救護院創始3〜貪欲なる魔物
|
■シリーズシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月22日〜03月27日
リプレイ公開日:2007年04月02日
|
●オープニング
●監禁
これは救護院の創始を志す冒険者達の物語。
話の続きは、無法者どもによる貧民村襲撃の夜に始まる。
「潮時だ! 引き揚げろ!」
始末人バーロックが手勢の者に向かって叫ぶ。貧民村に火を放ち、村を守る冒険者を相手に乱闘を繰り広げていた無法者達だったが、ワザン男爵が兵士を引き連れて応援に駆けつけるなり、早々と夜の闇に姿を消した。
「何たることだ‥‥」
焼かれた家、右往左往する住人、未だ騒ぎの収まらぬ貧民村の様子に言葉を失った男爵だが、
「私が来たからにはもう大丈夫だ! 皆、怪我は無いか!?」
馬を駆り、人々を落ち着かせるべく馬上から声をかけて回る。
「クレア! 何処だ!?」
冒険者を束ねる神聖騎士の名を呼ぶと、配下の兵士から返事があった。
「クレア様はここに!」
『鉄壁の守護者』の異名持つ彼女は無法者を相手どって戦い、負傷していた。味方の兵士が傷の手当てをしようと駆けつけたが、彼女はまだ諦めがつかない。
「これしきの傷! 私は平気だ! これから敵を追撃する!」
「無茶はやめて下さい!」
神聖騎士と兵士がもみ合いになるのを見て、ワザン男爵が怒鳴った。
「諦め給え! 今は君の手当てが先だ!」
「しかし、敵をみすみす逃す訳には‥‥!」
なおも兵士の手を振りほどこうと暴れるので、見かねてワザン男爵は馬から下り、
「悪く思うな」
ゴン! 神聖騎士のこめかみを剣の柄で強く打ち据え、彼女は気を失った。
「負傷者を館へ運び込め」
ワザン男爵は兵士達に命じ、神聖騎士はもとより負傷した冒険者達を館へと運び込ませた。
負傷していない冒険者達は現場を駆け回り、事態の収拾に大わらわ。
「慌てないで。火事も消えたし、もう大丈夫よ」
「負傷者を館へ運び込め」
火事の始末をつけ、人々を落ち着かせ、ようやく現場の混乱が一段落すると男爵に続いて屋敷に向かった。
だが、屋敷に着いた冒険者達が案内されたのは、窓一つ無い地下の一室。
「おい、これって地下牢じゃないか?」
気がついた時には後の祭り。地下牢の扉はがっちり閉ざされ、扉越しにワザン男爵の声が聞こえてきた。
「ここでしばらく大人しくしていたまえ。明後日には全員解放する」
●一夜明けて
『鉄壁の守護者』が目覚めると、彼女はベッドに身を横たえていた。
「気がついたか」
ワザン男爵の顔が彼女を見下ろしている。
「君が休んでいる間に、傷の手当ては君の仲間が行ってくれた。五体満足で動けるだろう」
「貧民村は?」
「あちこちの家が焼かれたが、幸いなことに住民の被害は軽微だ。住民のうちハンの国行きを希望する者達については急遽、シェレン男爵領に移送した。彼らは今頃、徴募船の船上にいることだろう」
「‥‥‥‥」
神聖騎士は言葉も出ない。あの徴募船には邪悪の臭いが付きまとう以上、貧民村の貧民達を一人たりとも行かせまいとしていたのに。
ワザン男爵の言葉は続く。
「ともあれ、君達が村を守り抜いてくれた事には感謝する。貧民村は引き続き君達に任せよう。村の人口も半分に減ったから、管理もずっと楽になることだろう」
●魔物への供物
『鉄壁の守護者』には『鉄壁の女傑』と呼ばれる女戦士のパートナーがいた。かの神聖騎士の従者である彼女は今、その正体を隠して無法者達の中に身を置いていた。
「まずは乾杯だ!」
ここは掃き溜めの町ベクトにある無法者達のアジト。無法者達は意気揚々と祝杯を上げる。貧民村の襲撃は大成功。悪人どもの企てを邪魔していた冒険者は動きを封じられ、徴募船は大勢の貧民達をがっぽり飲み込んでハンの国に向かったのだ。
「あの船はいわゆる人買いの船だ。ハンの国でのご奉公とは名ばかり。船に乗せられた貧民どもは一生日の目を見ることのできない場所に送られ、奴隷として死ぬまで働かされるのさ。でなけりゃ安物の鎧を着せられて戦に送られ、敵を誘き寄せる囮に使われたり、矢を防ぐ盾に使われたりとかな。ハンの国じゃ戦争たけなわ、貧民の需要はいくらでもあるぜ」
今ではすっかり顔馴染みになった裏世界の周旋人、その言葉を女戦士は苦々しい思いで聞いていた。勿論、内なる思いを顔には出さない。しかし貧民村の襲撃では無法者どもの信用を得るため、彼女も襲撃に加わって冒険者仲間に剣を向けたのだ。
杯になみなみと注がれた酒は香り高き美酒、それを一気に飲み下す。酒はあたかも苦汁であるかのように感じられた。
宴の席にはキラルがいた。ベクトの町を逃れ、貧民村に逃げ込んでいたエルフの青年。しかし彼は冒険者達を裏切り、無法者達の手引きをした。
「結局、こいつの逃げ場はどこにも無ぇってわけさ」
女戦士と肩を並べて酒を呷るバーロックが、キラルを見下したように言う。娼妓が着るような薄物の衣装を着せられたキラルは押し黙ったまま。ただ無法者どもに求められるまま、おずおずとした仕草でその杯に酒を満たす。
「その理由を新入りのおまえにも教えてやらあ!」
いきなりバーロックは、酒宴のテーブルにキラルを組み伏せた。
「いや‥‥!」
喘ぐキラル。バーロックはお構いなしに、キラルがその身に纏う薄物を荒々しく引き裂き、乱暴に引き剥がした。
「何!?」
露わになったキラルの肌に女戦士の目は釘付けになった。ほっそりしたキラルの柔肌には醜怪な入れ墨が彫られていたのだ。
牙を剥き、邪悪な目でこちらを睨み付ける魔物の入れ墨だ。背中一面に大きく彫られたそれは、さながらキラルに取り憑いた魔物のよう。
「つまりこいつは、生きながらカオスの魔物に捧げられた供物ってことよ。こんな代物を体に彫られちゃ、誰からも魔物のように忌み嫌われること請け合いよ。結局、俺達の世界に戻って来るしかねぇってわけさ」
気がつけば、周旋人の顔が女戦士の間近にあった。
「ここまで深入りした以上、我々の正体もお分かりの事だと思うが」
「カオスの魔物を崇める者か‥‥」
周旋人は頷き、威圧するように言い放つ。
「もはや貴様もカオスに組みする者。後戻りは出来んからな。次の仕事も期待しているぞ」
女戦士の目の前、テーブルの上には金貨の詰まった金袋が置かれていた。
●総監の支援
『鉄壁の女傑』による潜入捜査の報告は、『鉄壁の守護者』を通じて冒険者ギルド総監カイン・グレイスにももたらされた。
「今が潜入捜査を切り上げる潮時でしょう。これ以上、邪悪な者達と行動を共にすれば、自分が邪悪に飲み込まれかねません」
警告を発した後、カインは鉄壁の守護者』に告げる。
「それと、この件に関わる冒険者には、然るべき報酬を支払うことにしましょう。これまで救護院については経費の全てを冒険者に任せてきましたが、カオスの魔物が関わってきた以上、冒険者ギルド総監である私にはカオスとの戦いを支援する義務があります」
●貧民村の今
かつては200人以上もの貧民を抱え込んでいた貧民村だが、現在の人口はおよそ100人。しかし新たに村へ流れ着いて来る貧民もいる。その中に王都から追放されて来た一家がいた。噂によれば、彼らは魔物に取り憑かれて事件を引き起こし、王都に居られなくな鼻つまみ者だという。その噂はワザン男爵の耳にも入った。
「魔物絡みとは厄介な‥‥」
だからといって、無下に追い返す訳にもいかぬ。
「当面は貧民村で面倒を見よう。但し、特別扱いは無しだ」
●リプレイ本文
●密談
クレア・クリストファ(ea0941)の報告により、冒険者ギルド総監カイン・グレイスはベクトの町で進行中の忌まわしき事態を理解した。
「これで状況証拠は出揃いましたね」
「次はベクトの町での掃討と、囚われの人々の救出を」
「それには入念な準備が必要です。今日からでも動き始めましょう。そして、これは内々の話ですが‥‥」
カインがクレアに告げる。エーロン分国王はいわゆる横領代官や悪徳商人どもをフオロ分国から一掃する心づもりであり、近日中に『王国浄化作戦』が開始されると。
話を終えてクレアが総監室を出ると、ケヴィン・グレイヴ(ea8773)が待っていた。
「手応えはどうだった?」
「上々よ」
「では、敵についての情報を出来るだけ教えてくれ。勿論、敵の元に潜入している仲間のことも。間違って潜入している仲間まで殺す訳にはいかないからな」
この新参の仲間の言葉を聞き、クレアは微笑みを向けて言う。
「勿論よ。もっともも、たとえ同士討ちになってもそう簡単に殺されはしないでしょうけど」
●カオスの傷跡
クレリックのイシュカ・エアシールド(eb3839)は、王都の教会で司祭に尋ねた。クローニングの魔法で入れ墨を消せるかどうかを。
「入れ墨された部分の皮膚を切り取って、クローニングをかければ綺麗な皮膚が再生‥‥できればいいんですけど‥‥こういう目的で使ったことないですから‥‥」
「私もそんな使い方をした事はありません。でも、皮膚の再生なら比較的に簡単でしょう。恐らくは、失った指を再生する程度の力で済むのではないかと。但し、入れ墨を消したいと願う者は、皮を切り取られる痛みに耐えねばなりません」
司祭はそう答えた。
教会での用事を終えると、乗馬に馴れないイシュカはソード・エアシールド(eb3838)の馬に乗せてもらい、仲間と共にワザン男爵領へ。
「お前が来てくれて助かる。女子供の相手は俺には向いてないしな‥‥彼等が何を望み、願ってるか。聞いて欲しい」
ソードにそう言われてイシュカは、
「まずはご飯をまともにしたいですね。身寄りのない子供がいるならその子達の心身の成長の為にも」
イシュカの馬はソードの馬と併走中。その背中には王都で買い込んだ食料がどっさり。
ワザン男爵領に入ると、クレアは男爵との交渉に赴く前に貧民村に立ち寄った。
村に留まる貧民達は確かに減った。一目でそれが分かる。クレアの到来を知ると、貧民達はおずおずと出迎える。
「最近ここに住み始めた一家がいるわね?」
例の魔物に取り憑かれた娘のこと、クレアも話に聞いている。
「こちらで」
貧民の一人がクレアを案内した先は、貧民村のみすぼらしい家々の中でも一番崩れが酷いあばら屋。鼻つまみ者の一家達は、現れたクレアの姿にびくびくしながら挨拶。何か咎め立てを受けるのではないかと恐れている。
「娘さんに会いに来たの」
娘は家の裏手に一人ぽつんと佇んでいた。その悲しげな目は遠くを見ているようで‥‥実は何も見ていない。クレアの姿を認めると、娘は無表情でお辞儀をした。
かつて自分は、夢魔に弄ばれた娘を守り切る事が出来なかった──その思いにクレアの胸は痛む。ただ一言、クレアは娘に伝えた。
「この村に居る者達全て‥‥今度こそ私は護ってみせるわ」
●男爵の認可
「先には領地をお騒がせした件、改めてお詫び申し上げます。並びに貧民村を襲撃した無法者達を追い払い、村への犠牲を最小限に留めていただけた事に感謝を」
その言葉に続き、クレアはワザン男爵に対して貧民村における食事状況の改善と物資の提供、並びに村周辺地域の利用許可を求めた。しかし男爵はその場で答を出さず、
「外に出よう」
と、クレアに外出を求めた。
男爵とクレアはそれぞれの馬に乗り、領主館を発つ。最初に男爵がクレアを連れて行ったのはガンゾの町。人々の行き来や物資の積み下ろしで賑わう船着き場、様々な店の並ぶ大通り、職人達の仕事場や商人達の館や警備兵の詰め所を一通り見せて回ると、次には街の外に広がる耕作地へ。街を大きく一回りすると森の合間を抜け、周囲の村々を一つ一つ周り、最後に見晴らしの良い丘の上にやって来た。
「これで私の領地の有り様が少しは分かったろう。君が受け持つ貧民村はあそこだ」
男爵の指さす方に貧民村が見える。ワザン男爵領はそれ程大きな領地では無いが、その中でも貧民村はほんの一部に過ぎないことをクレアは実感した。
「私は領主として領地の全てに責任を持たねばならぬ。ここから見える貧民村と、先に見てきたガンゾの町にその周りの村々、どちらを優先すべきかは君にも分かるだろう。領主が真っ先に生活の面倒を見て安全を保障してやらねばならぬのは、この地に生まれ育ち真面目に働く者達だ。各地より流れ込んで来た貧民達にも事情はあろうが、物事には順位というものがある」
男爵の言葉をじっと聞いていたクレアだったが、その言葉が終わるなり訊ねる。
「私が貧民村のために求めるものについては?」
「食料や物資については必要以上に増やす訳には出来ぬな。貧民村の人口が半分になった以上、支給も半減だ。村の周辺にある土地については利用を許可しよう。但し、利用状況は逐一、私に報告するように。費用経費は君たち冒険者が負担したまえ」
ワザン男爵の認可を取り付けると、クレアは隣領のシェレン男爵領に向かい、メルート・シェレン男爵と対面。貧民村の復興と救護院創始の為に、農業技術関係の協力を要請した。
「勿論、タダでとは言いません。男爵にとっても利益になる協力関係を結びたく思います
」
「やれやれ。君は貧民村の領主にでもなったのかね?」
男爵は苦笑し、言葉を続ける。
「ご周知の事とは思うが、我が領地で最も大きな収入源はハーブの栽培だ。他にも王家御用達の食材を色々と提供し、腕の良い料理人も大勢抱え込んでもいる。勿論、自給用の小麦も栽培してはいるが、領内の需要を満たすには不足しがちだ。足りない分を王都より調達して来ることも多い」
「私が最初にやらねばならないのは農地の復興です。農業の経験豊かな領民の方を派遣して頂けませんか?」
「農地の復興とは言うが、畑は耕し終わったかね?」
「いいえ」
「では、鍬を引かせるための牛もしくは馬の調達は?」
「それもまだです」
「井戸や用水路の整備は?」
「それも同じく」
その返事を聞いて、男爵は苦言を呈するように固い表情で告げた。
「小麦を育てるにしろ、豆やその他の作物を育てるにしろ、やるべき事はたくさんある。十分な用意が整ったら、再び私を訪ねて来たまえ。その時に改めて、農作の指南役を派遣するかどうかを決めよう」
●宣告
「今回は火事にまで発展してしまい‥‥村人が憤りを感じていないと良いのですが」
ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)はそう案じたが、村人達に憤っている様子は無い。もっとも無気力で活気のなのは相変わらず。
「少しでも元気のある奴は先の火事で嫌気がさして、村を出て徴募船に乗っちまったからな」
と、村を警備する衛兵が言う。彼の言う通り、今も村に残っているのは老いた者、体の虚弱な者、気力と体力に乏しい者、それに女と年端もいかぬ子どもばかりだ。
着いたその日に、イシュカは村の広場で炊き出しを始めた。
「貧民には贅沢な食事だな」
これまで提供してきた『家畜の餌』もどきとは大違い。たっぷり具の入ったお粥を見て、衛兵の一人が言う。
「自分達の分や詰め所の方達の分作るのでしたら、皆さんの分を作るのも一緒でしょう?」
と、イシュカが言葉を返すと、衛兵が言う。
「いいや、俺達の食事は別に作ってある。それにしても美味そうだな」
村の貧民達にも手伝いをとイシュカが求めると、さっそく子ども達が30人ばかりが集まって来た。
「ずいぶん集まったわね」
イシュカはその中から3人を選ぶと配給を手伝わせる。すると、少しも経たないうちに喧嘩だ。手伝いの子どもが袋叩きに。
「何やってるの!? やめなさい!」
「だってこいつ、さっきからつまみ食いしてばかりじゃないか!」
仕事を手伝うのも、少しでも自分が分け前にありつくため。イシュカは悲しい気持ちになったが、きちんと言い聞かせた。
「だからといって、虐めるのはよしなさい。食事はたっぷりあるから心配しないで」
食事時は村人に告げ知らせるためのいい機会。食事が一人一人に行き渡ると、ニルナは村人達の前で宣告した。
「差別や迫害はこの村の中で一切ないように願います。勿論、虐めもです。私達はもちろん、誰も差別したり迫害してはなりません。──これはこの村のこれからを願うからこそ言うのです」
その言葉は神聖騎士である彼女の信念に叶ったもの。しかし人々の反応は今一つ。
「返事は!?」
問いかけると、彼女の近くにいた老人が深々と頭を下げる。
「騎士様のお言葉に従いますだ」
やがて、幾人もの者達が老人に倣って頭を下げた。ニルナの心をささやかな満足感が満たす。
(「これで、この村に希望が届くと良いのですが‥‥」)
●復旧の道は険し
冒険者達は村の再建に着手した。先の火事でも家が焼けているが、それ以前に村の家々はどれもこれも痛みが激しいのだ。
「村の区画整理を実施しますので、ご協力をお願いします!」
ルスト・リカルム(eb4750)が家々の点検と村人への事情説明で回っていると、早速に苦情が飛び込んで来た。
「あの魔物憑きの一家とだけは、隣同士になるのは御免だよ! 奴らの家は村の外に作っておくれよ!」
例の噂は村人の中にも伝わっていたのだ。しかし、ルストは厳しい表情で言葉を返す。
「あらゆる差別迫害は、例外なく絶対に赦しません!」
すると相手は懇願する。
「お願いだよ、うちにだって可愛い子どもがいるんだよ。あの鼻つまみ者のお陰で、うちの子まで魔物に襲われたら、あたしはもう生きちゃいけないよ」
それを何とか宥め賺しつつルストは家々の点検を済ませ、続いて冒険者達と再建計画を進める。
「救護院や工房等の設置も必要になるし、今後の受け入れも考慮して余裕を持たせないと‥‥」
「すると、救護院建設の予定場所にある家々は修繕しないとして‥‥家族単位で住む所になった区域から順を追って、か?」
ルストとソードでそんな話をしながら図面を纏めていると、衛兵隊長がやって来た。
「修繕用の材木が届いたぞ」
届けられた材木を見て、ソードもルストも驚く。
「何だよ、丸太ばっかりじゃないか。それにたったこれだけか?」
小屋を3つも建てれば使い切ってしまうだろう。しかし、ソードの言葉に隊長は肩をすくめて答える。
「貧民の住処など丸太小屋で十分だ」
一方、空魔紅貴(eb3033)は農作の為の肥料作りを済ませ、続いて村の周辺を見て回っていた。村人の中から農夫の経験者を選び、彼らを付き従わせて。
「どこもかしこも雑草だらけだな。‥‥おっ!? こんな所に井戸の跡が。こっちは用水路の跡か」
かつてはこの辺りも農地だったのだ。
「原野を切り開いて開墾するより、復旧は捗るだろう。‥‥おい、どうした爺さん?」
付いてきた老人がもうへたりこんでいた。
「わしも、もう歳ですじゃ。お役に立てず、済みませぬ」
「分かった、休め」
老人を残し、紅貴は以前に見つけた家畜小屋跡の検分を進める。
「土台はしっかりしているな。代わりの小屋を建てられるだろう」
後は肝心の家畜がいれば。
●企み
ここは掃き溜めの町ベクト。無法者達のアジトで謀議は行われていた。
「あいつを生かしておけばまた邪魔するだろうさ。もう邪魔はさせねぇ、あの首切り落としてやる」
「余程、恨みがあるようだな」
「頼みがある。手下を4、5人借りたい」
言葉と共に、女の手からテーブルに投げ出される数枚の金貨。
「何なら俺達も加勢するぞ」
「いいや、余計な手出しをされたくない、欲しいのは足止め役だけだ。あの女はあたいが殺す」
憤怒と恨みの込もった女の声。裏世界の周旋人はにやりと笑った。
「良かろう。手下は貸してやる。好きに使え」
女が部屋を出て行くと、周旋人は隣に座る仕事人が言葉を発した。
「手出しはしない。が、見物はさせてもらうぜ」
●対決
夜。クレアは愛馬コロナを連れて貧民村を離れ、野原で夜風に当たる。周囲に仲間の姿はない。
誰かが来る。その気配にクレアが振り向くと、鬼面頬で顔を隠した女戦士がファングブレードを向けていた。
「前は仕留め損なったが、今回はその首落とさせて貰う」
女戦士の背後にいた手下の一人が、加勢しようと前に飛び出す。途端、女戦士は平らな剣の背でその者を打ち据えた。
「この戦いを邪魔する奴は許さねぇ‥‥それが誰であってもな」
そしてクレアに言い放つ。
「あんたに殺された相方の恨み、此処で晴らす!」
クレアはワスプ・レイピアを引き抜き、女戦士と向き合い呟く。
「手加減はしないわ」
次の瞬間、両者の剣は打ち合わされていた。
2人は気付かなかったが、両者の戦いを離れた場所から見守る巨躯の男がいる。それは闇の仕事人バーロック。
「奴が仕留め損ねたら、俺が仕留めてやるぜ」
「そうはさせないさ」
背後からの声にバーロックは振り向き、そして空魔紅貴の姿を見た。
「あの女の仲間か」
言葉を発するや、バーロックの斧が唸りを上げて紅貴に迫る。それを紅貴のミドルシールドが受けるが、あまりの勢いに紅貴の体が後方によろめく。さらにバーロックの第二撃が。しかし繰り出そうとした寸前で、その手が止まった。一瞬早く繰り出していた紅貴の小太刀「備前長船」が、バーロックの頬に一筋の傷をつけていたのだ。
「俺のこの体を傷つけるとは、魔法の武器か!?」
バーロックが呟くや、その背に2本の矢が。
ドスッ!
「うっ!」
遠方の木の上から魔法の矢を2本同時に放ったのはケヴィン。
「おのれぇ!」
バーロックは怒り狂った。
●仲間
クレアと女戦士の戦いは、今まさに決着が着こうとしていた。
「‥‥六ノ法、吼月轟槌閃!」
持ち替えたギガントメイスで、トドメの一撃とばかり女戦士を打ち据えた。倒れた女戦士は死んだように動かない。それを見て敵の手下どもは逃げ出した。
バーロックとその手勢の姿も今は無い。
敵の姿が全て消えると、隠れていた仲間達がぞろぞろと現れる。クレアは彼らの手を借り、瀕死の女戦士を村に運び込む。
鬼面頬を取り去ると、下から現れたのはフィラ・ボロゴース(ea9535)の顔。全ては敵を欺き、潜入捜査を続けて来たフィラの立場にけりをつけるための芝居だったのだ。
「本当‥‥悪い主で、御免なさいね」
紅貴から貰ったポーションでフィラを手当てしながら、クレアはその耳に囁く。
「やっとクレアの傍にいられるんだ、これくらい何ともないさ」
暖かい声でフィラから返事が返ってきた。