寵姫マリーネの宝物5〜王都編1
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■シリーズシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:15人
サポート参加人数:10人
冒険期間:05月04日〜05月09日
リプレイ公開日:2006年05月12日
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●オープニング
セレ分国を表敬訪問した折り、マリーネ姫はセレの森でドラゴンに会った。姫とドラゴンの対面をお膳立てしたのは、竜との和平を進めるロイ子爵と冒険者の一行である。誘いを受けて姫が森の奥深くへ足を踏み入れると、森の主であるミドル級ドラゴン、クエイクドラゴンが待っていた。
「人の王族の娘よ、待っておったぞ」
その厳つい姿が怖くなかったといえば嘘になる。しかし姫は勇気を奮い起こし、ドラゴンの前に進み出て恭しく一礼した。
「私はフオロ王家の娘、マリーネ・アネット。力強き竜よ、その御姿にまみえました事、光栄に存じます」
クエイクドラゴンは答える。
「おまえはいと小さき者ながら、その言葉はとても美しく響きおる」
そしてさも心地よさげに唸った。それはドラゴンの笑い声のようにも聞こえた。
「お褒めいただき‥‥ありがとうございます。力強き竜よ、こんなにも近くで相見えることが叶い‥‥ああ、お許しを。竜と語るに私の言葉のあまりにも拙きこと、恥じ入るばかりです。でも、今日は私にとって大いなる喜びの日。竜よ、その力強きお姿を決して忘れることはありません」
内心ではかなり上がっていた。竜と差しで会話する機会など滅多に無いのだから無理もない。それでも思いつくままに一生懸命言葉を紡いでいたが、その一生懸命な姿がドラゴンにも好ましく思えたのだろう。ドラゴンは何度も何度も心地よさそうに唸った。
ふと姫は、ドラゴンの側にいる女性に気付く。シーハリオンで一夜を過ごした時に出合った、美しき黒髪の女性。ドラゴンに対してもそうしたように、姫は彼女に対しても恭しく一礼した。彼女が普通の人間とは思えず畏怖を覚えながらも。
「貴方と出会うのは、これで二度目ですね」
言葉をかけられたので、姫は訊ねる。
「貴方はどうしてここにいるのですか?」
「私は黒き竜の使いとして、ここに来ています。私はあなた達の願いを聞き届けました。人の王族の姫よ。竜との和平の願い、私の一族の長老達に伝えましょう」
ロイ子爵の冒険仲間であるエルフの鎧騎士が、月桂樹の苗木を持ってドラゴンの前に進み出た。
「偉大なる森に対し、僭越ながら新たな苗木を御贈りしたい。この木が友好の証として大きくなる事を願ってやみません」
ドラゴンは苗木に鼻を近づけ、その香りを嗅いで答えた。
「うむ。良き香りじゃ。気に入ったぞ。わしもこの辺りに木が欲しいと思うていたところじゃった」
ドラゴンと対面したその場所は、落雷によって森の木が焼かれて出来た焼け原。焼け残った木々がまだごろごろ転がっていたが、ドラゴンはそれらを巨大な前足であっさり払いのけ、地面をほじくり返して土を柔らかくした後、その場所を平らに均して言った。
「さあ、その幼き木をこの地に植えるがよい」
月桂樹の木が植えられると、黒竜の使いを名乗る女性は皆に求めた。
「竜との和平を願う貴方達の道は始まったばかり。歩むに決して容易い道ではありません。貴方はこの道を最後まで歩み続けることを誓えますか?」
「誓いが必要なら、俺が誓おう」
竜との和平を王に願い出た男、ルーケイ伯与力の男爵が黒竜の使いの前に進み出た。黒竜の使いはさらに求める。
「誓いを為す者をあと二人」
「では、私も誓いを為そう」
二番目に進み出たのはロイ子爵。最後の一人を求めて、黒竜の使いがその視線を皆の一人一人に投げかけた時、マリーネ姫は思わず言葉を発していた。
「私も誓います!」
これで三人が揃い、黒竜の使いは微笑む。
「では、大いなる森の主の顎にかけて誓いなさい」
クエイクドラゴンの厳つい頭が、ぬうっと近づいてきた。
「さあ、わしの顎に手を当てて誓うがよい」
与力の男爵、ロイ子爵に続き、マリーネ姫もドラゴンの顎に手を当てた。触れたその感触は岩肌のようで、僅かに暖かみがあった。
あれからあっという間に1ヶ月近くの日が流れた。セレ分国から戻って後、王宮では慌ただしく時は過ぎる。しかし耳に届くのは悪い話ばかり。
「姫、一大事です! 山賊助命を嘆願した天界人達が、暴徒に襲われて死にかけました!」
「姫、一大事です! 捕らえられた山賊ども400人が処刑の間際に逃亡し、行方が知れません!」
「姫、一大事です! 北部の領主達に反乱の兆しが!」
「姫、一大事です! 東ルーケイにて天界人が盗賊に捕らえられ、身代金に1千ゴールドを支払う羽目になりました!」
堪らず、姫は叫んでいた。
「もう悪い知らせは聞きたくありません!」
そのまま寝室に閉じこもる。寝台の上で一人きりになり、お気に入りの綺麗な宝石を眺めながら時を過ごし‥‥。
ふと、セレ分国王より贈られた、青い宝石のことを思い出す。寝室の奥まった場所に、大事にしまってあったそれを取り出して眺めるうちに、セレ分国王の言葉を思い出した。
『さらに良き答えを求めるならば、求め続けるがよい。慎重に、されど臆することなく。一歩一歩、確かな足取りで。さながら、深き森の中で竜の仔が道を求めるが如くに』
じっと自分の手を見る。クエイクドラゴンの顎に触れたその手を。あの誓いの日の記憶がまざまざと甦る。
数分後。姫は寝室を飛び出し、お付きの衛士長と侍女長を呼びつけていた。
「冒険者達を集めなさい! このまま悪い事ばかりが続けば、王国が滅びかねません! この困難を乗り切る為にも、皆の智恵を借りるのです!」
「ところで、姫様が寝室にお籠もりになっている間に、王領代官レーゾ・アドラ殿からお手紙が届きました」
侍女長が一通のシフール便を差し出す。
「私、あの男が嫌いです」
と、言いながらも姫は手紙を受け取って一読。不機嫌そうなその顔が一転、不思議そうに言葉を漏らす。
「オーラム・バランティン? そんな天界人がアドラの所にいたのですか?」
これに衛士長が答えて言う。
「噂は色々と聞いています。相当な切れ者で、神聖魔法の術をも使いこなし、今やアドラ殿の腹心とも言うべき立場にあるとか」
手紙にはそのオーラムが、アドラと共にマリーネ姫へのご機嫌伺いに訪れる旨が認められていたのである。その言葉を聞き、姫は閃きを得た。
「良い機会です。その智恵者オーラムを冒険者達にも引き合わせましょう」
所は変わり、冒険者ギルド。
「君は新入りの冒険者か? 依頼の張り出された掲示板はあっちだ」
腰にハルバードをぶら下げた小柄な冒険者風の男は、しばし掲示板に張り出された依頼にざっと目を通していたが、その目が一つの依頼書に釘付けになる。先ほど張り出されたマリーネ姫からの依頼であった。
『王国に降りかかる幾多の困難を乗り切るべく、智恵ある冒険者の助言を求む。なお王領代官レーゾ・アドラ殿の召し抱えたる天界人、オーラム・バランティン殿も、助言者の一人として迎え入れるものなり』
「オーラム・バランティン‥‥まさかこんな所でその忌まわしき名を目にするとはな!」
小さく呟くと、小柄な男は冒険者ギルドを飛び出した。
「おい君! ちゃんと手続きは済ませたのか!?」
後から呼び止める事務員の声も、その耳に届く気配もなし。
●リプレイ本文
●いつもの酒場で
冒険者街に近い街の酒場はこの日、いつになく賑わっていた。
♪麗しの姫君 大ウィルに咲き誇りたる大輪の花
天貫き聳ゆる聖山の雪に その芳しき香を残し給う♪
今や店の常連となったセデュース・セディメント(ea3727)が弾き語るのは、自作の歌である。マリーネ姫のシーハリオン巡礼行を謳った詩は、詩神も微笑むほどに見事な出来映え。しかしリュートの技量はまだまだおぼつかない。それでも酔っ払い達は盛んにはやし立てる。
「よっ! あんたはウィルで一番のバード!」
「さあ歌え! もっと歌え!」
これでいいのだ。所詮は酒場の弾き語り。
一曲歌い終えると、客がどっとセデュースを取り囲む。
「この歌をセレの王様の前でご披露したんだってね! この果報者!」
「まぁ、自分で歌ったじゃないんですがね」
セデュースは苦笑しつつ、客にせがまれて巡礼行での出来事や、セレの森での姫とドラゴンとの邂逅のことを語ってきかせ、ファンタズムの魔法を使ってその時の様子を再現。
「おおっ! これは!」
「こいつはすげえぜ!」
呪文と共にテーブルの上に現れた幻影、フロートシップを襲うドラゴンや、クエイクドラゴンと対面する姫の姿に、歓声を上げる客。その興奮が過ぎるのを見計らい、彼らに訊ねてみた。
「ところで、マリーネ姫様によるこの度のささやかな招賢令のこと、皆様は如何に思いますか?」
「姫様の招賢令? その話、初めて聞いたよ!」
客達は口々に答える。
「あんたも姫様に招かれたのかい? あとで話を聞かせておくれ」
今やセデュースは、いつの間にやら庶民がマリーネ姫を知るための貴重な窓口になりつつあるようだ。ただし客の熱気に押され、情報収集はままならない。
「ところで最近、景気は良さそうですが。仕事にありつけた者とあぶれた者との間で何か揉め事とかありませんか?」
「そんな辛気くせぇ話はいいから、もっと姫様の歌を聞かせろーっ!」
その日の弾き語りも終わり、チップをたんまりせしめて外に出ると、顔馴染みになった衛士が待っていた。
「店の様子はどうだ?」
「いやぁ、あの悪態氏がおられなくなったので、静かなものです」
マリーネ姫に悪態をつき、衛士に連れ去られた男の顔を思い浮かべつつ答える。
「今頃、どうしているのでしょうねぇ?」
「知りたいか? 時に、今日の稼ぎは如何ほどだ?」
さり気なく衛士が手の平を差し出す。情報料をくれれば教えてやるというサイン。店での稼ぎの全てを握らせると、衛士はセデュースの耳に囁いた。
「あの男は狼藉者のシーネと一緒に牢の中だ。国王陛下の命により生かしてある。誰かが身元引受人となり、それ相応の入命金が支払われれば釈放されよう」
●嫌われ者の代官
「悪代官と呼ばれる御仁は数あれど、あのレーゾといういけ好かない男、悪代官の風上にも置けませんことよ!」
訊ねた途端、侍女は水が堰を切ったようにまくし立てた。
「下品が服を着て歩いているようなもんです。あのげっそりと痩せこけた頬、落ちくぼんだ瞳、目尻は垂れ下がってしまりがないし、頭は天辺まで見事に禿げ上がった禿頭。同じ禿頭でも後光の如くに威厳を放つ、トルクの王様の禿頭とは大違い。はっきり言ってカラスの群にたかられたゴミだらけの禿げ山ですわ。それにレーゾのあの笑い顔ときたら、まるでヘビが笑ったような気色悪さですのよ。裏町でひょっこり出合ったら、女衒か高利貸しの類と間違えそうな顔ですことよ」
これには聞き役のシャルロット・プラン(eb4219)もげんなり。なんとも非道い言われようだ。
「そのレーゾときたら、いつぞや姫様の晩餐に招かれた折りに、こともあろうに絹の靴下を姫様に献上しようとしたのですよ。尤も姫様も、触るのも汚らわしいといった素振りで、その場で突き返しなさいましたけれど」
マリーネ姫お付きの侍女からして、これである。信頼のおける筋からユパウル・ランスロット(ea1389)が聞き及んだ人物像も、似たり寄ったりだ。
「どうしようもない守銭奴で好色な下衆野郎‥‥との評判の高い御仁だな。その手の悪評は周囲の恨みや妬みでことさらに膨れあがるものだが、確かに悪評の立つ人物だけのことはある」
聞くところによれば、アドラ家はそこそこに羽振りの良い貴族家。しかしながら品行を逸した所行は数多く、貴族界の鼻つまみ者と陰口を叩かれてきた家柄。しかもこのアドラ家、王都の西に豊かな領地を持つ大貴族のクイース家とは、何かと折り合いが悪かった。
時に国王エーガンの治世始まりし頃、クイース家の当主が度重なる諫言を為したる事に王は怒り、クイース家より貴族の身分と領地とを剥奪した。が、そもそもこの追い落としに荷担していたのがアドラ家だという根強い噂があり、数々の策を弄してクイース家への讒言を為し、その信用を貶めたのだという。アドラ家の策謀なくしてクイース家の凋落なし‥‥と、陰で密かに囁く者は多いとか。
そのアドラ家の当主は2人の男子を儲けていた。即ち、正妻の子であるラーベと、妾腹の子であるレーゾだ。広く豊かなクイースの領地がフオロ家の直轄領となると、いみじくもアドラ家当主は王に請け負った。『我が子息達にクイースの地を統治なさしめ給えば、これまでの倍の税を取り立ててみせましょうぞ』と。
アドラ家は何かとフオロ王の覚えが良かったので、広く豊かなクイースの領地は北と南に分割され、かの腹違いの兄弟に統治を任された。兄ラーベは北クイースの代官に、弟レーゾは南クイースの代官に任ぜられたのである。そして兄弟は王と交わした約束通り、これまでの倍の税をクイースの領民から取り立てた。勿論、重税が領民に多大の負担を強いたことは言うまでもない。
そして栄光を失いしクイース一族は、今や下僕のごとき立場でこの兄弟に仕えているとも聞く。
そういった事柄をユパウルが話して聞かせた後で、ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)もその筋からの情報を披露する。
「聞いた通りのことをそのまま話すが‥‥」
と前置きしたのは、聞いた話が非道すぎる故。
「レーゾ卿はこと、金に関してはとてつもなく強欲な御仁と聞く。領民に税を払えぬ者がいれば、平気でその娘を娼館に売り飛ばす程だとか。元クイース領主のご令嬢もあわや売り飛ばされかけたという噂もある。もっともどこまで本当なのかは定かではないが‥‥。しかし、代官の評判がことさらに悪いせいか、その腹心となった天界人のオーラム・バランティンの評判は何かと良い」
あの非道い代官の下で、よくぞこれ程の働きを為し得たものだ──というのが、オーラムに対する人々の口振りであった。困窮にあえぐ領民の家々を1軒1軒回り、怪我をした者や毒に当たりたる者に癒しを施し、神の教えを説いては人々を励ましたという。おかげで非道い有様だった南クイースも、ここ最近になって持ち直す兆しを見せているらしい。
「そのオーラムは常にマスクで素顔を隠し、公の場でも決して外すことは無いという。話によれば天界からやって来た刺客に狙われており、素顔が明かになれば身の危険があるからだそうだ」
●マリーネ姫のお茶会
先に国王陛下によって招集された賢人会議は、由緒ある『翡翠の間』で物々しくも開かれた。しかしこの度の、マリーネ姫によるささやかな会議の場として選ばれたのは、城の中庭に面した『白百合の間』。もっぱら城を訪れた貴婦人達が、お茶を飲みながら憩いの一時を過ごすのに使われる、小綺麗な客間である。
この『白百合の間』が選ばれたのはシャルロットの進言による。マリーネ姫が主催する『お茶会』に一見識ある者達を招くという形をとり、武装を解いてリラックスした状態で忌憚無く意見を出し合えるようにとの計らいだ。名目上はあくまでも『お茶会』である。
そのお茶会の会場に向かう途中、山下博士(eb4096)は城の廊下でエーロン王子とばったり出くわした。礼儀作法に則り、立ち止まって一礼すると、横柄に声がかかった。
「マリーネの子犬め、久しぶりだな。‥‥ん? 臭うぞ。さては戦場でちびったな? そんなに敵が恐ろしかったか?」
からかわれていると分かったので、拗ねて言い返す。
「誰もが陛下や殿下のように勇敢だったら、この世に英雄なんていないと思います」
「はははは! 剣の腕はともかく、口だけは鍛えられたようだな!」
笑いながらエーロンは廊下の向こうに消えた。
白百合の間には既に、カルナックス・レイヴ(eb2448)とリーベ・レンジ(eb4131)の姿がある。身だしなみを整えたカルナックスは、美しい花が咲き乱れる城の中庭を前にして、マリーネ姫と語らっていた。
「悪い話が王宮の、しかも姫のところまで届くというのは、実は有難いことです」
「なぜ?」
「何故なら、それはもう、今後フオロ王家がどう動けば良いのかのヒントを教えてもらっているようなものですから」
姫は中庭にひらひらと舞う蝶を見やっていたが、カルナックスの言葉にはしっかり耳を傾けている。
「王族の機嫌を損ねることを恐れて、都合の悪い情報を臣下が隠し、結果国が腐敗するケースは多いと聞きます。そんな中、姫の不興を被ることを厭わず、大事を包み隠さず報告する者たちを大切にして欲しく思います」
「臣下がみんな、貴方のような人であればいいのに‥‥」
そんな言葉を口にしながら、姫は振り返ってカルナックスを見た。するとリーベが恭しく進み出て一礼し、姫の言葉を待つ。
「何か? 話があるのなら聞きましょう」
「マリーネさまとて、ご病気を召した事があられるでしょう?」
「?」
「その時、舌に苦いと判っていても、薬を飲まねばならない時があるのではありませんか? 数々の凶報も病と一緒です。ウィルの国をやせ衰えさせる。
強い薬は体が弱ってからでは、その効き目に体が耐えられません。ウィルの国を憂うべき姫が、一時の苦みを恐れて、後の荒療治をしなければならないとは本末転倒でしょう?」
マリーネはくすっと笑った。
「リーベ、アルテイラ号で私を誘った時の事を覚えていますか?」
恥じ入り、苦笑するリーベ。
「忘れるわけがありません。このリーベにとって、一生の不覚でした」
「あの時とはまるで別人の言葉のよう。頼もしくなったものです」
「勿体なきお言葉。感じ入ります」
庭をぐるりと取り巻く回廊に、やって来る博士の姿が現れた。その小さな姿が白百合の間に達するより早く、姫は小走りに走って博士を出迎えた。
「ぱこぱこ、心配してたのよ! ホルレー男爵の陣で毒矢を受けたんですって!?」
「ぼくはこうしてぴんぴんしています。戦で負傷するなど当たり前のことではないのですか?」
「負傷はともかく、毒矢で狙われるのが当たり前であってはなりません! いったいホルレーは‥‥」
「ホルレー男爵は献身的に君命を全うしました。そのことは共に戦ったぼくが一番良く知っています。男爵への咎め立ては無用です」
あっけらかんと答える博士。姫はまだ言い足りなさそうだったが、
「‥‥でも、おまえが無事で良かったわ」
と言うに留まった。
今、白百合の間はお茶会の真っ最中。姫の元にも侍女達が、何度もお伺いにやって来る。
「姫様、飾りの花は何がよろしゅうございましょう?」
「白いユリの花がいいわ」
「でもユリはまだ咲き始めですし、花屋で手に入るかどうか‥‥」
「何でもいいから白い花にしなさい」
忙しい最中、ベアルファレス・ジスハート(eb4242)が現れた。恭しく姫に一礼し、差し出したのは連れてきたペットのダッケル犬。その名はブラシュナー。
「多くの凶報に心労も御溜まりでしょう。このブラシュナーで心を御癒し下さい。賢い犬です」
「これを、私に?」
差し出されたダッケル犬をぎゅっと抱きしめ、姫はにっこり。
「ああ姫様、お召し物が汚れます!」
側にいた侍女が慌てるが、姫は気にする様子もなし。
「構いません。私はこの子が気に入りました」
●天界の伯爵令嬢
5月6日、お茶会の初日。この日は代官レーゾとオーラムが、姫のご機嫌伺いにやって来る日だ。二人の来訪に先立ち、アレクシアス・フェザント(ea1565)は姫に謁見する機会を得た。
「ルーケイでの1千ゴールド略取事件により、姫のお心を煩わせいたしましたこと、深くお詫び申し上げる次第。目下、かかる暴挙を為したる盗賊の討伐に向け、着々と準備を進めておりますれば、進軍の号令は間もなく発せらるるでありましょう」
「それでこそルーケイ伯。先の戦いでの武勲も耳にしています。次の戦いにも勝利されんことを」
謁見の場においてどのように言葉をかけるか、長い王宮生活でしっかり心得ているのだろう。姫の言葉には淀みがない。アレクシアスは畏まり、言い添えた。
「起きた事実は変えられませんが、悪い知らせは必ずしも悪い事だけではありません。逆に好機とお考え下さい。見方を変えれば解決・改善の為の手掛かりが必ずある筈です。‥‥さて、今日はお茶会への招待に与り、光栄に存じます。まずは私より一人、姫に紹介せねばならぬ方が居ります」
アレクシアスは離れた場所に控えていたルリ・テランセラ(ea5013)を手招きし、ルリは姫の前に進み出た。
「辺境伯アレクス・バルディエがご令嬢、ルリ・テランセラです」
アレクシアスに紹介され、ルリはおぼつかなげながらも畏まってお辞儀をした。
「はじめまして。よろしくおねがいします」
「あなたが天界の伯爵令嬢?」
マリーネは驚いた様子。天界の伯爵令嬢がなぜこの世界に? しばし好奇心も露わな視線を向けていたが、やがて何かに思い当たったようだ。
「ルリ、色々と事情がお有りの様子ですね。あとでゆっくり話を聞きましょう」
●代官レーゾと仮面の男
城の門の前に豪勢な馬車が止まり、扉が開く。
先に降り立ったのは礼服に身を包んだ中年男。
「あれが王領代官レーゾ・アドラだな?」
門の近く、目立たぬ場所に立って様子を伺っていたオラース・カノーヴァ(ea3486)は、その姿を認めた。着ている服はこれ見よがしに立派だが、服の中味はこれまで聞いた話に違わず。
続いて馬車から降り立ったのは、金色に輝く仮面で素顔を隠した男。
「あれがオーラム・ヴァランティンか。テクシ家で見た仮面男とは違うな」
背格好からして異なるし、仮面も別のものだ。
レーゾとオーラムの二人は、衛士によって城の中へと導かれていく。と、その行く手に見覚えのある姿が現れた。
「ん? あれはユパウルとルリ嬢じゃねーか」
二人の冒険者を前にして、レーゾとオーラムの足が止まる。
「オーラム殿、貴公の知り合いか?」
「我等に、何か用かね?」
オーラムが仮面を外す。現れたのは黄金のマスクで目元を隠した顔。露わになった顔の下半分はつるつるに剃られており、意外と上品に見える。
「こちらのご令嬢殿が、オーラム殿との話し合いを所望しておられる」
護衛役のユパウルに促され、ルリはオーラムに名乗る。
「私、ルリです」
「ルリ? アレクス卿の娘か? まさか、こちらの世界に来ていたとは‥‥」
「オーラムさんとは、バルディエお父さんのことで話があるんです」
「良かろう。ご息女よ、心ゆくまで話し合おうではないか」
●再会
レーゾとオーラム、ユパウルとルリ、4人が一つの部屋に入る。フオロ城に数ある部屋の一つ。小さな部屋で、部屋の入口には屈強な衛士が立つ。
離れた場所には注意深く辺りの様子を窺う者達がいた。ルエラにアレクシアスにベアルファレス、3人の注意は部屋の中よりもむしろ、もうじき部屋の近くに姿を現すであろう何者かに向けられていた。
「果たして姿を現すかな? 警備を強化し、見つけたら即刻取り押さえるよう、衛士達にも伝えてあるが‥‥」
疑念を呈するベアルファレス。しかし程なく、その者は姿を現した。
「あれを!」
小声で注意を促すルエラ。小柄な侍女が一人、部屋に近づいてくる。
「止まれ!」
アレクシアスが柱の陰から姿を現し、侍女の前に立ちふさがった。
「何でございましょう?」
侍女の声は妙にハスキー。と、いきなりアレクシアスのサンソードが閃いた。
「あっ‥‥!」
ソードの切っ先が、侍女の胸元を一直線に切り裂く。服がはだけられ、胸が露わになった。乳房のふくらみは無い。真っ平らな男の胸。
「やはり、侍女に扮していたか」
侍女に化けた男が、その手をスカートの下に伸ばす。間髪を置かずアレクシアスは体当たりを喰らわせた。倒れた体を押さえつけ、有無を言わさずスカートをはぎ取る。スカートの下に隠されていたのはハルバード。
「スレナスだな?」
のしかかるようにして、その姿をしげしげと見つめる。女のように華奢な体。侍女に扮したらとても男には見えない。
「逸る気持ちは分かるが、今は時期を待て。おまえとルリは敵に回したくない」
「ならば、僕に協力してくれるか?」
「俺に出来ることであれば‥‥」
唐突に部屋のドアが開く。外に出てきた4人は、とんでもない光景を目の当たりにして硬直した。
「こ‥‥これは、なんと!?」
胸をはだけられ、スカートを脱がされた侍女。その上にのしかかるルーケイ伯。
端から見たらやばすぎるぞこの状況!
しかしルリだけは、目の当たりにしているものの意味を掴みきれず、
「スレナスさん‥‥」
微かに呟きをもらし、じっとスレナスを見る。
「ルリ‥‥」
ルリを見上げるスレナスの表情は、恥じらいと戸惑いとがない交ぜになったかの如く。
気がつけば周りからひそひそ声。目ざといご婦人方や侍女達がいつの間にか集まっているではないか。
「まあ! あのルーケイ伯が!」
「お城の中でご乱行ですわ!」
アレクシアスは思わず言葉に窮したが、そこへようやく衛士長がすっ飛んできた。
「これは何の騒ぎだ!? ‥‥むむっ!? 貴様、何者だ!?」
侍女の姿をしたスレナスを見て、厳しく問い詰める。
「姫様に雇われた侍女ではないな! 怪しい奴め!」
「待て。彼は俺の配下の者だ」
咄嗟にアレクシアスが取り繕った。
「姫の守りがどれほど固いか、試させてもらった。が、彼の者を易々と城の中へ侵入させるとは、まだ十分とは言えぬな」
うっ、と衛士長は言葉を詰まらせた。
「と‥‥とにかくそのはしたない格好はいかん。ここは城の中だ」
「では、着替えを」
求められた衛士長が立ち去ると、アレクシアスはスレナスの耳に囁いて訊ねる。
「この警戒厳重の中、どうやって城の中に忍び込んだ?」
●お茶会の席にて
そんな訳で色々あったが。
「ここで事を荒立てるは、姫の顔を潰す所存となります。ご考慮下さい」
シャルロットはにっこり笑って釘を刺し、
「この国の為に働くというのなら、互いに遺恨は捨ててもらいたいものだな」
ベアルファレスもしっかり釘を刺し。
「決して事を荒立てぬことを誓おう。過去には色々あったが、今や我々はフオロ王家を支える者同士なれば」
オーラムもそう約束。ジ・アースで色々と遺恨を抱えて来たであろう者達も、仲良くお茶会のテーブルへ。
「お二方の話し合い、折り合いはつきまして?」
マリーネ姫に問われ、こくりと頷くルリ。オーラムの声にも心地よさげな響きがある。
「目出度く休戦協定が結ばれましてな。かのご令嬢の父君と私は、互いに剣を交えた者同士。共に大義を背負っての戦いであったが故に、それはやむなき事。アレクス卿に武人たる者への敬意を払いこそすれ、遺恨を抱くことは非ず。我等は騎士道に則りて剣を抜き、騎士道に則りて剣を収むる者であるが故にな」
その言葉についつい苦笑いを浮かべてしまうアレクシアスであった。戦いが終わって後も、オーラムがやらかした数々の所行についても聞き及んでいる。が、今は黙っているのが賢明であろう。
「さてさて。このセデュース、賢者と呼ばれる程の智恵はございませんが、一つ心なごむ報せをばお聞かせ致しましょう。わたくしは詩の題材集めの為、庶民の集まる酒場に出向いているのですが、そこで過日の姫様のシーハリオン巡礼行を歌い上げましたところ、大変な好評を博したのでございます」
マリーネ姫の顔が輝いた。
「セレ分国王陛下の御前で披露された、あの歌ですね。もう一度、この場で聴きたいものです」
「では、お茶会の座興に」
セデュースはリュートを爪弾き、歌い始める。ところが歌ううちに、侍女達がくすくす笑い始める。いやしくも姫君の前で披露するには、あまりにも拙い。
「わたくしはまだまだ未熟者、面目ありませぬ」
恥じ入るセデュースに、姫は笑って言った。
「貴方が分国王陛下の前で演奏する羽目にならず、幸いでしたね」
ふと、ルリが言う。
「マリーネさんは町の人達の事、どう思っているの? 大切ならみんな幸せで笑顔でいられるようにできたらいいと思うの。辛い事あったら歌を歌うか演奏聴くのもいいし。町のみんなの生活とか見てみるのもいいかも」
なぜか黙り込むマリーネ。ルリは続けた。
「あと、セレのドラゴンさんと会って、お話して仲良くなりたいかも」
その話が出た途端、マリーネ姫はにこっと笑った。
「いつかまた、セレの森のドラゴンに会いに行きましょう。できたら、貴方も一緒に」
その後、お茶会はシーハリオン巡礼行やセレの森のドラゴンの話で盛り上がり、気が付けば夕刻。お開きの時間だ。
「この度のもてなし、心より嬉しく思う。いずれこのオーラムも祝いの席に皆を招こう。我とアレクス卿のご息女との間に、和睦が成った事の祝いにな」
オーラムはそう告げ、代官レーゾと共に城より去った。
●進言〜親衛隊
5月7日、お茶会2日目。
「マリーネ姫を護衛するための女性からなる親衛隊の結成、改めて進言させてもらう。戦場とはいえ、マリーネ様の御近くに居た者が毒矢を受けたのだ。もう手をこまねいている訳にはいかん」
ベアルファレスが引き合いに出したのは博士のこと。つい先程にはスレナスにまんまと侵入されたこともあり、今度ばかりは衛士長も侍女長も強く反対はしなかった。
「侍女の仕事はこれまで通り現在の侍女にあたらせて、親衛隊はマリーネの近辺警護のみとしたい」
侍女長にそう言葉を向けると、同意を示す返事が返ってきた。
「そういうことなら異存はありませんわ」
衛士長も頷く。
「俺は姫様のご意向に従おう」
姫がユパウルに問う。
「貴方はどうお考えですか?」
「姫は王族で在らせられ‥‥故に私はベアル殿の献策を推すものです。民や渦中の者の直接の声を聞かねばならぬ事が出た場合、相手に威圧を与えて語らせぬことが無きよう、少数で姫を守れる気の置ける者がいるのは良き事と思います」
姫は傍らに立つカッツェ・シャープネス(eb3425)をちらりと見る。油断なく気を配るジャイアントのレンジャー、凛々しい彼女の姿は姫の目に頼もしく映ったようだ。
「彼女は信の置ける者。親衛隊候補の一人とお考え下さい」
ベアルファレスの推薦の言葉で、姫は決心がついた。
「ベアルファレスよ。貴方の進言を容れ、親衛隊の設立を認めましょう。この件については私が直々に国王陛下へ奏上します。貴方も直ちに準備に取りかかりなさい」
●進言〜民の守りたる者
ルエラとオーラスは姫にとっては初対面の者達。シャルロットは二人を姫に紹介するにあたり、弱きを助けカオスの魔物と対峙する士であると一押しした。
先にオーラスが進言する。
「時に、北部の領主達に反乱の兆しがあるとか。今はかろうじて抑えられているようだが。しかし打開策はある」
「では、どのように?」
「正面きっての闘いを避けたいとお望みなら、どんな手段を使っても、敵との間に友好的な関係を築くよう努めるべきだ。例えば、敵の趣向に合わせるのも良い。敵の好む事を一緒にするのも良い。敵との親密な関係が生まれれば、それはまず姫の身の安全に、ひいては国の安全の保証に繋がる」
姫は露骨に嫌な顔をした。
「いつ謀反を起こすかも知れぬ、敵も同然のあの者達と親密になれというのですか?」
「失礼‥‥俺の言葉が足りなかったようだ。しかし王家と領主達との関係を維持するに当たっては、やはり信義に目覚めた領主達自らの意思に拠らせる方が、王家からの圧力によって無理強いさせるよりも良策と信じる」
ただし、国王が見くびられては不味い。領主達の懐柔は姫が行うことが望ましい。──と、オーラスは内心で思う。
続いてはルエラの進言。
「悪い話を王家に陳情に来る人々は、王家を為政者として信頼している証です」
と前置きし、喩え話をした。
「昔、ゴブリンの被害の陳情に訪れた村人達を追い返した領主がいました。その後、陳情を断られた村人達はゴブリンに皆殺しにされ、村を奪われてしまったそうです。悪い話に耳を塞ぎ続ければ、民は王家を見限り、力の強い盗賊等に縋る事になるでしょう。どんな場所でも民が陳情に向かえる場所、その陳情に応える姿勢を示せる場所を設置する事が、重要と愚考します。‥‥姫?」
姫の顔から表情が消えている。その視線はあらぬ方を彷徨っているようで。
「気分がすぐれません。暫く休みます」
姫はそう言うと、カッツェに付き添われて中座した。
衛士長が呟く
「母君の死のことを思い出されたのであろう。事件は民のいる場所で起きた」
●姫の寝室
姫が寝室で休む間も、カッツェはずっと姫の側に控えていた。
「辛いですか?マリーネ姫。誰にも弱音を吐けずにいるのではないのですか?」
枕元で囁くと、上の空だった姫の目が不思議そうにカッツェを見る。
「確かに弱みを握られる事は避けたいかも知れません。でも、貴方はまだお若い。吐き出しても構わぬのですよ。姫としてのわがまま、それでよいのです。
苦痛にその身を削るより、貴方の痛み、叫びを私達に分け与えて下さい。我らに頼っても良いのです、貴方にはそれが許されております。
皆も、かのルーケイ伯も、貴方の為にその身を砕く事が出来ましょう。もちろん、私も貴方の傍に‥‥。
そして、少しの間、抱きしめても構いませんか?」
姫はベッドの上に身を起こし、その小さな体がカッツェに寄り添い。
気がつけば姫はカッツェの腕の中に。
そのまま時が過ぎ、やがて姫はカッツェから身を離し、はにかむように言った。
「このことは、皆には内緒です」
暫くして、マリーネ姫は博士を寝室に招いた。
「おまえの話を聞かせて」
「ぼくも他の人達も、マリーネ様をお助けする事は出来ます。でも、たった一つお力になれないことがあります。それは、マリーネ様に代わって決断すること。
ぼくはこう聞いています。『相談とは賛意を求める行いである』と。
マリーネ様、何か良い案が無いかとおっしゃるなら知恵を絞ります。こうすればどうなると思うか? と仰せになるならば、考えを話すことが出来ます。でも、マリーネ様に代わって決断できる者は誰もおりません。
『人は自分自身の主人であることから自由を欲するとき、自ら奴隷の境遇に落ちる』と言いますから」
「そう‥‥」
曖昧な声で答えたきり、次の言葉はない。ただ沈黙だけが続く。博士がその顔を覗き込むと、姫は安らかな寝息を立てていた。
●進言〜工房設立
5月8日、お茶会3日目。
進言に先立ち、アリア・アル・アールヴ(eb4304)は『幸福の銀のスプーン』を姫に献上。続いてリセット・マーベリック(ea7400)が姫に献策する。
「必要なのは貴族や民に負担をかけない新財源だと思われます。貴族や民から搾れば財は補えても不満がたまります。王家に不満を持つなど不遜の極みですが、そのような者達を完璧に統御することが、フオロ家がセトタを制することに繋がると信じております。
よって、地球の冶金技術者とジ・アースの優れた鍛冶師達に対し、冒険者ギルドを通じ依頼することをお許しください」
「伝はあるのですか?」
「手元に資金があります故、マーカス商会に働きかけて鍛冶師達を確保しようかと‥‥」
その言葉は衛士長の激しい反発を招いた。
「よりにもよって、悪徳商人のマーカスとか!? ヤツに大金を見せたが最後、巧みに付け込まれて財産全て巻き上げられるぞ!」
「鍛冶師達を集めて工房を作り、財源と為すというリセット殿の案は悪くないと思います。幸いマーカス殿とも顔見知りですし」
アリアも言い添えるが、衛士長はますます反発。
「貴殿はあの男のやり口を何も知らぬのだな。鍛冶師を抱えているのは、何もマーカス一人だけではあるまいに」
「まずはその辺りの実状を知らねばならりませぬか。誰かにご教授頂ければよいのですが」
アリアが話を向けると、衛士長は一人の人物の名を口に出した。
「騎士学院にジェームス・ウォルフを名乗る教官がいる。一度、訪ねてみるが良かろう」
●進言〜王家情報室
最後の進言者となったのは草薙麟太郎(eb4313)。先ずは数々の事件について、自分で知り得る限りの背景を説明。
「‥‥このように、これらの事件の一部には、背後で暗躍する存在が見え隠れしています。これら背後で蠢く悪意に対して、個々の事件においては、参加した冒険者が調査を行っていますが、あくまで個人レベルでの行動でしかありません。世の平穏を取り戻すためには、一連の事件に対し、総括的、継続的に捜査のできる組織の有無はとても重要ではないかと考えます。
そこで『一連の事件を継続的・組織的に捜査できる組織の設立』を提案したいと思います。地球で言うところの情報機関。この国ではさしずめ、王家調査室となるでしょうか」
麟太郎の進言によほど感銘を受けたのだろう。姫は直ちに決定を下した。
「私は貴方の進言を容れ、王家調査室の設立を国王陛下へ奏上しましょう。貴方も直ちに準備に取りかかりなさい」