【詩情の音色】 奪われた音

■シリーズシナリオ


担当:姜飛葉

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 72 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月20日〜01月27日

リプレイ公開日:2007年02月10日

●オープニング

「何て事だ‥‥」
 冒険者達から、依頼の報告――事の顛末を聞いたデールは、そう零すと頭を抱えてしまった。
 デールから依頼を受けて、リュート職人・バリウスの工房を訪ねた冒険者達を待っていたのは、静まり返った工房と空っぽの家だった。
 柄の悪い男に詰め寄られていたバリウスの息子であり、同じリュート職人であるヴァレリーを助けた彼らは、悲嘆に暮れるヴァレリーを懇々と説得し、事情を聞きだしてきたのだ。

 聞けば、聖夜祭も間近に迫ったある日の夜半、突然バリウスの家屋に十人以上の男達が押しかけてきたのだという。
 完成していた3台のリュートと完成間近のリュートを2台、手中に収めた男達は、眠っていたバリウスの家族達を縛り上げ捕らえた。
 そしてバリウスには、妻と孫たちの命を盾に、2台のリュートの完成を迫った。
 バリウスは家族のために盗賊達に従い、工房を出て行ったのだという。
 ヴァレリー自身は、何故か解放され、一人工房に残された。
 両親を、妻と家族も返して欲しいと訴えるヴァレリーを素気無くあしらった盗賊の頭と思しき男は、鼻で笑いながら条件をつけた。

『家族を帰して欲しければ、あと15台のリュートを作れ』 ――と。

 父・バリウスの許し無くば、己のみでは『名器・バリウス』を作る事は叶わないとヴァレリーが訴えると、仕上げはバリウスにやらせるから、これまでと変わらない自分の仕事をすれば良いと男は告げた。
 15台完成した暁には、家族を返してやろう。
 その言葉を信じるしかなく、ヴァレリーは1人工房に篭り文字通り寝食を削って、リュートを作っていたのだという。
 冒険者達が追い払ったのは、リュートの製作状況を確認に来た盗賊団の一味だったのだ。

「それで、打つ手は無いのかね?」
 一気に疲れた様子をみせるデールに、冒険者は告げた。彼らは、ヴァレリーに更に話を聞いていたのだ。
 ヴァレリーの子供達‥‥息子はともかく娘はまだ幼い。そしてバリウスの妻は健康ではあるが年老いている。
 その一家を連れ、遠くまで行くことは難しいのではないかとヴァレリーはいっていた。
 遠くから何度も行き来しては、往来が少ない道‥‥近所の村の人々の目に留まる。
 食料を届けてくれた村人の様子に不審はなかったから、道を使ってはいないのだろう(これは冒険者も同意していた事だ)。
 山へ抜けたとなれば、道は限られてくる。
 材料を得るに住まいを構えた峰々‥‥裏の山には、大きな山小屋が2軒あった。
 1軒は山頂に近いこの季節雪も珍しくない場所。もう1軒は同じくらいの標高にあるがぐるりまわり遠く険しい場所。
 バリウス親子も使う山小屋は必要なものはそろっており、親子が使っていたために簡単なリュート作りを助ける道具も置きっぱなしなのだという。
 男達が制作の経過確認に訪れるのは4日に一度。その時間を考えれば、そう遠くは無い場所にいるのだろうと思ったからこそのヴァレリーの予想だった。
 話を聞いていたデールは、何事か口の中で呟いていたが、冒険者がそう語るのならば職人のただの願望ではないのだろうと小さく頷き、納得の色をみせる。
 そして、ほんの暫く迷うように、冒険者の一人が持っていたリュートを見詰めていたが‥‥
「品物の遅れは痛いが、そういう事情となれば話は別だな。‥‥バリウスの爺さん達一家を助けて欲しい」
 バリウス一家とは、皆面識あり良くして貰っていたのだというデールは、もう一度「頼む」と冒険者らに頭を下げるのだった。


「バリウスの所に客が来た? ‥‥どうしてそれで用も終えずにのこのこ帰ってきたんだ?」
 手ぶらで帰ってきた部下からの報告を受け、頭の位置にいる男は苛立たしげに言い放った。
 男の声は怒声ではない。大きくは無い声に、怯えるように柄の悪い男2人が身を小さくしている。
 何となく、帰って来てしまったのだと言えば、頭の不興を買うことになる。
 完成間近なものがなかったのだと男達は、ヴァレリーに罪を被せ、自身らに非が無い事を訴えた。
「成る程な、随分親不孝な息子をもったことだな、なあ、バリウス?」
 掛けられた声に返事を返す事無く、男がいる脇のテーブルで一人の老人は黙々とリュートを磨いていた。
 頑なな態度に口元を歪め笑った男は「まあ、いい」と己の寛大さを押し売るように部下を追い払った。
「客くらい来るだろうが‥‥‥‥」
 男は呟き、何か思案するようにバリウスがリュートを磨くその手を眺めていた。

●今回の参加者

 ea2446 ニミュエ・ユーノ(24歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea4943 アリアドル・レイ(29歳・♂・バード・エルフ・イスパニア王国)
 ea5227 ロミルフォウ・ルクアレイス(29歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea5510 シーン・イスパル(36歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb1205 ルナ・ティルー(29歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb3000 フェリシア・リヴィエ(27歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb3757 音無 鬼灯(31歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

●救出作戦
 冴え渡る冬の空。空気は澄み、美しい夜闇が広がる天上で星々が瞬く。
 綿入りの暖かな毛皮の一揃いを纏い、シーン・イスパル(ea5510)は白銀の粉を巻いた濃紺の天鵞絨のような空を見上げていた。
 寒さに痛みを訴えるむき出しの頬を己の両手で包みこみ、密やかに吐息を零せばそれは一瞬で白く凍る。
 高い木々の枝や、樹の影となっているらしい土の上‥‥そこここに雪が残る山の中、体の芯から凍りつくような寒さの中を、火を使うことも出来ないままに冒険者達はただじっと耐えていた。
 彼らが見つめる視線の先には、1軒の山小屋。
 寒さを堪えられたのは、その山小屋に捕らえられているはずの楽器職人の一家を思っての事だった。
 それは理不尽な暴力への憤りであったり、あるいは歪んだ盗賊達の行動に怒りを過ぎた呆れであったり。 
 周囲の景色と変わらず山小屋も幾ばくかの雪に囲まれている。
 だがその屋根に、雪は残っていなかった。
 しんと静まり返った夜の山。
 耳に届いたほんの僅か氷った雪が鳴る音に、一抱えある皮袋を抱えたアリアドル・レイ(ea4943)が頭を巡らせれば、大地の色を持つ鬼灯が件の山小屋から戻ってきたところだった。
「間違いないよ、偽装はされてるようだけど‥‥人の気配は隠しきれていないね」
 罠の類は夜闇越しには見受けられなかったけれど‥‥と、防寒服のフードを払いながら密やかな声でそう仲間に告げた音無鬼灯(eb3757)の瞳に揺らぎは無い。
 依頼の時間は限られている。バリウスの工房へ訪れるまでにも日を重ね、助けだすために山に入っても刻は流れていく。
 何よりも救出する事を優先した鬼灯らは、得られた多くは無い情報から推察と予測を重ね、実際の状況と照らし合わせた結果今こうして真向う山小屋は、バリウスの工房がある場所と同じくらいの標高にある方だった。
 山道を使っても麓から長く歩く事となるその山小屋は、遠く地的に険しい場所になる。
 幾度も足を運んでいるヴァレリーでも難儀するというその場所は、年老いた女性や子供にとって、力に勝る暴漢達から逃げ出すに困難な場所だろう。
 雪が多い場所では雪に刻まれる足跡などで人の出入りが気付かれやすく、盗賊達自身も生きた人間であれば暖を得るために必要な物資も多くなる。
 険しい場所である目指して来た山小屋の方が一家を逃がし難い。
 鬼灯の予想に違わず手を差し伸べるべき場所がそこにあった。
「事情を聴けたお蔭で、最悪の事態は回避できました。少なくとも、こうして手立てを講じられるわけですから」
 迎えた彼の顔に浮かぶ柔らかな表情はいつもと変わらない。
 ただ揺らがぬ瞳の色の強さだけが冷静な彼の芯の強さを伺わせる。
「『リュートを完成させれば、家族は解放する』なんて‥‥ヴァレリーさんには言えませんけれど、おそらく嘘、ですわ。ここまでの事をしておいて、自分達の足がつくようなことを、盗賊がする筈がありませんもの。‥‥ですから、所謂先手必勝、なのですわ」
 雪上を歩くに長けたつややかな白い毛皮で作られた長靴で足元を確かめ、凍えた手指をゆっくりと解き解しながら、微笑むロミルフォウ・ルクアレイス(ea5227)にフェリシア・リヴィエ(eb3000)は頷いた。
 山小屋へ来る前に、盗賊の拠点を求め訊ねたペンデュラムは何故か曖昧に紙上の山をぐるりと巡った。
 それを思い出してか彼女は首を僅かに傾ける。
「リュートをあと15台‥‥全部で20台。この数には何かあるのかしら‥‥」
 どうでしょうねとアリアドルは微苦笑を浮かべる。
「バリウスさんには自分が納得できる状況でこそ、楽器を創って欲しいと私は思います。‥‥籠の鳥をつついて歌わせるような真似は嫌いです」
 皮袋から弦の震えを気遣いながらリュートを取り出したアリアドルは、常と変わらぬ穏やかな口調の中で、けれどはっきりと想いを口にする。
 手袋を外せば、たちまちのうちに凍えそうになる指を伸ばし、見目より存外軽い詩人として欠かせぬ連れ合いを抱いた。
 バリウス達を取り戻すため、盗賊らと戦闘になる事は承知の上。
 その中で『彼』も傷つくかもしれないけれど、きっと『彼』とて生みの親を助けたいだろうと彼は思ったのだ。
「必ず助け出しましょうね」
 事前にヴァレリーに聞き確かめた山小屋の間取りを思い返しながらロミルフォウが改めて決意を口にすると、居並ぶ面々は一様に頷きを返す。
「ボクは今回は戦闘専門でいかせてもらうね!」
 適材適所。人質の救出へ優先的に当たる事は仲間に頼んだルナ・ティルー(eb1205)は防寒具の代わりに毛布をその身に巻きつけていた。
 座り備える場所には毛皮の敷物。平地であれば過ごすに易い助けとなるだろう毛皮の敷物も冷たく氷りついてしまったかのように毛並みは固く。
 ぶるりと身を震わせて毛布を再度胸の前でかき合せれば、かちゃりとシルバーナイフの鞘が鳴った。
 それらに夜と同じ色のマントを重ね防寒具の代わりとしようとしていたルナの身は、やはり敷物と同じように寒さに凝ってしまっていた。
 恙無く救出するために、動きに支障がないようにしなければ行けない。
 バックパックには助けになるようにと詰められたポーションが幾つか。
「気をつけなくちゃね! 色々と」
 決意を改めて口にする彼女の懐から這い出したシェラ・ウパーラ(ez1079)は、その鮮やかな赤毛を見上げ頷いた。
 彼らが待ちわびる時刻は黎明。太陽を思わせるその色に、シェラは夜明け前のその時刻を思い日が昇るはずの方を見た。
 それを察したのかシーンが空を見上げ呟く。
「じき夜が明けますね‥‥」
 瞬く星は明けに近い事を彼女に伝えていた。
 それは一家を取り戻すための彼らの始まりの時間――。


●不安と希望と
 それより少し時は遡り‥‥。
 鬼灯らが山へ足を踏み入れた頃、ニミュエ・ユーノ(ea2446)はバリウスの工房に居た。
 時を惜しみ少しでも先を急ぐ事を選んだ仲間に対し、ヴァレリーの下に彼女は残っていた。
 アリアドルと同じく吟遊詩人であるニミュエも、今回の件は許せぬ横暴だと憤っていた。
 情報を得てから万全を期し賊達へ挑もうと思っての事だったが‥‥。
「男達が次に来るのが何時かは正確なところは私にはわからないんだ」
 申し訳無さそうに首を小さく横に振るヴァレリーに、ニミュエは艶やかに微笑み、手に持つリュートを持ち直した。
 それはバリウスが作り出したリュートでは無かったが、美しく瀟洒に輝く弦が振るえ生まれる音色は間違いなく秀逸な品。
 奏でる主の力量ゆえに生まれる音楽が、閑散とした工房に優しく響く。

♪道端の花 そっと摘んで君が髪に飾ろう
 小さな天使の祝福が 君がもとに下りるあるように
 一輪の花 君が幸せを切に願わん♪

 異国の言葉で紡がれる歌の内容は、ヴァレリーにはわからなかったけれど、自然零れ落ちた頬を流れる雫が何よりも感銘を受けたヴァレリーの心中を表していた。
 音を愛するゆえに、人と音楽を繋ぐ楽器を作る事を生業に選んだ彼は、範としてきた父の背を思い出す。
「本当の幸せはご家族を無事に届けることですわ、その為にわたくし達が来たんですものね」
 大丈夫と微笑むニミュエに頷き返したヴァレリーらの元に、男達が訪れたのは強い意志が引き寄せた機だったのだろう。
 見る者を魅了する甘やかな笑みを浮かべたニミュエに迎えられた男達を待っていたのは、月の魔法による抗いがたい歓迎だった。
 先に向う仲間達が挟まれるわけにはいかないと、魅了されたまま眠り、縛り転がされた男達から得た情報を仲間にもたらすべく工房を出ようしたニミュエに既に日暮れた夜の山は危険だとヴァレリーが同行を申し出たのだった。


●合間
 山小屋の中の暖炉は、残り火が僅かに燻っているだけで、明け近い深夜半‥‥冷え冷えとした空気に満ちていた。
 その中で僅かな灯りの下、寒さに悴み軋む手をゆっくりと動かしながらバリウスはリュートを磨き削る。
 重い瞼をこらえながら退屈そうにその様子を見つめる男が2人。
 暖炉の傍らに数人転がっているのだろう‥‥鼾とまではいかないながらも、大きな寝息が響いていた。
 だがそれらに構う事無く黙々と作業を続けていたバリウスの手が、不意に止んだ。
 一言二言何か呟かれる。
「‥‥どうした、爺さん。出来たのか?」
 その様子に気付いた男が訝しげに声を掛ければ「何でもない」という返事と共にバリウスは再び手を動かし始めた。
 男は小さく鼻を鳴らし、再び動き始めたバリウスの手を眺めていた。


●作戦開始
 扉から聞こえた音に、盗賊の1人が山小屋の戸を開け放ち顔を覗かせた。
「何だ、やっぱり風の音か」
 嘆息零し、寒さに悪態を付きながら山小屋へ戻ろうとする男にそっと鬼灯が忍び寄り、手を伸ばす。
 やがて音も無く崩折れた盗賊を扉の側から離れた場所へ置き、そっと扉へと触れる。
 中途半端に開いた扉の蝶番。寒さに凝った金属は、僅かに軋みを立てる。
「中が冷えるだろ、確認したらとっとと‥‥」
 連れに声を掛けた男の言葉が途中で止まった。
 寒さに目を開けた盗賊達の幾人かが、どうしたんだと声を掛ければ、深みある艶やかな歌声が、寒々しい雪山に立つ小屋に高らかに響き渡った。
 美しく響くリュートの高音が滑らかな高低を紡ぐ歌声と重なる。

♪弱き者の影に隠れるは 臆病の証
 心に恥じぬ刃があれば 堂々、己が敵に向けよ
 牙を怖れて羊の群れに 逃げ込む阿呆にはなるまいに♪

 寒さによって浅い眠りから引き戻され身構えた男達の中で幾人か武器を持つ手が緩み、苦しげな表情を浮かべる者を認めたものの、頭と思しき男の一喝で、アリアドルの魔法が破られる。
「何やってるんだ、お前たちは!!」
「仕方ありませんね」
 魔法が無駄になった事を認め、アリアドルは即座に影を縛る魔法に切り替える。
 人質が捕らわれている小部屋へかける鬼灯を邪魔立てする盗賊を優先しその影を捉え、その場に縫い留めていく。
 小屋へ近付き踏み込む直前に、バリウスへ接触を試み聞けた情報通り、鬼灯が掛けられている鍵ごと錠を壊し扉を開けば、子供達を庇うように老婦人と女性が部屋の片隅にいた。
「大丈夫、僕達はバリウスさん達を助けに来た冒険者だよ」
 安堵させるように笑いかければ、老婦人が細い悲鳴をあげる。
 咄嗟に身を捻り、突きつけられた刃ごと抱え込むようにして腕を捻り上げ、十手の重い一撃を首裏に叩き込んだ。
「ちっ、力しか取り柄が無いくせに」
 夜明け前の無防備な時間に強襲された事も手伝って、盗賊らは混乱していた。
 広くは無い屋内において、統率とれない大人数こそが足枷になる。
 役立たずな奴らだと、盗賊達を冷たく蔑み杖を構えた男が不意に瞳を見開いた。
「動かないでくださいね、如何なるかはお分かりでしょう?」
 喉元に突きつけられた銀の刃が、きらりと朝日を返す。
 眼前の騒動に気をとられている隙に、インビジブルで身を隠したシーンが魔法の使い手を狙い距離を詰めたのだ。
「このっ!」
 明らかに不利になっていく自分たちの状況に業を煮やしたのだろう、盗賊の手から怒声と共にバリウス目掛け手斧がくるくると円を描きながら投げつけられた。
「おじいちゃんっ!!」
 抱き留め庇う鬼灯の腕の隙間から見えた凶刃が飛ぶ様に幼い子供の悲鳴に似た声が響く。
 フェリシアが咄嗟に庇うようにバリウスの元へと掛ける。
 眼前に飛来する刃に、瞳を伏せたバリウスに――刃は届かなかった。
 ルナがバリウスの袖を引き僅かに斜線から外し、鈍い音と共にロミルフォウが手斧を叩き落したのだ。
 そんな中、アリアドルとは違う柔らかな声が響き、残っていた男達の幾人かが膝を付く。
 その隙にルナが鞘付いたままの剣で男達を昏倒させ、盗賊らの抵抗力を奪っていく。
「間に合いましたわね」
 笑みと共にその場に現れたのはヴァレリーを伴ったニミュエだった。
 山小屋の中に引き離された家族の姿を認め、ヴァレリーが駆け込んできた。
「もう大丈夫ですよ」
 急ぎ山を歩いてきたのだろう、上気した顔に、喜びが浮かぶ。
 妻と子供を抱きしめるヴァレリーに、ニミュエが小さく微笑んだ。
 縋りつき涙を零す老妻をそっと無骨な手で宥めるバリウスの姿に、ロミルフォウはフェリシアらと笑み交わした。
「バリウスさんの作品は、それを愛する全ての人のものです。お金儲けの私欲の為に独占しようとするなんて‥‥お仕置ですわ」
 ロミルフォウの言葉に、痛みに呻きながらも彼女らの足元に転がる盗賊の1人が舌打ちを零す。
「反省してないみたいだね」
 その様子に剣を納めたルナが、眉を寄せながら順繰りと盗賊達を縛り上げていく。
 だが、縛り上げた盗賊らを数えていたルナは首を捻った。そっと疑問をシーンに囁けば、彼女は自分が捕らえた魔法使いを振り向く。
 捕らえた男達の中に頭目と思しき男の姿が見えなかったからだ。
「今はバリウスさん達を無事送り届けましょう?」
 救出こそ最優先とした彼女らは、フェリシアの言葉に頷き、帰路も油断できないと身を引き締めた。
 幾分窶れこそしたものの再会の喜びに満ちた一家の姿が、寒さを耐えここまで来た彼らの労を癒してくれたのも事実だった。

「‥‥それは?」
 安堵ヴァレリーが訊ねると、アリアドルは小さく微笑んだ。
「戦闘で傷ついたら嫌ですが、リュートも生みの親を助けたいだろうと思ったんです」
 バリウス一家を助け出すためにアリアドルが身につけたリュートは、バリウスの銘を持つ彼の子供ともいうべき品。
 道具としてではなく己の持つ楽器を愛するアリアドルの想いゆえの事だった。
 どこかはにかむ様に愛器を撫ぜるアリアドルを、少し離れた場所からバリウスが瞳を細め見つめていた。