ノワールの囁き6〜変わり行く岬
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■シリーズシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:14人
サポート参加人数:6人
冒険期間:04月03日〜04月08日
リプレイ公開日:2006年04月08日
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●オープニング
●我等は想いを護る者
「えっへっへ〜、思いっきり巻き込んじゃったね☆」
闇色の扉をくぐり、ノワールに帰還した一行を待っていたのは、リリムのコケティッシュな笑みだった。白い耳をふわりふわりとさせ、巨漢二人の前に進み出たリリムは、ペロリとその紅い唇を舐めた。
「今回のゲームの事、参加者以外に教えちゃいけないなんて、一言も言っていないから、ルール的に問題無いけど、どうなるか知らないよ〜♪」
クスクスと笑い、テーブルに腰掛け脚を組むリリム。闇太郎はパイプをふかし進み出た。
「デカール・ショア・メンヤード伯爵、キノーク・ニヤー、お二人とも徳の高い人物。その魂の価値たるや皆様に勝るとも劣らないでしょう。闇のゲームを推し進めるのに、全く問題は御座いません」
涼しげに話す闇太郎。
「さて、どうやら皆様、大体のカードが出揃った様で御座いますね。誰もが幸福を望むもの。そして幾星霜、連綿と綴られたあれら数多の『想い』、果たして皆様は護りきる事が出来るでしょうか?」
その言葉にざわりと空気が揺れた。
「どういう事だよ? 阻止出来たんじゃないのかよ?」
一人のパラが、パイプをふかし歩み出る。しかし、闇太郎は首を左右に振っただけ。
「では、皆様。次にこの扉が開かれた時が勝負で御座います」
恭しく一礼する闇太郎。その表情は、相変わらず静かであった。
●悲しき口笛
宵闇が迫る灯台。
潮風がびょうびょうと吹き、波の飛沫が岩肌を塗らす。
兵士達はカンテラを灯し、槍と小さな盾を手に、二人組みで時折その周囲を見回った。
その日も二人の老兵が、ゆっくりとした緩慢な動きで、一回り。
「誰だ!?」
何かに気付いたか、一人が明りを掲げ、もう一人が槍を構えた。
すると、闇の中から一つの人影が。
「私だ」
「これは若旦那様。どうなさいました、こんな時間に」
老兵達は驚き、ぺこぺこと頭を下げた。
それはキャプスタン・ゴロイ・キールソン男爵。肩に羽織ったマントは波飛沫に濡れ、ぐっしょりと黒く、キャプスタンはうろんな表情で軽く前髪を掻き揚げた。
「今日も変わり無いか?」
「はい。特に何も」
「そうか。お前たち、今夜も頼むぞ」
そのまま立ち去ろうとするキャプスタンに、慌てて兵士達は駆け寄った。
「足元が危のう御座いますよ! どうかこれを!」
そう言って押し付ける様に手渡されたカンテラ。それを黙って受け取ったキャプスタンは、ふらりと立ち去る。
「若旦那様がこの時間にとは、珍しい事じゃ‥‥」
「全く‥‥誰か一人くらいお供をお連れになれば宜しいのにのう‥‥」
「よし! わしが館までお供して来よう!」
そう言って走り出そうとする相方の腕を掴んで制止する。
「やめておけ、やめておけ! こういう時の若旦那様は、お一人になりたいのじゃ!」
「お前が言うたのではないか!?」
「さあさあ、ワシ等はワシ等の仕事じゃ仕事!」
そう言って塔の中へ戻ろうとする二人は、一度、立ち去る小さな明りを見やった。
崖の下、岩絵がカンテラの小さな明りにゆらゆらと、まるで生きているかの様に蠢いていた。
キャプスタンは、その中の一つにそっと手を置いた。
「‥‥」
口の端からこぼれる小さな声は、口笛の如く吹き荒ぶ海風に掻き消え、誰の耳にも届きはしない。
ただ、それはキャプスタンの胸の内に。
悲しき口笛。
ただ吹き荒ぶのみ‥‥
●変わり行くゴロイの岬
その日も、恋人達の岬には、何人もの旅人が訪れていた。
長年、子に恵まれぬ夫婦。
婚約を済ませ、互いの幸せを精霊に祈る為に訪れた貴族。
そして、最愛の子を失い、かつての思い出にその面影を探す人々。
そこへ訪れる者の数だけ、様々な想いがこの崖の岩肌へ刻み込まれていた。
二人のお供を連れ、手には羊皮紙のスクロールを一本、ミミナー商会のナガオ・カーンが現れたのは日もまだ明るい内の事。極彩色の黄色いマントを風にたなびかせ、岬の灯台を見下ろす崖の最頂部に立ち、ナガオは右手を挙げるや、その人差し指で天を指した。
「天命に導かれ、僕はここに来た。正にこの岬は素晴らし〜い♪ この巨大な岩がまた一つボクに富と名誉を授けてくれる! あ〜はははははは〜っ☆」
軽やかなステップを踏み、くるくると舞うナガオ。恋人達の岬は、そんなナガオ達をその背に乗せ、ただ沈黙するのみであった。
●ゴロイ村の風景
海が時化た翌朝は、海岸や入り江に多くの海草が打ち上げられる。
それを集めて、洗い、種類事にまとめるのは、漁師の妻や子供達の重要な仕事の一つである。
わいわいと海風に消されない様、大きな声ではしゃぐ村人達を見守り、オーロ爺はその手に弓を持ちふらちな連中が掠め取りに来ないかと、桟橋の見張り小屋で領地の安全を見守っている。
「全く、おかしな連中が次々と変な事件を起こしてくれるわい! この村には指一本触れさせるものか! 天界人が何もしてくれぬならば、このワシの手で!」
するとコンコンと戸口を叩かれ、ハッと我に還る。
ガタリと椅子から立ち上がると、頭を下げた。
すっと人差し指一本。オーロ爺の目の前に突き出され、左右に振れる。
「これはこれは、ミミナー商会のナガオ様!」
「ご苦労様だね。人さらいが出たんだって? 大変だねぇ〜」
にこやかに話し掛けるナガオに、オーロ爺は顔を真っ赤にして吼えた。
「大変では御座いませぬ! 大事件ですじゃ! おかしな連中がふらりとやって来て、あっという間に! 幸い、村人に被害が出なかったから良いものですじゃが、天界人の楽士殿が襲われ、流民の娘がさらわれる始末!」
「うん、聞いているよ。災難だったね。でも、みんな所詮は流れ者じゃないか」
「ま、まぁそうなんじゃが‥‥」
口ごもるオーロ爺に、ナガオは軽やかに歩み寄り、麻袋をゴトリと置いた。
「これは?」
「ああ、今度、そこの岬で仕事をさせてもらう事になったから、そのご祝儀にね。飲んで下さい」
「はぁ〜酒ですな」
それを手に思わず頬をほころばせるオーロ爺。
「それにね、色々ご意見なんかも戴けると嬉しいんですよ。あの岬に積み出し用の桟橋を作りたいんですけど、皆さんのあの海に対する長年の経験を生かしたいんです。それに、人足をかなりの人数やとう事になるだろうから、それらを寝泊りさせる施設も考えなくっちゃいけない」
「本当に、あの岩を切り崩してしまうんですか? 村人が聞いたら悲しむと想うんじゃが‥‥」
悲しそうな顔をするオーロ爺に、ナガオはポンポンと優しく肩を叩いた。
「まぁ、長年慣れ親しんだ風景が変わってしまう、その悲しみは判ります。ぼくも故郷を捨て早数年、目を瞑ればボクの胸の中に、あの懐かしい状景が蘇ります。そうやって、胸の中に思い出としてしまいこみ、明日に向かっていかねばならんのだと、若輩者ながらこのボクは想うんですよ」
「うああああっ、ナガオさん! あんたって人は、まだそんなにお若いのに!」
感極まったオーロ爺は、ぽろぽろと大粒の涙を流し咽び泣く。その肩をぽんぽんと叩きながら、ナガオはにこやかに微笑むのであった。ニヤリと。
●リプレイ本文
●ミミナー商会
陽光暖かな小春日和。潮風も暖かく、しっとりとした湿気を帯びていた。
幾つもの商館が立ち並ぶショアの港町に、ミミナー商会の商館がある。間口の大きな表玄関。時代のある建物に反し、中の人間は比較的若い。ズザッと石畳を擦り、小柄な影が店先に滑り込む。
「ただいま〜っ!」
「お帰りなさいませ!」
「お帰りなさいませ!」
わっと店先にいた者達が立ち上がる。奥からも何人かが出迎えに現れる。
「お帰りなさいませ、旦那様☆」
「よお、どうだい。もう店の仕事も慣れたかい?」
にっこりと微笑むナガオに笑顔が返る。
「はい、旦那様☆」
「見てご覧」
「何でしょうか?」
「はは、まだお前には読めないか」
ナガオが広げて見せたスクロール。店先の者が目を細めて頷いた。
「ほほお、旦那様。それは例の契約書ですね」
「ああ、これで人の手配を始めないとね。漸く男爵様がサインしてくれたよ」
「おめでとう御座います!」
「おめでとう御座います!」
「おめでとう御座います☆」
一斉に祝福を受けるナガオ。その背後に無言のスーとカーの巨漢が立つ。
「みんなありがとう」
そう言うと、ナガオは指を一本ぴんと立てた。
「時は金なりです! さぁ、皆さん! 仕事と参りましょう!」
●ゴロイ 第一日目
闇色の扉を抜けると、そこは茜射すゴロイの村。夕食の気配が、各家から立ち昇っている。見慣れた風景に、冒険者の一行は歩み出す。
「ちくしょう、ナガオ・カーンめ手を変え品を変えあきらめずにまだ来るか。なんとか元から断たないと同じことの繰り返みたいだな。負けてたまるか!!」
大理石のパイプをぷかぷかふかし、その先頭をぴょんぴょんと歩くジム・ヒギンズ(ea9449)。くるりと振り返り、意気を上げた。鼻からぷわぷわと、幾つも輪っかが立ち昇る。
「うー、あそこはパワースポットって言うこと以上に、皆の‥‥いろんな人の想いがつまってるところだから絶対に壊させちゃダメだよ! たった一人の利益のために多くの人の想いが壊されるのは許せないよっ」
チカ・ニシムラ(ea1128)も眉を吊り上げて、ぷんぷんに怒っている。それに応える様に、リール・アルシャス(eb4402)も拳を握り締める。険しい表情で、歯を食いしばる様にして言葉を搾り出した。
「人身売買とは絶対に許せない。必ず悪事を‥‥トリア殿、ショア城に行くのでしたら、ディアーナ嬢やメグに宜しく伝えておいて欲しい」
「ええ、判りました。必ずお伝えしますよ」
「すまない」
トリア・サテッレウス(ea1716)はいつもの様に飄々とした風情で微笑む。
(「岬に宿りし人の想いを護る‥‥んふふ、そそられるじゃありませんか♪」)
すると地面に落ちた灰を眺めていた女が呟く。
「どうやら、マリンさんはショアの方に居るみたいですね。これでは詳しく判りませんが」
これに頷き、トリアが音頭をとる。
「さあ、それでは皆さん、誰が何をどうするかもうお分かりですね。参りましょう!」
一同は小さく頷き合うと、それぞれの道行に歩を進めた。
その足でキールソン家を訪ねた、マイケル・クリーブランド(eb4141)と黄安成(ea2253)、サラ・ミスト(ea2504)の3名は、空が夕闇に染まる頃には男爵の執務室に通されていた。
「で、今夜は何の用だね?」
キャプスタン男爵は素っ気無い態度。すいと一歩前に出たサラは、無愛想にキャプスタンの顔を見据えた。
「私は先ずシュラウド老に挨拶をしておきたい」
「むむむ‥‥何故お前がそれを‥‥」
マントのブローチを見せると、キャプスタンは少し驚いた様子で、サラは奥へと通される。廊下に控えていた若い騎士が、案内する様に先を歩こうとした。
サラはそこで男爵へと振り返り、一言。
「外面を取り繕っても無駄だぞ。貴殿とて爵位を持つものであると同時に一人の人なのだからな」
「何の事かな? ミス・サラ」
一瞬、目線が交錯する。そして残された二人は、気まずい雰囲気のまま男爵と対峙する。
「で、今夜は何の用だね?」
「私から話をさせて貰おうかのう。単刀直入に言えば、恋人達の岬を壊さないで欲しいのじゃ」
ああ、と納得した様子で男爵は小さく頷いた。
「その件は、ミミナー商会に石の切り出しを許可してしてある。流石天界人。耳が速いな」
黄は左の手で拝み、少し頭を下げた。
「皆が生きるのに岬に石切り場を作るのはいいことなのかもしれないが、人の都合でそこにかけられた人々の想いを壊してしまうことが、そして、自然を破壊してしまうことが精霊の祝福を受けて生活している者たちにとってそれで本当にいいことなのか?」
「何かと物入りでな。あそこの開発が進めば、人も増え税収も増える。この数ヶ月、ごたごたがだいぶあったが充分検討した。異邦人である君達天界人の冒険者にとやかく言われる事では無い。天界人黄、話はそれだけかね?」
男爵は冷徹な目で黄を見返した。それ以上、語る事のない黄を押しのけ、マイケルは前に進み出た。
「仲間から話を聞いたぜ。マリンがさらわれたんだってな」
「巷を騒がせた人さらいの話か? 天界人マイケル、君が解決してくれるというのかね? 好きにするが良いさ。奴等はアレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)と夜光蝶黒妖(ea0163)の二人、つまり君たちの仲間を探していたらしいな。流民達の間でも色々と噂になっていた。これは君たちが持ち込んだ問題だな。だが、この二週間ほどその怪しい者を目撃したという報告は無い」
「マリンがさらわれた。さらったのは俺達を探していた商会の連中だ。俺達との関係を突き止められてさらわれたらしい」
「商会? それはどこの商会か? 天界人マイケル、君は何を知っている?」
「ぐっ‥‥」
看板を背負って悪事を働く馬鹿はいない。マイケルはどの商会の誰がどんな悪事を働いているのか、論理的に説明する事が出来なかった。
「私の領民の話では無い事は確認した。マリンという名前は、海辺では実にポピュラーな名前だ。何人か同じ名前の者が居たが、皆無事を確認したよ。まぁ、流民の娘ならば、仲間内の争いかも知れない。そうなると、私の感知する事では無いが、領民に危難が降りかかる事を黙って見ている訳にはいかない。そういう訳で見回りは強化しているが、それが功を奏したかそれを最後に、騒ぎは起きていない。そういう事だ」
歯軋りするマイケル。くっと睨むその眼前に、三人の騎士が並び立つ。
「どけっ!」
「アリダット、ハトック、タイ、お客様を丁重にな。天界人マイケル、人さらいのまともな情報が手に入ったなら、知らせて欲しい。伯爵様の名の元に、このキャプスタン・ゴロイ・キールソン男爵が正義の鉄槌を下す事を約束しよう。天界人黄、あの大岩はキールソン家の財産だ。それをどう処分しようと、それは当家の問題だ」
「相手は商人。売り物は可能な限り安くし入れるのが基本だろう。下手をすれば、ここに入る金額よりも莫大な金額をも〜けるやもしれぬのだぞ?」
そこへ唐突にサラが戻って来た。
「幸い、知識の富んだ者が多いゆえ我々で現地を調査させていただこうと思うがよろしいか?」
「現地調査なら、ミミナー商会が既にやっている。石質は悪く無いらしい。天界人の知識で調べたいと言うのなら止めはせぬが、商会の作業を妨げる事は許さぬぞ」
「では、明日からでも」
内心舌打ちをし、サラは平然と退室した。
●恋人達の岬
「さてっと、またまた面倒なことになってるねぇ〜」
即座に岬へと向かったイオン・アギト(ea7393)。夕焼けの中、ふんわり魔法の箒から見下ろし、眼下に広がる巨大な岩の崖をぐるぐるっと回った。
「‥‥うわ〜‥‥なんて威圧感‥‥」
崖全体がものすごく大きく感じられた。それは、この地域一帯に満ちる、巨大な地の精霊力の奔流がそう感じさせるのかも知れない。
早速スクロールの一本を抜き取り、エックスレイビジョンを試みる。岩の中は視界の届く限りの漆黒の闇。これで特に気になる事は無かった。
薄暗くなる頃に、ようやく徒歩の伊藤登志樹(eb4077)が姿を現した。
「お〜い!」
「遅い遅〜い!」
上空をくるるんと飛び交うイオンに手を振った登志樹は、足早に近付いて行った。岬の灯台がすでに灯火を点けている。
「何か判ったか!?」
ひゅるるるすとんと岩場に降り立ったイオンは、登志樹の問い掛けに箒で顔を隠す様に、少し困った顔でぺろりと舌を出した。
「う〜ん、地の精霊力が強いのは判るんだけど、透視しても特に何も見えないんだよね〜」
「そうか。俺のインフラビジョンじゃ、表面の熱変化しか判らないが、とにかくやってみる!」
くっと眉を歪ませ片手で印を結ぶ登志樹。詠唱を終え、カッと目を見開くと、眼前の世界は一変して見えた。
大気は青く冷え、海はほんのり緑色に浮かび上がる。大地はその中間の色。そして、崖へと目線を移すと、登志樹は息を呑んだ。
「あ、暖かい! この崖は少し暖かいみたいだぞ!」
「へぇ〜そうなんだ〜‥‥」
それがどうだと言うのだろう。
「う〜ん、これだけじゃなぁ〜‥‥」
取り合えず、二人は他のメンバーを待った。
●ショア 2日目
翌朝、明るくなったショアの港を歩くと、船着場から『ビッグマネー』号の姿が無い事に先ず気付く。あのヘリを黄色く塗った大型の帆船は結構目立つ。港で話を聞いて回ると、10日以上前に出港した事がすぐに判った。それは登志樹達、船荷人足が荷の積み込み作業をした数日後の事。ミミナー商会が買い込んだ荷を、積めるだけ積んだビッグマネー号はハン国の港を目指し、一路北へ向かったという。
苦笑いするトリアと、平然とする黒妖。
「まぁ、僕達は伯爵様にお願いしに来た訳だから、良いとして、マリンさんはショアに居るらしいから、探索班の行動も何とかなるのかな?」
「‥‥心配‥‥ない‥‥心配なのは‥‥アレクセイ‥‥」
「うん、彼女があそこまで思い込んでいたとはね。でもきっと大丈夫ですよ」
昨晩、書置きを残して姿をくらましたアレクセイを心配する国妖を、トリアはそう言って慰めると、二人して城へと向かった。
外の城門で用件を告げた二人は、取り合えず中へ、内門の前に通された。そこには数名の騎士を従えた熊の様に髭だるまの大男に出会う。その大男はぎょろりと目をむいて二人の顔を眺めた。
「何だ〜、お前達は〜?」
城付きの兵が、そっと耳打ちをすると、変な顔をして二人を見た。近くに寄られると、体臭もきついが、吐く息も生臭い。
「天界人の楽士とその弟子だぁ〜? 噂の天界人マイケルの仲間か。成る程なぁ〜」
感心する様に二度三度頷く。
「俺はグリガン男爵だ。天界人トリアと天界人黒妖。伯爵様に会いに来たのだな。宜しい、俺が案内してやろう」
「宜しくお願いします。グリガン様」
「‥‥お願い‥‥します‥‥」
トリアと黒妖が頭を下げると、それに満足した様子で、グリガンは意気揚揚と内門を開けさせ、二人を城内へと導いた。
「で、今日はどんな用件で来られた?」
「それは伯爵様に直接‥‥」
「そうか‥‥」
少し不満そうな声色で、グリガンは本丸への階段をのっしのっしと歩く。二人の背後には、更に騎士が二人。
「この間の話は、どうなったのかな?」
「話ですか?」
「左様。ミミナー商会の用意したという網の話だ」
「ああ、使わない事になりましたよ。塗った薬剤があまり宜しくないものだったので、伯爵様が使ってはならないと」
「そうか‥‥」
にこやかに返答するトリアを一瞥。途端に力なく、がっくりと肩を落とすグリガン。ため息一つ。
「そうか〜‥‥」
暫くぶつぶつ呟き、彼から話し掛けて来る事は無かった。
広間に通されると、グリガン男爵は部屋から出る様に言われ、三人だけとなった。するとデカール・ショア・メンヤード伯爵は苦笑を浮かべた。
「しかし、また闇のゲームとは大変だな」
「いやぁ〜、ゆ〜ちょな事は余り言ってられなくなりましてね。伯爵様にも是非、ご協力して戴きたいのですよ」
トリアが話を切り出すと、伯爵の表情もにわかに曇り出した。
「成る程、あれがただの岩の崖では無い事を証明してみせるというのだな。だが、私は魔法使いでは無いからな、それが本当に正しいのか判りかねる。そこでだ‥‥」
「はい‥‥?」
伯爵が手招きし、トリアの耳元に何事かを囁くと、トリアは目を丸くして驚き、それから大きく頷いた。ニヤリと。
それから数分後、トリアは城の中庭で黒妖が戻るのを一人待っていた。すると、城の侍女が二階のベランダから声をかけて来た。
「トリア様〜」
「やあ」
「何か一曲弾いて下さいませ〜」
すると、二人三人と城の侍女達が更に顔を出す。
「いいですよ〜」
「きゃぁ〜!」
黄色い歓声が沸き、トリアはリュートベイルを持ち直し、音を少し調節した。ふわりと黄色い小さな花が、侍女達から投げ込まれる。それを耳に挿し、ふっと微笑み返すと、また一段と黄色い歓声が沸き起こる。
「ふ、良い反応です」
そして、城の侍女達の注目が集まる中、ぼろろ〜ん奏で始めたその時、スッと黒妖が襟を正しながら中庭へと現れた。
「‥‥戻るぞ‥‥」
「お、おい。これから一曲くらい。おいっ」
ぐいっと腕を掴まれ、トリアはずるずると引きずられて行く。背後に黄色い悲鳴にも似た声。その時、フッと微笑んだ様な気配を耳に、トリアは黒妖の顔をまじまじと見た。だが、そこにはいつもと同じ無表情な横顔があった。
●鬼島紀子を探せ!
その日の朝、ゴロイの海辺に出ると、老人や漁師の妻、その子供達が集まって何やら作業をしていた。難波幸助(eb4565)、アリル・カーチルト(eb4245)、チカの三名はその集まりを遠目で眺めた。
「鬼島お姉ちゃんはどこかにゃー?」
「トリアが会ったのが、夜中だって話だからな。天界人の日本人。甲府出身。幸助と同じ黒い目に黒い髪だ。体つきは黒妖なみ」
ニヤリと笑むアリル。
「にゃーっ!? それって凄いよね!」
にゃんこの目になるチカ。
苦笑しながら幸助は歩いた。
「それは、一目で判りますね。あの人じゃないですか?」
幸助が指差す先には、村人に比べて少し大きな女性が一人。遠目にも、出るとこは出て、しまるとこはしまっている近代的な女性のスタイル。
「‥‥あ、あのお姉ちゃんがそうかにゃ? とりあえず抱きついて確かめる♪」
ぴゅ〜っと駆け出すチカに、二人は制止する事も無く、ゆっくり歩く。砂浜を、なるたけ音を出さずに駆け寄るチカ。目測の位置で踏み切り、思いっきり跳び付いた。
「うみゅぅーっ、あれ?」
その両腕は柔らかなふかふかのボディをぎゅっと抱きしめている筈だった。だが、チカの体は跳び付いた瞬間、ぐるんと宙を舞って、目よりも高く掲げられていた。
「おや〜? 見ない顔だね?」
チカの両脇を、二つの掌がしっかり抱え上げている。幸助と同じ、日本人特有の黒い瞳が、にっかりと覗き込んで来た。
「おおっ!? 凄いねぇ! まるで魔法少女みたいじゃない!?」
「うみゅ〜、だってチカは魔法使いだもん」
ぷうっと頬を膨らませると、すとんと砂の上に降ろされた。
「ごめんごめん。魔法使いのお嬢ちゃん。今日はどうしたんだい? 判った。悪の魔物がこの平和な村を狙っているんだね?」
陽気にウィンク。チカはここぞとばかりに声を上げた。
「そうなの! だから鬼島のお姉ちゃんにも助けて欲しいの!」
「あれ? 私、名乗ったっけ? 仕方ないなぁ〜。こうみえても、対妖魔迎撃組織第3東京支部所属、MT3のれっきとした元戦士だったからね。頼まれれば嫌とは言えないな」
「MT3?」
にっかりと頷く紀子。
「そ、訳有りで、元だけどね☆ 私は地術師の退魔アースをやってたわ」
その場で、腰の位置が動かない見事なとんぼを切って
「アース・ウィンド&ファイヤー! 我ら! 退魔戦隊 M・T・3!」
見栄ポーズ。
「へー」
チカは本気にしているが、どうやら、本職はスーツアクターさんだったようだ。
「ここに来て、本当に魔法が使えるようになったの」
盛り上がる話。
その傍らで幸助は一説ぶっていた。
「皆さん、恋人達の岬は、あなた方にとって欠かせない生活の一部なのではありませんか? 数々の思い出があるのではありませんか? このまま、石材として切り出すのをじっと待っていて良いのですか?」
「そっだら事言ってもなぁ〜」
「男爵様がお決めになった事だべ」
「わしらが口を挟む事じゃねぇのさ〜」
「そりゃ、あれが消えて無くなっちまうのは悲しいけんどよぉ〜」
「うちらが言っちゃぁ〜なんねぇこった!」
幸助は、村人が口にする言葉の裏に、悲しみや不安を感じ取るが、同時に分を超えてまで意見しようとするなど、恐れ多い事だと言う頑なな人々の心根を見ていた。
「男爵様の、この地の為の決断ですが、男爵様は心優しい方なので、岬が生活の一部で有り、漁をする際や、日頃の糧を得る際に欠かせない場所だと説明すれば、漁師の皆さんの生活の為に考えを変えてくれる筈だ」
「それが、わしらにゃよ〜わからんのよ!」
「まぁ、時々あそこへ行くけどよぉ〜、欠かせないって程のもんじゃねぇよなぁ〜」
「おめぇさんの言う事は、難し過ぎて、わしらにゃよ〜わからんのよ‥‥」
寂しそうにする老人。悲しそうにする老婆。それはただ、日々の糧を得て暮らしていく、ただそれだけの純朴な人々の心に、理解し難い苦しみを与えていた。
そんな光景を、遠目で眺める者が居た。
「リールさん?」
「アレクセイ殿‥‥」
アレクセイは、まるで後ろに目があるかの如く、後ろから歩み寄るリールに反応した。
巡回中のリールは、唇をきゅっと結んだ。
「黒妖殿が心配していたぞ」
「私なら大丈夫。そう簡単に、死にはしない」
それだけ言うと、ぷいと走り出すアレクセイ。
「この近辺には、どうやら連中は居ない様だ!」
「待て! どこへ行く!?」
「私は少し足を伸ばす!」
アレクセイは風の様に駆け抜けて行ってしまった。
●恋人達の岬 5日目
その日、恋人達の岬には、普段より大勢が集まっていた。イオンは、難しい顔をして押し黙り、傍らには巨人の戦士ファング・ダイモス(ea7482)も口をへの字にして立っていた。
ぐっと拳を握り締めるファング。その手にイオンがそっと手を置いた。
「こんな事って‥‥」
「ごめんね、付き合せちゃって‥‥」
「良いんです。良いんですが、こんな事って‥‥情けないです。怪物ハンターと異名をとるこの私が、たった一人の乙女の心さえ魔の手から救い出す事が出来ないなんて‥‥」
如何なる魔物にも恐れる事も無く立ち向かう歴戦の勇士が、歯噛みするその目線の行く先には、一人の17・8程の美しい少女が居た。
マリンである。
闇のゲームに参加した者達の記憶に寸分違う事無く、その穢れを知らぬ少女は存在していた。陰りの無い朗らかな笑顔。だが、それは傍らに立つ、ナガオ・カーンに対して注がれていた。
「知っているかい、マリン? この岬の岩盤は、かなり深くまで存在する上に、ここの精霊力が強く宿っているから、建材としてはこの上ない良質の石材になるんだよ」
「まぁ、そうだったんですか。凄いですね、旦那様☆」
「ああ、全く我ながら、この地の精霊にいくら感謝してもし足りないよ! は〜っはっはっはっはっは!」
ナガオの高笑いが風に乗って遠くまで響く。その傍らで屈託の無い笑みを浮かべるマリン。その姿は城か商館の侍女や小間使いと言った風情である。すぐ後ろにスーとカーの巨漢が侍る。
そして、マリンは冒険者達に気付くと、ナガオに許しを得て、小走りに近付いて来た。ぺこりと頭を下げると、マリンは少し照れ笑いを浮かべた。
「イオンさんから話を伺ったのですが、とても心配をかけてしまったみたいで、申し訳ありませんでした! 私、悪漢にさらわれ、どこかに売られそうになった所を、ナガオ様に助けて戴いて。今はミミナー商会で、早くこのご恩を旦那様にお返ししなければと、先ずは見習として働かせて戴いているです。お時間がありましたら、ショアの港にあるミミナー商会を訪ねてみて下さいね。見習いなので、自由になる時間はほとんど無いのですが。あ、でも、今旦那様から字と計算を教わっているんですよ。まだ自分の名前しか書けませんが、もっと色々な事を覚えて、もっともっと役に立つ存在になりたいんです」
最後に、希望に満ちた満面の笑み。マリンはそう言って、再びナガオの元へと戻って行った。
愕然とする冒険者達。彼等の見ている前で、ナガオはキールソン家の面々の元へ歩み寄り、親しげに言葉を交わしている。キャプスタンはマリンを見て、驚いた様子だったが、ナガオの話術に瞬く間に丸め込まれて行く様子。何も知らない者が見れば、とても微笑ましい光景。
「よお、まだ始めないのかい?」
にこにこと紀子が近付いてくる。その両腕に二人の赤ん坊を抱え。赤ん坊達はこの状況を知る由も無く、夢中になって乳を吸っている。
「お〜よしよし。二人とも元気元気〜☆」
「お〜、こりゃ健康優良児だな!」
その場の雰囲気を吹き飛ばそうと、アリルもわざとらしく明るく振舞い、その授乳する様を眺める。
「このスケベ〜」
「ばれたか〜」
笑いながら、ぶんと蹴りが飛んでくるのを、慌てて避けた。何故か紀子は鉄板入りのライダーブーツを履いているのだ。これは痛そうだ。
「おっと、悪ぃ悪ぃ。いつもの癖でね」
謝る紀子は、巧みにあやしながら知り合いの漁師の奥さんへと、この子達を預けた。
すると、小型の帆船が内海側に現れ、そこから一台のボートが降ろされた。漸くトリアと黒妖がショアから到着したのだ。そして、船員らしき男達以外にもう二人、その小船には乗っている。
「ど、どうして?」
驚いたリールが駆け寄ると、岩場に接岸したボートから、トリア、そして黒妖が上陸するや、二人が手を差し伸べた相手は、ショア伯の令嬢、ディアーナであった。
動きやすそうな格好に、後ろから侍女のメグが日傘を差す。悪戯をしている時の表情で微笑むディアーナ。
「リール‥‥」
「びっくりしました」
目を丸くして驚くリール。
「確かにお伝えしましたよ」
傍らをトリアがクスリと笑ってウィンク、さっさと歩み去る。
「‥‥じゃぁ‥‥」
黒妖もこれに続いた。
「面白いイベントがあると聞き、父の名代で参りました」
「まぁ、それは大変」
突然の大真面目な台詞回しに、二人はここに居る理由を忘れてぷ〜っと吹き出して笑う。
「本当に大変なので御座いますよ、リール様」
その後ろで、かなり困った顔をするメグに、二人は口元を押えて微笑んだ。
これで漸く観客が揃ったと、この実験が始められる。全員の見守る前で、チカと紀子が対峙する。チカはひらりと、如何にも魔法少女と言った愛らしい風貌で一回り。思いっきり名乗りを上げた。
「ジ・アースはイギリス出身のウィザード、チカ・ニシムラだよ!」
高速詠唱で、防御術を唱える紀子。その体表が光沢を帯びる。
「地球は日本の地術師! タイ捨流剣術! 鬼島紀子!」
腹の底から響く様な、堂々とした名乗り。にこやかな表情が消え、きりりと引き締まった風貌となる。
「これからあたしが風の魔法を紀子お姉ちゃんに打ちます!」
「それを地の魔法で、私が消してみせましょう!」
どよどよと人々が息をのむ中、チカが高速詠唱。たちまち見えない風の刃が飛び出し、それを迎え撃つ重力波に、その場の光景が一瞬歪んで見えた。
次にチカは電光を放った。青白い光が一直線に紀子へ突き進んだその瞬間、全く同一の重力波が空間を歪ませ、それを打ち払った。
それから数度、繰り返して見せた。
一通り終わった後、人々の見守る中、ディアーナ嬢が声を高らかに宣言する。
「皆様、今ご覧になった通り、地の精霊力は風の精霊力の上位にあり、同じ力で打ち合わさった場合、風の精霊魔法は負けてしまい、霧散します。ですが、これは当然の事。ウィザードでは常識なのです」
そこでディアーナは言葉を区切り、その美しい瞳でじっと一同を見渡した。
「それでは、今やって見せた事は何の意味も無い事かと申しますと、そうなのです。チカさんの風の魔法がかき消されてしまうのは当然の事なのです」
冒険者の中に動揺が走った。トリアと黒妖以外は。リールはその表情を歪ませた。
「ディアーナ様、どうして?」
ナガオは、余裕の笑みでこれを眺めている。
「ですが、この恋人達の岬が、風の精霊力が強いこのウィルの地において、珍しく地の精霊力が強い地である事は間違いありません!」
ディアーナは、その場の反応に軽く頷き、言葉を続けた。
「今ここに、天界より降臨された勇者の方々が、この地を石切り場にする事に、大いなる不安を抱き、今回の様な一幕を用意されたのです!」
サッと腕を払い、その場に居合わせる冒険者達を指し示すディアーナ。一同は、それに応える様に、集った者達へ一礼した。
「地の精霊力は、その力の大きさほど大きな岩に宿るものです。これだけの断崖です。ここが消え去る事により、失われる事により、この地のこれまで保たれて来た精霊力のバランスが大きく崩れ、大変な事態を招く可能性は充分にあると私は考えます!」
ワッと冒険者達は歓声を上げた。
「ちょ、ちょっと待って下さい! それはどういう事ですか!?」
この歓声を打ち消したのは、マリンだった。顔を真っ赤にして怒るマリンは、ディアーナに激しく反論した。
「旦那様は、本当に何ヶ月も一生懸命にショアとゴロイの間を往復されて、やっと男爵様を説得して今回の契約を交わしたんです! それをたったこれだけの事でひっくり返すって、あんまりです! 石は少しずつ切り出すんですから、精霊力のバランスもいきなり極端に狂うなんて事は無いと思います!」
「何、貴方? 私が説明をしている最中に、失礼ではありませんか? 先ず、名前をお名乗りなさい!」
ビシッと指差すディアーナに、マリンも負けてはいない。
「私はマリン! ついこの前まで、この辺りをただうろうろしていただけのつまらない女です!」
フンと顔を背けるマリン。その肩に、ポンとナガオが手を置いた。
「マリン、お話というものは最後まで聞かなければいけないよ」
ナガオは優しく諭す様に語りかけ、それからディアーナへ。
「うちの店の者が無作法な事をしてしまい、申し訳も御座いません。この地に縁がある者故、連れて来てしまった私の不明で御座います。どうか、この通りで御座います。お許し下さい」
深々と頭を下げつつ、マリンの頭を下げさせる。ディアーナも、これにちらと傍らのメグを見やり、しゅんとする様にため息を一つ。
「判りました。未熟なる者のする事と、今回は見逃して差し上げましょう。思えば、主人を想っての事。その行いは悪くても、その気持ちは尊いものです」
「ありがとうございます、ディアーナ様。さぁ、お前もお礼を申し上げなさい」
「‥‥ご‥‥ごめんなさい‥‥」
くっと唇をかみ締め、目には涙を浮かべて謝るマリン。見る者は、どうしてそこまで、と胸を痛めた。
「では、結論を急ぎましょう」
ディアーナは気を取り直し、話を戻した。
「この件の正解は、天と地の精霊だけがご存知だと私は想います! 故に! ディアーナ・ショア・メンヤードが父、デカール・ショア・メンヤードの名代として宣言します! この決着は、今月行われる『レガッタ』で公明正大に勝負し、その勝者の決定に従う事! 真に正しき者には、この地の精霊も協力し、『レガッタ』に必ずや勝利するでしょう! それまで、キャプスタン男爵、お前の交わした契約を差し止め、その勝者の決定に委ねるとします! 宜しいですね!?」
キャプスタン男爵も、この言葉には雷で打たれた様に身体を震わせ、激しく一礼した。
「は、ははぁっ!!」
「成る程、これで奴等の抵抗もおしまいという事ですね。判りました。その方が清々します」
「旦那様?」
ナガオは、ぐっとマリンを抱き寄せ、不適な笑みを浮かべた。
「何しろ、僕にはお前と言う海のお守りが付いているのですからね。決して負ける事はありませんよ」
「は、はい! で、『レガッタ』って何の事です?」
不思議そうにするマリンに、ナガオは指を一本、ピンと立て、朗らかに笑った。
「ボートレースだよ」