テロリストの黒き旗〜動乱編3
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■シリーズシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:15人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月29日〜11月03日
リプレイ公開日:2006年11月08日
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●オープニング
●新風は東から
王都ウィルの冒険者酒場は今日も盛況。つい先日、メイの国への月道が冒険者に開放されたこともあり、酒場のテーブルでもメイの国の事がよく話題に上る。
ちなみにメイの国は、海の向こうのアプトの大陸の西部に位置する、アトランティスにおいて最古の歴史を持つ国の一つだ。
「話によれば、メイの国ではカオスニアンや恐獣が勢いづいており、半世紀前のカオス戦争が再来するのではないかと危ぶむ声もあります」
と、酒場のテーブルの一つに陣取って話すのは、王家調査室の若き書記リュノー・レゼン。
「メイの国も、ウィルとはまた違った意味で問題山積みというわけですね」
と、月例新聞の編集員にして事情通の地球人・知多真人が相づちを打ち、さらに一言。
「メイに取材へ行けたらいいんだけど‥‥」
「ウィルの事を放っておいてか?」
冗談めかして突っ込んだのは、地球からアトランティスに侵入したテロリストを追う合衆国軍兵士ゲリー・ブラウン。慌てて知多真人は言い足した。
「この大事な時にウィルを離れる訳がないじゃありませんか」
「でも、ウィルからメイへの移動を希望している冒険者も多いみたいよ」
と、ゲリーのパートナーの地球人、エブリー・クラストが言う。
そんなこんなで話を咲かせるうちに、テーブルを共にしての食事も終わる。
「では、行くか」
残り少なくなっていたハーブティーを一気に飲み干してゲリーが席を立ち、残りの者も彼に続く。これからカイン総監と会う約束があったのだ。
●目に見えざる脅威
所は変わって、冒険者ギルドの建物内にある冒険者ギルド総監室。
「私も今回の月道開放を喜ばしく思います」
と、カインはあっけらかんと言う。
「ゴーレムは数あれど実戦の機会に乏しいウィルとは違い、メイの国はゴーレムの力が必要になる程の強敵に事欠かないのですから。恐獣にカオスニアンの軍勢、やがては強大な力を持つカオスの魔物も出現するかも知れません。ウィルからメイに向かう冒険者にとっては、実戦の経験を積む良い機会です」
「しかし、人々の目に見えない形で静かに進行する危機もある」
と、口にしたのはゲリー。
「恐獣にカオスニアンにカオスの魔物。そういった手合いの、はっきりと目に見える形を取った脅威ならば、戦いもやりやすい。しかし今現在、この王国をじわじわ蝕みつつあるのは、ゴーレムの力では対処できない脅威だ」
続くその言葉を聞き、カインも真顔になった。
「話を聞かせて下さい。貴方の言いたいのはエーガン国王陛下のお膝元たるフオロ分国内の政治的混乱と、それに乗じて自らの勢力を拡大せんとする、テロリストと呼ばれる邪悪な地球人の一派のことですね?」
「その通りだ。先の調査から3ヶ月経ったが‥‥」
王都の西方、王領アーメルとロメル子爵領の調査から丸3ヶ月が経っていた。この3ヶ月の間にペット騒動、ウィルカップ、再度の招賢令、カイン・グレイスの冒険者ギルド就任、ウィンターフォルセ事変と様々な出来事があったが、ゲリーが自らに使命と課したテロリストの追跡は、ほとんど進展していない。
主たる原因はテロリストの活動地域と目される諸領地の事情にあった。中世ヨーロッパに類似した封建制下にあるウィル王国においては、同じ王国内にある領地と言えども、その一つ一つが独立国のごとき存在。領内の全ては統治者たる領主の意思の下に置かれ、外部の者が領地の内情に探りを入れることは、決して容易くはない。まして、内部に問題を抱えた領地であれば尚更だ。領主というものはとかく、外の目から領内の問題を隠そうとする。
「‥‥しかし、先の調査で我々は、テロリストの陰謀の一端を嗅ぎつけることが出来ました。テロリストの中心人物たるシャミラは、このアトランティスに召還された地球人達を取り込み、陰謀の道具に利用している節があります。しかもその地球人達は、魔法の実戦訓練を施されている模様。決して侮れません。そしてあれから3ヶ月を経た今、テロリストどもはますます勢力を拡大していることが予想されます」
これまでの経緯を一通り説明した後、ゲリーはカインに願い出た。
「私は近々、政情不安地域の王領アーメルに赴き、テロリスト対策について王領代官ギーズ・ヴァムと協議するつもりです。カイン総監殿には、そのお力添えを願う次第です」
「アーメルに向かうに際しては、私の委任状を持たせましょう。私は冒険者ギルド総監として、テロリスト問題の解決を貴方に委ねます」
カインは即答した。
●政情不安の地
この3ヶ月の間、ゲリーとて無為に過ごしていた訳ではない。彼は騎士学院の人脈を通じ、各地の情報収集に励んでいた。
「気になる事は幾つもある。アーメルの北東、王領北クイースでは傭兵多数を雇い入れる動きがあり、アーメルの西方では、ロメル子爵領に近い街道筋で盗賊の動きが活発化しているという。しかし一番気掛かりなのは、困難な状況下にあるロメル子爵領の領主が、それまで加盟していた冒険者ギルドから一方的に脱退したことだ」
冒険者ギルドは大勢の領主が加盟することによって支えられ、冒険者にはギルド加盟領主の領地を武装したまま通行する権利が与えられる。また領地内での冒険者の諸権利も、ギルド加盟領主の名によって保証される。ロメル子爵領がギルドから脱退したということは、今後ロメル子爵領に立ち入った冒険者の身の安全は保証されないということだ。
「この脱退の裏に何かありそうね」
と、エブリーがゲリーに言う。
「しかし、北クイースやロメルの事は後回しだ」
優先すべきはアーメル代官との協議。代官の合意が得られるならば、早速にアーメル領内での対テロ作戦が、冒険者の手により実施される運びとなろう。
移動用のチャリオットも確保できたので、アーメル領内での移動時間も短縮できる。
ちなみに操縦者はゲリー、エブリー、知多真人の3名。希望者があれば、冒険者にも操縦を担当して貰う。
但し依頼期間の関係上、北クイースやロメルについての情報収集を求める冒険者に対しては、遠方からも人の集まる王都にて、情報収集に励んでもらうことになろう。
依頼の出発日も間近になって、冒険者ギルドからゲリーの元に連絡が届いた。別件の依頼でアーメルに出向いていた冒険者達が、現地で騒ぎを起こしたナーガと平和的に交渉を進め、人質に捕らえられていた兵士の救出に成功したという。問題のナーガは冒険者の手により食料を与えられ、引き続きアーメルに滞在中だという。
「ついでに、そのナーガにも表敬訪問といくか。アーメルに出没するテロリストのことも、警告しておかねばな」
そう口にするゲリーだが、その心中では気掛かりな二つの事を思い出していた。一つは今年の初め、聖山シーハリオンの間近で起きた、ナーガによるフロートシップ襲撃事件。もう一つは襲撃事件の直前に為された、冒険者によるタロット占い。
『近い将来、ドラゴンと死をもたらす者とが出合い、破滅と混乱がもたらされる』
タロットのカードはそのように告げているとも読みとれたのだ。
●リプレイ本文
●新しい仲間
テロリストに挑むゲリー・ブラウンは、新たな仲間を得た。
「天に仕える黒の僧侶、白銀麗です。よろしくお願いしますね。読心の魔法などを使えますので、お役に立てると思いますよ」
白銀麗(ea8147)はジ・アースより来たエルフの僧侶。彼女は特異な魔法を習得していた。
「人払いを願います」
頼むと、自分は衝立のように縦置きしたテーブルの裏へ。その衣がはらりと落ちる音に続いて高速詠唱の呪文が響くと、テーブルの裏側から人間程の大きさの大鷲がふわっと宙に舞い上がった。
「おおっ! これは!」
「正しく魔法だわ!」
驚愕するゲリーとエブリー。大鷲は暫く部屋の中をばたばた飛び回っていたが、やがてテーブルの後ろに隠れ、少し間を置いて衣を身につけた銀麗が現れた。
「これがミミクリーの魔法です。自らの肉体の大きさはそのままで、形だけを自由に変える事が出来るのです。鳥に変身すれば空も飛べます。但し、この魔法のことは極力、秘密にしておいて下さい」
「分かった。そうしよう」
と、ゲリー達は同意した。
「ところで、シャミラの姿を見た者は‥‥」
「私がワンド子爵領で保護している子どもが目撃しているはずよ」
と、エブリーが答える。
「ここにいれば、リードシンキングの魔法でその姿を見せてもらうことができたのですが」
銀麗は残念がる。もっともリードシンキグは表層思考を読みとる魔法。記憶を読みとるには月魔法リシーブメモリーの方が適している。
●テロリストとは?
そして銀麗は、テロ対策協議の場に招かれる。
「先ずはテロリストの何たるかを知りたいのですが」
銀麗のその問いに黒畑緑郎(eb4291)が答える。
「テロリストとは暴力的かつ残虐なテロ行為によって、政治的に対立する者を威嚇し、人間社会の平和と秩序を破壊する邪悪なる者達だ」
さらに地球での幾つかの実例を挙げる。
「なるほど、人の心につけ込むところはデビルや悪魔信奉者に似ていますね」
ふと、エリーシャ・メロウ(eb4333)が言う。
「『てろりすと』とは特に凶悪で、ただ奪う弑すだけでなく日常に紛れて機を待つ狡知も備え、叛徒とされた者達を統合し力を以って王家打倒を狙う恐るべき兇賊‥‥と、これまでの報告書からは理解したのですが」
「それで概ね合っている。この世界の人間ならそう捉えるだろう」
と、ゲリー。
「天界人方は皆素晴らしい知識をお持ちですが、やはり良い面ばかりとは限らないのですね‥‥」
エリーシャのこの言葉はゲリーにとって耳が痛かった。
「残念ながら‥‥それが現実だ」
銀麗と同じく、今回の依頼がゲリー達と初顔合わせになるシャルロット・プラン(eb4219)が訊ねる。
「つまりテロ組織とは、政治的に掲げる信条が『民衆の解放』で、潜入・工作・暗殺などを実行する組織ですか? 極めて興味深い話ですね。では、彼らの正義と最終目的は何なのでしょう? 例えば、悪王を倒し正しい王が王座につく事自体は、それが騎士道の正義に則って行われる限りにおいては、セトタでも正当な行為と判断されていますが」
「俺はそういった政治の話は苦手なんだが‥‥」
苦笑しつつゲリーは続けた。
「分かりやすい例で説明しよう。かつて地球では、テロリスト達が二つの大国を乗っ取ったことがあった。一つはロシア、もう一つは中国だ」
すると、エブリーが突っ込む。
「その言い方は乱暴過ぎない? テロリストとコミュニスト(共産主義者)を一緒くたにするなんて」
「だけど、どっちだって似たようなもんじゃないか。しかも、ロシアも中国もかつてはアメリカの敵国だったんだぞ」
「ゲリー、冷戦は終わったのよ。今はどちらも友好国じゃないの?」
地球人二人の間で議論が始まったが、頭がついていけないのはシャルロット。
「テロリスト? コミュニスト? レイセン?」
見かねて緑郎が助け船を出す。
「つまり、現代に至る地球では、旧体制が武力革命によって新体制に取って変わられるという歴史の潮流があり、その中でテロ行為が大きな役割を果たしたという事実があるんだ。ロシア革命しかり、中国革命しかり、ベトナム戦争しかり、中南米で延々と続いた左翼ゲリラ戦しかり。新体制側の勢力が小さいうちは、要人暗殺などのテロ行為で旧体制を揺さぶり、やがてその影響力が強まると民衆の暴動やサボタージュで旧体制を苦しめ、十分に力をつけた段階で武装蜂起して旧体制の息の根を止めるというわけだ」
「つまり、彼らテロリストがその標榜する『民衆の解放』というものを貫くなら、王制及び貴族という制度自体をごっそり破壊するまで、この国でその歩みが止まることはないということですね?」
「恐らくは」
「テロリストが政治的混乱に乗ずることを常套手段とし、錬度の高い魔法を行使するとなると、王や諸侯が民衆の前に姿を現す機会を狙い、魔法で狙い打つだけで事は済むでしょう。例えば分国各地で民を扇動し騒乱を起こして王都の兵を派遣させ、手薄になった王都で王を狙うなども可能性としてあります。今後の日程で該当しそうなものがないか、一度確認しておきます」
しかしエブリーは言う。
「だけど、テロリストを全能の悪魔みたいに見なすのは禁物よ。テロリストも私達と同じく、様々な欠点や弱点を持った人間。その事を忘れないでね」
協議を終えた後、緑郎はゲリーと二人きりの場でこっそり告げる。
「今は改善されつつあるようだが、民衆や元騎士にとってのエーガン王は、『暴君』のイメージが強い。テロリスト志願者は、いくらでも出そうだな。だけど、たとえ為政者が暴君だとしても、一般市民を巻き込むテロリズムを私は否定するぞ。但し、この国ではゲリーさんの国のやり方だとまずいと思うので、対テロ戦は少人数で、できる事から始めたく思う」
「俺の国のやり方?」
「例えば民間人を巻き添えにしての、高性能兵器による一方的な報復攻撃とか‥‥」
ゲリーは身振りで緑郎の言葉を制し、告げる。
「俺はテロリストの言いなりにはならない。それだけは、はっきり言っておく」
●ネバーランド
「では、私は王都でロメル子爵領と北クイースの徹底した情報収集を行います。ただ、一人では限界がありますので、これを機に私の影響を及ぼせる情報網をある程度作りあげたいですね。なにしろ正々堂々とした戦いなんかしないテロリストが相手ですからね。いかにして情報を得るかが大事です」
ゲリー達にそう告げると、信者福袋(eb4064)はオルステッド・ブライオン(ea2449)に連れられて王都の一画に足を運ぶ。訪れたのは子どもギルド・ネバーランドの拠点の一つ。
「今日、ここにいるのはこれだけか?」
そこには5人の子どもと、彼らを束ねるリーダーの少年が1人。
「他の子達は余所で働いてるよ」
リーダーが答える。
「実は頼みがあって来ました。テロリストという悪いヤツをやっつけるのに、力を貸して欲しいのです」
「悪いヤツをやっつけるの!? ぜひとも力になるよ!」
と、子ども達は福袋の言葉に目を輝かせた。
「では早速、ロメル子爵領と北クイースの情報収集をお願いできますか?」
福袋の一番近くにいた、利発そうな子どもがそれに答える。
「どっちも遠い場所だね。でも市場に行けば、色んな噂話が集まると思うよ」
滑り出しは上々。翌日もその翌日も、福袋は王都の各所に散らばるネバーランドの拠点を回り、子ども達から協力の約束を取り付けた。
ネバーランドは子ども達の互助組織。所属する子どもには裕福な家の子どももいれば、貧しい家の子どももいる。貴族階級と庶民、両方にコネが欲しい福袋にとっては、うってつけの提携相手だ。
しかし王都にはトルク家を始め、様々な勢力の情報網がある。福袋の行動は早くも、それらの情報網の一つに引っかかった。
数日後。結果を聞きに来た福袋を、リーダーが畏まった態度で出迎える。
「ネバーランド支援者の方が、近いうちに是非とも会いたいと」
「その支援者のお名前は?」
「王領ラントの代官、グーレング・ドルゴ様です」
「‥‥え!?」
「で、このお手紙を手渡して欲しいと頼まれました」
リーダーより渡された手紙には、こうあった。近日中にクイース領を巡る諸問題について協議したいと。
●ロメル子爵領の混迷
それにしても気掛かりなのはロメル子爵領の動向。
「ふーむ、ロメル子爵のギルド脱退か‥‥はてさて何があったのやら。まあ、いい方向でないのはわかるがね」
アシュレー・ウォルサム(ea0244)ならずとも、誰もがそう感じたはず。ともあれ、先にロメル領の偵察に赴いた彼は、その結果を仲間達に知らせると共に、携帯電話に収めたカーラの姿も見せておく。また、彼女と接触するための合図も。
そして多くの仲間はアーメルに向かった後、エリーシャは王都に残ってロメル領の情報収集に当たる。先ずはギルド総監カインに事実の確認。
「1ヶ月ほど前に、ロメル子爵の使者がこれを届けに来たのです」
エリーシャはカインより、冒険者ギルドからの脱退を表明する書状をカインから見せられた。
「これはロメル家当主の署名が為され、ロメル家の印章が押された正式の文書。しかしあまりにも一方的な通告なので、確認を求める手紙を何度か送ったのですが、返事はありません。冒険者ギルドからも使者が出向いたのですが、ロメル領の入口で追い返されたそうです」
次いでエリーシャが向かったのは、王都の貴族街にあるワンド子爵の館。生憎とワンド子爵は不在だったが、代わりに子爵の代理人として王都に滞在し、商取引に携わる会計係が色々と教えてくれた。
「ご存じのようにロメル子爵領はワンド子爵領の隣地なのですが、最近は良い話を聞きません。今も細々と交易は続いているものの、ワンド領からロメル領に向かう者は皆、関所で追い返されてしまうのです。しかも、ロメル領からやって来る者といえば、これまで顔を見たこともない素性の知れぬ連中ばかり。そういう訳で、お館様もロメル領への警戒を強めていらっしゃるのです」
ロメル家当主の事を尋ねてみると、かつては街道筋に栄えた町を有し、街道からの通行料もあって生活は裕福。ワンド子爵とも浅からぬ親交があったとか。しかし国王の不興を買って豊かな北ロメルを失ってからは、世捨て人のように領地に引き籠もったままでいるという。当主の家族には跡継ぎの息子とその妻がいるが、その二人も貴族の社交界に姿を見せなくなって久しいとか。
「ところで、ロメル子爵にはサクマ殿なる天界人が仕えていると聞きましたが」
訊ねると、会計係は首を傾げた。
「サクマ殿? はて、私はそのお方を存じ上げませぬ」
その後、王都の酒場にて西方より来る商人を捜し出し、話を聞いてみた。商人の話もワンド子爵の会計係と同様で、ついでにこんな事も教えてくれた。
「最近、ロメル子爵領に近い街道筋が物騒になっているんだ。あの辺りを通る時は気をつけた方がいい」
帰り道。エリーシャは思う。
(「無闇に疑うは愚かなれど‥‥サクマ殿は『てろりすと』で、既にロメル卿はその意のままに操られていたとしたら? 『賊徒は居ない』との言葉は『『てろりすと』は賊徒に非ず』との意味だとしたら‥‥?」)
一般にテロリストと呼ばれる連中は、自分たちのことをテロリストなどとは思わない。革命家であったり聖戦の担い手であったり。間違いなく自分たちを正義だと確信している。日本の幕末で、後に勤王の志士と呼ばれる人たちは、幕府側から見れば歴としたテロリストであった。
●酒場『竜のねぐら』にて
(「しかし、これ見よがしに怪しい‥‥逆に調べてくれと自分から言わんばかり。前回、調査に行ったとき感づかれたか? あるいはスケープゴートか?」)
ロメル子爵領のギルド脱退について思い巡らしながら、時雨蒼威(eb4097)は王都の酒場『竜のねぐら』の扉をくぐった。
「あら、今日も来てくれたの?」
酒場の看板娘に声をかけられる。
「お目当てはルー様?」
「今日は来ているかな?」
「それが‥‥」
「留守か」
「そうなの。最近、忙しいみたいで」
「‥‥そうか」
蒼威とて、今日はお忍びで来ている。眼鏡など、天界人とばれそうな物は身につけずに。
(「おかげでにゃんこ成分が足りん」)
店の中を見回してみたが、ルー様は見当たらない。帰ろうとすると、近くのテーブルから声をかけられた。
「宜しければ、一緒に飲みませんか? 奢りますよ」
蒼威の初めて見る顔。お忍びで来ている騎士のようだ。
「何とお呼びすればいい?」
「ここではシャー様と呼んで下さい」
「俺はルー様に話があって来たのだが、貴公を信じていいのかな?」
「ここはルー様の御領地も同然の場所なれば、ルー様に仇為す者が踏み込めるはずもありません」
店の看板娘と主人を見ると、どちらもにこにこ笑っている。相手はルー様に信頼されている人間らしい。
「では、ルー様に伝えてくれるか?」
「何なりと」
蒼威は目の前の男に、黒い旗を掲げる賊徒による民衆の扇動や盗賊活動を報告。そして訊ねる。
「トルク側でも似たような動きはないか?」
「今のところ、黒い旗を掲げる賊徒の動きはありません」
「あともう一つ。かつてのルーケイ伯に対するルー様の評価を知りたい。臣民達だけでなく、時の為政者からも強い信望を集めていたと見えるが」
「ルー様は恐らく、こう答えるでありましょう。味方につければ頼もしく、敵に回せば恐ろしい。なれど、セクテとルーケイという両輪が揃ってこそ、王国という馬車は王道という街道より外れることなく進み行くと」
●テロリストを操る者
『竜のねぐら』から戻ると、蒼威はギルドの書庫で記録を漁りつつ、リュノー・レゼンと話をする。
「テロリストが魔法を使うのも気になるな。異世界から来たテロリストが王国に楯突こうと企むのも妙だ。やはりテロリストと結託して、その技術や能力と引き替えに魔法指導などを行い、都合よく利用している大元がいるんじゃないか? 資金力とコネクションがあり、大勢の天界人にこの世界の常識や魔法技術を指導でき、政に不満があるヤツ‥‥」
「かつてのルーケイ伯の遺臣達」
「‥‥何!?」
書類を繰る蒼威の手が止まる。リュノーは続ける。
「ルーケイはトルクへの備えたる地。だからルーケイ伯爵家は、ありとあらゆる形の戦争に備えてきました。例えばトルクの策略によりフオロ分国が内部分裂し、フオロの王侯貴族達が何年にも渡って相争い、その隙に乗じてトルクが攻め入る──という事態も想定していたはずです。そういった過酷な戦いに備えて軍資金を貯え、糧食を秘密の場所に備蓄し、戦力としてのウィザードの養成を怠らず、盗賊などの諸勢力を支配下において利用する。それがルーケイ伯爵家の編み出した戦法だったからこそ、ルーケイの反乱に際してはさしもの国王軍も、平定を諦めて撤退するしかなかったのです。あるいはテロリストも、ルーケイ伯の遺臣達に利用されているのかもしれません。‥‥もっとも、これは推測に過ぎませんが」
●空からの偵察
王領アーメルに向かう冒険者の一行は、3台のフロートチャリオットを仕立てて王都を発つ。シスイ領の街道を北上し、街道が2本に分かれる辺りで休憩を取る。
西寄りの街道を行けばアーメル、東寄りの街道を行けば南クイースを経て北クイース、分岐点の西側には王領ルーケイから続く森。
「ちょっと失礼します」
銀麗は仲間から離れ、茂みの陰へ。
「あれ、どこへ? ‥‥ああ、用足しでしたか」
アシュレーのそんな声が聞こえた。銀麗は衣を脱ぎ、ミミクリーの魔法で大鷲に変身して空に舞う。高く、高く、さらに高く。そして森を見下ろす。
「!?」
森の中から姿を現し、北すなわちアーメルの方向に向かう一団が見えた。地上からは木々や藪の陰になって見えにくいだろうが、空からは丸見えだ。
短い偵察を終えて地上に戻り、変身を解いた銀麗は仲間達に報告する。
「ついでに森の向こうを見てきましたが、森を抜けてアーメルに向かう一団がいました」
この森の西の端は中ルーケイに繋がっている。そこは、かつてのルーケイ伯の遺臣達が実効支配する地だ。
●対テロ協議
「‥‥長かったわね。そういえば、前回ようやくテロリストの尻尾が見えたんだっけ。また見失う前に掴まないといけないわ。そのためにもアーメルでの交渉を成功させないと」
ゲリーの依頼には初回から参加している加藤瑠璃(eb4288)にとっては、これが2度目のアーメル訪問。しかも今回は、正式に領主館へ招かれるのだ。
「まあ!」
広大な敷地に建つ領主館は、さながら小さな城の如く立派に見えた。しかし代々、この領主館に住み続けたアーメル領主の一族も、今はその特権を失い平民に格下げ。代官ギーズ・ヴァムの監視下で細々と命を繋いでいると聞く。
代官ギーズは傭兵上がりの髭もじゃ男。ぞんざいな口調ながらも歓迎の意を表した。
「テロリストは、あなた方の言う『カオスの手先』に似た存在よ」
と、協議のテーブルで瑠璃は熱弁を振るう。
「テロリストは自分達の事を正義だと思っている。悪い為政者を滅ぼす正義だと。でも、彼らは自分達が気に入らない国や為政者を破壊することしか考えていない。壊した後を再建する力も意思も無い。それどころか再建しようとする者を為政者の同類とみなして攻撃さえする。彼らの動機は『不満』そのものだから」
耳を傾けるのは冒険者達の他には、ギーズが信頼を寄せるその配下のみ。
「だから、彼らが暴れた後、残るのは治安が悪化した無法地帯だけなの。そうなる前にテロリストを止めなくてはならないわ。テロリストの『手足』を潰してもすぐに補充されかねないから、何よりも『頭』を潰す必要があるの。潜入調査も含めて幅広い作戦が必要になるわ。私達が動く許可をお願いできないかしら」
「すげぇな。天界の女は言う事が一味違うぜ」
小声で呟くとギーズは、
「他の者の意見も聞かせて貰おうか」
と、求める。これにオルステッドが応じた。
「テロリストはカオスの手先だと言われている。ならば殲滅だ。が、彼らはその一方で『貧困に喘ぐ民の為に立つ』と触れ回るとも聞く。単純な力押しの戦ではアーメルの民が巻き込まれ、アーメル領に被害が出るだろう。つまり、連中に操られる領民を正気づかせて取り戻し、連中の本体には果断な一撃を、ということでいいかな?」
「うむ。そういう敵が相手では、それが一番妥当な戦い方だろう」
と、ギーズ。
「‥‥ところで、テロリストに最も詳しいのはゲリーさんだが、天界の戦略とはどのようなものかな?」
オルステッドに質問を向けられ、ゲリーは答える。
「テロリストは国を挙げて、徹底的に叩き潰す。またテロリストの背後には、奴らを支援する有力者なり支援組織なり国家なりがあるはずだ。そいつも見つけて叩き潰す。そしてテロリストとの戦いにおいては何よりも情報戦が物を言う。奴らが詭弁と巧言と偽情報で民衆を欺き、悪の道に引きずり込むなら、我々も正しきメッセージと正しき情報を発して、民衆を正しき道に引き戻さねばならない」
続いて黒畑緑郎がテロリストに関して補足的な説明を行い、冒険者各自の話を聞き終えたギーズは暫し黙考。すると、その隣に座す副官のゲードル・バザンが何やら耳打ちする。
そしてギーズは決断を下した。
「ゲリー殿、並びにその配下たる冒険者諸氏に、アーメル領内での対テロ作戦を許可する。テロリストと呼ばれる輩との戦いは、それを良く知る者に任せるのが一番だ。但し、作戦の内容とその経過は逐一、俺に報告しろ。また作戦には必ず、俺の部下も同行させる」
協議が終わると、オルステッドは独り思索に耽る。
(「‥‥果たして、領民を反国王へ煽り、盗賊となるだけでカオスの手先なのか? そもそも、テロリストとカオスが同等というのは、ゲリーさんの話を聞いた騎士学院教官の判断にすぎん。つまり、ゲリーさんの立場から見た視点だという事だ。信者さんの国とゲリーさんの国は同盟を組み、テロと戦っているらしいが、信者さん曰く、天界にはデビルやカオスの類はいないらしい‥‥。天界のテロとは結局人間同士の戦争なのかもしれん‥‥。ならば、テロを討つ事に必ずしも正義があるとは‥‥」)
正邪を判断するには情報が少なすぎた。また、彼らの成す正義が何をもたらすかも想像も付かない。
●新月の夜の占い
アーメル領滞在の時期は新月とその前後日で、月がほとんど出ない。
「ウィンターフォルセの襲撃事件‥‥裏は結局わからず仕舞い。テロリストが糸を引いたとかはさすがに早計ですが‥‥」
以前の占いの結果も気になっていたので、今夜も麻津名ゆかり(eb3770)は神秘のタロットで占う。存在するかもしれない希望を求めて。その結果は──チャリオットの逆位置。
「戦いの先に希望があるということかしら?」
しかし逆位置というのが非常に気になる。
●諜報の手引き
折を見てエルシード・カペアドール(eb4395)がギーズに助言したのは、諜報活動の具体的な方策。
「ウィンターフォルセ事変では内通者の手引きがあったわよね。ここでも同じ事が起きる危険があるから、信頼できる部下達を選抜して衛兵・侍女など全ての関係者の身元を洗わせた方がいいわ。それから衛兵を酒場など、民の溜り場に置くのは止た方がいいわね」
「しかし目を離せば何が起きるか分からねぇんだぞ!」
「だから、代わりに間諜を派遣するの。口を塞ぐよりも大いに喋らせる事で民の本音を聞きだし、不穏分子に関する情報を収集した方が、後で叛意の芽を潰すのに役立つと思うわよ」
ギーズの顔に笑みが浮かぶ。
「そうか、そういう手もあるか」
「それから、あたしの冒険者仲間が以前、テロリストの一味と思しき者と接触して、今後の接触方法も聞きだしているの。彼らを内偵専門要員として任命する事を勧めるわよ。あともう一つ、アーメル領に留まっているナーガについて。食事や衣服といった貢物を捧げるという口実で毎日部下に接触させ、遠方から監視するよう勧めるわ。私がテロリストなら、個人の経費で数十人分の戦闘力を持つナーガは非常に魅力的な存在。どうにかして接触し味方に引き込もうと考えるはず。彼らに近付いてくる者がいたら徹底的に身元を調べた方がいいでしょうね」
「冒険者もなかなか隅に置けねぇな。よぉし! 良策は即、実行といくぜ!」
丁度、リューズ・ザジ(eb4197)が旧アーメル領主の一族との接触を求めていた。ギーズはその求めを聞き入れ、リューズをアーメル一族の者と対面させる。
「貴公の求めにより、今回は特例として我々の監視はつけない。心ゆくまで話をするがよい」
粗末な小屋までリューズを案内すると、アーメルの兵士達は去って行く。
小屋の中には娘と少年がいた。
「今は亡きアーメル領主、ダーラン・アーメル殿のご令嬢セローネ殿と、ご子息のベールジ殿ですね?」
言葉をかけると、娘と少年は無言で頷く。リューズは前もって、旧アーメル領主の家族構成を調べておいたのだ。
「聞きたい事があります。ルーケイの反乱の事や、旧アーメル領主の死因、そしてギーズ卿統治下の今までの生活の様子などを。アーメルの兵士は立ち去らせました。心おきなく話して下さい」
「分かりました。全てをお話しします」
娘は安心した様子で話を始める。
しかし──これはリューズも知らなかった事だが──小屋の裏側ではエルシードが、ギーズの副官ゲードルと共にじっと聞き耳を立てていた。
●ウィル解放戦線
ヘクトル・フィルス(eb2259)は一路、北ロメルを目指していた。大河を船で遡りワンド領へ、さらにそこからロメル子爵領内に入る。以前に教えられた、関所を通らずに済む抜け道を使って。
しかし、その抜け道は森の中をくねくね曲がりながら続いている。セブンリーグブーツでの高速移動は不可能。15kmもの速さで進んだら、何度立ち木にぶつかり木の根に足をとられるか分からない。
「いかん、これでは到着がいつになることか」
案じつつ、それでも森の中を進んでいると、前方に人影。
「止まれ! 何者だ!?」
見ると、それはカーラの付き人。いつぞや抜け道を教えてくれた少年だった。
「リュー、お前か。俺だ、覚えているか?」
「貴方はもしや!」
少年はヘクトルの顔を見て、思い出す。
「また来てくれたんだね!」
「カーラに会いたいと思ってな。義を見てせざるは勇無き也、勇無き者は侠にあらずだ」
「カーラは今、北ロメルにはいない。使命があって東の方に出かけているんだ」
少年は告げる。
「いつ会える?」
「分からない。でもさ、あれからウィル解放戦線の力はどんどん強くなったんだ」
「ウィル解放戦線?」
「独裁者のエーガンを倒して、ウィルの人民を解放するためのレジスタンス組織さ。ワンド子爵領にもアジトが出来たし、もうすぐ王都の近くにもアジトができるよ。そうだ、今度会った時のために仲間のサインを教えておくよ」
秘密のサイン、そしてアジトの場所を教えられる。
「実は頼みがある。俺は何が善で何が悪なのか、自分の目で確かめて判断したい。権力者が隠しているこの国の実態を、連れ去られた人々がどれだけ酷い仕打ちをうけているのかを、国王が民に課す重税がどれほど過酷なものなのかを、地に生きる人々の声から確かめたい」
「分かった。シャミラに会ったらそう伝えておくよ。今度会う時は王都で会えるといいね」
少年はそう言ってヘクトルと別れた。
●ナーガの森
「ナーガの方々をいち早く受け入れられたというこの領地の事は注目しておりました。これからどのような関係を築かれていかれるか実に参考になります。先達としてこれからもご指導頂きたいです」
との言葉を添え、ゆかりが手渡した20Gを、ギーズは謝意と共に受け取った。
「ありがてぇ。金はいくらあっても足りねぇからな」
そして冒険者一行は、ナーガの表敬訪問に向かう。
「しかしナーガって初めて会ったけど、先天的に偉そうだったわね。たぶん生まれつきというか育つ過程でああなるんだろうから特に腹がたったりはしないけどさ。育つ過程で卑屈になったり劣等感を抱いたりする事の多いあたしらハーフエルフとは真逆よねぇ」
と、フォーリィ・クライト(eb0754)は軽口を叩き、その後に真顔で付け加える。
「でも、ナーガ全体がああいう感じだと本当の友好関係を築くのは大変かも」
彼女は先の依頼で、アーメルのナーガと接触したばかり。同行するルメリア・アドミナル(ea8594)も同じ依頼に参加していたし、シャルロットは山の民の村へのナーガ護送に関わっている。
「話を聞くに厄介な交渉相手だな」
と、口にするゲリー。
やがてナーガの住処が見えた。森の中の巨木、その枝に2人の女ナーガが蛇の下半身を巻き付けている。
「ナーガ様、貢ぎ物をお届けに上がりました」
薫製肉、塩、ヨーグルト、そういった貢ぎ物が並べられると、ナーガ2人は木から下りてきた。黒い髪のナーガ娘に赤い髪のナーガ娘。
「ロロはいないのか?」
フォーリィは真っ先に、ペットのイーグルドラゴンパピィのことを尋ねられた。
「今日はお留守番なの」
「お前が留守番で、ロロがここに来ればいいものを」
ナーガは憎まれ口を叩く。
「今日、ここに来たのはテロリストの事を警告するためだ」
ゲリーに続き、皆は熱心にテロリストの危険性を説く。
「そもそもテロリストとは‥‥」
以下、懇切丁寧かつ長々と説明が続く。
「とにかく、危険な存在であることだけは理解して」
「彼らの虚言に惑わされないように」
「そそのかされてはだめだ」
しかしナーガ2人の反応は、
「そうか」
「覚えておこう」
実にそっけない。
「ナーガ様。今一度、よくお考え下さい」
ルメルアは念を押すが、
「くどいぞ。話は一度聞けば十分だ」
返ってきた返事にルメリアはため息を漏らす。
ついでに、ゆかりは尋ねてみた。
「そういえばナーガの方も結婚式とかなされます?」
「なぜそんな当たり前の事を訊く? 人間も結婚式をやるのか?」
返ってきたのはそんな答。
「ところで、ナーガ様には人間社会の貨幣経済を学んで頂きたく‥‥」
と、ルメリアは説明を始めた。人間社会の在り方や、貨幣の意味を知って貰うために。
ところがナーガ達は、話が始まるや木の上に上ってしまう。
「ナーガ様!」
「人間界の雑事に興味はない」
ルメリアの口から、またもため息。
●シャミラ現る
不意に、騒々しい物音が聞こえてきた。蹄の音に兵士達の叫び。
「賊徒だ!」
「賊徒を捕らえよ!」
アーメルの兵士達が、武装した一団を追ってこちらに向かって来る。
「もしや、あれはテロリストの一味か!?」
樹上に身を潜め警戒していたアシュレーが呼子笛を鳴らし、次いで矢を放つ。木の上から追われてくる一団に向かって。
突然、足下の枝が揺れ、アシュレーを振り落とす。
「あっ!」
地面に転落し、よろよろとたちあがった途端、頭上から木の枝が生き物のように襲いかかり、幾度もしたたかにぶちのめされる。
アーメルの兵士達も木の枝に襲われ、混乱に陥った。
「何事だ!? 騒がしいぞ!」
騒ぎを聞きつけ空から現れたナーガを、兵士の一人が敵と誤認して矢を放つ。不幸にも矢はナーガに命中。
「うっ!! おのれぇ、人間め!!」
ナーガの喉から竜語魔法の呪文が放たれ、その体は膨れあがってドラゴンに変じ、ばっくりと開いた顎から炎が吹き出す。森は焼かれ、兵士達は逃げ惑う。
「アシュレー! 何があった!?」
駆け寄って来る仲間達。そして彼らは見た。燃え盛る炎をものともせず、ドラゴンに歩み寄る人影を。その者の身を包む暗緑色の軍服の胸元には膨らみが。女だ。その素顔は白の覆面で隠され、覆面から覗く目は異様な眼光を放つ。
突然、燃え盛っていた炎が一瞬にして消えた。
「おまえは、何者だ!?」
ドラゴンの問いに返事があった。
「私はシャミラ。偉大なるナーガへ我が貢ぎ物を届けに来た」
●暗転
数時間後。
「何があった!? 説明しろ!」
焼けた森に駆けつけたギーズは叫ぶ。その言葉に答えたのはゲリー。
「シャミラがナーガ達を連れ去った。‥‥というより、ナーガ達が勝手についていったんだ。何が起きたか今から詳しく説明する」