●リプレイ本文
●錯綜する〜怒りの在処〜
──マスカレード戦役
ガッシャァァァァン
テーブルに向かって激しく手を叩きつけているのはアルジャーン。
「協力しろですってぇ!! 私は、妹を助けてくれるからということで、貴方たちに協力したのよ。それなのに、貴方たちは私の妹を殺した。そんな奴に、誰が協力するものですかっ!!」
店内では、アルジャーンが暴れている。
その側では、スニア・ロランド(ea5929)がアルジャーンに対して、今回の依頼で必要な『アサシンガール達の似顔絵』を作る為に、協力要請していたところであった。
興奮しているであろうアルジャーンを落ち着かせる為、リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)は高速詠唱でアルジャーンに心を落ち着かせる為のメロディーを歌ってみたが、それすら効果を発揮しない。
「その件なら、本当に申し訳なかったわ。私達だって、生きるのに必死で‥‥でも、もう大丈夫よ。マスターが教会に連絡をとって、貴方の妹の遺体は確保したの。今、仲間たちがストーンを施して、腐敗をそれ以上進行しないようにたのんであるから。あとは教会で甦生してくれる事になっているから!!」
必死にそう叫ぶスニア。
「甦生ですって? 私達は多くの命を奪ってきたのよ。そんな血に染まった魂を、ジーザスは助けの手を差し伸べるとでも思っているの!! 甦生なんて無理よ‥‥」
そう叫ぶと動じに、アルジャーンは店から外に飛び出していく。
万が一のことを考えて、こちらに向かっていた無天焔威と入れ違うことになるとは、まさか誰も想像していなかったであろう。
「今飛びだしていったんだな!! たった今だなっ!!」
そう叫ぶと、焔威もアルジャーンを追いかけて外に飛び出していく。
「ふぅ‥‥困ったことになりました‥‥」
スニアがそう呟いた時、入り口から以前みた少女が姿を出した。
「がぁがぁ。お姉ちゃんは?」
「アンリっ!!」
──ドタタタタ、ドガッドゴッガッシャーーーーーン
ああ、クリス・ラインハルトの身に何が起こったか想像はみなさんにお任せします。
ということで、クリスは入り口でようやくアンリエットとご対面。
「元気だった? 今、アンリのお姉ちゃんに合わせてあげられるように、みんなにお願いするからね‥‥」
そう告げるクリスだが。
──グイ
アンリエットはクリスの服の裾を掴むと、ぐいぐいと引っ張る。
「がぁ君なおして、クリスおねーちゃん」
ずっと。
クリスを捜していたアンリ。
大切な宝物は、大切なお姉ちゃんに。
「そう。私でいいんだね?」
「がぁがぁ」
にっこりと微笑みつつ、アンリエットはクリスに壊れた『ガァ君』を手渡すと、そのまま静かにそこに腰掛ける。
そしてクリスも、慣れない手付きで一生懸命に、ガァ君を直してあげていた。
夕方、修理したガァ君とアンリはまた何処かにいなくなっていた。
「また、きっとあえるよね‥‥アンリ‥‥」
●思考する
──ロイ教授思考戦線
「ふぅむ‥‥どうやら、紋章剣と関係のある地図のようじゃな‥‥」
ロイ考古学研究室。
ランディ・マクファーレン(ea1702)とラシュディア・バルトン(ea4107)の二人は、前回の依頼で入手した11枚の地図を手に、ロイ教授の元を訪れていた。
そしてその地図が何を示しているのか、教授の意見を伺っていたところである。
最初はなにも語ってくれなかったロイ教授。
二人が何かを隠していることを悟ったのであろう。
止む無くランディは全ての真実をロイ教授に告げると、ようやく教授は静かに口を開いてくれていた。
「どの辺りでそう思う?」
「こことここ。この地図には竜の刻印。これは翼の刻印。この二つの刻印の記されている地図は、わしが以前訪れた遺跡の地図じゃからな。あと、これとこれは遺跡ではなく、『剣士の伝承』が伝えられている村、こっちは『剣の都』、そしてこれが『剣士の居留地』と呼ばれている場所に間違いはない」
そうランディの問いに続けて答えていくロイ教授。
「もしそうなら、これで紋章剣は回収できる‥‥」
「まあまちなさい。必ずあるというものではない。11枚のうち、竜の刻印、翼の刻印の2枚はもう意味を為さない。既に剣は回収してしまっているからな。剣の都と剣士の居留地の二枚は、それぞれの場所に剣士が存在しているのは確実。えーーっと、確か‥‥」
頭を捻るロイ教授。
「アレックス卿とマスター・オズ。この二人の居所を示す地図か‥‥これで使えないのは4枚。残る7枚のうち、この二つはわしが以前訪れたことのある手掛りの村。まあいってみる価値はあるじゃろうて。残りの5枚、これは解読を必要とするのう‥‥。どうじゃ? ワシに預けんか?」
そう二人に告げるロイ教授。
「原本はある場所に戻さなくてはならない。必要ならば、写してくれると助かる。ただ、約束してくれ、さっきも話したとおり」
「判っておる。他言無用、何か判ったら、連絡はするわい‥‥と、あとはいいのかな?」
そう告げるロイ。
「さっき話をした事に関連するのだが。生贄の祭壇があったが、一度召喚された悪魔に生贄の儀式は必要か?」
ランディの問い。
「必要はないのう。召喚の為には必要かもしれんが、召喚したあとならば必要はない。尤も、召喚した悪魔が、さらに何かを召喚しようというのであれば話は別じゃが」
「悪魔が何かを 召喚?」
ラシュディアが頭を捻る。
「うむ。例えば自分の部下。忠実なる手下とか‥‥」
ああ、何となく納得する二人。
「最後に教授、膨大な古代魔法語の羅列の解読は可能か?」
「当然。ワシを誰と思っておる? 古代魔法語の解読なら、このノルマンでも五指に入る」
何か、前より順位が上がっているような下がっているような。
「なら、最悪、件の古代魔法語の記されている遺跡へ同行してもらう可能性があるが、大丈夫か?」
「いまだ現役、冒険考古学者じゃよ。ミハイルにはまだまだ負けんて!!」
そう笑い飛ばすロイ教授。
「私からも一つよいですか?」
そう告げているのはアハメス・パミ。
「うむ、どうしたのかな?」
「ロイ教授、貴方が研究しているのはデビルではなくデーモンではないのですか?」
古代よりエジプトには、デーモンと契約しその力を授かっている人々か、人知れず存在している。
堕天した神々。
反逆者の名を持つ者たち『サタン』とその眷族。
しかし、それらサタンの中でも、今なお人々を導くという使命を失っていない者たち、それが『デーモン』と呼ばれる『善なる悪魔』。
「ふむふむ。デーモンか。道を違えた神々。それらについては、ワシは専門ではないのじゃよ。ただ、悪魔を知るうえでは、どうしても学ぶ所ではある。エジプトに存在するアモン神官達程、専門ではないがのう‥‥」
「なら、古代、悪魔を倒していたヘルシング卿なる存在、実は『デビルの力ではなくデーモンとの契約』によって、その力を示していたという可能性は?」
新たなる論理。
「ほっほっほっ。それまた面白い。可能性は十分に考えられるな。しかし、ワシはデビル関連についての調査が忙しくて、デーモンについてはいまだ手を出せないからのう。専門家がいればよいのだが‥‥」
それ以上の話は無かった。
ノルマンに、エジプト王家縁のアモン神官がいる筈はない。
なら私が‥‥といいかけたが、アハメスは言葉を詰まらせた。
デーモンの存在に触れることは、選ばれしアモン以外はタブーとされている。
●禁断の兵団〜魔獣兵団出陣?〜
──ヴォルフ自治区・とある酒場
「何処かの村が一つ消えたらしいと噂で聞いたんだが本当?」
ヴォルフ自治区にある、とある酒場。
宿屋も経営しているそこの店の一角で、夜黒妖(ea0351)とガブリエル・プリメーラ(ea1671)の二人は情報収集に勤しんでいた。
「ん? この辺じゃあないよねぇ‥‥ああ、確か、ここから結構離れた小さな村のことだろう?」
ヒットか?
「その話は、この辺りじゃあタブーだろうさ‥‥」
そう呟きつつ、自警団員が姿を現わした。
「ごきげんよう、ミス・ガブリエル。今日はパートナーが違うようだが?」
「ご無沙汰していますわ。オラースは仕事で別の土地に行ってまして。今日は私と、彼女でうかがいましたわ」
にっこりと微笑みつつ、ガブリエルがそう返答。
「それはそうと、さっきの話、この辺じゃあタブーってどういうことなのかな?」
黒妖が興味津々に問い掛ける。
「ああ、ちょっとそれは言えないことになっていて‥‥まあ、そのうち‥‥な」
そう告げると、自警団員は食事をとっととすませると、そのまま仕事に戻っていった。
──ブゥゥゥン
そのタイミング。
ガブリエルは静かに魔法詠唱を開始。
と、突然自警団員は入り口外で立ち止まり、何やら一人芝居を開始。
「ええ。オーグラ達はいつでも出陣スタンバイはできています。それに、他の兵団も。魔竜兵団はまだ数が整っていないのと、調教が完全ではないこと、例の事件から、調教に適さなくなってしまっている為、そっちは今は停止したままですね‥‥。餌は先程入れておきましたし‥‥。はい、では失礼します!!」
目に見えない何かに対して敬意を取ると、自警団員はそのまま立ち去ってしまった。
「‥‥聞かなかったら良かった‥‥」
黒妖は静かにそう告げると、酒場の外に出ていった。
そしてガブリエルも、荷物を宿に預けると、静かに外へと向かい、早速行動開始。
──数日後
「‥‥」
ヴォルフ邱。
巨大な城壁に囲まれた建物の外周、とある所に小さな祠があった。
発見したのは、黒妖の相棒である鷹の『錬玉』。
鋭い視線と、血の匂いを嗅ぎ分け、そこが普通でないことを発見したらしい。
その祠の中に潜入し、中央床に付けられている鉄格子から中を覗きこんだとき、二人は絶句してしまった。
地下に広がる魔獣の居住区。
今まさに食べつくされようとしている子供達。
泣き喚く子供を両側から掴み、力一杯引きちぎる。
頭を掴み、ぐしゃりと砕く。
吹き出した脳漿をすすり、骨ごと肉を食らう。
「これが‥‥魔獣兵団‥‥」
ゴクリと息を呑む二人。
今まで表には見えなかった世界。
それが、今ここに広がっていた。
『助けにはいるか?』
『もう無理よ‥‥それより、ここ以外にも、中を見られる場所はある筈よね?』
そう告げると、二人は祠を飛び出して、城壁の周囲を念入りにチェック。
と、丁度祠の正反対に、小さな建物が立っている。
入り口には、二人の重武装した兵士。
そして、建物とは反対に、巨大で頑丈な扉がすえつけられている。
──ガラガラガラガラ
そして遠くから聞こえてくる、馬車の音。
「いやぁ。返して、私を返してぇぇぇぇぇぇぇ」
泣き叫ぶ女性達。
その声は、少女というよりは女。
そして鎖に繋がれた嫌がる女性達を、兵士達は馬車の中から引きずり出して、建物の中に連れていった。
『餌‥‥じゃないよな‥‥』
『なら、一体‥‥』
そう告げた瞬間、ガブリエルは全身に寒気が走る。
オーガの中には、人間と交わることを好む主も存在する。
そのために、女達は、連れてこられたのだとしたら‥‥。
それ以上、ここでの調査は危険であると判断した二人は、なにも無かったかのように街に戻る。
そして、武器屋らしく、武器の流通量などの調査を、あくまでも商人の好奇心という感じで行なっていった。
●遺跡と文字と悪魔と〜破滅の魔法陣〜
──プロスト領・旧シルバーホークエリア
取り敢えず、情報をロイ教授の元で入手したランディとラシュディア。
そのままアハメスと別れ、早速調査の為にプロスト領へと向かった。
まずは、もう一つの廃村。
そちらに向かった二人だが、まったくといっていいほどなにも得るものはなかった。
そのため、二人は再びヴィエルジュへとやってきた。
「ふぅー。今回は敵襲撃もなし。ブレスセンサーには怪しい影は反応していないな」
ラシュディアは建物の入り口で、まずは周囲に潜んでいるであろう生き物の息吹を調べた。
「そうか。なら‥‥」
ランディはゆっくりと扉に手を書ける前、罠などが仕掛けられていないか念入りに調査を行った。
そして扉に罠や鍵がかけられていないことを確認すると、静かに扉を開く。
──ギィィィィィッ
静かに開かれる扉。
そして中に入ろうとしたとき、二人の脚は止まった。
綺麗に掃除されている室内。
血の汚れなどまったくない。
そして二人の正面に、一人の身なりの良い執事が立っている。
「ようこそ、シルバーホーク邱へ。旦那様が御待ちでございます‥‥」
丁寧に頭を下げると、執事は二人にそう告げる。
──バタン!!
そして後方で扉がいきなり閉じる。
「罠‥‥か」
「楽しいな‥‥まったく」
全身から汗が滲みだす二人。
そして右の通路からは漆黒の騎士が、左の通路からは一人の女性が。
正面の扉からは、髑髏の仮面を被ったウィザードが姿を表わす。
「‥‥ようこそ」
「お待ちしていましたわ」
「我が主はこちらです‥‥」
正面のウィザードはそう告げると、二人を正面扉へと誘導する。
そして二人は、観念すると静かに中に入っていく。
そこは綺麗な書斎。
奥のテーブルには、人の貴族が座っている。
「初めまして冒険者。私がここの主、シルバーホークです。本日はここにどんな御用でしょうか?」
丁寧にそう告げるシルバーホーク。
「決まっているだろう‥‥貴様らの陰謀を阻止する為だ‥‥」
腹を括ったのか、ラシュディアがそう告げる。
そして横では、ランディが周囲の状況を冷静に分析していた。
(ここには俺たち二人とシルバーホークのみ。出口外には四天王が3人と執事。ここからの抜け道は、シルバーホークの向う、開かれた窓だけか‥‥)
「それより、貴様はこの地から追い出された筈だ。ここはプロスト卿の領地、もう貴様には関係のない居場所だろう!!」
ランディが策を巡らせている間、ラシュディアは兎に角自身に意識を傾けさせている。
「関係ない‥‥ですか‥‥」
そうシルバーホークが告げたとき、ラシュディアは何かを感じた。
奇妙な匂い。
そして、何かが焼けている感覚。
──バジッ
二人の目の前に、天井から柱が落ちてきた。
その瞬間、二人の視界は以前見た廃墟へと変貌。
後には誰も立っておらず、ただ室内に怪しい桐が立ちこめているだけであった。
「幻覚の罠かっ!!」
そうランディが叫んだ瞬間、さらに二人は気が付いた。
屋敷全体が燃え上がっているのである。
すでに入り口は燃え上がり、柱があちこちから落ちている。
「出口は、地下しかないか?」
「まだあるっ!!」
素早く印を組み韻を紡ぐラシュディア。
──シュパーーーッ
そして素早くウィンドスラッシュを発動させると、窓枠をぶっ飛ばした!!
そして二人は壊れた窓から外に飛び出す。
背後では、シルバーホーク邱が燃え落ちていった。
「‥‥まったく、あのトラップでも平気とはねぇ‥‥」
そう後から声がする。
そこには、全身にぴっちりと張り付くような服を身につけた、一人のジャイアントが立っている。
「‥‥何者だっ!!」
抜刀してそう叫ぶランディ。
「ああ、俺は『悪鬼』。シルバーホーク四天王最後の一人というところか?」
顎に手を当ててニィッと笑う悪鬼。
「これは忠告だ。これ以上、俺たちに付きまとわないほうがいい。貴様達冒険者程度、『いつでも潰すことはできる』からな‥‥」
そう告げつつ、悪鬼はゆっくりとランディ達に背中を見せて立ち去ろうとする。
そして振り向き様に一言。
「それとも、戦士の誇りを捨てて、後から切りかかってくるかね?」
そう告げる悪鬼に、ランディは剣を納める。
「ラシュディア、撤退だ‥‥」
「ああ」
そう告げて、二人は其の場背をあとにする。
後日、屋敷地下を調べてみたが、壁に刻まれていた文字は全て削り落とされていた。
●ハウス〜子供達の楽園〜
──バルタザール自治区・セーヌ・ダンファン
パリを出発して、リュシエンヌとスニアの二人は、三度セーヌ・ダンファンにやってきていた。
以前使った湖の畔に回りこむと、そこから遠目でハウスの様子を探る二人。
「以前より、子供の数が増えているわね」
「ええ。ざっと数えただけで15人。前に見た子供は6人ね‥‥」
そう告げつつ、スニアはその人の中に『ヘルメス』の姿も確認。
そして側には、焔威の探しているブランシュの姿もあった。
そしてスニアは残っている子供達の姿を羊皮紙に記していくと、とりあえずはそのままギリギリまでハウスの様子を見守ることにした。
●破滅の魔法陣・その1〜いや、それは死ぬから〜
──マクシミリアン自治区
オイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)とオラース・カノーヴァ(ea3486)の二人は、マクシミリアン自治区に到着。
今ひとつ気乗りのしないオイフェミアと、潜入する準備万端のオラース。
とりあえずは、オイフェミアの持っている偽造ペンダントを使おうか話し合っていたが、そろそろ偽物である事がばれると不味いので、何処か侵入口を探すことにした。
「正面は以前よりガードが固いから無理。舘の周囲は窓は付いているものの、常にそこには護衛が待機しているから駄目。で、何処から侵入するって?」
少し離れた場所で、オイフェミアがオラースにそう問い掛けていた。
「闘技場内の飲食・販売の手伝いとか」
「アンタ、本当にお気楽思考ね。いきなり見ず知らずの人がやってきて、手伝わせて下さいって言って手伝わせてくれるとでも?」
オラース苦心の作戦に、そう突っ込みを入れるオイフェミア。
「護衛の補充として‥‥」
「募集しているという話は何処から? それに身分を明かすものは? 何処かの貴族の推薦状とかある?」
ここには何度も来ているオイフェミアだからこそ、ちょっとした穴でも見逃さない。
「ここの地下を取り仕切っている相手は、そんじょそこらの組織じゃないのよ‥‥」
腕を組んでしばし考えるオラース。
「何処か空いている部屋‥‥」
「は無かったでしょ? 常に人がいるように作られている訳」
「一般客から奪う‥‥」
「後で騒ぎになることは判るでしょ?」
「なら、参加者から‥‥」
「おまえ、勝てるの?」
「なら、何処から突入したらいんーだよっ。まったく、冗談じゃないぜっ。人の作戦にまで口を挟むなんて‥‥」
「大体ねぇ‥‥ここに策も練らずに突入しようとすること自体、間違いなの。貴方の策は策とは言わないの。無謀、この一言だけよっ」
そう告げると、オイフェミアは静かに屋敷に近付くと、ゆっくりと距離を計る。
「24‥‥25‥‥と、この辺ね。オラース、こっちに」
そう呼ぶと、オイフェミアは早速詠唱開始。
「さて、いいこと、真っ直ぐに降りて頂戴ね」
そう告げて、オラースに触れるオイフェミア。
──ずぶずぶ
そのまま静かに地面に埋まっていくオラース。
そしてそのすぐ後に、オイフェミアも沈んでいった。
──とある部屋
天井から落ちてくるオイフェミアとオラース。
そこは彼女が一度来たことのあるサロンの横。
どうやらギャンブルでもしていたらしく、テーブルには木製の札と厳禁の詰まった小さな袋が置かれている。
「まあ、安全の為に‥‥と」
そう告げつつ、オイフェミアはその現金をポケットに放り込む。
そしてオラースの目的の場所である地下へと落ちていく廃棄口のある『選手達の階層』へともう一度アースダイブ。
──選手階層
「さて。パリで色々と話は聞いてきている‥‥こっちだな」
オラースはそう告げると、死体を捨てる為の廃棄口を発見、そこに向かう。
そしてその扉をゆっくりと開くと、オイフェミアに軽く合図を送って中に飛込んだ。
──ヒュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル‥‥グチャッ
「あ、死んだな、ありゃ」
廃棄口の中を覗きこむオイフェミア。
「まったく。なんで一言言ってくれないかなぁ‥‥」
そのままオイフェミアは魔法詠唱を開始、アースダイブを唱えると、廃棄口の横壁に向かってダイブ!!
──ザッパーーーン
そのままゆっくりと潜水し、途中途中で竪穴に頭を出すと、残りの高さを確認。
そしてゆっくりと時間を掛けて降りていくと、オイフェミアは最深部で体が複数になっているオラースを確認。
「ふぅ‥‥死んだからアースダイブは駄目。守ってくれる対象がこりの様じゃあねぇ‥‥置いていっても構わないかなぁ‥‥」
そうは告げたものの、放り出していくのも可哀想。
止む無く、オイフェミアはオラースの死体を適当な袋に押し込めると、それをズルズルと引きずりながら出口探しを開始した。
●パリ〜帰還しました、ええしましたともさ〜
──マスカレード
どうにかこうにか依頼最終日には無事にパリに戻ってきた一行。
「‥‥」
流石のオラースは沈黙。
その横では、オイフェミアが大量の地図をテーブルに広げている。
「地下闘技場最深部、巨大な迷宮で構成されているわね。中心部は丁度闘技場の中心に繋がるわ。それで‥‥迷宮自体が巨大な魔法陣を形成しているという事も確認。大量のアンデットが徘徊していたことと、一ヶ所だけ、出口が存在していたことも確認済みよ‥‥」
次々と説明していくオイフェミア。
「セーヌ・ダンファンは、アサシンガールが15名滞在。これが全員の似顔絵、あとは誰でも構わないから、出会ったことのある子をピックアップしていくだけ。光組の情報だと、ブラインドアタックには彼女達は反応できないらしいから、それなりの対処が出来そうね‥‥」
スニアが静かにそう告げる。
「あと、施設にはヘルメスとかいう悪魔も確認したわ‥‥」
リュシエンヌが最後に捕捉。
「ヴォルフ自治区。敵の戦力は概算でもゴブリン100、オーガ100。オーグラが20、ミノタウロス20。その他オーガ種不明、ドラゴン種不明。但し、流通している武器と、奴等の居住地での予測数だけね」
ヴォルフ自治区の報告をするガブリエル。
「餌は子供達と女性‥‥もう、その罪は十分許されるものではない事が確定だね‥‥」
怒りをグット押さえつつ、黒妖がそう告げる。
「ヴィエルジュ方面は作戦失敗。証拠は全て消されてしまった‥‥」
「まさか、あんな罠が仕掛けてあったとは‥‥」
そう告げるランディとラシュディア。
「新情報は、シルバーホーク四天王の最後の一人、『悪鬼』が出てきたということだな」
「悪鬼?」
「ああ。筋肉質のジャイアントでそうだなぁ。後ろ姿だけなら、まさに『悪鬼』そのものだな。なんて言うか‥‥ファイティングマッスルの塊だ」
ランディが最後に捕捉。
「まあ、それでも、生きているだけいい‥‥」
オラースは、オイフェミアによって地下から連れ出されると、そのままシャルトルのノートルダム大聖堂にて甦生処置を受けていた。
その代金は、ちゃっかりオイフェミアが失敬してきた小袋に入っていたお金を使用、総額で200Gを越えていたらしい。
「報告ご苦労様です。これで、ニライ査察官との約束も果たせます。あとは‥‥大規模作戦が決定しだい、皆さんにはまた動いてもらいますので‥‥」
そう告げるマスカレード。
そして一行は、一人、また一人と、マスカレードを後にした。
「必ず甦生してあげるから‥‥それまでジットしていてね‥‥」
教会に頼み込んで回収したブランシュの遺体。
それにストーン処置を施して、今はマスカレードに置く事となった。
ニライ査察官に預けようとしたが、あっさりと断わられてしまった為であろう。
いずれにしても、かなりの証拠は揃った。
あとは、動くタイミングをじっと待つだけであった。
〜To be continue