竜の力を継ぎし者6〜王都編2

■シリーズシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:15人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月05日〜07月10日

リプレイ公開日:2006年07月13日

●オープニング

 ここは船着き場の町ガンゾの外れ。こんもりした森に冒険者達が近づくと、木の下には動物の骨が散らばり、頭上に目を凝らすとそこには見慣れない生き物の影。
「人間ではありません。まるで大きな蛇のようです」
 ブレスセンサーを使って確かめた仲間には、そのように感じられた。山を下りたきり行方知れずだったナーガが、こんな所に隠れていたとは。
「あの〜! そこに隠れているのは、フレイさんのお仲間さんだよね!」
 呼びかけても返事はない。
 突然、樹上を見上げる冒険者達の背後から、怒りの声が。
「人間どもめ! ここで何をしている!?」
 振り返ると、皮鎧に身を包んだ若い娘が立っていた。その手に握る剣の切っ先は冒険者達に向けられている。
「あ! 見〜つけた!」
 調子っぱずれな声を上げたのはフレイ。その顔を見るや、娘は冒険者達に背中を向けて逃げ出した。
「待て! 逃げるな!」
 フレイの手土産にとプレゼントしたサッカーボールを冒険者のナイトが取り上げ、逃げる娘の背中に向かって蹴り飛ばす。
 ボンっ!
 ナイスシュート!
 と、ボールを背中に受けた娘の足が止まり、振り向いた。
「おのれ! よくも人間の分際で!」
 怒りに燃える眼差しを向け、全身から怒気を放ち、娘が怒鳴った。その喉から竜の咆哮のごとき唸りが放たれたかと思いきや、娘の体が信じられないほど巨大に膨れ上がった。
「うわあああああーっ!!」
「ガアアアアアアアーッ!!」
 冒険者達の叫びに覆い被さるのは、恐るべきドラゴンの咆哮。今、冒険者達の目の前には見るからに巨大で、全身真っ赤なドラゴンがいる!
「この人達に手を出してはダメ!」
 フレイが叫び、次いでその喉から竜の唸りに似た響きを放つ。そしてフレイもまたドラゴンに変身した。すらりとした姿の金色の竜に。しかし相手の真っ赤なドラゴンと比べたら、大きさも気合いも迫力負け。
「邪魔立てするなぁ!!」
 真っ赤なドラゴンが金色のドラゴンにのしかかり、その恐ろしい前足でぶちのめしまくり。金色のドラゴンは悲鳴を上げつつ冒険者達に叫ぶ。
「私に構わずに逃げてぇ!」
 冒険者達は大慌てでその場から逃げ出し、その背後では森の木々が盛大にへし折られる音が響く。
 暫くして冒険者達が戻って来ると、隠れていたナーガ達の姿はどこにもなく、全身ボロボロになったフレイだけが伸びていた。
「まさか、竜の喧嘩に巻き込まれるなんて‥‥」
「で、これからどうする?」
 顔を見合わせて思案する一同。
「土地の者達には悪いが、今は早くこの場を離れよう」
 幸い、森の木が倒された以外に被害はない。もっとも森の木だって立派な土地の財産である。が、今はナーガのフレイを一刻も早く、何も知らぬ人々から引き離さなければ。下手に土地の者に捕まったら、また大騒ぎになりかねない。事情をきちんと理解させるのは後回しだ。
 冒険者達は急ぎ帰路に就き、王都へ向かう。
「やはり、あなた達はナーガだったのだな?」
 冒険者に背負われたフレイに問いかけると、虚脱したような笑みと共に答が。
「あははは、バレちゃったのね〜」

●チの国の学士
 あの大騒ぎからかなりの時が過ぎ、今は6月も終わり。その間にはルーケイでの合戦もあったが、ことドラゴン騒動に関しては平和な日々が続いていた。
 しかし、ロイ子爵の頭痛の種は尽きない。王命によりナーガとの和平を任された身であるが、ガンゾでの騒動の後始末には骨が折れた。
 森の木の損害については土地の領主にきちんと弁済。さらに多額の口止め料も支払った。勿論、ロイ子爵の自腹を切って。領主の元にはロイ子爵自らが出向き、申し引きをした。
「今はまだ明かせませぬが、然るべき時が至れば全てをお話し致しましょう。その時まで、何とぞこの事は内密に」
 とりあえず領主は承諾し、秘密を守るとの約束を得た。しかしこんな騒ぎをそう度々も起こされ、その後始末に駆けずり回されたならば、ロイ子爵は間違いなく破産だ。
 そしてロイ子爵の頭痛の種の一つ、フレイと言えば、
「さかな♪ さかな♪ さかな♪」
 暇さえあれば遊び回っている。いつぞやのファッションショーに飛び入り参加して以来、ゴスロリのドレスはフレイのお気に入り。ひらひらのフリル盛りだくさんのドレスに身を包み、口ずさむ歌は今大流行とかいう魚の歌。
「さかな♪ さかな♪ さかな♪ さかながたべた〜い♪」
「頼むから静かにせんか」
 思わず小言を一つ。そこへ執事がやって来た。
「フレイ様、お散歩の時間でございます」
「わ〜い! お散歩♪ お散歩♪」
 執事がフレイを連れて行く先は、冒険者街である。なにせロック鳥だのグリフォンだのコカトリスだの、物騒なペットを平気で飼っている場所柄。ナーガの1人や2人連れ込んだところで、どうということはあるまい。
 フレイの姿が消えた後、しばらく子爵が背もたれ椅子に座って考えを巡らせていると、来客があった。チの国の大使館からの使者であった。
「チの国の大使、ヴィヴィオラ・ヴィオル子爵様からの書状をお届けに上がりました」
 外交官からの書状に目を通すと、それは晩餐会への招待状だった。先にも大使館での晩餐会に与ったが、今度の晩餐会はチの国の学士、・サフィオリス・サフィオン卿を迎えて催されるものだという。
「サフィオリス卿は、やはり学士であらせられるサフィオラル・サフィオン卿の弟君であります。兄弟共にチの国にて鉱山開発の仕事に携わってこられましたが、山岳地帯ではナーガ族と出合う機会も多いことにより、そちらの研究も深められてきたお方です。ヴィオル子爵様はこのサフィオリス卿を、是非ともロイ子爵の相談役にお付けしたいとお望みです」
 と、使者は言う。
 ロイ子爵の心は、王より授かりし使命に立ち返った。大使からの招待に対しては、厚き礼の言葉と共に受諾。しかし使者が帰った後、再び背もたれ椅子に座って考えを巡らす。
「ヴィヴィオラ殿のお計らいには感謝致すとしても、やはり相手は外国人であるからな」
 外国人はなべて敵視せよ、とまで言うつもりはない。ヴィオル子爵は尊敬に値する人物だと心得ているし、その推挙する学士ともなれば、やはり一角の人物であることは間違いなかろう。その助言があれば、ロイ子爵が使命を果たすための大きな助けにもなるはず。
 しかし国と国同士、互いの大義を背負って剣を交えることもある。戴く王が異なる以上、相手が外国人とあらば、気を引き締めて相対しなければならない。
「さて、フレイはどうするか? 一緒に晩餐会へ連れていくか、それとも‥‥」
 暫し思いめぐらした末、ロイ子爵は決めた。
「フレイについては、冒険者に任せるとするか」

 そして冒険者ギルドの案内板に、ロイ子爵からの依頼が張り出される。
『我、ハーベス・ロイはこの度、チの国大使館で催される晩餐会に招かれる運びとなった。ついては同行する冒険者を求む。晩餐会はナーガに詳しいチの国の学士、サフィオリス・サフィオン卿を迎えてのもの。サフィオリス殿への質問を歓迎す。但し、不作法によりウィルの国の体面を損なうことなきを望む』

●今回の参加者

 ea0324 ティアイエル・エルトファーム(20歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ノルマン王国)
 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea1681 マリウス・ドゥースウィント(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1819 シン・ウィンドフェザー(40歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea6360 アーディル・エグザントゥス(34歳・♂・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)
 eb2002 山吹 葵(48歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb3469 クロス・レイナー(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb4123 エルリック・シャークマン(30歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4189 ハルナック・キシュディア(23歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4209 ディーナ・ヘイワード(25歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4244 バルザー・グレイ(52歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4248 シャリーア・フォルテライズ(24歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4326 レイ・リアンドラ(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

ソウガ・ザナックス(ea3585)/ バニス・グレイ(ea4815)/ リィム・タイランツ(eb4856

●リプレイ本文

●ナーガ達は山を下りた
「未だにナーガ族が山を降りて来る目的が判りません」
 と、マリウス・ドゥースウィント(ea1681)が言う。
「ただの物見遊山でない事は、以前の騒ぎから察せられます。その厳かさをかなぐり捨てるほどの怒りがあるというならば、一体何が起こったというのでしょうか? 怒れる原因が分からないのに暴れられても困ります。
 ともあれ、少なくとも『異変』は起きました。そして、異変はさらに起きるのかもしれません。彼らの口から真実を伝えられるまでは、可能な限り情報を集めて推測するしかなさそうです」
「折角フレイが来ているんだ。彼女に確認を取ってみよう」
 提案したのはグラン・バク(ea5229)。
「答えなくていいので、否定できるものがあればお願いする」
 そう前置きして、フレイの前で話を始めた。
「そもそもの始まりは、ナーガにとって聖域である聖山シーハリオンでの異変だ。最初の異変が、シーハリオンをぐるりと取り巻く嵐の壁に、空飛ぶ謎の存在が突っ込んだこと。次なる異変は、シーハリオンの麓に血まみれのドラゴンの羽根が降り注いだこと。最初の異変との関係は不明だが、ほぼ時を同じくして何かが月のヒュージドラゴンを害したものと推察できる」
「ん〜?」
 僅かに首を傾げるフレイ。でも否定はしない。
「で、この異変については、ナーガ族の間には下界の人間に咎があるという論調がある」
「ん〜?」
「そしてナーガのうち、血の気の高い二人が長老の許可を得ることなしに、異変の犯人探しをするために無断で山を降りた」
「ん〜?」
「それでフレイのほうは正式に長老の許可を得て、『彼らを連れ戻す』役目を命じられた。他の一族の者と違い、彼女には冒険者という伝があった。‥‥と、いうところじゃないのか?」
「あ〜〜〜〜〜!」
 返事の代わりに、フレイはとぼけた叫びを上げる。しかし結局、否定はしなかった。つまりはそういうことだったのかと、グランは納得。
「で、聞きたいことが一つある。勝手に山を下りたあの二人を、大人しく捕縛する方法やルールはないのか? 見付かれば大人しく帰る、という訳ではなさそうだが」
「ん〜とりあえず〜見つければ何とかなると思ってたんだけど〜」
「その手のルールがないとなると、ゴーレム数体使って力ずくで取り押さえるとか‥‥」
「ゴーレム‥‥あひ〜!」
「好物の食事を用意して一服盛るとか、そういった策が必要になる」
「一服盛っちゃうと後でコワいかも〜」
「ともあれ、先はサッカーボールをぶつけて失敗して申し訳ない。言いくるめ役の仮面のお姉さんがいないことも敗因だが」
「仮面のお姉さん?」
「‥‥いや、こちらのことだ」
 言いくるめ役は某・凄腕調教師の女王様に頼むとして、鞭一つで竜を手懐けられたらさぞかし見物だろうが、失敗して余計に大惨事になるのは困る。
 ここで、レイ・リアンドラ(eb4326)がフレイに質問。
「ずばり、訊ねましょう。竜族は何を人間に望んでいるのですか?」
「ん〜、あたしとしては〜、みんなと楽しく仲良くできればいいな〜って思うけど〜」
「少なくとも、ナーガの中には人間との友好関係を築きたいと願う者も、いるということですね? それは我々も同じです。しかし、勝手に山を下りたあの二人を放置すれば、両者の友好を台無しにしかねません」
 ガンゾの町はずれの森に隠れていたナーガ二人。一人は下半身大蛇の姿で樹上に身を潜め、もう一人は人の娘の姿を取って冒険者達の前に現れた。しかしあの大暴れの後、ガンゾの近くで竜やナーガを見かけたという話は聞かない。

 そして冒険者達は、これからチの国大使館での晩餐会に向かう。但し、フレイを連れて行くことに対してはバルザー・グレイ(eb4244)が異を唱え、ロイ子爵に提言。
「フレイを連れて行けば、他のナーガ族が介入してくる危険もあります。不測の事態が発生すれば、チの国との関係悪化を招きかねません」
「確かにそれは困る。ナーガが大使館を襲ってはおおごとだ」
 ロイ子爵もこの提言を飲み、フレイはお留守番に決定。
「あの‥‥」
 ちょっと上目遣い気味に、ティアイエル・エルトファーム(ea0324)がロイ子爵に尋ねた。
「何かな?」
「‥‥フレイさんが出席しない方向なら、あたしも一緒にお留守番をしていようかなって思って。‥‥それでもいいですか?」
「ふむ。それも良かろう。フレイのお目付役、しっかり頼むぞ」

●フレイと一緒に晩ごはん
 晩餐会組がぞろぞろと出発すると、ロイ子爵の屋敷にはフレイとティアイエル、それにシン・ウィンドフェザー(ea1819)と山吹葵(eb2002)の4人が残る。
「さて、聞きたいことは色々あるが。‥‥つか、お前もゴスロリかよ?」
 実はあのファッションショーには、シンの義娘のレンも参加していたので、フレイのゴスロリ姿は妙に気になる。
「それはそうと、ルーケイのことをお前はどう思う?」
「ルーケイ? それっておいしいの?」
「そうじゃない。ルーケイってのはだな‥‥」
 シンはルーケイでの一連の動きをフレイに説明してやった。冒険者アレクシアス・フェザントが王命によりルーケイ伯に任ぜられ、そこへ身代金1千ゴールド事件が起き、ルーケイ伯はその報復を果たした。身代金をせしめた盗賊団はゴーレムを含む軍勢により、徹底的に殲滅させられた。──と、自らも盗賊討伐戦に参加したシンは、あの戦いで自分の見た事実も織り交ぜて話して聞かせ、最後にこう結ぶ。
「ゴーレム兵器の導入により、人間はこれまで手にし得なかった強大な力を、急速に我が物としつつある。これについてはどう思っているんだ?」
「ん〜〜〜〜〜」
 フレイは考え込む。シンは答を待った。しかしフレイは、ひたすら唸りっぱなし。
「ん〜〜〜〜〜、ん〜〜〜〜〜、ん〜〜〜〜〜」
「おい、いつまで考えてるんだ?」
「だってぇ〜、答えるのに難しすぎぃ〜」
「ともかく‥‥一番の問題は、行方不明な連中がどう思っているか、だな。あの連中は何をしにここまで来たんだ?」
「あ〜、だからそれは〜答えられな〜い」
 相変わらず、フレイははぐらかす。
 気がつけば、日もだいぶ西へと傾いてきた。
「ここでじっとしているのも、退屈でござるな」
 とか言って、葵がジャパンの相撲よろしく、しこを踏み始める。
「何やら、無性に体を動かしたくなってきたでござる」
「そうだ! みんなで美味しいもの、食べに行かない?」
 ティアイエルが言った。
「もちろん、あたしの奢りだよ♪ でも、一人で勝手に行動したり、騒ぎを起こしたりしないでね」
 と、フレイには言い聞かせておく。

 そうしてフレイと一緒にやって来たのが、お馴染みの酒場『騎士の誉れ』。美味しい物を食べるなら、ここが一番手っ取り早い。
「注文をお願いしますね。何がよろしいですか?」
 受付の女の子に求められるとフレイは、
「ん〜とね、パンに豆のスープにバジリコスパゲティに山鳥のシチューにハンバーグにぃ‥‥」
 メニューの全部を読み上げるので、シンがフレイの横腹を軽く小突く。
「自分だけで独り占めするんじゃないぞ」
 やがて、4人のテーブルにごっそりと料理が並んだ。
「どう? 王都へきてから何か楽しいこととかあった?」
 ティアイエルに訊ねられ、
「うん、ここは楽しいよ。ファッションショーとか、ゴスロリとか、ボウケンシャガイとか、色々あるし〜」
 と、フレイ。
「あれからお仲間さんの行方は掴めた?」
 さらに訊ねるとフレイは首を横に振る。
「やっぱり気になるよね。今頃何処でどうしてるんだろうね? でも‥‥なんでフレイさんの顔を見て逃げ出そうとしたのかなぁ?」
「まあ、あたしの村でも色々あったから〜」
「ねえ、フレイさんの村ってどんな所なの? そのうちに遊びに行ってみたいな〜」
「あ〜、それは‥‥まだ秘密だから〜」
「無理にとは言わないけど‥‥でも、ちょっとだけ」
 すると、フレイはティアイエルの耳に囁く」
「長老様が許して下さったら、教えてあげるね〜」

●人と竜との和平の印
 チの国大使館へ向かう馬車の中。ロイ子爵は携えて来た木箱を開け、中にずらりと納められたブローチの一つを抓み取り、しげしげと眺めてご満悦。
「うむ。見事な出来映えじゃ」
 エルリック・シャークマン(eb4123)の提案により、細工物職人に作らせたブローチだ。人と竜との和平の象徴。ヒュージドラゴンの羽根を月桂樹の葉で囲んだデザイン。中央の羽根は金、その回りを取り巻く葉は銀製である。
「貴族の晩餐会に身につけるにも相応しい。まずは発案者の貴公に」
 間近の席に座るエルリックに、ロイ子爵はブローチを手渡そうとした。が、エルリックは固辞する。
「このブローチは、先ずロイ子爵からサフィオン卿へ友好の証として進呈して頂きたく。その後、サフィオン卿から参加者に授与していただくのが宜しいかと思います」
「成る程。それは良き考え。では、そのように計らおう」
 やがて、馬車は大使館に到着。一同が中へ通されると、既に晩餐会の準備は整い、身なりのよい紳士が彼らを待っていた。
「私が学師サフィオリス・サフィオンです。こうして皆様方とお会いできたこと、喜ばしい限りです」
 にこやかな笑顔で挨拶するサフィオリスは、結構な好男子である。チの国大使の覚えめでたき学師だけあって、その物腰には品格がある。見るからに貴族界での社交経験を積んだ人物だ。
 先の大使館での晩餐会と比べると、今回は派手さ控え目。賓客として招かれたのはロイ子爵と冒険者達のみだ。しかしテーブルに並ぶ料理は相変わらず豪勢だし、余興のダンスのために楽師達も侍っている。
「サフィオリス殿。こちらは人と竜の和平の象徴として、匠の手で作らせたるブローチ。我等が人と竜との和平の使者たることを示す物。貴公の博識に敬意を表し、ひとまずこの全てを貴公に託そう。後は貴公の手により、これを我が仲間たる冒険者達に配って頂きたい」
「斯様な栄誉ある役目を担わせて頂き、光栄です」
 ロイ子爵は和平の象徴たるブローチを差し出すと、サフィオリスは慇懃な態度でそれを受け取った。ロイ子爵はブローチの一つを選び、サフィオリスの胸に飾る。続いてサフィオリスが、その一つ一つを冒険者達の胸に飾った。
「これで、準備は整いましたね」
 各自の杯に上物のワインがなみなみと注がれる。
「それでは我等の出会いを祝し、乾杯!」
 大使の音頭で、祝いの杯は打ち鳴らされた。

●チの国の学師
「‥‥いやしかし、このチーズは本当に美味しい」
 冒険談を披露する合間、マリウスは晩餐会で供されるチーズ料理に舌鼓を打ち、お世辞ならず褒め言葉を口にする。固めのチーズ、柔らかめのチーズ、薫製、ハーブ入りと、料理に出されたチーズはよりどりみどり。その中でも一番美味しく感じられたのが、鍋の中で溶かしたチーズに魚貝や肉を浸して食べる料理だった。
「これらのチーズはいずれもチの国の名産品で、いずれもチの国では王家御用達の栄誉に預かったものばかり。これらのチーズは月道によってチの国より取り寄せられ、味を損ねぬようウィルの国においても専任のチーズ職人を付け、専用の熟成庫にて保管されたものなのです」
 話のついでに、サフィオリスもついついお国自慢。大使館ならではの贅沢である。
 チーズの他にも、チの国の学師は色々なことを話してくれた。何でもサフィオリスは貧乏貴族の子弟だったが、大貴族のパトロンを得て勉学に励む機会を得て、学師として身を立てた。鉱山開発の仕事を得て、チの国ではあちこちの山々を歩き回ったが、時には雪崩れに巻き込まれ、時にはモンスターに襲われて死にかけたことが何度もあったとか。
「すごい! まるで冒険者ですね!」
 思わず口にしたディーナ・ヘイワード(eb4209)の賞賛の言葉。学師は照れたように笑った。
「いやいや、さしもの私もあなた方には及びません。バガンに乗って空中で竜と取っ組み合うなど、やはりウィルの国の冒険者はやる事がひと味も二味も違います」
 その言葉ににっこりと答えたのが、ドレス姿のシャリーア・フォルテライズ(eb4248)。
「私がその竜と取っ組み合った張本人。ルーケイ与力が一人、シャリーア・フォルテライズです。どうかよしなに」
 周囲からの暖かい笑い声がシャリーアを包む。
「そうでしたか、貴方が。噂には聞いていましたが、あの名高き勇士とこれほど早くお会いできるとは」
 サフィオリスの褒め言葉も、当人にとっては照れくさい。
「ところでサフィオリス卿は、御国にて竜の方にお会いされた事はありますか?」
「私が最初に竜と出合ったのは、9歳の時でした。遠出した山奥で道に迷い、気がついたら竜の住処に足を踏み入れていたのです。そこで巨大な銀色の竜と出会いました。温厚な竜だったので、竜の住処からは無事に戻ることが出来ましたが。成長して後、記憶を頼りに調べたところ、その竜は陽の属性を持つサンドラゴンであることを知りました」
 サフィオリスの話は聞いていて興味尽きなかったが、バルザーは近くに居合わせた大使お付きの騎士に話を向けてみた。
「さて。ルーケイでの戦いの話を耳にしておいでかな? ゴーレム兵器が派手に立ち回ったと聞いている。時代は変わりつつあるようだ」
「話は聞いております。ルーケイの戦いなどはほんの手始め。今にゴーレム同士で合戦を繰り広げる時代が訪れるのかもしれませぬ」
「こと精霊魔法にかけては、チの国はウィルの先を行くと聞く。さらにウィルのゴーレム技術が伝わるならば、さぞや見事なゴーレムが作れるであろうな」
 さりげなくチの国の最新軍事情報について、当たりを入れる。騎士は答えた。
「チの国は永世中立を国是とする国柄、ウィルとの戦争を望むものではありません。ですが、仮に近い将来、両国でゴーレム同士のトーナメントが行われるとしたら──それは、さぞや盛大なものになるでしょうが──チの国はウィルに遅れを取ることはありませぬぞ」
 ルーケイのみならず、ショア伯の動きもバルザーにとっては気になるところ。別件の依頼ではショア伯と対面する機会を得たが、それについては差し障り無き範囲でロイ子爵に伝えてある。

●皆でダンスを
 美味しい食事を楽しんだ後は、余興のダンスだ。
「では、お手を」
 マリウスはチの国の大使ヴィオル子爵の手を取り、優雅に踊り始めた。先に開かれた晩餐会では、ヴィオル子爵が知古の貴族達を大勢呼び寄せたものだから、その手を取る暇もなかった。しかし今回は、心ゆくまで彼女とのダンスを堪能できる。
「不思議ですね。天界の方なのに、こんなにも息を合わせて踊れるなんて」
 マリウスの耳元に囁くヴィオルに、にこりと笑って答えるマリウス。
「こちらの世界に来てからもう長いのです。流行りの曲もステップの踏み方も、すっかり覚えました」
 その隣で踊るのは、サフィオリスとディーナのペア。
「あ‥‥!」
 ディーナが小さく叫んだ。
「どうしました?」
「また、ステップを間違えちゃった」
「気にすることはありません。踊るうちにダンスは上手くなるものです」
 学師の言葉に、ディーナは照れ笑い。
「ところで、エルフのレディ。セレの森でドラゴンに会ったそうですね」
「ええ。姫様達と一緒に、森の主へお目通りしました。とても力強いお方で‥‥」
 答えるディーナの脳裏に、あのクエイクドラゴンの巨大な姿が浮かぶ。思い出すだけで圧倒されてしまいそう。
「機会があれば是非、私も森の主にお会いしたい」
 そう口にしたサフィオリスの視線は、どこか遠くを見ているかのよう。

 最初の相手とひとしきり踊ると、パートナーを変えて踊る。それまでレイと踊っていたイリア・アドミナル(ea2564)の次なる相手は、アーディル・エグザントゥス(ea6360)。
「ごめんなさい。折角の大使館でのダンスなのに、冒険者の僕が相手で」
「いや、気にすることはない。冒険者相手の方が気が楽だ。一介の冒険学者の身にとって社交界の敷居は高いし、居心地が悪い。今日は余計な貴族達が来ていないから、前と比べて楽だが」
 と、答えるアーディル。見知った仲間が多いのはいいとしても、ダンスになると馴染みの相手とばかり踊ることになる。
「それでも、ドレスで着飾ったキミは貴族令嬢と見違えるようだ。がさつな冒険者にはとても見えない。‥‥あ、失礼」
 苦笑するアーディルにイリアは微笑み返す。するとアーディルはイリアの耳に囁いた。
「本当のところを言うと、自分はダンスなんかよりも、サフィオリス卿の話を聞きたい。同じ学者の身としては、ナーガの動きがとても気になる」
 一方、チの国の大使の新たなパートナーとなったのはレイ。
「一つお尋ねしたいのですが、チの国でのナーガの問題は、その後どうなりましたか?」
「貴方はダンスよりもむしろ、そちらに関心がおありのようですね」
 そのように答えられたレイは、うっかりステップを間違え、ヴィオルの笑いを誘う。そしてヴィオルが答えるには、
「詳しくは後に、サフィオリスより話があるでしょう」

「ロイ子爵殿、折り入って相談したい事が‥‥」
「うむ」
 エルリックに誘われ、ロイ子爵は二人して大広間でのダンスを中座し、バルコニーに移った。
「暫くここで休むか。どうした、浮かぬ顔をして?」
「話だけ伝わればよいのなら、私である必要はないのでしょうね。私がここにいる意味合いがわからなくなってしまった‥‥」
 寂しげなエルリックの目線の先には、シャリーアの姿。今はサフィオリスと一緒にダンスを踊っている。
「シャリーアのことで、悩みか?」
 ロイ子爵に問われ、エルリックは頷く。
「私はシャリーア殿を友だと思っていた。でも、私宛にシフール便がくることはなかった‥‥。きっと、私である必要性はないからでしょう。‥‥彼女と空を舞う日がくればと、竜と供に飛べる日がくればと、望んで今までやってきましたが、今は翼を広げる心さえ重たい」
 そう言い切った後、エルリックは言葉も出ずにロイ子爵の言葉を待つ。しかしロイ子爵は黙したまま。不安にかられ、ロイ子爵を見ると‥‥どこか困惑したような、それでいて優しい目で微笑んでいた。
「ロイ子爵‥‥」
「いや、困った。私の見立てたところ、そなたの悩みとは詰まるところ‥‥う〜む、言うべきか言わざるべきか」
「構いません。おっしゃって下さい」
「失恋、であるかな?」
「‥‥え!?」
「いや、間違っていたら済まぬ。だが、似たような気持ちはこの私にも経験があるぞ。相手は高貴な貴族令嬢で、私など身分違いもいいところ。しかし当時の私はぞっこんで、それこそ死に物狂いで彼女の気を惹こうとしたが、結局は相手にされず仕舞い。それでかなり長いこと、もの凄く落ち込んだ」
「‥‥それからどうなったのです?」
「剣の修行にも身が入らなくなり、とうとう剣の師匠から水をぶっかけられ、どやしつけられたわい。『この大馬鹿者め! 竜の口に放り込むぞ!』とな。その後の稽古でもいやという程にぶちのめされた。真にオーガのごとく猛々しい師匠であったな」
 大広間の方からロイ子爵を呼ぶ声がする。大使から何か話があるようだ。
「さて、そろそろ戻るか。あまり相談に乗る時間も無かったが」
 そして、子爵はエルリックに囁いた。
「心の痛手からは自分で立ち上がるより他なし。そなたも私もそれは同じだ。己の志を貫き通し、人として恥じぬ一生を歩むその事自体に、他人からの口出しなど無用。ともあれ、まだまだ先行きは長いぞ」

●チの国のダンス
「一曲、お願いできませんこと?」
 ケンイチ・ヤマモト(ea0760)に大使が求めた。ケンイチは冒険者ながら、楽師として晩餐会に参加。大使館で雇った楽師達の中に混じり、リュートを爪弾いていたが、その美しき音色が大使の心を惹きつけたようだ。
「では私の故郷の歌を、一曲」
 手にするリュートは名工バリウスの手になる名器。その美しきメロディーに合わせ、ジ・アースの故郷イギリスの歌を歌う。歌い終えると拍手喝采がケンイチを包む。
「では、私も披露いたしましょう。我が故郷の歌とダンスを」
 大使ヴィオルの合図で、楽師達はそれまでとうって変わって、テンポの早く軽快な曲を奏で始める。
「これに合わせてダンスを?」
 格式ばった宮廷のダンスとは大違い。テンポが早いから付いていくのも大変そうだ。ヴィオルがにこりと笑う。
「それでは、最初はゆっくり」
 楽師達の奏でるメロディーが、ぐっとスローテンポになる。
「徐々に早くしていきましょう。ちなみに私の故郷では、この速さに最後までついて来れたカップルが、ダンスの花形として称えられるのです」
 そして始まるダンス。次第に早まるメロディーに、皆は大わらわになりながらも踊り楽しむ。そして最後に残ったのは、ヴィオルとサフィオリス。
「流石です」
「やはり、本場の人間には叶いませんね」
 冒険者からの賞賛の言葉に、サフィオリスは涼しい顔で笑って答える。
「子どもの頃より、ダンスを鍛えられましたので」

●ナーガ族対策会議
 晩餐会の翌日。同じ大使館の大広間に同じ面子が揃い、ナーガ族対策会議が催された。
「先ず知りたいのだが、ナーガの竜への変身能力はナーガ族としての能力なのか、それとも何らかの魔法によるものなのか? 魔法によるものであれば対策もまた、立てれるやも知れません」
 訊ねたバルザーに、レイも付け加えた。
「空を飛んだり火を吐いたりするのに加え、巨大な竜への変化は脅威ですからね」
「結論から言うと、ナーガが他のデミヒューマンに変身する能力は、ナーガが生来的に持つ特殊能力です。ただし、ナーガの竜変身だけは竜語魔法によるものです」
 と、サフィオリスは答える。
「竜語魔法?」
「ドラゴンやナーガなど、竜の声帯を持つ存在のみが使役できる魔法です。人間やエルフなどには使いこなすことの出来ない魔法です。この竜語魔法を操るナーガは、ドラゴンホーラーと呼ばれます」
 この竜語魔法には色々な種類があると、サフィオリスは説明した。例えば、竜の鱗を体表に纏い、術者が持つ鱗の防御力を高める『竜の鱗』、術者のブレスの威力を高める『竜の息』、術者の身体に眠る力を引き上げて攻撃力や筋力を倍にする『竜の力』、等。
「これらの魔法の中でも最も強力なものが、大型のドラゴンに変身する『竜の姿』なのです。ただし魔法故、制約もあります。たとえ魔法でドラゴンに変身したとしても、その効果時間は1回の魔法使用につき数分間に過ぎません。また、サイレンスなどの対抗魔法で、魔法の発動を阻止することも可能でしょう」
 続いてマリウスが訊ねた。
「チの国に出現したというナーガ族について詳しい事を教えて貰えませんか? 彼らは友好的だったのか、それとも敵対的だったのか。そして彼らは何かの目的を持っていたのかを」
「チの国のナーガについては私の兄君であるサフィオラル卿が対処しており、その報告に私も目を通しています。私の見立てたところ、チの国におけるナーガのトラブルは、互いの文化の違いによる誤解から発しています」
 サフィオリスは答え、さらに続けた。
「これまでシーハリオンのナーガが接触してきた人間は、シーハリオン周辺の中立地帯に住む山の民がほとんど。彼らはナーガをドラゴンの使いと崇め、貢ぎ物を携えてその教えを乞いにナーガの元を訪ねたのです。その関係は概して平和なものでした。
 しかしシーハリオンでの異変の後、人里に下りたナーガにとって、人間の社会は馴れないものばかりです。貢ぎ物のつもりで料理屋や屋台の食べ物に手を伸ばし、金を払わないものだから食い逃げと見なされる。関所では番人から乱暴な扱いを受ける。堪りかねたナーガ達は炎を吐いたり、竜に変身したりして人間を脅かすのですが、人間の側も初めてナーガを目にする者ばかりなので、混乱に一層の拍車がかかります。
 そしてナーガ達には、一つの共通点があります。それは彼らが『人間の監視者』を自認して人里に下りてきたということです」
 ここでイリアが発言。
「恐らくナーガ達は、聖山のヒュージドラゴンを傷つけた者や、傷つける際に使用された物体の手掛かりを探しているのではありませんか? ならば、我々もナーガの探している情報を追い、手に入れた情報はナーガの方々へ提供し、或いはナーガ達の探している者達を見つけ出し、引き渡すべきでしょう。それが人と和平の道に通じるやり方だと思います」
 続くハルナック・キシュディア(eb4189)の意見は大筋でイリアのそれと一致したが、ゴーレムの存在が投げかける懸念を含ませていた。
「ゴーレム登場以前なら、有る意味話は簡単だったと思います。ナーガ族を畏れ、『どうか何もしてくれるな』と希うだけで良かったのでしょうから。
 しかし今は違います。ゴーレムという強大な兵器が開発されただけではありません。新たな戦術を編み出して、ゴーレムや魔獣や兵士にこれまでの数倍の力を発揮させる天界人まで現れたのです。‥‥王国の為政者達にとっては、話し合いによる和平ではなく武力での対峙を選択する誘惑にかられかねません。それが今の情勢だと思います」
 ここまで発言したハルナックは、サフィオリスの深刻な面もちを見てしばし沈黙する。
「‥‥どうぞ、続けて下さい」
「競合する者を上回る戦力を持つことは悪いことではありません。ですが、勝っても得る物が無い戦を望むのは、控えめに表現しても幼い考え方でしょう。対ナーガ戦は、得る物がない戦の典型だと思います。
 先ずはナーガ族に、こちらの価値観を含む情報を伝えねばなりません。ただし、こちらの軍事力についてはぼかします。その上で、王国の為政者達の誤断を防ぐため、ナーガ族の正確な情報を集めたいところです」
 その言葉が終わった後、しばしサフィオリスは考え込む。その後で、彼は一つの提案を出した。
「私は以前、チの国よりシーハリオン周辺の中立地帯に入り、その地にある山の民の村で長く暮らしたことがあります。暮らすうちに村の長老の信頼を得て、彼らの崇めるナーガの賢者との面会を許され、実際に会って言葉を交わしました。あの村を再び訪ね、ナーガの賢者との接触を図ってみるのもいいかもしれません」
 その提案を聞くや、ハルナックはサフィオリスに手を差し伸べる。
「ウィルの国とチの国、そして諸国家の安全と繁栄のため、共に力を尽くしましょう」
 サフィオリスの提案を実現するにはフオロ王家の許しが必要だが、許可が下りれば一行はフロートシップに乗り、以前にサフィオリスがチの国より入った山の民の村を、今度はウィルの国の側より訪ねることとなる。
 会議の終わりに、クロス・レイナー(eb3469)はサフィオリスに誘いをかけた。
「出来たら非公式にでも会って欲しい人がいるんです。フレイという名で、普段は人間の姿をしていますが、実は行方不明の仲間を捜しに山を下りてきたナーガなんです」
 サフィオリスは即座に同意した。
「会いに行きまょう。私からも伝えたいことがあります」

●冒険者街の竜
 サフィオリスをフレイに引き合わせる為、冒険者達はロイ子爵の家に足を向ける。ところがフレイの姿が無い。
「フレイ様はまだお戻りになりませぬが」
 執事がそう言うので、冒険者酒場に行ってみる。ところがここにはいない。次に心当たりのある場所といえば冒険者街。行ってみると、グラシュテ通り7番にあるティアイエルの家の辺りに人集りが出来ていた。
「おい、ありゃ何だ?」
 なんとドラゴンがいる。体長6mにもなる金色のドラゴンが、葵と相撲を取っている。しかもそのドラゴンには見覚えがある。
「あれは、フレイだな」
 葵とドラゴンの間にグランが割り込んだ。
「おい、何やってるんだ?」
「いや、その‥‥フレイ殿が気の抜けたエールをちとばかり飲み過ぎて、気がついたらこんな事になっていたでござるよ」
 見事な筋肉を見せつけながらも、気まずそうに葵が答える。
 暫くすると、金色のドラゴンはフレイの姿に戻った。
「あはははは、何だかいい気持ちになっちゃってぇ〜」
「そんな事よりその恰好、何とかしたらどうだ?」
 フレイは何も身につけていない。目のやり場に困る。
「これはいわば、竜語魔法の副作用ですね。『竜の姿』でドラゴンに変身すると、身につけていた装備は地面に落ちてしまうのです」
 などと言いながら、サフィオリスはフレイに面と向かって言った。
「実は、近いうちにシーハリオンの間近に赴き、あなた方の仲間と会うことになりそうです」
「はぁ〜?」
 一瞬、フレイは目と口を大きく開き、唖然とした顔に。その後で一言、付け加えた。
「ま、いいけどさ〜」

●魔剣のマイスター
「ロイ子爵、少しお話したいことがあります」
「何であるかな?」
 ロイ子爵がクロスの言葉に耳を傾けると、クロスは言う。
「鍛冶屋を紹介して欲しいのです。冒険者として名を馳せたロイ子爵ならば知っていると思うのです‥‥魔剣すら造れるマイスターを」
「う〜む」
 頼みを聞いて、ロイ子爵は唸った。
「鍛冶屋の知り合いはいるにせよ、魔剣を造れるほどの腕の者となると‥‥」
「この先、必ず必要になると思うのです。カオスすら断てる刃が。個人的なお話ですから、そう気張らないで欲しいです。ただ、力が欲しい分けではありません。‥‥僕は護れる力が欲しい。それだけですよ」
「分かった。その話、覚えておこう。だが、時間はまだまだかかるであろうな」