救護院創始2〜徴募船来る

■シリーズシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:4

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:01月23日〜01月28日

リプレイ公開日:2007年02月03日

●オープニング

●質屋襲撃
 これは救護院の創始を志す冒険者達の物語。話の続きは王都の平民街より始まる。
 真夜中。質屋の倉の前でごそごそやっている連中がいる。彼らは王都を荒らし回る窃盗団だ。
「畜生、開かねぇじゃねぇか!」
 錠前破りの男はさっきから錠前に針金を突っ込んで四苦八苦。腕が未熟なのだ。
「早く明けろよ。夜が明けちまうぜ」
 じれったくなった仲間が急かす。
「そこを動くな!」
 突然の怒声にびくっとして振り向くと、倉破りに気付いた質屋の番人達が彼らを取り巻いていた。
「もう逃げられねぇぞ、観念しろ」
 もはや窃盗団は一網打尽に‥‥と思いきや、倉の陰から人影がぬうっと現れた。窃盗団の用心棒だ。
「何だてめぇは‥‥」
 棍棒を振りかざす番人。用心棒は鬼面頬で素顔を隠している。と、その右手の剣が素早く動いた。
 ボギッ! 番人の手にする棍棒が真っ二つに折れる。
「て、てめぇ‥‥!」
 ボカァ! 続いて真っ二つに割れたのは、別の番人が頭に被っていた兜。
「死にたくなかったらそこを退け、報酬分以上に働くのはご免なんだ」
 用心棒の声は女の声。その迫力を見せつけられ、番人は後じさり。
「く、倉の鍵は渡さねぇぞ」
「そんな物、いらん」
 用心棒が倉の扉に勢いつけて剣を振り下ろす。
 バキィ! 扉に派手な裂け目が出来る。二度、三度と剣を振るううちに、扉はぼろぼろに。
「う、うわぁ!」
 番人達は戦意を喪失して逃げ出した。

 用心棒にとってはこれが初仕事。質屋の倉からお宝をごっそり頂いて、窃盗団の拠点である掃き溜めの町ベクトに戻ると、裏世界の周旋人が大盤振る舞い。美味しい酒に美味しい料理がずらりと並ぶ酒宴となった。
「仕事の成功に乾杯といくぜ!」
 皆が盛り上がる中で、ただ一人しょんぼりしているのは錠前破りの男。
「気にするな。最初は誰だってしくじるもんさ」
「申し訳ありません。次は絶対、しくじりません」
 錠前破りはぺこぺこ頭を下げてばかり。周旋人が用心棒の耳に囁いた。
「こいつはもともと王都から流れて来た貧民でな。ワザン男爵領の貧民村でくすぶってたのを拾って来て、手先が器用なもんだから俺達が仕事のやり方を教えてやったってわけさ。貧民も使いようで役に立つし、金になるってことよ」
 そして用心棒は、周旋人より報酬を渡された。
「これが、お前さんの取り分だ」
 質屋の倉に収まっていた首飾りに耳飾りに宝石の指輪。
「足がつかねぇように売っ払えば、結構な金になるぜ。次の仕事もよろしくな」

●潜入捜査
「‥‥私が見聞きした事は以上です」
 自分の主たる神聖騎士の冒険者に報告を終え、報酬として頂いた盗品を預ける。窃盗団の用心棒、その正体は裏世界に探りを入れるべく、その筋の人間に成りすまして潜入捜査中の冒険者だったのである。
 報告は冒険者ギルド総監カインの元にも届いた。
「今回は死人を出さず、うまく切り抜けましたね。でも油断は禁物。潜入捜査は刃の上を歩き続けるようなものです」
 密偵として裏世界の人間に成りすまし続けるという事は、二重の危険を背負い込む事だ。即ち、正体が露見して危害を加えられる危険と、自らが裏世界の深みにはまって身を滅ぼす危険とを。悪事の全てに最後まで付き合い、自らも悪人となる訳にはいかない。どこで一線を引くかを見極め、引き際を見定めねばならないのだ。
「今後の進展についても引き続き、報告をお願いします」
 報告を終えた神聖騎士が立ち去ると、カインは一人呟く。
「さて、罪滅ぼしといきますか」

●怪しいバード
 夜中。質屋の番人達は奇妙な物音を聞いて外に飛び出した。
「何だ、ありゃあ?」
 びろろろ〜ん♪ びろろろ〜ん♪
 リュートを奏でているバードの女がいる。音色がひどく調子外れだ。
「誰だ、てめぇは?」
「私は怪しい者ではありません」
 見かけは女と見えたが声は男の声だった。女の服を着て女のように装い、女のように化粧を施した顔。番人達の手にするランタンの光に照らされたその姿は、やたら艶めかしく見える。
「てめえ、十分に怪しいぞ」
 先日、窃盗団に倉の中味をごっそり奪われたばかり。不審人物を取り押さえようと番人達が近づくと、バードが風のようにすうっと動く。気が付けばバードは番人達の背後に回っていた。
「てめぇ‥‥!」
 何度取り押さえようとしても、風のように素早く動き回るバードの服にさえ手をかけられない。気がつけば番人とバードの距離は大きく開いていた。
「私はあなた方に危害を加えるつもりはありません。質屋が襲われた噂を聞いて、お見舞いに来たのです。これは見舞金です」
 バードは自分の足下に金袋を置いた。盗みに入るような手合いとは様子が違う。
「おい怪しいヤツ、せめて名を名乗れ」
「レイカ・スイング。それが私の名前です」
「どうでもいいが、おまえのリュートはすげぇ下手くそだな」
「まだまだ駆け出しのバードですので」
「しかし、見舞いに来るとは酔狂なヤツめ」
「それが私の騎士道ですから」
「騎士道だって?」
 番人は問いかけたが、既にバードの姿は消えていた。残された金袋を拾って中味を確かめる。
「これは‥‥!」
 中には金貨がぎっしり詰まっていた。被害の埋め合わせには十分な程に。
「ヤツは‥‥ヤツは一体何者なんだ?」
 ここまでは去年の話だ。

●徴募船
 ここから先は新年の話になる。
 王都の近隣に位置するワザン男爵領にて、冒険者達は救護院を開設することと相成った。だが、前途は多難だ。
 冬が深まると共に、王都で食い詰めて領内に流れ込む流民の数も増加し、ワザン男爵の悩みは深まるばかり。
 そんな折り。隣領のシェレン男爵領から嬉しい報せがもたらされた。
「そうか! ハンの国から徴募船がやって来たか!」
 シェレン男爵はウィル国王エーガンの認可を受け、かなり以前より貧民救済事業を執り行っている。王都から流れて来る貧民から希望者を募り、ハンの国へ働きに行かせるのだ。話によれば海上交易で栄えるハンの国では働き手が足りず、わざわざ隣国にまでも働き手を求めに来る程なのだとか。
「して、貧民村の人口は如何ほどだ?」
 貧民村とは王都から流れて来る貧民達を留めておく為に、ワザン男爵が自領に設けた村だ。
「去年の終わりには200人そこそこだったのですが、今や250人を越えました。この分では春になるまでに300人に膨れあがるでしょう」
「では人減らしのため、せめて100人はハンの国に働きに行かせねばな」
 食い詰め者どもをタダで住まわせ、タダで養う訳にはいかぬ。それを許すほど男爵領の財政は豊かではない。働ける者は働かせ、余所に働き口があれば移住を促し、働く気の無い者にはさっさと出ていってもらう。それがワザン男爵のやり方だ。ハンの国から徴募船が来たとなれば、願ったりかなったり。
「貧民村を任せた冒険者達にも伝えおけ。シェレン男爵の貧民救済事業に全面的に協力し、なるべく多くの者をハンの国に行かせるようにとな」

●真実を知る者
 ここは掃き溜めの町ベクト。
「そうか、あの極悪船が来たか」
 耳に入った知らせに、裏世界の周旋人はにんまり。
「久々においしい仕事にありつけそうだ。しかし、貧民どもはまだ気付いちゃいないようだねぇ。船に乗ったら最後、二度と生きては帰っちゃ来れないってことに。いいや、死人になっても戻っては来れねぇだろうさ」

●今回の参加者

 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea0941 クレア・クリストファ(40歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea9535 フィラ・ボロゴース(36歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb3033 空魔 紅貴(35歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 eb3838 ソード・エアシールド(45歳・♂・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 eb4750 ルスト・リカルム(35歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

倉城 響(ea1466)/ 風見 蒼(ea1910)/ カルナ・バレル(ea8675

●リプレイ本文

●逃げて来たエルフ
 貧民村の貧民達の中には、ベクトの町から逃げて来たエルフの若者がいた。ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)とルスト・リカルム(eb4750)は事情聴取の為、貧民村に彼を訪ねたのだが。
「貴方があのときのエルフ君ですね‥‥初めまして、ニルナ・ヒュッケバインです。今回は貴方からお話を聞きたいと思いまして参上した次第です」
「話なんか聞いてどうするのさ?」
 ニルナに代わってルストが説明。
「聞きたい情報は、あなたの視点から見たベクトの町の事よ。ベクトの町の現状や町の様子、聞き知った噂を聞きたいわ」
「僕は‥‥僕は何も知らない‥‥」
 答えるエルフの口調には怯えの色。
「無理は言わないわ。話したくなった時で構わないから」
 ルストはそう言い残し、ニルナと共にエルフの前から立ち去る。
 暫し時間を置いて再びエルフの住むあばら屋を訪ねると、エルフは部屋の隅っこにうずくまっている。まるで敵から身を隠すように。
 ニルナが再度、尋ねる。
「教えてくれますか? まずはお名前と‥‥あとは年齢とか‥‥分かりますか?」
「名前は‥‥ベクトの町ではキラルって呼ばれてた。昔の名前、それに年齢は‥‥覚えてない」
「思い出したくはないでしょうけど、大事なことです。教えて下さい。最初に、何故女性の服を着ていたのかその訳を」
「こういう恰好で男を喜ばせる商売があるの‥‥知らないの?」
「何故町から逃げてきたのですか?」
「‥‥‥‥」
「元いた場所はどのような状況なのですか?」
「‥‥‥‥言えない。言ったら殺される」
 今は何を尋ねても無駄のようだ。やむなく2人の冒険者はその場より立ち去る。
「キラルの怯えの原因を取り去ってあげられたら、彼も話せるようになるかもね」
 ルストがふと心中の思いを口にした。

●ワザン男爵の怒り
 どん! 拳を激しく机に叩きつけ、ワザン男爵が怒鳴る。
「君は自分が何を言っているのか判っているのかっ!?」
 貧民達を誰一人としてハンに行かせはしない。そうクレア・クリストファ(ea0941)が伝えた途端、この激烈な反応だ。しかしクレアは冷静沈着に続ける。
「徴募船に対する不審を抜きにしても、救護院創始の為に村の復興は急務です。当方も数多の働き手が必要‥‥救済事業なら同じ事では?」
「徴募船に関して不審な点がある事は、私も認めよう」
 男爵は幾分、語調を落ち着かせた。
「何しろ徴募船の訪れ先は何かと評判の悪いベクトの町だ。町を治める代官のシャギーラ・ジャロからして、汚い裏稼業に手を染めてのし上がった男だからな。だが、綺麗事だけで商売は成り立たん。それに徴募船を仕立ててやって来るのは、ハン国王の認可を受けた商人だ。君が差し出がましい口出しをする筋合いは無い」
 クレアは反論しなかった。ただ、静かに告げた。
「先の契約に則い、以下の事を貴殿に要請します。先ず状況劣悪な貧民村の食事の改善。次に貧民村の家屋修繕用の資材の供与、そして貧民村周辺地域の使用許可を。詳細な明細を頂ければ食費等の経費は全額負担します」
 男爵は再び声を荒げる。
「まったく! 君は何度、同じ事を言わせる気だ!? 何故、貧民どもの為にそこまで‥‥」
「これが‥‥私のやり方ですわ」
 静かに微笑んで答えると、男爵はクレアを睨み付け、威圧するように言い放った。
「ここは私の領地だ。領主はこの私で、君はただの雇われに過ぎん。君の考えには理解を示してきたつもりだが、私のやり方に従えぬというなら契約解消だ。さっさと私の領地から出て行くがいい」
 そして、男爵は穏やかな口調で最後の言葉を付け加える。
「だが、君には3日間だけ猶予を与えよう。その間によく頭を冷やして身の振り方を決めたまえ」

●貧民村
 貧民村ではニルナとルストの2人が、建物の損傷具合を調査中。一軒一軒時間をかけて調べていたが、領主館で男爵との会見を終えたクレアが馬に乗ってやって来たのを見ると、2人は途中経過を報告しにニルナへ駆け寄った。
「クレア、今日調査できたのはこれだけです。‥‥ですが大体の場所が調査できればそこから資金をどれだけ出すのかも分かってくると思います」
 土台はしっかりしているので、地面を掘り返したり土台石を用意したりする手間は省けるだろう。主として必要になるのは屋根や壁や柱に用いる建材となる。それがニルナとルストの見立てだった。
 調査を続けながらも、貧民村の人々への食事配給は欠かさない。
「はいはい♪ 食べ物は十分にあるから、奪わなくても大丈夫よ。順番守って受け取ってね」
 と、笑顔で食糧を配布するルストに対する人々の視線も、心なしか以前より柔らかくなっている。
 一方、空魔紅貴(eb3033)は村周辺の土地の検分を行っていた。前回、村を訪れた時にも仲間の手である程度調べはつけてあったが、そこかしこに残る家畜小屋や井戸の後から、以前は農地として実りを産していた事が伺える。少し離れた所には森が広がり、かつてはそれが村にとっての大切な木材供給地だったと察せられた。
 しかし、かつての耕地も今は雑草ばかりが茂る痩せ地だ。近くに川は無く、農業用水には井戸やため池を利用しなければならないが、水利関係が整備されればこの痩せ地も耕地として甦るのではないか? 検分を進めるうちに、紅貴はそんな期待を抱いた。
 男爵の許可が下りれば、すぐにでも村の人々を農地の復興のための労働力として借り受けたいのだが。まだそれは叶わない。
 ソード・エアシールド(eb3838)は貧民村の戸籍作成を試みている。
「今はどんどん増えているが‥‥その者の名、家族、元の職業‥‥この3点がわかれば、今後住み分けのために再分配するにしろ職の事考えるにしろ便利だと思うからな。同郷の者がいるなら、それもわかればいいのだが」
 聞き取り前に、村を守る衛兵達に尋ねてみる。
「村の中で名前がわかっている者がいたら教えて欲しい」
 村人の名前など衛兵にとっては記号のようなもの。あまり当てにはしていなかったが、それでも衛兵達は30名ほどの名前をすらすらと挙げる。いずれも老齢などの理由でなかなか働き口にありつけず、ずっと村に居残り続けている者ばかり。
 ソードはまず、村の男性から聞き取りを始める。
「女子供はあいつのほうが扱い手馴れているからな‥‥」
 あいつとは、ソードの知る冒険者仲間。都合が付いたなら一緒に来て欲しかった相手だ。
 元の職業は圧倒的に農夫が多かったが、中には多少なりとも鍛冶の心得がある者や、陶器作りやワイン作り等の経験者もいた。
 聞き取り調査に際しては全員に質問。
「家族と暮らせるならそれを望むか?」
 この質問には大多数の者が、はいと答えた。

●シェレン男爵
 ワザン男爵領からシェレン男爵領までは、馬に乗って行けばすぐだ。領地の境を越えたあたりから、街道沿いには農地が目立つようになる。収穫を終えた小麦畑に加え、さまざまなハーブを育てている農地が至る所に見受けられる。
 後から聞いた話では、シェレン男爵はハーブ栽培で財を成した人物で、領内で生産された良質のハーブは遠くはランの国にまで輸出されているという。生産されるハーブは主としてセージやタイムなど、食肉の保存や臭い消しに用いられる物で、需要は多い。
 また男爵は優秀な料理人を何人も抱え込み、その提供する美食によって貴族界に強力なコネを作り、ハーブを始めとする産品の売り込みに役立てているとか。
 やがて、馬はシェレン男爵の領主館に到着した。小綺麗な館だ。周囲の庭園はよく手入れされ、身なりの良い小間使い達がクレアを出迎える。ワザン男爵領の貧民村と比べたら、まるで別天地だ。
 ワザン男爵は快く、クレアとの会見に応じてくれた。
「同じ志を持つ者として、一度お会いしたいと思っていました」
「我が館へようこそ。私も君のような志ある若者と出会えたことを嬉しく思う」
 互いに挨拶を交わした後、さまざまな話を話題に取り上げつつ、クレアは男爵の人柄を観察する。第一印象としては、温厚だが抜け目の無い人物。しかし悪意は欠片も感じられない。
「貧民の救済事業を始めた理由を教えて頂けますか?」
「何よりもウィル王国のため、そして国王陛下のためだ。増え続ける一方の貧民を放置して、王国を食い潰させる訳にはいかぬからな。それにこの事業はウィルとハン、2国の友好をも深める。あちらは働き手を欲しがっているのだから、余りすぎた人手を送ってやればいい」
「ですが、ハンの国へ働きに行った者で、戻って来た者はいるのですか?」
「いいや。奉公の契約は5年以上にも渡る長期のものだからね。それに向こうの暮らしが豊かなら、わざわざウィルに戻って苦しい思いをする事もなかろう」
「出来ればハンの国の商人にも会ってみたいのですが」
「会ってみるかね?」
 早速に話は纏まり、クレアはハンの商人が主催する歓送会への出席を許された。会場は領主館に近い広場。寒い中、野外に設けられた会場のそこかしこに焚き火が焚かれ、テーブルの上に並ぶ料理は見た目も豪勢。漂う美味しそうな匂いがまた食欲をそそる。
 そして会場には大勢の人々。皆、話を聞きつけて王都とその近辺から集まり、ハンの国でのご奉公に同意した者達だ。その誰もが貧しい者ばかり。
「この宴は慈悲深きハンの国の国王、カンハラーム・ヘイット陛下からの賜(たまもの)であります!」
 肥え太ったハンの商人が、会場正面に立って演説をぶつ。
「ハンの国は豊かで幸福に満ち満ちたる国。私はカンハラーム陛下の臣民の一人として、この豊かさをこの幸福を皆様方と分かち合いたく思う次第。さあ、共に楽しみましょう」
 宴が始まるや、人々は一斉に料理にとびついた。雇われた楽師達の楽の音が、宴を一層盛り上げる。人々は料理に舌鼓を打ち、ハンの国王を褒め称えた。商人はここぞとばかり声を張り上げる。
「さあ、明後日にはいよいよ船が出ます! 皆様はカンハラーム陛下のお膝元へと旅立つのです!」

●宣言
 シェレン男爵領を後にしたクレアは一端王都に戻って食料を買い込み、再び貧民村に出向く。村に残った仲間達と合流し、配給と称して村の貧民たち全員を招集。覇気を抱いて告げる。
「私はこの村の貧民全員の面倒をみよう。村を復興させ、救護院を創始しよう」
 微笑みながら、そう告げる。
「その為には皆の協力が必要‥‥故に交換条件を提示する。今後定める約定を守り私達に協力してくれるのなら、皆を縛る数多の制約を順次解除・緩和する」
 覇気を持ち告げる最初の約定、それは──弱者を虐げる事なかれ。
「この場の皆に誓おう‥‥私の誇りと命を懸けて」

●始末人
 ベクトの町。例の怪しげな酒場にフィラ・ボロゴース(ea9535)は足を運び、裏世界の周旋人と再会。
「おや、久しぶりじゃねぇか」
「今、ハンの国から船が来てるだろ? あの船で儲かる話があるって噂を聞いたんだが、本当か?」
「おまえは丁度いい時に来たな。早速だが儲け話を聞かせてやるぜ。実はな‥‥」
 続く男の言葉を聞き、フィラは驚愕した。
「ガンゾの町に俺達の金儲けを邪魔する冒険者がいる。そいつがこれ以上の邪魔立てをせぬよう、襲撃して葬り去る事にした」
(「何!?」)
 不意に、酒場の隅に座っていた男から声がかかる。
「襲撃は俺が仕切る。おまえは俺を手伝え」
 嫌な雰囲気の大男だ。筋骨隆々な体のくせに、顔はミイラのように痩せこけて、不気味なほどにアンバランス。
「こいつは誰だ?」
 尋ねると、周旋人がフィラの耳に囁く。
「知らねぇのか? このお方は伝説の始末人、バーロック様だ」

●襲撃
 貧民村で騒ぎが起きたのは、空魔紅貴が哨戒を行っている真夜中のこと。
「火事だ! 火事だ!」
 突然、火の手は村のあちこちから上がった。貧民達は突然の火事に右往左往し、衛兵達は消火に駆け回る。その騒ぎの最中、村の外から乱入して来た一団がいた。
「何の用事だ。誰かは知らんが容赦はせんぞ。」
 乱暴狼藉を阻まんと、紅貴が日本刀「霞刀」を抜いて立ちはだかるや、鬼面頬で顔を隠した女がファングブレードの刃を向けて突進して来たではないか。
「何っ!?」
 その正体が仲間のフィラである事を紅貴は悟る。フィラは覚悟を決め、敵を欺くためにあえて仲間への襲撃に加わったのだ。
 両者の剣が激しく打ち合わされる。実力ではフィラが勝る。紅貴はあえて守りを緩め、フィラの刃をその身に受ける。横腹をざっくり斬られてよろめいた紅貴の目に、こちらに駆けて来るクレアの姿が映った。
「紅貴!」
 クレアは丸腰だ。その行く手を、両手に斧を握った敵の巨漢が阻む。
「おまえがクレア・クリストファか!」
 その巨漢こそ始末人バーロック。クレアを助けんと、紅貴は傷ついた自分の身も顧みずバーロックに斬り込む。手応えあり! 日本刀が深々と敵の体に埋まる。だが次の瞬間、紅貴は信じられない物を見た。バーロックの不気味な顔がにやりと笑ったのだ。
「貴様の腕前、その程度か?」
 バーロックの斧が紅貴の肩に振り下ろされる。飛び散る血潮。強烈なダメージを受け、紅貴の体がくずおれる。
 クレアがソニックブームを放つ。その拳から打ち出された衝撃波が1発、2発、3発とバーロックを打つ。だが傷一つ与えられない。バーロックが下卑た声でせせら笑う。
「がはははは! 俺が手本を見せてやる!」
 逆にバーロックの斧からも衝撃波が放たれる。敵もソニックブームの使い手だった。その1発を受けるごとにクレアの体が傷ついていく。
 不意にクレアの背後で呪文詠唱の声。それはスリープの呪文だった。呪文は成就し、クレアは魔法抵抗叶わず眠りに落ちてよろよろと倒れる。呪文を唱えたのはエルフの青年キラル。
「‥‥ごめんね」
 キラルの唇から小さな囁きが漏れた。
 バーロックは斧を振り上げ、クレアにゆっくり近づく。だが、鬼面頬で顔を隠したフィラが、先にクレアに達していた。
「この女はあたいの獲物だ! あたいの手で始末をつける!」
 叫んで、ファングブレードの切っ先をクレアの体に激しく突き入れる。但し急所を外して。痛みでクレアは目覚めた。
「立て! 立ってあたいと戦え!」
 フィラが叫び、クレアが立ち上がりかけたその時。幸運にもワザン男爵が兵士達を引き連れ、貧民村に到着。
「潮時だ! 引き揚げろ!」
 バーロックが叫ぶ。襲撃者達は夜の闇に姿を消した。フィラの姿も消えている。
「負傷者を館へ運び込め」
 ワザン男爵は兵士達に命じ、クレアと紅貴を館へと運ばせた。他の冒険者達も現場の混乱が一段落すると、男爵に続いて屋敷に向かった。
 だが屋敷に着くなり、彼らは地下牢に監禁されてしまった。
「ここでしばらく大人しくしていたまえ。明後日には全員解放する」

《次回OPに続く》