希望の虹12〜ハロウィンハロウィン

■シリーズシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:11人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月02日〜11月05日

リプレイ公開日:2006年11月09日

●オープニング

 だいすきな、おかし。ふだんはあんまりたべられないんだけど、このひだけはたくさんもらえる‥‥それが「はろうぃん」なんだって!
 もともとは「てんかいのおまつり」なんだって、せんせーがおしえてくれたの。かそーしてみんなでぱれーどするんだって。
 えへへ、じつはよくわかんないんだけど、ジェイクにいちゃんやサナねえちゃんといっしょに、せんせーたちといっしょに、みんなでいっしょにすごせるのはうれしいなって、すごくたのしみなんだ。

「どんな仮装にする?」
「そうね。この人数だとあまり凝れないでしょ? 簡単で可愛いってのが良いと思うのよ」
「ハロウィンの仮装って、怖いかっこうするらしいけど‥‥」
「道順は‥‥ご近所を回って、後。パールのトコとキャティアちゃんのトコと‥‥あ、ご近所の人達はハロウィンなんて知らないかしら?」
 ハロウィンというお祭りがある、と知ってから虹夢園の子供達は皆ウキウキそわそわ。
「ね、先生。わたし達も、わたし達にも出来ないでしょうか?」
 子供たちを代表してサナが恐る恐る提案した事から、ここ虹夢園でも便乗しようという事になり、只今準備の真っ最中である。
「お菓子貰いながら一回りパレードして、そしたら虹夢園でちょっとしたパーティ、よね?」
「先生達が料理を用意してくれたら‥‥この辺は要相談、でしょうか」
「カボチャがないのが残念、ってカボチャって何?」
「天界の食べ物‥‥野菜らしいですよ。でも、なくてもそれらしくハロウィンをやる事は、不可能ではないと思いますが」
「うん。おいしいごはんもおかしも、すっごくたのしみ!」
 パレードもパーティも、とても楽しみ。中でも、おかし好きなショーンはそれはそれは嬉しそうな顔で。
「‥‥仮装とかパレードとかパーティとか言われても、なぁ」
「ね、ケディン。こういう時は素直に楽しんじゃっていいと思うよ?」
 こういう事が初めてなケディンは、少し落ちつかなげで‥‥それでもやはり、周囲の子供達に煽られるように、ハロウィン喧騒の中に居て。
「その通り! みんなで盛り上げようぜ!」
 とにかく皆、来るべき日を楽しみにしていたのだった。

「‥‥どうしましょう」
「ショーンにとっては、良い話‥‥なのですが」
 そんな子供達を眺めつつ、クリス先生とリデア・エヴァンスは同時に溜め息をついた。事の始まりは夏の公開授業。たまたま王都ウィルを訪れていたエヴァンス領の商人夫妻が、この公開授業を見に来た事。そして、この二人‥‥一組の善良な夫婦は、天蓋孤独で一人頑張る「可哀相な」ショーン少年にいたく同情したのだ。それこそ、「是非養子に!」と言い出す程に。
「ご夫婦に子供はいないですし、そこそこ裕福なご家庭ですし‥‥」
「ショーンくんにとっては、良い話‥‥なのですよね」
 二人はもう一つ、溜め息。まだ幼いショーンにとって、これが良い話なのは分かっている。だけど、最近落ち着いている‥‥この虹夢園を家とし、日々を楽しそうに過ごしているショーンには何と無く言い出し辛くて。
「とりあえず、先生方に相談してみましょう」
「ですがリデア様、時間はあまり無いのでは‥‥お二人がショーンを引き取りにいらっしゃるの、ハロウィンパーティ当日ですよ」
「‥‥えぇっ!?」
 クリスに指摘されたリデアは慌てて羊皮紙に書かれた「夫妻来園予定日」を確認した。と、確かにクリスの言う通りハロウィンパーティ当日だ。もっとも、ウィルならともかく、田舎であるエヴァンス領からの文である。そもそもハロウィンなんて知らないだろうし、手紙の到着より本人の到着の方が早い事もある‥‥とはいえ、ビックリしている暇は無かった。
「‥‥とにかく、先生方とも相談の上‥‥あ〜子供達にはどう説明したら良いのかしらね。ショーン自身にも‥‥」
「折角楽しみにしているのに‥‥あまり水はさしたくありませんが‥‥」
 二人はもう一度、大きく溜め息をついた。

●今回の参加者

 ea0502 レオナ・ホワイト(22歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea0941 クレア・クリストファ(40歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea1683 テュール・ヘインツ(21歳・♂・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4441 龍 麗蘭(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea7095 ミカ・フレア(23歳・♀・ウィザード・シフール・イスパニア王国)
 ea7509 淋 麗(62歳・♀・クレリック・エルフ・華仙教大国)
 ea7511 マルト・ミシェ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb4191 山本 綾香(28歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

風見 蒼(ea1910)/ マルローネ(eb5801

●リプレイ本文

●ハロウィンとは
「華国のお化けでもよいなら‥‥」
 決めた淋麗(ea7509)は早速、ハロウィン用の衣装を作り始める。幸い、使える生地は用意されている。
「む、あたしも負けずに頑張っちゃう!」
 負けじと、布を手にしたのはルリルーだ。だが、そこでハタと動きが止まる。
「でも、お化けってどんなの? 肝試しで先生達がやったようなの?」
「それも良いけど、基本は魔女かしら? こういうとんがり帽子をかぶってね」
 ルリルーに、クレア・クリストファ(ea0941)は魔女の帽子を見せた。
「男の子はこういうお面をつけるのもカッコよくないかしら?」
「カッコ良いじゃん!」
「こういうの、簡単で良いから作ろうよ」
 鬼の面は女の子達はともかく、やはり男の子達には受けが良い。
「ん〜、型を取って、布を何かに貼り付けて作ろうか?」
 特に乗り気だったのはチコで、意外に積極的に動き出す。
「私はどんな格好をしましょうか‥‥みんなに合わせた方が良いのかな‥‥」
 と、考え込む山本綾香(eb4191)に助け舟を出したのは、リデア・エヴァンスだった。
「綾香先生に希望‥‥イメージみたいなものがあれば教えてくれますか? 腕の良い仕立て屋、押さえてありますから」
 ニッコリ笑むリデアに、綾香は少し悩んだ後で、こっそりと自身の希望を告げた。
「うん、とりあえず魔女の格好ね」
「仮装が決まったら、私も手伝いますよ?」
「オルガさんも手伝ってくれるって。今、そういう創作衣装作りにこってるって‥‥そういえば、クレア先生も魔女?」
「内緒よ。パレードをお楽しみに」
 クレアは、中々堂に入った手際で衣装作りに入るルリルーを、笑顔で煙に巻いた。
「子供達の為に、このパーティは無事に終わらせましょうね」
 そして、仮装の準備に大はしゃぎの子供達を眺め、クリスにそっと囁いた。
「その為に、私達が居るのだから」
 決意と、願いを込めて。

「そもそもハロウィンとはの、万聖節の前夜祭にあたるものなんじゃ」
 買いこんだ栗で焼き栗を作りながら、マルト・ミシェ(ea7511)は子供たちにハロウィンの由来を話して聞かせていた。
「正しい由来を知るということは、大切な事じゃからのぅ」
 と思っての事だ。
「おばあちゃん、それってなぁに?」
「秋の収穫を祝い、亡くなった家族や友人を偲び尊ぶものじゃよ。訪れる悪霊達から隠れる為に怖い仮装をしてじゃな‥‥」
 子供達を怖がらせないよう、昔話のようにマルトは語り聞かせた。
「後はアレだな。ハロウィンの挨拶を教えておこう」
 そして、ミカ・フレア(ea7095)は子供達をグルリ見回し告げた。
「Trick or Treat、トリック・オア・トリートだ。『お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ』って意味でな、訪ねた家でこうやってお菓子をねだるんだ」
 ミカの言葉、ショーンを始め子供達は皆、忘れないように各々繰り返す‥‥間違ってお菓子が貰えなかったら大変だもの。
「‥‥勿論、お菓子くれねぇからって本当に悪戯しちゃいけねぇし、お菓子を貰えたらちゃんとお礼は言うんだぜ?」
 目を細めミカは一応そう、釘を刺し。
「じゃあ皆、それぞれ最後の仕上げですよ。衣装を用意できた人は、先生や他の子の手伝いをして下さいね」
 子供達はミカとクリスとに「はぁ〜い」と元気の良い返事を返したのだった。
「あははははは! 料理!! と来ればーーー!!」
 と、そこに響く歓喜の雄たけび?! 虹夢園の厨房からのそれは、龍麗蘭(ea4441)のもの。
「私の出番よーーーーーー!!」
 料理が出来る、思いっきり料理が出来る‥‥それは何という喜びだろう!? ハイテンションだった麗蘭はここでふと、振り返り。
「あ、悪いんだけど私だけじゃ手が足りないから、誰か手伝ってくれない?」
 可愛らしく小首を傾げて見せた。いやだって、量が量だし。
「麗蘭先生のお手伝い、させて貰えるんですか!? わたし、頑張りますッ!」
「私にも手伝わせて下さい」
 応えたのは、様子を見に来たサナと綾香。それにクレア達から手伝いを頼まれた風見 蒼が加わる。
「よしッ、じゃあいくわよ。とりあえず、カブの丸ごとクリーム煮と鳥の丸焼きとパン‥‥それと、軽い付け合せ」
 麗蘭はニッコリ笑むと、包丁を手に取った。
 ニンジンを乱切り、タマネギを薄切り、カブの葉は2センチ位、リズミカルに切る麗蘭にサナが感嘆の吐息を漏らし‥‥慌てて、サポートに入る。
「カブはジャック・オー・ランタンの形にして、っと」
 鼻歌交じりにクッキング。こういう遊び心もまた、嬉しいものだ。
「ジャック・オー・ランタン‥‥?」
「そうよ。ここをこう‥‥くり貫いて、顔に見立てるの」
 器用に包丁を操る麗蘭。魔法のように出来上がっていく作品に、サナは自分の手がお留守になっている事にも気づかず、目をキラキラさせて見入ってしまった。
「ミカせんせ、何やってるの?」
「これか? コレを使ってジャック・オ・ランタンを作ってるトコだ」
 ミカはミカでまた、用途は違うもののカブと格闘中。
「えっと、それってカボチャって野菜が必要なんでしょ?」
「確かにな。だがな、俺が昔いた国じゃカボチャじゃなくてコレを使ってたんだぜ」
 小首を傾げるアイカに、ミカは胸を張って自信作を示す。中身をくりぬいて目と口を作って‥‥後は蝋燭を入れれば出来上がり、だ。
「さて、もう一頑張りだな」
「楽しそう‥‥手伝っても、良い? あの、あんまり上手には出来ないけど‥‥」
 おずおずと尋ねるアイカに、ミカは「勿論」と破顔したのだった。
「飾りつけはこれで良し、と」
 飾りつけを終えたニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)もまた、厨房にやってくる。固形保存食を砕いてお菓子にしたり、麗蘭を手伝ったり。
「鶏肉、ニンジンをいためてっと‥‥」
 カブの丸ごとクリーム煮は後は煮るだけ。他方、麗蘭とサナの方からは、蕪の鶏挽肉詰め蒸しの良い香りが漂ってくる。
 ジャック・オー・ランタンの顔を掘り込み中身をくり貫いたカブ。そこに、くり貫いた部分を微塵切りにしたモノと下味をつけた鶏肉のミンチとくり貫いたカブを混ぜたモノを詰めて蒸す‥‥その、何とも言えぬ良い香りが。
「うぅぅっ、良い匂いですよね〜」
「確かに、一つくらいなら‥‥いえ、ダメですよ」
 つまみ食いしたい誘惑と戦いつつのニルナに、綾香もまた頷きそうな衝動を頑張って抑え。
「ほらそこっ、遊んでないで‥‥お裾分け用の用意、頼んだわよ」
 麗蘭はそんな二人を楽しそうにせかしたのだった。

「子供達が賑やかにしますけど、ご了承ください」
 準備が進む中。こっそりと抜け出したリオン・ラーディナス(ea1458)とクレア、レオナ・ホワイト(ea0502)は、ご近所廻りを行った。
「今回のイベントは子供達も本当に楽しみにしているので、良ければ協力していただけませんでしょうか?」
 レオナはハロウィンの趣旨を話すと共に、一々頭を下げた。回ってくる子供達を、笑顔で迎えてやって欲しい、と。
「よろしければこれを‥‥」
 その際、三人は麗蘭とマルトが用意してくれたモノを、お裾分けと称して配った。二人のお手製の、心尽くしの食べ物を。
「まぁまぁ、すまないねぇ」
「楽しそうなお祭りじゃないか。え〜と、子供たちがトリックとか何とか言ったら、お菓子を渡してやれば良いんだね?」
「はい! よろしくお願いします」
 レオナとクレアとリオンは揃って、頭を下げた。
「虹夢園からパールちゃんトコとキャティアちゃんの家‥‥スムーズに回らせて上げたいしね」
 一方。テュール・ヘインツ(ea1683)は一人、パレードの順路の下見を行っていた。
 距離が近くても、治安の悪い場所は避ける‥‥特に夜だし。それに、歩いての移動だ、馬車や馬の往来が激しい所も避けるのが無難だろう。
「あの、すみません。実は‥‥」
 それに、自警団や憲兵といった類の人達に話を通しておく必要も、テュールは感じていた。
「子供たちが安全に、思い切り楽しめるように、ね」
 一通り終えて帰ってきたテュールは休む間もなく、部屋の準備に取り掛かった。用意するのは、ショーンを引き取りに来る、商人夫婦の為の部屋。
「ショーンにとってここで育つコトと、里親に引き取られるコト‥‥どっちが幸せなんだろうな?」
 そんなテュールに、ミカはポツリと呟いた。子供達は皆、最後の仕上げに取り掛かっている‥‥ショーンの話は知らぬまま。
 ミカ達に子供達にそれを知らせるつもりは無い‥‥少なくとも、今はまだ。
「折角のパーティに水を差したくねぇしな」
 脳裏に浮かぶ、カブ頭を見てはしゃいでいた、ショーンの姿。
「商人夫婦さんがショーンさんのことを本当に考えてくれているなら、世間勉強のために引き取ってもらう事に賛成なのですが」
「もし『かわいそう』って同情心だけでショーンを引き取るつもりだってんなら、俺は絶対に反対だ」
 麗に、ミカはキッパリと首を振った。
「あいつに必要なのはそんなんじゃ無ぇ、『親の愛』ってヤツなんだからな」
「勿論、それは私も同感ですよ。何より、とにかく突然ですからね」
「即断即決は嫌いじゃねぇが、この件はいささか性急に過ぎる気がするな」
 麗と同じく、陸奥勇人(ea3329)もそれを憂いていた。
「急いては事を仕損じる‥‥いい機会だから、この際ショーンときっちり向き合って貰おうぜ」
「とりあえず今回はご夫婦に、ショーンの普段を見てもらおう。話はそれからだろうね」
 頷き合う勇人とリオン。
「境遇に同情してじゃなくて、ショーン君のことを好きになってそれで‥‥っていう風になるといいな」
 そして、願うテュールの頭を、勇人はポンっと軽く叩いた。

●Trick or Treat!
「ふふ‥‥自分が変装してれば怖いことなんて無いわ! みっともない姿を見られないですむし、良いこと尽くめよ!」
 女吸血鬼に扮したレオナは、やけくそ気味に胸を張り。
「‥‥うぅっ、暗い中で見るとやっぱちょっとアレよね」
 闇に浮かび上がる周囲の仮装に、やはり少しビクビク加減。
「何がアレなわけ?」
「‥‥っひゃあっ!?」
 ポン、なんてクレアに肩を叩かれた日には、つい変な声が出ちゃうの。
「あらあら、子供達に笑われちゃうわよ」
「クレア先生のは怖いっていうより、キレイよね」
 ブラックローブとレイヴンクラウンをまとったクレアは確かに、とても艶やか‥‥妖艶だ。それはそれで、似合っていて凄みがあるが、ルリルー達からすると「すごいキレイ!」なのだろう。
「ありがと。あなた達も似合ってるわ‥‥イマイチ怖くはないけど」
 苦笑交じりに指摘する通り、形はともかく、色がピンクなルリルーとか水色なララティカとか黄色なサナは魔女というより魔女っ娘‥‥自分の好きな色を選んでしまったらしい。
「アイカはちゃんと、魔女さんね」
 スタンダードカラーの黒を着たアイカは何故か一瞬俯き。
「ジェイク達もカッコいいわね。似合ってるわよ、みんな」
 クレアはその頭を優しく撫でた。
「クレア、似合ってますよ‥‥ふふ、対照的な仮装も面白いです」
 確かに、言うニルナはクレアとは対照的だった。
「ちょっと恥ずかしいですが、天使というものになってみました‥‥ノア君、感想もらえます?」
 エンジェルフェザー、月桂冠、天使の羽飾り、マリアヴェールで天使になっているのだ。
 問われたノアには天使なる者は分からない‥‥ただ。
「あの、その、すごく‥‥すごくキレイです」
 はにかんだ笑みを浮かべるニルナは文句なしに麗しく。あぁこういうのが天使なんだなと、少年は赤い顔で思ったのだった。
「た、確かにコレはカボチャ‥‥ですけど」
 その横。同じく恥ずかしそうに自分の格好を見下ろすのは、綾香。確かにカボチャの着ぐるみを希望したのは自分だ。だけど、カボチャ風の上着にカボチャパンツ、手首と足首にカボチャ風ボンボン、靴もカボチャ風、止めはカボチャ帽‥‥着ぐるみというよりもカボチャっ娘なコスプレっぽくてちょっぴり恥ずかしい。
「カボチャという野菜が分からなくて、ニュアンスでやってみましたが‥‥イメージと違ってましたか?」
「あっいえ、可愛いです、すごく‥‥」
 それでも、不安そうに聞いてきた仕立て屋さんに首を振り、綾香は照れたように笑った。
「あっあの、シスター‥‥なんですが」
 一方。まるごとオオカミさんを装着したリオンは、おずおずとそれはそれは恥ずかしそうなクリスに、思わず目を見開いていた。
「こういう時も、やっぱり引率は多い方がいいっ。と言うワケでクリスも‥‥行かない?」
 そう、確かに誘ったのはリオンだ。そして、クリスは嬉しそうに受けてくれた‥‥のだが。
 リオンは改めてクリスの仮装を見る。確かにそれはシスターを思わせる服。ただ、ゴシック調というか妙に黒くてゴテゴテしていたり、丈が非常にヤバいくらい短かったり、なので例えるならブラックシスターさんだ。
「‥‥やっぱり脱ぎますっ!」
「わぁぁぁっ、いや良いから! 脱がなくていいから! ていうかここで脱いじゃダメだから!」
 沈黙に半泣きになるクリスを何とか押さえ、リオンはコホンと一つ咳払いし。
「似合うよ‥‥うん、いつもと違って色っぽいっていうか魅力的っていうか‥‥とにかく、似合ってるから」
 行こう、手を差し出すおおかみさんに、シスターは自分の手を乗せた。
「ところでその格好、寒くない?」
「温かいですよ‥‥その、リオンさんの手‥‥」
「そっか、もこもこしてるから」
 ビックリするほど白く華奢な手。その感触が感じられない事をちょっぴり残念に思っていたリオンは、クリスの照れた微笑に、こちらも笑みを返していた。
「若いって良いわねぇ」
 そんな二人にクレアはニヤリと笑ってから、子供たちに合図した。
「じゃあ皆、出発するわよ」
「ノア君、一緒に歩きませんか? ご近所さんからいっぱいお菓子をもらうんですから」
 合図に従いそれぞれわいわいしながら歩き出す子供達。ニルナはその中、先ほどから押し黙ったままの‥‥というか固まっているように見えるノアに手を伸ばした。いつものように気軽に気さくに。
 それがノアを現実に戻し。少年は一瞬の躊躇いの後でニルナの手を取った、いつものように。少しだけ伸びた背、胸の中で育つ気持ちを、押し殺して。
「とりっくぉぁとりーとでしたっけ? 私もハロウィンに参加するのは初めてで‥‥」
「‥‥楽しみですね」
 少年は天使に穏やかに頷いた。
「ハロウィンハロウィン、お化けの夜は〜」
 レオナの奏でる行進曲と共に、パレードは進む。それは子供達の気持ちを高揚させ、ご近所の皆さんには子供達の到来を知らせる合図となるもの。
「ハロウィンハロウィン、胸騒ぎの夜〜」
 クリスと手を繋いだまま、リオンも歌っていた。
「うふふ、上手な歌ねぇ〜」
「トリック・オア・トリート!」
 ご近所の人達からお菓子を貰い、ララティカもショーンもご満悦。
「ほら、遅れるなよ」
「分かってるけど‥‥お前ら恥ずかしくないのか?」
「あははっ、でも、ケディン君もカッコ良いよ。布に絵描いたの? 上手じゃないか」
 ジェイクに注意され口を尖らせたケディンは、テュールに褒められるとそっぽを向いた。ただ、そのお面に隠れた顔が‥‥赤いようで。
 テュールはこちらを微笑ましげに見ている自警団員さんに目礼を返してから、チコとそっと笑みあった。
「トリック‥‥?」
「ええ、ハッピーハロウィン‥‥パールも元気そうね」
 そうして、訪れた先でパールにお菓子を渡しながら、クレアはそっと頬を緩める。また少し大きくなった少女、幸せそうな様子に安堵して。
「ハロウィンハロウィン、ハッピーハロウィ〜ン」
 皆は始終楽しそうに、パレードを終わらせた。

●ハロウィンパーティ
「遠路遥々ようこそ。実は今ちょうどパーティの準備中でして。どうです、お二方も参加されては?」
 ショーンを引き取りたいとやってきた商人夫妻。礼服姿で出迎えた勇人は、その格好に似合う一礼を贈ってから、にこやかに囁いた。
「ショーンのありのままの姿をご覧になってからでも、ご用件については遅くないと思いますが」
 引き取って帰るつもりの夫妻は、戸惑う視線を交わし合った。
「すいません、急なお話しなので‥‥何かあるのかと少し気になりまして。よろしければ、事情をお聞きしたいのですが」
 見て取った麗はそう、やんわりと尋ねた。
「事情‥‥ですか?」
 小首を傾げた夫妻は、勇人と麗の眼差しに真剣さを感じ、こちらも神妙な表情で応えた。
「我々は子供がいません。それで、ショーン君を引き取りたいと‥‥王都に来る機会も費用も中々、捻出できませんし」
「それに主人は取り引きで数度、ショーン君達の村を訪れた事があるんです。だから‥‥その村が一年前、流行り病でなくなってしまったと聞いた時は驚いて‥‥悲しくて‥‥」
「だからでしょう、余計に気になって‥‥夏にウィルを訪れた際、ショーン君を見かけて‥‥彼があの村の生き残りの一人だと知って何だか‥‥精霊様のお導きのような気がしたんです」
「私も主人から話を聞いて、居てもたってもいられなくなくて‥‥」
 辛さと傷ましさから嬉しさへと色を変える夫妻、麗はその真意が嘘でないと、悪意ではないと、判断して内心でそっと安堵の息をもらした。
「だから、『可哀相』ですか」
 直接ショーンを知らずとも、平和だった頃の村を覚えているのなら、それは思うだろう。何て可哀相な、と。‥‥だが、それでも。
「ですが、今の彼らの姿‥‥友人と共に学び、生活していることが、本当に可哀想なことだと、思うのですか?」
 麗は問うた。罪悪感‥‥とは違うのだろうが、夫妻が使命感じみた気持ちをも抱いていると感じるから。
「それは‥‥」
 予想外だったのだろう、夫妻は困ったように顔を見合わせ。
「引き取るにも何にも、まずは、ショーンさんの気持ちを聞いてみてからではどうですか。折角、ハロウインなのですから、一緒に楽しんでみてください」
 微笑む麗に、迷った末に首肯した。
 そんな夫妻に笑みを返した勇人は、「では一つお願いがあります」と切り出したのだった。
「ハロウィンのお客様が着いたぞ〜」
 そして、パーティ会場で子供たちに夫妻を紹介する。そう、それが勇人の願い。夫婦がショーンを引き取る意図がある事は、時期が来るまでは明かさないで欲しい、と。
「とりっくおあとりーと!」
「ハッピーハロウィン」
 そういえばまだ子供たちにはお菓子を渡してなかった、思った勇人は用意しておいた、甘い保存食と小豆味の保存食をショーンやルリルーに配ってやり。
 ついでを装い、ショーンに夫妻を指し示す。
「このお二人のエスコート、頼めるか?」
 突然の大役にビックリするショーン。
「何、普段通りで大丈夫だ。困った事があったら声を掛けるんだぞ」
 それでも、勇人が笑って頭を撫でてやると、幼い顔に真剣な表情を浮かべ「うんっ!」と、請け負ったのだった。
「後はショーン次第‥‥仲良くなれると良いな」
 使命感に燃えるショーンと、その様子に微笑ましげに頬を緩める夫妻‥‥その後姿に、勇人は呟いた。

「これは美味しそう! 是非とも食べたい〜‥‥ところが」
 つかみでゴー! テーブルに並べられた料理とお菓子に目を輝かせる子供達を制止、リオンは皿のお菓子に布を掛けた。パッと取るとアラ不思議‥‥何とお菓子が消えているじゃあ〜りませんか!
 当然上がる、非難と悲嘆の声・声・声。
「皆パーティ後、片付け手伝う? 勿論仲良くな? 終わったら、夜は夜更かししないでちゃんとすぐ寝る? それと勉強の事も、いちおー忘れるなよ〜?」
 リオンは柔らかな口調で聞き。子供たちがとても真剣に頷くのを見てから再び空のお皿に布を掛け‥‥。
「スリー・ツー・ワン‥‥」
 パッと取ると、そこには元通りのお菓子が! しかも、先ほどよりも増えてる!?
 勿論、子供達からは大きな歓声が上がった。
「私はあの子達には幸せになって欲しい。あの子達は賢くて強い子達です」
 その子供達の笑顔を見やり、レオナはふと夫妻に語りかけた。
「だから‥‥『可哀相』だから引き取るのではなく、『愛したい』から引き取りたいと言われたい‥‥それが先生心なんですよ」
 そして、竪琴を爪弾く。流れ出る、優しいメロディ。それは子供達を想う、レオナの心のままに。
「子供1人を引き取る決意がどれだけ大変なことかはわかっておるつもりじゃ‥‥じゃから先ず、お二人には心より感謝したい」
 入れ替わるようにそっと歩み寄ったマルトは、丁寧に礼を述べた。ずっと「おばあちゃん」として関わってきたから余計に、思うのだろう。
「それで、お二人は楽しむショーンの様子を見て、どう思われましたかの?」
「‥‥楽しそう、ですね」
「楽しむ姿は、普通の二親いる子供と少しも変わりはしないはずじゃよ」
 マルトの言葉に、夫妻はうな垂れた。
「優しいお二人であれば、ショーンも必ず懐くはず。‥‥それだけに、引き取る考えの土台、幸せの土台をしっかりと‥‥というのは私の我侭じゃろうか」
 優しく優しく告げるマルトに、夫妻は考え込むようにその言葉を噛み締めるように、俯いていた。
「同情と愛情は似て非なるもの。同情を注がれた心は濁り、愛情を注がれた心は輝く。もう一度よく考えて‥‥ショーンにも時間を与えて欲しいのです」
 そして、クレアがそう諭した時。自分の役目を思い出したショーンが、掛けてきた。
「どうしたの? どっかイタイの?」
 俯いた夫妻をどう思ったのか、ショーンは「ヨイショ」と椅子によじ登った。
「あのね、こうしてもらうと元気になるんだよ」
 そして、夫人の頭をぎこちなく撫でる。マルトがクレアがしてくれるように、拙いながら必死に。笑って欲しい、と。
「あっ‥‥コレあげる。美味しいんだよ、すごく」
 自分が大好きなお菓子‥‥差し出したショーンを夫人はぎゅっと抱きしめていた。
「ありがとう、ありがとうね、ショーン君‥‥」
「‥‥ショーン君はここが好きかい?」
「うん! せんせー達もおばあちゃんもサナ姉ちゃんもジェイク兄ちゃんもみんな大好きだよ」
 問いに答えるショーンは幸せそうな笑顔で。「そうか」と頷く夫妻もまた、笑顔だった。瞳には、僅かに涙がにじんでいたけれども。
「皆さん、笑顔笑顔‥‥では撮りますよ」
 そうして。麗蘭の心尽くしの料理と楽しい雰囲気。ニルナはその全てを写し取ろうと、カメラを構えた。記念撮影、ファインダーの向こうで皆、笑っていた。クレア達も子供達も、そして、夫妻も‥‥それが嬉しくてニルナは、知らず目を細めた。

「全ては、この子の心次第‥‥」
 そんな雰囲気に満たされたまま、床に就いた子供達。きっと楽しい夢を見ているのだろう、ショーンの満足げな寝顔を静かに見つめ、クレアは胸中で呟いた。

●明日の光
「今日はお疲れ様でした。公開授業とはまた違った物が見られたと思いますが、ショーンと一緒に居て如何でしたか?」
 子供達をクレアや綾香に任せ、勇人は夫妻を別室に誘った。ショーンについて、改めて話し合う為だ。
「正直、ビックリしました。予想してよりずっと、ショーンくんはしっかりしていて‥‥とても良い子で」
 少しだけ寂しく微笑む夫人。その微笑を見て、麗は夫妻がショーンを連れて帰るのを諦めたのを悟る。だが、いやだから、麗は口を開いた。
「お二人は本当に、ショーンさんの事を考えて下さっているのですね」
「うん。ショーン君もお二人が大好きになっちゃったと思うよ」
 更にテュールが言うと、夫妻は目を瞬かせた。
「急いては事を仕損じる、という言葉もあると聞きます‥‥ショーンさんにもう少し、時間を下さいませんか?」
 今日初めて、夫妻は先入観なしでショーンを見、ショーンもまた夫妻に接した。
「さぁ今日からこの二人がお父さんお母さんですよ」
 というのはやはり性急だと、思うから。幼いがショーンはもう、ちゃんと‥‥夫妻が思っていたよりもずっと、物事が分かっているから。
「多分の、お二人に引き取られればショーンは受け入れよう‥‥聡い子じゃしの。戸惑いを隠し、お二人の良き息子として振舞うじゃろう‥‥じゃが、それで良いのかと、婆は案じてしまうのじゃよ」
 幸せの土台をしっかりと‥‥或いはそれは自分の我が侭なのやもしれぬ、とは自覚している。だが、ショーンの為に‥‥ショーンが本当の「家族」を手に入れる事を誰よりも願っているから。
「ショーンの幸せが私にとって何かは分かりません‥‥でも何事も時間をかけてゆっくりと解決していくこともありなのではないでしょうか?」
 ニルナもまた、その意見を支持した。
「子供が泣いているからと、すぐに抱き起こすことだけが優しさではないと思います‥‥」
「家族とは一朝一夕には成らず‥‥少しずつ積み上げて築き上げていくものなのではないでしょうか?」
「あんた達にそれが出来るか? その上でまだ‥‥今も、ショーンを引き取ろうと思ってくれてるか?」
 そうして、勇人とミカに、夫妻はしっかりと頷いた。
「なら、大丈夫だ。あんた達とショーンはきっと、『家族』になれる」
 もう一度ミカに頷く夫妻。今度は、その顔に笑みを浮かべて。


「リデアさん、ちょっと良いかな?」
 事が終わった後、テュールはリデアに尋ねた。子供達に聞かれないよう、密やかに。
「はい、何ですか?」
「うん。あのね、パール君のときも思ったんだけど、ここからの巣立ち方は、今回のショーン君みたいにいいお話が来て、ここと同じくらいあるいはもっといい環境のところへ引き取られるか‥‥何か職について自立するかの二つがあると思う。今回ショーン君にお話が来たって言うことは、どこかで募集を募っているっていうことだよね?」
 立ち入った事かもしれない、そんな懸念はあった。ただ、事は子供達の事‥‥これからの子供達の為にも、テュールは聞いておきたかった。
「そうですね‥‥積極的に募集はしていませんが、この虹夢園の運営費はエヴァンス領の税金から出てますし、領民は皆ここの存在を知っています。その中から、今回のような話が出てきたのも想定すべき事例だったと思います」
 或いは、地元でおじ様方が動いているのかもしれませんが、と呟くリデア。
「ですが、今回の件‥‥ご夫妻を始め領民がここの子供達を『可哀相』と認識しているのは確かに私達のせいかもしれません、そこは反省しなければ‥‥」
 虹夢園を設立する際は、そう思われていた方が都合が良かったわけだが‥‥リデアも今回の件で色々思う事があったらしい。
「うん、それでね。同じように、自立していくほうでもなにかやってるのかな?」
 そんなリデアに頷き、テュールは本題を口にする。
「二つに優劣があるわけじゃないけど、歳が低い子のほうが希望は多いだろうし、園には奉公にでていてもおかしくない歳の子もいる。希望する何かがあるなら、それに向けて訓練や準備をするのに遅いっていうことはないと思うから‥‥まだ手をつけてないなら少しずつでもやっておきたいんだ」
 或いはそれは、求められている役割から逸脱しているのかも、しれない。ただ‥‥テュールはみんなに幸せになって欲しいから。だから、リデアの答えを聞きたかった。
「ありがとうございます、テュール『先生』」
 けれどそこで、リデアは微笑んだ。にっこりというより、クスリとした感じで。
「でも、実はもう随分と先生達には力になってもらってるんです」
 リデアは楽しそうに、告げた。
「ララティカはレオナ先生から歌と楽器を教わっていますし、サナは麗蘭先生から料理を学んでいます。仕立て屋志望なルリルーは最近、『ロゼカラー』に通ってますし今回のような機会には積極的に腕をふるってますでしょう? ノアは医者になる為、読み書きを頑張っていますし、覚えてますか?、チコは以前テュール先生に器用さを褒められたのが嬉しかったようで、それを生かせる職はないかと、考えているようです」
 そして、テュールは軽く目を見張る。他愛の無い事の中、毎日の中、子供たちは学び選び積み重ねていく。
「今回の事で、ケディンは意外と芸術方面向きかな、と思ったり、ショーンは‥‥そうですね、夫妻と良い方向に進められたら、と思いますし」
「そうだね、うん」
「あ‥‥えと、これは本人には内緒ですが、ジェイクはこの間『リオン兄ちゃんやテュール兄ちゃんみたく、皆を守れる虹夢園の先生になる!』って言ってましたよ」
 それが将来に繋がるのかどうかは分からないけれど、テュールは何だかくすぐったくなってしまう。
「だからこれからも、子供達をよろしくお願いします。それでもし、子供たちが自分の未来の事で悩んだり力を必要としていたら‥‥その時は手を差し伸べて上げて下さいね」
「うん。そうだね‥‥これまで通り、ううん、これまで以上に頑張るよ」
 そうして、満面の笑みをたたえたリデアにつられるように、テュールも笑った。子供達の未来の為、出来る事をしたい‥‥しようと、心に新たな誓いを抱いて。