新少年色の尻尾3〜消えた財宝

■シリーズシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月23日〜10月28日

リプレイ公開日:2006年10月28日

●オープニング

 毎月15日は月道貿易の夜。月道が開いてメイとの交易がなされる。持ち込まれる品物は、皆貴重品ばかり。原産地は判らぬが、ココナッツと言う堅い木の実、黒くてどろっとした砂糖の樽。そして香辛料。検品しながら羊皮紙に記されて行く。
「それにしても混雑しますね‥‥」
 若い娘が傍らのじいやに尋ねた。
「そうですなお嬢様。ま、それだけ財政が厳しいのでしょう」
 諸般の事情で今回から、誰でも金を支払えば利用できるようになったと聞く。但し、以前より月道貿易の独占がフオロ家の有力な財源となっていた。尤もこれらの品々の殆どは一般庶民がお目にかかれることは無いだろう。
 あちらでは、良質の毛皮のコートや宝飾品が目利きされ、買い付けられて行く。
「ん?」
 若い娘の目は場に相応しくない作業者の一人に向けられた。まだ子供と言って良い年齢だが、その怪力たるや大人顔負けである。背も高く、どことなく品がある。まだ時間も浅いのに、腰に下がる木札は大人顔負け。
「少しは休まれたらどうですか?」
 余りの働きぶりに声を掛けた。
「いいから。これが俺の鍛錬方法なんだ」
 リールと名乗る少年はそう答える。なんでも尊敬すべき冒険者から、薦められた方法だという。
 元より月道貿易関係の荷運びは、そんじょそこらの労働者には任せられない。ほんの耳掻き一杯くすねれば、縛り首は間違いない品を運ぶのだ。働きが良く信頼のある者以外ここには入れない。当然、変な気持ちを起こさない程度に他よりも給金が良いが。
 そこへ、
「これはこれはディーア様。ご機嫌麗しゅう」
 手揉み近ずくのは、
「マーカス殿。お世話になります」
 王都で結構手広く商いをしているこの男。荷車に積まれて行く小樽を横目に愛想笑い。
「街を案内して貰いたいのですが、良いガイドはおりますか?」
 ディーアと呼ばれた令嬢が尋ねると。
「じゃあ、俺が案内する」
 荷車にあらかた荷を運び終えたリールが応えた。

「マーカス。この子は?」
 じいやが尋ねる。
「冒険者見習いとかで、素性は地方領主のご子息とか。へい。身元は確かです」
 となれば身分は庶民ではない。
「そうか‥‥頼む」
 じいやは頭を下げ感謝。

 リールは彼が積んだ荷車と共に出口へ向かった。彼の案内で令嬢の王都見学だ。
 さて、件の荷車は間もなく城門の外へ。様々な品を積んで南の方へ。そこから河船で目的地まで運ばれるのだ。だが、ここで事件が起こった。穴ぼこてがくんとなった弾みで一番小さな小樽が外れ、草むらに転がったのだ。

 小一時間後。スラムの住民の子供達が、枯れ草の中で小さな樽を見つけた。
「ひえー。なんだこりゃ?」
 弛んだ樽の口から、蜂蜜よりも甘い香り。指でしみ出した黒い物を掬い口元へ。それは今までに味わったことのないおいしさだった。
 きょろきょろと辺りを見渡すと誰も居ない。
「これ、ないしょだぞ!」
 居合わせた子供達はめいめいに頷き、見つけた物を隠すことにした。

 リールとディーア嬢が戻ったとき、大騒ぎになっていた。
「どうしました?」
「あのう‥‥荷が一つ足りないのです、砂糖の樽が‥‥」
 船で検品した時、砂糖を入れた樽が足りなかったのだ。すわ盗難か? いや数え間違いか? 何度も確認が為されていた。
「リール。木札を数えさせてくれ‥‥」
 リールが運んだ荷が、荷車に載せた荷の数と一致した。
「間違いない。盗難に遭ったのだ」
「損害額は?」
「一番小さなものですから、ざっと30G」
 直ちに被害届が為される。盗んだのならば縛り首は間違いない被害額だ。

 冒険者ギルド。
「記載に関する訳語が不適切です」
 記録係のティジーは先輩であるマジックドラゴンとウォーズと、キャンサーエイプ。そして監修のオータムに文句を言っていた。文化の違う外来語に、適切な語をあてはめ損ない、非常に不適切な表現になっていたことが理由である。
「調査したところ、確かに『甜菜』と言う天界外来語をその方は使っていましたが、彼は輸入品の『砂糖』のことを言っていたので意を汲んで翻訳すべきです。格好いい天界語なので『甜菜』と言っていましたが、実際には『砂糖』だったじゃないですか? あとたこ焼きに関しては調査が足りません。天界から調理場ごと持ち込んできたと言う記載が依頼書に欠けています。記載の正確さを求められる報告書に、それはないと思います。何をチェックしているのですか? オータムセンセイ!」
 と、騒がしい冒険者ギルドの事務室に、貴重品の砂糖が小樽一つ紛失した。と言う報が入った。
「さて、仕事だ‥‥」
「誤魔化さないで下さい。オータムさん。だいたいあなたは古参に甘すぎます。いくら信頼している人間だって、もっとじっくりチェックすべきですよ。お陰でお二人にとんだ恥を掻かせたじゃないですか? 一番悪いのはあなたです。私は良いですよ。でも、あなたが全面信頼しているおふたりに済まないと思わないんですか?」
 ディジーの声が響く。

●今回の参加者

 ea1683 テュール・ヘインツ(21歳・♂・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 eb0884 グレイ・ドレイク(40歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb4344 天野 夏樹(26歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4375 エデン・アフナ・ワルヤ(34歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb5377 中州の 三太夫(34歳・♂・忍者・河童・ジャパン)

●リプレイ本文

●ウィルの法
「貴方が見習い君? 私は夏樹。よろしくねっ」
 天野夏樹(eb4344)が少年に声を掛けた。
「はい。御願いします」
 前回は突っ走って仕舞ったリールなので、正式に依頼を受けるのは初めてと言って良い。「金貨参拾枚と言えば驢馬一頭半分である。大変な額である。無事に解決せねばならぬである。カパ」
 初陣の介添え人の如くそそり立つのは中州の三太夫(eb5377)。
「砂糖の樽は時価30G。庶民が1年暮らせる金額だ」
 リールはちょっと憤慨気味。
「でも、まだ盗まれたとは限らないよ。冒険者の仕事はモンスター退治だけじゃないしいい腕試しにもなるから一緒に探してみない? リール君はどうやって探すのがいいと思う?」
 テュール・ヘインツ(ea1683)の誘導尋問に、リールの逆上せた血が冷める。それがはっきりと看て取れる。
「ややこしいことになる前に早く見つけちゃおうね」
「うん。そうだね」
 リールは頷いた。

 皆が集まったところで依頼主に会う。夏樹が荷主にこう尋ねた。
「それにしても砂糖一樽で縛り首って、マジ? 砂糖が高価なのは知ってるけど、それにしたって‥‥」
「盗みならそうなってもおかしく有りません。遙かに少ない額でも先例はあります」
 幾つかの例を示す依頼主。
「じゃあ、貧しい人がパンを盗んで処刑されたような話もあるのね?」
 夏樹の問い。ウィルの常識に疎い天界人が居るので、エデン・アフナ・ワルヤ(eb4375)は補足する。
「この世界では身分と言う物が大きく影響します。戦場でも決闘でもなく人を殺めれば死刑が定法です。しかし、貴族が平民を殺めた場合、先ず死刑に為ることはありません。名誉が傷ついたり、代価支払う義務はありますが‥‥」
「うん。そう言う話もある。御主君の息子が父上の酒宴で酒の度が過ぎ、深夜酒乱で狼藉に及び、領民を殺した事件があった。御主君のお裁きは、賠償金を支払い、息子のそっくりの木像を造らせてそいつの首を身代わりに刎ねて市(いち)に晒した」
「それって、インチキじゃない?」
 夏樹は少しカチンと来た。それでも被害者の遺族を含めた領民は、公正な裁きをなさる御主君だと感心したと言う。
「‥‥一方、貧しい人達はたかがパンで縛り首‥‥」
「ただ、親告罪なので盗まれた側が助命を望めば、余程悪質な者でもない限りそこまでは‥‥」
 被害者が赦せば処刑に至ることは少ないと依頼人は説明した。
「つまり、そう言う先例があるからとか、領主の布告が法なわけね」
「はい。天界人殿の世界とは違うようで、被害者の報復権と御領主様の布告。それに先例が重要になります」
「布告によって法が変わった場合はどうなるのであるか? 以前の法と違う場合は」
 三太夫の問いに荷主は答える。
「新しい布告が有効とされ、以前の物のうち新しい物と矛盾する部分が失効します」
「じゃあ、新しい布告でいままで何でもなかった人がいきなり罪人に為っちゃうの?」
 夏樹の確認に
「絶対ない。掟は定められる以前に遡って力を持たないんだ」
 リールはウィルの常識を説明する。因みにギルドのような自治組織内で完結する出来事は、ギルドで定めた掟が適応される。
「それにしても、何事も証拠が無いのに決め付けるのは些か問題があります」
 エデンは盗難以外の可能性があることに釘を刺した。
「最初から盗難と決めつけては、拾った人が居たとしても難を恐れて届け出ないでしょう。もしも落としただけだったとしても、それでは決して戻っては来ないと思います。伺いたいことがありますので、実際に運んだ人を呼んで貰えませんですか?」

 程なく御者も証人として呼ばれ、月道から船着き場までの道筋。道中の様子をエデンや夏樹に聞かれるままに語った。
「うーん。動いてる荷車から盗み出すのは難しいよね。盗まれたとしたら、荷車を止めた時かな。或いは途中で落として気付かなかったって可能性も有るし」
 日常的なことは記憶に残らないらしく、御者も上手く思い出せない。但し、運搬ルートに関しては明確に特定された。
「商いの都合上、大事にはしたくないので宜しく御願いします」
 これが依頼人の望む方向であった。

●追試
 あの日と同じように荷を積んで行く。
「いや、ちょっとここが違う」
 目撃者の一人でもあるリール。グレイ・ドレイク(eb0884)の提案により、可能な限りに同様にして追試を行う。皆は後から馬車で追って行く。
「かなり積んでいるな。荷崩れと言うことも有りそうだ」
 ウィンターフォルセに至る道を除けば、道は名うてのでこぼこ道。ガタゴト道をガタゴト走る。
「それにしても、酷い道だな」
 まだ王都の門を出たばかりだと言うのに尻が痛くなる。グレイの独り言に、
「皆様、前方をご覧下さい。ここがウィル名物『えくぼ道路』でございます」
 苦笑しながら夏樹が冗談を言う。しかし、それにしても‥‥。
「ちょっと待って! この速さだと飛ばしすぎだよ」
 テュールが前を行く荷車の御者に呼びかけた。‥‥返事はない。聞こえないようだ。
 どーんと馬車が上下に揺れた。
「あ痛ぁ〜! 何これ?」
 夏樹がお尻をさすっているとき、テュールは愛犬フェンと共に飛び降りて、辺りの捜索を開始していた。今回荷は落ちなかったが、落っことしていても不思議でないポイントだ。
「ここだねフェン」
 テュールは程なく、道に沿った枯れ草の中に不自然に凹んだ場所を見つけた。駆け付けたグレイが辺りを検証。草がなぎ倒された跡。この寒い中でも蟻が集っている。身を屈めると確かに甘い香りがし、その草の一本を口に含むと甘い。
「弾んだ時、ここに落ちたんだな」
 冒険者達は、散会して辺りを探しはじめた。

 夏樹は近辺の人家。
「これっくらいの大きさの樽なんですけど。見かけませんでしたか?」
「うーん。小さすぎてうちじゃ使ってないね」
「この辺で泥棒が荷車を狙ったとかって聞いた事有ります?」
「往来が多いから、なかなか居ないよ」

「ん? これは‥‥」
 足跡らしき形跡を追っていた三太夫は、目敏く零れた黒い物を見つけた。ネバネバする草を手折って匂いを嗅ぐと、甘い独特の香りがする。
「こっちか‥‥」

●子供達
「ここであるか‥‥」
 テュールと愛犬フェン、そして三太夫は足跡を辿り小さな森の入口にやって来た。
「トムソーヤみたい‥‥」
 思わず夏樹は呟いた。樹の上に草と小枝で造った小屋。
 ロープが一本下がっている。等間隔に結び目をこしらえた古いロープ。
「ぼくが行ってみる」
 一番小柄なテュールがロープを伝う。
「うん。大丈夫。以外としっかりしてるよ」
 まるで彼にあつらえたように、樹には足場が作られていた。取り立ててスキルのないテュールが軽々と登ると、
「あった!」
 草で編んだ扉を潜ると、削った木の棒や、布で磨き上げられた小石。堅いパンの欠片に混じって、小さな樽が一つある。間違いない。砂糖の樽だ。テュールは小樽をロープで降ろす。
「蓋を開けてみれば、子供が拾って隠していたとは、である。大岡裁きといきたいところであるが、はてさて」
 三太夫の言に、
「あんまり減ってませんね」
 夏樹が中を改める。少しは舐めたのかも知れないが、滅多に手に入らない宝物。なので殆ど手を着けなかったのだろう。
「あ!」
 その時、草むらががさっと揺れ、リールが素早く反応した。
「は、放して!」
 まだ幼い人間の子供だ。身なりは貧しく痩せている。
「なぜ逃げる?」
 片手で押さえつけているだけだが、膂力の差で身動き取れない。
「お前ら! 隠れていないで出てこい!」
 少し間をおいて三々五々。

「童(わっぱ)ども。分相応な物を持ってもろくな事が無いである。拾った物を届けないのは盗んだと『思われても』仕方無いである。盗んだなら普通は縛り首になるであろうし、慈悲を受けても犯人は弁済にどこかへ売り飛ばされるのである」
 三太夫が脅しつける。
「このままだと罪の無い御者さんが責任取らされちゃうんです。これを聞いて『拾った子』が名乗り出てくれれば、お礼も期待出来るんだけど‥‥」
 幸い砂糖は殆ど減っていない。夏樹が逃げ道を作ってやる。
 最後に、グレイに耳打ちされたリールがこう言った。
「お前ら! 届けたら『盗んだと疑われて罰を受ける』と思ったんだよな? ここにいるエデンさんは護民官だ。絶対に『誤解の無いよう』証言してくれる。だから、これから一緒に届けないか?」
 護民官‥‥。子供達も一応噂だけは聞いたことがあった。真夜中に国王様を叩き起こしても面会できる偉い人だ。子供達にはそう伝わっていた。
 辺りがしーんとなり、息を10回吸って吐く時間が過ぎた。意を無決してリーダーらしき子が名乗り出る。
「おれがやった。みんなは関係ない!」
「みんな、ありがとっ! よっし、お姉さんが何か奢ってあげよう!」
 てっきり罰を受けると思ったリーダーは、意外な展開に目をまん丸。

 こうして、砂糖の樽は届けられた。

●寸志
 無事、砂糖は届けられた。支配人はじっと報告を聞いていたが、
「判りました。では‥‥」
 そう言って、ディーア様からの寸志にございます。と、リールを含めた6人全員に袋を渡した。

 夕刻、『騎士の誉れ』に集まった冒険者達は杯を交わしながら歓談していた。
 夏樹は果汁をリールに注ぎながら諭す。
「私達の仕事は罪人を作る事じゃないよ。難しくても、皆が幸せになれる方法を探すのが私達のやり方よ」
「それが治める者の知恵なんですね」
「徒(いたずら)に罪人を作るのが政(まつりごと)ではないである。納得させ罪を犯させないのが最上なのである。ひとの尊厳は騎士も平民も同じカパ。周りが思い描くような者になってゆくものである」
 三太夫の言にゆっくりと頷くリール。
「元はと言えば、原因はリール。あんたにある」
 グレイは荷を積む際に落とす事の無い様に注意が足りなかった事を叱った。今回は丸く収まったが、いつもこうなるとは限らない。
「騎士身分の者には、相応の責任があるんだ」
「そう言えば」
 と、テュールがさっきの袋を開いてみた。それぞれ5枚の金貨と共に手紙が一通。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 冒険者様へ

 名高い護民官のエデン閣下のお噂は聞き及びます。
 皆様が、密かに砂糖を購って犯人を庇われるかも知れません。
 元より丸く治めて戴くのが私どもの望みです。
 御無礼かと存じますが、お支払いなされた砂糖の代価をご笑納ください。

                         ディーア
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――