とんでもわるしふ団3〜戦慄らくがき天国

■シリーズシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:12人

サポート参加人数:3人

冒険期間:03月06日〜03月09日

リプレイ公開日:2006年03月14日

●オープニング

「わ、わるしふだーっ!!」
 昼下がりのとちのき通りに響き渡る叫び声。驚いて振り返った人々は、目の前を掠めた小さな影に驚いて声をあげた。
「今日こそは捕まえろ!!」
 立ちはだかるのは、通りに住まう旦那衆。必死の彼らをからかうかの様に、わるしふ達は通行人の間を巧みに擦り抜け、あるいはひらりと舞い上がり。揉みくちゃになった人々がひっくり返り尻餅をつく様を見て、声をあげて笑った。
「いいザマだねぇ、そーれお前達、やっておしまいっ!」
 言うや、じゃーん、と炭の塊を掲げた女シフール。それに倣って、他のわるしふ達も炭を手に手に。それっとばかりに舞い降りる。
「わわっ!」
「よせっ、よさないか!」
「きゃーっ!」
 咄嗟に閉じた目を恐る恐る開いて見れば、皆の顔には髭やら傷らが描き込まれて、何ともはや間の抜けたことになっていた。
「こぉのぉ‥‥悪戯者が! 許さん!」
 今度はイタズラされた通行人も加わって追いかけ回すものの、揉みくちゃ具合いが増すばかり。皆がヘトヘトになってへたり込んだ頃には、通りの道といわず壁といわず、あらゆる場所が落書きだらけになっていた。
「思い知ったか、仲間をたぶらかしてくれたお礼だよ! このイーダ様の落書きは、この街におっ立てる旗がわりなのさ! ここはあたいらが切り取ったあたいらの領地、あんた達はあたいの領民って訳。これから毎週来るからね、落書きされるのが嫌なら税金を払うんだよ! ああ、でもあたいは寛大だから、仲間を返せば半年くらいは免除してやるよ!」
 あーっはっは、と高笑いを残して、らくがき団は去って行った。

 住人総出の落書き消し。元わるしふ、トートとモロゾ一家もお手伝いだ。
「これ、イーダさんの絵だな。相変わらず下手だなぁ」
 直列4本足の珍妙な生き物をゴシゴシ消しながら、トートは思わず吹き出して、慌てて口を塞いだ。笑いごっちゃない。
「『王様のけらいが村を取り上げるなら、あたいは王様から街を取り上げてやる』というのがイーダの言い草であったな」
 むう、と唸るモロゾに、やっぱり戻った方がいいのかな、と呟くトート。
「それで大事にならずに済むのなら、そうするのであるが」
 念願のお百姓暮らしを目前にしているモロゾ。もじゃもじゃの髭に隠れて、その表情は読み取れない。
 と、そこにロバに乗って現れた、でっぷりと太った偉そうな男。役人のゴートンだ。進み出たとちのき通りの顔役、ゴドフリーに、彼はにやにやしながら話しかける。
「ふむ。またあの不良シフールどもの仕業か。実に由々しき事だなゴドフリーよ。わしもさすがに見過ごしには出来んと思っておるのだが、この程度の事で人を動かすには何かと物入りでなぁ」
 ん? どうじゃ、んん? とデカい顔を寄せて迫る。
「ご配慮痛み入ります。されど、ゴートン様のお手を煩わせる程の事でもありません。今しばらく我々にお任せ頂きたく」
 丁寧に断りを入れるゴドフリーに、お役人様、ふん、と鼻を鳴らした。
「まあ良いわ。また近い内に来るからな、その時またこの様な有様だったら笑ってやるから、覚悟しておくがいい」
 ぷりぷりと不機嫌そうに去って行く。それを見送りながら、ゴドフリーに囁く者も。
「お役人を怒らせて良い事など何もありませんよ。働いてくれると言っているのだし、いくらか付け届けてはどうですか」
 言ってから、シフール達もいるのに気付き、バツ悪げな顔になる。
「シフール達の事は、暫く様子を見ると約束した手前もある。それに、そういったものを出す人間だと一度覚えられると、何かにつけて求められる事になるからね」
 苦笑しつつ語るゴドフリー。ゴートン様はゴートン様で。
「全く、贈り贈られは物事を上手く運ぶための潤滑油ではないか、それをあの堅物めが! 何れきっちりと分からせてやらねばならん!」
 そんな主人を、ヒヒヒと笑うロバ。ゴートン様、ロバの頭をべちりと叩く。と、ヘソを曲げたか、ロバはその場で止まってしまった。見れば、そこはわるしふ達が潜む裏通りの前。
「美しい街並みを汚すゴミどもめ。お前達なんぞ、その気になればいつでも片付けられるのだ。せいぜい石頭めを困らせて、自分の首を絞めるがいいわ」
 一瞥し忌々しげに吐き捨てると、ロバの頭にゴチンと制裁。渋々歩き出したロバの上で、鼻息も荒く胸をいからせるゴートンだ。
 それを、わるしふ達は何処かで見ていたのだろうか‥‥。

 翌朝。通りの石畳には、怪生物に跨った雪だるまの様な人物の落書きが、デカデカとされていた。この日の落書きには、メッセージも付けられている。
『お役人のおでこいただきます。イーダ』
「これは‥‥ゴートン氏の額に落書きをしてやる、という事か」
 さしものゴドフリーも、うーむ、と唸る。そんな事を仕出かしたら、怒り狂ったゴートンがどんな行動に出るか分かったものではない。わるしふと、わる役人の間に挟まれて困り果てる通りの人々。
 とにもかくにも、わるしふの野望は阻止あるのみ。正義のしふしふ団出動の時がやって来た。

●今回の参加者

 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea3501 燕 桂花(28歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea5597 ディアッカ・ディアボロス(29歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea5684 ファム・イーリー(15歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea5731 フィリア・ヤヴァ(24歳・♀・レンジャー・シフール・イギリス王国)
 ea6647 劉 蒼龍(32歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea6914 カノ・ジヨ(27歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea6917 モニカ・ベイリー(45歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb0010 飛 天龍(26歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb2503 サティー・タンヴィール(35歳・♀・ファイター・人間・インドゥーラ国)
 eb3771 孫 美星(24歳・♀・僧侶・シフール・華仙教大国)
 eb4344 天野 夏樹(26歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

アリル・カーチルト(eb4245)/ ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)/ ティラ・アスヴォルト(eb4561

●リプレイ本文

●しふしふ団集結!
 二度に渡ってわるしふ団の襲撃を退けた、正義のしふしふ団。しかし、度重なる敗北に業を煮やしたわるしふ団は、恐るべき刺客を放ってきた。とちのき通りの人々と、しふしふ団の運命や如何に!
「夏樹〜、なにひとりでブツブツ言ってるの〜?」
「え。いや、あはは、何でもないよ〜」
 笑って誤魔化す天野夏樹(eb4344)を、へんなのーと笑うファム・イーリー(ea5684)。正義のしふしふ団はいつもの如く、とちのき通りのパン屋に集結だ。賑やかしいシフール達をちらりと見遣り、夏樹さんはうーん、と難しい顔。
「‥‥何だか最近私も染まって来たかなあ? ちょっとヤバイかも」
 悩み多き夏樹なのだが、この環境でいつまでも苦悩少女の体が保てる訳もなく。
「しっふしふ〜☆ しふしふのしふしふによるしふしふのための団体‥‥それがしふしふ団! パリのしふしふ団団長代理の燕桂花、月道を通ってただいま参上! 正義のしふしふ団をみんなに広めるためにあたいも協力するよ〜☆」
 どーん。と、飛び込んで来た燕桂花(ea3501)、夏樹の顔に衝突。2人して、どんがらがっしゃんと引っくり返る。
「しふしふ団本部というのはここで良いのか‥‥ん?」
 やって来たユラヴィカ・クドゥス(ea1704)とディアッカ・ディアボロス(ea5597)、床に転がる2人を見て怪訝な顔。
「なんじゃ? ここでは床で転がるのが流行っておるのか?」
 ユラヴィカ、とりあえず一緒に転がってみる。ディアッカはこの状況を華麗にスルー、パン屋夫婦に挨拶などを。その賑やかさに、先に集まっていた面々も顔を出す。
「とうとう来たか」
「とうとう来ちゃったよ〜」
 言葉を交わしながら、桂花を助け起こす飛天龍(eb0010)。
「ようこそ正義のしふしふ団へ! 新しい仲間は大歓迎や。一緒に頑張ろなっ」
 フィリア・ヤヴァ(ea5731)と桂花、がっちり握手。これにより、パリ=ウィルしふしふ団大連合が成立し、しふしふの歴史に偉大なる一歩を刻んだのであった(大袈裟)。皆が挨拶を交わす中、ファムはシフールの竪琴を持ち出し、ぽろんと爪弾く。
「それではぁ〜、しふしふ団員が一気に増員した記念に一曲っ!」

 しっふしっふ進めぇ 正ぇ義のしふしふ団♪
 しっふしっふ進めぇ 正ぇ義のしふしふ団♪

「3人増えただけだってのに、なんだか倍は騒がしくなった感じだな」
 旦那、やれやれと頭を掻く。まあまあ賑やかでいいじゃないの、と笑うおかみさんに、そりゃそうだがなぁ、と旦那は頬を掻いた。

●わるしふを知ろう
 さて。面子が揃ったところで、早速始まる作戦会議。わるしふ側の事情を聞く為に、モロゾとトートにも同席してもらう。
「ぇぇと‥‥しなくちゃいけないのは、イーダさんの落書きをやめさせること、できれば改心させること、それからお役人のゴートンさんに介入されないようにすること、ですけど‥‥」
 カノ・ジヨ(ea6914)が簡単に要点をまとめる。
「予告落書きを阻止できなければゴートンを遠ざける事は難しいだろうな」
 まずはそこだな、と天龍。
「ゴートンのおっさんもなんや怖いよな〜。今回の一件が無事におわらなんだら、町中のしふしふを一掃しかねないしな〜。気い付けて仕事せなあかんな‥‥」
 しかしなぁ、とフィリアは苦笑いだ。
「確かに落書きは楽し‥‥こほん。かもしれんけど、やっちゃあいけないことだよ〜。他にも色々と抗議する手段とかあるやろうに、なんだかな〜」
「イーダさんって、どんな人なの?」
 身を乗り出して聞く桂花に、姉御肌の、とっても気風の良い人だよ、とトートは答えた。黒髪に黒い瞳の、ちょっと釣り目の背の高い‥‥と、大まかな特徴も教えてもらう。
「絵を描くのが好きなんアルかねぇ?」
 孫美星(eb3771)が話を広げると、
「好きとか嫌いとかいう以前に、それはもう、四六時中何がしか描いておらずにはいられぬのであるよ。その割には、一向に上達せんのであるが」
 と、そんな返答が返って来た。小さく溜息をついたのは、サティー・タンヴィール(eb2503)だ。
「もしかしたら、イーダさんはただ思いっきり絵を描きたいだけなのかもしれませんね。だからといって、ラクガキが正当化されるわけではありませんが」
 そうだね、と夏樹も頷く。
「このままじゃ、敵を増やすだけだよ。早くやめさせないと」
 それは、皆に共通する思いだ。
「『毎週来る』ってことは、来る曜日を決めてるって事かな。厳密に取っていいなら、次は明日って事になるけど」
「見回りはしておいた方がいいだろうね。イーダとゴートンが鉢合わせ、なんて事態は絶対に避けたいし」
 モニカ・ベイリー(ea6917)の指摘は尤も。そこで、今日から通りの巡回を厳重にし、ゴートンがやって来たなら、人数を割いて彼に張り付ける、という事で話が纏まった。
「ところでイーダってのは、あの娘かな。ほら、赤い翅の笑顔が可愛い‥‥」
 劉蒼龍(ea6647)、何故か照れながら質問。む? と皆の視線が集まって、蒼龍は慌てて言い訳を始める。
「い、いや、もしそうならあの娘は精霊魔法を使うみたいだからな。イロイロ考えとかないといけないだろ? イ、イロイロ‥‥」
 彼の思考は今、異世界に旅立ったらしい。
「蒼龍さんが言ってるのは、多分シャリーさんだと思う」
 トートの返答に、皆がほほう、と興味を示す。
「へえ。シャリーっていうのかあの娘は‥‥ふふっ」
 まだ帰って来ない蒼龍は置いておいて。
「村を飛び出したワルダーさんが成り上がって帰ってきた時、2人の仲間を連れてたんだ。ひとりがシャリーさん、もうひとりがゲールさん。この2人は幹部の中でも別格、いわば大幹部なんだよ」
「‥‥わるしふ団の主要な幹部ってどのくらいいるんでしょぉ‥‥? 人数とか、名前とか、出来れば特技とか主張とかも分かるとありがたいんですがー‥‥」
 カノが更に突っ込んだ話を切り出した。
「説得するには相手を知らねばな。悪い様にはしない」
 天龍にも促されて、トートはモロゾに視線を向ける。それがしが話そう、とモロゾ、もじゃ髭を弄くりながら。
「わるしふ団には、ワルダーの他に8人の幹部がいるのである。中でもシャリーとゲールが別格というのはトートの言う通りなのだが、あとひとり、黒翅と呼ばれている男がおる。こやつの事はようわからん。大幹部達は皆、村とは関係無い余所者であるし、それぞれ何処かに出かけている事が多くて、時々しか戻って来ないのであるよ。黒翅は特に無口であるし、稀に戻って来ては、ワルダーと話をしてまた消えるという按配でなぁ。こやつについては、バンゴが詳しい筈であるが」
 バンゴ? と問い直した天龍に、眼帯の奴であるよ、とモロゾ。
「我流拳法のバンゴ、魔術師のオークル、泥棒のミックに、イーダとそれがし。もっとも、それがしの抜けた穴に、新しく誰ぞ補充されておるかもしれぬのであるが」
 それは確かに、有り得る話。
「バンゴさんは何でも力ずくの人。みんながこんな目に遭ってるのは弱いからだ、もっともっと強くなって取り返すっていつも言ってた。オークルさんは魔法使いだけど、かなりおっちょこちょいかな。毎年やって来るお師匠に少しづつ教えてもらって、それだけで魔術師になった努力家なんだよ。難しい本なんか手に入らないから、お師匠さんが来るのをいつも楽しみにしてたのに、村から逃げ出す事になっちゃって‥‥。ミックさんは神出鬼没。元は猟師だったんだけどね。どきどきするのが大好きで、泥棒は趣味と実益を兼ねられる最高の稼業なのさ、なんて言ってたっけ。この通りなら、何処の誰が何を持ってるか、ほとんど知ってるよ。欲しくなったら取りに行く、今は預けてるだけっていうのが口癖なんだ」
「シャリーは魔術師ではなく、スクロール使いなのである。そして、古今東西のありとあらゆる賭け事に通じておるのであるよ。カモを誘い込んでは鼻血の一滴も出ぬ様になるまで搾り取るのが手口であるから、くれぐれも気をつけておくが良かろう。ゲールは占い師であるが、人々を不安に陥れては金品を巻き上げる。しかし、ワルダーは彼女の占いを信じているのである。ちゃんとした占いもしようと思えば出来るのだとかで、ワルダーの成功は大幹部3人なくしては有り得なかったと、当の本人が言っていたのであるよ」
「ワルダーさんってシフールはどんなひとなんでしょぉ〜?」
 カノの問いに、トートとモロゾ、ちょっと口篭る。
「ワルダーは、悪事で稼いだものとはいえ、私財をなげうって我らの面倒を見てくれた、度量の広い、情の深い青年であるよ。皆の中にも会っている者がいるのではないかな。小麦粉の一件では出張っていた筈なのであるが。身なりが違うから、一目瞭然だった筈」
 ああ、と蒼龍、思い出す。尊大な態度の、あの青年。
「ただ、逆らう者には容赦無いのも確かである。今はまだ、そのうち戻って来ると高を括っているのであろうが、我らに戻る気が無いと分かったら、決して許さぬであろうな」
 暫し、沈黙。と、美星が話を変えた。
「ところでモロゾさん、住み込みで働きに行くのはいつからアルか? 今週中にも? だったら、そのモジャモジャをもうすこしすっきりさせた方がいいアルよ〜」
 ふっふっふ、と迫る美星に、モロゾじりじり後退。夏樹がその膝を裏からぺしっと弾く。かっくんと腰が砕け、その場に転がったモロゾを、美星がずるずる引き摺って行く。
「いっそ、ゾリっと剃ってさっぱりしちゃうアルか?」
「いーやーだーっ!」
 皆でひらひらと手を振ってお見送り。
「それでは、私達も出かけましょうか」
 ディアッカが促し、皆、それぞれに通りの各所へと散って行ったのだった。

 観念して、美星に身を委ねるモロゾ。彼の身嗜みを整えながら、彼女はふと、こんな話をする。
「応急手当キットの使い方を、教えてもらったアルよ。地球のものアルから、なかなか覚えられなくて先生を困らせてしまったアル。でも、なんとかなったヨ。頑張ればいつか必ず出来る様になるアル。‥‥イーダさんがやりたいのは、こんな誰からも喜ばれない落書きアルか? 本当に絵が好きなら、難しいかもしれないけど、可能な限り叶えてあげたいアルよ」
 その気持ちに触れて、モロゾ、少し目が潤む。
「そこで、アルよ。イーダさん、わるしふの誰かに惚れてるよーな素振りなかったアルか? もし居たら説得は厳しそうアル」
 ごくり、と息を飲んで返答を待つのだが。
「ううむ、さてなぁ。そういうのには疎いのである」
 美星、がっくり。
「あ〜、こんな朴念仁そうなのに聞いたのが間違いだったアルよ〜」
 もじゃもじゃをぐにーっと引っ張る。モロゾ、とんだ災難だ。

●らくがき厳重警戒中
 ファムとカノ、天龍はゴドフリーの店に足を運んだ。
「イーダさんは、絵を描くのが好きな様です‥‥。そういう人なら、こっちから頼んで描いて貰ってはどぉでしょう? お店の看板とか、壁とか、適当にやるんじゃなくてきちんとテーマを持たせてデザインしたら、ちょっと下手でも味のあるものが出来ると思うんですー。小さい子供たちと一緒にやってもらっても良いかもしれません〜。報酬は作業中の寝食を提供するとかで‥‥。絵じゃなくても、建物や家具の塗装とかでもよさげですが‥‥」
 ふむ、とゴドフリー、考え込む。
「面白いアイデアだが、今の彼女に大事な看板や、ましてや通りの景観を委ねても良いという者はいないだろうね。しかし、きっかけを与えたいという君の気持ちも分かる」
 思案の末、ゴドフリーは一枚の古びた板を抱えて来た。既に金具がついていて、看板として掛けられる様になっている。これに業種を表す特徴的な絵を描き込んだり、彫り込んだりして掛けておくのが、ここでの一般的な看板のあり方だ。
「これは元々、鶏肉屋の看板だったものだよ。長年の風雨に曝されて、絵の方は流れてしまっているが‥‥板はしっかりしているから、いずれ再生しようと思っていたところなんだ」
 ほー、と見入るシフール3人。鶏の形に色焼けした古い板切れには、何だか不思議な楽しさがあった。これが長年、大勢のお客さんを招き入れていた看板の力というものだろうか。
「まずはこれを預けよう。店の裏手に置いておくから、手を付けたければこっそりでも堂々とでも、自分の思いをぶつけてみればいい。彼女に頼むかどうかは、それを見て通りの皆がそれぞれに考えるだろう。‥‥こういう事で、どうだろうか」
 ありがとうございますー、と頭を下げるカノ。
「それにしても、ゴドフリーさんのお店って不思議空間だよね〜」
 ぱたぱたと舞いながら、ファムが言う。古物が所狭しと並んだ店の中は、独特の雰囲気を醸し出している。全てのものがガラクタに見え、はたまた由緒正しき骨董にも見え。
「ねぇねぇ、貯金箱に使えそうな箱もらっていい?」
 ファムがぺちぺちと叩く古い箱を、ゴドフリーは手に取った。
「それは構わないが、何に使うのかな?」
「暇を見つけて、歌って稼いだお金を貯めて、わるしふ更生の資金にしようかなって考えてまっす! なので、ゴドフリーさんの所にこの貯金箱を置いていい?」
 まあ良かろう、と快諾してくれたゴドフリーに、ファムもぺこりとお礼を。
「では、まずはこれを」
 天龍が差し出した銭袋の中には、ぴかぴかの金貨が30枚入っていた。
「ずいぶんと気前がいいのだね」
「武闘大会の賞金で、しょせん泡銭だからな」
 ゴドフリーは、少し難しい顔になっていた。
「こういう金額が行き来するのであれば、考えなければならないな。泡銭を泡銭として受け取ってしまったら、彼らの為にもならないだろう。君達は、集めたお金をどんな風に使って、わるしふ達を助けるつもりなのかな? 具体的な事を言えとは言わない。その気持ちだけでも聞かせて欲しい。それを聞いてから、預かるかどうか、私も決める事にしよう」
 返された金貨が、どっしり重い。お金の使い方って、難しい。

 ディアッカは、ゴートンへの予告落書きがあったという場所に立つ。落書きはもうすっかり消されていたけれど、彼がバーストで遡れば、そこにはありありとその夜の光景が蘇る。あちこちで飛び回り、落書きに興じるわるしふ達。一気に落書きを描き上げ、満足げに頷く女シフール。黒髪に黒い瞳、ちょっと吊り目気味の、気の強そうな‥‥そして何より、そのあまりに独特な絵。可笑しくて、ディアッカをして危うく集中が乱れそうになる破壊力だ。これがイーダに違いない。彼女は、住民総出で綺麗にした通りが、再び落書きで埋め尽くされて行くのを、楽しそうに眺めている。
『でも、昨日あれだけ描いたのに、もう全部消されちまってるんですねぇ』
 悲しそうに話すひとりのわるしふ。ふん、とイーダは鼻を鳴らし、そして言った。
『消したければ消せばいいさ、何度だって描き直してやるよ。何れはおっつかなくなって、あたい達の落書きがここを埋め尽くすんだ。だから、もっともっと描いてやりな』
 彼らが去って行くまでの光景を、ディアッカは覗き見た。その徒労は、砂絵を描き続ける苦行にも似て。彼は、少し複雑な気分になったのだった。

「えーっと、これが通りの名前のもとになったトチノキ。大きいやろ? けっこう歴史あるらしいんや。こっちがメリーおばさんの仕立て屋さんで、こっちがゴドフリーさんの古物屋さん──」
 フィリア、通りを巡回しながら、やって来たばかりの桂花に嬉々として案内を。へー、はー、ときょろきょろ辺りを見回していた桂花、はっと壁の隅に目が止まった。
「あっ、こんなところに落書きの消し残しがっ」
「あちゃー、あかんなぁ。こういう些細な消し残しが街の荒廃につながるんや」
 何処で聞きかじったのか割れ窓理論。2人して、早速ごしごしと落書き消しだ。
「おや、また落書きかい? いやだねぇ」
 通りがかったおばさんが、2人に声を掛けてくる。
「あたい達の仲間がこんな事して、ほんとゴメンな〜」
 謝る桂花に、あんた達が謝る事ないよう、とおばさん。
「あれ、それよりあんた新しい娘だねぇ、どんなとこから来たんだい?」
 おばさん、お喋りモードスイッチオン。
(「ありゃー、これは長引きそうだね」)
(「あ、あかん、逃げられへん‥‥」)
 と、そこに珍しく大急ぎで飛んできたのは、カノ。
「大変ですー、小さな落書きが、あちこちに‥‥」
 わるしふ達、ゲリラ落書きで通りの人々にプレッシャーを掛けようという作戦か。がんばるんだよーとの声を背に受けながら、3人は他にも落書きがされて無いか、わるしふ達がいないか見て回る。トートとモロゾを伴って現れた夏樹は、パン屋のかまどから分けてもらった灰で灰汁水を作ってもって来た。これで一気に作業効率アップだ。皆、落書き消しに奔走する中、口数の少なくなったトートとモロゾに、夏樹が言う。
「戻ったりしちゃダメだからね。それじゃあ同じ事の繰り返しで、解決にはならないんだから」
 モロゾは小さく何度も、トートは大きく一度頷いて、落書きを消す手に力を込めた。

●お役人護衛
 そして、翌日。お昼を少し過ぎた頃、ゴートンはやって来た。ユラヴィカは、ディアッカの探ったイメージをもとにして、金貨を掲げ、陽の精霊に伺いを立てる。
(「どうです?」)
 テレパシーで問い掛けてきたディアッカに、彼は屋根の上から辺りを見回しつつ、返答を返す。
「イーダはどうやら、通りの中程に潜んでおる様じゃ。他のわるしふ達は上手く探れなかったが‥‥なるほど、あちこちに分かれて潜んでおる様じゃな」
 テレスコープで眺め見れば、物陰に身を隠す怪しいシフール達を、幾人か見出す事が出来た。情報は、ディアッカを通じて仲間達に伝わっている。ひらりと舞い降り、彼はゴートンの元へと向かった。
「ゴドフリーよ、話に聞けば、ずいぶんと苦労しておるというではないか」
 期待に満ちた顔で問い掛けるゴートン。しかし、ゴトフリーはさて何の事やらと、しれっと対応。その隙に、こっそりロバに近付く美星。
(「ロバさん、お名前はナンと申されるアルか? ウチの光龍にもあたしが持てない荷物とか持ってもらってるアル、馬さんは皆大事なパートナーあるヨ。なのに、ご主人は酷いアルね。お願いアル。協力して欲しいアル‥‥」)
 美星が、スクロールで発動したテレパシーで話しかける。話に感銘を受けたのか、はたまた差し出された野菜に転んだのか、とにかくロバは美星が近付いても騒ぎ出す事は無かった。彼女は、ゴードンがゴドフリーと言葉の鍔迫り合いをしている間にロバの背に上がり、パラのマントに包まって姿を消す。
「ふん。何かあれば、ただではおかんからな」
 不機嫌丸出しで言い放つゴートン。ロバに跨る彼にゴドフリーは、この者達に案内をさせます、とサティーとユラヴィカを紹介した。恭しく頭を垂れる2人に、そらさっさと案内せぬか、とどこまでも高圧的なゴートン。一介の詩人剣士よりも、ジプシーの占い師よりも、誰より品性に欠けるのがれっきとしたお役人とは、世も末である。

 歩み出したゴートン一行。それを物陰から眺めているのは、ディアッカと蒼龍、そしてモニカ。
「あんなの思う存分、落書きでもなんでもされりゃいいんだ。‥‥て訳にも行かないんだよな」
 やれやれ、と肩を竦める蒼龍を宥めながら、次の路地を曲がる様、ディアッカが美星に指示を送る。美星からお願いをするのだが、ロバ、つーんとそっぽを向いて、何度頼んでも知らん顔。業を煮やした美星さん、
(「‥‥あっちに行けば、もっと食べ物があるアルのになぁ」)
 と、そう伝えてみた途端、ロバ、小走りで路地を曲がる。ゴートンがバシバシ頭を叩いても、まるで意に介する気配なし。成功したものの、ちょっと悲しい美星さんだ。
「操り損ねましたか? さあ、元の道に戻りましょう」
 サティーの言葉にゴートン、かちんと来たらしい。
「たわけ! お前達に隠し事が無いかどうか、敢えて違う道に入ったのだ!」
 これは失礼を、と謝るサティー。声を殺して笑うユラヴィカに、彼女は口に指を当てて微笑み返した。
「ところで、ゴートン様が裏通りのシフール達の捕縛をご検討中との噂を耳にしたのですが、まさか本当では‥‥いえ、たかがシフールの悪戯如きに過敏になり大騒ぎするなどという事は有り得ないと分かってはいるのですが、気になってしまい‥‥」
 サティーの言い様に、咳払いをしたゴートン。
「ば、馬鹿めが。あまり騒がしくなる様なら役目柄捨て置けぬぞと、ゴドフリーめに忠告をしたまでの事。誰が手癖の悪いシフールども相手に本気で動くものか」
 ああやっぱり! と額を叩いて見せるユラヴィカ。
「だから言うたのじゃ。シフールのしょーもない悪戯にムキになってカリカリと対処したりしたら、住民達からも軽く見られてしまうというものなのじゃ。よもやゴートン様程のご立派なお役人が、そんなみっともカッコワルイ対処はせぬよなぁ」
 愚考致しまするに、とユラヴィカ、畳み掛ける。
「ここは泰然と構えて、通りの者達や冒険者達を働かせておくのが良いと思うのじゃ。彼らがどうにもならなくなった時に出て行って、びしっと締めた方が効果的だし評判も上がるというもの」
 ふむ、そうか? と聞き入りかけて、慌てて尊大な体を取り戻すゴートン。無論、そういう事も踏まえた上で考えておる、との返答に、ははーとユラヴィカが恐れ入って見せた。
「これは僭越な事を言うてしまったのじゃ。偉いお役人様のこと、そんな事くらい見越して動いておられるのは当たり前だというのに。お恥ずかしい限りなのじゃ〜」
 平伏せんばかりに謝るユラヴィカに、まあよいよい、と鷹揚に許すゴートンだ。今度はサティーの方が、笑いを堪えなければならなかった。

 この間にディアッカはこっそりと近付いて、何か弱みでも握れないかとリシーブメモリーを使ってみた。どうやら、色々なところから賄賂を取って私腹を肥やしているらしい。だが、それを訴えても取り合われないからのうのうとしていられる訳で。脅しをかけるには、これだけでは少々弱いと言わざるを得ない。

●らくがきイーダ
「やめなさい! そんなことしたって何にもならないんだから!」
 立ちはだかる夏樹に、わるしふ達がにじり寄る。手にした炭をくるくると回しながら近付いて来る彼らに内心ビビりながらも、なんとか踏み止まる夏樹さんだ。
「いくら酷い事をされたからって、それが他の人に酷い事をして良いって事にはならないんだから。そんなの格好悪いよっ!」
 イーダの目が険しくなる。かなり気分を害した様子。
「どうあっても邪魔をするって言うなら、あたいにも考えがあるよ」
 凄んで見せるイーダ。それを牽制するかの様に、天龍が進み出た。
「こんなやり方をしても、困るのは王ではなく通りの人達だ。お前達は理不尽な統治の辛さを知っているのだろう? 何故、同じ悲しみを他人に与える。描く事が楽しいから落書きをするのではないのか。人を苦しめる為の落書きは楽しいのか?」
 天龍に真正面から言い放たれ、イーダはくっと唇を噛む。子分のわるしふ達が炭を手に手に、わあわあと後ろで囃し立てた。掻き消されそうになる声に、ファムがぽろんと爪弾くシフールの竪琴。わるしふ達が、ぎょっとして後ずさった。

 ちょいとお待ちな らくがきシフール
 あたしらのお話し 聞いてちょうだいな♪

「うーわー、まただーっ」
 魔力のこもった歌声に、くたくたとへたり込んでしまうわるしふ達。
「どうせなら落書きじゃなくて、きちんとした作品を描いてください〜。絵を認めて貰ってみなさんの心を掴む‥‥素晴らしいことです〜。これだって、ある意味立派な征服ですー」
 カノが看板の件を一生懸命に説明する。
「絵に自信が無いなら、あたいがとびきりの料理を教えてあげる。調理人への道を進んでみたいって思う人がいるなら、どーんと受け止めてあげるよ!」
 さあっ、と促す桂花。互いに顔を見合わせ、逡巡する様子を見せていた者もいたのだが‥‥。
「絵を描かせてあげる、料理を教えてあげる、か。んな素人料理を学んだからって、何がどうなるってんだよ。ちゃんちゃら可笑しいぜ」
 くっくっく、と笑う眼帯バンゴに、なんだとー! と桂花さん大激怒。
「俺たちゃ欲しいものは自力で奪う。恵んでもらってどうにかしようなんて情け無い了見、仲間に植え付けないでくれないか、頼むぜおい」
 やれやれと肩を竦めて見せる。その態度、実にムカつく。
「懲りないな眼帯。またやられに来たのか?」
 天龍の挑発に、鋭い視線で睨み返すバンゴ。
「言ってくれるねぇ。けどな、俺は復活するたび、確実に強くなってるんだぜ?」
「そうか。なら、試してやろう。‥‥来い」
 へっと笑い、バンゴは弾ける様に突進して来た。

 通り過ぎて行くゴートンを見遣りながら、潜むわるしふ達を引き摺り出してはのしていた蒼龍。
「お役人の動きが伝わって来ないと思ったら、こういうことかぁ。きみ、ひどいことするんだね」
 その声に、はっと振り返る。屋根の淵に腰掛けて足をぶらぶらさせていたのは、見間違える筈も無い、赤翅のシャリーだった。
「ひどいのは君の方だろ。美しい女性が悪事に手を染めちゃいけないよ」
 前髪を掻き上げながら決めてみた。ら、笑われた。駆けつけたモニカが、コアギュレイトを唱え、蒼龍を支援しようとするのだが。
「いいのかなぁ。私になにかあったら、悪戯じゃすまなくなっちゃうよ?」
 くすっと笑う。どうする? と仲間に視線を向けるモニカ。ユラヴィカが進み出て言った。
「悪戯で住人を脅すのでは、『村を取り上げた領主様』とたいした違いはないじゃろう。住民を味方につける方が賢いやり方ではないかの」
「そんなこと、どうでもいいの。偉い人達が好き勝手にするんなら、私達も好き勝手にするよって、それだけのことだから」
「ど、どうでもいいとは何じゃ! 大真面目に考えて言うておるというのにっ!」
 怒るユラヴィカを見て、あらら、怒らせちゃった、と頭を掻くシャリー。
「あのさ、同じシフール同士なんだし、仲良くしようよ。わるしふ生活も、やってみると結構面白いんだよ? 偉い人達の為に働いたって、何にもいいことなんて無いんだからね」
 それじゃあね、と赤い翅を羽ばたかせ、シャリーは飛んで行ってしまった。
「こら、待つのじゃ、おぬしのその性根を叩き直してくれるのじゃーっ!」
 カンカンなユラヴィカに、ディアッカは溜息ひとつ。すすっと距離を取って、生温かく見守るのだった。

 バンゴ渾身の一撃は、天龍半歩の踏み出しによって目標を失い、空しく空を切った。直後、全身の力を余すところなく込められた龍飛翔は、狙い違わずバンゴの顎を捉えていた。彼はそのまま吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる。すかさず追い討ちを掛けに行った天龍の目前で、バンゴはずぶずぶと地面に沈んだ。アースダイブか! と察したが間に合わず、バンゴは地中に消えてしまった。
「くっ、お前達、今日のところは退散だよ!」
 イーダの声に我に返ったわるしふ達が、わあっと一斉に逃げ出した。スリープでイーダを止めようとしたファム。しかし飛び交うシフール達の中で、彼女を見失ってしまったのだった。

 無事、視察を終えたゴートン様。
「‥‥何じゃ、何も起こらぬではないか。全く、噂なんぞあてにはならん。面白くもない、帰るぞ!」
 ははっ、と頭を下げるサティーとゴドフリー。ロバの上で揺れるゴートンが見えなくなる頃、美里が姿を現した。
「ぷはー、はー窮屈だった。何だか急に外が騒がしくなるし、一時はどうなるかと思ったアルよ〜」
 お疲れ様、と労うサティー。あれだけの攻防に気付きもしないなんて、鈍感なのも時には有り難いと思わずにはいられなかった。とにかくこれで、何事も無い所を印象付けられたし、余り首を突っ込むのも得策では無いと吹き込めた筈。大きな事件でも起こらない限りは、ゴートン様に悩まされる事も無いだろう。

●戦い終わって日が暮れて
 桂花さんはご立腹だ。
「むー、このあたいに向かって、ままごと料理だなんて許せないっ! 『鉄観音の桂花』の腕前、いつかわるしふ達にも見せてやるんだい!」
 ぷりぷり怒りながらも、見事な手際でちゃちゃっと並べられる点心料理。あつあつのところを、皆でいただく。見たことも無い異国料理に、パン屋の夫婦、おっかなびっくり。トートとモロゾ、小龍包をぱくっと一口で押し込んだものだから大騒ぎ。
「相変わらず良い腕だな」
 ハフハフいいながら頷いて見せる天龍に、ようやく桂花の顔にも笑顔が戻った。
「こんな、温かくて美味しい食べ物なんて、裏通りでは食べられなかったな」
 みんなにも食べさせたいなぁ、とトートが呟くのを、フィリアは聞いている。
 翌日。モロゾが、受け入れてくれるという農家の元に旅立った。満面の笑顔で手を振る彼を、見えなくなるまで見送った。看板には残念ながら手がつけられていなかったけれども、誰か来ていた様だ、とゴドフリーは言う。きっとそのうち、と、カノは期待している。ぶつけた気持ちは、きっと無駄にはならない筈だから。