●リプレイ本文
●それではいってみよー〜輝くスープ〜
──パリ・冒険者街
ガギィィィン
ガギィィィィン
激しく打ち鳴る鋼の響き。
そこは、とある鍛冶工房。
看板には武具研究所『びっくり鈍器』と掲げられている。
その中で、派手に響く金属音。
今回の依頼、ロックフェラー・シュターゼン(ea3120)は仲間たちから様々な調理器具を作成するよう依頼を受けた。
鍛冶ギルドの伝で大量の板金を買い付け、それを自宅の工房で改造する。
炉はないものの、打出し用の金床はある。
近くには、半年前に引っ越していった鍛冶師の残した炉もある。
そこと自宅を行ったり来たりしつつ、ロックフェラーはまず『丸い華仙鍋』の作成に入っていた。
作り方は簡単。
一枚の板金を、ただひたすら打ち出す。
ざっと考えて、軽く5千回の打出し作業。
「ふぅ。均等な曲線を作る為の‥‥と」
一定の打ち込みの後、さらに角度を直して打ち出す。
そんな途方もない事を、ロックフェラーは短期間で行わなくてはならなかった模様。
「ふう‥‥しかし‥‥まだ先は長いしなぁ‥‥とりあえず、頑張るかぁ‥‥」
それがプロ!!
●激しく料理大会〜おいおい、まじで洒落になんないぞ〜
──6月17日・とある町
「ふぅふぅ‥‥やっと付いたか‥‥」
カラッと晴れた炎天下。
エグゼ・クエーサー(ea7191)は目的地である町の入り口で、息も絶え絶えにそう呟いた。
「もう。なんでもいいから飲ませて欲しいよね‥‥」
フェリーナ・フェタ(ea5066)もその横で、からっと晴れ渡った空を睨みつけながらそう呟く。
「アイヤ。皆、訓練が足りないアルネ。心頭滅却スレバ火モマタ涼シアル」
操群雷(ea7553)はそう告げつつ、グターッとダレている一行の様子を見ていた。
「ハァハァ‥‥み、水‥‥」
依頼主であるサンディでさえ、横に連れている驢馬の身体によしかかるようにしてふらふらと歩いている。
「あの‥‥わたし、まだお水残っています‥‥」
アイリス・ビントゥ(ea7378)は腰から下げている水筒を一行に差し出す。
「レディーファーストだねっ!! おさきー」
燕桂花(ea3501)がそう呟きつつ、水筒の口を開いて水を呑む。
「もう少しで‥‥ここが‥‥」
町の中を移動。
そしてようやく目的の『酒場』にたどり着くと、一行はうむを言わずに店内に飛込む。
そして全員で一言!!
「とりあえず、水!!」
──ビシッ
最初のオーダーもなんのその。
ウェイトレスは引き攣った表情で一行に井戸から汲んできたばかりの冷たい水を差し出す。
「しふしふ〜。生き返ったぁぁぁぁ」
「えっと‥‥水は、神の恵み、聖なるガンジスのもたらした命そのものですから‥‥」
「冷たくていいね。もう最高!!」
「たしかに、 ここの水は良いものアル。硬くて美味しい水アルネ」
にこやかにそう告げる一行。
「それでは、オーダーをうかがいましょうか‥‥」
そう告げるウェイトレスだが。
「いや、もうこの水だけで沢山だな。とにかく生き返っ‥‥た‥‥?」
やれやれという感じでそう呟くエグゼ。
ウェイトレスの表情が一転する。
「冷やかしならば出ていって頂戴!!」
そのまま一行は慌てて店から飛び出すと、そのまま目的の貴族の舘まで向かった。
──チャラララーーーラン!!
一方、びっくり鈍器の店長は‥‥。
「急げ‥‥急がないと不味い‥‥」
ちょっと遅れたものの、ロックフェラーはなんとか完成までこぎつけた模様。
さあ、疾風の如く走るのです!!
●料理コロシアム開催!!
場所はとある町。
いつもはそれ程人の姿のないその町に、其の日は朝からかなり大勢の人が集っていた。
「まさか、これほど集るとは思ってもいなかったわい‥‥」
今回のパーティーを主催した貴族が、自宅ベランダから外を見つめつつそう呟いていた。
眼下に広がる不思議な空間。
今回の噂を聞いて、遠くからやってきた様々な調理人達が一同に集っているのである。
ちなみにその数、ざっと200名。
「‥‥はっはっはっ。これはもう、どうしていいものか‥‥」
渇いた笑いをしているエグゼ。
「それでも、必ず伝説のレシピを取り戻さないとねぇ♪〜」
桂花は既にノリノリ。
シフールならではのお気楽さが、今回は救いである。
──ドワワワワワーーーーーン
激しく高鳴る銅鑼の音。
「この音‥‥またあの人アルカ?」
群雷はそのまま音のした方向をじっと見る。
そこには審査員席が作られており、今回は一般を含めて総勢10名の審査員が座っていた。
その中には、御存知グルメ貴族『アジヴォー・ガイヴァー』卿も座っていた。
やがて、この戦いの火付役である貴族が審査員席から静かに立上がると、口を開く!!
「今回の料理対決、大勢の参加者に恵まれて私は幸せです‥‥それでは、今回の大会についての捕捉を少々‥‥」
そんなこんなで暫くは説明話が続いている。
「ということです。それでは‥‥調理開始っ!!」
──ドワワワワーーーーン
審査方法は採点式。
全料理が完成したチームから審査を受け、審査員は持ち点10点で料理を審査。
そしてこの審査方法の最大の恐怖は。
・先に料理を作れば、空腹のまま審査を受けられるので有利である
・後に料理を作れば、先に審査を受けた料理に対してのカウンターを仕掛けることができる
この2点。
「審査員さんたちのお腹がいっぱいになる前に‥‥作らないと不味いです」
アイリス、その通りだ。
「さて、それじゃあ各々が作る料理の構想は出来たな? ならあとは始めるだけだ」
エグゼのその言葉に、全員が静かに肯く。
そして一斉に、のんびりアイリス以外は食材調達の為に走り出した。
「えっと‥‥野菜は‥‥」
まず野菜の下拵えを始めるアイリス。
「キャ〜ベツ、ニンジン、アスパラ〜♪」
実に楽しそうに鼻歌混じりで野菜を刻む。
今回の料理、その為にはどうしてもロックフェラーに頼んだ鍋が必要。
それの到着まで、アイリスはひたすら食材の下拵えに精を出していた。
なお、一行は無事に食材を確保すると、再び会場に戻ってきて早速下拵え開始。
「華仙料理の基本。必ず下拵えカラネ。そしてソレガイチバン時間カカルアル。これに手間隙カケナイ料理人ハ三流アル」
──ドドドドドドドドドドドト
大蒜・干棗・栗・蓮の実などを準備、全てを食べやすい大きさ‥‥形に刻む群雷。
そして蕎麦の実、エシャロット、月桂樹、青豌豆を準備。
神速の早さで包丁をさばく群雷。
そして絞めたばかりの若鶏を取り出すと、その中に具材を詰めていく。
「しかし、アル小姐ヨクミツケタアルヨ」
アルンチムグ・トゥムルバータルの見付けてきた牛蒡を詰め込み、全体の調和を整える。
そして一通りの作業が終ると、大鍋にお湯をぐつぐつと沸かし、下準備完成。
「?」
通りかかる料理人達が目を丸くして、一人の料理人を見つめている。
エグゼは、一通りの食材を並べると、じっと街の入り口を凝視している。
(ロックフェラー。頼む‥‥)
肝心の包丁は、ロックフェラーが作成。
そして今、ロックフェラーはひたすら走っていた。
「ふふーん。こっちはまだのようね‥‥」
静かにエグゼに話し掛けてくる一人の女性。
「どちらさまかな?」
「あら、これは失礼。私はフェブリエ。『銀鷹至高厨師連』に所属する厨士ですわ。得意料理はスープ。今回の対決、私は心から愉しみにしておりましたわ‥‥」
にっこりと告げると、いきなりエグゼの間合に飛込んで、その唇を奪うフェブリエ。
──オーーーーッ
周囲の人垣からは、そんな驚きの声。
「なっ‥‥いきなり何をッ‥‥」
そう叫ぶエグゼ。
「コレが私なりの挨拶。気に入った殿方なら尚更‥‥ね」
そう告げると、フェブリエはそのままエグゼに身体を凭れかける。
「どう‥‥今夜、私の所にいらっしゃらない?」
そう耳元に熱い吐息を吹き掛けて告げるフェブリエ。
「ふっ‥‥ふざけるなっ‥‥是から神聖なる料理対決なのに‥‥そんな不らちなななななことっ」
最後のほうは舌がもつれていますが兄さん。だいたい相手はパラですよ。きっと作戦です。
「あらぁん☆ そうなの‥‥残念ね‥‥」
そう告げると、フェブリエはそのまま其の場から離れていった。
「まったく‥‥俺には大切な女性が待っているんだ‥‥もしばれたら‥‥」
──ああ、ご心配なく。報告書はちゃんとギルドにて閲覧できますから
「ちょっと待った記録係。今の場面、頼むから削っておいてくれ!!」
そう私の胸許を掴んで叫ぶエグゼ。
──あの。私の胸許、見えてしまうんですが。
その瞬間、顔中を真っ赤にして離れるエグゼ。
「す、すまない‥‥頼む、この事も‥‥」
──まあ、考えておきましょう。
そしてエグゼは、ようやく落ち着きを取り戻すと、じっとロックフェラーの到着を待つのであった。
「フンフフーーン♪〜」
長い髪を束ね、エチゴヤエプロンをして鼻歌混じりで作業しているのはフェリーナ。
駕籠に入った大量の『ブラックカラント』の皮を丁寧に剥く。
それを鍋に入れ、ハチミツを加えて静かに煮詰め、ジャムを作るフェリーナ。
「あとは火を少し落として‥‥」
薪の量を減らし、火加減を調整。
その間に、小麦粉と卵を混ぜあわせる‥‥。
特設会場に作られた巨大なオーブンでクッキー生地を焼くと、それにブラックカラントのジャムを挟みこむ。
「よし、あとは最後の仕上げね‥‥」
そのまま他の仲間の料理とのバランスを考慮し、フェリーナは一休み。
会場の中を散策に出かけた。
「しふしふー。しっふふっふふーーーーん♪〜」
丁寧に食材の下処理をしているのは桂花。
といっても、テーブルの上で小麦粉と水を合わせた生地を丸め、叩きつけ、綺麗な布地で包んではひたすら右ストレートを叩き込んでいる。
ああ、華仙の名物料理の生地ですね?
その横では、丁寧に洗われた鳥の皮、脚、ガラが野菜と一緒に煮込まれている。
「これでよし。あとは、生地を寝かせて‥‥と」
パンパンと手を叩きつつ、桂花はよこでぐつぐつと煮詰まっているスープの味見を。
──ペロッ!!
「うーーーーん。まったりしていて、それでいてしつこくなく。肉の臭みも野菜の優しい甘さでカバー。これでと‥‥」
残るは、最後の仕上げのみ。
桂花は、じっと生地が熟成されるのを待っていた。
──一方
一通りの仕込みを終え、あとは最後の仕上げの段階までたどり着いた一行。
とりあえず群雷は他の料理人の様子を偵察している。
「アイヤ、皆たいしたこと無いアルネ‥‥食材の生かし方、まだ良く判っていないアル。やっぱり、食べ物ニ関シテハ、華仙教大国ノ歴史には勝てないアル‥‥」
そう呟いた時、群雷は目の前の料理人の動きに魅了される。
丁寧に肉を下処理し、その中に詰め物を作っている。
まるで、群雷の作っていたものと全く同じ様に‥‥。
(こ、コレハマズイアル‥‥ケレド)
最後のスープ。
そこてどんな仕掛けをしてくるかと、群雷は眺めていた。
──ベチャッ
いきなりその料理人は、泥の塊を練り上げる。
その中に砕いた岩塩、ハーブ、ハチミツなどを混ぜ込めると、それを肉の周りに塗り始めた!!
「アイヤ、富貴鶏アルカ!!」
その言葉に、対する料理人はニィッと笑う。
そして華国語で群雷に話し掛けてきた。
『こんな所で、本国の料理人と出会うとはな‥‥』
その男、服の腕に『銀鷹至高厨師連』の紋章が入っている。
『銀鷹至高厨師連の料理人あるね。そんなに良い腕を持っていて、何故』
『料理で人の心を支配する。その生き方に共感したマデだ‥‥』
それ以上の話はない。
群雷は額から流れる汗をぬぐいつつ、自分の俎(まないた)へと戻っていった。
●そしてまもなく時間です〜大根役者到着〜
──会場・審査開始
いよいよ時間となりまして。
審査員の一行は、順番に仕上がった料理の審査を開始していた。
「‥‥今回は、棄権かね?」
ガイヴァー卿が、冒険者チームの厨房にやってくる。
その後には、一般審査員達も着いてまわっているが、いまだ、冒険者チームの料理は完成していない。
「いや‥‥大切なものを待っている。俺たちの料理に必要なものを‥‥」
そう告げつつ、腕を組んでじっと待つエグゼ。
「まあいい。では、ここの審査は後回しにして、隣の審査を‥‥」
そう告げて、審査員一同は別の厨房へと移動。
──タッタッタッタッタッ
全身を汗だくにしつつ、ようやくロックフェラー到着。
「待たせたな‥‥これで完成だっ」
そう告げて、一人ずつに小さな包みを手渡す。
──シャキーーーン
掌にすっぽりと収まるサイズの華仙包丁。
それを手にして、エグゼは満足。
──シャキーーン
両手で握り、しっかりと腰を落として万能包丁を構える桂花。
「こ‥‥このどっしりとした重量感。バランスが‥‥また‥‥って」
『違うだろーーーー』
『違うでしょ──』
二人同時に激しい突っ込み。
「あ、それは逆だな‥‥」
頭から水を浴びつつ、そう告げるロックフェラー。
そしてきちんと桂花に『シフシフ用華仙包丁(シフール用ではない)』を、エグゼはには万能包丁を渡す。
「オー。綺麗に完成しているアル。ロックフェラ、天才アルネ」
群雷も自分の元に届けられた蒸し器の出来栄えに満足。
「えっと‥‥それではいきます‥‥」
完成した華仙鍋を手に、アイリスがいよいよ仕上げに入る。
「火加減を押さえて、‥‥まずはこの特製オイルで‥‥」
次々と野菜を入れ、火の加減を調整して炒め物を作り始めたアイリス。
「次に‥‥ビンドゥ家秘伝の調合で作ったこの香辛料と‥‥」
それはサンディの家にあった香辛料を調合して作ったガラムマサラ。
素早く華仙鍋を豪快に回すアイリス。
ここで火加減は一端強く、鍋から飛び出す野菜に香ばしさがさらに+。
そして火力を落とすと、野菜から溢れだした旨味たっぷりのスープが流れる。
そして最後にちょいちょいと仕上げをして‥‥
「アイリス特製サブジ(野菜の炒め煮)完成です‥‥」
そして、丁度戻ってきた審査員達が、早速試食を開始!!
「ほう‥‥香ばしく炒められた野菜と、このスープが絶妙だな‥‥」
「ピリッと辛い‥‥でも、それが野菜の甘さを補って‥‥いいですねぇ」
おや、意外と良い感じ。
その頃、真横ではエグゼが新型包丁を手に大ハッスル。
──シュタタタタタタタタタ
華麗なる包丁捌き。
クリス・ラインハルトから預かった豚肉の塩漬けを薄くスライス。
サッと味付けされたスープに卵を溶きいれ、フワフワ卵を浮かべる。
そこに、肉を加えて完成!!
「エグゼ特製、『いつまで飲んでいてもあきないスープ』の完成だ。心して飲んでくれ」
どれ‥‥と、まずはガイヴァー卿が試食。
「ふむ‥‥スープは良い味をしている。卵も固くなりすぎず、そしてこの肉!!」
──カッ!!
ガイヴァー卿の瞳が力一杯見開かれる。
「なんだこの肉は‥‥この優しい味わい‥‥」
しばしスープを眺めるガイヴァー卿。
「そうか‥‥この豚、かなり上質な野菜を使って育てられているな‥‥そして適度な運動‥‥この肉の締まり具合‥‥」
そのまま瞳を閉じてじっと何かを考えているガイヴァー卿。
そんなおっさんはほっといて。
「はい、こっちも蒸しあがりましたよー」
桂花の前には巨大な蒸し器。
今まさに、激しく蒸気が吹き出している。
──ガバッ
開かれた蓋の中には、小さい一口大の食べ物が綺麗に並べられていた。
「これは?」
審査員の一人が、桂花にそう問い掛ける。
「へっへっへ。しふしふ特製『小龍包』っ。熱いから気を付けてねー」
そう告げつつ、蒸し器の中から熱々を取り出すと、審査員達にふるまう桂花。
──プス
と、いきなり一人の審査員が器の中で小龍包を突いて中からスープを出してしまった。
「具はないね‥‥失敗?」
「ちがーーーーう。スープが具なのっ。熱々を口の中に入れて食べる!!」
「うむ。つまりははふはふはふはふはふはふはふはふはふ」
ようやく戻ってきたガイヴァー卿。
どうやら食べ方を心得ているらしく、口の中に放り込んでさあ大変!!
「ほうほふほふほふほふほふ」
「ふはふはふはふはふはふは」
審査員一同、言葉がでない。
そしてようやく食べおわったとき、一行の身体からドッと汗が流れ出した。
「これは‥‥旨し!!」
ここで出たか!! 最高の料理を食べたときにしかでない、ガイヴァー卿のきめセリフ『旨し!!』。
そして全員が一休み。
その間にも、群雷の料理は一同の前に運ばれてくる。
「そろそろ締めアル‥‥」
鍋には、鳥が丸々一羽スープの中で漂っている。
「華国北方を旅しタ際食した宮廷料理の鶏鍋アル。その名も参鶏湯(サムゲタン)。正に貴族様に相応しい一品ヨロシ」
そう告げると、群雷は静かに審査員達に取り分ける。
鳥の中からは様々な具が溢れ、スープを吸った鶏との香しい調和がとれている。
そして小皿に薬味をつけると、それを審査員達に差し出した!!
「‥‥こ、これは‥‥」
「なんていうか‥‥身体が浄化されるような‥‥」
「この地で育った食材か‥‥やはりな‥‥」
ガイヴァー卿は、静かにそう告げると食を止めた。
「あいや、大人、何か口に合わなかったアルカ?」
「嫌、最高だ。ただ、これは大量に食べるものではないのでは?」
「少し食べて満足‥‥次の為に‥‥大人、かなりの食いしん坊アル」
はっはっと笑う群雷とガイヴァー卿。
そしていよいよ最後の一品。
「食後のデザートをどうぞ‥‥」
フェリーナの家庭料理としてのデザート。
「キミの『これまで』にねぎらいを。キミの『これから』に激励を。キミに光と祝福がありますように!」
そう告げるフェリーナ。
そして審査員達は、ゆっくりとそれを食べ始める。
──ポリ‥‥ポリポリ
少しして、審査員達はなにも言わす其の場を立ち去る。
「‥‥私の料理だけコメントなし‥‥駄目なのかなぁ‥‥」
がっくりと落ち込むフェリーナ。
だが、ガイヴァー卿だけはそこで静かに食べていた。
そしてフェリーナに、皿を見てみるように告げる。
と、特製クッキーの置いてあった皿がいつのまにか空っぽになっていた。
「あ、あれだけ大量に作った筈なのに‥‥」
「今日の審査員達は皆、家族や恋人の為に『クッキーをおみやげ』にしたようだな‥‥」
良く見ると、審査員達のポケットが膨れているではあーーーりませんか!!
「それこそ、最高の誉め言葉では? ワシも孫の為に少しだけ‥‥な」
そう告げて、ガイヴァー卿はゆっくりと其の場を後にした。
そして誕生パーティーはさらに熱気を帯びる。
審査が終り、通常の来賓、街の人たちが初めての食べ物に舌鼓を打つ。
冒険者チームは、さらに仕込みと仕上げ開始、次々とやってくる客の為に地獄のような怒涛のラッシュが始まった模様。
なお、この時点でロックフェラーは叩き起こされ、全員の『使い走り』を担当させられた。
合掌。
●そして審査結果〜なんとか辛勝〜
──夕方・会場にて
華やかなパーティー。
その途中で、今回のパーティーを企画した貴族が審査結果を発表した。
「それではっ。本日もっとも素晴らしい料理を出したチームを紹介します!!」
ゴクッと全員が息を呑む。
「勝者・『エグゼと愉快な仲間たち!!』」
つまり冒険者チームね。
会場全体から割れんばかりの拍手が沸き起こる。
そしてチーム代表として、群雷が『全身筋肉疲労、もう動けません許してください』エグゼに代わり、石碑を受け取る。
そしてそのままパーティーは続けられる。
一行は、石碑に番兵を付けて皆で会場をめぐる。
「うぁ、ろっく、げんき?」
とあるオープンキッチンの一角で、ロックフェラーは久しぶりにチビオーガのギュンター君と対面。
「おう。久しぶりだな‥‥パリで皆心配しているぞ? いまなにしているんだ?」
そう問い掛けるロックフェラー。
「りょうりのおてつだい。みんなとたびしてる!!」
なかなかゲルマン語が話せるようになってきたギュンター。
「皆ねぇ‥‥」
キッチンの中では、気のよさそうなおかみさんや、全身マッチョの無口な大男、どっからどうみても優男という感じの人たちが、汗を流して働いている。
とても和気あいあいとした、いい雰囲気である。
「そうか。まあ、偶にはパリに戻ってやれな。鬼十郎が心配しているぞ」
「うぁ、しばらくもどれない。ぎゅんた、いまはりっぱなたびげいにん!!」
そんな会話のさ中。
「誰もいないアルカ‥‥」
銀鷹至高厨師連は自分達の負けが確定した直後、大量の料理を作り置いて其の場から出ていった模様。
そこにある『富貴鶏』を一口食べると、群雷は静かに呟いた。
「コノ料理ダケナラ‥‥私負けていたアル‥‥」
そしてパーティーは華やかな中で幕を閉じた。
●そして〜お待たせしました、エグゼ屋です〜
──パリ・冒険者街
無事に依頼を終えてパリに戻ってきた一行。
万が一、銀鷹至高厨師連の奴等にレシピを知られると不味いとのことで、一行はエグゼ屋に集ると、静かにレシピの再現を開始した。
大量の牛骨、ハーブ、野菜。
それらを静かに、そして丁寧に掃除する。
そして一旦火を通してアクを取ると、そこに様々な肉の部位を沈めていく。
火の加減は極弱め。
ここにゆっくりと水を足しつつ、火に掛けていくこと実に『60日』。
この間、少しでもアクが出たらすぐに取る。
濁ってしまうと駄目になるスープの作成が、今始まった!!
──依頼最終日
「ここで美味しいスープを配っているって‥‥」
「新しいメニューが出来たって‥‥」
「まだそのメニューは食べられないのですか?」
大勢の客がエグゼの元にやってくる。
その都度、エグゼはお客に頭を下げて引き取ってもらっていた模様。
「でも、流石はグローリアスロード。時間もかかるのね‥‥」
フェリーナは鍋の見張り番をシつつ、そう呟いていた。
「そうですねぇ‥‥はぁ‥‥」
と、冒険から戻ってきてから、サンディは落ち込みきみ。
「どうしたの?」
「いえ‥‥エグゼさんって‥‥恋人いるのかなぁ‥‥って‥‥」
そうモジモジしつつ告げるサンディ。
「うーん。どうなんだろうねぇ‥‥」
真実をフェリーナは知っている。
だが、それを告げるとどうなるか。
告げられたほうの気持ちを考えつつ、フェリーナは静かにそう告げていた。
〜To be continue