竜の力を継ぎし者4
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■シリーズシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:15人
サポート参加人数:8人
冒険期間:04月03日〜04月08日
リプレイ公開日:2006年04月10日
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●オープニング
時は暫し遡る。聖山巡礼の船隊がドラゴンの襲撃を逃れ、シーハリオンを間近に臨む山岳地帯で一夜を過ごしたあの時に。
夜空には満天の星。ただしアトランティスの夜空に輝く星は、昼間の空を満たしていた精霊光の僅かな名残りだ。シーハリオンを囲む嵐の壁は、勢いを減じることがない。今も聖山の方向からは、ゴウゴウと吹きすさぶ風の音が途切れることなく聞こえてくる。
ミントリュース号の甲板では冒険者たちが寝ずの番をしていたが、そこにいつの間やらマリーネ姫が姿を現していた。損傷したアルテイラ号よりミントリュース号に移った姫は、興奮と緊張のせいで寝付けない様子だ。ここは山岳地帯、まして夜ともなれば寒さは相当なものだが、姫は寝衣のすき間から忍び込んで来る冷気にもお構いなしに、夜空を貫くようにそそり立つシーハリオンの姿を見つめ続けた。
「姫、寒いから寝室にお戻り下さい」
「心配いりません。私達が守ります」
取り巻きの衛士や侍女、そして冒険者達が姫を案じて言葉をかけると、姫はうわごとのように呟いた。
「あの血まみれの羽根‥‥母君のことを思い出してしまうの。母君の白いドレスも‥‥血で真っ赤に染まってた‥‥」
エーガン王の治世の初期に起きた王妃暗殺事件は、今も王家に暗き影を投げ落とす。マリーネの母も事件に巻き込まれ、王妃ともども襲撃者の凶刃に倒れたのだ。その襲撃の一部始終を、その場に居合わせた幼いマリーネ姫も目撃していた。惨劇の記憶は脳裏に強く焼き付けられ、もはや拭い去ることは出来ない。
「おい! あれを!」
見張りの冒険者が警戒の声を上げた。何者かが船に近づいて来る。その数は3人。皆、羽根飾りのついた毛皮の服を纏っている。その一人は、ウィーの町に姿を見せた山の民の祈祷師だった。祈祷師に連れそうのは、艶やかな黒髪の美しき女性。さらに、先に冒険者の一人が森の中で出合った娘。勿論、彼らが並の人間ならば、昨日の昼間に出合った場所から雪深き山岳地帯のこの場所まで、フロートシップも無しに僅か1日かそこらで移動することなど不可能。それが今、目の前にいるということは‥‥。
「我等はおまえ達を守るために、ここに来た。我等がここに留まる限り、ドラゴンはおまえ達に危害を加えない」
祈祷師が言う。
「貴方は、何者?」
マリーネ姫が問う。彼女にとって、祈祷師の姿を目の当たりにするのは初めてだ。
「我は『人を監視する者』。シーハリオンを臨むこの地に住む一族の一人だ」
祈祷師は答え、そして3人は寝ずの番をする冒険者達に加わった。
「君とは初対面だな」
初めて見る顔の女性に冒険者が声をかける。しかし彼女は遠くを見据えたまま注意を促す。
「気を抜かないで」
その視線の先を冒険者が見ると、かなり遠くに朧な人影がある。
「あれは、君の仲間か?」
問うと、女性は頷いた。周囲に注意を凝らしてみれば、遠くより船を窺う人影はいくつもあった。しかしその夜は何事も起きず、一行は無事に朝を迎えた。船を窺っていた幾多もの人影は、いつの間にか消え去っていた。
夜明けと共に天は虹色に輝く。程なくそれは白い精霊光の輝きに変わるだろう。マリーネ姫を乗せたミントリュース号は尾根の合間を離れ、空へと浮かび上った。
「あの頂きに下りましょう」
シーハリオンを囲む雪山の連なりの中に手頃な頂を見つけ、マリーネ姫は皆を連れてそこに降り立つ。
「この地ではどのようにして聖山を拝むのですか?」
「両手を大きく広げ、大地に身を伏せよ。大地を仲立ちとし、聖山と一つとなれ」
祈祷師の言葉にマリーネ姫は従い、付き添う冒険者達もそれに習う。しばし時が経ち、皆が身を起こした時には、3人の来訪者たちの姿はどこにも見当たらない。ふと空を見上げると、小柄な金色のドラゴンが一匹、翼を広げて悠々と空を飛んでいた。
時は今に戻る。あれから既に3週間もの時が流れた。王都はシーハリオン巡礼の一行が持ち帰った竜の羽根の話で持ちきり。さらにその話は国境を越え、遠き国の王侯貴族の耳にさえも届いていた。
フオロ王家が為し遂げたる偉業に内外からの注目が集まる最中、ハーベス・ロイ子爵は国王の呼び出しを受け、拝命のため謁見の間に参上する。
「汝に、竜とその眷属との和平交渉を任す」
それが、下された王命であった。先に開かれた賢人会議での進言を受け、王はこの役目をロイ子爵に与えたのである。
「シーハリオン巡礼の最中、フロートシップがナーガの変じたる竜に襲われたるは甚だ遺憾。なれど、そのナーガの蛮行を食い止めたるも、同じくナーガの者であると聞いておる。今後もフロートシップが竜とその眷属の住まう地に乗り入れるならば、彼らとの諍い事が生じる危険は極めて大きい。それを避けんがため、汝は彼の者達との和平を進めよ」
「はっ! 我が一命に代えましても」
ロイ子爵は謹んで受諾の意を示し、王の前より退出した。
「さて、これからどうしたものか」
竜とナーガ。これまでは遠くからその姿を仰ぎ見ることはあっても、人とは滅多に交わることのなかった存在だ。しかし、それもフロートシップが発明される前までの話。時代は変わったのだ。人里より遠く離れた彼らの住処にも、今や人は容易く踏み込める。
しばしロイ子爵は頭を悩ます。一体、何から手をつけていいものやら──。ふと、ロイ子爵はセレ分国王からの親書のことに思い当たった。この度の巡礼行の成功を祝い、マリーネ姫とその随行者たちを国賓として迎え、分国を挙げての友好式典を開催する。それが親書の内容であり、ロイ子爵もセレ分国王からの招きを受けていた。
「先ずは、セレ分国を当たってみるか」
セレ分国にはドラゴンがいる。深い森を住処とするドラゴンで、図体は大きいが性質は大人しい。子どものドラゴンを伴って、セレ分国の王都である樹上都市セレの間近に姿を見せることもあるという。マリーネ姫もこのドラゴンに興味を覚え、セレ分国を訪ねた際にはぜひともその姿を見たいと望んでいるとか。
「まずはセレ分国のドラゴンに会い、話をするとしよう。最近、セレに出没し始めたというシャドウドラゴンについても何か分かるやも知れぬ。それに、山の民のこともある」
宿場町ウィーで騒ぎを起こし、今も軟禁状態にある山の民は、いかなる国の王権も及ばぬシーハリオン周辺の地を住処とする民。彼らはナーガについてもより多くの事を知るはずだ。竜とその眷属との和平交渉を王命として授かった今、彼ら山の民の処遇についてもロイ子爵は大きな裁量権を行使できる。
程なくして、冒険者ギルドの掲示板にロイ子爵からの依頼が張り出された。
『国王陛下より拝受せし王命、竜とその眷属との和平交渉に携わる冒険者を求む。先ずはセレ分国王の招待を受けしマリーネ姫と共にセレ分国へ向かい、かの地に住むドラゴンと会って我等の意思を伝える。今回のセレ分国行きに当たっては、フロートシップ・ミントリュース号を用いる。途中、宿場町ウィーにも立ち寄り、町の領主に願って山の民を自由の身となした上で、彼らに竜とその眷属との仲介を願う。セレ分国でのドラゴンとの話し合いは、マリーネ姫に随行する形で執り行うため、姫の安全への気配りを怠るべからず』
●リプレイ本文
●フロートシップ西へ
「え〜と、クエイクドラゴンの特徴は‥‥あれ?」
セレ分国への旅に備え、宮廷図書館でドラゴンのことを色々調べてきたクロス・レイナー(eb3469)。詰め込んだばかりの知識を思い返しながら、停泊中のミントリュース号にやって来ると、見知った懐かしい顔がいた。ロイ子爵の最初の依頼で一緒になった、ティアイエル・エルトファーム(ea0324)だ。
「また一緒になれたんだね!」
「うん。エルフの国であるセレ分国に行ってみたかったの♪ 一番にはね、やっぱりフォレストドラゴンの親子が見てみたいの♪」
通りかかったロイ子爵が、ティアイエルの顔を見て足を止めた。
「おや、どこかで見た顔かと思えば」
「ハーベス卿、お久しぶりです」
天真爛漫、挨拶するその姿が天使のように輝いて見える。二言三言、言葉を交わしてハーベスが立ち去ると、ティアイエルは首を傾げて思案顔。
「でも今度の依頼、難しい内容だよね」
「竜との和平交渉だからね。こちらには敵意無く、むしろ味方だという事を知らせなければ‥‥」
出航準備も一段落し、船の回りには仲間と話し合う冒険者の姿がちらほら。見送りに来た仲間、荷物を届けに来た仲間もいる。
「素敵な苗木をありがとう!」
貴族御用達の苗木商から、贈り物の苗木を買ってきてくれた仲間に、シャリーア・フォルテライズ(eb4248)が礼を言う。貴族が愛好する香木で、値が張るが寄贈品として申し分ない。
「これは、月桂樹だな」
クロウ・ランカベリー(eb4380)の口からこぼれたその言葉に、シャリーアは不思議な響きを感じた。
「地球ではゲッケイジュと呼ぶの?」
「そうだ。月桂樹は、地球では神聖視される木の一つ。勝利と栄光のシンボルだ」
すると、船で雇われているシフールの連絡係たちがシャリーアを呼ぶ。
「ベルゲリオン卿とウッズ卿がお見送りに来られたよ〜!」
「え!? ベルゲリオン卿‥‥」
ベルゲリオン子爵にウッズ男爵。共にチャリオットレースのチーム・スボンサーだ。今は王都にて次のレースの準備中だが、2人もセレ分国貴族のよしみでわざわざ見送りに来てくれたのだ。急ぎ、世話になったベルゲリオン子爵の元に向かうシャリーア。それより一足早く駆けつけたディーナ・ヘイワード(eb4209)が、ウッズ男爵に礼を述べていた。
「先日はありがとうございました。また機会があれば乗らせてください」
「いいですとも。今度の依頼が済んだら、また会いましょう」
男爵は穏やかに微笑んだ。
「先のナーガの言では、シーハリオンに立ち入るのさえ『未だ資格無し』らしいな。竜の聖域であるシーハリオンに登り、何が起きたのかをこの目で直に確かめることは叶わないのだろうか?」
アーディル・エグザントゥス(ea6360)が船の仲間に交じって話していると、ロイ子爵が言う。
「たとえ竜の許しが出たとしても、シーハリオンに登るには、山をぐるりと取り巻くの嵐の壁を越えねばならぬぞ。しかし残念ながら、今のフロートシップやゴーレムグライダーに、嵐の壁を越える力は無さそうであるな」
そうこうするうちに、騎士学院の者達が訓練用のウッドゴーレムを届けに来た。セレの森でも使い勝手が良さそうなのでクロウが持ち出しを申請し、それが認められたのである。ただし、クロウは学院の者からこう念を押された。
「壊したら、自前で弁償して下さいね」
出航時間の到来と共に、ミントリュース号は地面を離れて西へと向かう。
「‥‥さて、何かしら事態が進展するといいんだがねぇ?」
呟き一つを残し、シン・ウィンドフェザー(ea1819)は船室へ。甲板では一人、クロスが景色を眺めている。
「人‥‥竜‥‥この世界はどう動こうとしてるんだ‥‥。剣を振るっていれば、僕の答えが見つかると思っていたけど‥‥それだけじゃだめみたいだ、父さん」
●山の民の釈放
セレ分国へ向かう途上、立ち寄った宿場町ウイーもこれで3度目の来訪。クロスが再び訪ねた町の酒場には、以前と同じくジージ老人がいた。
「どうも、お久しぶりです」
「おお! 久しぶりじゃな!」
老人はにこりと笑い、酒を勧める。
「今日はわしの奢りじゃでな。さて、今日もわしの話を聞きに来たのかの?」
「はい。ナーガ‥‥もしくは山の民についての伝承などを聞かせて欲しいのですが」
老人は上機嫌で語り始めた。
「言い伝えによればな。山の民はいにしえの王族の末裔で、遙か昔の戦乱の時代に国を捨てて、山に移り住んだとも言われておる。山からこの町に下りて来るのは、山の獣の毛皮や薬草を塩などと交換するためじゃ。時には山で採れた砂金を携えてくることもあるが、人の手で作られた金貨や銅貨は決して受け取らず、手に取ろうとさえせぬのじゃ。お金を不浄なる物と信ずるが故にな。人々の中には山の民を因習に囚われた野蛮な民と見る向きもあるが、実際に付き合ってみると、彼らの備える智恵と徳の深さに驚かされるものじゃ」
その山の民を釈放させるべく、ロイ子爵とグラン・バク(ea5229)が町の領主の元を訪れていた。携えてきたマリーネ姫の親書が大いに物を言った。冒険者仲間の強い願いに心動かされ、姫自らの手で全文が認められた親書である。マリーネ姫のサインと共に、その最後に押されたるは紛れもない王家の印章。山の民の釈放を求めるその親書を読むや、呂主は即座に釈放を認めた。
自由になった山の民を、冒険者達はフロートシップに招く。
「お帰りなさい!」
甲板でオカリナを吹いていたティアイエルが、元気に声をかけた。
「この宙に浮く船に乗るというのか?」
山の民達は乗船を躊躇う。その彼らの前に現れたのが、ハルナック・キシュディア(eb4189)。
「こちらの都合で連れ回すような形になってしまい、同じ大陸に住まう者として申し訳なく思います。こんなことではお詫びにはならないと思うのですが、一杯やりませんか?」
山の民達は彼の事を覚えていた。
「そなたは、確か‥‥」
「はい。以前、あなた方の荷物を返したエルフですよ」
山の民にとっては恩人である。ようやく彼らも乗船する決心をつけた。
広い甲板にはテーブルが出され、宴の準備が為されている。甲板に鎮座するバガンに目を丸くしつつ、山の民は冒険者共々テーブルについた。
「では、乾杯」
和解の印に打ち合わせた杯だが、山の民は酒を口にして顔をしかめたり、むせたり。飲み馴れていないのだ。しかし用意された魚の干物や干し肉は口に合ったようだ。
「このもてなしは、あなた方への非礼に対する詫びだ」
そう前置きして、グランは招賢令から今日に至るまでの経過を山の民に話して聞かせた。
「ウィルの国に竜を害する意はなく、友好的な隣人関係を築きたいと考えている。そのために、竜とその眷属との仲立ちを、あなた方山の民に依頼したいのだ」
しばし、老人は食事の手を止めて考え込む。そのまま黙りこくっているので、シンも促した。
「俺達の竜への干渉を、あんた等が快く思ってない事は理解している。だがな、ジ・アース人に地球人と、これだけ大勢の人間がこのアトランティスに喚び込まれた事‥‥これは単なる偶然じゃねぇ、この世界が何らかの変化を求めて起きてる事なんだと思う。そして、その変化には竜達だって無関係ではいられないんじゃないかと、そう思えるんだ。違う世界に属していた俺達だが、竜に対する畏敬の念は持っているつもりだ」
老人は沈黙を破り、問うた。
「まずは、何処の竜の元へ参るのじゃ?」
「セレ分国の森に住む竜の元へ」
老人は頷く。
「良かろう。我等も共に竜の元へ参ろう」
●聖山に飛来せしもの
西に向かう浮遊船の中で、山の民と冒険者達との交流は進んだ。ハルナックの求めに応じて山の民が語るところによれば、彼らにとって許し難い行為の最たる物は5つ。すなわち一族の者を殺すこと、一族の妻や娘を辱めること、一族の子どもを浚うこと、一族の土地を奪うこと、竜を崇めるための祭壇を壊すこと。人里離れた山岳地帯でひっそり暮らす山の民だが、余所者によってそれらの行為が為されれば、後には引けぬ戦いになるという。
「ところで、竜と接する上での礼儀作法を教えて欲しいのでござるが」
山吹葵(eb2002)が問う。
「まずは、直に竜と会いて習うがよい」
それが、山の民の老人の答。言葉では伝わらぬ物があるとの意を含ませたようだ。
筆記板と炭とを携えたエルリック・シャークマン(eb4123)が、山の民の若者の一人に求める。
「シーハリオンに飛来した物の姿を明かにしたいのです。その特徴を教えていただけますか?」
若者は炭を手に取ると、筆記板に尖った三角を描き、それに向けて直線をすうっと引く。何を表すのか、エルリックにはよく分からない。
「これは、何を?」
若者は先ず三角を指さし、
「これが聖山シーハリオン」
次に直線を指さして言う。
「その空飛ぶ物は、こんな感じで飛んできたのです」
若者の言葉を受け、山の民の老人が話し始める。
「和解の成った今だから全てを話そう。前にも話したことじゃが──去年の年の終わりに、空の途方もなく高い所を何かが流星のような速さで横切り、シーハリオンを囲む嵐の壁に突っ込んだのじゃ。たまたま外で遊んでいた子ども達が最初にそれを見つけ、何人かの大人もそれに気付いた。その姿はあまりにも小さく見え、一瞬のことだったので詳しい形は分からない。しかし飛び方からして鳥でもドラゴンでもナーガでもなかったという」
その時はさほど気にも留めなかったが、その後に聖山が不気味な轟きを発し、血染めの羽根も含めてヒュージドラゴンの羽根が数多に降り注ぐ異変が起きたのだ。さらに老人は話す。その異変のすぐ後に、土地に住むナーガの民の賢者がやって来たと。元々、山の民はナーガをドラゴンの使いとして崇拝しており、その教えを乞いに山の民がナーガの住処を訪ねることは珍しくはない。しかしナーガの側から山の民を訪ねて来るのは、極めて異例のことだった。
「ナーガの賢者は告げた。『シーハリオンで大いなる異変が起きた。だが、その異変の何たるかについて、今はまだ明かす時ではない。我等ナーガの民は、これまでは人との交わりを避けて生きてきた。だが、これからは違う。我等は人への監視を強める。今後は我等の多くの者が、人里へ下りるであろう』とな」
「もしや、その賢者とは‥‥」
携帯電話のメモリーから祈祷師の画像を呼び出して、クロウが示す。老人は頷いた。
「いかにも。そのお方じゃ。我等、山の民がナーガの民の賢者とまみゆる時、賢者はその姿をお取りになるのじゃ」
「しかし、ヒトを監視するとは。ヒトの何を監視しているのでござろう?」
再び葵が問うと、老人は首を振る。
「賢者が我等に明かされぬ故、そこまでは分からぬ」
ともあれ、ナーガの賢者の言葉により、山の民は疑いを抱いた。シーハリオンに飛来した空飛ぶ得体の知れぬ物は、もしや一連の異変やナーガの民からの警告と関係があるのではないかと。その後、彼ら山の民は交易のためウィー訪れた折り、聖山に向かうフロートシップの話を耳にして驚いた。フロートシップがシーハリオンに向かえば、さらなる災いがもたらされるのではないか? それを恐れたが故に山の民は町で騒ぎを起こし、町の領主によって捕らえられたのである。これがようやく明かされた、事の顛末であった。
「さて。シーハリオンに飛来したのはカオスの魔物か、新手のモンスターか、それとも魔法兵器の類なのか。そしてそれは果たしてヒュージドラゴンを害し得るものなのか」
ロイ子爵と二人だけの場で、そう切り出したバルザー・グレイ(eb4244)に、ロイ子爵は諭す。
「待て待て。そう結論を急ぐでない。精霊や魔法の絡んだ現象とも考えられるが、それが聖山の異変と関係があるとはっきり決まったわけではない。しかし、不可解な‥‥」
思案顔のロイ子爵に、バルザーは提案した。
「もしやジーザム分国王陛下のお膝元でなら、答が分かるやもしれませぬ。陛下のお抱えになるゴーレム工房には、その方面に明るい知恵者が揃っています故。一度、ジーザム陛下にもお伺いを立てては如何でしょう?」
「ジーザム陛下か‥‥」
しばし考え、ロイ子爵は考えを決めた。
「良かろう。機会を見て、ジーザム陛下には私からお伺いを立てるとしよう」
●セレ分国への到来
セレ分国領内に入ると、そこはもう広々と森が広がるばかり。森の中を流れる川に沿って進むと、川沿いの開けた地にフロートシップの発着所が設けられていた。既にマリーネ姫の座乗船アルテイラ号は到着しており、その隣に並んだミントリュース号から降り立ったロイ子爵の一行を、セレの騎士達が出迎えた。が、騎士たちは甲板にでんと置かれたバガンとウッドゴーレムに怪訝な顔をする。
「今回、セレ分国を訪ねた目的は、ドラゴンとの和平交渉を行うためです。聖山巡礼の際の折りにマリーネ様がドラゴンに襲われたこともあり、バガンを一応持ってきましたが、どうかご理解いただけると幸いです」
ディーナが求めると、セレの騎士達は寄り集まって議論を始めた。分国内でのバガンの使用を認めるか否か? 結論はなかなか出ず、ついに王宮へのお伺いを立てることに。早馬で遣わされた使者は夕刻までに戻り、一行の前で分国王の詔を読み上げた。即ち、『持ち込まれたる各種のゴーレムは、分国の民や財物を害さぬ限りにおいてのみ、その使用を認める。なお、分国に広がる森の木々も、分国の民と等しきものと見なす』と。これを聞いてディーナは嘆息した。木が密に生い茂る森の中で、木を倒さず枝を折らずに図体のかさばるバガンを動かすのは、甚だ困難だ。
「バガンはこのまま、抜かずの剣としておきましょう」
シャリーアは決めた。森の中で動かすなら、クロウが借りてきたウッドゴーレムの方が適している。
騎士の案内で一行はリシェル・ヴァーラ子爵の館に招かれ、もてなしを受けた。マリーネ姫一行は別所に滞在しており、そこはリシェルの叔父である大貴族の邸宅だとか。もてなしの席では、シャリーアが贈り物として持参した数々の酒を皆で楽しむ。マリウス・ドゥースウィント(ea1681)はリシェルにも、マリーネ姫がドラゴンに会う時の立ち会いを求めた。
「ご同席頂ければマリーネ姫もお心強いと思いますし、感動を分かち合えて喜ばれる事でしょう」
セレ分国内で他分国の者が勝手に振る舞っていると受け取られぬための誘いだったが、リシェルは歓迎式典の準備があるからと、これを固辞。
「その代わり、森をよく知る私の騎士達を同行させましょう」
森への案内人としてリシェルの選んだ騎士は皆、森のことを良く知り尽くしていた。勿論、森に住むドラゴンのことも。ドラゴンについて冒険者達が問うと、騎士達は住む場所やその姿形などを色々と説明し、うち一人が最後にこう付け加える。
「ともあれ、百の話を聞くよりも、実際に会ってみるのが一番よく分かります」
●セレの森のドラゴン
翌日。先日に遡上して来た森の川を、ミントリュース号はさらに上流へ向けて進む。
「ここで降りて下さい」
案内の騎士に言われるまま、一行は川の岸辺に降りた。もともと整地されていない場所なので、ウッドゴーレムを下ろすのには苦労した。
セレの騎士を先頭に立て、皆は深い森の中に足を踏み入れる。薄暗い森だが、頭上をびっしりと覆う枝の合間からの木漏れ日が、ちらちらと輝いて美しい。
「うは、森の中はなんか落ち着くなぁ‥‥」
ディーナも森を故郷とするエルフの一人。森の中の空気は清々しい木の香りに満ちて、心地よい。
「アギャ! アギャ!」
奇妙な叫びが聞こえた。森の木の合間に何やら動く影。皆が足を止めて見やると、それは小さなドラゴンの仔。ドラゴンパピィである。小さいとはいっても、並の人間よりもやや高いくらいの背丈がある。パピィは森の中で小動物を追っていた。
そのさらに奥には、何やら蠢く大きな影が三つ。
「あそこにいるのがフォレストドラゴンです」
セレの騎士が指さして言う。そこは木々の少ない開けた場所で、フォレストドラゴンのたまり場となっていた。話に聞いた通り、苔むした岩のような緑褐色を持つ、6本足の翼無き竜だ。横に寝かせたバガンよりも体は大きく、鱗と棘に覆われた長い尾を持つその巨体の影にも、小さなパピィの姿が見え隠れする。大人のドラゴン達は穏やかに唸りながら、長い尾でパピィをあやしている。
「どうしよう? 近づいて大丈夫かな? こんな時、テレパシーが使えたならよかったな‥‥」
ティアイエルが残念がる。
「ドラゴンのスモール種ともなれば、会話はできるだろう。高度な内容は期待できぬが。さて、会話をどう始めたものか。フォレストドラゴンを始めとする地の竜は、比較的に温厚だという話しだが、子連れでもある。何か誤解でもあれば、拙いことになりかねない」
思案しながらシュナイアス・ハーミル(ea1131)は仲間たちを見回し、その視線が山の民の老人に留まった。
「お願いできるか?」
「任せるがよい。この手の事には馴れておる」
老人は自信たっぷりにうなずくと、二度三度ゆったりと息をし、謡い始めた。
「オーオーオー、オーオーオー」
人の言葉よりも竜の唸りに似せた謡い。言葉としては聞き取りにくいが、精霊力の摩訶不思議な働きで、その意味は自ずと理解できる。
「我等は竜を恐れ、崇め奉る。竜よその爪を、牙を、我等に向けることなかれ」
その謡いの響きはどことなく、パピィをあやすドラゴンの唸りにも似ていた。
山の民が説明する。
「あれは、竜との出会いを為す者の謡いです。古くより、我が一族に伝えられてきました」
そして若者も老人に続き、謡い始める。謡いながら歩み寄る彼らにフォレストドラゴンが目を向け、竜のうなり声で訊ねてきた。
「おまえ達、わしらの仲間か?」
声に竜の唸りのような響きを持たせ、老人が答える。
「仲間と認めて頂き、感謝致す。竜よ、そなた達に会いたいという者をお連れした」
そして老人は皆を招く。先ず、レイ・リアンドラ(eb4326)が竜の前に進み出て告げた。
「我々は人と竜族との和平のために、この地を訪れました」
「わへい? 何やら心地よさげなものだな」
「はい。争いなく、平和が続くことは真に喜ばしきこと」
「争いなく、へいわか。確かにな。竜の縄張りに五月蠅い獣や人間どもが入り込まず、毎日が穏やかなのは良いことだ」
「‥‥‥‥」
レイは困ったように顔をしかめ、仲間達を見る。フォレストドラゴンの知性では、彼の話やここに来た目的を理解できようはずもない。
「アギャ! アギャ!(あ、面白い生き物だ!)」
近くにいたパピィが、ティアイエルの連れたペットのトカゲに好奇心を覚えて寄ってきた。
「食べちゃだめ!」
トカゲを腕の中に隠すティアイエルだが、パピィは面白そうにティアイエルの体を突っつき回す。
「アギャ! アギャ!(見せて! 見せて!)」
見かねてバルザーがパピィを引き離そうとしたが、シュナイアスに止められた。
「ドラゴンの仔に手を出して、親が機嫌を損ねたら拙い」
「‥‥まあ、いいか」
バルザーも苦笑し、じゃれ合う一人と一匹を様子見。
「あはは! くすぐったいからやめてってばー!」
「アギャ! アギャ!(この生き物も、面白い!)」
見ればどちらも楽しそうだ。マリウスもしばしその様子に見とれていたが、気を取り直してアーディルの耳に囁いた。
「やはり、スモール種のフォレストドラゴン相手にまともな交渉は無理だ」
「では、より上位種に話をつけるか。話によれば、この森にはミドル種のドラゴンも住んでいるはず」
アーディルはフォレストドラゴンに頼み込んだ。
「我々は和平のために、この森のミドルドラゴンと会って話をしたい。居場所を教えてくれるか?」
「ミドルドラゴン? この森の主のことか? 会いたければ、ついてこい」
フォレストドラゴンはそう促すと、のっしのっしと森の奥へ進み始めた。冒険者たちも後に続く。
「いよいよミドルドラゴンとの対面か」
「流石に武者震いがしますな」
ロイ子爵とそんな会話を交わしながら、その身辺警護に気を配るバルザー。その背後を、シャリーアの乗ったウッドゴーレムが守る。と、フォレストドラゴンの一匹が、ウッドゴーレムに近づいてきた。何事かと一瞬身構えたシャリーアだが、フォレストドラゴンはその鼻先でゴーレムをつんと押すと、呟いた。
「こんなに大きくて不格好な人間を見たのは、初めてだ」
森のさらに奥深くへと進んだ一行はいきなり、ぽっかりと開けた空間に出くわした。ここは人里から離れた場所だというのに、木々を取り払って作られたような森道が延々と続いている。頭上は伸び広がる巨木の枝で覆われ、さながら森の中に作られたトンネルだ。
「これは‥‥」
しばし考え込み、アーディルは思い当たった。
「ミドルドラゴンの通り道だな!」
獣道ならぬ竜道である。
「ここで3日か4日も待てば、そのうち森の主に会えるだろう」
呑気にもフォレストドラゴンは言ってのける。マリウスは慌てた。
「3日か4日‥‥そんなには待てません!」
しかし森のドラゴンは何知らぬ顔。すると、近くで何やら魔法詠唱の響き。葵の声だとすぐに分かった。こっそりチャームの魔法をかけたつもりの葵だが、ドラゴンは鈍感なのか、その事に気づかぬ様子。そして葵は居住まいを正してドラゴンの前に座り、深々と頭を下げて訴える。
「お願いでござる。拙者達は急ぐのでござるよ」
「やれやれ。ちっぽけな生き物は、せわしいのぉ」
答えるや、ドラゴンは首を大きく逸らす。
「オーオーオーオー!! オーオーオーオー!!」
その喉から高らかに轟く咆哮。最初の1頭に続き、残る2頭も咆哮を轟かせる。竜の咆哮のコーラスが森に広まり、しばらくすると竜道の遙か向こうから、ずしんずしんという地響きが轟き始める。
やがて、クエイクドラゴンの巨大な姿が現れた。
●森の主
さながら、小山が動くようである。現れたクエイクドラゴンは、フォレストドラゴンの倍ほどにも巨大で、その体は深い緑色と茶褐色の斑模様の鱗に覆われ、その頭に大きな角を戴き、人を丸飲みできそうな巨大な顎の周囲は見るからに恐そうな棘で覆われている。
「わしを、呼んだか?」
雷鳴の轟きのごとき咆哮で、森の主は問うてきた。
「この生き物達が、会いたいと言うので」
フォレストドラゴン達は一礼するように頭を低くし、引き下がる。クエイクドラゴンの大きな頭が、高い所から冒険者達を見下ろしていた。
恐怖を感じないと言えば嘘になる。しかし、先ず鎧騎士レイが大いなる竜の前に進み出た。敬意をもって一礼し、王国からの使者として堂々を口上を為す。
「偉大なる竜族へ申し上げる。我ら人は竜族との争いを望んでおりません。先の聖山シーハリオン巡礼では互いの理解不足ゆえ、一部のナーガ族と争いとなりました。そのような過ちを繰り返さないため、我らがエーガン陛下は竜族との和平をお望みです。相互理解のための会談の機会を設けるため、そのお力を貸して頂けないでしょうか」
「お前は何を言っておるのだ?」
竜は不可解に感じている様子。
「シーハリオンでのことはシーハリオンの竜に聞け。ナーガのことはナーガに話せ。この森はわしの森。森を荒らす者をわしは憎み、分を弁えて森に暮らす者をわしは受け入れる。それ以外のことなど、わしの知ったことか」
ここで再び、葵がチャームの魔法を唱えようとした。しかし魔法詠唱の響きを聞くや、たちどころにドラゴンの巨大な前足が葵の間近に振り下ろされる。
どおおん!
地面の激しい震動に葵はよろめき、魔法は中断。さらに頭上から破鐘のごときドラゴンの怒鳴り声が。
「おのれは魔法でわしをたばかる気か!」
心臓の止まる心地ながらも、葵は平伏して詫びる。
「何とぞ、ご容赦を。拙者に危害を加えるつもりはござらぬ。むしろ聖山での異変を正すこと、強く願う余り、魅了の魔法を使う誘惑にかられ‥‥無礼をお詫び申す」
「まあ、よかろう」
ドラゴンの前足が葵の側から離れて行く。
アーディルがドラゴンの前に進み出て訊ねた。
「大いなる竜よ。時に、この地に姿を現すというシャドウドラゴンのことをご存じか?」
「おお、知っておるぞ。あれは、わしと同格の者」
「我等はそのシャドウドラゴンに会い、我等の意思を伝えたいのだが。仲介をお願いできまいか?」
「ちっぽけな生き物のお前達に、わしがわざわざか?」
「何とぞ、宜しくお願い申し上げる」
深々と一礼するアーディル。しかし、続くドラゴンの言葉は無い。ただ沈黙だけが続く。
アギャ、アギャ──。楽しそうな声がきこえてきた。皆と一緒にくっついてきたパピィが、またもティアイエルにじゃれついている。
「ずいぶんと懐かれたものだな」
その姿に感じ入ったか、クエイクドラゴンは目を細める。やがてドラゴンは答えた。
「よかろう。今日はわしの機嫌もいい。ちっぽけなお前達のために、一働きしてやろう。ついて来るがよい」
●人と竜との和平の魁
クエイクドラゴンに続いて森道を歩き続けると、深い森の中にぽっかり開けた場所に出た。地面は焼けた木の欠片で埋まり、薙ぎ倒された木々がその回りをぐるりと囲んで、森との境を為している。
「ここは落雷で山火事が起き、森が焼けた跡でな。わしが急いで駆けつけ、火が燃え広がらぬよう木を倒したおかげで火事はおさまり、跡にはこのような焼け原が出来たというわけだ」
焼け原のど真ん中に居座ると、森の主は天を仰ぎ見るように頭をもたげ、咆哮を轟かせた。フォレストドラゴンのそれよりも何倍も力強い、雷鳴のごとき轟き。それがどれほど長く続いたことだろう。気がつくと、空に大きな影が現れた。シーハリオンで冒険者が目撃した、あの黒いドラゴンだ。
「あれが、シャドウドラゴン‥‥」
暫し、アーディルはその姿に見入る。聖山で目撃した時よりも、その姿はさらに間近にあった。その体は黒曜石にも似た輝きを持つ黒い鱗に包まれ、さながら夜の闇から抜け出してきたよう。シャドウドラゴンはしばし焼け原の回りを旋回していたが、やがてその姿が森の巨木の向こうに消える。
暫くして森の中から人影が現れた。シーハリオンで一夜を過ごした時、冒険者達の前に現れた美しき黒髪の女性だった。
「貴方達は‥‥ナーガ‥‥なのか?」
クロスの問いに女性は答えず、ただ微笑む。そして皆に言う。
「私は、黒き竜の使いです」
再び、鎧騎士レイが王国からの使者として進み出た。竜の使いに恭しく一礼すると、先ほどと同じように朗々とした声で人と竜との和平を訴え、相互理解のための会談をウィル王国が望んでいることを伝える。
「ゴーレム機器の発達により人と竜族との関係も変わってくるでしょう。ですがそれをより良き変化とすることも可能です。シーハリオンを騒がした事件に対しても、人だからこそできる協力もあるはずです」
竜の使いは静かにレイの言葉に耳を傾けて、最後に答えた。
「あなた方の和平の求めを、私の一族の長老達に伝えましょう。ですが、人が竜と対等の立場に立つのは、並大抵の事では出来ませんよ」
ここで、シンが竜の使いに頼む。
「聞いて欲しい。実は我等の姫がすぐ近くまで来ている。会ってはもらえまいか。それに‥‥」
シンはクエイクドラゴンに向き直り、続ける。
「我等の姫も、森の竜に会いたがっている」
竜の使いはドラゴンに訊ねた。
「森の主よ、如何いたします?」
「今日は何かと機嫌が良い。この生き物達の願い、聞き届けてやろうではないか」
その言葉を聞き、シンはドラゴンに一礼。姫を迎えに馬を走らせた。
やがて、姫の一行が到着。そしてクエイクドラゴンの立ち会いの元、3人の者がウィルの国を代表して、人と竜との和平を誓った。その3人とはハーベス・ロイ子爵、ルーケイ伯与力の男爵グラン・バク、そしてマリーネ・アネット姫である。誓いのなされた焼け原は人と竜との和平の地とされ、シャリーアの携えてきた月桂樹の苗木が友好の証として植樹された。
その全てを見届け、森の中へ姿を消そうとする黒髪の女性を、クロスは呼び止める。
「教えて欲しい、今聖山を始めとする一連の事件の裏で何が起きているのかを!」
女性は振り向き、答えた。
「人に教えられれば、それをそのまま信じるのですか?」
そして、森の中に姿を消す。ややあって空に黒いドラゴンの姿が現れ、すぐに飛び去っていった。
●山の民との別れ
森の竜と会って後、セレ分国での友好式典も無事に終わり、冒険者達は帰途に着く。途中、宿場町ウィーの近くに来ると、いつか見た銀色の竜と金色の竜が近づいてきた。
「我が友とする民を迎えに来た」
そう伝えると竜達は飛び去ったが、ミントリュース号が町の近くに着陸すると、見覚えのある祈祷師と奇妙な娘がやって来た。
迎えに来た彼らに山の民を預け、クロスは言う。
「もしも王都ウィルを訪れる時には、私もお手伝いします」
「覚えておこう」
祈祷師は短く答えた。
「これは、キミに進呈する」
祈祷師に連れ添う娘にグランが贈呈したのは、地球製のサッカーボール。
「剣よりは遊べる。それからキミの呼び名だが、『フレイ』というのはどうだ? 向こうの世界では天候の女神様の名前だ」
「素敵な贈り物に名前を有り難う」
娘はにこやかに答えた。冒険者達は彼らに別れを告げ、程なくミントリュース号は王都を目指して町を離れた。