●リプレイ本文
●さて‥‥
──シャルトル地方・プロスト領・ミハイル研究室
アビス出発。
シャーリィの決意は硬い。
「入る事の出来る入り口は二つ。ワシらはこっちのほうから入ったのぢゃ‥‥」
ミハイルとプロスト、二人はアビスに向かう冒険者達に、自分達の知っている限りの情報を伝えていた。
「私達が入ったのは『生者の門』です。もう一つの『死者の門』とは対でありますが、私達には『死者の門』を開くことは出来なかったのですから‥‥」
「ねー、それはどうしてなのー?」
無邪気に問い掛けるレン・ウィンドフェザー(ea4509)。
「生きているからです。だからこそ、その扉は開きません」
「つまり、死者のみが潜る事の出来る扉ということか?」
その言葉にコクリと肯くミハイル。
「罠はどうなんだ?」
「デストラップですよ。まず、大前提として発見する事です。そして決して作動させない事です‥‥作動した場合、取り返しのつかない事があります」
「‥‥成る程」
割波戸黒兵衛(ea4778)がうんうんと肯く。
「当時の地図はないのか? 特にトラップの位置について詳しく書かれていた奴は?」
「罠解除はシルバーホークの担当でしたので‥‥彼が別にそれらの記された地図を持っていました。そのため、今は私達の手元にはないのです‥‥」
黒兵衛、それは残念。
「ひとつ聞きたい。これは正直に答えてほしいのだが、プロスト卿たちがアビスに突入したときのパーティーと俺たち、どの程度の力量の差がある?」
それはフィル・フラット(ea1703)。
「正直に答えましょう。今の貴方たちは、私やミハイル教授達が現役でアビスに突入したときの半分程度の実力しかありません‥‥」
そのプロスト卿の言葉に、ミハイルは静かに肯いている。
「あのー。アビスについてしつもんなのー」
レンがそう二人に問い掛ける。
「ええ、かまいませんよ」
「げんえきのきょうじゅたちやシルバーホークしてんのうでもてったいをよぎなくされたっていうアビスには、どんなものがあるのー?」
そう問い掛けるレンに対して、プロストが何かを思い出しつつこう告げる。
「力を力で返す存在‥‥としかいえませんか?」
そうミハイルに問い掛けるプロスト。
「そうじゃなぁ。わしらも、あれの正体はまったくわからないのじゃから‥‥」
その言葉に、レンがやきもきしつつさらに問い掛ける。
「あれってなんなのよー」
「あれはあれとしか‥‥ああ、アビスですよ」
「うむ。アビスぢゃな」
「教授、まったく意味が判らないんだが?」
フィルの突っ込み。
「うーむ。つまり、アビスは一つの生命体のような感覚があってのう‥‥生きている迷宮とでもいうか‥‥まあ、全てが危険なのぢゃよ」
「力には力ねぇ‥‥」
黒兵衛が腕を組んで静かにそう呟く。
「シャーリィさんは、アビスについてなにか判ったことはないのですか?」
そう問い掛けているのはシャルロッテ・ブルームハルト(ea5180)。
「実は、私はそれらについて記されている石碑の解析が出来なかったのです‥‥それで教授に知恵を借りていました」
シャーリィですら解析不能の石碑とは。
「あと質問、もし今後に松五郎とこの竜とか軍馬借りたいと言ったら貸してくれる? みんなに」
最後にそう問い掛ける無天焔威(ea0073)。
「必要ならば。もっとも、そこまで追い詰められるとなると、私達も動く覚悟が必要になるでしょうから‥‥」
そう告げるプロスト卿。
そしてプロスト卿より借りた馬車に、同じくプロスト卿から手渡された大量の食糧とポーションを積み込むと、いよいよ一行は出発となった‥‥。
●道中〜選ばれしものと挑戦する者〜
──街道沿い。キャンプ
夜。
一行は軽い食事を取ると、其の日はそこに泊まることにした。
翌日朝出発すれば、昼には目的地にたどり着く。
そのために、今は英気を養っておく必要があったのだが‥‥。
「手合わせをしたい」
グラン・バク(ea5229)がそう焔威に話し掛ける。
「一体どうして?」
「龍の紋章剣も同じご先祖由縁、お互いの剣は兄弟のような関係‥‥故に、双方の実力を見たい‥‥」
そう告げると、グランは静かに意識を集中する。
体内に沸き上がるオーラを循環させ、それを全身に静かに纏い始める。
そのグランのオーラに呼応するように、竜の紋章剣の刀身は静かに輝き始める。
「正式継承者はやっぱりちがうねーっ」
そう告げると、焔威も静かに剣を鞘から抜いていた。
聖劍ディスティニー。
焔威がそう名付けた紋章剣ダインスレフは、静かに鳴動を続けていた。
あるべき場所に刻まれている筈の紋章が削られた紋章剣。
人を斬ること敵わず、命なき者を切る為の剣・アイテムスレイヤー。
それに命の剣、ワルプルギスの紋章剣の力が加わった事で、剣は聖劍ダインスレフへと生まれ変わったのだが。
いまだ命あるものを貫くことは出来ない。
「こころにわだかまりなく、ありのままに事実を捕らえ‥‥くもりない鏡、波の無い水面の如く」
心を研ぎ澄ましていく焔威。
──ブゥゥゥゥゥゥン
そして、グランの手にした竜の紋章剣もまた、静かに鳴動している。
(‥‥紋章剣同士の呼応とは違う‥‥危険を伝えている?)
チラツと正面で構えている焔威を見るグラン。
(剣にみいられたわけではない‥‥か。しかし‥‥)
危惧する事は山のようにある。
それがこの旅で解消されるかどうか‥‥。
──バジィィィィィッ
そして素早く拳を交える二人。
アイテムスレイヤーの力で竜の紋章剣が真っ二つにされるかとおもいきや、オーラを刀身に纏った刃は刃こぼれ一つしない。
「おおっとぉ‥‥」
そのまま間合を外す焔威。
そしてグランもまた間合を取ると、再び踏込んで刃を交える!!
──バジッ、バジッ
オーラのぶつかりあう音と、生命の火花が刀身から弾ける。
(それにしても‥‥これが‥‥)
焔威には見えていた。
グランの背後にうつる、竜の姿をしたオーラが。
それが紋章剣の力であることは判っているが、その雄々しいまでのオーラに、焔威は一瞬だけ後込みしてしまう‥‥。
「ふぅ‥‥腕はまだまだだが、気迫は十分か‥‥」
額から流れる汗をぬぐいつつ、グランは静かにそう告げる。
「まだまだねぇ‥‥厳しいことで‥‥」
そう告げるが、焔威も流れる汗を拭うとグランに一礼し、そのまま仲間たちの元へと戻っていった。
そしてその後ろ姿を見つつ、グランは今一度考えた。
最後の一撃、剣が触れ合う直前。
焔威の背後のオーラが、修羅の姿に変貌していったのを‥‥。
(戦鬼(せんき)か‥‥)
●ということで、いよいよです〜はっはっはっ〜
──プロスト領辺境『ラヴィーヌ』
無事にアビス管理人である『ディープロード』との接触も成功し、一行は某酒場でアビス遺跡の入り口まで案内された。
そして正面『生者の門』の前にたどり着くと、ディープロードが静かに何かを唱える。
やがて音が大きく響き渡ると、生者の門は静かに開いていった。
「扉は内側からも開けられます。コマンドワードは‥‥ですので」
そうディープロードはシャーリィの耳元で告げる。
「サー・ディープロード、一つ尋ねていいかー?」
丁寧にそう話し掛けるのは焔威。
「ええ」
「確か、ここはシルバーホークの四天王も突入したんだよなー? そいつらの怪我の具合はどうだったんだ?」
「さぁ‥‥直接見ていたのは私ではありませんし‥‥まるで逃げるように馬車に乗って消えていったそうですから‥‥」
逃げるように?
そして一行は、荷物を確認して隊列を整えると、いよいよ突入開始となった!!
──第一階層・始まりの回廊
さて。
とりあえず状況を説明しよう。
まずは隊列から。
〜〜〜図解〜〜〜
・上が先頭になります
・遺跡内部での灯はシャルロッテとフィルが担当
・二人はメンバーからランタンを借用
・マッパーはシャーリィが担当
トラップ関係は割波戸が、そしてフィルがサポートにつく
・戦闘時はシャーリィが荷物の護衛
・また、必要に応じて各員が松明の準備
・戦闘時隊列は以下を参考に臨機応変
・移動隊列
割波戸
グラン、フィル
レン
シャーリィ
シャルロッテ
焔威
・戦闘隊列
グラン、フィル、焔威
レン、シャルロッテ
シャーリィ、割波戸
〜〜〜ここまで〜〜〜
──コンコン
最前列で長い棒を使って床や天井、壁をコンコンと叩きつつ、黒兵衛は罠を警戒していた。
「ねぇ、ほんとうにだいじょうぶなのー?」
心配そうにそう問い掛けるレンだが。
「「ほら、声を掛けるな。わしが『アビス』とよろしくしているのに。ほうら、ここはどうじゃ?」
そう告げつつ、黒兵衛は静かに意識を集中する。
──コンコンカンコンコン‥‥
「ここがトラップと‥‥こことここと‥‥」
一つ一つ真剣に調べては、仲間たちにそれを説明していく黒兵衛。
そしてゆっくりではあるが、確実に前に進んでいった。
──正面行き止まり
目の前には巨大な悪魔のレリーフ。
「さて‥‥困った」
黒兵衛が腕を組んで考える。
「何かあったのか?」
そうグランが問い掛けるが、黒兵衛は前のレリーフを指差す。
「幻影なんだ。この壁全体が」
「つまり、そこにはなにもないっていうことですか?」
そう問い返すシャルロッテに、黒兵衛が静かに肯く。
「ああ。問題は、その先に何があるかということなんだ‥‥」
つまり、先に進むにも幻影が邪魔で先が確認できず、危険かどうか解らないのである。
「とりあえず、戦闘準備だけはしてくれ‥‥」
そう伝えると、黒兵衛はそーっと幻影の向うに棒を差し出す。
そして軽くふりまわすと、向うの安全を確認してからゆっくりと入っていく。
まずは頭だけ。
そして次に身体を幻影の向うに。
──幻影の向う
「これはまいった‥‥」
黒兵衛の前に広がっていたのは、果てしなく広がる空間。
ただひたすら、床が伸びているだけ。
天井と壁はどこにも見えない。
そして唯一、後に壁が見えるだけである。
「さて、とりあえず状況を説明しに‥‥」
潜った壁を再び潜って、黒兵衛は仲間たちの元にもどっていく。
そして状況を説明すると、そのまま全員で幻影の中に潜っていった‥‥。
●そして〜突入後・3日〜
──第42階層
すでに一行は2日、外の光を見る事が出来なかった。
ここに至るまで、様々なトラップを潜りぬけた。
アンデットなどのガーディアンはシャルロッテのタリズマンでその力を衰えさせ、全員で軽く処理。
強敵であったミノタウロスも、焔威とグラン、そしてフィルの3人でなんとか迎撃。
そこは、外に出る事の出来ないモンスター達の巣窟でもあったのである。
問題は一つ。
偶然通りかかった回廊がワンウェイであった事。
つまり、引き返す事の出来ない魔法の回廊に、一行は足を運びこんでしまったらしいのである。
「‥‥ここの通路を抜けるとここだろう?」
「ああ、ここはさっき来た部屋だな‥‥」
幻影と実像の入り交じった四角い部屋。
それらが幾重にも連なる迷宮回廊に足を踏み込んでいたのである。
──コンコン
壁の一部を叩きつつ、黒兵衛が解説。
「理論上、ここをぶち抜いたらいっきに外に戻る事の出来る回廊にたどり着く筈。但し、どうやってぶち抜くか‥‥」
同じエリアをぐるぐると回りつつ、一行は疲れがとれない状況でかなりまいっている。
「うーーーーっ。こんなかべこわれちゃえなのーーーーーーーーーーっ」
──キィィィィィィィィィィィィン
河辺に向かってグラビティキャノンを叩き込むレン。
──ドゴォ‥ガキィィィィィィィィン
だが、レンの魔法は壁の手前で弾かれ、真っ直ぐにレンに向かって返っていく!!
「危ないッ!!」
咄嗟に焔威がレンを抱き上げる。
だが、焔威がそのままグラビティキャノンの直撃を受けてしまった。
「あうあう‥‥ごめんなさいなのー」
「ふう‥‥魔法は返ってくるか、やっぱり‥‥」
まさに術者殺しのエリアである。
「なら‥‥」
焔威がシャルロッテにリカバーを受けているトき、フィルがゆっくりと妖精の剣を引き抜く。
「まてフィル‥‥」
グランが素早くロングソードをフィルに投げる。
それをバシッと受止めると、フィルは静かに肯いた。
「魔法武器はダメということか‥‥ならっ!!」
そのまま一気に河辺に向かってバーストアタック!!
──ドゴ‥‥パチパチパチパチ
まさに渾身の一撃が壁に直撃‥‥だが、命中した壁が格子状に輝くと、いきなり刀身が砕け散った!!
その衝撃で、フィルも後方に弾き飛ばされる。
「フィルっ‥‥」
黒兵衛が慌てて駆け寄って行く。
フィルの右腕はざっくりと抉れていた。
まるで、自身の攻撃が真っ直ぐに返ってきたかのように‥‥。
「シャルロッテさん、フィルの手当を」
「はい‥‥偉大なるセーラよ。彼の者に癒しの加護を‥‥」
──キィィィィィィィィィィィン
フィルの傷が癒されていく。
そして一行は、一旦部屋の中央に集ると、もう一度地図を見直した。
「対魔法防御、加えてノーマル武器による攻撃さえ跳ね返す『攻性障壁』か」
「ああ。ここまでのものとなると、迂闊に紋章剣すら引き抜けないか‥‥」
フィルの言葉にグランもそう告げる。
「ねー、むてんのせいけんはどうなのー?」
レンの指摘に、一行は一瞬だが希望の光を見たが、焔威は頭を左右に振る。
「アイテムスレイヤーにアイテムスレイヤーをぶつけるのかよ‥‥」
それは自殺行為である。
やむなく、一行はそのまま地図を広げて迷宮の法則性を考える。
そして4時間後、なんとレンが出口までの法則の解析に成功した。
●一端出口へ〜途中でみつけた部屋〜
──とある部屋
そこはガーディアンのいない宝物庫。
中央には台座が安置されており、その近くには砕けた鎖が散らばっている。
そして台座の中央には、なにか古い文字が刻みこまれていた。
「えーっと‥‥『汝、力を得たいならば鎖を断ち切って剣を解放せよ‥‥』ですか」
シャーリィが静かに台座に刻まれた文字を読む。
「何か剣が封じられていたという事か」
黒兵衛が静かに呟く。
「そのようですね‥‥えっと『剣もつ者には幸運が訪れるであろう‥‥汝、剣の石と共に歩むなら‥‥この剣は汝に‥‥』」
そう呼んでもシャーリィは身体を震わせ始めた。
そこに納められていたのは、紛れもなく『幸運剣フォーチューンブレイド』なのであろう。
「シャーリィさん‥‥大丈夫ですか?」
「え、ええ‥‥ここからは、私の解析能力に掛かっていますので‥‥これが絶対という保障はありません‥‥」
そう断りを入れてから、シャーリィは再び解析を続けた。
「『この剣は汝に力を与えるであろう。一つの奇蹟は大きな奇蹟へ。命はやがて力となり、汝は覇王として君臨するであろう‥‥』」
そう読み終えたとき、其の場は完全に凍り付いた。
「‥‥まさか‥‥覇王剣ダイナスト‥‥」
誰かがボソリと呟いた。
ノルマンに住まう冒険者、そして戦士なら、聞いた事があるかもしれない伝説の剣。
それの痕跡が、目の前にある。
そして、其の場に昔居合わせたものが、今ノルマンを危機に追いやろうとしているシルバーホークだとしたら。
そして、彼の持つ剣『フォーチューンブレイド』の正体が、ダイナストだとしたら‥‥。
まもなく、ノルマンは最大の危機に陥るであろう‥‥。
「戻りましょう‥‥」
そうシャーリィが告げると、一行は静かに回廊を戻っていった。
──その途中
とある回廊。
その通路の一角で、グランと焔威の紋章剣は共鳴を開始した。
だがそれは、すぐに何処か遠くへと消え去ってしまったのである。
(‥‥近くまで来ていた)
(何者かが、二つの紋章剣を手に徘徊している‥‥)
だが、今は無事に帰路を探し出し、帰還する。
そして一行は、アビスに突入してからじつに6日ぶりに地上の光を見る事が出来た。
●ということで帰還〜ブロスト領動乱〜
──ミハイル研究室
「ふむ‥‥随分とワシ達の知らないトラップが増えているようぢゃな‥‥」
静かにそう告げているのはミハイル教授。
その横では、プロスト卿が黒兵衛達の作ってきた地図を広げ。何かを検証している。
「‥‥このポイント、ここの幻影はブラフでしょう。おそらく外に何かあって、それを隠す為の幻影かと。そしてそれに気付かずに飛込んだ先は無限ループと。おそらくこことここ、そしてこの部屋の手前までに、何か仕掛けが施されている筈です‥‥」
トントンと指で地図を叩きつつ、黒兵衛にそうアドバイスしているプロスト卿。
そして外では、一時帰還していたマスター・オズと焔威、グランの二人が何か特訓をしているようである。
──ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
激しく揺れるオーラの輝き。
右腕に龍、そして左手にロイ教授より届けられたのであろう業火を握っているグラン。
その吹き出しているオーラに、グランの意思が曲りつつあった。
「こ‥‥こんな力を‥‥どうやって‥‥」
「龍の剣は業火によって増幅される。それは身につけているだけでも十分、その力を発揮している筈ぢゃよ」
そのマスター・オズの言葉に、グランは一旦業火を納める。
そして今度は両手で龍の紋章剣を握り締めると、静かに体内のオーラを感じ始める。
(俺の中の‥‥オーラ‥‥命のほとばしり‥‥)
──ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
今度はオーラセイバーの刀身が細くなる。
それは力が弱くなったのではない。
むしろ、収束され、より力が増している感じであろう。
「業火の持主はいまだ決定せず。候補生がいるが、使いこなせるかどうかは‥‥」
そしてその横では、焔威もまた疾風とダインスレフを両手に構える。
だが、ダインスレフの力は疾風の力を無力化し、増幅効果もなにも発揮されない。
「これはこれで、一つの紋章剣として完成しているというところかなー?」
「恐らくはな。もっとも、その紋章剣が何の力を示しているのか、それがまったく判らないというのも事実ぢゃ」
知られている紋章剣は全部で13。
そのどれにも、焔威の紋章剣はあてはまらないのである。
「どういう事?」
「試作か失敗作か‥‥いずれにせよ、我々の知る紋章剣ではないというのは確かぢゃて‥‥」
そのまま二人はマスター・オズの元で、残った時間を修行モードに。
──一方、ノートルダム大聖堂では
「つまり、悪魔やアンデットが出てきてから祈りを捧げても、すぐには聖域は作られないという事ですか?」
それはシャルロッテ。
今回、地下迷宮の中で下級に属する悪魔と遭遇したらしい。
だが、ヘキサグラムタリスマンはその力を発動しなかったのである。
「左様。祈りが届くまで、タリスマンはなにも効力を発揮しません。悪魔と遭遇してすぐに結界を張ることはできないのです。最低10分は祈り続けなくては‥‥」
聖ヨハン大司教が丁寧にシャルロッテに教えを説く。
「それでは時間が間に合いません‥‥」
「ええ、そうでしょう。元々戦いになったときに使う為のものではありませんから‥‥」
そう告げると、大司教は静かに十字を切る。
そして目の前のタリズマンに手を当てると、そのまま10分間の祈りを続けた。
──ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
結界が広がる。
「戦いではなく、身を護る為に。この中は聖なる力で封じられています。そんな場所に悪魔が自ら入ってくる事があるとすれば、それはかなり追い詰められた場合でしょう」
そして結界が消えると、タリズマンをシャルロッテに戻す。
「使い方は一つではありませんよ。貴方の発想で、これはさらなる力を解放する事でしょう‥‥」
──一方・レン
「対魔法結界ですか‥‥それはお手上げです」
レンに対して魔法のレクチャーをしていたプロスト卿が、静かにそう告げた。
「やっぱりダメなのー?」
「ええ。正確には、結界の力より強い力でそれを破壊するという方法も考えられますが、そのような場所に作られている結界です、並み大抵の力では破壊することは出来ないでしょうから‥‥」
いずれにしても、レン自身が更なる力を身につけるか、より高位の魔法を唱えられる力を身につけるか、そのどちらかしかなかった。
そして一行は、パリに戻る。
途中、サン・ドニ修道院では一人のシスターが行方不明となり、さらにその墓地よりブランシュと呼ばれる少女の遺体が盗みだされたという報告が、マスカレードよりもたらされたのだがそれは別の話。
まだやらなくてはならないことがある。
アビスを再び訪れる日が必ず来る。
そして、紋章剣を手に徘徊している謎の存在。
まだまだ、謎は多かった‥‥。
〜To be continue