暗雲ルーケイ2〜復興会議

■シリーズシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:15人

サポート参加人数:19人

冒険期間:07月11日〜07月18日

リプレイ公開日:2006年07月19日

●オープニング

●戦勝祝賀会
 毒蜘蛛団討伐戦の勝利を祝しての祝賀会は盛況。だが、主賓たるルーケイ伯は内心げんなりしていた。
 げんなりする理由の一つがラベール・シスイ男爵。頼みもしないのにルーケイ伯の先払いよろしく、祝いの席に集まった紳士淑女の前で手柄話をぶち上げるのである。
「我がシスイの地は、先の東ルーケイ平定戦いにおいて、出陣の先駆けとなる栄誉を得たのでございます。悪逆非道なるルーケイの賊どもに脅かされる最中、来るべき戦いの備えを為すに当たっては、並々ならぬ苦労がございました。しかしその苦労も、此度の大勝利によって大いに報われたのでございます」
 シスイ男爵領が進軍の拠点となったのは事実である。しかし男爵の言葉ときたら。これが自己保身に奔走し、あれやこれやと出費をケチりまくった御仁の言うことかと言いたくもなる。ルーケイ伯を褒めちぎりながらも、巧みに自分の手柄を吹聴するその口の上手さには閉口した。
「畏くもルーケイの統治者たる閣下は、些細なる功も決して忘れることなく、必ずや報いて下さるお方。その事は、戦いに先立っての辛苦を共にしたこのラベールが、一番良く存じ上げております」
 こんな美辞麗句を男爵が口にするや、淑女の皆様方から賞賛の声が上がる。
「新たなるルーケイ伯こそ、待ち望まれていたルーケイの統治者ですわ」
 シスイ男爵と共に紳士淑女に取り囲まれてしまったルーケイ伯は、男爵の口を下手に封じることもできず、強張り気味の笑顔を見せるばかり。真横を見れば、シスイ男爵の実に見事な笑顔がそこにある。
「かつてルーケイが実り豊かな地であった頃、山と小麦を積んでルーケイの地を発った数多の馬車は、我がシスイ領を通って王都の門へと向かったのでありました。絶えて久しかったその光景も、程なく甦ることになりましょう」
 その言葉が終わるや、湧き起こる拍車喝采。男爵は完全に祝賀会の主役気取りであった。

 やっとのことでシスイ男爵の側から離れたルーケイ伯だが、今度は南クイースの代官レーゾ・アドラに掴まった。戦勝祝いの社交辞令もそこそこに、レーゾが切り出したのはルーケイの小麦の話。
「ルーケイの復興も近い将来のものとなった今、その豊かなる小麦の実りについても、先の見通しを立てねばなりませんぞ」
 その言葉も終わらぬうちに、北クイースの代官にしてレーゾの腹違いの兄のラーベ・アドラが割り込んで来た。
「こと小麦の商いに関しては、このラーベは王都の大商人達に顔が利く。是非とも伯の力になってやろう」
 レーゾも儲け話を横取りされまいと言い募る。
「何も王都の大商人だけが小麦のお得意様とは限りませぬぞ!」
 そこへ挨拶にやって来たのが、アーメルの代官ギーズ・ヴァム。他の代官達は見るからに贅沢な礼服を着こなしているが、ギーズは傭兵に似つかわしい鎧姿だ。しかしその鎧はピカピカに磨かれ、輝いている。既に酒の酔いが回り、ギーズはすっかり出来上がっていた。
「クソな顔ばかりが揃っているが、気にするな。ここは俺の館だと思って、存分に飲め」
 その横柄な物言いにレーゾとラーベは顔をしかめたが、ルーケイ伯は戦友に対するようにギーズの肩を抱き、その武功を褒め称えた。
「私は討伐軍指揮官として、ギーズ卿の援軍たる騎馬隊の活躍を目の当たりにしましたが、その統率された動き。非の打ち所のない程に見事な物でした」
 その言葉を聞いた時の、レーゾとラーベの顔ときたら。
「ですが、ルーケイでの戦いはまだ続きます。こと小麦に関しては、ギーズ卿のそれとはまた異なる援軍を必要とします故、何とぞご助力を」
 と、ルーケイ伯は言葉を続け、レーゾとラーベを持ち上げる。二人は笑顔をもって答えたが、その心には抜け駆けしたギーズへの疑心と嫉妬が育ち始めているはず。

●復興会議に向けて
 間もなく王都にてルーケイ復興会議が開かれる。ワンド子爵の取り持ちで開催にこぎ着けた会議には、ルーケイ伯並びにその近隣の領主が勢揃いする。巷では悪代官4人衆と口さがなく囁かれる4大代官、これにシスイ男爵、ワンド子爵を加え、フオロ王家からはマリーネ姫が。さらに学園都市からも代表が遣わされるという。また、ルーケイの近隣にありながら、これまではルーケイとは疎遠であったロメル子爵領にも、ワンド子爵は会議への参加を促しているという。但し、ロメル子爵からの返事はまだ届いていない。

 晴れてルーケイ伯の家臣となったスレナスは、スラムの顔役ガーオンの元に出向いていた。スラムは大火により全焼したとはいえ、かつてのスラムの住民にガーオンは大きな影響力を持っている。
「ルーケイ伯への書状、確かに渡したぞ」
 ガーオンの認めた書状は今、スレナスの手の中にあった。
「で、こちらは水蛇団の頭目殿からの書状だ」
 河賊・水蛇団の使いとしてその場に立ち会うベージー・ビコが、さらにもう1通の書状を手渡した。2つの書状の内容は、送り主のサインと印章は違えども、その内容はさほどに違わない。現在、水蛇団の拠点となっている南ルーケイの村の復興に関してのものだ。
 ルーケイ反乱に際しては王の軍勢によって焼かれた村だが、村は後に水蛇団の手によって再建された。そして王の認めた新たなルーケイ伯の統治が始まった今、水蛇団はこの村を一大歓楽地として発展させる用意がある。その為のルーケイ伯のお墨付きが欲しい。既にガーオンと水蛇団の間には、焼け出されたスラムの住民をこの事業に参加させ、食い扶持を稼がせるという取り決めが出来ている。勿論、これまで水蛇団が徴収していた大河の通行料については、徴収手数料を除いた全額をルーケイ伯に上納する。──というのが、2つの書状の大まかな内容だ。
「確かに受け取った。ルーケイ伯には間違いなく届ける」
 その言葉を残し、ふっと視界から消えるスレナス。ガーオンが感心したように笑う。
「シフール便ならぬスレナス便か。味方でいる間は何かと便利な男だ」

●新型フロートシップ
 騎士学院の教官シュスト・ヴァーラより、ルーケイ伯に書状が届けられた。記された要件は、フオロ家がトルク家より購入し、間もなく引き渡されるであろう新型フロートシップについてのものだ。
 国王エーガンは早急なるルーケイの平定を望むが故に、フロートシップをルーケイの地に配備する意向だという。やがては公式の決定が下ろう。ぱこぱこ子爵以下、主立った者に自費でゴーレム機器を購入し所持する認可も下りた。トルクからの申し出で、本来フオロ家より下賜を約束された数に達するまでは通常の半値以下での購入が可能だ。
 例えば、グライダーが10機まで1機300G、チャリオットが7台まで1台500G。ルーケイ開拓にゴーレムをと言う申し出に対し、旧式化したウッドゴーレムのデクが500G。と言った具合である。
 しかしルーケイの地はトルク分国と境を接するが故に、強大な戦力たりうるゴーレムの配備には慎重を要する。また、本来王家からの下賜品であるべきゴーレムが自費購入になったことも大きい。トルクとしては、恩を売りつつ現実の保有数に制約を掛けたのかも知れない。
 ルーケイ伯においてはこの案件に関し、トルク分国の使者と入念なる協議を行い、良き選択を為されることを望む。──と、書状にはそのように書かれていた。
 なお、トルクの使者はルーケイ復興会議に合わせ、ルーケイ伯の元を訪れるという。

●今回の参加者

 ea1389 ユパウル・ランスロット(23歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea1565 アレクシアス・フェザント(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1819 シン・ウィンドフェザー(40歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3651 シルバー・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea3866 七刻 双武(65歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4857 バルバロッサ・シュタインベルグ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・フランク王国)
 ea5678 クリオ・スパリュダース(36歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea7400 リセット・マーベリック(22歳・♀・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb4064 信者 福袋(31歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4139 セオドラフ・ラングルス(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4155 シュバルツ・バルト(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4291 黒畑 緑郎(39歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4578 越野 春陽(37歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))

●サポート参加者

セーツィナ・サラソォーンジュ(ea0105)/ 封魔 大次郎(ea0417)/ アレス・メルリード(ea0454)/ オルステッド・ブライオン(ea2449)/ アハメス・パミ(ea3641)/ ソフィア・ファーリーフ(ea3972)/ ショウゴ・クレナイ(ea8247)/ エルマ・リジア(ea9311)/ 柳 麗娟(ea9378)/ 黒畑 五郎(eb0937)/ 桜桃 真治(eb4072)/ 山下 博士(eb4096)/ 時雨 蒼威(eb4097)/ グレイ・マリガン(eb4157)/ リューズ・ザジ(eb4197)/ ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)/ シャリーア・フォルテライズ(eb4248)/ ルヴィア・レヴィア(eb4263)/ ハル・ヒノカワ(eb4631

●リプレイ本文

●暗雲の予兆
 依頼に先立ち、シン・ウィンドフェザー(ea1819)には片づけておくべき事があった。先ずは、先日参加したロイ子爵の依頼について報告書をまとめ、ルーケイ伯に提出すること。情報提供を許可したロイ子爵は、ルーケイ伯に協力を求めてもいた。事が人と竜との和平に関わるからだ。
 シーハリオンでの異変を境に、少なからぬ数のナーガが故郷を離れて人界に出現し、数々のトラブルを引き起こしている。もしも近い将来、人の手にしたる魔法兵器ゴーレムの存在をナーガ達が知ったならば、その強大な力を自分達への脅威と見なし、人と敵対する姿勢を取り始めはしまいか? 少なからぬゴーレム機器が配備されるであろうルーケイに対しても、ナーガの干渉が企てられるかもしれない。気掛かりである。
 報告書を纏めて提出すると、次は愛娘レンのために書状を作製。レンを養女にと求めるウィンターフォルセの領主に対して、承諾の意を記したものだ。
「俺は大事な依頼に拘束されて、領主殿の元へは赴けないからな」
 出来上がった書状をレンに渡すと、シンは冒険者街を発つ。仲間と共に目指すはルーケイの地。

 その頃。冒険者ギルドに出入りする冒険者の中にも、ルーケイの将来を案ずる男が一人。今はトルク家男爵の立場を得た彼は、張り出された数々の依頼書に目を通していたが、ふと心中で呟く。
(「このゴーレム並びにその所有権の売買‥‥我等が王弟の軍備増強の口実となる。『トルクもまたルーケイ伯に倣い、数多のゴーレムを揃え、西ルーケイより侵入する賊徒に備えん』とな。賊徒が平定されて後もゴーレムは残り、やがては戦禍の一因となろう。伯達は気付いているか。ルーケイ統一後こそ真の戦が訪れる。良きにつけ悪しきにつけ‥‥ウィルは変わる!」)
 そして、向こうで依頼書を眺めているパンドラの箱を開いた張本人、小さな子爵を見やった。

 その頃、ルーケイ伯の元には1通のシフール便が届いていた。ルーケイ伯を知る冒険者からのもので、文面にはこうあった。妾の小さな友人ガレットが、過重な人間関係の為に心身に障りをきたしており、後日療養の為、冒険者家業及び王都職務を辞する挨拶に参ると。

●ルムスの村
 ルーケイ入りした冒険者の一行が、最初に目指すのはルムスの村。先の依頼によりルーケイ伯に臣従を誓ったスレナスも、ユパウル・ランスロット(ea1389)の求めよにり同行している。
「時に、タンゴ殿の行方を知らないか? キミがロッド・グロウリング卿の砦にいると彼女に伝えたのは俺なんだ。彼女とは会えたのか? 連絡はつくのか?」
「彼女とは会えました」
 と、スレナスが答える。
「今はどこかに出かけているようですが、待っていればそのうち帰って来るでしょう」
 タンゴの身を案じている様子はない。昔から彼女はそんな感じだったのだろう。
 一行が村へ到着すると、またも村人達が総出で出迎えた。ルムスの恭しき態度も前回の訪問の時と変わらず。そしてルムスは一行の中にシュバルツ・バルト(eb4155)の姿を認めると、身を低くしてその手を取り、口づけした。
「トルクの誉れ。栄えあるチャリオットレースの優勝者、麗しきシュバルツ・バルト男爵よ。先の訪問の折りにはその事を知らず、失礼仕った。未だ実り少なくむさ苦しき我が領地にご足労頂けたこと、このルムスにとっては身に余る光栄」
 ルムスの口上は貴婦人に対するがごとくに優雅。チャリオットレースの件は、前回の訪問の後で耳にしたのだろう。
「いや、ことさら丁寧に扱われずとも。今は依頼を受けた一介の冒険者として参ったが故に」
 その場はそう答えるシュバルツだが、自負心をくすぐられなかったと言えば嘘になる。
「ところで、以前渡したはずの100ゴールドの件だが」
「安心してくれ。無事に見付かった。金袋が妙な所に置き忘れられていたんだ。紛失していたらおおごとだったが。有り難く使わせて頂く」
 ルムスの口調も元に戻っていた。
「では早速だが、ルーケイ伯に頼まれた仕事を始めたい。この村にいる領民の人口調査だ。性別や年齢分布も詳しく知りたい。それから、村の生活に馴染めない元虜囚に対しても、彼らを如何に更生させるか考えないとな」
「実は‥‥あれから村の人口がまた増えた」
 ルムスはそう告げて、シュバルツを村の牢獄に連れて行った。
 村の端にぽつんと立つ小屋の中は、今日も大繁盛。喜ばしい話ではない。思わず顔をしかめるシュバルツだが、小屋にぶち込まれた人数を数えてみると23人。しかも先の訪問の時には見なかった顔もある。うち2人は女で4人は子ども。流石に女と子どもは、男の囚人達からは分け隔てられている。
「あの後、4人の食い詰め者が村に盗みに入ったので、とっ掴まえてぶち込んだ。さらに家族連れの食い詰め者達が8人、物乞いにやって来たので取り調べ中だ。タダ飯食わせておく訳にもいかないから、いずれ労役に就いてもらう。
 東ルーケイが平定されたのはいいが、今後は彼らのような流民への対策を講じないとな。関所でも作らないことには、やって来る食い詰め者に村を食い潰されちまう」

●青草の下に
 村の回りの様子見をしたいと願う七刻双武(ea3866)に、村の古老が案内役を買って出た。
「わしはかつてのルーケイ伯が若かりし頃より、この地に住んでおりました故、土地の事なら誰よりも良く存じております」
 手始めに、ルムスの村の周囲をぐるりと歩いてみた。
「この辺りは昔、一面の麦畑が広がり、それはそれは惚れ惚れするほどの景観でございました」
 今は青草ばかりが生い茂る野原である。
 さらに村を離れ、北に広がる森の境に沿って西へと向かう。
「確か、この辺りに‥‥」
 古老は草をかき分けながら歩き続け、やがて草の陰に埋もれた井戸を見つけた。そこにあったはずの釣瓶は失われているが、双武が井戸を覗き込むと光を反射する水面が見えた。
「まだまだ使えるようじゃな」
 かつては村人達の喉を潤し、生活を支えた井戸。その井戸との出会いを喜ぶように、双武は微笑む。
「かつてはここにも小さな邑があり、人々が暮らしていたのでございます」
 そう語る古老の声が、寂しく聞こえる。
「今はルムス様の治められるあの村は、この土地に散らばる幾つもの邑、畑の中に点在する防備もなくただ農民の家しかない邑でありましたが、それらを束ねる要であり避難所でありました。しかし数多くあった邑も叛徒の拠点になると国王軍に焼き滅ぼされ、再建叶ったのは僅かにルムス様の村一つでございます」
 さらに西へと歩を進める。
「こうも長歩きを続けては疲れぬか?」
 古老の年を案じて双武は声をかけたが、意外と元気な声が返ってきた。
「若い頃より鍛えておりますれば、まだまだ大丈夫でございます」
 やがて、二人の目の前に池が現れた。雨水を蓄え、用水とする為のため池である。このところ雨が続いたお陰で、豊かな水をなみなみと湛えていた。
「昔も今も、この水の色と香りは変わらぬ」
 遠い昔を懐かしむように、古老は呟いた。

 双武の見立てたところ、ルムスの村より西に広がる草地は、かつての豊かな穀倉地帯へ甦る可能性を秘めていた。ただし、そこにあった邑の全てはルーケイ反乱平定の際に焼かれ、井戸の中には埋められてしまったものもある。過日には畑を耕していた農夫に、鍬を引いていた牛馬の姿も今は無い。
 調査を終えてルムスの村に戻ると、双武は農具を検分する。農具はどれもこれも、感心する程に手入れが行き届いていた。こと農具に関しては、古老の指導が行き届いていると見た。
「見事なものじゃ」
 感心する双武に古老は答える。
「農夫にとっては畑仕事こそが戦。鍬も、鎌も、大切な武具でございます」

●ルムスの過去
「さて、今後の方針だが。大義の大目標はルーケイの復興。差し当たっての小目標は小麦の増産だ。耕作地の拡大を奨励し、開拓地は3年を基本とし免税。この3年の間に資金を蓄え、種籾や農具を調達し、次期への蓄財と為すが良かろう。
 また最大、週3日の賦役を課すが、そのうち1日を伯が使用し、直轄地の開拓に当てる。その能力が無い者、ないし他に才能がある者は薪拾い・狩猟採種などで代用可だ」
 と、ルーケイ伯の名代たるバルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)は、その施政方針をルムスに伝える。ルムスに異存は無い。
「それこそ正に、我が望みとするところ。豊かなる実りこそが繁栄の支え。我、家臣団筆頭たるルムスは戦場にて兵を率いるが如くに農夫を率い、数々の戦術を駆使して実りの版図を押し広げましょうぞ」
 やる気満々な答にバルバロッサは満足。しかしルムスからは聞き出さねばならぬ事があった。
「時に、ルムス殿とラーベ・アドラの噂を耳にいたしました」
 最初にその話を切りだしたのは、セオドラフ・ラングルス(eb4139)。
「そうか、いつかは伝わると思っていたが‥‥」
 ルムスは口ごもる。セオドラフは促した。
「ルーケイ伯は貴方を見捨てるような方ではありませんが、それゆえ放置すればあの方の名に傷がつきましょう。仔細さえ教えていただければ、我等が助力いたします。いざとなれば決闘裁判という手もありますゆえ」
 続いてバルバロッサも請け負う。
「心配無用、一端庇護した者を容易く突き放したりせぬよ。それに、たとえラーベが相手でも、力ずくのフェーデにはなるまい。そうだな、オークボウで俺を撃って見れば判る」
 ルムスは手元のオークボウをしげしげと見つめる。それはバルバロッサからの預かり物。そして念を押すように、俺を撃てと言い放ったルーケイ伯の名代に尋ねる。
「本当に撃っていいのだな?」
 しかし言葉の裏では、バルバロッサの力量をこの手で確かめる願ってもないチャンスと思っている様子。その目には強い相手を前にしての、期待の輝きが宿っている。
「何度も言わせるな。一度、俺の口から発した言葉には責任を持つ」
「では、遠慮なしに行くぜ」
 ルムスは戦士の顔になる。オークボウに矢を番え、矢尻の先をバルバロッサの胴に向けて弓を引き絞り、矢を放った。
 次の瞬間──ほんの瞬きをする間に、バルバロッサの胴に突き刺さるはずだった矢は、あらぬ方向に弾かれていた。ルムスは目を見張り、バルバロッサに求める。
「‥‥もう一度、試しても良いか?」
「何なりと」
 ルムスは二度目の矢をバルバロッサに放つ。バルバロッサの上体が素早く回転し、またしても矢は弾かれた。バルバロッサは放たれた矢の動きを瞬時にして見切り、鎧の丈夫な部分で受け止め、手際よく弾いたのである。
「俺は与力で一番の小物だが、このくらいはできるからな」
 バルバロッサのその言葉を聞き、ルムスはその顔に不敵な笑みを浮かべた。
「これと同じ矢を、ぜひともラーベの野郎にも放ってみたいものだ。果たして奴は見事、この矢をはじき返せるかどうか。フェーデが楽しみだ」
 バルバロッサはルムスの肩に手を置き、にんまり笑う。
「あまり無茶はしてくれるなよ。では聞かせて貰おうか。ラーベとの因縁のことを」
「数年前。俺の属していた傭兵団がラーベに雇われた。奴の領地を荒らし回っていた山賊団を討伐するためだ。酷い戦いが何日も続いた。山賊どもは多数の領民を人質に取り、俺達傭兵団は苦戦を強いられた。最後には俺達が勝ったが、傭兵隊長は人質の救出と引き替えに落命。さらに何人もの戦友が、もはや傭兵稼業を続けられない程の手傷を負った。それを、あのラーベの野郎は。傭兵団の些細な不始末をあげつらって難癖を付け、約束した報酬の半分も支払わなかった。だから‥‥」
 どん! と、テーブルに振り下ろされたルムスの拳が大きな音を立てた。その後の言葉を、ルムスはぶっきらぼうな調子で続ける。
「‥‥だから、俺は奴の顔を思いっきり殴りつけてやったのさ。払われなかった報酬の分は、てめえの痛みでチャラにしてやる、ってな」
「ラーベから盗んだという騾馬の件は?」
 セオドラフが訊いた。
「ああ、あれか。荷運び用にラーベから貸し出されていたんだが、なぜか俺に懐いてな。ラーベを殴って逃げ出したら、一緒について来ちまったんだ」

●クローバー村
 ルムスの村での用事を終えた冒険者達は、続いてルーケイの街道沿いにある村に向かう。かつて毒蜘蛛団の根城となっていたこの村は、今ではクローバー村と呼ばれている。
 その名が示すように、村の周囲にはそこかしこにクローバーの群生地が見られる。聞いた話では、これらのクローバーは、かつてこの辺りが牧草地だった頃の名残だとか。クローバーは繁殖力の強い牧草なのだ。
 現在、クローバー村にはルムスの遣わした少数の見張りが駐留するのみ。先の討伐戦で破壊された家屋は、未だにその残骸を晒したまま。荒れた畑に育つ貧弱な麦も、刈り入れの鎌を入れる者がいないまま放置されている。
「村を再建するとなると、殆ど一からやり直さねばなるまい。しかし今のままでも、牧草地としてなら十分にやっていける」
 村の周囲を歩き回り、ユパウルは地図にチェックを入れる。牧草地に適すると思われる場所に印を付けていったが、たちまち地図は印で埋まった。

 時折やって来る放浪者を除けば、クローバー村の近くに住む者はいない。村の再建に当たっては、働き手をルムスの村から徴募する以外にも、幾つかの伝を通して人を集めねばならぬだろう。
 但し、必要となる木材については近くの森から調達できる。
 ルムスの村でもある程度の話は聞いていたが、リセット・マーベリック(ea7400)は実際に森へ足を運び、様子を調べてみた。
 ルムスの村に近い森もそうだが、この辺りの森は樫や楢など、木質の堅い広葉樹が多い。建材や木工品にはうってつけだ。
 森に実るドングリはリスや熊など森の獣の餌になる。そのせいもあって、森には獣が多かった。ドングリはまた豚の飼料ともなるので、豚の飼育も見込める。ただし、家畜を襲う獣には要注意。

「さて、村を再建してからの話になるが。この村の活用方法と防衛についてキミの意見を聞きたい。この村を守るに際して、キミならどのような防衛手段を取る?」
 同行のスレナスにユパウルが訊ねると、冷めた口調で答があった。
「僕ならこんな所にある村を、防衛の拠点にしたりはしない。周囲は平地だから攻めやすく守り難い。僕の見たところ、本来の防衛拠点は他の場所にあったはずだ。例えば‥‥あの丘の辺りを調べてみよう」
 村からやや離れた丘をスレナスが指さすので、皆で彼の後に付いていった。
 その丘は先の討伐戦の折り、毒蜘蛛団がその息のかかった手勢を呼び集めるべく、狼煙を上げた丘だ。丘の周囲は丈の高い草に覆われ、足を踏み入れるのにも難渋する。
「これを見て」
 スレナスが草をかき分け、草の陰に隠れていた物を露わにした。
 そこには砕かれた石材が転がっていた。さらに周囲をくまなく調べると、同じく不自然に放置された石材がいくつも見付かった。
「防衛の拠点を作るなら、街道に近く丘を背にしたこの場所が相応しいと、僕には思えた。しかし、既にここには砦が設けられ、後に何らかの理由で取り壊された。残された証拠から察するに、そういう事になる」
 スレナスが言う。
「砦を建設したのはかつてのルーケイの領主か。しかし、それを取り壊したのは誰だ?」
 疑問を口にしたユパウルは、王より死を賜った本来の領主に変わってルーケイの統治者となり、後の謀叛で殺害された代官、ターレン・ラバンの事に思い当たる。
「砦を取り壊したのはラバンか? ルーケイがラバンの統治下にあった頃の事を調べれば、何か掴めるかもしれないな」
 その言葉にスレナスも頷いた。
「殺されるからには、それ相応の事をやっているはずだ」

●生首村
 クローバー村周辺での調査の後、冒険者達はさらに南へ下り、大河の畔に出る。
 そこには水蛇団の使い、ベージー・ビコが待っていた。
「お待ちしておりました。ユパウル殿」
 彼はユパウルの要請に応じ、ここまでやって来たのだ。
 岸に横付けになった渡し船には、クリオ・スパリュダース(ea5678)とシルバー・ストーム(ea3651)の姿がある。
 冒険者達を乗せ、船は岸を離れる。目指す目的地は河賊・水蛇団の拠点たる南ルーケイの村だ。
「これから向かう村は『生首村』と呼ばれている」
 何ともぞっとしない名前だが、道中でベージーが話して聞かせることには、かつてのルーケイ反乱の折りに、ルーケイ伯の遺臣たる騎士がその村に立て籠もったのだという。
 しかし、当時より南ルーケイを縄張りとしていた水蛇団の策略により、騎士は首を刎ねられて殺された。その手柄は王の派遣した討伐軍に横取りされたが、討伐軍の指揮官は暗黙ながらも水蛇団の功績を認め、その縄張りに手を出すことなく王都に引き揚げたという。
「村に生首村という呼び名が付いたのは、その記念だ」
 やがて渡し船は、大河に流れ込む川の河口に近づいた。河口の両岸には二つの砦。ちょうど門のように船を迎え入れる。拠点の守りだが、今は使われていないようだ。
 河口より川を上って暫くすると、沼沢地に所狭しと立ち並ぶ家々が現れた。
「これが、生首村か」
 村の中へ通じる水路の手前で、船は止まった。
「今日、下見として案内できるのはここまでだ。歓迎の準備も整っていないのでな。いずれ日を改め、村の中へ案内しよう」
 そんなベージーの言葉を聞きながらも、クリオはつぶさに村を観察した。
 生首村という不気味な名前にはそぐわず、村の風景はいたって平穏。風光明媚とまでは行かぬが、そこそこに景観は良い。家々の数をざっと数えて推し量ってみたが、住民の数は300人を下るまい。船を住処とする連中も勘定に入れれば、1千人を越える人間がこの辺りに住んでいてもおかしくはない。
 川に釣り糸を垂れたり、網を投じている者の姿もある。生け簀も散見する。村では魚の養殖が行われているようだ。
 村の周囲の川面、ひしめく川船の中には、数十人の兵士を乗せられそうなものもある。
(「あれだけの大きさの船があれば、チャリオットやグライダーも楽に乗せられる。バガンの輸送も可能だろう。」)
 セオドラフが心中で推し量っていると、
「そこを動くな!」
 鋭い誰何の声が飛んだ。物陰に隠れて魔法のスクロールを広げていたシルバーを、乗船していた水蛇団の用心棒が見咎めたのだ。その手がさっとスクロールに伸びるが、シルバーは素早く身をかわす。用心棒の女は怒鳴った。
「それは魔法のスクロールか!? 何をするつもりだった!?」
「何もするものか」
 実際の所、シルバーはチャームのスクロールの助けを借り、船に乗る水蛇団の連中から有利に話を聞き出そうとしたのだが、裏目に出た。見ていないようでその実、彼らは冒険者達の行動をしっかり監視している。
 にらみ合う両者の間に、ベージーが割って入った。用心棒を身ぶりで制すると、シルバーにきつい目を向ける。
「さっさとそいつをしまえ。せっかくの機会をつまらぬ真似で台無しにするな。今日のところは、無かったことにしてやる」
 シルバーはスクロールを仕舞い、仲間のセオドラフが詫びを入れる。
「仲間の非礼をお詫びします。先のことは、どうか大目に見て頂きたく」
「まあ、今後からはこそこそした真似はよしてくれ。有らぬ疑いをかけられるぞ」
 ベージーは一転、にこやかな笑顔を見せる。
「ところで、ルーケイの西にあるという島も見ておきたいのですが」
「いいだろう。今からそこに船を向けよう」

●首吊りの木
 生首村の下見が行われている頃。陸奥勇人(ea3329)、ファング・ダイモス(ea7482)、シンの3人は、ルーケイの街道を西へ進んでいた。目指すは盗賊・毒蛇団の支配する西ルーケイ。
 東ルーケイと中ルーケイの境に来ると、予想通り。中ルーケイを支配下に置く、旧ルーケイ伯の遺臣達が姿を現した。武装した騎兵がざっと20。
 ファングは彼らに呼ばわった。
「この地の民は、両者に取っても大事な民。その民の様子と、民を害す西の賊徒の現状を調査に訪れた次第だ、通行の許可を願う」
 騎兵を率いる隊長が、彼の前に進み出て答えた。
「通行を認めよう。我々も西ルーケイへ同行する」
 韋駄天の草履とセブンリーグブーツの助けがあるので、冒険者達の足は飛ぶように速い。騎兵の軍馬の方が、冒険者達とのペースを保つのに苦労している程だ。
「出来れば、中ルーケイの遺臣達について教えて欲しい。誰が指導者で、どの程度の兵力を所有しているか等」
 しかし、シンの求めに隊長は首を振る。
「今は、まだ明かせぬ」
 やがて、彼らは西ルーケイの入口に達した。
「これより先に進む前に、やらねばならぬ事がある」
 騎兵隊の隊長は冒険者達の歩みを止め、街道の道端で狼煙を上げた。
「毒蛇団との取り決めで、我々の訪れを知らせねばならん」
 やがて蹄の音も荒々しく、街道の向こうから馬に乗った盗賊共が現れた。
「お前ら! ここに何しに来た!?」
 盗賊の長が険悪に怒鳴る。盗賊の数は12人。戦えば勝てる人数だと勇人は踏み、盗賊達に呼ばわった。
「ルーケイ伯に恭順する意ある者は名乗り出ろ! 投降するならばルーケイ伯はこれを受け入れる用意がある! 仲間にもそう伝えておけ!」
 だが、盗賊達から返ってきたのは嘲りの笑い。再び盗賊の長が怒鳴る。
「毒蛇団の縄張りでおかしな真似をしてみろ! あの首吊りの木に、でっかい木の実がぶら下がるぞ! 両手の指の数を合わせたよりも数多くな!」
「‥‥何!?」
 盗賊の長が指さすのは、街道の道端に枝を広げた大木。よく見れば木の枝には、朽ちかけた縄が数え切れぬほどぶら下がっている。
 言葉を詰まらせた勇人の耳に、騎兵隊の隊長が囁いた。
「奴ら毒蛇団は、西ルーケイに住まう我等が民を、人質として支配下に置いているのだ。奴らは容赦なく人を殺す。既に我等が民のうち、100人以上の者が殺された」
「‥‥そうか」
 勇人は盗賊どもの前からゆっくり退き、他の冒険者もそれに倣う。背後では盗賊どもの下卑た笑い声が響いていた。

●トルク分国の使者
 ここは学園都市ウィルディアの騎士学院。信者福袋(eb4064)と越野春陽(eb4578)は今、トルク分国の使者と相対している。
 ルーケイへのゴーレム売却に際して、その全権を与えられて遣わされた使者の名はヘイレス・イルク。正騎士の資格を持つ男でもある。
 小会議室の同じテーブルには、騎士学院教官のシュストも同席していた。彼をこの場に引き合わせたのは春陽。その心中にある構想を現実化するには、騎士学院の協力が不可欠だからだ。
 4人の交渉者を見下ろすのは、騎士学院の創設者たる先王レズナー・フオロの肖像画。現国王エーガンに似て威厳ある風貌ながらも、その目には慈愛が感じられた。
「かつて、私はこの騎士学院で学びました。私にとっては懐かしき場所です。今は事情あってトルク分国に身を寄せていますが、王家を慕い、王国の明日を思う心はあの頃と変わりありません」
 そのように明言するヘイレスだが、その顔は笑顔の仮面が張り付いたかのようで、表情の変化に乏しく感情を読みにくい。
 とはいえ、目の前の男はただの売買交渉人ではないと、福袋は踏んでいた。笑顔の仮面の裏では、自分たちがゴーレムを買うに足るだけの人物かどうか確かめているはず。質問を切り出す福袋も、自然と身が引き締まる。
「では先ず、ゴーレムについてお伺いします。購入価格以外にも、修理や維持の経費についてまだ分からないことが多いので、話せる範囲で教えて頂けますか?」
「経費についてはゴーレムの使用状況によって変化します。単に動かした後の整備だけならば、ゴーレム整備に精通した鍛冶師を整備士として雇えば十分。関節や装甲の歪みを直し、石や破片等の付着物を取り除くだけでいい。しかし戦闘などで人型ゴーレムの媒体、或いはフロートチャリオットの浮遊装置やゴーレムグライダーの推進装置が破損した場合、欠損箇所を新しい材料で補いゴーレム魔法を掛けなおす必要があります。これはゴーレムニストにしか出来ない仕事です。
 とはいえ、具体的な経費については即答出来ぬことをお許し下さい。ゴーレムニストも整備士も慢性的な人手不足で、少ない人材を各所で奪い合っているような状況です。ゴーレムを所有する王侯貴族の中には、途方もない大金を積んででも、優秀なゴーレムニストや整備士を雇い入れようとする者もいることでしょう。
 経費はそれだけには留まりません。ゴーレムの装備品、ゴーレムサイズの武器や防具を作る鍛冶屋もまた必要です。ルーケイにゴーレムを配備するとなれば、盗難防止のための保管施設を建設し、衛兵を配することも必要となるでしょう」
 ともかくも、ゴーレムがとんでもない金食い虫であることは分かった。
 その答を受けて、春陽が提案する。
「しかしゴーレムニスト並びに熟練した整備士は、トルク分国のみが有する貴重な存在ですよね。対してルーケイの地は復興が始まって日が浅く、彼らの技量を十分に発揮できる条件が整っていません」
 但し、それは表向きの理由。一番の懸念はゴーレムニストや整備士を通じて、ルーケイの内情がトルクに筒抜けとなることだ。勿論、使者の前で口に出すべき事ではない。
「そこで提案です。関連の設備が整い、安全も保証されている騎士学院にゴーレムニストと整備士を配置し、ルーケイが購入したゴーレムの整備場としての役目を担ってもらうのはどうでしょう?」
「それは真に良案です」
 答えるに際し、ヘイレスの口元がぴくりと動いた。
「ルーケイでは、今後も討伐戦が継続するものと予想され、それに伴いゴーレム機器運用の様々なノウハウが蓄積されていくことでしょう。そのノウハウについても、騎士学院は対価として受け取ることになります。机上では獲得し得ない、実地での運用に基づいた知識は、王国にとって貴重な資産となるでしょう。このルーケイとの関係を先駆けとして、やがては学院をフオロ分国内でのゴーレム整備の拠点とし、学院にてゴーレムニストや整備士を育成することも視野に入れて考えています」
「ますますもって良案です」
 またもヘイレスの口元がぴくりと動き、彼は続けた。
「ルーケイへのゴーレム配備が、王国の未来にとっての良き試金石とならん事を。私は切に望みます」
 王国立の機関である騎士学院は、フオロとトルクの双方に対して中立の立場にある。歴史的に対立を続けてきた両分国の仲を取り持つには打って付けだ。その事はヘイレスも十分に心得ていると見えた。

●ゴーレム到着
 トルクの使者との交渉から、日を置かずして開かれたルーケイ復興会議。その席上で、学園都市ウィルディアの代表者として派遣されたシュストは、ルーケイに配備されたゴーレムの整備を騎士学院が担うことを告知。会議出席者全員の賛意を取り付けた。
 やがてトルク分国からも、ルーケイに配備される各種ゴーレム機器の現物が届いた。
 ルーケイ伯アレクシアス・フェザント(ea1565)の所有となるのは、ウッドゴーレム・デク2体、フロートチャリオット2台、ゴーレムグライダー2機。なおチャリオット2台については、陸奥勇人が購入費を負担した。
 リセット・マーベリックはウッドゴーレム・デク2体を購入。越野春陽はグライダー1機を購入した。
 これらのゴーレム機器は、整備場となる騎士学院に運び込まれた。ルーケイに本格的な受け入れ先が出来るまでの間は、騎士学院が保管場所ともなる。
「これがゴーレムか。あまり木製という感じはしないが‥‥」
 届いたウッドゴーレムをしげしげと見つめ、黒畑緑郎(eb4291)が感想を漏らした。木をゴーレム魔法の媒体として作られたゴーレム故にウッドゴーレムと呼ばれるが、人型の媒体は鉄製の甲冑ですっぽりと覆われている。しかし甲冑の隙間から中を覗き込めば、木製の媒体が確認できる。騎士学院にある訓練用バガンと比べると、大きさは一回り小さい。
「さて、整備でもするか‥‥」
 と思ったが、緑郎にはゴーレム整備の勝手が分からない。下手にいじって壊す訳にもいかないので、手持ちぶさた気味にゴーレム甲冑を磨いていると、春陽が声をかけてきた。
「チャリオットを連結して走行試験をしたいのだけれど、手伝ってくれるかしら?」
 2台のチャリオットを連結し、物資運搬の効率化を図るための試験である。走行時には車体が前屈するため運搬には不向きとされるチャリオットだが、2台を連結させることで先頭車に牽引の役目を担わせ、牽引される側の後続車は地面から浮遊させるのみ。傾く心配のない後続車を荷台の役目に特化すれば、大量の物資運搬にも利用出来るはずだと冒険者達は考えたのだ。
 2台のチャリオットをロープで結ぶと、先頭車には春陽が乗り、後続車には緑郎が乗る。チャリオットの運転には不慣れだが、広い演習場を走る分には不自由はしない。先頭車が動き出すと、後続車もロープに引っ張られて動き出す。走行するうちにスピードも順調に上がっていく。
「これならうまくいきそうね」
 春陽は先頭車を停止させた。その直後、
 どん!
 後ろから衝撃を受け、春陽は前につんのめった。
 後続車に追突されたのだ。
 先頭車に引っ張られて後続車が動いている間はいい。しかし先頭車が減速したり停止したりしても、後続車は慣性で動き続ける。後続車自らが制動をかけない限り、先頭車への追突は免れない。かといって制動には車体を傾ける必要が出てくるので、荷台には適さなくなる。
「‥‥なかなかうまくいかないものね」

●開発依頼準備
 ルーケイの調査から戻ったリセットは、続く依頼に備えて1千ゴールドの金を冒険者ギルドに預けた。依頼の目的は冶金技術の開発。クローバー村の辺りにその関連施設を作ろうと目論んでいる。