
「フランク騎士団の流派、カールスの使い手‥‥まさに堂々とした、騎士道精神を貫く戦い方ですね‥‥」
そう告げると、セクメトは安心して別の武器を探すと、使いなれた盾と刀を手にした。
「判って頂けますか。家族にとって私は誇りです。その為にも、卑怯な手を使って戦うことは出来ない。そんな手を使って稼いだお金では、子供達は甦生できない‥‥神は全てを見ていますから‥‥」
そのまま激しい戦いは続いた。
やがて、セクメトの方がスタミナが切れ始め、ついには身動きが取れなくなってしまった。
──チャキーーーン
武器を構えるインクレティヴ。
「ギブアップしてください。無益な血を流す必要はないでしょう?」
その言葉に、セクメトは静かに肯いた。
「ええ。ギブアップです‥‥」
●三回戦Dブロック第一試合
──『疾風のレイル・ステディア』vs『白亜の魔導師・ジェラール』
先程の戦いとはうって変わって、こちらは沈黙している。
(‥‥同じ手が通じるとは思わんが? まぁペット同伴不可とは書いてなかったし大丈夫だろう)
レイル・ステディア(ea4757)はそう思い。審判にペット同行についての許可を一応確認。
OKサインが出た為、ペットと共に戦闘に赴いたのであるが。
「攻撃が‥‥なぜだっ」
ジェラールに向かって斬りかかった剣戟は、全て軌跡が歪められる。
ジェラールの全身が瞬間輝く為、魔法か何かを使っているのだろうとは思うのだが、どうにも埒があかない。
先程攻撃をしかけたペットの鷹とイヌは、カウンターで石化され、ニ匹とも大地に転がっている。
「さて、次の手はなんですか?」
そう告げつつ、静かに印を組み韻を紡ぐジェラール。
──シュンッ
その瞬間、レイルは素早く切りかかったが、ジェラールは印をあっさりと離すと、その攻撃を難無く躱わす。
「フェイクですよ‥‥」
そう告げつつ、レイルから間合を取るジェラール。
「ならばっ」
素早く印を組み韻を紡ぐレイル。
その全身が淡く黒く輝く。
そして漆黒の球体がジェラールを襲うが、突然ジェラールの頭上に現われた球体がその魔力を吸収してしまう。
ブラックホーリーは消滅。
「全ての手を封じたつもりか‥‥」
そう告げつつ、レイルは策を考える。
ペットによる奇襲も、高速詠唱により阻まれてしまった。
長距離魔法も消滅、隙を取れない相手である為、メタボリズムを仕掛けることもできない。
さらに剣撃の軌道は不思議とネジ曲げられる。
こうなったら、闇雲に突撃するか、敗北を認めるか。
──ダッ!!
それならばと、レイルは剣を構えて一気に走り出した。
一か八かの賭けである。
──ブゥゥゥン
だが、その攻撃は届かない。
途中でレイルの脚が石化し、身動きが取れなくなってしまったのである。
「ぐっ‥‥ここまでか‥‥」
そう告げるレイル。
そして全身が石化したとき、意識も消えていった。
「ふぅ。さて、ここからがショータイムですね」
そう告げると、ジェラールは静かにレイルの周りを回り始める。
そして適当な場所に立つと、そのままレイルに向かってグラビティキャノンを叩き込んだ!!
──ゴギィッ
腕が肘から折れた。
その瞬間、観客席から絶叫が響き渡った。
「頭が粉砕されれば甦生は出来ないでしょうけれどね。肘ですか‥‥まだ魔法のコントロールが巧くいかないものですね‥‥」
そう告げると、ジェラールは静かに其の場を後にした。
●決闘裁判〜て、手練れってあんた〜
──地下闘技場
ザワザワザワサワサワザワ
闘技場は喧騒に包まれていた。
その中央には、今回の決闘を取り仕切る6人の貴族とリスター、そして見届け人が静かに立っている。
「今回のルールはデスマッチ。ギブアップありだが、その場合は、廃棄口から地下に叩き込まれるぐらいの覚悟はしておいてほしい‥‥」
見届け人がそう告げる。
「ちょっとまった。こっちからの提案も認めて欲しい」
そう告げたのはリスター。
「黙れ!! 人の妻を寝取った犯罪者がえらそうに!!」
そういきり立つ貴族達だが、見届け人は冷静にリスターの提案を聞く。
「試合は1対1の通常戦闘ではなく1〜3対6の複数戦で。こっちは魔法も許可してほしい。貴族側は魔法禁止、そのかわり他は何でもありのデスマッチでどうだ?」
そう告げると、貴族達は暫く思案。
「そっちの方が試合が盛り上がるだろ? それに、あんた等にとっても悪い話じゃ無いはずだぜ? 上手くいきゃ俺を袋叩きにできるんだからな‥‥受けないってんなら別に俺は試合を放棄してもいいしなぁ?」
「ちょっとまて、受けて貰わなくてはこちらのメンツもたたない。いいだろう、そのルール、受けよう!!」
そこで試合は成立した。
「なら、こっちの代理人を二人、紹介しよう」
そう告げたとき、入り口からファットマンと『赤い亜麻色の女主人・セクメト』が姿を現わした。
その二人組に、会場はさらに湧き始める。
「だ、代理人だと? トーナメントベスト8が入っているじゃないか‥‥」
動揺する貴族。
「私達は決闘のルールに従い、代理人として参っただけである」
「左様。正々堂々と戦わせて頂きます」
ファットマン、そしてセクメトがそう告げて丁寧に頭を下げる。
それからまもなく、入り口から貴族達の代理人が姿を現わした。
たった一人の代理人。
それで、全ての戦いをしていこうとはたいした物だとリスターは思ったが。
──ザッ
深紅に近い髪。
全身をぴっちりと包む衣服。
激しく隆起するファィティングマッスル。
その巨漢、まさに『悪鬼』そのもの。
「は、ははは。私達の代理人である『悪鬼』殿だ。シルバーホーク卿に直接頼み込み、彼一人で総ての試合を行う予定だったがちょうどいい」
そう告げると、貴族達は後に下がり、自分達の席に付く。
「それではっ。これより名誉ある決闘を開始しますっ!!」
そう告げると同時に、見届け人も後方へと下がっていく。
「さて‥‥お手並み拝見といきますか‥‥」
そう告げつつ、セクメトは静かに武器を構える。
愛用の日本刀。
静かに星眼に構えると、じっと悪鬼の動きを見る。
ファットマンも、左手にパリーイングダガーを構え、じっと悪鬼の動きを読む。
その悪鬼は、武器をなにももたずに拳をごきごきとならし、そのまま二人を無視してリスターに向かって歩きだした。
かくいうリスターは、開始直前にスクロールから『ダズリングアーマー』を発動し、全身を激しく発光させていた。
「クブフフ‥‥掛かってこい。この究極のトラ‥‥」
刹那、リスターの顔面に悪鬼のアイアンジャイアントクローが決まった。
「馬鹿な‥‥見える筈がない‥‥」
「ちゃんと見えているぜ‥‥バーカ」
──ゴギッ
その手に力が籠る。
リスターの頭蓋骨がミシミシとうなりを上げたかとおもうと、そのまま悪鬼はアイアンジャイアントクローの填まっている腕一本で釣り上げた。
──シュパッ
素早くリスターを救いにはいるセクメト。
横一閃で悪鬼に切りかかるが、それは難無く躱わされる。
さらに走りこんでくるファットマン目掛けて、リスターを投げ飛ばした!!
──ドゴォォォォッ
そのリスターを『難無く回避』すると(ひでぇ)、ファットマンはそのまま悪鬼につかみ掛った。
──ガシッ
「力勝負かい? いいねぇ」
「そんな事はせぬ!!」
グッと全身に力を込めるファットマン。
そのまま悪鬼をスープレックスで投げ飛ばそうというのだが、まるで大地に生えている巨木の如く、悪鬼は持ち上がらない。
「へい、どうしたルーキー。腰が笑っているぜっ」
──バギッ
そのまま顔面に向かって拳を叩き込む悪鬼。
瞬間離れたファットマンの頭部に向かって、力一杯のハイキックを叩き込んだ!!
──ドゴォォォォォッ
派手にぶっ飛び、リスターの横に潰れるファットマン。
「馬鹿な‥‥人間の力なのか‥‥」
──シュンッ
そのままセクメトの剣戟を見きり、悪鬼は静かにセクメトに向かって身構える。
「相手が武器を持っているのなら、こっちは本気でいかせて貰うが、『死んでも構わない』んだよな?」
グッと腰を落とし、半身に構えて拳を突き出す悪鬼。
その型に隙が全くないことを悟ると、セクメトは武器を納めた。
(本気で来られたら、確実に殺される‥‥)
セクメトの本能が、戦いを終らせていた。
「終了っっっっ。決闘はこれで終了、貴族達の名誉は護られ、『名誉の為の殺人』が認められました!! これより不義理を行った夫人達は、地下迷宮へと放逐されることになりましたっっっっ」
その後見人の言葉と同時に、鎖に繋がれて悲鳴を上げている夫人達の姿が登場する。
そしてそのまま入り口のほうに連れていかれると、最後の絶叫を上げつつ最後には全ての言葉が途切れてしまった。
「さて、いい戦いだったな‥‥」
ゆっくりと立上がるファットマンに右手を差し出す悪鬼。
「何処がだ‥‥」
そう告げるファットマンの耳元で、悪鬼は静かにこう告げた。
「お舘様から伝言だ。『査察官の件、良き報告を愉しみにしている』とな‥‥」
そしてファットマンから離れると、そのままセクメトに近付く。
そしてやはり右手を差し出す。
その右手を受けると、セクメトはやれやれという口調でこう呟いた。
「おとなげないのでは?」
「人の女に手を出しちゃあ問題があるだろうさ。おいたが過ぎる子供には、教育が必要だ‥‥」
そう告げると、リスターの横を高笑いしつつ立ちさって行く悪鬼。
そしてリスターの耳には、助けを求める夫人達の断末魔の声がいつまでも残っていた。
●マクシミリアン〜売りましょう、シルバーホークを〜
──マクシミリアン邱
静かに話をしているのは二人の人物。
マクシミリアン自治区を納めるマクシミリアン卿と、焔威の二人が怪しい会話をしているところであった。
「これがここの地下闘技場に出資している貴族達の名簿。こっちがその背後組織です。これで、あとは巧くいくのでしょうね?」
脅しは成功。
先日、地下闘技場より救出された一人の貴族の末裔。
それがシルバーホークに知られてしまった場合、あの『グレイファントム卿』の失態程度ではすまないことを暗に焔威は告げていた。
そのうえで、焔威は取引きを行った。
マクシミリアン卿の身柄を保障する代わりに、出入りしている貴族達のリストを渡して欲しいということであった。
「そして、こっちが『シルバーホーク卿』の今のアジトです。ここにいらっしゃらないときは、大抵はそこにいらしゃいますから‥‥」
そこには、グレイファントム量の外れにあるとある小さな村が記されている。
「結構です。では、私はこれを上に持っていきます。良いですか、貴方はいままで通りにふるまっていてください。後日、こちらから連絡を入れるまでは‥‥」
そう告げると、焔威は静かに其の場を後にした。
●そしてパリ〜なんでかあつまるこの屋敷〜
──ニライ宅
「ほう。随分と面白い」
焔威はマクシミリアン卿との交渉で得た情報を提出。
シルバーホークのアジトまで判るとは、ニライ査察官も予測していなかったのであろう。
「私達の方は信頼をかなり深めてきました」
アハメスもそう告げると、ヴォルフ卿の屋敷の見取り図、自警団の戦力分布などを提出。
「で、こっちは地下闘技場の入り口について。最下層の迷宮エリア以外は全て網羅してきた」
「有効に使ってくださいね」
清十郎とシンの二人も地図の写しを手渡す。
「まったく、マクシミリアン卿が処理してくれなかったら、今頃俺達はあのまま石のままだったな‥‥」
石化を解除されたレイルとペット達。
幸いなことに腕も繋がり、事なきを得た模様。
そしてレイは大量の報告書をニライに手渡した。
「グレイファントム卿は、今一度領主としての座を取り戻したいそうです。そのために、彼の持っているシルバーホークに関する情報を全て吐き出してくれましたよ‥‥といっても、これだけ大量の報告書ですが、殆どは彼の保身についての意見のみ。シルバーホーク自身は悪魔に魂を売った存在、その背後には高位の悪魔であるヘルメスが着いています。そしてその他に、人間でありながらシルバーホークに協力している者たちの存在もね‥‥」
それが四天王であり、アサシンガールである事は、其の場に居合わせている一行にはよく理解できる。
「ただ、高位の悪魔がなぜ人間の野望に力を貸しているのか。そこが腑に落ちないんですよ‥‥巧く利用しているだけなのか、それとも他に何か‥‥」
そう告げたとき、横で報告書を読んでいた焔威がリスターにつかみ掛った。
「リスター。ここの報告は真実なのか?」
「くっ‥‥苦しいって‥‥事実だ。ある未亡人からの報告。彼女は『セーヌ・ダンファン』にも出入りしている人物で、元『アサシンガールの教官』だったって‥‥で、今新しい任務が、『紋章剣の回収』。ヘルメスとブランシュ、フロレンス、ゼファーの4名で、あっちこっちの『剣士の末裔』を探し出しては殺害し、剣を回収しているって‥‥」
そのまま走り出そうとした焔威に、ニライが後から声をかけた。
「ミスミが見つかったそうです。先程レビン卿から連絡がありました‥‥」
そして知らされる真実。
焔威は、静かに其の場を立ちさった‥‥。
そして他のメンバーも一人、また一人と立ちさって行く。
これから、何が起こるのだろう。
また、無益な血が流れるのだろうか‥‥。
〜To be continue