Love is blind2〜始まりは愛の歌〜

■シリーズシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:16 G 29 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:07月05日〜07月15日

リプレイ公開日:2008年07月13日

●オープニング


 漆黒の闇の中、灯だけが揺れる。泥濘の底に沈みこんだような深く重苦しい部屋で、女は嗤った。
「早く見つけなさいと言わなかったかしら? ローラン」
「手の者を遣わしております」
「冒険者より先に全てを見つけなさい。でなければ‥‥『秘宝』は手に入らないのよ?」
「待つも良しかと」
「ローラン」
 女は苛立ったように強く男を呼んだ。
「貴方は誰の下僕なのかしら? 指示通りになさい」
「労せずして全てを得る事が出来る策がございます」
「‥‥そう。そうね‥‥貴方の策はいつも正しい。思うように全てが進んでいるのも」
「では、いつものようにお任せ頂けますか」
「えぇ、勿論よ。ローラン」
 女は妖艶に嗤う。男は黙って深く頭を下げ、静かに女の元を去った。


 プーペという名の女は、既に屋敷に居なかった。
 プーペが愛人となっていた貴族の夫人は、美辞麗句に満更でもなく冒険者に内情を遠まわしに告げる。夫の女好きには困っている事。少し前まで得体の知れない妖しげな女が居たが、2ヶ月前に居なくなってしまった事。その女の名がプーペで、かつて出入りしていた詩人と一緒に行ったのかもしれないと夫人は言った。その詩人は一旦出入りしなくなったのだが、最近また訪れていたらしい。時期が重なる為、夫人はそう思っているようだった。詩人は以後屋敷を訪れていないが、夫が呼んだのだろうから夫なら何か知っているかもしれないと言い、夫人は屋敷に戻って行った。

 誘拐されたリリアに関する新しい情報は特に無かった。
 ドーマン領主の下にも脅迫状その他は来ていなかったし、領主は勿論娘が誘拐された事を知っているが、血眼で娘を捜しているという話も無かった。聞けばシャトーティエリー領領主代行にリリアの捜索は任せているらしい。
 リリアは『遺産』を持っていない。ひとつは冒険者に渡したし、『装飾品』は失われてしまっているからだ。だから連れ去った者がそれ目的の場合、生きている保証は無いと領主は言った。
「どうして無くなったんですか?」
 冒険者の問いに、領主は少し笑う。
「友情の『証』にあげてしまったのだよ」
 誰に、とは言わない。複雑な笑みの中に、その背景が窺えた。

 シャトーティエリー領の領主館は城と言われるほどに大きい。
 その地下には幾つも外に繋がる道があるだろうと、館内で働く使用人達は噂していた。だが、それらの情報を外に漏らせば『恐ろしい罰』を与えられる為、使用人達は館外では口を噤む。館内には地下へ降りる階段は幾つかあって、それらの全てが『罪人を幽閉する場所』と言われており、屈強な者達がその階段の上を固めていた。限られた者しか降りられないその階段は、使用人達の恐怖の源ともなっている。
「特に、ガストン様に呼び出された者はもう終わりだね」
 使用人は密かにそう告げた。これらの情報は、この館に長く仕える者にしか決して知らされる事のないものだ。
「あの階段を降りたら、2度と帰ってこないよ」
 他にもこの館には恐怖話が彼らの間で伝えられている。
 長らく姿を見ていない領主と、ここ最近姿を消した奥方だ。だがこの事について噂するのは、彼らの間でも『禁忌』である。何故なら、彼らは現在の彼らの主人である、領主の息子ミシェルが自らの両親を弑したと思っているからだ。だがそれを口に乗せれば、たちまち自分達も同じ道を歩むだろう。彼らはそう思っている。
 又、決して開けてはならない扉も幾つかこの館にはある。その扉は全部で4つ。内3つは部屋の扉であり、後1つは廊下に設けられた扉だ。その廊下の向こうはミシェルの自室その他があり、余程の近臣でなければ中に入る事は出来ない。

 ミシェルの弟であるエミールが現在も住まうのは、彼の町レスローシェではなく、彼の婚約者リリアが住んでいたパリ郊外の家だ。正確には2人の家であるが、そのような家を彼らはあちこちに持っていた。
「よく‥‥分からないんだ」
 彼は呟く。
「兄貴は信じられないと思っていた。昔から仲も悪かったし、裏で何かしてるのは分かってたからさ‥‥。だからお前と一緒に冒険者使っていろいろ調べたよな‥‥。でもリリア。兄貴が本当に、シャトーティエリーなんて滅ぼしてしまえ‥‥そう思っているとは思えない。どんな悪事に手を染めても、それはシャトーティエリーの為なんじゃないか‥‥そう思うんだ」
 失われてしまった恋人に向け、彼は1人呟く。


 冒険者の中に悪魔崇拝者が居ると、教会の者が冒険者ギルドに報告しに来た。
 何でも、死刑が決まっている悪魔崇拝者に同情し、助け出そうとした者が居たらしい。その男が悪魔崇拝者であり数々の悪事を行ってきた事は明白であり、多少の刑執行延長は呑むとしても中止などは有り得ない。
 身元の知れた冒険者であり捕らえようと思えば可能な事から、今すぐに引き渡すようにとは言わないと彼らは告げた。だが、近いうちに『詳しく』話を聞く必要があり、逃げるようならば『他の冒険者に対しても』容赦はしないと続ける。例え彼女と懇意にしている神官が居ようとも、これは『決定事項』である。
「冒険者の中には、『可哀想な話』に流されやすい者もおりますから‥‥」
 と応対したギルド員は言ったものの、教会から目をつけられれば逃れる術はないだろう。

 シャトーティエリー領に仕えている冒険者に、最近ほとんど顔を出さないなとガストンは高圧的に言った。
「何かを企み、この領地に仕えているのか‥‥? ならば、私としても容赦する気はない。じっくり『話を聞かせて』貰いたいのだが」
 その冒険者は確かに冒険業を主としつつも領主代行に仕えている。だがしかし、仕えてから後あまり顔を出していなかった。と言うのも、彼は勿論この領内を探るために仕えたのだが、術で姿を変えて行動していた為に、自分本来の姿として館に居た事はあまり無いからだ。
 ガストンに目をつけられて無事に済んだ使用人は居ない。その言葉が、彼の脳裏をかすめる。


「お久しぶりでございます」
 訪れた男に家主は静かに頭を下げた。
「今日はあなたに頼みたい事があって来た。奴らと繋ぎを取って欲しい」
「心得ました」
 ただそれだけの会話。だがそれだけで通じる。
「‥‥お疲れでいらっしゃるご様子。手下をお使いになれば宜しいですのに」
 用件が済んで、家主は来訪者を気遣った。
「私が動かねば主は喜ばれまい。私も、主の為に働きたい。全てはあの方の為に」
「私は貴方の為に。我が主より授けられし全ては、貴方の為に使いましょう」
「ありがとう」
 男は寂寥とした笑みを浮かべる。


「‥‥どうしたの?」
 身寄りの無い子供達を育てている『家』。その前に1人の男が倒れていた。
「‥‥水‥‥」
「うん、分かった」
 少年は頷き、建物内に入って大人達を呼んでくる。すぐさま出て来た元クレリックの男は、その惨状に顔色を変えた。
「アンリ。ミミにお湯を沸かすようにと」
「うん」
 倒れている男を細い身で何とか担ぎ、引き摺るようにして建物内へと入ると子供達は既に用意を整えている。
「た‥‥のみ‥‥が‥‥」
 微かな声で男が言うのを聞きカルヴィンは頷いた。
「まずは治してからです。生きて、それからお聞きします」
「‥‥シャー‥‥」
 その呟きが何なのか、カルヴィンには分からない。だが深い傷を負ったその男を救う事が今の自分に課せられた使命であると、男を寝かせてホーリーシンボルを握り締めた。

●今回の参加者

 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 eb0346 デニム・シュタインバーグ(22歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3084 アリスティド・メシアン(28歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb8664 尾上 彬(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec0290 エルディン・アトワイト(34歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ec0713 シャロン・オブライエン(23歳・♀・パラディン・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ユリゼ・ファルアート(ea3502)/ レア・クラウス(eb8226)/ ジャン・シュヴァリエ(eb8302)/ ウィルシス・ブラックウェル(eb9726)/ 呂 明信(ec2902

●リプレイ本文

「子供をこの地から遠ざける。エリア。お前と、お前の子の為に」

●初日
 レティシア・シャンテヒルト(ea6215)、尾上彬(eb8664)、シャロン・オブライエン(ec0713)は、パリ郊外の『家』に来ていた。
「そう。貴方がシアン」
 魔法で命を取り留めた男は、彼らの内2人が傭兵団に関わっていたと知り礼を言った。体が回復したらここを出て行くつもりだと告げ、傭兵団の崩壊と幹部の裏切りを経てシャーの為に情報収集に当たっていたと話す。だが、盗賊団はシャーが死んだと思った後もしつこく自分を追い回し、パリを出た所を狙われてこの有様。この場所に逃げて来たのは‥‥。
「貴方が居るからだ、ジョエル・ソンブル」
「家の事を頼むとデニムという男から言われている。危険かもしれないからと。でも大人が元冒険者だからある程度は回避できるだろうとも」
 鉄仮面のシャロンに変な顔をしたシアンだったが、同席していた家の大人2人は大体事情は分かっているようだった。
「貴方の素性でこの家に危険が及びそうなら、教会に保護を頼んだほうがいいと思うわ」
「俺達もしばらくここに滞在するけどいいよな? 『虎』に狙われてるなら尚更」
 リシャールの正体の事もある。以前は護衛を頼んでおいたが、いつまでもというわけには行かない。
「その事なんだがな。相手が盗賊団なら俺達も大人しくしてる道理はないよな。子供達はパリの教会に預けて俺達も参戦するかという事で話がついた」
「話がついた?」
「私は子供達と教会に留まりますが、かつての冒険者仲間に連絡をしました。来月位にはパリに来ると返事が」
「リシャールは俺達の子供の1人だ。デニムも何かと気を使っちゃくれるが俺達にとっては子供みたいなもんだ。いつまでも子供だけに荷を背負わすわけにはいかんだろ」
 その言葉を聞いて、誰よりシアンがほっとしたようだった。盗賊団の壊滅を頼むと2人に言い、冒険者達には古い布を見せる。
「これをシャトーティエリー領内の川辺で見つけた。シャーの物だ。シャーは生きてると俺は信じてる」
 
 アリスティド・メシアン(eb3084)、デニム・シュタインバーグ(eb0346)、セイル・ファースト(eb8642)はパリ郊外エミールの別邸に来ていた。
「1年半前のあの時から、既に始まっていたんですね‥‥」
 デニムが呟く。リシャール達の命が失われようとしていたその頃、指輪の話は聞いていた。それが今も尚解決していないとは。
「あんたの兄貴に会いに行こうと思ってる」
 セイルはエミールに告げる。領主代行ミシェルの事を知らないから色々話を聞いてみたい。その為に紹介状を頼みたいと。
「それとあんたの印象でいい。あんたの兄貴について聞かせて欲しい」
「言葉を額面通りに受け取って合ってる保証の無い奴だ。あいつは何か隠してる。それは間違いないだろうな」
「あんたは何も隠してないのか?」
「お前の奥方にはこの事で世話になったし言うか。あいつは裏で薬の取引をしている。貴族商人を使って極秘裏にやってたその薬草は、ほとんどが闇薬。それの売買で多額の資金を集めていた。多分領内でもそれを栽培している場所があるはずだ」
 騎士団に告発されると少々不味いことになる。だから自分で突き止めて何とかするつもりで以前依頼を出していたと彼は告げた。
「その中の1つをあのガキが持ってたぞ」
「リックが持っていた薬はひとつだけです。まさか」
 デニムが口を挟み、エミールはその闇取引はもう数年はやっているだろうと話す。入手経路は限られているから、どこから手に入れた物か聞くと良いと言われ、デニムはリシャールの所へと向かった。
 アリスティドからはエリアやクリステルやセザールやリリアの事について質問があった。リリアについては進展無し、クリステルとセザールの事は良く知らず、エリアの恋の相手は。
「相手の男は殺そうかと言う話もあった。牢に閉じ込めたが奴は逃げ出して、エリアが助けた事を認めた。軟禁状態にあったエリアがどう助けたかは分からない。エリアが産んだ子供も殺す事になっていたけど、子供もいつの間にか消えていた。その頃は俺も遊び歩いて家に居なかったから、詳しい事は分からないんだ」
 いつ頃から気が触れてしまったのか、閉じ込められたのか、殺されたのか‥‥。詳細は何一つ知らないのだと彼は言う。
 一方リシャールにはデニムが先に話を聞いていた。
「プーペを追おうと思うんだ。一緒に協力してもらえないかな」
 薬の事にちらと触れると、彼は手持ちが無くなった後それをパリで買ったと告げた。最近は使っていないという事で胸を撫で下ろしつつ、デニムはリシャールの肩をぽんと叩く。
「どんな選択をしても、僕はリックの味方だからね」
 アリスティドからは又もや質問があった。ラティールで聞いた出生と『遺産』の所持について。彼は首に掛けていたペンダントを見せたが、それは何の文字も記されていなかった。出生については、彼は皆が知っている事を知っていた。エリアの息子であるだろう事。物心ついた時から持っていた指輪に、シャトーティエリー家の紋章が刻まれていたらしい。その指輪も内側に文字は入っていなかった。

●2日目〜
 アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)とエルディン・アトワイト(ec0290)は教会を訪れていた。
 ドーマン領主に過去の戦歴を書状にして貰い、過去に得た『悪魔や悪魔崇拝者と戦った事実』を記すアイテムやギルド記録を持ち、ドレス姿で挑む。
「逃げも隠れもしません。悪魔崇拝者だなんてとんでもない。彼に対する同情心が行き過ぎたものである事は深く反省しています」
 全ての資料を出した上で、教会の意向に従う事を告げた。
「私頭が良くないから。教えて下さい。セーラ様の慈愛はどこまで届くのでしょうか」
 助けを求める者を見捨てないのが慈愛だと彼らは言う。では悪魔崇拝者に対してはどうなのか。それはその人物がデビルに対してどれだけ心囚われたかにもよる。そんな彼らを哀れんで救うべきだという声もある一方で、デビルに救いを求めた者に慈愛は届かないという声もある。教会も一枚岩ではない。
「今現在もデビルと戦う彼女にお許しを」
 エルディンも彼女をクレリックとして弁護した。セザールの存在意義を再度告げた上でシャトーティエリー領に奪われた『呪われしアクセサリー』がある事を告げる。
 それが本当なら由々しき事態だと彼らは眉を顰めた。賊は教会の者を殺している。それが貴族の仕業ならば許しがたい。
 それから数日、彼らは教会に留まった。疑いを晴らし教会を味方につける。その目的は良い方向に達成されようとしていたが、それ以上のセザールの延命は難しいようだった。
「来月にも施行されるでしょう」
 自分が悪魔崇拝者である事を全く後悔せず救いも求めない彼に、慈悲は届かない。

「‥‥居ない?」
 レティシアはラティール領白教会近くで話を聞いていた。クリステルへテレパシーを送ったが通じず、教会を遠くから眺めても誰も出入りする気配が無かったので、近くの人にこっそり尋ねたのだ。何でも7日夜から9日朝まで留守にするのでお願いしますと言われたらしく、近所持ち回りで教会の掃除などをしているとの事だった。
「ミシェルと会うのはまだ先だ。待機するか?」
 彬に言われ、宿で待機する。シャロンは顔を見られない場所で鉄仮面を拭いたりしつつ時を過ごし、9日昼頃再度レティシアがテレパシーを送った。
『その男の顔に見覚えはない?』
 ファンタズムで再現したセザールの顔をシャロンが絵にし、それをその辺の子供を介してクリステルに渡していた。リリア、エリアが持っていた装飾品に記憶がないかも問うが、どちらも分からないと返ってくる。
『この男‥‥何かシャトーティエリー家に関係が?』
『うぅん。聞いてみただけよ。そう言えば居ないなんて珍しいわね。どこに行っていたの?』
『シャトーティエリーの白教会で講話があったんです。それに参加しに』

「お人形さんをお連れでは無いのですね‥‥」
 奇抜な化粧と格好の吟遊詩人一行がある貴族の家を訪れていた。アリスティドを座長にデニムが看板候補、リシャールは見習兼荷物持ちである。ちなみに彼も楽器は扱える。
 アリスティドとデニムは華やかに貴族屋敷を訪れて楽器を鳴らし、たちまち主人を虜にした。すぐさま宴が用意されて盛り上がる中、つつと近付き座長が囁く。
 何の話か分からない風な主人に更に具体的に話をすると、彼は狼狽した。
「あいつが悪いんだ。吟遊詩人風情と出て行くと言うから」
「‥‥何をしたんですか?」
 やんわりとアリスティドは尋ねた。
「あんな‥‥娼婦上がりの女など、死んだ所で誰にも迷惑はかかるまい」
「‥‥プーペを殺したんですか?!」
 思わずデニムが叫ぶと室内に居た者達の動きが止まる。
「詩人も一緒にな! お前達も後を追うがいい!」
 突如切り掛かってきた護衛達の攻撃をデニムがとっさに椅子を持って受け止め、リシャールが素早くナイフを投げた。それを受け取りデニムが殿を務めながら皆は逃げて行く。
「奥方が危険かもしれない」
「助けたいなら俺が血路を開く」
「リックにはもうそんな事をさせないと言ったよね?」
「お前達は俺の仲間で家族だろ? 家族が血を流しているのに何故俺が動いちゃいけないんだ?」
「争うのは後だよ」
 3人は扉を開き、或る部屋へと入った。

●5〜6日目
 セイルはミシェルと会っていた。
 遺産を巡る幾多の事件を解明すべく調査をしている事、以前他の冒険者が来た時に何か情報があるとミシェルが言った事、リリアが攫われた事も根は同じではないかと告げる。そして知っている事は出来る限り報告するので何か知っていたら協力して欲しいと続けた。
 ミシェルは物腰穏やかで口調もやんわりとしている。だが実に貴族らしく本音は決して見せない。彼は是非協力させて欲しいと言ったが、その真意は掴めなかった。
 屋敷を出た翌日、彼は彬達3人と合流した。
 パリなどでも彼らに付いた不可解な称号について話を聞いていたのだが、噂の出所は掴めない。『あまり危険な事をするなら私が代わりにしようか?』と称号について尋ねていたユリゼが某人物に言われたらしいが、それはさておき。
「単独で広めたなら出所はすぐバレると思うな。複数犯じゃないか?」
 シャロンが表情の見えない仮面の中から言う。レアのフォーノリッヂ『妖虎盗賊団』『襲撃』は結果が出ていた。どこかの屋敷を包む炎、どこかで球体を掲げる男。
「彬。大丈夫?」
 フィルマンの案内で水路の入口を確かめ、館内の内部地図を分かる範囲で作る。酒場で館の使用人に声を掛けガストンに見つからずミシェルに会う手助けを頼む。レティシアの確認には様々な意味が籠められていただろうが、彬は笑って頷いた。

●7日目
 朝、館を訪れた彬はミシェルと単独で会った。あまり領内に顔を出せなかったのは妖虎盗賊団との絡みであり今も追っている事。シアンが生きておりシャーを探している事を告げ、有力な情報はガストンから得たものではないか、本当にリリアを探したいのか尋ねる。その上で、
「ガストンとやり合うから、少々の騒ぎには目を瞑ってくれ」
 と告げた。ミシェルは外に出ようと誘って中庭に行き、飲み物を運ばせながら微笑んだ。
「ガストンが教えてくれる情報は沢山あるし、リリアを探しているのは本当だよ。君が何をするつもりなのか知らないが、下手な事はしない事だ」
「あんたは本気で補佐官殿を信じてるのか?」
「そんな事よりも楽しい話をしないか、彬。私もペットを何匹か飼っていてね‥‥」

 午後。エルディンが館を訪れた。
 デビルが狙っているという噂の装飾品を、教会から要求があれば渡す意思があるのか確認しに来たと告げる。事件に片が付いたら返すと言うエルディンだったが、ふとミシェルの傍らにいつも居るらしい『補佐官』らしき人物が居ないことに気付いた。勿論彬がガストンと対峙している時間を狙ってやって来ているのだが、そこに1人の使用人がやって来てミシェルに耳打ちする。
「私は穏便に済ませたいのです、どうかご協力お願いします」
「クレリック殿には申し訳ないが、どうやら当家に大事が起こったようです。今日の所はお引取り願えませんか」
「しかし」
「賊が出たとの事。巻き込まれては大変ですから」
 そう言うミシェルの笑みと有無を言わせぬ声にエルディンは気付いた。
 『賊』。それが何を指しているのかを。

「我々が居て良かったですな」
 彬は拘束されガストンと男達を見ていた。ガストンにはミシェルに話したのと同じ事を告げ、人払いをさせてから青玉を手掛かりと言って見せた。手を滑らせて玉を床に落とすと同時にスタンアタックを当てて逃げたのだが‥‥地下牢の廊下には男達が待ち伏せていた。たちまち捕らわれ、意識を取り戻したガストンと再度会うことになる。
「残念だ、尾上」
 無表情に言うガストンを取り巻く男達の中に、覚えのある模様を付けた服を着ている者がちらほら居る事に気付き、彬は内心舌打ちした。だがこれを口に出せば間違いなく殺されるだろう。どちらにせよ‥‥手遅れかもしれないが。

「‥‥彬はまだ?」
 地下水路の外で待っていた冒険者達は、夕刻近くになっても戻らない彬に不安を抱いていた。
「テレパシーにも引っかからないんだな?」
 シャロンの問いにレティシアは頷き、皆は水路内に入る事にする。地下の構造が分からないから脱出に手間取っているかもしれないと考えつつ、出来る限り館近くへ行く為奥へと進んだ。領主の奥方とテレパシーで話す事も目的のひとつなのだが、奥に進むと彬の犬が警戒を示した。それを抑えつつ警戒して進むとすぐに彼らは敵と遭遇する。
「後ろに隠れろ!」
 セイルがとっさにレティシアを庇いながら退いたが、それへと矢が射掛けられた。打ち払って攻撃してくる者を剣と鎧で弾くと、敵はレティシアに狙いを定める。それもシャロンが大鎌を振るって守り、レティシアはシャドゥフィールドを作って皆は逃げ出した。逃げた先にも待ち構える者が居て、次々と矢が飛んでくる。
「まるでこの水路が敵のアジトみたいだな」
 シャロンが呟くほどの敵に追われながら、3人はそこを抜け出した。

 その頃アーシャは。
「わぁ〜‥‥この料理美味しいです、こっちも」
 慎ましい教会の食事とは違う持て成し料理をドーマン領で戴き、ご満悦であった。
 疑いも晴れ、教会の協力も取り付けたのだから上出来だろうと頷きながら、彼女は領主の家を守り続ける。

●8日目
「兄貴‥‥後で来て欲しい所がある」
 貴族の奥方を助け出したパリ組だったが、ひと段落ついた所でリシャールがデニムに声を掛けた。
「渡したい物があるんだ」

 水路に彬が倒れていた。
 生死も分からぬ姿で伏せている彼に、1人の男が近付く。
 そして。