少年色の尻尾5〜追跡開始!
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■シリーズシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:12人
サポート参加人数:10人
冒険期間:03月25日〜03月30日
リプレイ公開日:2006年03月31日
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●オープニング
チャリオットレース湧くウィルの街。予定より少ない参加者ではあったが、まずまずの盛り上がり。群衆の中から優勝者のパレードを見やる一人の男。深く帽子を被り、外れ札を叩き割ったり、当たり札を握って歓声を上げる者達の中、独り静かに眺めている。
「フロートチャリオット‥‥侮れぬ。なかなかの威力だ。マーカスを唆して開催させた価値はあった。天界人の魔法使いの潤沢さも脅威だな。手を打たねば‥‥」
呟くと、嵐のような騒ぎの中き。狂乱の会場を後にする。
夕刻。テクシ家の地下室。
「おい。大して儲からなかったぞ。確かに掘り出し物のソーラー充電器が手に入った。しかし、携帯電話だのスタンガンだの、ヘビーボウ+1だのアーチェリーだのクリスタルソードの巻物だのはまだいいが、ランタンだのロングロッドだの、防寒服一式だのしけた奴も結構いたぞ。おまけになにか手違いがあったらしく、15Gほど残金が不足しやがった」
マーカス・テクシは、こんな筈ではないと怒りをぶつける。
「最初はこんなものだ。それよりも、見たか? 民衆の熱狂ぶりを。次からは入場料や掛け金を工夫するが良い。それと、チームとして動かせるなら鎧騎士以外の出場を奨励しろ。参加者はもっと増える。それに、これは闇で流せば高値が付くぞ」
あるじの前に立つ男は、そう言って幾つかの没収アイテムを取り分けた。
チャイナドレス・不思議なマタタビ・聖なる干し肉・魔法の手綱 ・婦人用補正下着。加えて、見物に来たうっかり者の天界人が落とした、ルビーのかけら・雪のかけら・コカトリスの瞳と言ったマーカスがゴミのように扱っている物もある。
「なんと! こんなガラクタが高く売れるので?」
「欲しい奴には喉から手が出る代物だ」
男は嗤う。そして、重い革袋を渡すと。
「だが、これで埋め合わせは着いたかな? なかなかの盛況だ。定期的にやるよう進言しろ」
と、抑揚のない声で命じた。
「‥‥それで、旦那。あの小僧はどうなります?」
「多分何も知らぬとは思うが、万一のことがある。‥‥嘘つきが一人、この世から消えても誰も気にも留めまい。隙が有れば始末する」
氷のような冷たい言葉で、ゴミを棄てるような軽い言葉。
「今度はいつ来られます?」
「4日後の晩。その時までに子供を一人用意して貰おう。7歳前後の子が良い。そうだな、先の山賊討伐で捕まえた中の一人を払い下げて貰え。煮て食おうが焼いて食おうが、どこからも文句が出ないのが良い」
「しかし山賊のひねたガキでは、どんなに殴ってもどやしつけても、働かせるのに苦労しますぞ。7歳じゃ女のガキでもそっちの方面にゃ売れません。あんな悪たれ、本当にお役に立つので?」
「開いた口には蠅が飛び込むと言うぞ。お前には関係ないことだ」
言うと男は踵を返した。
翌日昼。昨日のヒーローと仲間が屯する、冒険者酒場の一隅。
「それはそれとして、こいつをどうしよう?」
卓の上には巨大なクレイモア。売れば結構な値段になりそうだが、どうしようかと相談中。そこから二つ離れた席では、切り詰めたハルバードを下げる華奢な小男と、これまた悪ガキのような身なりのパラ。
「ようスレナス。今、何してんだ? お嬢様が探してたぞ」
「それは秘密ですよ‥‥。それはそうと、あなたは何をやっているです? 随分とハレンチな話を耳にしましたが。なんでも‥‥○△−◇※○◎の家元とか」
「門下生とったつもりねーし」
不機嫌に眉を顰める。その時、
「ばう!」
犬の声。
「アルフォンス?」
傍らの可愛い女の子に見える冒険者が戸口に迎え、首に結わえられた布きれの束を見る。予め、定型文を書いて渡しておいた物だ。
「おや? 子分からの連絡かい?」
単語を綴った布を結び合わせた連絡だ。敵に奪われても良いよう、文字はゲルマン語。(「テクシ家−子供−危険 ククス−危険 アジト−来て」)
忽ち変わる顔色。
「何か?」
ただならぬ気配に真顔になる一行。成り行きでスレナスも同行した。
「おやぶん。ミミルおねえちゃんから連絡があったんだ」
そう言って立ち聞きした内容を伝達する。
「‥‥そいつは、僕が追っている敵だ」
スレナスは断じる。
「じゃあ、手を貸してくれる?」
おやぶんからの依頼に、スレナスは
「いや、こちらから協力をお願いしたい。報酬は用意する」
と応える。そして、
「奴との戦いになったら、魔法の武器か銀の武器が要る。だが、拠点を突き止めるのが先決だ。早計に手を出さないでくれ」
「待って下さい。お話の内容なら、ククス坊ちゃんのほうも放っておくと危険です」
女の子達にまとわりつかれながら、若い鎧騎士が釘を刺す。
山賊の子供を何に使うかは知らないが、勝負は三日目に決まりそうだ。第一の目的は敵の根拠地を突き止めること。勿論、ククスやミミル、ここにいる子供達に間違いがあっては不可ない。
●リプレイ本文
●祈り
願いを見つめる灯に向かい。フェリシア・フェルモイ(eb3336)は彫像の様。
「母よ‥‥どうか、私達に力を‥‥」
教会のキャンドルの灯が姿を闇に映し出す。
「今回も、目的は‥‥口にするのもおぞましい事ですが‥‥生贄なのでしょうか」
救え無かった心の痛み。形見の香り袋を握りしめて、何者かと格闘するように。
●冒険者酒場
気の抜けたエールの匂いがこもる冒険者酒場。かなり疲れた顔のティルコット・ジーベンランセ(ea3173)。
「スレナスよぉ、イエモトだけはやめてくれ‥‥セクパラ大王も却下な」
笑い頷くスレナスにフォーリィ・クライト(eb0754)は一言。
「ルリさんから伝言よ。『心配してアトランティスまできちゃった。無事を知って安心したけど一度顔が見たいから時間あったらでいいから顔見みせてね★ミ』確かに伝えたわよ」
からかって遊んでいたスレナスは瞬時に真顔。
「ならば一つ言伝を。お嬢様が助けを呼ぶときには、必ず馳せ参じます。無茶はしないように。と」
「判ったわ。伝えとく。それから‥‥」
ケミカに描いてもらった似顔絵を渡す。
「あの時のカオスニアンみたいな奴よ。これで良かったかしら」
「上手く出来ているな。見間違えはしないだろう」
「どれ。ああ。上手くできてるじゃんか」
加えてオラース・カノーヴァ(ea3486)の裏書き。捜索の資料として完璧かも。
●ルーケイ伯
フオロ城。諸般の仕事が忙しくなったドイトレの執務室。
「回心もしておらん山賊の助命。しかも500人だと? 建白者は正気か?」
ドアの前に立つドロシー・ミルトン(eb4310)とアルメリア・バルディア(ea1757)の耳に飛び込んでくるぼやき。ノックすると、直ぐに許諾の声が聞こえた。同行のフォーリィとフェリシアも一緒に入る。
「ドイトレのおじさま‥‥」
切り出したのはドロシーである。
「ミミルか‥‥確かに問題がありそうだ。いや、これは本官がマーカスに含みが有るからではないぞ。断じてない!」
露骨に有りそうである。
「特別扱いな感じになっちゃうのが微妙だけど、もう少し良い条件のお仕事見つけられないかな?」
脈有りと見てフォーリィ。
「お願いします」
とフェリシア。
「人質を取られているに等しい状況ですし、今後ますます危険になります。私達が仕事期間を終えた後もそのまましばらく彼女を保護して頂きたい由も合わせてお願いしておきます」
そしてアルメリアが決意を促すと、ドイトレは威儀を正し
「本官に頼むより、もっと相応しい庇護者がおろう。そうだな。王が新しく取り立てたルーケイ伯達ならば、直ぐにでも使用人を必要としているだろう」
「ルーケイ伯?」
招賢令に応じて建白に行った連中の謂いである。確かにこちらの方が早いかも知れない。因みに、召すのでは無く招くあたり王の大いなる謙譲であると評判であった。
「あ、それから‥‥もう1つ」
はぐらかされた感じのドロシーは乱暴な言葉遣い。
「ミミルの話だと、テクシさんが、山賊討伐の時に捕まえた子を用意するってことになってたの。あれって王命だったんだもの。捕虜は王家の管理でしょ。それを、一介の商人が自由に動かせるものかしら。だから、そっち方面での協力者が居るんだと思うのよね。ね、おじさま。心当たり、ある? ‥‥おじさまは動かなくてもいいからね。心当たりだけ、教えて欲しいんだ」
「先の招賢令の建白によって、更生可能と教会が判断した者は、100Gの入命金を肩代わりして払うことによって引き渡し可能になっておる。大した悪事を働いていないであろう子供ならば、金を積めば許可も下りよう。だが、それはその者の身元保証人となり、以後の行状に一切の責任を負うことでもあるから、容易くはないぞ」
「じゃあ。煮て食おうが焼いて食おうが、どこからも文句が出ないのが都合良い目的の場合は?」
フォーリィの問いにドイトレはふっと嗤い。
「病死したことにして、横流しする事もあり得る」
肩をすくめた。
●ペペロよ追え
ハンカチに染み込ませた花霞。随分薄めてあるがこれで充分。
「お願い‥‥でも、ペペロ。こないだみたいな無理はダメよ?」
ドロシーは抱きしめて言い聞かせる。こうして、オラースと共にペペロは匂いを辿って行く。路地を抜け、苫屋の隙間を縫い、ペペロは追う。
「こんなとこ通れないぜ」
オラースの立派な体躯が邪魔をする。それでもよじ登り飛び降りてペペロに付いて行く。やがて、城壁の隙間を縫う河に出た。ペペロはそこで足を止めた。
●奉公を解く
テクシ家。一行が策を持って訪れた時。ミミルは馬車用の鞭で打たれていた。
「ちょっと。待ちなさいよ!」
ガレット・ヴィルルノワ(ea5804)は声を上げて制止する。割って入ったルエラ・ファールヴァルト(eb4199)の腕に鞭が絡まる。ほぼ条件反射で鞭打っていた男を宙に浮かせKOしたのは遣りすぎであるが。
騒ぎを聞きつけてやってくるマーカス。
「‥‥最近余り仕事に身が入らないと先日伺っておりましたし、暫くミミルにお暇を頂けましたらと。代わりの者を寄越しますので。同じ雇うならば、仕事をこなす者の方が宜しいでしょう?」
アルメリアが手短に用件を告げる。ガレットが
「彼女が抜けた穴はあたしが埋めるよ」
と持ちかけると。
「お前なんかに任せられるか! え? ウィルの総ガキ大将。うちの外道な若い衆を顎でこき使うようなお前に、うちの跡取りの子守なんぞさせたら、どう考えても末は悪党にしかならねぇ」
露骨に嫌な顔。暫くガレットを睨み付けていたが、ため息を吐き
「判った。治っても戻らなくていいぞ。前貸しはチャラにしてやる」
報を受けたエデンは急ぎ師匠の元へ。エデンよりテクシ家の仕打ちを聞く親父殿は
「奉公と言うものはそういうものだ」
と動じもせず呟く。しかし熱意の余り
「わたくしがお嬢様を妻に迎えます」
と口走ったとき。親父殿はぎゅっと両手にすがりついた。
「あんなガキのどこを気に入ったか知りやせんが。我が子ながら器量の良い娘です。ただ、娘を売って金持ちになった等とウワサされては男が立ちやせん。たった今、今生の縁を切りやすから、ミミルが承知した場合はそのままお屋敷にお迎え下さい」
ウィルの年齢感覚を地球人に換算すると、10/7を乗じた位。11歳は約16歳に当たる。
しまったと思ったが、既に時遅し。
「ははは‥‥」
乾いた笑いが唇から漏れた。
●ククスの護衛
警戒厳重な地下牢。出入口は只一つ。ここにククスは囚われていた。彼の容疑もさることながら、偽金作りが口封じをすることも考慮しての話である。
レフェツィア・セヴェナ(ea0356)はレディなので許されなかったが、男で、すっかり馴染みになっている皇竜志(eb4299)とエデン・アフナ・ワルヤ(eb4375)は牢に入ることを許された。ククスの慰安が理由である。二人は武人の嗜みとして堂々と武器を携えたため、ドイトレからの根回しのお陰もありすんなりと持ち込めた。
「坊主‥‥元気か?」
剽げた口調で抱きしめる竜志。言葉は多く要らない。
「レフェツィアさん。ドロシーさん。ここに来れない親父様やお姉様もみんな味方です」
エデンは銀のアクセサリーをお守りに渡し、後を竜志に託した。
●下町探索
レザーアーマーに護身羽織、胸に輝く勲章二つ。紙巻タバコを口に銜え、サングラス越しの街を観る。敵の目を誤魔化す積もりではあるが、傾くミリランシェル・ガブリエル(ea1782)の姿こそ異形。尾行しているつもりの少年少女をぞろぞろ連れて歩いている。
「怪しい奴って‥‥あんただったの?」
駆けつけたガレットが苦笑する。この2日、ミリランシェルが集めた怪しい人物情報の半分は、なんのことない自分の話。振り回されてあちこち、隠れやすい場所や道の繋がり、周辺を隈無く調べるうちに、随分と地理に詳しくなった。成果があったとすればこれだけだ。
「やっぱり、これが拙かったのかもね」
身の丈ほどもあるシルバースピア。露骨に怪しいです‥‥ありがとうございました。
●魔物襲来
夜は更けゆく。牢番の控え室は地下牢への入口を見張る場所にあり、レフェツィアはそこに待機していた。
通路の暗がりで何かが動く。黒い猫だ。
「迷い猫か? 捕まえて外に逃がしてやれ」
牢番が面倒くさそうに頼む。猫は地下牢に続く階段をするすると下りて行く。
「あの猫、まさか‥‥」
レフェツィアは猫を追って地下牢へ。牢の中にはまだ竜志とエデンがいる。
「気をつけて! 怪しい猫がいるの!」
叫んで注意を促した時、黒猫は牢の鉄格子をするりとくぐり抜けていた。竜志の手がさっと伸びて黒猫を捕まえ、持ち上げてじっくりと観察。
「う〜ん、見たところ普通の猫‥‥」
言いかけた矢先、猫の体がもあ〜っと膨れあがった。
「うわ! この猫、普通じゃねぇ!!」
叫んで尻餅をつく竜志。その上から黒い獣の体がのしかかる。黒猫は蝙蝠の翼持つ黒豹に変じ、不気味に光る目で竜志をにらみつけ、耳障りなしわがれた声を発した。
「おまえがククスか?」
「魔物よ! 去れ!」
咄嗟に鞘のまま突き入れるエデン。前足で払われたレイピアが壁に突き刺さり鞘が割れる。
「邪魔をするな。ククスをよこせ」
魔物の下敷きになりながらも、竜志の手が七支刀の柄を握り斬りつけた。肉を切り裂かれ、魔物は苦痛に叫ぶ。
「主なるセーラよ! 悪魔に滅びを!」
牢の外からホーリーを放つレフェツィア。聖なる白い微光が魔物を包み、その体が焼けただれる。魔物は絶叫して狭い牢の中で暴れ回り、鉄格子にガンガンぶつかった。
「これは何の騒ぎだ!? ‥‥うわあっ!」
騒ぎを聞きつけやって来た牢番は、牢の中の魔物を見て腰を抜かした。すると魔物の体が縮み、黒猫の姿となって鉄格子をするりと抜けた。
「フギャーッ!!」
さらなる魔法を唱えようとしたレフェツィアに黒猫は飛び付き、顔面を思いっきりひっかく。魔法は成らず黒猫は闇に消える。
「はぁ‥‥死ぬかと思った」
壁際に張り付いて暴れる魔物をやり過ごした竜志が、ほっと安堵のため息。ククスは牢の隅っこに縮こまって、がたがた震えている。
「大丈夫ですか?」
ククスに近づいたエデンは異臭に気づく。漏らしていた。
●潜入
「‥‥どアホウ。なんてことをしてくれやがる」
テクシ家の台所。不思議なマタタビ・進化の人参・聖なる干し肉・進化の干し魚を、鍋に突っ込み腹の中。ヒステリーで卒倒しているメイド長を後目に、縛られたティルコットは、あらん限りの悪態を吐く。次第にマーカスの顔が紅くなり、やがて目だけ笑わぬ笑みになった。
マーカスは、金袋をティルコットの懐に押し込み。
「ケチか。ならば大盤振る舞いだ。ちゃんと代価は払ったぞ。お前の命のな」
「なんだよ! 命の代価って!」
しめたと舌を出しつつも慌てふためいて見せる役者。思惑は成った。
●敵のアジトへ
3日目の夜。石像の仕掛けを通り地下室から現れた痩せた長身の人物が一人。羽帽子に仮面にマント。小脇に抱える子供。‥‥いやあれはティルコット。ぐったりとしている。
アルメリアのブレスセンサーには二人の息。少なくとも、マントの人物が人のように呼吸をすることも出来ることは確かだ。いや、もう一つ増えた。茂みに潜んでいたミリランシェルが動いている。
ミリランシェルが尾行。マントの人物は闇の中を獣の様に抜けて行く。路地を抜け、家々の隙間を縫い、猫が通るような道を進む。気づかれていないようだ。狭い道で距離が開く。河に至り小舟に乗った。
だが、その河向こうに待機しているオラースとスレナス。先日見失った匂いの先を根気よく探し出していたのだ。今夜もペペロと共にいる。
小船で近づく人物に、掌で反応する蝶。
「わん。わわん!」
ペペロが吠えて飛び出した。
「きゃいん!」
足下にまとわりつくペペロが蹴飛ばされる。飛び出そうとするオラースを、スレナスが制止。今はアジト発見が優先する。逃げられては元も子もない。
ネズミのように闇を抜けるスレナス。気配も殺気も消し去って追跡を開始。忽ちオラースは見失い、スレナスが要所に落とす印が頼り。
●秘密の儀式
気がつけばティルコットは地下室らしき石のベッドに縛り付けられていた。
(「さって、ここのおっさんらが何を考えているかしっかり見させてもらうじゃーん」)
目の前には二人の男。仮面の男に、いかにも遊び人な風体の下っ端。
「さあ、儀式の始まりだ。生け贄のナイフを持て」
下っ端がナイフを差し出し、仮面の男はその刃先でティルコットを弄ぶ。
「ふふふ、どこから切り刻もうか?」
チクリ。ナイフの刃先が頬に刺さった。流れる血の感触。
「さあ生け贄よ! 苦しみ叫べぇ!」
「るせー! 変態の餌食にされてたまるかよっ!」
怒りの雄叫びを叩きつけた途端、なぜか縛めのロープがティルコットの左腕の部分だけ、スパッと切れた。左手にはいつの間にかガントレットが出現。下っ端が狼狽する。
「小僧! いつの間にこんな武器を!?」
「食らえ、変態!」
下っ端の頭をぶちのめそうと左手を振り回した途端、とんでもないことに。
シュッ!
真空の刃がガントレットから飛び出して来るではないか。さながらウインドスラッシュの魔法。
「小僧、何者だっ!? さては、貴様はガイの‥‥」
「うるせぇーっ! 俺はナイス害でもイエモトでもねぇーっ!!」
「うぎゃあーっ!」
ティルコットの言葉の最後は大絶叫にかき消された。下っ端の顔面を次なる真空の刃が切り裂いたのだ。すると何としたことか、血にまみれたその顔が狼のそれに変じていくではないか。ついに魔物の本性が現れたか?
「ま、魔法の武器とは卑怯だぞ! うぎゃあーっ!」
罵る狼男に食い込むさらなる真空刃。
「はははは! 命拾いしたな、風の戦士よ」
ティルコットの無自覚な魔法攻撃を受けつつ、仮面の男がカッコつけながら逃げていく。
「覚えてやがれ! このイエモトめっ!」
まるっきし勘違いな捨て台詞を残して、下っ端狼男も早々に退散。
「イエモトって呼ぶなぁーっ!!」
叫ぶや、ティルコットは精魂使い果たしてその場に昏倒。最後の真空刃が扉を切り裂いた。
暫くして、地下室の入口に救出に駆けつけた仲間たちが顔を出した。ぐったりとしたティルコットをルエラが抱き起こす。
「しっかり!」
フェリシアがリカバーの印を結びつつ改めると、頬に薄手を負っているだけ。
「心配ありません。気を失っているだけです」
「苦労してここまで来たってのに。何、一人で騒いでるのよ?」
揺さぶり叩き起こすガレットに、薄目を開けたティルコットは小さな声で応えた。
「遅かったじゃねーか」
そしてガレットの尻に手を触れたまま、再び意識を失った。