刹那の命、永遠の魂2〜人形工房〜

■シリーズシナリオ


担当:呉羽

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 4 C

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月11日〜10月16日

リプレイ公開日:2007年10月19日

●オープニング

 その屋敷は、パリから少し離れた田園風景の中にあっても、まるで幻のように人の目に入らなかった。
 森の脇を横切るあぜ道は、収穫の時期だからこそまだ人が通るものの、普段は人気も無い。その上、馬車どころか馬さえも歩きたがらないほどに細い。
 そして、その道に面して、古く錆びた鉄門が建っていた。今まさに朽ち崩れてもおかしくないような、触れば錆がべっとりと手に絡みつくような、そんな門だ。門の両脇には木で出来た塀が続いているが、それも虫が喰らったのか、ところどころ穴が開いている。
 門の隙間からは、奥に建つ屋敷が見えた。だが門より奥は森の中だ。屋敷を覆うようにして深い森が広がっている。それが一層、屋敷の姿を人目から隠していた。
 まるで、踏み入れてはならぬ禁忌の場所のように。
 それは、森そのものであるかのように不気味に沈黙している。

「昔、あの屋敷には‥‥貴族の方々が暮らしていたと言うよ。けれどもね、お取り潰しに遭ったのさ」
 近くを通る老女が呟いた。
「理由は簡単さ。奥方がハーフエルフを産んだ。しかも立て続けに3人もだ。奥方も旦那様も人間だったと言うから‥‥それだけでも、十分罪深い話さ。『悪魔の呪い』を身に受けたのだ、という事になった」
 頭からすっぽりフードを被った老女は、背に負っていた農耕具を脇に下ろし、古い切り株に腰掛ける。
「教会が踏み込んで来て、『悪魔の子』として子供達は連れ去られ、奥方は屋敷の裏にある塔に閉じ込められた。元より罪人を死ぬまで幽閉する場所だ。奥方はやがて気がおかしくなり‥‥塔から飛び降りた。旦那様は『悪魔』を招いた罪で教会に裁かれ、その家に関する全ての資料は燃やされた。存在しないものとして、扱われたんだ」
「‥‥何故、そのような事をご存知なのですか?」
 問われ、老女は僅かに声を立てて笑った。
「長く生きてると‥‥いろいろ知るもんさ。若いもんは誰もこの噂を知らないだろうが‥‥それでもあの場所には近付かない。罪深い場所だからね。怖いのさ」
「もしかして‥‥お屋敷にご奉公されていたのですか?」
「いいや。あたしはただの老婆さ。でも、誰もが罪は負っているものだ。生きる限り、罪は犯すものだ。だからこそ、哀れでならないのさ。あの屋敷に住んでいた方々が‥‥」
 老女は遠くに見える門を見つめる。
「あの‥‥では、あの屋敷には今は誰も住んでいないのですか?」
「誰か住んでいたら、あんなにボロボロになるかね」
 誰からも忘れ去られ、誰も住まないその場所。だが、未だ確かに存在する場所。
 そこに、女と背の高い男が入って行ったという情報があった。それが依頼人が探すよう頼んだ男、人形職人のガルドであるならば、この屋敷に入る必要があるだろう。似顔絵に似ていたという言葉も貰っている。
 だが、女の正体もこの屋敷の現状も分からない今、何の策もないまま突入するのは愚かな事だ。
 屋敷の上空から下を窺った冒険者も居たが、森に囲まれて全容は見えない。ただ、ところどころに見える色から屋敷の広さを判断しただけだ。夜になれば、益々全貌が見えなくなる。
 さて、どうしようか。

●イレーヌの物語
 その人と出会ったのは、まだ私が10歳の時よ。家同士で決められた婚約者だったけれども、一目で気に入ったの。何度か会って、お話もしたわ。私より少し年上で、とても賢い人だった。でも3年前に、突然姿を消してしまったの。私は‥‥落ち込んだわ。その時私はもう18歳で、1年後には結婚しようかという話だったから。でもその時、ガルドが誘ってくれたのよ。一緒に湖に出かけて、彼のお友達とも会って、楽しく過ごしたわ。ガルドとは‥‥幼馴染だったの。あの人の父親が私の家に仕えていたのよ。でも彼は早くに町を出て兵士になってしまっていたし、それまでは年に1回か2回、お祭りの時に町で会うくらいで。一緒に出かけるようになってから、彼とは仲良くなったわ。すぐに‥‥そうね。すぐに好きになってしまったの。それからは私も町を出て、パリの屋敷に住むようにしたわ。彼が脚を怪我した時はとても心配だったけれど、こんな風に‥‥また、姿を消してしまうなら‥‥。私、失いたくない。今度こそ、彼について行きたいの。

●ガルドの物語
 はじめに人形に興味を持ったのは、5歳か6歳の頃だ。
 少し裕福な女の子が持っている人形が、まるで生きている子供のように見えた。人形を自分の妹のように可愛がる女の子も居たが、自分の気を紛らわすだけで粗末に時には残酷に扱っている女の子も居た。いつの間にか捨てられていた人形を拾い、自分の部屋に飾った。姉も妹も失っていた自分が人形を飾る姿を見ても、親は何も言わなかった。人形の数は少しずつ増えていき、町を出る頃には10体を超えていた。
 自分で人形を作ろうと思ったのは、15歳の時だ。だが人形を作るのには金が要る。その子供が大切に慈しんでくれるように、時間も掛けて作りたい。その為に、兵士として必死に働いて金を貯めた。
 工房には、時には子を失った親から人形を作って欲しいという依頼もあった。喜んで作った人形は、1年後に生まれた子供に渡される事なく捨てられた。人形の恨みが聞こえるようだった。人の勝手で生み出され、人の勝手で殺された人形の。
 だから。

●今回の参加者

 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3084 アリスティド・メシアン(28歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb5314 パール・エスタナトレーヒ(17歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 eb8113 スズカ・アークライト(29歳・♀・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb8664 尾上 彬(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec2418 アイシャ・オルテンシア(24歳・♀・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec2838 ブリジット・ラ・フォンテーヌ(25歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

レムリィ・リセルナート(ea6870)/ ジャンヌ・シェール(ec1858

●リプレイ本文

「ご苦労なさいましたか?」
 男が問うた。フードの中に素顔を隠した女は、薄く笑う。
「見たいかね? 罪の証を」


 その古い屋敷の周辺で男女を見たという男の証言に基づき、女の容姿をレティシア・シャンテヒルト(ea6215)がファンタズムで再現した。男がガルドだという事は分かっているが、女の正体は分かっていない。アリスティド・メシアン(eb3084)も許しが得られればリシーブメモリーで記憶を貰おうと考えていたが、さすがに初対面で応じてくれる者はあまりいないだろう。
 アイシャ・オルテンシア(ec2418)とレティシアは教会に聞き込みに出かけたが、特に何の情報も得る事は出来なかった。アリスティド、スズカ・アークライト(eb8113)、ブリジット・ラ・フォンテーヌ(ec2838)の3人は、ベゾムでそっと門の内側に入る。そのまま注意深く館の周りを確認し、裏戸を発見して中に入った。
 尾上彬(eb8664)は屋敷周囲の調査を行っていた。パール・エスタナトレーヒ(eb5314)は梟に乗って、屋敷の裏にある塔の最上階を目指して飛んだ。鬱蒼と茂った森に隠されるようにして建っていた古い塔は、あちこちが傷んで石が剥がれている。そこにガルドが居るのではないかと向かったパールだったが。
「‥‥」
 ぼんやり赤く光る、どう見ても生身の人間では無いモノを遠目に発見して。
「‥‥1人だし止めたほうがいいですね」
 対峙する事なく門前へ逃げた。


「あの子の事、何とかしてあげたいわね」
 パリを出る時、レティシアは皆に告げた。パールは『レイスちゃん』と仮名を付けていたが、その姿を見ていない彬はともかく、他の皆が気になっている事ではある。そんな中、神聖騎士であるブリジットは、あらかじめ教会で浄化させる方法を聞いてきていた。クレリックであるパールが訊いていないのは、彼女が黒の神官だからである。優しい方法で浄化するような教えは無い。
「私は使う事が出来ませんが‥‥白魔法の中にはアンデッドを浄化させる魔法が存在します。聖水と同じ役目を持ちますが、アンデッドに効果がある武器を使って倒した時とは違い、幾分安らかな不死の死です。それまでに聖水や魔法で負った傷は痛いでしょうが、断末魔の叫びよりは、際の時にはせめて‥‥そう思います」
 もしも『レイスちゃん』が望んでくれるならば。然るべき場所に連れて行って浄化してあげたいとブリジットは告げた。
 アンデッドを昇天させる方法は幾つかある。だが個体差もある。それを考えずに共通で浄化出来る方法が、ブリジットの言った内容だった。
「気になる事は‥‥他にもあるね」
 アリスティドが呟いたのは、屋敷の中でだ。
 スズカが屋敷へ潜入する方法の中で、最も人目に付かないと思われる裏戸を発見して3人は探索をしていた。
「そうね〜‥‥どう歩いても、この床ギシギシ言ってるわね〜‥‥」
 小声で会話しつつ、出来る限りそっと歩く。
「この部屋、入るわよ?」
 扉に手をかけたスズカは、2人を振り返った。罠があるかどうか、そんな事はこの3人では判断しようがない。スズカが盾を構えて、扉を開いた。
「‥‥見事に何もありませんね」
 最後に中に入ったブリジットが呟く。光が差し入る窓も固く閉じられていて部屋は暗いが、屋敷内部自体が日中でも暗いので目は慣れている。一応ランタンを点け部屋中を見回すが、棚や机は残っているものの、調度品の類は一切置いてなかった。否。
「‥‥持っていかれた、か」
「教会が?」
「まさか‥‥。ハーフエルフが人間同士の間から産まれた事は、神がお赦しにならない出来事があったからでしょうけれど、家を取り潰した上に盗みを働くなんて‥‥有り得ません」
「その後に、盗賊が入る事は考えられるね。或いは、この屋敷で働いていた使用人達で分けたか」
「その線は強そうね〜。こんなに洗いざらい持っていくなんて、いくら盗賊でもね」
 隣の部屋も入ってみたが、やはり似たようなものだった。価値がありそうな調度品や装飾品どころか、器のひとつも転がっては居ない。到底ここに誰かが住んでいるとは思えなかった。
「2階。上がってみる? 何とな〜くだけど、居るなら日が少しでも当たる2階の気がするのよね」


 彬が門前の足跡を検分した結果、何人分かはあるものの屋敷内に入っているのは‥‥。
「5人‥‥か」
 先に屋敷内に入った3人は、門ではなく塀を越えている。この門前に仲間達は立っていない。そしてその5人の足跡はどれも出て来た気配が無かった。
「まだ中に居るのか、それとも」
 この門をくぐって再び外に出たとは限らない。彬はぐるっと屋敷の周りを回って井戸や小屋が無いか探したが、それは発見出来なかった。と言っても、屋敷にまだ入っていない残り3人が集まってから敷地内に入った時、屋敷の裏手で古井戸を発見したのだが。
 試しに縄はしごを掛け、彬が井戸の中に下りてみた。井戸の底に面した壁には確かに穴が開いているが、最近人が通った形跡は無かった。恐らく屋敷のどこかと繋がっているのだろうが、この道を這うようにして進むのも危険な気がする。素直に彬は井戸を出て、井戸近くにあった裏戸から4人は中に入った。
 屋敷に入ってまずレティシアはサウンドワードを使ったが、早速別行動の仲間の足音だと知らせてくれた。その後のレティシアの役目は。
「レティシアさん。なんか絵、大きくないですか?」
 最初に入った部屋で見つけたボロボロのベッドのシーツを破り、それに屋敷内部の絵を描いていた。絵の心得は無いので、多少おかしいのはご愛嬌だ。
 先頭を彬が行き、危険な床や扉が無いか逐一調査。隠し扉が無いかも壁に触れながら確認して行く。彼らの中では唯一、パールだけがこの古い屋敷の老朽化を物ともしないで飛んでいたが、時折気になって天井を見上げていた。さすがに天井が落ちてきたら避け切れない。
「‥‥アリス達は2階に上がっているみたい。私達は1階を全部回ってみる?」
 テレパシーで互いの状況を確認し合いながら、皆は探索を進めて行った。


 異変が起こったのは、外の陽が傾いた頃。
「‥‥人形?」
 2階の廊下の隅に。ぽつんと人形が置かれていた。
「‥‥さっき見た時は、ここに無かったような気がします」
 ブリジットが囁き、アリスティドも頷く。確かに廊下には何も物が無かった。部屋の中もベッドや机や棚以外何も無いが、だから尚、違和感がある。
「どうする?」
 剣の柄に手をやりながらスズカが問うた。
「様子を見よう」
 だが待っても変化は無い。しかし放置して何かがあったら困る。3人は慎重に人形に近付き‥‥。それに剣先で触れようとしたスズカの目の前で、バチッと一瞬火花が上がった。その瞬間、人形は浮かび上がり、スズカに突進する。
「これもレイス?!」
 身構えようと下がったスズカの後ろ足が、豪快に何かに挟まった。否、何かをぶち抜いた。
「えぇ?!」
 バランスを崩したスズカに襲い掛かる人形に、ブリジットのコアギュレイトが飛んだ。
「スズカ!」
 慌ててもう片方の足で支えようとしたスズカだったが、その時にはもう、床がそこに無かった。物凄い音を立てて、スズカは2階から1階へと落ちて行く。
「コアギュレイトは6分しか持ちません! スズカさんは?!」
 きちんと人形が呪縛されているのを確認してから、いつ動いても対応出来るように睨み付ける。穴を覗いてスズカの姿を見ているアリスティドは、スズカが1階の床を更に足からぶち抜いたものの無事である事に胸を撫で下ろしていた。
「端が腐っていたみたいだな。ここも崩れるかもしれない。逃げよう。‥‥レティシア!」
 叫んだ後に、さすがにこの場でテレパシーは危険なので、一旦退く事にして2人はその場を離れた。

 一方、1階に居た4人もその巨大な音には気付いていた。
「スズカさん!?」
 最後尾を歩いていたアイシャが、振り返ってスズカの太腿から下が埋もれているのを見、慌てて駆け出した。そして。
 バキッ。
「あ〜あ‥‥。端は‥‥危ないみたいなのよね‥‥」
 痛そうに顔を歪めているスズカに突っ込まれた。最も、アイシャが突っ込んだのは片足だけだったが。
「上がれるか?」
 レティシアと彬がロープを出し、スズカの腰に巻きつけて皆で引っ張った。パールは残念ながら参加できないので、応援だけだ。
「アリスからテレパシーあったわ。人形が動いたみたい」
「やっぱりここは、居るんですねー」
 言いながら、パールは天井の穴を見つめる。動く人形が下りてきた時対応できるように。
 スズカにポーションを飲ませ、皆は一旦合流した。もうすぐ夜になる。一通りの探索は終わっているし地図も完成しているが、塔の調査がまだなのと。
「地下が何処かにあるんじゃねぇかな?」
 地下への階段が見つかっていなかった。倉程度はあっても良さそうなものである。屋敷の裏に塔があるような立派な家だったのだから。
「‥‥塔も‥‥いますよ」
 穴を見上げながらパールが告げた。1度報告はしてあった事だが。
「じゃあ、ガルドさんは‥‥地下か、塔って事ですか?」
 穴をぶち抜いてもかすり傷で済んだアイシャが問うが、彬は僅かに笑みを浮かべた。
「いや。隠し扉の奥じゃないか?」


 屋敷内も、常時灯りがなければ動けないほど暗くなった。
 彼らはそこで、何度か屋敷内を往復する。放置されて元の色など分からなくなった絨毯を剥がし、隠し扉が無いかひとつひとつ壁を確かめた。屋敷内の大きさと内部が合っていない場所が無いか確認し、塔にも行ってみる。
 夜の塔は一層不気味で、案の定最上階にアンデッドは居たのだが、女性であるらしいそれはじっとしていて動かなかった。
「奥方でしょうか」
 女は塔の窓から外を見ている。そっと声を掛けてみたが、反応は無かった。
 何もしないアンデッドを倒してしまうのも気が引けるので、皆は再度屋敷に戻る。既に夜中になろうとしていた。

 幾つもの絨毯を剥いだり家具を動かした末に、皆は地下への扉を発見した。その間に何体かのゴーストに遭って戦っている。注意深く扉を開け、階段を降りる。
 勿論この時点で2階の人形を見に行っているのだが、既にその人形は姿を消していた。
「何‥‥だ?」
 一瞬、彼らは虚を突かれた。彼らはこの屋敷に居るのはガルドと女だけだと思っていた。彬が5人分の足跡を発見していた事から、中に人がいるだろう事は予測していたが、アンデッド屋敷かもしれないここに人が住んでいるとは‥‥置いてある物の状況からして考えにくかったのだ。
 確かに人は住んでいなかった。床に転がっているのは‥‥。
「‥‥まだ腐っていない‥‥です」
 ブリジットが小声で呟いた。
 床は、赤黒く染まっていた。その部屋には幾つかの人形が転がり、器や毛布なども置いてあった。生活していたような跡は見受けられた。だが、それらと同じように転がっているのは、子供が遊びで人形をばらばらにしてしまったかのような、人間の姿だ。頭が2個あるから2人分なのだろう。だが、どちらがどちらの四肢なのか。最早それさえ分からない。その上、胴体は1つしかない。髪は短く切られ、4つの目はそこに無かった。
「扉が」
 壁に似た色の扉を開ける。片方の頭部を見る限りでは、死んだ日は違うようだ。より最近に1人。
「‥‥この人は、生きてるわ」
 扉の奥は壁だった。壁と扉の間に、1人の女性が挟まれるようにして立っていた。顔色は悪く気を失っている。
「ガルドを探しましょう」
 皆は、地下室の中で隠し扉を見つけ、奥へと進んだ。すぐに扉があり、僅かに開いている。
「‥‥何故、こんな事を?」
 ガルドは死んでいるかもしれない。だが、人を殺したのかもしれない。皆は半信半疑で扉を開いていた。開いて、後者なのだと分かる。
 蝋燭が灯った部屋に、ガルドは座っていた。静かに人形を作っていた。子供が持つような小さな人形では無く‥‥大きな『人形』を。
「ガルドさん、ですね?」
 イレーヌさんが待っていますよ、と言うつもりだった者もいた。だが言えない。様々な質問をしようと思っていた者もいた。だが、人を殺してその人を使って『人形』を作っている彼は、もう人とは呼べないだろう。
 ガルドは7人へと目をやり、薄く笑った。
「人を‥‥憎いと思った事はあるか?」
「もう止めて下さい。死者への冒涜です」
「そうだろうな。だが再生だ。人形は生きている」
「生きているとしたら、それはアンデッドです」
「だが生きている。‥‥俺を教会に突き出すか?」
「その前に」
 直視できない者もいる中で、それでも彼らはガルドに問わなければいけない事があった。
「ここに貴方は1人で来たわけじゃないはず。共犯の女性は‥‥何処です?」


 レティシアとブリジットは、ガルドの工房に来ていた。
 肖像画と人形を持ち、以前会ったアンデッドを待っていた。どうしても救ってあげたいとレティシアは思う。安らぎを与えたい。その気持ちのままに、歌を歌う。
『イタイヨ‥‥』
 ぼうっと子供が現れた。レティシアは子守唄をメロディの魔法として唄い始める。影響下にあったブリジットも眠気がやって来たが、アンデッドはゆっくりレティシアに手を伸ばした。その手を取り、そっと抱き締める。鋭い痛みがレティシアを襲った。耐えて唄い、魔法を止める。我に返ったブリジットが、清らかな聖水を取り出した。
「天へ‥‥昇りましょう?」
 子供が頷いたように‥‥2人には見えた。

 アイシャとスズカはイレーヌの所に居た。
 イレーヌには正直な事を言えない。だが見つかった時に何か伝えたい事はないかと尋ねた。イレーヌは、以前レティシアに話した、婚約者を失った話を再度繰り返す。もう失いたくないのだと告げた。
 2人はイレーヌと別れて教会へと向かう。
 そこに、ガルドは居た。

 パールと彬は黒の教会に居た。
 罪は罪。罰は必要だ。だが、悪魔崇拝者の嫌疑がかかって死なれては、共犯と言える女の行方が分からなくなる。それを教会も分かっていて、彼らは毎日ガルドと面会を続けていた。
 彬はワインを差し入れ、じっくり話し込む。パールは工房に居たアンデッドの話をした。
「あんたは、送り雛というのを知っているかい? 人形の中に御霊を入れて‥‥海に流しちまうんだよ」
 人形しか愛さなかったのか。人を愛する事は無かったのか。それが分かった所で、この男を救う事は出来ないかもしれないが。

「そうかい。まだ‥‥娘はあそこに居たか」
 屋敷が遠くに見える畑の脇で。アリスティドは老女に会っていた。
「驚いたかい? この耳が」
 フードを脱いだ老女の耳は、上半分が削がれて無くなっている。失礼を詫びて尋ねてみれば、自分で切ったのだと彼女は言った。
「ハーフエルフである自分を呪うより、無くしてしまえと思ったんだよ」
 だが娘は同じ轍を踏んだ。彼女は呟く。
 そして、静かに屋敷を見つめた。