【シャーリィレポート】証言者

■シリーズシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 9 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月11日〜07月17日

リプレイ公開日:2005年07月17日

●オープニング

──事件の冒頭
 それはとある日の午後。
 いつもの冒険者ギルドでは、一人の考古学者が受付嬢と話をしていた。
「・・・・えーーっと、つまり、現在シャーリィさんの所に隠れているフイッシャー卿の忘れ形見、レイアー嬢を王宮まで護衛するのですね?」
「はい。ようやく彼女の体調も整いましたし、既に王宮には別の考古学者が使いに走っています。過去、グレイファントム領にて起こった全ての出来事、及びレイアー嬢の知る限りのシルバーホークについてを洗いざらい王宮にて報告し、その上で今後の方向を考えて頂きたいのです。ですが、それを黙って見ていられるほど、奴等も甘くはないでしょう。恐らくは全力を持って王宮へと向かうのを阻止してくるに決まっています‥‥」
 そこで護衛依頼ということになる。
「では、依頼内容は『ミハイル研究室より王宮までの、レイアー嬢の護衛』でよろしいのですね?」
「ええ。あと、レイアー嬢お付きの二人も共に護衛して頂けると助かります。彼女達もまた証人として発言することがあるかもしれませんし、なにより護衛して頂ける方がシルバーホークに関っていたのでしたら、その方たちの発言も時として有効となるでしょうから‥‥」
 ふむふむ。
「あと、都合上、シャーリィ嬢はミハイル教授の面倒を見ないといけないので動けないそうです。せめて、彼女と以前一緒に仕事をしていた方たちでしたら‥‥レイアー嬢も安心するかと思われますので、お願いします」
「善処しますわ」

──そして
「いよいよ、国が動くのかぁ‥‥この一件から、冒険者ギルドは手を引いたほうがよさそうだよねぇ‥‥」

●今回の参加者

 ea2165 ジョセフ・ギールケ(31歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea2705 パロム・ペン(45歳・♂・レンジャー・パラ・イスパニア王国)
 ea4473 コトセット・メヌーマ(34歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4509 レン・ウィンドフェザー(13歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5180 シャルロッテ・ブルームハルト(33歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

夜光蝶 黒妖(ea0163)/ フェリーナ・フェタ(ea5066

●リプレイ本文

●という事で〜兎にも角にも大勝負〜
──パリ〜プロスト領
 ガラガラガラガラ
 警戒な走りでパリを出発した『ファルコン号』。
 その中では、これからのことについての打ち合わせを行なっているメンバーがいた。
「つまり、プロスト領に向かう為には、今使っている一般街道か、よほどの事でもない限り使われない裏街道のどちらかしかないということですか?」
 御者台で手綱を軽快に操っているハン・フォードにそう問い掛けているのはジョセフ・ギールケ(ea2165)。
「ああ。それと別方向で向かうとすれば、真っ直ぐにヴォルフ領に向かう街道を利用するしかない。パリからヴォルフ領、そしてプロスト領へと向かうルートも確かにあるが、かかる時間は倍以上、それだけ危険に晒される。なにより、敵のど真ん中を突破するという方法は無策以外のなにものでもないしな‥‥」
 そう告げるハン。
「もし襲われるとしたら、どっちにゅ?」
 パロム・ペン(ea2705)がハンに問い掛ける。
「表街道は草原地帯が多い。見晴らしはいいから敵の襲撃に対してはある程度の対処も聞く。逆に裏街道はそのルートの大半は森で、しかも道は複雑に曲がりくねっている。襲撃には向いているな。だからこそ、今は使われていないのだが‥‥時間はかなり短縮が聞く」
 そう告げるハン。
「もっとも、今回は囮の馬車もある。二つの馬車で同時に研究所を出発すれば、敵の目も二つに分散する筈だな」
 そう告げているのはコトセット・メヌーマ(ea4473)。
 彼の提案もあり、『ファルコン号』の後には、ミハイル研究室の馬車が追従している。
「うまくいくといーの。そうすれば、こんどはきっと、とーさまもたすけにくるの」
 そう告げているのはレン・ウィンドフェザー(ea4509)。
 ちなみにレンのとーさま、シン・ウィンドフェザーはロイ教授の元で紋章剣を手にした一人でもある。
「いずれにしても、まずはプロスト領だな‥‥」
 そう告げるコトセットの言葉に、ハンは馬車を加速させた。


──そしてプロスト領
 無事にプロスト領にたどり着いた一行。
 そのままミハイル研究室に着くと、レイアー嬢に挨拶。早速出発の為の段取りを開始した。
「先日は挨拶もそこそこでしたが今回もよろしくお願いします」
 まずは丁寧にレイアー嬢やシィ・スリーピィ、アール・ベイカーに挨拶を行うシャルロッテ・ブルームハルト(ea5180)。
「私こそ、宜しくお願いします」
「本当に頼みますよ。今回の依頼が成功するかどうかで、このノルマンの将来が変わってくるのですから‥‥」
 シィがオロオロとしながらそう告げる。
「大丈夫にゅ。おいら達はプロの冒険者にゅ。どんなことがあっても、依頼は必ず遂行する‥‥それが、冒険者にゅ」
 ニィッと笑うパロム。
「そうですよ。パロムおじ様の言うとおりですよ。ですから、安心してくださいね」
「ああ。おじ様は強いからな」
「まったくだなおじ様」
「おじ様がいれば百人力だな」
「頼むぞおじさま」
 以上、シャーリィと楽しいご一行のおじ様コールでした。
「あーーーーーーーーーーーーーーーっ。だーーーかーーーらーー、シャーリィちゃん以外はおじ様禁止と何度言ったら判るにゅ!!」
 そのパロムの絶叫は敢えておいといて。

「では、今回は持っていかれないのですね?」
 そうグランに問い掛けているのはシャーリィ・テンプル。
 体調もかなり回復したものの、いまだベットから起き上がることすら出来ないミハイル教授の世話をしている為、シャーリィは研究室を離れられない状況となっていた。
 今回、『竜の紋章剣』の正式継承者であるグラン・バク(ea5229)に『ワルプルギスの剣』を差し出したのであるが、グランはそれを丁寧に断わった。
「ああ。剣士としての教えは大体理解した。今回は、その事を踏まえてここに置いておく」
 そう告げるグランに、シャーリィはゆっくりと口をひらいた。
「この紋章剣はマスター・オズの元に届けます。先日、教会でお話をしたのですが、ワルプルギスの剣は1度、マスター・オズの元に集められ、正式な継承者の為の訓練‥‥修行を始めるそうです。グランさんは、『竜の紋章剣士』の正式な通り名が継承される可能性を秘めていると‥‥ですから、必ず戻ってくださいね‥‥」
 そう告げるシャーリィに、グランは『ああ』と告げると、静かに荷物を手に外に出ていった。
「レイアーちゃん、証言内容は纏まったかにゅ?」
 そう横に座って羊皮紙とにらみ合いを続けているのはフイッシャー卿の忘れ形見、レイアー嬢。
 今回、彼女の持つ様々な情報や証言を王宮に届ければ、そこを手掛りにシルバーホークを一網打尽とすることができる。
 その為の依頼、その為の冒険者。
「ええ。父や祖父の残した証言、全てが明るみにでれば‥‥このノルマンに広がっていた雲も晴れるというものですわ」 
 そう告げつ、レイアーも荷物を纏めると、早速出発の準備を開始。
「しゃーりぃさん、レンはしつもんがあるの?」
「ん? 何かな?」
 丁寧に問い掛けているレンに、シャーリィはしゃがみこんでそう話し掛ける。
「わるぷるぎすのちょうさは、まだつづくのー?」
「暫くは‥‥お休みしないとならないのよ。せめてミハイル教授が元気にならないとね‥‥」
 そう告げるシャーリィ。
「そうなの‥‥」
 そう告げると、レンは静かに二階に上がっていく。
 そしてミハイル教授の部屋に入ると、ベットの上で身体を起こし、窓の外を見つめているミハイル教授の元に近づいていく。
「みはいるきょうじゅ、みんながまっているの‥‥はやくげんきになるの‥‥」
──ポン
 そう告げたレンの頭の上に、ミハイルの手が乗せられる。
「やさしい子ぢゃのう‥‥。名前はなんというのぢゃ?」
「レン。レン・ウィンドフェザーなの。とーさまもしんぱいしているの‥‥」
 そう告げたとき、教授はゆっくりと窓の外を見た。
「アトランティスが‥‥儂を呼んでいる‥‥いかねばならんのう‥‥」
 そう告げると、ミハイルはいきなり身体を起こそうとして、そのままベットに倒れこんだ。
「じっちゃん、無理したちゃ駄目にゅ!!」
 出発の為にレンを呼びに来たパロムが叫ぶ。
「‥‥おお。こんな儂を心配して‥‥何処の何方か知らないが、すまんのう‥‥」
「じっちゃん‥‥記憶がないのにゅ?」
 そう呟くと、パロムはミハイルの元に駆け寄った。
「パロムにゅ!! 一緒に遺跡でトラップを起動させて、何度も何度も皆をピンチに陥れたにゅ!! じっちゃん!!」
 しばらくして。
「おお、パロム。何時ここにきたんぢゃ? 皆は元気か? もう暫くあっていないのう‥‥」
 どんよりしていた瞳に光が戻り始める。
「いつって、今日にゅ。依頼で来ているにゅ。また出かけるけど、じっちゃんも元気を取り戻すにゅ!!」
 そう告げると、パロムはそのままレンを連れて皆の元にもどって言った。
 その瞳には、うっすらと涙が滲んでいた。
 

●そして奇襲〜見せて上げよう漢の花道〜
──街道
 シュンシュンシュンッ 
 街道を軽快に走っているファルコン号に向かって、突然大量の矢が雨のように降り注いだ。
「敵襲っ!!」
 そう叫ぶハン。
 そして一行も素早く戦闘態勢を整えるが、今回はあくまでも戦闘がメインではない。
 たとえどんなことがあっても、フィッシャー卿の忘れ形見であるレイアー嬢をパリ王宮まで届けなくてはならない。
 そう。

 たとえ、どんなことがあっても‥‥。

「前方からホワイトトルーパー接近。あと‥‥」
 そうハンが叫ぶ。
「ジェラール‥‥髑髏の仮面を付けたウィザードと、それと‥‥」
 そう告げた瞬間、馬車は加速を開始。
 前方には、漆黒の鎧を身に纏った『ダース卿』が立っていた。
 そして前方をかき分けて駆抜けた直後、グランは後方から素早く飛び降りた!!
「ここは引き受けた‥‥先に行けっ!!」
 そう叫びつつ、着地と同時に正面から向かってくるホワイトトルーパーに対して、いきなりソードボンバーを叩き込むグラン。

──ドッゴォォォォォォン

「グッ‥‥グラーーーーーーーーーン」
 そう仲間たちの絶叫が遠くに消えていく。
 そしてグランは静かに武器を構えた。
──ギン!!
 すかさず間合を詰めてくるホワイトトルーパーに対して、その一撃を剣で受止めると、カウンターでスマッシュを叩きこんだ。
「ダース。剣士同士、一騎打ちでどうだっ!!」
 そう叫ぶグラン。
「下らない。私達にはやらなくてはならないことがあるのです‥‥」
 そう告げつつ、グランに向かってスッと手を差し出すジェラール。

 だが。

 其の手を途中で遮ると、ダース卿が静かに前に出る。
「剣士同士か‥‥よかろう!!」
 すかさず腰に下げている紋章剣を引き抜くダース。
 それには刃は存在しない。
──ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
 そして突然、その柄からオーラが閃光を上げて吹き出した。
 オーラセイバー・ワルプルギス、ダースもついにその極意を体得した模様。
 だが、グランは其の手の剣に意識を集中し、オーラを武器にまとわせた。
 さらに、左手に持つシールドロングソードにもオーラを付与すると、守りをより強固なものにする。
「竜の紋章剣ではないのか‥‥」
「生憎とな。それに、剣士としての修行で、俺は確信を得ている。剣士に必要なものは、オーラをあつかう心。紋章剣は免許皆伝の証拠というところだろう‥‥」
──ブゥゥゥン
 其の手に握られている武器にオーラを纏わせるグラン。
──バジッ‥‥バジッ‥‥
 そしていきなり始まる激しい剣戟。
 お互いの攻撃は通常の戦い方とはまったく異なる。
 踏込むように攻撃し、そこから『円の軌道』を描くように剣を振るう。
 『突く』のではなく『薙ぐ』。
 その一進一退の攻防ともいえる攻撃を、グランは兎に角耐えぬいていた。
「ほう‥‥オーラの摂理を判ったとみえる‥‥」
「ああ。オーラセイバーの攻撃は、通常武具では受止めることは出来ない。だが、このようにオーラを武具に纏わせることで、それを受止める事は可能。ならば」
──バジッ!!
 激しい一撃を叩き込むグラン。
 その瞬間、ダース卿が後方に押し込まれた。
「遠心力と武器の威力で勝る‥‥か。だが!!」
──ブゥゥゥゥゥン
 ダース卿の持つオーラセイバーの柄、後方からもオーラソードが放出された。
「不死鳥の紋章剣。その名の記すとおり、破れてもまた、更なる力を持って再生される‥‥この力を見出すのに、時間が掛かった」
 ツインブレード。
 さらに柄の部分を両手で握ると、まるで円舞を舞うかの如く、ダース卿は攻撃を続けた。
──バジッ‥‥ドシュッ‥‥
 その一撃を受けきることが出来ず、グランの左腕のシールドソードが切断される。
 だが、グランもまた、ダース卿の腹部を掠めるようにソードを薙ぐ。
「くっ‥‥」
──ブゥン
 さらに流れるようにシールドソードを破壊すると、そのまま回転してグランの左腕をも切断した!!
──ドシュッ‥‥
 そして静かにソードを納めるダース卿。
「もう戦いは無理だ‥‥紋章剣を手に、もう一度再戦を希望する‥‥」
 そう告げるダース卿だが、グランは残った腕でなおも剣を構えた。
「悪いな‥‥漢なら、例え命に代えても、護りたい何かがあるだろう‥‥俺は、信じてくれた仲間を護る‥‥そのために戦うだけだ‥‥」
 そう叫びつつ、攻撃体勢に入るグランだが。
──ビシッ
 下半身が思うように動かない。
「剣士の茶番はそれまでですよ‥‥」
 いつしか、ジェラールはグランに対して石化を仕掛けていたようである。
──ドサッ
 その光景に、ダース卿は突然ジェラールに向かって紋章剣を構えると、そのまま斬りかかった!!
 それを紙一重で躱わすジェラール。
「貴様。今すぐ石化を解除しろ!!」
「冷静になりなさいダース卿。剣士としての戦いも重要。ですが、今為さなくてはならないのは『あの方の身の安全』。その為にも、レイアー嬢は生かしておいてはならないのです‥‥」
 そう告げられると、ダース卿はグランの方を今一度対峙する。
「所詮‥‥組織とはそういうものか‥‥剣士としての誇りよりも‥‥」
 そう告げつつ、グランは石化した。
「さて、この頭部を砕いてしまえばもう甦生は出来ないでしょうから‥‥」
 さらにジェラールが印を組み韻を紡ぐ。
 だが、その間には、ダース卿が割って入る。
「それ以上我々を愚弄するなら、本気で行かせてもらう。もう決着は付いた筈だ‥‥いくぞ」
 そう告げて、ダース卿は後退。
 ジェラールも、やれやれという表情で後を振り向くと、何かをホワイトトルーパーに指示。
 そのままトルーパーが二人、其の場に留まった。
 

●たどり着かなくてはならない〜街道の合流点〜
──街道の合流点
「来ますっ!!」
 すかさず印を組み韻を紡ぐのはコトセットとジョセフ。
 グランが馬車から飛び降りた翌日。
 一行はさらにシルバーホークの奇襲を受けていた。
 敵は馬にのって飛び出してくると、さらにその状態から攻撃をしかけてきた。
「あわわわわわ、レイアーちゃん達はそのまま馬車の真ん中にいくにゅ!!」
 そのままコトセットはパロムと、御者台の横でショートボウを構えているアンタ・バッカーに対してフレイムエリベイションを施す。
 ジョセフは走ってくる敵に向かって魔法の詠唱を開始するが、敵は魔法戦を想定してか、素早く動きジョセフの視界から逃れる。
「幌(ほろ)が無かったらそのまま詠唱を続けられるのだが‥‥」
 口惜しいジョセフ。
 だが、そんな中でも敵の猛攻は続いた。
「ぜんぽうにてきのいちぐんなのっ!!」
 ずっと前を警戒していたレン。
 と、いきなり前方から大量の矢が馬車に向かって襲いかかる。
──どしゅどしゅっ
 雨のように降り注ぎ、また、真っ直ぐに御者と馬に向かって襲いかかる矢の軍勢。
 レンは素早く印を組み韻を紡ぐと、前方の敵の一群に対してグラビティキャノンを発動させる。
──ドッゴォォォォォォン
 その一撃で前方に隙が生じる。
「このままさらに突破っ。後方の追撃は魔法でカバーしてくれ!!」
 そう叫ぶハン。
「追撃って‥‥」
 コトセットがそう叫ぶが、シャルロッテが後方から追いかけてくる敵に向かって詠唱を開始。
「ごめんなさい‥‥」
 ホーリーを発動させると、後から追いかけ始めた敵に向かって叩き込むシャルロッテ。
 さらにジョセフも、敵が後に回りこんだらこっちのものと、ウィンドスラッシュを敵の馬に向かって叩き込んだ!!
──ドシュッ
 ヒヒヒヒーーーーーーーーーーン
 雄叫びを上げで暴れる馬。
 そこを目掛けて、コトセットのショートボウによる弾幕が敵の更なる追撃を阻止していた!!
──ヒュンヒュンッ
「投げや射撃クレリックみたいにはいきませんがね‥‥それでもないよりはましでしょう!!」
 確かに、敵の動きが鈍る。
 そしてファルコン号は真っ直ぐにパリに向かって走っていった。


●パリ市内直前〜例え命を‥‥〜
──ファルコン号
 依然ダッシュを続けるファルコン号。
「もうすこしなの‥‥あとすこしで、おうきゅうなの‥‥」
 いまだ警戒の色は隠せないレンだが、そう告げてハンの顔を見たとき、全身から血の気が引いた。
 ハンの顔は真っ青になり、気合で手綱を握っているのであった。
 腹部を染めた真っ赤な血。
 それは、この前の大量の矢の襲撃を受けたときに受けた傷のようである。
「シャルロッテさん、いそいでリカバーなの!! ハンさんが‥‥しんぢゃうのー」
 そう告げると、シャルロッテは慌ててハンに近寄り、その後からリカバーを唱える。
 だが、効果はまるでない。
「一旦止めてください。急いで止血して傷を塞がないと!!」
 シャルロッテがそう叫んだ瞬間。
──シュンッ
 一条の光の矢が幌を貫通し、そのままレイアー嬢に突き刺さった!!
「くぅっ!!」
 腹部の傷を押さえて倒れるレイアー。
「エクスキュージョナーズにゅ!!」
 素早くレイアーの周囲を固めるコトセットとジョセフ、そしてパロム。
 シャルロッテはすかさずレイアー嬢の傷に対してリカバーを施す。
「あと少し‥‥なんだろ‥‥大丈夫だ。俺もプロの運び屋だから、一旦受けた依頼は必ず遂行する‥‥バッカー、バックから薬を」
 効果がないのは明白。
 それでもバッカーは薬を取り出すと、それをハンは受け取って一気に飲み干す。
──ドシュッ!!
 さらに矢が二本。
 幌の中では何処から矢が飛んでくるのかまったく判らない。
 そのため、護る為にも限界はくる。
 シャルロッテは次々と襲い来るムーンアローの傷をリカバーで癒しつづける。
「ヴォォォォォォォォォォ」
 そう叫ぶバッカー。
「さて、全員しっかりと捕まっていてくれよっ!! あと少しで到着なんだけどな‥‥」
 そう叫ぶハン。
 そしてその前方では『髑髏の仮面を被ったウィザード・ジェラール』が静かにファルコン号を見つめている。
 そしてゆっくりと腕を上げると、印を組み韻を紡ぐ。
「とめるのー」
 レンがジェラールと同時に印を組み韻を紡ぐ。
 そしてジョセフは、一気にスクロールを広げると、そのままサイレンスを発動させる。
──キィィィィン
 ジョセフの全身が輝く。
 サイレンスは発動したが‥‥レジストされた!!
 と、先に発動したのはジェラール!!
 全身がブラウンに輝く。
 と、ジェラールの前方、ちょうど馬車との 中間点に直径3mの巨大な穴が開いた!!
「足留めで十分ですか‥‥」
 ウォールホールで大地に穴を穿つジェラール。
「させるかよっ!!」
「そしておまけにゅ!!」
 いきなり方向転換、一頭の馬が穴に填まりそうになったがそれをなんとか躱わし、馬車はそのまま横道にそれる。
 そしてパロムはバックバックから取り出した釣り竿を振ると、そのままジェラールのローブを引っ掛けて、引きずり倒した!!
──プチッ
「ちっ。大物つれなかったにゅ!!」
 そのまま横道を爆走するファルコン号。
 どうやらムーンアローの追撃も収まったようである。
 そしていよいよ正面に城門が見えると、ファルコン号は御衛士の静止もぶっちぎってコンコルド城に突入した!!


●そして〜謁見〜
──謁見の間
 一行はそのまま曲者として取り押さえられる。
 だが、レイアー嬢が自分の素性を明かしたこと、偶然であるがニライ・カナイ査察官が王宮にて執務をしていたこともあり、一行はとりあえずその身分を明かすことは出来た。
 そしてレイアー嬢と冒険者一行は謁見の前と案内されていった。
 其の場では、ノルマン国王である『ウィリアム三世』、そしてその横ではブランシュ騎士団長であるヨシュアス・レインがいる。
 周囲には騎士団の精鋭達が常に冒険者達の動向を監視している。
 そんな中、レイアー嬢はグレイファントム領での出来事、彼の者が悪魔崇拝を行なっていたという事実を明かした。
 そしてその背後に存在するシルバーホークの影についても告げる。
 奥では、書記官がレイアーの証言を全て記し、さらに国王もまた、真剣な眼差しで証言を続けるレイアー嬢に対して温かい眼差しを向けていた。
「‥‥以上が、私達『フィッシャー家』の知るシルバーホーク及びグレイファントムの悪事の全てです。今一度。シルバーホークは悪魔と契約し、このノルマンの全ての命を悪魔に捧げ、さらなる力を得ようとしています。グレイファントムは、彼のものに手を貸し、領内の多くの命を生贄とし、さらにいくつもの施設を構築。アサシンガールや魔物による『魔獣兵団』など、その背後には国家レベルにも匹敵するのではないかと思われる力を有しつつあります。これはもう、ノルマンという国に対しての宣戦布告と思って頂いて間違いはないでしょう‥‥」
 そしてしばし。
「ヨシュアス。今の証言、先日のニライの報告書と相違ない。ニライの『ブラックウィング騎士団』に補充兵と物資の援護を頼む」
「陛下、必要ならば『ブランシュ騎士団』も動きますが」
「それはならぬ。マントを始めとする、いくつもの街で、まだ不穏な動きがある‥‥」
 そしてウィリアム三世は、冒険者達に対して静かに口を開く。
「よくぞ、ここまで証人を連れてきてくれた。礼を言う」
 その時。
「レンだけじゃないの! パリじゅうのぼうけんしゃのみんなが、シルバーホークとたたかってるの! このくにをまもるために、そしてシルバーホークにころされちゃったひとたちのために、パリのみんなにたちあがってほしいの!!」
 レンがそう叫ぶ。
「約束しよう」
 ウィリアム三世の言葉で、謁見は終った。
 そしてレイアー嬢はそのまま安全の為に王宮内に身を潜める形となり、冒険者はそのまま手当を受けたハンと共に王宮を後にした。
 

●命〜まだ死ぬときではない〜
──とある村
「俺は‥‥」
 ゆっくりと天井を見つめているのはグラン。
「気が付いたか。危ないところだったな」
 そう告げるのは、一人の神父。
──ガバッ
 いきなり身体を起こすグラン。
「まだ無理をしないほうがいい。貴公は殺されかかったのだから‥‥」
「助かったのか‥‥貴方が俺を?」
「ああ」
 そう告げる神父に、グランは頭を下げる。
「しかし、街道で石化している貴公を見たときは驚いた。しかも、ハンマーを手にした暴漢が、今にも貴公を砕こうとしていたのだからな‥‥ぎりぎりの所で間に合ったようだ」
 そのまま男はグランの方を向く。
「自己紹介がまだだったな。私はメイス・ウィング。旅の剣士だ‥‥。君の傷は、連れのクレリックが癒してくれた‥‥」
 その剣士の姿を見て、グランはふと、その腰を見る。
 一振りの紋章剣が、その腰には納められていた。
「ワルプルギスの剣士‥‥か」
「なつかしいな。その呼び名は。私は最近になって剣士を引退し、ノルマンに戻ってきた。それまでは武者修行で各地を歩いていたからな。それより、なにがあったのか教えて欲しい。君からは、同じオーラを感じる‥‥」
 そして、グランは、ゆっくりと今起こっている事件についてメイスに告げると、その日、静かにパリに戻った。
「まだ、運命は俺を必要としているか‥‥」
 その道中、懐から取り出した一枚の遺書を、苦笑しつつ破り捨てながら‥‥。


〜To be continue