少年色の尻尾3〜真夜中の声

■シリーズシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:12人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月19日〜02月24日

リプレイ公開日:2006年02月23日

●オープニング

 月が真上に懸かる頃。命知らずのリュウと呼ばれる少年がドイトレの元を尋ねた。城に近い詰め所だ。少年は彼を見るなり、
「どう言うことだ?」
「何のことだ?」
「とぼけるな! 僕はこう言うのは大っキライだ。いや。大体予想は着くが何で信用してくれないんだ」
 自分の意思を度外視して物事が進行して行く現状は、酷く彼を苛立たせている。
「あんただろう。あの狼男は!」
 あの時、無意識にむしり取った物をみせる。細く小さな絹の布きれに文字が書かれている。未だ拾い読みしか出来ぬ彼ではあるが、おおよその内容は読みとれた。
「これはカーロン王子からあんたに宛てた感状だ。見ろ、ここにあんたの名前がある」
「大した奴だなお主は」
 ドイトレは向こう意気の強い少年を誉めた。
「全てはククスを護るためだ」
「嘘つきで孤立したあの子を救うためか? 戒めも含めて」
 問いには応えず、ドイトレは
「まあ、茶でもどうかね。いいハーブが有るんだ」
 座るようイスを勧めた。

 そして、朝の虹が近い頃。
「‥‥じゃあ、本当にやばい状態なんだ」
「ああ‥‥。事実は吟遊詩人の詩よりも不思議なことがあるものだ。もし、大それた事を企てている連中が居て、ククスのでまかせが的中していたら、そしてそれが知られては不可ない事実だったら、どうなるかね。本官だけでは護りきれない敵が、ククスを狙っている。これは紛れもない事実だ」
「じゃあなぜ、僕たちを騙してまで‥‥」
 詰め寄る少年に
「世の中には、知らないことが身の安全に繋がる。と、言う事もある。聞いたらもう抜けることは出来ないぞ。いやでも本官らと敵との戦いに巻き込まれる。悪いことは言わない。忘れてくれ。‥‥‥‥ふむ。‥‥不服のようだな。ならば仲間に相談しろ。お主の仲間全員の総意ならば説明しよう。今日は帰れ」
 少年もそれ以上何も言えず、出直すことにした。

 時は少し遡る。
「アォォォォン!」
 まるで狼のような遠吠えが夜の下町に響く。
「ワン! ワワン!」
 ククスの犬が主を護るかの用に吠える。
「ん‥‥何。ペペロ‥‥うわぁぁぁー!」
 寝ぼけ眼のククスは、狼の顔をした人影を鎧戸の向こうに見た。悲鳴に親父が跳ね起きて、枝切り挟を手に
「てめぇ! この、うちの息子に何しやがる!」
 その姿に驚いたのだろう。異形の影は走り去った。月は中天に懸かり静かに怪異を見つめていた。

 翌朝。ドイトレを依頼人として先の冒険者を指定した依頼が出た。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 怪物に狙われし少年ククスラ・スランを警護し、賊を捕らえる有志を募集する。
 報酬応相談。
 ドイトレ。
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●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea1757 アルメリア・バルディア(27歳・♀・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 ea1782 ミリランシェル・ガブリエル(30歳・♀・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3173 ティルコット・ジーベンランセ(30歳・♂・レンジャー・パラ・フランク王国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea5304 朴 培音(31歳・♀・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea5804 ガレット・ヴィルルノワ(28歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 eb3336 フェリシア・フェルモイ(27歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb4199 ルエラ・ファールヴァルト(29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4299 皇 竜志(25歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4310 ドロシー・ミルトン(24歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4375 エデン・アフナ・ワルヤ(34歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

サー・ブルクエルツ(ea7106

●リプレイ本文

●覚悟完了
「僕は依頼を受ける以上全力を尽くす。詳細な情報をきちんと出して貰わなくては成功するものも成功しやしない。僕は此処に来て日が浅いが依頼を成功させる為にも依頼主の筋ってモノがあるんじゃないか?」
 皇竜志(eb4299)は皆を代表してドイトレに宣った。短い間。王宮の、普段では出入りできない一室に通された皆に緊張の色が浮かぶ。
「後悔はしないのだな?」
 念を押すドイトレ。
「事情を聞かないでいると、胸がモヤモヤするもの‥‥ちゃんと、聞かせて頂きますからね、おじさま!」
 ドロシー・ミルトン(eb4310)が前に出る。
「ドイトレ様の事情を匂わせる告白自体が協力を求めるサインだったと、わたくしは受け取っております」
 穏やかな笑みを浮かべるエデン・アフナ・ワルヤ(eb4375)。
「さて、キリキリ話して貰いましょーか? ドイトレさん。貴方の目的と、貴方のお仕えしている方が目指しているモノについて」
 ガレット・ヴィルルノワ(ea5804)の可愛い顔が一瞬修羅になる。ドイトレは全員に微塵もためらいがないことを看取ると、
「承知した。ところでこの中にゴーレムを扱える者は何人居る?」
 竜志と鎧騎士全員が手を挙げた。
「他の者は暫く待っていて欲しい。こっちだ」
 ドイトレは扉を開けて手招きする。途中、三つの衛兵のいる扉を通過。そして‥‥。
「この者達の顔を覚えよ。新しい資格者だ。まだ見習いだが、カーロン殿下のゴーレムを預かるに相応しい者達だ。事前に本官の指示ある場合か、殿下の命による戦いの時、もしくは殿下に一大事ある場合。この者達を速やかにゴーレムに搭乗させよ」
 ゴーレム保管庫の前で番人にはっきりと命令した。いきなりの展開に、顔を見合わせる冒険者達。二階に上げられ梯子を取られた竜志は、
「ちょ。ちょっと待った! 説明が先だろ?」
「話す以上、後戻りはできん。それとも、ゴーレムなどまっぴらか?」
 話を聞く以上は必要と言われては、是非もない。必要な手続きを取り部屋へと戻る。

 ゴーレムの話を聞いたオラース・カノーヴァ(ea3486)は
「このロングソード、冒険を始めたときから使ってる。鍛えなおしたい。腕の良い鍛冶を紹介してくれ」
 ドイトレは用意していた一振りを鞘ごと渡し
「使ってくれ」
 改めると吸い込まれそうな美しい刃紋。握ればしっくりと手に馴染む。これは‥‥。
「魔剣か!」
 頷くドイトレ。さらに、他の者達にはシルバーダガーが配付された。ざわつく冒険者達。気前良いにも程がある。だが、これらが話を聞く前提であると言うなら‥‥。
「思ったより複雑な事情のようですね。正直、ここまで来て引き下がる事も出来ませんし、とことんお付き合いしましょう。ですから、全て話して頂けますか? ドイトレ様。今一つ飲み込めませんが。狼頭の男がドイトレ様で、敵とはエーロン派? 言わば、勢力争いにククス君が巻き込まれた、と見て宜しいのでしょうか?」
 アルメリア・バルディア(ea1757)の声に促されるように、ドイトレは静かに口を開いた。
「それだけだったら良かったのだがな‥‥」
「もったいぶるな! 僕はもう覚悟は出来居てる」
 怒鳴る竜志。礼を失しているのでは無い。これは若さ故の覇気の発露だ。
「わかっていることを知らずにそのままっていうのは僕は嫌だから、ドイトレさんに事情をちゃんと聞きたいな。あるべきものはそのままを受け入れなきゃいけないもんね。たとえそれで大変なことになったとしても自分で選んだことだから後悔はしないよ。最悪の事態にならないようにするだけだもん」
 と、レフェツィア・セヴェナ(ea0356)。
「厄介な仕事になったが、やるからにはパーフェクトにいきたいんでね」
 不敵に笑うティルコット・ジーベンランセ(ea3173)。朴培音(ea5304)やミリランシェル・ガブリエル(ea1782)の真剣な眼差し。
「弱き者を助けるのに、理由などいるでしょうか。弱き者を守る為に私財を投じてまで力を尽くされるドイトレ様に、わたくしは聖なる母の愛を見ました。ご主君もきっと気高き方に違いありません。どうか、ご事情を全てお話下さい」
 フェリシア・フェルモイ(eb3336)はこともなげに言った。天界人だけが騎士道の体現者では無いとばかりにルエラ・ファールヴァルト(eb4199)が頷く。
 皆、覚悟完了。ならばとドイトレは説明を始める。二人の王子の確執と、エーロン王子に異形の者が関わっているらしいと言うこと。ドイトレは声を潜めて一言。
「ひょっとすると、カオスの魔物かも知れん」

●忍ぶ影達
 いち早くククスの家に向かったのは培音と竜志とエデンの三人。
「よ、ククス。遊びに来たぜ」
 竜志は出迎えたククスににこやかに言った。今は留守番で一人と一匹だ。竜志は布でくるまれた大きな物を背にどかっと入口に向かって腰を下ろす。
「あ、あの‥‥おいら‥‥」
 ぽむっと肩を叩く培音の瞳。
「では、親父さんの方は『僕』が」
 家の中で手早く職人風の身なりに変装したエデンが出発する。目と目で語る配置に付く冒険者達を見て、ククスは怯えそして訊いた。
「いったい何があったんだい」
「あんたの言葉で不都合になった連中がいるのさ。不都合にさせられたあんたをどうにかするって情報があったんだよ」
 竜志は簡単に説明する。間違っては居ない。しかし、竜志は隠していた。敵は二重の意味でやばすぎるのだ。目立たぬよう、冒険者達は配置について行く。この近くにも何人もの仲間が潜んでいる。
「悪いが、ガードさせて貰う」
「お父さんや他の子達まで危険に晒す訳には行かないよね?」
 犬のペペロも二人に害意が無いのが判るので尻尾を振っている。その兄弟と二人に諭されて、ククスはうんと頷いた。

 相変わらずの親父殿だ。変装した訳有りの弟子入り志願者に対し、弟子はとらねぇの一点ばり。
「いってぇ。お殿様が、何の因果で俺なんぞの弟子に為りたがるので?」
 否定しても、
「その歩き方。路地を回るときの位置取り。そして、その手のタコは剣を握ってできたもんだろ? 背も高いし、ひょろっとしたなりの割りには、力もありなさる」
 既に庶民で無いことがばれているようだ。
「わたくしはククス御坊ちゃま‥‥いえ、ククス君とお友達になりたいのです」
「やめてくれ、そんなご大層な呼び方を聞くと、ケツが痒くならぁな。あ‥‥。は、は〜ん。そうか‥‥。判りやした。そう言うことで‥‥」
 親父は、下級貴族が権門のご機嫌を取るため、河遊びで魚を捕る技術を習得する為に、漁師に弟子入りする話を聞いたことがあった。
「あの我が侭女もひでーことしやがる。近ごろじゃ年端もゆかぬ子供を犬にして、鎖に繋いで飼っているとか。なるほど、お殿様も無体なことを命じられた口で‥‥すまじきものは宮仕え‥‥ってか? 判りやした。但し、弟子は弟子。容赦はしませんぞ」
 一人で納得して承諾する。付いて来いと道具箱を持たせる。こうして、親父殿のガードにエデンは就いた。

 貧民街の路地。またジーザス教の伝道を始めるレフェツィア。
「人は皆、上に立つ権威に従うべきです。神に拠らない権威はなく、存在している権威は全て、神によって立てられたものです。どんな理由があったにせよ。それらは神さまが許可しなければ何も起こらないのです」
「じゃあ、あんたは権力者の奴隷になれと言うのかい?」
 通行人の一人が立ち止まり訊く。
「神は王や貴族に権威を与え、従うように命じています。では、権威を授けられている者の役割は何でしょうか?」
 レフェツィアの突っ込んだ問いに通行人が立ち止まり人垣が出来る。
「人々が善を行い悪に染まらぬよう配慮し取り締まることです。その結果、人が悪を行うならば自分自身に裁きを招くのです。支配者を恐ろしいと思うのは、善を行うときではなく悪を行うときです。権威を恐れたくないなら善を行いなさい」
 人々はブーイングを起こし、口々に不正な役人や悪徳御用商人の非を訴えた。
 物陰で様子をうかがうミリランシェルは、
(「これ、拙いんじゃない? 暴動の扇動にならないよね?」)
 出て行き止めようとしたが、そこはさるもの。レフェツィアは頷きながら聴いて行き、説教の核心に入る。
「‥‥確かに一部にはそのような人も居ます。しかし、私たちは権威を与えられた人達が、過ちを犯すことなく正しい政治を行うことができ、その結果私たちが平和で安心して暮らして行けるよう祈って行くべきです。ここに一人の不実な領主が居たとします。彼に正義の裁きを求める寡婦が居て、ずっと長いこと救いを求めて訴えていました。やがて訴えを取りなす家臣が現れ、不実な領主は寡婦のうるさい声を聞かずに済むために訴えを取り上げてやりました。不実な者でもこうです。寡婦は権威に逆らわず、正当なやり方で訴え続けたので、不実な領主も正義を行いました。あなた方もこれに倣うべきです」

 そんな喧噪の中。ドロシーは子供達にククスが狼頭の怪物に狙われているらしいことを説明する。
「危ないから、人目につかない場所に行ったり、夜に出歩かないようにね」
「‥‥そか。手柄を立てても殺されちゃ合わないもんな」
 子供達の反応は意外に素直だった。
 その間近には、襤褸を纏い包帯を巻き物乞いに扮するオラース。ドイトレの箱車にのっかり、竿で地面を突いて移動する。傭兵が戦(いくさ)で大怪我を負い、と言った風情である。
「すまんな。怪我が治り次第働いて返すから」
 レフェツィアの説教のせいだろう。乏しい中から工面して、助けが必要な者に手を差し伸べる者が増えたようだ。ロバに荷を載せ通行するフェリシアは行商人のように風景に溶け込んでいた。

●子供の世界
「どうだい?」
 ストリートキッズのような服に着替えると。パラのティルコットはそれっぽく見える。髪に巻いた布一枚で耳を隠しどこからどう見てもいたずらっ子の出来上がり。
「あんた‥‥嫌過ぎるほど似合い過ぎ」
 元々人間の女の子に間違われることが多いガレットは、性格までガキになったティルコットをあきれて見ている。
 今は仲間に入れて貰っている子供達の遊び場に向かう道すがら。
「ひゃっほ〜!」
 通りすがりの若い娘のスカートを捲り大泣きに泣かせ、物売りの籠から果実を拝借する。
「おいこら!」
 と追いかける商人に、
「おっさん。ほら、返すよ」
 ひょいと投げた果実が顔面にストライク。
(「そこまでやるかフツー」)
 ガレットは急いで他人のフリ。誰も彼を冒険者などとは思わないだろう。
 そうして、道を急いでいると。
「おめ、見かけない顔だな」
 子供にしてはガタイのデカいボスっぽい奴が現れた。子分らしき数人を連れている。
「‥‥で。何かようじゃん?」
 挑発的な語調のティルコット。
「おっと。乱暴は良くねぇんじゃねーの」
 いきなり殴りかかったその腕を、必要最小限の動きでかわす。ケンカが強いと言ってもたかが子供。オーグラ相手に平然と戦う高レベルの冒険者の相手ではない。殴ろうにも掴まえようにもかすりもしない。体当たりを掛けてゴミに突っ込み、勢い余って壁を殴り。勝手にダメージを受けて行く。やがてそいつは肩で大きな息。当然ティルコットは涼しい顔だ。それでも子分に手を出させないあたりは、力だけで従えている奴では無い証かも知れない。
「まだ続けるかい? 俺は、ケンカする積もりは無いんだぜ」
「はぁ、はぁ、はぁ‥‥おめ、何モンだ?」
「いい加減にしなさいよ」
 ガレットは見かねて口を出す。
「‥‥なによ。あたしの顔に何か付いてるの?」
 じっと見つめるボスの顔が少し朱を帯び。
「おまえの妹か?」
 と聞く。
「いや‥‥俺のおん‥なぁ! ったたた」
 ゴキっと後頭部に一撃。土を舐めるティルコット。
「誰があんたの女だってぇ?」
 ボスは目をぱちくりさせ、言った。
「あねごと呼ばせて下さい!」
 男の意地であろう。ティルコットに降参したくないので、ガレットを親分に祭り上げてしまった。ともあれ、子供達の中に自然な形で溶け込んだティルコットは、ククスを交えた子供達にいろいろ碌でもないことを教えて行く。
「危険だからって大人しくしていろつってもお前ら勝手に動くつもりだろ?」
 図星である。
「うん。さっき知らないおばさんが、怪物の話をしてたんだ。で、そいつを掴まえたらご褒美がでるって、みんなで相談してた」
 おばさんとはドロシーの謂いである。手を打って正解だ。
「じゃあ。俺の言うことを聞いてちゃんとやれ。勝手な行動はそれこそ迷惑になるからな」
 と、鳴子に足掛、網に落とし穴。それらの作り方や隠し方を懇切丁寧に。
「いいか、ここをこうしてだなぁ」
 ガレットはククスの傍でさり気なくガード。子供達は怪物を掴まえるために秘密基地で夢中の時間を過ごした。
「いいかぁ。逃げて罠のある方におびき寄せるんだ」
 罠を仕掛けるのはククスの家の周りである。少なくとも一人で怪物を探しに行くことはあるまい。そこに向かって逃げて来れば、猛者達が手ぐすね引いて待っている。

 カンカンカン。
 手練れの織り手が機を織るように、軽快でリズミカルな音。ルエラが仮設の小屋を立てている。廃材や木の枝を使っての簡易宿舎だ。枯れ草で屋根を葺き、床にも布く。
「隙間風が入るな。‥‥ここか」
 襤褸と草で壁に詰め物。そうして出来たみすぼらしい家。そこへ、居住予定者が箱車を竿で漕いでやって来た。物乞いをして回っていたオラースである。作業を何事かと見守っていた付近の住人は、彼が傭兵上がりである事を聞き、
「戦場で傷ついた部下の家を建ててやるなど、有り難い方だ」
 と、褒めそやした。

●何もない夜
 夜。どこかで犬の遠吠えがする。
「わん! わわん!」
 ペペロの声に目覚めるククス。闇の中不安に押しつぶされそうになり、ぴくんと跳ね起きた。ちょうど傍らに居たアルメリアは、ククスをぎゅっと抱きしめて
「大丈夫。私達がついていますから。何があっても怖いものから守って差し上げます。ね、落ち着いて」
 ブレスセンサーを使い様子を探ると、人間のものでは無い気配が一つ。
「大丈夫。あれは野良猫が通っただけですよ」
 はっきりと断言した。

 そして‥‥。
「結局今回は何も無しか? いや、どこからか漏れたか?」
 ドイトレは唸る。
「暫く本官も職務が忙しい。今度日を改めて来て貰えぬか?」
 魔剣やゴーレム資格を気前よく与える以上、伊達や酔狂、まして嘘では無いことは確かだろう。