竜の力を継ぎし者5〜王都編1
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■シリーズシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:15人
サポート参加人数:7人
冒険期間:05月08日〜05月13日
リプレイ公開日:2006年05月15日
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●オープニング
竜とその眷属との和平を求めて訪ねたセレ分国。ロイ子爵と冒険者の一行は深き森へと足を踏み入れ、森の主であるクエイクドラゴンと、黒竜の使いを名乗る美しき女性との対面を果たした。和平の誓いはクエイクドラゴンの顎に手を当てて為される。
「我は誓う。人と竜との和平を求め、たとえそれが如何に困難なる道であろうとも、最後まで歩みぬくことを」
与力の男爵に続き、ロイ子爵とマリーネ姫も厳粛に誓った。
「その言葉、森の主であるこのわしが確かに聞き届けたぞ」
地響きにも似た厳かな声がクエイクドラゴンから返ってきた。立会人ならぬ立会竜というわけだ。黒竜の使いもまた厳かに告げる。
「和平の誓いの為されたこの地を、人と竜との和平の地とします。今後、和平のための話し合いが必要になった時には、この地を訪ねなさい」
それからおよそ3週間後。王都ウィルへ帰還したロイ子爵は王宮からの呼び出しを受けた。早速、城に出向いたロイ子爵だが、通されたのは『獅子の間』。数名のみしか入れないその部屋は簡単な謁見の時に用いられる。が、時には余人に知られてはならぬ密談にも用いられる。
部屋を守る衛士によって扉が開かれるや、ロイ子爵は驚いた。なんと、エーガン・フオロ国王の隣にはジーザム・トルク分国王が座していたのだ。
国王と分国王の間近に歩むや、ロイ子爵は片膝を着き、深く頭を垂れて臣下の礼を為す。そして王の言葉を待った。
「ロイ子爵よ、面を上げよ。今日、その方を余の王城に招いたる理由の一つは、トルク分国王の言葉を直々に伝えんが為だ」
ウィル国王の言葉に続き、トルク分国王から言葉が賜られた。
「赤心篤き国王陛下の臣下なるハーベス・ロイよ。その方からの書状、確と読ませてもらった」
分国王の手にしたるは、ロイ子爵より送られたる書状。聖山シーハリオンでの異変について記したものだ。
「聖山での異変については理解した。天より降り注いだる血塗れのヒュージドラゴンの羽根。その後もかつてない程の数のヒュージドラゴンの羽根が降り注ぎ、竜の眷属として孤高を保っていたナーガ族も人里へ降り始めた。聖山にて何らかの重大事が起きたることは間違いなかろう。だが‥‥」
暫しの沈黙の後に分国王の言葉は続く。
「簡潔に話そう。それらの異変に先だって目撃されたる物。空の途方もなき高みを流星のごとき速さで横切り、シーハリオンを囲む嵐の壁を突破したという何物かの正体については、余の抱える賢者や学士達の間でも意見が分かれておる。なれど、トルクの王たる余の案ずるは、謎多きこの目撃譚より人心を惑わす噂や流言飛語が生ずること。ことにシーハリオンの聳える地はリグ、チ、ラオ、エの4国とも接するが故に、対処を誤るならば諸外国にもいらぬ波紋が広がることにもなろう。よってこの謎については謎のままとし、その謎を解き明かす試みを自重せられること、並びにこの謎についても妄りに口外せぬことを、余はトルクの王として切に望む」
この言葉は『これ以上その謎に触れてはならぬ』というジーザムの命令に等しい。
「御意のままに」
内心、くすぶる物を抱えながらも、ロイ子爵にはそう答える以外にない。分国王からは更なる言葉が。
「うむ。ハーベス・ロイよ、その方が竜とその眷属との和平に力を尽くしておることは、余も聞き及んでおる。和平がさらに進まば、今はシーハリオンの異変について固く口を閉ざす竜達とその眷属の口から、異変の謎が明かされる日も来よう。焦ることなくその日を待つがよい」
その言葉を残し、トルクの王は『獅子の間』を退いた。
「さて。その方を招いた理由はもう一つある。チの国の大使、ヴィヴィオラ・ヴィオル子爵を通せ」
王の求めにより『獅子の間』の扉が再び開かれ、残されたロイ子爵の前に高貴な雰囲気をまとった女貴族が現れた。彼女は恭しく王に敬礼し、王はロイ子爵に告げた。
「竜とその眷属のことで、その方に話があるということだ」
王の言葉を受け、チの国の大使はロイ子爵に一礼。簡潔ながらも畏まって挨拶の言葉を交わした後に話を切り出した。
「今年に入ってからの話ですが、チの国の中でもシーハリオンに近い土地で、これまで人との交流が滅多に無かったナーガ族が人里に下り、いざこざを起こす事件が頻発しているのです。里人のほうもナーガとの接し方が分からず、些細なことでナーガを怒らせてしまい、ナーガは口から炎を吐いて人々を脅したり、ドラゴンに変じて大暴れしたりという有様です。幸いにして死者は今のところ出ていない様子ですが。この本国からの知らせに心を痛めていた折りに、私はロイ子爵殿の話をさる貴族から伺いました。
マリーネ姫殿下の成し遂げたるシーハリオン巡礼行、並びにその成功に力を尽くしたるロイ子爵殿の偉業は、私も大いに感服するところです。私はチの国の大使としてその成功を讃え、チの国の大使館にてささやかながら祝賀会を催す準備があります。その席にて、先に述べたナーガの問題について協議し、ロイ子爵殿からの助言を頂きたく思います」
「そういうことであれば、私も協力を惜しみません」
ロイ子爵は快く同意した。
所変わって、ここは冒険者ギルド。
出入りする冒険者達に混じって、奇妙な娘がいる。
「ん? 始めて見る顔だな。新入りの天界人か?」
ギルドの事務員はそう思った。娘は奇妙な服を着ている。沢山の羽根飾りがついた毛皮の服だ。しかし奇抜な格好をした天界人など、そんなに珍しくもない。
「さあ、依頼の張り出されている掲示板はあっちだ」
事務員に示された場所に行き、奇妙な娘はしばし掲示板に目をやっていたが、何を思ったか肩に背負ったズタ袋をひっくり返す。中から出てきたのは地球製のサッカーボール。娘はそれを手に取って、指の上でくるくる回したり、放り投げたり、蹴飛ばしたり。
「こら! こんな所で遊ぶな!」
事務員が叱り飛ばすが、娘はてんで意に介さない。
「あたし、字が読めな〜い」
「なら、字の読める仲間に教えてもらえ」
「仲間? あたし、ロイ子爵とそのお仲間さんに会いたいんだけどな〜」
「ロイ子爵だって? もしや、子爵の依頼の関係者か? とりあえず用件だけでも伺っておこう」
「行方知れずになったあたしの一族の仲間を捜しているの」
「詳しく話してくれ。まず、行方不明者の人数は?」
「とりあえず、2人」
「その2人の名前は?」
「う〜ん、まだ決めてないのよね〜」
「は‥‥?」
娘の答に事務員はぽかんと口を開けた。
「名前を決めてないって‥‥なら、迷子ちゃんその1とか、迷子ちゃんその2とか呼ぶしかないぞ」
「じゃあ、それでいいわ」
「何‥‥?」
再び事務員はぽかんと口を開け、
「‥‥で、年齢は? 容姿は?」
「ん〜、年齢はあたしくらいだけど〜、今どんな姿をしてるか分かんな〜い。でも、2人もすっごく乱暴者だから、放っておいたら家とか人とか燃やしちゃうかも〜」
事務員、一瞬言葉に詰まる。
「‥‥分かった。では迷い人2人の捜索依頼ということで出しておく。ついては依頼主となる君が、冒険者に支払う報酬を用意して欲しいのだが」
「ん〜、これで足りるかな〜?」
娘は懐から小袋を取り出す。それを受け取り中味を改めて事務員は唸った。小袋の中には砂金がどっさり。
「‥‥いいだろう。で、君の名は?」
「フレイ。冒険者につけてもらった名前なの」
●リプレイ本文
●友好の印
「ご注文の品でございますが、このような意匠でいかがでしょう?」
銀細工職人が差し出す羊皮紙。そこに描かれているのは、エルリック・シャークマン(eb4123)の求めによってデザインされたブローチの絵。ヒュージドラゴンの羽根を月桂樹の葉が輪になって取り囲む。
「申しぷんありません。この形で作製をお願いします」
デザインはエルリックにとっても満足のいくものだった。これは、人と竜との和平のために動くロイ子爵と冒険者達の目印。人里に下りたナーガ達にそのことを分からせるべく、エルリックが発案したものだ。
「半月後には数を揃えてお届けできるでしょう」
職人は約束し、ハーベス・ロイ子爵の屋敷を辞去した。
「あの職人、腕は確かだ。国王陛下の晩餐会に身につけても恥ずかしくない品を作れる程にな」
ロイ子爵は請け負い、ふと思い立って言う。
「人と竜との友好の印か。うむ、実に分かりやすい。ブローチだけではなく、旗に描くのも良かろう。将来、我等のフロートシップが再びナーガの住まう地に乗り込む時には、その旗を掲げて友好の意を示すのだ。早速、その手配もせねばな」
その考えはエルリックにとっても非常に好ましく思えた。
「是非、お願いします」
●神秘のタロット占い
シャリーア・フォルテライズ(eb4248)の冒険者仲間が、人と竜とに関わるロイ子爵達の状況を神秘のタロットで占ってくれた。シャッフルされた後に並べられた7枚カードが、月明かりの下で1枚1枚めくられていく。
「これが、依頼を受けた冒険者の立場」
最初のカードは、『節制』の正位置。
「冒険者に影響を及ぼすのはトルク分国、チの国、人、そして竜」
最初のカードをぐるりと囲む4枚のカードがめくられる。『戦車』の正位置、『星』の正位置、『魔術師』の逆位置、そして『隠者』の逆位置。
「もしもゴーレムの存在が意味を持つとすれば、その影響は‥‥」
めくった結果は『力』の正位置。
「そして、近い未来に起きるのは‥‥」
カードをめくる。現れたのは『死神』の正位置。
「そして、これが最終結果」
最終結果は『審判』の正位置だった。
●フレイ
迷い人捜索の依頼を出したフレイは、シーハリオン巡礼行にて冒険者達に接触したナーガの娘に違いなかった。フレイは街の宿屋に泊まっていると、ギルドの事務員は教えてくれた。
「ウィルに来て、さっそくナーガさんに出会えるのは光栄です」
期待を胸に抱き、イリア・アドミナル(ea2564)は仲間と連れだって、教えられた宿屋に出向いた。ところが宿屋の主人は言う。
「フレイ? ああ、その娘なら昨日から帰って来ないんだがね」
その日は夜遅くまで待ってもフレイは現れず、翌日になって仲間達と手分けして、ようやくフレイを見つけ出した。
なんと、フレイは街の牢屋にぶち込まれていた。
「どうしてフレイさん、牢屋に入れられてしまったんですか?」
尋ねられて、牢番は答える。
「こいつは街で食い逃げを繰り返した不届き者だ。おまえ達が身元引受人となり、食い逃げした分の飯代を料理屋に支払うなら、釈放してやろう」
食い逃げした分の飯代、これは経費としてロイ子爵より下りる。
で、釈放されたフレイは冒険者街に連れて来られた。当面の彼女の泊まり場所となったのは、イナザ通り2番にあるシャリーアの住処。
「ふ〜ん。ここが新しいお家なんだ。あ〜! トカゲがいる!」
家で飼われているペットを見るや、フレイは子どもみたいに追いかけ回す。
「こら、人の家でそんなに騒ぐな」
フレイの名付け親、グラン・バク(ea5229)がたしなめた。
「では、詳しい話を聞こう。行方知れずの仲間2人だが、山を下りた理由は何だ?」
「ん〜とね。それは本人達に訊くのが一番じゃないかと‥‥」
「山を下りてから、まだ長くは経っていないんだな? その2人の名前だが‥‥」
「ん〜と。迷子ちゃんその1に、迷子ちゃんその2」
「ちょっと待て‥‥。前から思ってたんだが、嬢の一族には名前付ける習慣がないのか?」
「一族の名前ならちゃんとあるよ。だけでその名前は、一族の者以外に教えちゃいけないって掟があるの」
「‥‥そうか」
ここでグランに代わり、ティアイエル・エルトファーム(ea0324)が訊ねる。
「えっと‥‥仲間とは王都で行方知れずになったのかな?」
「違うわよ。いつの間にか、あたし達の村からいなくなっちゃったわけで〜」
「うーん‥‥。それで、今も2人は一緒に行動しているのかなぁ? もしバラバラだったら、探すの大変そうだよね」
「たぶん一緒だと思うけど、違うかもしれないし〜」
埒の明かない会話にじれったくなり、クロス・レイナー(eb3469)が単刀直入に質問。
「フレイさん達はナーガなのでしょう? 違いますか?」
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜、その質問には答えられな〜い」
「‥‥‥‥」
気を取り直して、再度の質問。
「仲間の2人は王都にいるのですか?」
「多分、ね」
「どうして王都に来たんです?」
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜、はっきり話しちゃうと不味いことになりそうだから、答えられな〜い」
めげそうになったが、なおも畳みかける。
「僕のこの剣にかけて、フレイさんの味方になると誓います。だから僕達を信じてください」
剣を手に誓ったが、フレイは相変わらず。
「ん〜、村に戻って長老と相談してからでないと、何ともいえないし〜」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
思わず額を手で押さえ込むクロス。
ここでイリアが求めた。
「フレイさん、あなたの体を魔法で調べさせて下さい」
「魔法を使うの〜?」
「呼吸の具合、それに魔法の影響を調べるだけです。危険はありません」
イリアはまず、ブレスセンサーのスクロールを広げて念じた。しかし分かったのは、フレイの呼吸する有様が周囲の仲間とまるで変わらないこと。
続いて、リヴィールマジックのスクロールを広げて念じる。しかしフレイの見かけに変化はない。
ナーガのフレイは魔法によって人間に化けているわけではないとイリアは察し、グランの耳に囁いた。
「僕の魔法で調べても、フレイは普通の人間とまるで変わりありません。彼女の仲間が人間に化けていたとしても、恐らく魔法では見つからないでしょう」
「こりゃ難儀だな」
ぼそっと呟くグラン。この調子では先が思いやられる。
「さあ、しっかり匂いを嗅ぐのよ」
ティアイエルはペットのハウンド犬アスティに、フレイの持ち物の匂いを嗅がせた。
(「何か変わった匂いはござらぬか?」)
山吹葵(eb2002)がテレパシーでアスティに尋ねると、アスティの思念が返事となって葵の頭の中に送られてきた。
フレイの体が発する匂いも、フレイの服が発する匂いも、普通の人間とさして変わらない。しかしただ一つ、ひどく目立つ変わった匂いがあった。
「む? これは、薬草のような‥‥」
その事をフレイに尋ねると、フレイは言う。
「あ〜そういえば、あたし達の村のお家では、いい香りのする草を使ってお香を焚くのが習慣なの」
「それじゃアスティ、この匂いをしっかり辿ってね」
ティアイエルが言い聞かせる。差し当たってはこれが唯一の手がかりだ。
●フレイの仲間探し
手がかりは無きにも等しかったが、冒険者達はフレイの仲間探しを始める。まずは王都ウィルから。
「‥‥流石に王都でナーガと住民がトラブルを起こしちまったら、今後の関係に悪影響が出かねんからな。早いトコ接触しねぇと」
シン・ウィンドフェザー(ea1819)はアシュレー・ウォルサム(ea0244)とペアを組み、街に乗り出す。冒険者酒場の前を通りかかった時、シンはふといつぞや酒場の大ホールで歓談した相手のことを思いだした。
「‥‥ったく、依頼に集中しなきゃならないってのに、ジェームスせんせも直前になってとんでもねぇ打診してくれるもんだぜ」
「え? ジェームス先生がどうしたって?」
連れのアシュレーが訊ねる。
「‥‥いや、こっちのことだ」
とか言いつつも、シンの顔に浮かぶのは状況を楽しんでいる者の笑み。
冒険者ギルドの前を通りかかると、声援が飛んできた。
「お〜い! がんばれよ〜!」
シンの顔見知りの仲間である。手を振り、さらに歩く。
「しかし、フレイの仲間のナーガ達はなぜこの王都ウィルに? まさか‥‥単純に人間世界の観光に来たって‥‥事は無い‥‥よな?」
シーハリオン巡礼行で冒険者達に接触してきたナーガ達は、山の民の姿となって現れた。だからシンとアシュレーの二人は、フレイの仲間も同様の姿をしているものと予想。市場や酒場など人の集まる場所を渡り歩き、携帯電話のメモリーに録画したフレイの画像を見せて尋ねて回る。
「こういう格好をしたヤツを見かけなかったか?」
「ほぉ! これは面白い。天界のアイテムだな? どれ、俺にもちょっと触らせてくれるか?」
フレイの姿よりもむしろ携帯電話に街人たちは興味を奪われがち。
「いいから教えてくれ。こういう羽根飾りのたくさん付いた、見慣れない服を着たヤツを見かけなかったかい? そういうヤツが街で暴れたとかいう話、聞いたことがないかい?」
「はん? そんなヤツ、とんと見かけないねぇ」
尋ねども尋ねども、人々は誰もが首を横に振るばかり。
一方、クロスとティアイエルも冒険者街の外れ辺りから仲間探しを始めていた。
「ふぅ、何かトラブルを起こさなければ良いのですが‥‥。竜と和平の誓いを為したばかりでトラブルが起きたらどうなる事か」
などと話しながら歩くクロスの後ろからは、フレイもついてくる。
「こういう格好をした人、見かけませんでしたか?」
フレイを連れて街中で聞き込みをしていると、通りかかった男がフレイを見て叫ぶ。
「あーっ! あれはいつぞや騒ぎを起こした食い逃げ犯人!」
「いや、食い逃げに関しては片がついたので、今は彼女の仲間を捜しているんです」
「何だと!? 食い逃げが他にもいるのか!?」
「いや、そうではなくて‥‥」
奇妙な格好をしたフレイは目立つ。先の食い逃げ事件のことがあるから、人々は胡散臭い目でフレイを見る。だが、肝心の聞き込みはさっぱり。アスティもまるで匂いを嗅ぎ当てられない。
「これだけ探しても、何も手がかりが無いなんて」
町中の広場に来たところで、しばらく一休み。
「ねえ、フレイさんはどうして食い逃げなんかしたの?」
ティアイエルが尋ねると、あっけらかんとフレイが言う。
「食い逃げ? 何それ?」
「‥‥あのね。人間の街のお店で食べ物を食べたら、お金を払わなきゃいけないの」
「あ、そうなんだ」
何気なしにティアイエルはオカリナを取り出し、吹いてみた。素朴な音色にフレイも気持ちよさげに耳を傾けつつ、ティアエイルの肩にちょこんと止まったペットのトカゲをしげしげと見つめている。一曲終えて、ふとティアイエルは思い出す。
「セレの森のパピィは元気にしてるかなぁ。機会があればまた遊びに行きたいな」
●大使の祝賀会
フレイの仲間探しが難航している頃。貴族街にあるチの国の大使館では、ロイ子爵と彼に付き添う冒険者の一行が大使のもてなしを受けていた。
「最初に出た晩餐会もそうだけど、緊張するなぁ‥‥」
祝賀会にはドレスを着ていこうか、それとも礼服を着ていこうかと散々迷った末、イブニングドレスに決めたディーナ・ヘイワード(eb4209)。いざ大使館に来てみると、自分達の他にも来賓がずらり。チの国の大使、ヴィヴィオラ・ヴィオル子爵と親しい貴族達である。ロイ子爵の顔見知りも多く来ているらしい。
「おお、貴公も来てくださったか。再会、嬉しく思うぞ」
来賓の一人一人に親しげに挨拶するロイ子爵、上品なドレスで着飾って采配を取るヴィオル子爵の姿を見ながら、ディーナは尚更に緊張する。
「ん〜、どこまで話していいものなのかなぁ。これってチの国の情報収集もあるんだろうなぁ‥‥あんまり気は抜けないのかな」
すると、年嵩のバルザー・グレイ(eb4244)がその耳に囁いた。
「まずは年長者の会話にしっかりと耳を傾け、交渉のやり方を学ぶがいい。‥‥おっと、エルフのディーナ殿は私よりも遙かに年長者であったな」
いつもはゴーレムマスターで通しているバルザーも、この晩餐会に当たってはびしっとした礼服を着込んでいる。
と、ドレスで着飾った娘達がやって来て、二人の鎧騎士に言葉をかける。
「シーハリオン巡礼の勇者達よ、こうしてお会いできましたこと、嬉しく思います」
同じく来賓として招かれた貴族令嬢達である。その上品な佇まいからして、冒険者達とは住んでいる世界が違うような。続いて、立派な礼服を着こなした青年貴族がディーナに挨拶した。
「この日が美しき貴方にとって、良き思い出の日となりますよう」
ディーナの手を取ってキスすると、青年貴族はディーナの手に見事な大輪の薔薇を握らせ、微笑みを残して立ち去った。果たしてあの青年にダンスの相手を求められたら、うまく踊れるだろうかと悩んでしまうディーナであった。
祝賀会のテーブルには、えり抜きの食材を使った豪勢な料理が並ぶ。楽師達の奏でる竪琴の音も耳に心地よい。
「では、ウィル国王エーガン・フオロ陛下とマリーネ姫殿下の栄光を讃え、並びにシーハリオン巡礼行を成功に導きたるハーベス・ロイ子爵の功績を讃えて、乾杯!」
乾杯の音頭と共に打ち合わされる杯。注がれた高級ワインを味わうと、それがまた旨い。
しかし、これはチの国の大使が主催する祝賀会。立ち振る舞いには慎重を期さねばならぬことを、マリウス・ドゥースウィント(ea1681)は十分に弁えていた。だから大使よりシーハリオン巡礼行の話を求められた時も、慎重に言葉を選んで対応した。
「フロートシップがドラゴンに襲われ、あの恐るべき巨大な姿を目の前にた時でさえ、マリーネ姫殿下は決して恐れを見せませんでした。あの時、船の魔法装置が破壊されていたら、そのまま谷底へ落下する危険もありました。しかし操船に携わる鎧騎士達は見事な手際でドラゴンの体当たりをかわし、船の主要部に被害が及ぶことを防いだのです。そして最も賞賛さるるべきは、バガンをもってドラゴンに組み付いた鎧騎士、シャリーア・フォルテライズの勇気でしょう」
話には適度の演出を加え、マリーネ姫や冒険者仲間の勇気を讃えた。勿論、公の場で語るべきでない事には触れずにおいたが、それでもマリウスの語りは大使に感銘を与えるに十分だった。
「あなた方はウィルの誇りです。私も心からの賞賛を惜しみません」
外交辞令とは分かっていても、大使からそのように褒められると誇らしくなるものだ。
「実はその勇敢なる鎧騎士より、ププリエ・コーダ卿への伝言を頼まれておりましてな」
ロイ子爵が言い添えた。
「いつか、国を越えて友として空で轡を並べる日が来る事を願っております。再会までどうかご壮健で──と、申しておりました」
「その勇敢なる鎧騎士のこと、ププリエ卿にも伝えおきましょう」
大使は答える。もっとも遠きチの国のこと。かの伝言が伝わるまでには時間もかかろう。
「時に大使殿。このウィルの国においては数多の天界人が出現していますが、チの国においては如何でしょう?」
マリウスが訊ねると、大使は即答した。
「既に噂でご存じかと思いますが、チの国においても数多くの天界人が出現しています。しかし天界人の受け皿として冒険者ギルドを作り、功績を成し遂げたる天界人には惜しみなく爵位を与えるなど、ウィルの国の天界人に対しての先進ぶりには目を見張るものがあります。これからの天界人諸氏の活躍に、私も大いに注目しています」
歓談が一区切りついた辺りで、大使は楽師達に合図を送る。それまでのゆったりした調べが、テンポの良い軽快なものに変わる。ダンスの始まりだ。
「踊りませんこと?」
ドレス姿のヴィオル子爵が誘う。
エルリックが恭しく進み出て、ヴィヴィオラ子爵の手を取り、ロイ子爵の元に導いた。
「貴方様と、我々、そしてロイ子爵、そしていつか国王陛下とマリーネ姫殿下とも手を携えるように。その始めとしてロイ子爵のお手をおとり下さい。その為に我らが掛け橋となりましょう」
「まあ!」
その言葉に意表を突かれながらも、ヴィオル子爵はロイ子爵の手を握り、二人は優雅に踊り始めた。
暫くして、執事が知らせを持ってきた。
「シャリーア・フォルテライズ殿より急ぎのシフール便が届いております」
マリウスが手紙を受け取り、目を通す。
『フレイの仲間探しに進展なし。引き続き仲間探しを続行中。なお、フレイにはこのシャリーアより王都の状況を出来る限り詳しく伝え、常に冒険者と行動を共にするよう注意を促す』
その一文を読んでマリウスはため息をつき、暫し優雅なるダンスの有様を眺めていた。
ヴィオル子爵は主催者だけあって、来賓達の人気も高い。ロイ子爵に続き、幾人もの貴族達がそのお相手をと求め、ヴィオル子爵は次々とパートナーを変えて踊り続ける。
ふと壁際を見ると、エルリックが所在なげに立っていた。
「ダンスの相手からあぶれてしまいましたね」
苦笑して言葉を向けると返事があった。
「まあ、良しとしましょう。我らは架け橋です。とは言うものの、掛け橋はお互いが寄らねば橋とはいえませんが」
願わくば、自らが国と国、人間と竜との架け橋とならんことを。
●ナーガ族の問題
大使館での祝賀会は終わり、主立った賓客達も姿を消す。
ロイ子爵と冒険者達にとって、本来の目的を果たすのはこれからだ。
大広間の後片づけは手際よくなされ、テーブルを囲む皆には香り高い紅茶と、とろけるように甘いお菓子が振る舞われた。紅茶も焼き菓子も、庶民の手には届かぬ高級品だ。
「では、本題に入ろう。最近になって人里に出没し、揉め事を起こすというナーガ族への対応だが‥‥」
話を切り出したロイ子爵は、ハルナック・キシュディア(eb4189)に視線を向けた。
「ここはハルナック殿の意見を聞こう。恐らくはこの中で一番、ナーガ族に対する理解が深いであろうからな」
ハルナックは大使に一礼。そして意見を述べ始めた。
「ナーガ族と接触するに際して最も留意すべきは、ナーガ族が無知であるということでしょう」
大使は、不可解そうな顔つきになる。
「ナーガ族が無知? 彼らは大いなる叡智を備えた竜の眷属ではないのですか?」
「確かに彼らナーガ族は、長らくそのように信じられてきました。ですが、人の社会における政治や文化といったものに対して、彼らは無知同然だと見なさねばなりません。
彼等は『人に対する監視を強める』と宣言しておりますが、実際に彼等が人の領域で行ったことから判断すると、監視する対象のこと──つまりは6種族からなる社会についての理解が極めて浅いか、監視対象に価値をほとんど認めていないか、もしくはその両方だと思われます。
先日、ウィルの冒険者ギルドを訪れたナーガ族の言動により、私はこう判断しました。
確かに彼等は竜のごとくに強く、神秘的なまでに美しい。ですがその2点およびドラゴンとの関わりを取り除いて考えた場合、極めつけな程に付き合い辛い存在です。
彼等と平和的に付き合うことを目指されるのであれば、2つのものが必要となります。1つは、彼等の無法に耐える心の準備。もう一つは、煮え湯を飲んででも彼等の価値観を知ろうとする努力です。
具体的には、国内の民に対して彼等を刺激しないよう布告し、その上で彼等との接触を統括する組織を立ち上げるのも1つの方法であると思います。
最後に一つだけ、お伝えしておきましょう。天界人の方から伺ったのですが、ジ・アースと呼ばれる天界には今から150年ほど前に、ナーガ族による虐殺が行われた国があったそうです。人間の行為が引き金になったそうですが、最終的に彼等が与えた被害は彼等が受けた被害の千倍です。‥‥現状は極めて深刻な事態であると思います」
ハルナックの言葉は終わったが、大使は何の言葉も返さず。ただ紅茶に口をつけ、そしてため息一つ。その立ち振る舞いは雄弁に彼女の心境を物語っていた。──これは厄介なことになった、と。
「大使殿。私からも提案があります」
バルザーが発言した。
「もしもチの国に竜の住む地があれば、竜族との協力を試みてはいかがでしょう? ミドル級以上の竜であれば、その智恵も人間に劣らず。ナーガ族に対しての良き仲介者となることが期待されます」
レイ・リアンドラ(eb4326)もすかさず同意を示した。
「私もバルザー殿と同意見です。竜の眷属たるナーガは竜に敬意を払っている様子。先日セレ分国では、森の主である竜を仲介者とすることで、ナーガ族は人による和平の誓いを受け入れました。困難なことかも知れませんが、チの国でも比較的穏健な種類の竜に対して貢物を為し、誠意をもって交渉してみてはいかがでしょうか。
また、シーハリオン近くの人里には交渉団を派遣すべきでしょう。竜族に関する知識とそれなりの地位のある者達によって、人里に来るナーガ族が何を望むかを確認し、彼らが友好関係を求めるならできうる限りの対応をすべきです。言葉が通じるのですから妥協点をさぐることもできるはずです」
「そうですね。相手を信頼しないと向こうも信用してくれませんから、まずは対話を図る尾がよろしいかと思います」
と、ディーナも言う。
「でも、ナーガさんにも穏健派と急進派みたいな方がいるみたいだし。‥‥あ、山の民みたいな人がチにいれば仲介してもらうのもいいかもしれません」
「山の民?」
大使が訊ねた。
「どの国にも属さないシーハリオン近くの土地で、ナーガ族を竜の使いとして崇めている人達のことです」
「成る程、彼らであれば‥‥」
と、エルリック。
「彼ら山の民はナーガ族に近き場所に住むが故、ナーガ族への接し方も我々以上に心得ているはず。ナーガ族と人、互いの無理解に対する衝突を避けるためにも、彼らの協力を得ることが望ましいでしょう」
マリウスも簡潔に自分の意見を表明した。
「ナーガ族が人里に降りてくるという事は、何かしらの目的があっての事。これまで人との交流したことがなく、交流の仕方を知る者がいないのでしょう。敬意を持ちつつも、まずは『癇癪持ちの子供』に対する様に接するのがよいかと」
一通り皆の意見が出揃うと、大使は厚く礼を述べた。
「貴重なご意見の数々、深き感謝と共に拝受します。ナーガの問題はウィルとチの両国にまたがる問題。その解決においては両国の識者が手を携えて事に対することが最も望ましいと、私は考えます。問題の解決には時間がかかるでしょう。しかし、私はチの国の大使としてあなた方への協力を惜しみません。機会があればまた、このような会合を持ちましょう」
●冒険者街の住処で
足かけ3日、王都のあちこちを歩き回って探したが、フレイの仲間の手がかりはまるで見つからない。手分けして探し続けた者達も、日が暮れると疲れた足で冒険者酒場に向かい、皆と落ち合って今日一日の報告する。
「チャリオットレースのコース周辺も、街中を流れる川の船着き場も探したのじゃがな‥‥」
と、ヴェガ・キュアノス(ea7463)。
「船着き場といえば、王都の南を流れる大河にも船着き場があるはずじゃの。明日はそこへ行ってみるかの」
会合が終わると、冒険者達は冒険者街にあるそれぞれの住処へ戻る。ただしヴェガは自分の住処ではなく、フレイの泊まるシャリーアの住処に向かった。フレイにセトタ語の文字を教えるためである。
フレイの学習能力は意外と高い。たった3日のうちにセトタ語のアルファベットと数字を覚え、自分の名前も『フレイ』と書けるようになった。
「いや、見事じゃの」
これにはヴェガも感心。
「あは。褒められちゃった」
フレイはヴェガに人なつっこい笑顔を向けた。
夜も遅くなり、ヴェガはシャリーアの住処を辞去。見送るシャリーアに、ヴェガは囁いた。
「フレイもそうじゃが、ナーガ族は人間とどう接したら良いかわからぬお子様のようなものかの。思考は些か異なろうとも、こちらから相手を理解するよう努めれば、道は開けるかも知れぬの」
ヴェガが帰ると、シャリーアとフレイは寝支度を整える。自分のベッドにはフレイを寝かせ、シャリーアは床の敷物の上に寝る。
「ん〜。人間の住処って、あたしの村の家に比べたら狭いわね〜。狭いのはいいけど、体を巻き付けられる柱があると、もっといい感じだけど〜」
フレイが言った。
「え? 体を巻き付ける?」
「あ‥‥なんでもな〜い」
フレイが空とぼけて答え、シャリーアはくすっと笑った。3日も寝起きを共にしたお陰で、最初と比べたらずっとうち解けた仲になっていた。
「ところで探し中の2人の仲間、呼び名はキリーナとヴァレリーではいかがか?」
「キリーナ? ヴァレリー? ‥‥何だかいい響きの名前。それでいいわ」
暫くすると、フレイはすやすやと寝息を立て始めた。
●船着き場の街
王都に近い大河の畔、ここにガンゾという船着き場の町がある。ここまで足を延ばした冒険者達の目の前に広がるのは、対岸が霞んで見えない程に広い大河。その川面には渡し船や、遠方の地より来る交易船が浮かぶ。
冒険者達は、ガンゾの町でそこそこに繁盛している酒場に足を向けた。
「へい、いらっしゃい! あんた達も向こう岸に向かうのかい?」
「いいや、人を捜しているんだが‥‥」
酒場の親爺にグランが話しかける間、ヴェガは何気なしに酒場の客たちの会話に耳を傾けていた。
「‥‥いやまったく、大事に飼っていた豚が立て続けに盗まれちまったよ。あんなに厳重に柵で囲っておいたのに、豚泥棒の野郎、空からでも忍び込んだか?」
(「空から忍び込んだとな?」)
ヴェガはその言葉にピンときた。すると、客の連れが言う。
「それより、武器屋の親爺のたわけ話を聞いたか? なんでも夜道で竜に襲われて、売り物全部巻き上げられちまったんだとさ!」
「夜道で竜に!? 冗談きついぜ! 酔っ払いすぎて悪い夢でも見たのと違うかい!?」
ここまで聞いたら居ても立ってもいられない。気がつけばヴェガは客達に訊ねていた。
「竜に襲われたその場所まで、案内してもらえるかの?」
「いや、あんたらも物好きな人達だねぇ」
件の場所まで冒険者達を案内すると、酒場の客だった男達はチップを手にしてほくほく顔で帰っていった。‥‥ちなみにチップは経費で落とせる。
そこは何の変哲もない、ガンゾの町から王都へと延びる街道の入口。町の門に立つ番兵にグランが訊ねる。
「この辺りで竜を見た者がいると聞いたが?」
途端、番兵に笑い飛ばされた。
「ああ、例の騒ぎだな? ありゃ酔っ払い親爺の戯言だ」
近くに遊んでいる子ども達がいたので、彼らにも尋ねてみる。
「この辺りで竜とか、あるいは何か変わった物を見なかったか?」
すると、その言葉を待っていたとばかりに子ども達は答えた。
「竜かどうかは良くわからないけど、大きな鳥みたいなものが、あそこに見える森に住み着いたみたいだよ」
子ども達の指さす方向には、確かにこんもりした森があった。
「アスティ、匂いを嗅いで」
ティアイエルが地面を示して、ペットのハウンド犬に命じる。アスティはくんくんと地面を嗅ぎ回り、わんわんと吠えた」
「葵さん、お願い!」
「心得てござる」
葵はテレパシーでアスティとの意思疎通を図る。アスティの思念が葵の心に伝わってきた。フレイが発していた香草の匂いが確かにそこには残っていた。だが、それだけではない。皮の匂いに鉄の匂い、そして獣の血の匂いも。
「‥‥これはいささか面倒なことになりそうでござる」
●怒れるナーガ
冒険者達は森に近づく。木の下には動物の骨が散らばり、頭上に目を凝らすと見慣れない生き物の影がある。
「人間ではありません。まるで大きな蛇のようです」
ブレスセンサーを使って確かめたイリアには、その言葉のごとくに感じられたのだ。
「あの〜! そこに隠れているのは、フレイさんのお仲間さんだよね!」
ティアイエルが呼びかけるが、返事はない。
突然、樹上を見上げる冒険者達の背後から、怒りの声が。
「人間どもめ! ここで何をしている!?」
振り返ると、皮鎧に身を包んだ若い娘が立っていた。その手に握る剣の切っ先は冒険者達に向けられている。
「あ! 見〜つけた!」
調子っぱずれな声を上げたのはフレイ。その顔を見るや、娘は冒険者達に背中を向けて逃げ出した。
「待て! 逃げるな!」
フレイの手にするサッカーボールを取り上げ、逃げる娘に向かってグランが蹴り飛ばす。
ボンっ!
ナイスシュート! サッカーボールは娘の背中に勢いよく命中。そして娘の足が止まる。
「遁走したということは、悪いことをしたという自覚はあるようだな?」
声をかけるグラン。娘がゆっくり振り向く。
「おのれ! よくも人間の分際で!」
怒りに燃える眼差しを向け、全身から怒気を放ち、娘が怒鳴った。その喉から竜の咆哮のごとき唸りが放たれたかと思いきや、娘の体が信じられないほど巨大に膨れ上がった。
それからおよそ1時間後。
「こりゃ一体、どうしたことだ!? 森の中で竜でも暴れたか!?」
騒ぎの知らせを聞き、駆けつけた町の兵士達は、薙ぎ倒された木々を見てびっくり。
その頃、辛くも難を逃れた冒険者達は一路、王都への道を急いでいた。フレイは傷だらけでボロボロ。その体を図体の大きな葵が担いで運んで行く。
「やはり、あなた達はナーガだったのだな?」
問いかけるシャリーアに、フレイは虚脱したように笑いながら答えた。
「あははは、バレちゃったのね〜」