テロリストの黒き旗3

■シリーズシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:15人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月04日〜03月09日

リプレイ公開日:2006年03月12日

●オープニング

 話はさかのぼる。
 寵姫マリーネの乗るアルテイラ号とそれに随行するジニール号は、ようやくその道程の半ばを終えようとしていた。
「町が見えたぞーっ!!」
 嬉々とした騎士学生の声が甲板に響き渡る。目指す宿場町ウィーが船の前方に姿を現していた。学生たちは船縁から身を乗り出すようにして、近きつつある町の姿に見入る。その光景に温かい眼差しを送る鎧騎士が一人。女性ながらも男の騎士と変わらぬ鎧に凛々しく身を包む鎧騎士はふと、隣に立つ騎士学院の恩師シュスト・ヴァーラに問いかけた。
「‥‥しかし、天界人が降り立ったのはウィルの国だけなのでしょうか? 彼らの知識を悪用する者が現れなければ、と願うばかりです」
「ウィルの国以外にも、天界人が降りたったという話は聞いている。どうやら天界人の出現は、このアトランティスの世界全てで起きている現象らしい」
 質問には無愛想に応じることが多いシュストだが、この時ははっきり答えた。
「このセトタ大陸の6国はもとより、隣のアプト大陸にも。そして恐らくは、カオス戦争を引き起こしたバの国が存在するヒスタの大陸にもな。その知識が悪用されぬよう、対策は講じねばならない」
 そんな会話が交わされる一方で、今や共にテロリストを追う仲間となった地球人の一人が、鷲狩り作戦の指揮官ゲリー・ブラウンに訊ねた。
「この世界に飛ばされてきたテロリストに、今どれだけの力や仲間がいるか分からないが、もし動くとしたらこういうイベントの時じゃないの? それなりに身分の高い王族が町を訪れるのだし」
「まさにその通りだ。警戒は怠れない」
 ゲリーの口調はぴりぴりしている。
「しかし、神様が存在しないっていうこのアトランティスで、テロリストは何を主張したいのやら」
「この世界に神はいないのか?」
 ゲリーがそう口にした時、騒ぎが起きた。
「ドラゴンだ! ドラゴンが飛んでるぞ!」
 騎士学生達が口々に叫び、空を指さす。遙かなる空の高みを、銀の鱗を輝かせる巨大なドラゴンが飛んでいた。ドラゴンはフロートシップを見下ろすように悠々と飛び去り、流れる雲の真上に姿を消した。
「‥‥くそ、何だってこういう時にカメラを持って無いのかなぁ、俺!?」
 仲間の誰かが叫ぶ声が聞こえた。

 冒険者たちが入念な下準備を行った甲斐あって、マリーネ姫は町の人々から熱烈な歓迎で迎えられた。同行する冒険者の中には、町の人々に祝いの品として食料を配る者もいたが、配るついでに人々の話を聞いてみると、皆が口々に国王陛下とマリーネ姫を褒め称えた。ウィーの町の雰囲気は、冒険者の出歩きにも不自由する王都ウィルと比べたら、ずっと開放的に感じられた。
「大きな声では言えんが、天界人の行動範囲が王都で限定されるのは、犯罪防止よりも民衆の貧しさや不平不満から遠ざけるためだという気がする。救世主と見なされる天界人を民衆が一方的に持ち上げ、王国の為政者を悪と見なすようになるのを避けたいのかもな」
 そんな仲間の声を耳にして、ゲリーは答える。
「天界人が救世主と見なされることは、俺にとっては別の意味で心配だ。テロリストが救世主を装い、民衆を扇動して自分の悪事に荷担させることも考えられるんだからな」

 ウィーの町への視察行が無事に終わって後、騎士学院の教官シュスト・ヴァーラが直々に冒険者ギルドを訪ねた。
「これはこれは。ようこそ冒険者ギルドへお越し下さいました」
 ギルドの事務員は身を低くして、エルフの教官を迎え入れる。シュストは騎士身分とはいえ、騎士学院の教官ともなれば貴族からも一目おかれ、貴族界での発言力も決して小さくはない。
「大局的に見た私の目的は、天界人の優れた知識がカオス勢力に渡るのを防ぐことだ」
 学院で講義するような口調で、シュストはいきなり切り出した。
「幸い天界人には高き志を持ち、騎士道を歩まんとする者が多い。だが天界人とて人であることに変わらず、中にはカオスの誘惑に負けてカオスに身を投じようとする者も、僅かながら存在する。その悪しき動きを後押しするのは、天界にて長らく続いてきた天界人同士の争いだ。しかし天界よりこのアトランティスの世界に持ち込まれた争いの種は、天界人の手で取り除かれることが望ましい。そして騎士学院の教官たる私は、共に騎士道を歩む同志として天界人を遇し、天界人同士の争いが天界人自らの手によって解決されるよう、彼らを支援する。既に騎士学院校長殿に話は通し、騎士学院としての支援を行う目処もついた。では、具体的な依頼の話に移ろう」
 シュストの話についていくために必死で頭を働かせ、緊張の面もちで耳を傾けていた事務員は、ほっと一息。
「では、ご依頼を承ります」
「この度、マリーネ姫のシーハリオン巡礼行に騎士学院の練習浮遊船ジニール号も随行するが、その船に天界人を中心とする冒険者たちも乗船させる。彼らに与えられる役割は、騎士学生と共にこの度の巡礼行を成功に導くことだ。巡礼行が成功し、姫が無事に王都へ帰還するならば、大いなる栄誉が冒険者たちにも与えられよう。彼らの知名度は高まり、発言力も強まる。そのことは彼らがその使命を果たす上で、大きな助けとなるはずだ。具体的な仕事は航行中の見張り、船内の点検、各種の記録付け、炊事当番、掃除、騎士学生の話し相手、そして‥‥」
 シュストの顔がぐぐっと事務員に迫る。
「万が一、ドラゴンと遭遇して戦いになった時に、決して敵前逃亡することなく、為すべきことを為すことだ。何を為すべきかは、冒険者各自の判断に任せる」
 つい先日、貴族のサロンで発見された差出人不明の置き手紙の内容、マリーネ姫がドラゴンに襲われて無惨な最後を遂げるという予言の話は、シュストの元にも伝わっていたのである。シュストの話は続く。
「但し、船に搭載したゴーレムグライダーの使用は、あくまでも騎士学生が優先だ。また船内には風信器が備え付けられ、船に居ながらにしてフロートシップ間での連絡が可能になる。冒険者の中で優れた能力を持つ者がいれば、風信器を担当させてもよいと私は考えている。なおジニール号の指揮官は、先の視察行に引き続き海戦騎士レアーデ・カゼリ殿が務め、この私も騎士学生と冒険者の監督役として乗船する。話は以上だ。では、依頼書を作製したまえ」
 シュストの口調は最初から最後まで、騎士学院の教壇に立つ時と変わらなかった。

●今回の参加者

 ea4100 キラ・ジェネシコフ(29歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 eb2259 ヘクトル・フィルス(30歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb3770 麻津名 ゆかり(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4041 エンヴィ・バライエント(34歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4064 信者 福袋(31歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4085 冥王 オリエ(33歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4086 吾妻 虎徹(36歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4097 時雨 蒼威(29歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4139 セオドラフ・ラングルス(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4183 ダン・バイン(33歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4197 リューズ・ザジ(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4271 市川 敬輔(39歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb4289 クーリエラン・ウィステア(22歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4368 験持 鋼斗(26歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

孫 美星(eb3771

●リプレイ本文

●拝啓ミローゼ殿
────────────────────────────
拝啓 ミローゼ殿

先日の食堂の一件は貴方にご迷惑をかけてしまい
申し訳ありませんでした。
人の目があるとのことですので、封書といたします。
また、ゆっくり話せる機会があればよろしくお願いいたします。

                 虎に徹する天界人より
────────────────────────────
 手紙を書くことはセトタ語の訓練になる。しかし羊皮紙にインクで書いたばかりの文章を読み返し、吾妻虎徹(eb4086)の口からぼそっと呟きが出る。
「文才ないな‥‥我ながら」
 宛名は騎士学院気付・ミローゼ・クリン殿とし、シフール便で送った。宮中晩餐会で初めて出会い、先の宿場町ウィーでの視察行で気まずい再会をした騎士学生とは、今回の巡礼行でも一緒の船になるはず。

●ドラゴンと死神
「姫さんがドラゴンに殺されるだってぇ〜! スゴイネタだよな」
 デジタルカメラを手に、ついパパラッチ根性丸出しな言い方になるダン・バイン(eb4183)。それを聞いて加藤瑠璃(eb4288)が窘める。
「しっ! そんな事、この世界では大声出して言うもんじゃないわよ!」
 かくの如き不埒な発言が国王陛下の耳にでも届けば、不届き者の烙印押されて牢にぶち込まれること間違いなし。下手すれば拷問責めの挙げ句に首が飛ぶ。
「でも、アレだ。姫さんがドラゴンに狙われるとして、強くて頭もいいドラゴン族が個人を標的にするなんて何か変だよな。もしかしたら、ドラゴンを唆したヤツがいるってことなのかもな」
 ダンが知る限り、そもそもの情報源はサロンに置かれた謎の置き手紙。そこに記されていた予言は、彼のそんな憶測を生み出す元となった。
「ドラゴンって言われても、なかなか実感が湧かないわね」
 瑠璃が言う。
「地球ではドラゴンは空想の産物だし、こちらの世界でもまだ実際に姿を見てないもの。ただ、私達の船がドラゴンと空戦しても勝てるはずがない、って事ぐらいは何となく分かるわ。なるべく戦わなくてすむようにしたいわね。だけど予言の通りだとしても、誰がドラゴンを怒らせたのかしら? アトランティスの人たちはドラゴンを敬っているという話だから、犯人は天界人? シュスト教官の言っていた『カオス』というのも怪しいと思うけど、もしかして‥‥」
 ダンと瑠璃は思わず顔を見合わせる。
「犯人はテロリストか?」
「やっぱりそう思う?」
 その結果に妙に納得してしまう二人。だが、果たして本当にそうなのだろうか?

「先ず確認したいことがあります。各艦の指揮官はそれぞれ海戦騎士が行っていますが、この艦隊全体の指揮はどうなっているのでしょう? 順当にいけばルカード様が指揮官ですが、ドラゴンの襲撃を予言された今回は、特に命令系統を明確にしておいたほうが良いかと」
 信者福袋(eb4064)がそう尋ねた相手は、ジニール号の指揮官レアーデ・カゼリ。
「その事は私も十分に承知しています」
 レアーデは先ずそう答えたが、続く言葉は心の迷いを振り切るような言い方に感じられる。
「とはいえ、フロートシップでシーハリオンの麓まで乗り入れるのは、ルカード殿にとっても私にとっても初めての経験。実際に何が起きるかの全てを前もって予測することは出来ません。空から襲って来るドラゴンと戦うのも、海で海賊と戦うのとは訳が違うでしょう。実際に戦ってみなければ理解し得ないことも少なくはないはず。ですが巡礼行は成功させなければならず、マリーネ姫だけは何としてでもお守りしなければならないのです」
 出発に先立ち開かれた、3隻のフロートシップの乗船者達による合同会議でも、やはりドラゴン対策が最優先の課題として取り上げられた。数々の冒険者から意見が出された末、船隊指揮官ルカード・イデルが決定した対処法は、『ミントリュース号とジニール号をドラゴンへの盾もしくは囮となし、真っ先にアルテイラ号を安全圏へと離脱させること』。福袋、キラ・ジェネシコフ(ea4100)、験持鋼斗(eb4368)らの意見がそのまま採用された形となった。

 その日の夜。月精霊の輝きの下、麻津名ゆかり(eb3770)はテロリストの居場所を神秘のタロットで占う。裏返してにしてシャッフルしたカードをテーブルの上に規則正しく並べてから、カードを1枚ずつ表に返し、その意味を読みとる。カードは告げていた。『おまえの求める物は今、ここから西に進んださほど遠くない場所にいる』。さらにカードは告げる。『近い将来、ドラゴンと死をもたらす者とが出合う』と。そしてカード示す最終結果は『破滅と混乱』。
 口からため息を漏らし、ゆかりは独り言ちた。
「この読み方で正しかったかしら? ‥‥でも、タロットが教えてくれた未来は、あたし達の力で変えられるはずです」
 そう信じたい。

●そして船は行く
 ジニール号の出航準備が進む。
「アトランティスにも滑車はあるのね」
 感心して呟く瑠璃の視線の先には、騎士学生たちと一緒になって物資の積み込みに励むヘクトル・フィルス(eb2259)の姿。甲板には木製の小さなクレーンがあり、ヘクトルはロープ巻き上げ機の大きな滑車についたハンドルを回し、下から荷物を引っ張り上げている。技術水準は中世レベルの世界とはいえ、現代技術の原型となるものは、探せば色々と見つかるものだ。
 彼らの頭上には「しふしふ〜♪」と挨拶しながら飛び回るシフールの姿。乗船者の知り合いらしいが、手伝いに来たのか景気づけに来たのか良く分からない。

(「巡礼行の栄誉か‥‥。国境越えたとこまで徒歩で行くのは大変そうだが、フロートシップで飛んでいくとなると、情緒も何もないな。‥‥別にどーでもいいけど」)
 などと心中で思いながら、時雨蒼威(eb4097)は出発前の船の点検に勤しむ。それにしても年期の入った船だ。舳先には大きな衝角。軍船として海の上を走っていた頃は、これで敵船に突っ込んだこともあったのだろう。鉄製の衝角は丹念に手入れされて錆一つなく、鈍く輝いている。
「鋳鉄だな」
 自然とそんな言葉が口に出た。
「そーいえば、俺は工学部学生だったな‥‥。こっち来てから、めっきり忘れてたけど」
 中世の技術レベルに留まるこの世界では、まだ鋼鉄製品を量産するには至っていない。鉄製品はサンソードのような特殊な例を除き、硬くて脆い鋳鉄だ。古びた木造船体のところどころには亀裂が生じ、それが鉄材で補強されていたりする。
「おや、ここにも」
 新しい亀裂が出来かけている箇所を、蒼威は発見した。
「補強したい場所があるから、道具を貸してくれ」
 側にいた騎士学生に頼む。自分には工作の知識があるからと自負していたが、渡されたのは大きな釘に重たい止め金具、そしてこれまた重たいハンマー。ここは何事を為すにも腕力が必要な世界であることを実感した。

 セオドラフ・ラングルス(eb4139)は風信器担当の伝令役に立候補し、指揮官レアーデによってその役に任ぜられた。
「私は鎧騎士のセオドラフ・ラングルスと申します。今回は、ジニール号の伝令役を仰せつかりました。精一杯努めさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします」
 訓練生たちに挨拶し、新たにブリッジ内に設けられた風信器係の席に着く。手狭なブリッジの中に半ば無理矢理作られた狭苦しいスペースだ。風信器を起動させ、アルテイラ号の風信器を呼び出す。
「こちらジニール号です。ただ今、風信器を起動させました」
 アルテイラ号からの返事は天界人の言葉で返ってきた。
「こちらアルテイル号。出発準備は完了。後は船体指揮官の命令を待つのみ」
 言葉の意味はたちどころに理解できた。異なる言葉を話す者同士でも話し合いを可能にするテレパシー的な精霊力の作用が、果たして風信器での話し合いにも働くのかどうか案じていたセオドラフだったが、それは取り越し苦労だった。

 程なく船隊指揮官ルカードの命令が下り、巡礼行の船団は王都ウィル出発した。マリーネ姫の御座船アルテイラ号を中心とし、その前衛にミントリュース号。騎士学院のジニール号は後衛を勤める。
 船団の先導と周囲の偵察を兼ね、ジニール号の甲板からグライダーが発進する。ジニール号搭載のグライダーは4機。1度に2機ずつのローテーションで発進し、1時間程の飛行を終えて戻ると、続く2機に役目を引き継ぐ。
 鋼斗はグライダーの発着を見学させてもらい、船とグライダーの間でやり取りされる手旗信号の一部を覚えた。とはいえ非常事態の起こらぬ限り、複雑な信号の出番はない。最も頻繁にやり取りされるのは、グライダーの後部座席に座る者が白旗を振って知らせる『異常なし』の信号と、甲板の誘導係がグライダーに白旗を振って知らせる『着船よし』の信号である。
「他の信号を教えてくれないか? 敵襲があるなら、誰が怪我するか分からない。だったら、こういう事を知ってる人間は多いほうが良いだろ?」
 近くにいた騎士学生に頼むと、学生は『敵発見』『負傷者あり』『応援求む』など、いくつかの旗の振り方を教えてくれた。
「他にも旗の振り方で、セトタ語のアルファベットを表すやり方もありますが、動きが複雑になるので意味を読みとるのに時間がかかります。信号は簡単で分かりやすいのが一番です」
 今は稀少品の風信器がもっと普及し、グライダーに1台ずつ搭載できるまでになれば、地球の戦闘機同士で交わされるような連絡も可能になるだろう。しかし、それはまだまだ先の話であるように鋼斗には思えた。
 ヘクトルも学生に尋ねる。
「グライダー2機の力を合わせて、重い物を運んだりできるのか?」
「やってみたことはまだありませんが、できるはずです。ただし2機のグライダー同士がぶつからないよう、飛び方を工夫しなければなりません。それに安全のため、かなり速度を落とさなければならないでしょう」
 所詮、グライダーは大荷物の運搬には向いていないのだ。

「モップがけとかやっていると、戦車の整備とかを思い出すな‥‥」
 地球のそれとくらべたら粗雑な作りだが、モップはモップだ。甲板のモップがけをごしごしと丁寧にしっかりやりながら、虎徹は知らず知らずにふるい軍歌を口ずさむ。空の神兵。それは年輩の自衛官なら誰でも知っている、落下傘降下作戦に題材を取った歌。インドネシアをオランダより解放した勇士達の歌だ。その歌を聞いてやって来た者がいた。
 騎士学生ミローゼ・クリンだった。
「手紙は読んだ」
 素っ気ない返事に戸惑う虎徹。
「こんな所で立ち話も何だが‥‥」
 言いかけたその言葉をミローゼは制する。
「船の上では男と男の間柄。それ以上でもそれ以下でもない。ところでラッカサンとは?」
「高い空から飛び降りるための道具だ。大きな布を傘の形に広げて、落ちる速さを鈍らせるんだ。それでも着地する時は相当な衝撃が来る。馴れぬと足を痛めるほどだ。だけど兵士に落下傘を装備させてフロートシップに乗せれば、高い空から砦を攻めることもできるだろう」
「地球人はずいぶんと変わった戦いをするのだな」
 地球人の戦術というものに、ミローゼはまだまだ馴染めない様子。

●空からの調査
 船団はまだ日の高いうちに、道程の中間地点である宿場町ウィーに到着。町の外れに停泊した船の回りには、歓迎の人々が集まった。
 しかし冒険者たちにとって気になるのは、姫が竜に襲われるという予言。
「さーて、できれば僕は竜とは争いたくないんだけどなぁ。予言された竜がこの町に現れないとも限らないが、その時は住民を避難させなければ」
 エンヴィ・バライエント(eb4041)のその言葉に、蒼威と虎徹も同意。
「ここでは天界人イコール救世主。いざ事が起きた時には、人々への無用な被害を防ぐ事も、俺達が率先して避難を手助けすべきだろう」
「で、避難訓練はやるのか? まずはウィーの町近辺で、逃げるに適した場所を見繕って‥‥」
 早速、許可を求めに監督役の教官シュスト・ヴァーラの元へ出向く。シュストはすぐに彼らの求める内容を理解。しかし避難訓練実施の許可は、すぐには下りなかった。
「予言の話は私も聞いたが、ドラゴンがその縄張りを遠く離れてこの町を襲いに来る可能性は低いと見る。しかも決して良好とは言えぬウィルの政情下、ドラゴンが町を襲うなどという話が迂闊に天界人から流れれば、いらぬ混乱を引き起こすだけ。よって避難訓練を行う許可は出せない。ただし、万が一に備えての準備はしておこう。諸君らにとってはいい訓練になる」
 シュストはエンヴィら一同に、万が一のドラゴン襲来に備えての町の調査を命じ、そのためのグライダー使用を許可した。早速、彼らはそれぞれが訓練生の操縦するグライダーの後部座席に座り、空へ舞い上がる。空からは町の全景とその周辺がよく見える。携帯電話を持つエンヴィはカメラモードで空撮を行い、虎徹は双眼鏡で空から町の細部を観察。一通り観察を終えて船に戻ると、船内演習室の備品を使って町の概略図を描いた。
「さて。実際の避難ルートをどう定めるか」
「実際に町を歩かなければ分からないこともあるな」
 出来たばかりの町の概略図を頭に叩き込むと、一同は実地検分のために町へ繰り出した。

●テロリストは何処に?
「単なる当て推量ではあるが、もしも血に塗れたドラゴンの羽が本物だとしたら、ドラゴンを害した犯人は件のテロリストかもしれない」
 ウィーの町の外れに停泊中の船の中で、市川敬輔(eb4271)はゲリーら仲間の地球人たちを前にして自分の推測を述べる。
「理由としては、このアトランティスには神と言う概念が無く、世界は精霊と竜によって護られていると信じられている為だ。テロリスト達が信ずる神の居場所が無い為に、その地位を奪わんと今回の暴挙に及んだのではないだろうか?」
「つまり、聖山のドラゴンに対するテロ行為が行われたと?」
 ゲリーは早くも敬輔の意見に多大な感心を示す。しかし、連れのエブリーは半信半疑。
「貴方の意見、テロリストという存在にこだわり過ぎだと思うわ。この世界では火薬が使えない。それに、あなた達もあの巨大なドラゴンが空を飛ぶ姿を見たでしょう? たとえ、この世界に飛ばされて来たテロリストが携帯用ミサイルやC4爆弾で武装していたとしても、それらの武器が役に立たないのなら、恐らく最強のドラゴンであるヒュージドラゴンに手酷い傷を負わせるのは不可能ではなくて? ドラゴンを傷つけたのはきっと、テロリスト以外の何かよ」
「あるいは、こんな見方が出来ないでしょうか?」
 福袋が言う。
「これは私なりの推理ですが‥‥今のウィルの国家姿勢は『ゴーレム技術を独占し、軍事力において抜きん出ていて、さらに暴政で庶民を抑圧する』というものです。テロリストにとってそれは、アメリカ合衆国を連想させるかもしれません。だとすれば、彼らはウィルの下層民の中に浸透しようとするか、もしくは少数民族、或いは他国に接触するかして、ウィルへの不満という火種を煽っているかもしれません。ドラゴンの怒りも、それと何か関係があるのかも‥‥?」
「十分に考えられる」
 ゲリーはすかさず同意。エブリーは何も言わない。
「兎に角、折角ウィーの町に来たんだし、探りを入れてみないか? テロリストを見かけたヤツがいるかもしれない」
 ダンが皆に誘いをかけるが、クーリエラン・ウィステア(eb4289)は渋る。
「でも、実際にいるのかも分からないテロリストの不確実な情報を流して、町の人達を不安にさせてもいけないし‥‥。うーん、あの2本の剣と星のマークが入った黒い旗を見たことないですか、って聞こうか?」
「そういう事もあろうかと‥‥」
 冥王オリエ(eb4085)が携帯電話を取り出し、メモリーに記録されたテロリストの黒い旗の画像を示した。
「あらかじめ録画しておいたのよ。これなら見せるだけで分かるから、聞き込みに便利でしょ?」
「オリエってば、あったまいい!」
 福袋が皆を促す。
「では、町に繰り出しましょうか? ついでに未だ行方不明のミハイル・ジョーンズ氏のことも尋ねてみましょう」
 ゲリーも一言、念を押した。
「テロリストについては、旗以外のことについては伏せておくようにな」

 ところが彼らの調査活動はリューズ・ザジ(eb4197)に見咎められ、船に戻った彼らはリューズによってシュスト教官の元へ連れて行かれ、説教を食らう羽目になった。
「諸君らの聞き込みのお陰で、その旗は騎士学生の間ですっかり有名になった。それに飽き足らず、町の民衆にも旗のことを広めるつもりか?」
「余計な事は漏らしてはいません」
 ゲリーが抗弁する。
「いい心掛けだ。だがテロリストを見つけたその後はどうするつもりだ? 説得するか、それとも剣を交えるか? いずれにせよ今のウィルの国は、悪い噂一つで獄に繋がれる者が出る程に緊迫した政情下にある。王家の船に乗船する諸君らが余計な騒ぎを起こせば、周囲に良からぬ波紋を広げかねない。テロリストに対して行動を起こすなら前もって綿密な計画を立て、周囲を巻き込まぬための慎重な理由づけを行った後に行動に移りたまえ」
 お説教が終わってゲリー達が解放されると、リューズはシュストと二人きりになる。
「今回のフロートシップによる聖山巡礼も他国は注目していることと思いますが、やがては天界人の知識を得たカオスとの戦いが始まり、他国との協力を要する事態にまで発展するかもしれません。その時に備えて、今のうちから他国との協力態勢の下地を作ることは可能でしょうか?」
「既にその為の準備は始まっている」
 シュストはあっさり言ってのけた。
「勿論、全てを一度に成し遂げることは出来ない。今は聖山巡礼を成功させるべく、果たすべき任務に集中したまえ」

●エブリーの過去
 閑さえあれば、騎士学生たちは冒険者たちに色々な事を質問してくる。とりわけ彼らが高い関心を持つのは、地球人の航空技術だ。虎徹と瑠璃にはその手の専門知識があったものだから、幾人もの学生たちが自然と周りに集まった。
「私達の世界では、もう空戦は滅多に行なわれてないの。アトランティスでの空戦やドラゴンについて教えてもらえないかしら?」
 瑠璃も学生に尋ねてみたが、アトランティスでもゴーレムグライダーは運用が始まったばかり。任務はもっぱら偵察や伝令で、グライダー同士の空中戦など学生たちの想定外のようだ。
「それでは天界での空中戦の話をするか」
 食堂の小皿を駒にして、虎徹は散開、集合、左右迂回などの行動を軽く説明してやる。どうしてそんな動きが必要なのかと首を傾げる学生もいたが、空戦華やかなりし第二次世界大戦の戦闘の有様を虎徹が話して聞かせると、途端に学生たちは夢中で話に聞き入る。
「あの大戦では爆撃機、雷撃機など、一撃で軍艦を撃沈するほどの強力な攻撃機が発達した。その攻撃機を迎え撃つのが戦闘機の役目だが、戦闘機同士の激しい空中戦も頻繁に行われたんだ」
 気がつけば虎徹はそんな事まで話していた。
 そんな彼らとは少し離れた場所では、オリエがさりげなくエブリーに問い詰めている。
「あなたがこの世界に来る直前まで行っていた救援活動について、詳しく教えてくださらない?」
 問い詰めるには理由があった。オリエはエブリーを疑っている。彼女が連れている子どもの話もシャミラの話も、全て彼女が語った内容でしかない。もしも彼女がテロリストの手先だとしたら‥‥? 白か黒かの判断は早いうちに決した方がいい。オリエがこれまでさほどテロリストへの関心を表に出さず、戦闘力もコネも無い無害な人物としてのイメージをあえて周囲に与えてきたのは、怪しまれずに仲間内への探りを入れるためだ。
「有り体に言えば、現地政府にとっての非合法活動ね」
 どきっとするようなエブリーの答。
「この世界に飛ばされた今だから話すけど、私が活動していた東南アジアのあの一帯は、厄介な政治情勢を抱えたところよ。貧富の差が激しく、役人への賄賂が横行。政府による貧困者や宗教的少数者への弾圧は激しく、少数民族ゲリラとの軍事衝突も絶えないし、しかもすぐ近くには世界的な麻薬の供給地である『黄金の三角地帯』も存在するわね。とにかくあそこは武器と麻薬と汚い金にまみれた非道い土地よ。様々な武装勢力が泥沼の抗争を繰り広げるただ中で、私は政府に弾圧される少数民族に医療物資を届けたり、逮捕された活動家の釈放のために走り回ったり。おかげで現地政府からは反政府活動家としてマークされ通しだったわ」
 歯切れ良く答えるエブリー。しかしその答によって、オリエの嫌疑は解消するどころか深まるばかり。
(「ということはテロリストのお友達ってことも‥‥あり得なくはないわよね」)

●シーハリオンに進路を向け
 朝の訪れ。天は短い間だけ虹色に染まり、やがてそれは白い精霊光の輝きに変わる。それがアトランティスの朝だ。
 これまでの熱意と働きとが認められ、鎧騎士リューズは学生の監督者であるシュストから、その補佐の役目を与えられた。船の指揮官レアーデ・カゼリの横に立ち、甲板に整列した騎士学生たちを前にして、リューズは訓辞を下す。
「これより向かうのは竜の住まう聖山シーハリオン。実際に竜の姿を目の当たりにすれば、怯える事も入れ込み過ぎる事もあろう。だが恐れを克服し、逸る心を制するは、実際の試練を乗り越えてこそ叶うこと。危急の際にも我を失うことなく、任務の遂行をまず第一に心掛けよ。如何なる困難が立ち塞がろうと、それを乗り越えマリーネ姫の無事の王都帰還を果たすこと。それが私と貴殿らの任務だ」
 訓辞を終え、朝の光に輝くシーハリオンの神々しい姿を甲板から見ながら、リューズは思う。──この巡礼行での経験も、いずれ私が部隊を率いるようになった時の糧となろう。
 そして巡礼の船団はウィーの町を発つ。平野に広がる森林地帯の真上を飛んでセレ分国領内に入り、シーハリオンを目指して進むうちに周囲の景色ははなだらかな山地の森となり、それはさらに高く険しい高山へと変わる。そこは既に、いかなる周辺国の王権も及ばぬ聖域。険しい尾根の合間を縫うように進む船団の両側には、春の訪れた今でさえ深き雪に覆われた峰々が連なる。船上の冒険者も騎士学生も、その荘厳さ息を飲む。
 ウオオオオオーッ! 咆哮が轟く。雪山の上で白いドラゴンが吼えている。その身の丈は白の塔の高さほどもある。グライダーで偵察に飛び立つはずの訓練生が、ドラゴンの姿を見てたじろいでいた。
「案ずるな。その縄張りを侵さぬ限り、彼らはまず襲っては来ない」
 リューズのその言葉に続き、キラも訓練生を叱咤激励。
「『騎士として何事にも脅える事無かれ』ですわ。ここで戦えるのは貴方達だけ。しっかりと勇気を見せなさい。勇気がある者だけが未来を掴む権利があるのですから」
 言って微笑みを向けると、ようやく騎士学生も敬礼してグライダーを発進させた。その姿にキラはさらなる言葉を送る。
「タロン神は己の力で未来を変えられる力を持つ者達に微笑みますわ。例え、それがどんな存在であったとしてもね」
 発進したグライダーの後ろから、さらにもう1機が続く。その後部座席に座るのは、デジタルカメラを手にしたダン。グライダーの速度は速い。雪を被った峰々が、どんどん後方に流れて行く。と、雪山の頂上に立つ石造りの建物がダンの目に映る。
「あれは何だ!? こんな所にも人が住んでいるのか!?」
 すかさず古代の遺跡にも似た建物に向かってシャッターを切り、操縦席の訓練生に尋ねると、相手は怒鳴った。
「あれはきっと、ナーガの住処だ! 竜の末裔とも呼ばれるデミヒューマンだ! ああいった建物には迂闊に近づかぬ方がいい!」
 グライダーに乗ったダンが、ドラゴンや謎の建物の姿をカメラに収めている頃、ジニール号の甲板では、鎧騎士エンヴィが他の学生共々、地形の記録に勤しんでいた。この土地の詳細を地図として残す作業だ。行きは大きな目標物であるシーハリオンを目指すから航行も容易いが、帰りはそれが出来ない。周囲の地形をしっかり記録しなければ、広いセトタ大陸で迷子になりかねない。この山岳地帯にあっては、遠方からでも識別できる特徴ある山の形は地形情報として重要だ。
 前方に目を転じれば、聖山シーハリオンがいよいよその大きさを増して船の前方に迫っている。
 突然、その青く巨大な姿は、ジニール号の左舷前方に出現した。まるで、間近な雪山の斜面から湧いて出たように。
「ドラゴンだ!」
 ジニール号の甲板に叫びが轟いた時、恐るべき青いドラゴンは船団中央のアルテイラ号に襲いかかっていた。

●ドラゴンとの戦い
「ド‥‥ドラゴンが! ドラゴンが!」
「落ち着いて! 落ち着くのよ!」
 ドラゴンの出現に福袋は慌てふためき、クーリエランは自分を落ち着かせようと躍起になる。そんな二人を後目に、ヘクトルが待機中のグライダーに駆けて行く。
「ドラゴン襲来が現実のものになったか! 牙を剥いて襲ってくるならば、覚悟を決めて戦うまでだ! 相手がどれだけ強かろうと関係ない! 海戦騎士、騎士学校の友、我が朋友たちの名誉を守るために行かねばなるまいっ! 行くぞ! 漢の意地を見せてやる!」
 操縦席の訓練生に発破をかけ、自分を後部座席に座らせる。グライダーが飛び立つと、ヘクトルは「アスカロン」ドラゴンスレイヤーを鞘から引き抜いた。
「あやつの首筋に一撃、食らわせてやる!」
 その発進を見送り、鎧騎士リューズが指揮官レアーデに叫ぶ。
「私に飛行許可を!」
「許可します! ドラゴンを牽制しなさい!」
 許可は即座に下り、リューズはグライダーで空に飛び立った。
 先行するヘクトルのグライダーがリューズの目に映る。
「無茶だ!」
 ヘクトルは剣でドラゴンに斬りかかろうとしていた。だがグライダー上で振るうには、剣のリーチはあまりにも短すぎる。と、ドラゴンの周囲を旋回するグライダーの上で、ヘクトルがその後部座席に足をかけ、剣を構えて下方を窺いつつその巨体をずらしていく。
「ドラゴンの上に飛び降りるつもりか!? やめろ!」
 リューズのその叫びが届いた気配もない。ヘクトルのグライダーは矢のような速さでドララゴンの真上を掠め飛んだ。だが、その速度はあまりにも速すぎ、ヘクトルは飛び降りるタイミングを失った。
 今やドラゴンの周囲には、ミントリュース号やアルテイラ号から発進したグライダーまでもが飛び交っている。皆、ドラゴンを牽制しようと賢明なのだが、その動きは統一性を欠いている。
 ここに来て、先行するミントリュース号がようやく回頭を終え、アルテイラ号に急接近。ドラゴンがそれに気づき、攻撃をミントリュースに転じる。だが、その攻撃が届く寸前に、ミントリュース号の甲板に配置されていたストーンゴーレム・バガンが跳んだ。バガンはドラゴンの首に組み付き、両者は空中で揉み合いながら降下。突然、ドラゴンの姿があっという間に縮み、空中での支えを失ったバガンが雪の地面に墜落する。
 それまでドラゴンであった者はその正体を現していた。人の上半身と蛇の下半身を持ち、体には鱗を有し、背中には翼を生やす者。ナーガの娘だ。竜語呪文の咆哮と共に、ナーガ娘は再びドラゴンに姿を変じ、ミントリュース号に襲いかかる。
 しかし戦いはその直後、信じられない展開をみた。突如、3匹の新たなドラゴンが出現し、青いドラゴンを追い払って船団を守ったのである。
 新たに現れたのは巨大な銀色のドラゴンと黒いドラゴン、そしてその2匹よりもずっと小柄なドラゴンだ。その姿を鋼斗が携帯電話のカメラに収める傍らで、ゆかりはマジカルミラージュのスクロールを使い、空中に蜃気楼を浮かび上がらせた。自分が想像し得る限り、最も神々しくあるドラゴンの姿を。
 黒いドラゴンがジニール号の間近まで飛んできた。ゆかりはテレパシーで呼びかける。
(「あなたを敬っています」)
 返事はすぐに、心の中の声として返ってきた。思いの外、優しい響きを伴って。
(「この地より去りなさい。ここは人には危険すぎます」)
 黒いドラゴンに向かって、瑠璃が甲板から叫ぶ。
「黒い旗を掲げた人達が何かしてこなかったかしら!? そいつらはこの世界で言う『カオスの手先』で、私達の敵よ!」
 ドラゴンの目が瑠璃を見る。しかし返事は無い。言葉は届いたのだろうか?
 やがて黒いドラゴンは、仲間の2匹ともども船団から離れて飛び去り、気が付けばその姿は消えていた。ダンは手に持つデジタルカメラを見つめる。その中には戦闘の最中に写した数々の迫真の画像が収められていた。

●謎の来訪者
 戦いの最中、船やグライダーから雪の大地に投げ出された者もいたが、その探索にはゆかりのブレスセンサーのスクロール魔法が役立った。
 その夜、一行はシーハリオンの麓で一夜を過ごしたが、その折りに予期せぬ3人の来訪者があった。男と女と若い娘。3人は皆、羽根飾りのついた毛皮の服を身に纏っていた。男はウィーの町でミントリュース号の冒険者に目撃された祈祷師らしい。その者は言う。
「我等はおまえ達を守るために、ここに来た。我等がここに留まる限り、ドラゴンはおまえ達に危害を加えない」
 ゆかりはリヴィールエネミーの魔法で彼らの心を探る。その言葉通り、彼らに敵意はなかった。