少年色の尻尾4〜うそかほんとか

■シリーズシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:12人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月06日〜03月11日

リプレイ公開日:2006年03月11日

●オープニング

「最近、近所の悪ガキどもが、碌でもない遊びを覚えて‥‥」
 井戸端でこぼすのは貧しい身なりのおかみさん。至る所に鳴子が張られたり、若い娘のスカートをめくる遊びが流行ったり‥‥。子供達が今までになく組織化され、まるで傭兵団のようになっているらしい。

「おっやぷ〜ん!」
 どう見ても下町の子供以外に見えない子が、冒険者酒場にやって来た。
「‥‥なんだお前か」
 ククスの家の近くの子だ。身なりは男の子だが女の子。と言うことは知っている。
「なんだとはなんだよ。ぼんきゅっぼ〜んになっても触らせてやんないぞ」
「そー言う事は、実際にぼんきゅっぼ〜んになってから言うんだな。ふっ」
 鼻で笑う。
 なにやら騒がしく為ってきた酒場。女の子が涙目で喚く頃。当の親分がご登場。
「あんた。落ちぶれたわね‥‥。とうとうこんな子にまで」
「おやぶん!」
「何があったの?」
 すると、泣きながら説明する。ククスが捕まったのだ。
「あのね。ククスが冒険者みたいな人にお使いを頼まれたの。そしてお店で捕まったの。謀反の罪だって言うの」
 さっぱり要領が得ない。
「ひょっとして、ククスぼっちゃま。なんかの陰謀に巻き込まれたのかも知れません」
 仲間の鎧騎士が推察する。
「そうね。ドイトレさんに調べて貰いましょ」

 翌日。
「ククスの容疑は大逆罪だ‥‥」
 ドイトレは難しい顔をして言う。
「なんで! どうして! いったいどうなってるのよ?」
 とんでも無い嫌疑に、親分は怒る。
「‥‥偽金を使った。と言うのがその理由だ。もちろん子供にそんな大それた事が出来る筈など無い。だが‥‥ククスに使いを頼んだ奴見つからんのだよ。殿下にお願いし手を回したので今すぐ処刑されることは無いが、犯人が捕まるまで釈放はまかり為らぬと獄に繋がれておる」
「じゃあ、頼んだ奴を捕まえないと‥‥」
 ドイトレは無言で頷いた。
「ククスの話だと、テクシ家が経営する小間物屋に使いを頼んだのは、弓を持ちマントを羽織った風来坊風の奴だそうだ。顔はよく見てないらしい」
 しかし、そんな奴はどこにでも居る。
「そう言えばドイトレさん。この前変な事を言ってたよね。情報が漏れているって。だとすると、今回はククス君の安全確保以外で動かないで。また巧いこと逃げられちゃうよ」
 親分は色を変えて釘を刺した。

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea1757 アルメリア・バルディア(27歳・♀・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 ea1782 ミリランシェル・ガブリエル(30歳・♀・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3173 ティルコット・ジーベンランセ(30歳・♂・レンジャー・パラ・フランク王国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea5804 ガレット・ヴィルルノワ(28歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb3336 フェリシア・フェルモイ(27歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb4199 ルエラ・ファールヴァルト(29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4299 皇 竜志(25歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4310 ドロシー・ミルトン(24歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4375 エデン・アフナ・ワルヤ(34歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

音無 響(eb4482

●リプレイ本文

●筆談
 ロバを連れた二人の冒険者が訪れたのは夕方。村の居酒屋で一人呑むドイトレのを見かけた偶然を装って接近する。
「そこ、空いてますか?」
 フォーリィ・クライト(eb0754)は声を掛け、フェリシア・フェルモイ(eb3336)が向かいの席に座った。一礼するフォーリィに指で文字を綴るドイトレ。同じく応えるフェリシア。ゲルマン語の筆談を中継してフォーリィの通訳を始めた。同時に口では世間話に花を咲かせる。
(「エーロン王子様に関わっているかもしれぬ『カオスの魔物』が気になります。ショア城にても同じ言葉を聞きました。地下に潜み、カオスの穴から沸いて出るとか。先だってドイトレ様は銀の短剣をお配りになりました。カオスとは、私たちの知る悪魔なのでしょうか? 銀か魔法無くば倒せず、人を騙し、魂を奪う、あの魔物達なのでは」)
(「悪魔と言う物は知らぬが並の武器は聞かぬ。天界人の大量降臨と同じくして現れ始めた」)
 水で薄めた酒で過ごしながら、話を進めたフォーリィの手に、スケベ親父が女性の手を握る形を取ってドイトレは一枚の布きれを握らせた。そっと改めると、彼カーロン・ケステの署名が入った身分証明であった。

●ガレット親分
 下町。俗に貧民街と呼ばれる、冒険者街に隣接する地域。狭い路地。都市計画も無くあり合わせの物で無計画に立てられた小屋が立ち並ぶ。皇竜志(eb4299)とエデン・アフナ・ワルヤ(eb4375)そしてガレット・ヴィルルノワ(ea5804)の三人は、入り組んだ建物を縫う七曲がりの路地裏を抜ける。ここに子供達の秘密基地があった。
「おやぶん!」
 真っ先にガラクタの家から出てきたのは、ガレットの軍門に降るまでボスを務めていたディーノと、連絡に騎士の誉れにやって来たラクーナである。続いてぞろぞろと出てまくる子供達。
「おやぶん‥‥。ま、いいけどね」
 慕われるのは悪いことではないが、親分と呼ばれるだけで気が重いガレット。
「でも、あんた達。なんで男の子の格好してるの?」
「えー。だってスカートは危険だもん」
 近頃下町で流行る物。悪ガキどものスカートめくり。いったい誰が広めたのやら。その予想が嫌過ぎるほど着く自分が嫌になる。
(「やっぱ、あの馬鹿だよね」)
 あの馬鹿とはセクパラ大王様の事である。
 竜志は穏やかな声で諭す。子供達の中では尊敬を受けているディーノに向かって。
「女の子のスカートめくりは、男として卑怯な行為だ。いいかい? 男は女を護るから偉いんだ。騎士が偉いのは平民を護っているからなのは判るよな?」
「‥‥う、うん」
 ちょっと煮え切らない答え。
「いったい。なんでこんな事始めたんだ?」
 と、穏やかに問い糾すと。
「テルの兄貴がやっていたから‥‥」
 絶句するガレットと竜志。
「‥‥今の内に断って置く」
「え?」
「あんたの男をとっちめていいか? 一応顔は止めとくが」
 ジャキンと特殊警棒を一振り。
「いいけど。あいつ、かわすのだけは上手いから」
 どうぞお好きにとガレットは棒読み。

 その横では甘いマスクのエデンが、女の子達に囲まれている。思春期前の女の子もついぽうっとなって仕舞う素敵な笑顔で、
「男の子は好きな女の子が可愛くて、つい意地悪をしてしまうのでしょうね」
「どーして? 嫌だと言ってもするんだもん」
「一度だって可愛いなんて言わないよ」
 喧しく訴える。しまいには
「おやじさんもそうだったの?」
 などと言い出す始末。そのうち。4、5歳くらい女の子が
「あたし、おじさんだったらいいかも。おじさん格好いいし。おめかけさんにしてくれるんならめくってもいいよ」
「こら。止めなさい」
 どぎまぎして叱る。多分言葉の意味も分かってないおませさん。念のためにどういう意味か訊ねて見たら、目を掛けている子と言う程の意味と思っていたようだ。
 ともあれ三人は子供達から情報も得た。冒険者風の人間が最近増えたそうだ。そして、
「おやぶんたちの名前を出したから、ククスは喜んでお使いに言ったんだ。背の高いスラッとしたエルフだったよ」
「判った。用が有るときはこっちから来る。俺達の名前を出して頼まれ事をされても、絶対受けるなよ」
 竜志が念を押し、
「いいこと? 無茶はしないで3人一組で行動してね。一人が基地への連絡役、一人が場所の保持、一人がそのフォローだよ。この子を連絡用に預けるから」
 ガレットは飼い犬のアルフォンスを子供達の預けた。

●親父の涙
 明るい光。陽精霊を祝う歌声が、こんな貧しい街角にも流れる。だけど、子供の居ない家は暗い。ガレットとフェリシアは、仕事にも出かけず放心状態の親父さんを訪ねた。
 ちょうどエデンが訪ねて来ており、いろいろと世話をしていたが、竈は蜘蛛の巣が張り火の気もない。聞けばククスが連行されてから、何も食べていないのだと言う。エデンが無理に進めるので、やっと僅かな水を口にしただけと言う。
 励ましの言葉を掛け、ククスの差し入れを作るため、運び込む材料の数々。焼き菓子の匂いが近所の子らを集め始めた時。この一刻親爺は三人の手を代わる代わる取り
「後生だ。どうしょうもねぇ悪たれだが、一人息子なんだ‥‥」
 拝むように強く握った。

●町の噂
 ククスが捕まった情報は、既に下町全体に広がっていた。ただ、いくら評判が悪かったと言っても子供である。偽金を造る能力など無い。このため、どちらかと言うと同情的な噂となっている。何せ、有罪となれば只の死刑では済まされない。偽金を使うことは謀反人と同等なのだ。恐らく、酷い拷問の末ゆっくりと死は訪れるだろう。

「変だな」
 ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)が呟いた。ククスが偽金を使ったと言う話は下町だけではなく高級住宅街でも耳にするのだが。他に一枚も出てこないのだ。使いもしない偽金を造るほど、悪党どもも暇ではない。それとも、あまりにあっさりばれてしまったので、怖じ気づいて使うのを止めたのか?
(「もしかすると、ククスを罪に落とすことが目的だったのか?」)
 ルエラはククスが使いを頼まれた店の者も、一枚噛んでいるのではないかと思い始めた。使うのを止めたとしたても、偽金造りの形跡を消せるものではない。一枚だけ造るなどと言う割に合わない仕事はしないのだから。
「最近煙がやたらと出たり、うるさかったりした所はなかったか?」
 聞き込んで歩く。

 ドロシー・ミルトン(eb4310)は如何にも場違いな服装で貧民街を歩いている。なんと言ってもそのめがねが周りの注意をそそる。
「あ、あのう‥‥」
 話しかけると逃げて行く。そんなこんなの繰り返し。木の生えた家の傍に来たとき。
「お嬢様。俺たちが案内するぜ」
 ちょっとあぶなそうな野郎が二人。
(「え? これって‥‥」)
 関わるとやばそうな感じ。思う間もなくさっと両側から腕を取られ。連れて行かれそうになった。か弱いドロシーでは抗しがたい力で。
 と、カコーン。殴り倒す小気味良い音と共に心強い助け手が出現した。慌てて逃げようとするその背を蹴り倒して這い蹲らせ、
「あんたたち。私の仲間を拉致ろうだなんて、良い度胸だね」
 ミリランシェル・ガブリエル(ea1782)だ。丁度、さっきまで木のあった辺りに立っている。
「と、とんでも無い! 誤解です」
 必死で弁明を始めた。
「迷っている天界人様を保護して連れて行けば、褒美が貰えるんで」
 そう言えば、初めてウィルに来たとき、やけに親切にしてくれた人が居たっけ? ドロシーは思い出す。額を聞くと大したことはないが、ここの住人なら10日は遊んで暮らせる褒賞だ。人が集まってきたので諭して保免。急ぎその場を離れた。
 日も暮れてきたので酒場に戻るが、途中レフェツィア・セヴェナ(ea0356)やルエラと合流した。
「そっちは?」
 ミリランシェルの問いに頭を振るレフェツィア。
「最近、冒険者風の人って珍しくないんだよね。それらしい人がいるって行ってみたら、知り合いだったし、『あんた。そいつのなんなのさ? あんたの男なのか?』なんて聞かれるし‥‥」
 終いには口説かれるなど、どうも散々だったらしい。
「こっちも、別に変わったことはなかったよ」
 とミリランシェル。カモフラージュフンドーシの効果のせいか、直接人と接触していない。変わったことと言えば、
「よっぽどの馬鹿犬だったんだろうね。匂いでばれると思ったけど。帰ったら着替えて洗濯と風呂だね」
 肩をすくめる。木に化けていた時、仔犬にひっかけられたらしい。
「しかし、どうもこの事件は‥‥よくわからん」
 ルエラは今ひとつ引っかかっていた。目撃情報があっても、そこから先を手繰れないのだ。

●見舞い
「お勤めご苦労様です。実は少々伺いたいことがあるのですが‥‥」
 牢を預かる役人へ、エデンが丁寧に尋ねた。ここに子供が繋がれていることを聞き、健康状態等を調べるために面会を要求。
 名の通った鎧騎士故、否の返事は無い。武器は抜けぬよう布で縛られたが、身体検査は受けなかった。
 独房入りは、大逆罪容疑と保護のためと言う。差し入れの菓子は念のために幾つかを抜き出して、砕いてネズミに食わせ毒が入ってないことを確認された。ククスが口封じされることを警戒しての処置である。
 獄に案内した役人が席を外すと、エデンは格子越しに包みを差し出した。
「フェリシア様とガレット様からですよ。それと‥‥」
 と、懐からルエラから預けられたメモリーオーディオも出す。これでククスに録音させようと言うのだ。
 話し掛けながらもエデンはククスの身体を注意深く観察。やつれてはいるが、酷い仕打ちは受けていないようだ。それから彼自身の差し入れとして毛布を渡す。呆然とそれらを見ているククスへ、エデンは伝言を伝えた。
「わたくし達の気持ち大事にしてくださいね、とはフェリシア様からです。それと、これはわたくしからですが、貴方を信じて待っている方々のためにも貴方自身が絶対に絶望しないように」
「‥‥ありがと」
 泣き出しそうに目をうるませるククス。
 再び独りになったククスは優しい二人からの心づくしの菓子を食べた。それを包む布に何か書かれていたが、ククスは字が読めなかった。

●テクシ家潜入
 息が白む夜。相変わらず警護が厳重なテクシ家。警備の者が頻繁に行き来する。
「お疲れ様です」
 正面から堂々と推参するのはアルメリア・バルディア(ea1757)
「なかなか所要でご挨拶に伺えませんでしたが、何事もないご様子で安堵しております」
「あんたか。ドイトレに関わっている冒険者だったな」
 冒険者は騎士待遇。しかも、仕事のアフターフォローの形を取っている以上邪険にも出来ない。たまたま家にいた当主マーカスは、不機嫌な顔を作りながらも自ら応対する。
「今、偽金事件に巻き込まれてさんざんだ。子守奉公に置いてやってるミミルも仕事が上の空。全くもって大損害だ」
 二人の話に、警備の耳目も寄せられる。その隙に付け込んで忍び込む影。ティルコット・ジーベンランセ(ea3173)だ。独り鍵の掛かった鍋番をするミミルの元に現れ。しっと人差し指を口に合図。
「俺はククスのダチで、テルって言うんだ。でさ、ここのご主人が夜誰かとあってるっぽいんだが、来客の日とか判るか?」
 何故か必死にスカートの裾を押さえるミミル。
「今度来るときは差し入れ持ってくるから、隠し場所があったら教えてくれ」
「あ、あのう。それでククスが助かるの?」
「ああ」
「世間の裏を渡ってきた冒険者ってものを見せてやろうじゃないのさ」
 ティルコットは久しぶりに真顔。ミミルから知ってる限りの事を聞き出すと、物陰を縫って庭のドラゴン像へ。スクロールを広げ試行錯誤。3回目の試みでにまりと笑う。
「人影は無しっと」
 エックスレイビジョンが成功したようだ。そして次のスクロール。今度は最初で成功。アースダイブで飛び込んだ先に地下室があった。
 気配を殺し辺りを探る。戸の透き間から漏れる灯りしか無い闇の中。手探りで物色する。鍵の掛かった机を発見。中を改める。
「これか?」
 無造作に放り込まれたコイン15枚を発見。僅かな光に輝く色は金貨だ。他に丸まった羊皮紙があったのでこれもゲット。近づいてくる足音に急いで戻る。
 さて、住処でアルメリアが目を通すと、エーロン王子宛の建白書であった。要約すると、王家主催のフロートチャリオットレースを開催し、鎧騎士の技術向上を謀ると共に臣民を慰撫。これをギャンブルとし、税に拠らぬ王家の歳入とする。優勝チーム以外の出場者から没収したアイテムは、テクシ家に払い下げて頂きたき旨懇願。当主マーカス・テクシの署名が末にある。
 それではとエデンに金貨を調べて貰ったら、間違いなく本物。
「俺、ただの泥棒かよ」
 落ち込むティルコットであった。

●名犬ペペロ
 おい、なんて目をしてるんだ。教会の祈祷を終え出てきたオラース・カノーヴァ(ea3486)を迎えるのは、二つの無垢な瞳。癒される仔犬の姿に普段の威厳有る面構えはどこへ行ったのか? すっかり親馬鹿状態で、ドロシーが抱くククスの相棒に頬を緩める。
(「ククスに金貨を渡した奴が居たら、吼えてね」)
 ドロシーのテレパシーに尻尾を振るペペロ。

 散歩を装って歩く後ろから、負傷兵を装うオラースが見張る。意外にも獲物はすぐにかかった。ペペロが吠えつく無頼風の大男に、オラースの石の中の蝶が羽ばたく。魔物だ。ついにペペロは制止を振り切り飛びかかったが、男は見かけによらない身軽さでかわし、戻って来いと叫ぶドロシーを睨みつけた。
 敵がドロシーに掴みかかる寸前、オラースが間にすべりこむ。手には抜き身のサンソード。しかし男は小馬鹿にするように薄ら笑いを浮かべ
「お前に斬れるかな‥‥」
「やかましい!」
「ぎゃあ! 斬れたっ、斬れた!?」
「何だ、しっかり斬れるじゃん」
「魔剣か!?」
 笑いながら追いかけるオラースと、恐慌状態で逃げ惑う男。どっちが魔物やら。
 竜志とフォーリィも駆けつけた。魔物は切羽詰まり、目に入った娘をひっ掴むと盾にした。
「しまった!」
 竜志の悲鳴。だが‥‥。
 娘は身を翻すとマントに隠していた武器でぐさり。そしてそのまま投げ飛ばした。
「なんなんだよ! お前ら!」
 散々な目にあった敵は悲鳴を上げながら逃げ去る。その背にオラースが香水を投げつけた。命中! この匂い、一寸のことでは取れまい。
「すまない。お嬢さん」
 竜志が頭を下げる。それにしても柄を切りつめたハルバードとは奇妙な武器である。
「生憎だが、僕は女じゃない」
 小柄なので女性に間違えたようだ。改めて謝罪する竜志。
「あ、あなた‥‥エフデさん?」
 思い出したようにフォーリィが口にする。以前同じ依頼を受けたルリと言う娘に聞いた男に似ていたからである。
「なぜ‥‥知ってます?」
 男は静かに訊いた。