希望の虹6〜人形の涙
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■シリーズシナリオ
担当:マレーア4
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 49 C
参加人数:12人
サポート参加人数:5人
冒険期間:05月15日〜05月18日
リプレイ公開日:2006年05月23日
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●オープニング
物心ついてからずっと、あたしはしっかりしなくちゃって思ってきた。父さんと母さんが人が良くて、だまされてばっかだったから。だから、お金持ちの愛人か玉の輿になって父さんと母さんを楽させてあげるってのが、夢で野望だったわけで。
でも、川に落ちた子供を助けて父さんが、後を追うように母さんが死んだ時、その夢は終わっちゃった。
でもでもでもね、先生や皆と虹夢園で暮らすようになって、新しい夢が出来たんだよ。今までは自分を飾る事を努力してたんだけど、人を飾ったり自分で物を作ったりするのも結構いいかな、って。
でね、この間。先生がぬいぐるみくれたの。手作りのカワイイぬいぐるみ、とっても嬉しかった。あたしもこんな風に作れたら、それを誰かに喜んでもらえたら嬉しいな、って。
だから、あたし一大決心! とにかく作ってみちゃう事にしたの。ラッキーな事に、材料はリデア様の口利きで、仕立て屋さんからハギレを譲ってもらえる事になって。とりあえず、モデルは自分‥‥ヘタッピだから、あんまり似てないけど、細かくパッチワークした服は中々のモンだと思うの。
そして、初めて作った人形が出来上がったその日、あたしはあの子‥‥キャティアに会ったの。
「どうしたの?」
虹夢園の外。門に寄りかかるように佇む少女に声を掛けたのは、少女がとても目立つキラキラしいドレスを着ていたから。なのに、とてもつまらなさそうな顔。
「馬車が壊れてしまいましたの」
指し示す先、確かに車輪を直しているらしい馬車‥‥こちらも妙に派手派手だ。
「そっか、大変だね」
少女は自分とは全然違う世界の人間なのだと、ルリルーには分かった。だから、それで終わる筈だった。
「‥‥その人形、カワイイですわ」
けれどその時、ルリルーが初めて作った人形を見てそう言ったから。二人は友達になった。約束も確認も無かったけれど、大人に言ったらきっと笑われてしまうのだろうけれど、二人は友達になったのだ。
「それに比べて、わたくしの人形は‥‥見て下さい」
少女‥‥キャティアの抱えた人形を見たルリルーは「確かに」と頷いた。人形のキラキラした服は確かにキレイだが、肌は固くて冷たいし、何よりその顔はリアルで‥‥ハッキリ言って不気味だ。
「お父様はいつもそうなのですわ。だから、お母様も‥‥」
キャティアは溜め息をつくと人形を恨めしそうに見下ろした。
キャティアの父・マスターシュ男爵は、成り上がりだった。社交界では「金で爵位を買った」と陰口を叩かれるくらいの。それが不満なマスターシュ男爵は彼なりに尽力した。具体的には、何事も何物も派手派手しく飾り立てたのだ。
「どうだ、この人形は。手間隙と金と私の愛情がたっぷり込められておる‥‥このような素晴らしい人形、ウィルにも二つとてあるまい」
二日前の事だった。キャティアに人形をプレゼントした男爵に、夫人が訴えたのは。
「あなた、いい加減にして下さい。‥‥あの頃のご自分を、どうか思い出して下さい」
それまでわたくしはお暇をいただきます‥‥そう宣言した夫人はそして、実家に帰ってしまったのだ。
「貴族ってのも大変なのね」
もう一度大きく溜め息をつくキャティアに、ルリルーは悟った。キャティアにとってこの人形は言わば、お母様が出て行ってしまった原因なのだ。
「私はこんな人形より、あなたの人形の方が好きですわ。可愛いですもの」
「なら、これあげるわ」
だから、ルリルーは言った。初めて作った、ヘタだけど一生懸命作った人形。褒めてくれたから励ましたいから、あげようと。
「え?、でも‥‥良いのですの?」
おずおずと問うキャティアに頷き、人形を渡す。全く未練がない、と言ったら嘘になるけれど。人形にほお擦りしたキャティアが嬉しそうに笑ってくれたから、良いのだ。
「代わりに、これ‥‥もし良かったら、受け取って下さい」
「‥‥うん、じゃあ交換だね」
と、キャティアが自分の人形を差し出してきた。正直、別に欲しくはなかったけれど、キャティアの気持ちを考えたルリルーは受け取った。
そして、二人は馬車の修理が終わる頃、別れた。それぞれの手に、人形を抱えて。
「ルリルー、その人形どうしたの?」
「貰ったの」
虹夢園。ルリルーはアイカに答え人形を無造作に棚に置くと、手伝いへと向かった。
「貰った、って‥‥」
だが、残されたアイカは困惑し、人形をマジマジと見つめた。
「これって、ビスクドールってやつよね? それに、ドレスについてるの‥‥もしかして宝石じゃないかしら?」
本物ではないとしても、この人形は高価なものであろう。
「でも、先生達やサナちゃん達に知られたら‥‥とにかく、もう一度ルリルーにちゃんと事情をきいてみなくちゃ」
アイカは思い、ビスクドールをそっと隠した。
そして次の日、アイカの不安は現実のものとなる。
「ここが虹夢園だな。さて、盗っ人を差し出してもらおうか」
居丈高な紳士が、虹夢園を訪れたのだ。鼻下のクルンとしたヒゲが、何ともキザったらしい。
「娘の人形が盗まれてね。目撃者の話では昨日、娘はここの子供と話していたらしいのだが」
自慢のヒゲを軽く引っ張りながら言い放つ男爵に、アイカは青ざめた。
(「昨日の人形‥‥っ!?」)
幸か不幸か、問題のルリルーは買出しで、ここにはいない。いや、もしここにいたとしても、気の優しいアイカにルリルーを突き出す事などできなかっただろうが。
そして。
「わっわたしが‥‥っ! わたしが盗んだのっ!?」
アイカは咄嗟に人形を掴むと、叫んでいた。
「ほぅ‥‥」
おヒゲの男爵がアイカと、アイカの下げた人形を見た。
「確かにそれは娘の人形だ。子供とはいえ、盗っ人には相応の処分をせねばならぬな」
「待って下さい! これは何かの間違いですっ!?」
「何が間違いかね? 現に人形はここにあり、この子供は白状しているのだよ?」
クリス先生の主張は、男爵に一蹴された。
「手の届かないモノを欲しがる気持ちは分かるが、盗みは良くない‥‥そうだろう?」
これはエヴァンス子爵の責任問題にもなろう‥‥ご満悦な様子で引き上げていく男爵。
「命までは取らぬ‥‥ただ少しお仕置きはせねば、だがな」
青ざめ震えながら口を引き結んだアイカを、引きずるようにして。
「ちょっと待ってよ、何よそれは!?」
ビックリしたのは、帰ってきたルリルーである。
「あれは取り替えたの、いわばせーとーなとりひきよ!」
ルリルーは先生達に昨日のやり取りをぶちまけると、キュッと手を握り締めた。
「アイカのバカ! 何でそんなウソついたの」
分かっている。アイカが自分を庇ったのだろう事は、分かっていたけれど。だからこそ、このままにしては置けなかった。
「キャティアに聞けば! あたしの人形持ってるもの!」
だか、気色ばむルリルーを、事情を聞いたリデア・エヴァンスが止めた。
「確かに、そのお嬢さんの証言があれば、アイカちゃんの疑いは晴れます。でも、男爵の勘違いを責め一方的にやり込めてしまったら、逆恨みされるかもしれません」
男爵が貴族に対して強いコンプレックスを抱いているのは、有名だった。
「とはいえ、放ってはおけません。このままではどちらにしろ、お義父さまの悪い噂が立つでしょうし‥‥そうでなくても、アイカを救わなければ、ですもの」
どうにかして、事態を収拾しないと‥‥リデアは沈痛に呟いた。
●リプレイ本文
●緊急事態
「私、アイカを迎えに行ってきます!」
「クリス先生、あたしも一緒に行くわ!」
「ストップ! 二人ともそこまでじゃ」
マルト・ミシェ(ea7511)が止めたのは、今にも飛び出して行こうとするクリスティアとルリルー。勿論、動揺は二人だけではない。
「皆、良い子だから落ち着きなさい」
クレア・クリストファ(ea0941)は静かでありながらよく通る声で告げ、皆を見回した。
「そうそう。はい皆、大きく息を吸って」
リオン・ラーディナス(ea1458)もまた、少しでも空気を和ませる為に、敢えて軽い口調を装った。
「クリスさん、よいか、絶対に慌ててはならんぞえ」
見計らい、マルトがクリスに言い聞かせる。
「誤解の傷口は、慌てれば慌てるだけ深く広くなるのじゃ。頭に血を上らせては、知恵も回らぬ」
「ですが‥‥」
「とにかく、これでも飲んで落ち着くのじゃ。それから、話を聞かせて欲しい」
お茶を差し出し、クリスとルリルーは事件のあらましをポツポツと語った。
「自分で言ったコトとは言え冤罪を見過ごすなんざ出来るワケ無ぇからな、早いトコ何とかしてやらねぇと」
心配するミカ・フレア(ea7095)に、テュール・ヘインツ(ea1683)は頷いてから
「でも」
と溜め息をついた。
「ルリルーちゃんの話とアイカちゃんを連れて行ったことから考えると、男爵さんは早とちりさんなようだね」
その上。
「奥さん出て行ったっていう話によると、人の話を聴かない人みたいだしね」
「となれば、夫人に協力を仰ぐのが一番だな‥‥ルリルー、一緒に来てくれるか?」
頷きつつも惑うルリルーに、ミカは告げた。
「ああいう大人を説得するには、少しでも信用のある人に協力を仰ぐのが一番だからな」
「確かに。あたし達じゃ聞く耳もたない感じだったわね、あのヒゲ親父」
渋面になるルリルー、テュールは少しかがんで目線を合わせると、言い聞かせる響きで告げた。
「でもルリルーちゃん、気難しい人でも折角できた友達のお父さんなんだから一方的に責めたりしたらダメだよ。ちゃんと事情を説明して分かってもらいに行くんだから」
ミカとルリルーはレオナ・ホワイト(ea0502)やリオン達と共に夫人の協力を仰いだ後、男爵の所に乗り込む‥‥もとい、説得に行く事になっている。
火に油を注ぐ事だけは止めておかないと、テュールにルリルーは
「そっか」
と了解してくれた。
「仕事でも努力していますし、子供と交流をもとうとしているのはよい事ですが、その努力の方向を正してさしあげないといけないですね」
そんなルリルーに淋麗(ea7509)はニッコリと笑みを投げかけた。カイ・ミストが聞き込んでくれた事によると、確かに男爵は仕事的にはあこぎな真似はせず、真面目に取り組んでいるらしい‥‥少し見栄っ張りで、由緒正しい貴族に劣等感を持ってはいるようだが。
「何、ルリルーの友達の父君じゃ、根っからの悪人ではあるまい。話せばきっと分かってもらえる筈じゃ」
マルトは穏やかに笑むと、ルリルーの髪をそっと撫でた。
「じゃから、ルリルーも皆も、慌てるでないよ?」
そして、幼い男の子へと声を掛けた。
「ショーン、パールと一緒に仲良く待っておれるのぅ?」
「‥‥うん!」
「先生を除いたら‥‥ジェイクが一番年上の男のコだな。皆を宜しく頼む」
頷くショーン、リオンはジェイクにそんな年下の子供達を託し。
「皆、大丈夫じゃから他の先生たちと待っていておくれ。必ずアイカを連れ帰るからのぅ」
マルトとレオナ、ミカが立ち上がった。
「さぁルリルー、行こうか。夫人の所では、ルリルーが頼りじゃからのぅ。帰ったら、皆でお茶を飲もうかのぅ」
目指すは、キャティアの母親‥‥男爵夫人の実家だ。
「じゃ、『何かの間違い』をどうにかしてくるから、ちょっと待っててね」
「はい‥‥よろしくお願いします」
リオンは、未だ顔を強張らせたままのクレアの額をちょんと突付いてから、
「うん。ドンと大船に乗ったつもりで、待ってて」
マルト達の後を追ったのだった。
「私達が約束を違えた事、無かったでしょう?」
同じく、クレアもまた笑みを一つ残し、虹夢園を出た。こちらはイリア・アドミナル(ea2564)とカレン・ロスト(ea4358)、麗と共に、男爵の屋敷を目指し、全力で駆ける。
(「男爵が罪を背負う前に、無垢なアイカが裁かれる前に‥‥!」)
ただ、それだけを胸に。
「アイカは少し、お出かけに行っただけですから‥‥先生達が連れてきますよ」
見送り、ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)と山本綾香(eb4191)、富島香織(eb4410)は残された子供達に、優しい笑みを送った。
「‥‥本当?」
「はい、勿論です。帰ってきたら皆でおかえりって言いましょうね」
そして、ニルナは皆の前に、持ってきたものを置いた。
「色々と本を持ってきたんです。皆で読みましょうね」
「私も、故郷の童話を聞かせてあげますね」
「それは楽しみですね、皆」
綾香達は子供達を少しでも安心させるように、言葉と心を尽くした。駆け出した、仲間達を信じて。
●すれ違う心
「私達は虹夢園縁の者、先の一件の事で参上しました」
男爵の屋敷に到着したクレアは、自分達の素性を名乗ると、男爵への目通りを願い出た。
「ふむ。早速の謝罪とは中々殊勝な心がけだな」
訪問をどう捉えたのか、男爵は至って鷹揚に‥‥優越感じみたものをにじませて、応じた。
「‥‥レオナ先生」
「アイカ‥‥迎えに来たわよ」
大好きな先生達の姿に、アイカはじわりと涙を滲ませた。けれど、堪える。真相を知らぬ故、ルリルーをあくまで庇おうと。
レオナは軽く唇を噛み締めてから大丈夫とその唇を動かした。
「男爵様、人形の件でキャティア様とお話をしたい事のですが」
と、イリアがやんわりと願い出た。
「何故かね? 娘は被害者だ。親としてこれ以上、辛い思いはさせたくない」
跳ね除ける男爵、イリアは麗と視線を交わす。
(「目が少し泳いでますし、おヒゲも心なしか下がりました‥‥もしや、実際に娘さんと話していないのでは」)
こそっとアイコンタクト、それはイリア自身の印象‥‥直感とも一致した。
「アイカちゃんが、心優しいこの子が人の物を盗ったなどと、とても信じられません‥‥どのような経緯があったのか、知りたいのです」
「それは私がウソをついている、という事かね?」
ヒゲをピンと逆立てる男爵に、カレンは静かに首を振った。
「アイカちゃん達を預かる者として、確認したいだけです。もし、本当であったのであれば、私からも謝りたいと思いお伺いに参りました」
それが保護者の役目でしょう?、言外に言われ男爵は
「むぅ」
とヒゲを撫でた。
「誰しも勘違いと誤解は有り得る物。今回は、お互い誤解が有るようです、その誤解を解く為に魔法の力は借りたく有りません。キャティア様をお話をさせて貰えないでしょうか」
更にイリアがやんわりとした口調で一押し。『魔法の力』をさり気に強調する。
バーストの魔法なら、実際にあの場で起こった人形交換の経緯を調べられる‥‥それを示しているのである。
「ご不快に思われるかもしれませんが、事実を確認しておく事は決して無駄ではないかと」
むっ、と再び眉根を寄せた男爵を、麗がすかさずフォロー。仏教の正装をした姿は占い師然として、どこか神秘的だ。気おされたように、男爵は頷いた。
「まぁ、いいだろう。事実は変わらぬ‥‥だが、くれぐれも娘を傷つける事、なきようにな」
価値観の違い。人形が交換された=娘の人形が盗まれた、と信じて疑っていない男爵に内心溜め息をつきながら、イリアとカレンは麗に目で合図を送り、従僕の案内でキャティアの元に向かったのだった。
残された広い部屋。過度にキラキラと装飾された部屋で、クレアは尋ねた。
「男爵様は何故、人形が盗まれたと断定したのですか?」
口調は一見穏やかだが、そこには静かな怒り‥‥憤りがある。
「お嬢さんに、ちゃんと話を聞いたのですか?‥‥妬みや自尊心で歪んだ心で、一方的に決め付けたのではありませんか?」
「何を失礼な。‥‥話など聞かずとも、あの人形達を見れば明白であろうに」
クレアの鋭い眼差しを跳ね除けるように、男爵。だが、麗は気づいた。その眼差しにどこか、うろたえるような色が浮んでいるのに。
(「イリアさん達の言葉、クレアさんの指摘‥‥自信が揺らいでいるようですね」)
「表面を幾ら着飾っても、それは醜いだけ‥‥愛情は、金では絶対に表す事はできない。真実から逃げてはいけない」
やはり気づいたクレアは、告げた。まだ間に合うから、間に合うと信じたいから。
「望んだのは、本当に今の姿?‥‥思い出しなさい」
カイが調べてくれた。男爵とて決して順風満帆にここまで来たのではない事。
「汗を、涙を流し‥‥努力を積み重ねて来たのでしょう? そんな日々を誇りにし、前を向いて真っ直ぐ進む事‥‥昔の貴方はそうだったのではないの?」
家族が、心が擦違ってしまうのはとても悲しい事だから‥‥軋む心を押し殺すクレアに、男爵は黙り込んだ。
その頃。
「キャティア様、イリア・アドミナルと申します。人形を交換した証言をお願いしてもよろしくですか?」
「私達に協力‥‥いえ、私達も協力したいのです」
イリアとカレンから、自分が知らない所で勝手に進行していた話を聞かされたキャティアは、頷いた。
「勿論です! ひどいわ、お父様‥‥お父様はいつもそうですもの」
その瞳に、憤慨と悲しみとを宿して。
「証言もそうですが、キャティア様はご自分の気持ちを男爵様に伝えた方が良いですわ」
「そうですね。本当に求めるものをお父様にお願いしてみては如何でしょう? 何故、ルリルーちゃんのお人形が欲しいと思ったのか、正直に」
それを宥める‥‥優しく包み込むように、イリアとカレンは笑んだ。
「苦しい気持ちは解りますが、黙っているのはもっと苦しくなります。自分を見て欲しい寂しい気持ちを伝えて下さい」
「でも‥‥」
「協力して下さい。男爵様へ、大切な者が身近に有る事を伝えたいのです‥‥その為に」
イリアの要請、キャティアは逡巡を振り切るように、先程より大きく頷き。人形をしっかり抱えると、少しだけ令嬢らしからぬ荒い足取りで居間に向かったのだった。
●譲れない願い
「冒険者? 夫に頼まれてきましたの?」
決して大きくはないが、質素な中に品の良さを窺わせる屋敷。大人しい‥‥いっそ地味な印象を与える女性は微かに眉をひそめた。
「いえ、我々は別口‥‥虹夢園という孤児院の関係者です」
「マスターシュ男爵とその娘の件で、男爵夫人に頼みたいコトがある」
だが、レオナとミカが口々に名乗ると、その表情は困惑に変わった。
「貴女はマスターシュ男爵夫人ですね?」
「キャサリンと申します」
「突然の訪問、驚かれた事と思いますが‥‥どうか話を聞いて下さい」
リオンは一つ頷くと、ルリルーへと視線を向けた。
「あたし、キャティアと友達になったの。それでキャティアと人形を交換したの。あのね、別にあたしが欲しいって言ったわけじゃなくて‥‥」
ルリルーは分かってもらいたいと、必死で言葉を紡いだ。時折、マルトらに補われながら事のあらましを説明する。
「そうですか‥‥あの人がそんな事を」
ルリルーの説明を聞き終わった夫人のそれは、溜め息混じりだった。そこには呆れと共に、静かな怒りが滲んでいるようで。
「まぁやり方云々はともかく、何かに対して頑張る姿勢は昔から代わっていないんじゃないですか?」
宥めるように、リオンは言葉を紡いだ。
「ただ方向性にズレが生じただけ‥‥それだけ、だと思いますよ」
慰めをも込めて。
「私達他人では分かりきる事の出来ない事情、心境がおありなのはお察し致します。その上で云わせて頂きます‥‥。貴女の娘は、貴女がいなくて悲しんでいます」
リオンの言葉に、ルリルーが大きく頷く。何度も何度も。
「人間でもエルフでも大事な者を守ろうとする気持ちは同じ」
その両肩に手を置き、レオナもまた真摯に語りかけた。
「それが、大人でも子供でも嘘をついてでも守ろうとする気持ちを‥‥子供達の気持ちを守るのを手伝って貰えませんか? お願いします」
「今回の件、放っておけば多くの子供達が不幸になる。俺達が面倒見てる子供達と、あんたの娘と。だから、どうか頼む」
「今、すがれるのはキャサリンさんしかおらぬのじゃ」
そして、ミカとマルトが頭を下げると、夫人は
「分かりました」
と要請を受け入れてくれた。
「どうか頭を上げて下さい。謝らなくてはならないのは、寧ろわたくし達の方ですわ。主人がご迷惑をおかけ致します」
その表情は、暗い。気づいたリオンが、少し悪戯っぽく声を掛けた。
「キャサリンさんの惚れた旦那様なのでしたら、きっと昔の様に戻られると思いますよ」
と、夫人の頬がさっと朱に染まった。それは、夫人が男爵を完全には見限っていない事の証明で‥‥リオンはそっと笑みをもらした。
「それにしても、どうしてこんな事になったのじゃろう」
屋敷に急ぎながらのマルトの問いに、夫人は苦く笑った。
「昔は‥‥昔から一生懸命な人でしたわ。頑張って頑張って頑張って‥‥認められて爵位を授けられて。けれど‥‥」
社交界に足を踏み入れて初めて気づいた事。洗礼された貴族と、成り上がりの自分と。付け焼刃の礼儀作法、着慣れない服、感じる引け目と。
「負けたくないと、他の方達に劣ってはいないと示そうとして‥‥主人は必死でしたわ」
だが、飾り立てれば立てるほど、成金と陰口を叩かれ、男爵は道を‥‥進むべき目指すべき道を見失った。
「わたくしはそのままのあの人で良かったのに‥‥もがくあの人を救ってあげられませんでした」
今度の家出は夫人にとっては賭けだった。男爵に気づいて欲しいと、今の自分に気づいて欲しいという、願いを込めた。
「私は賭けに負けたのでしょうか?」
「何、人生にやり直せない事など、ないのじゃよ」
マルトは答えの代わりに、そう笑った。
「道を見失ったら、もう一度手を引いて戻してやれば良い。自分を見失ったら引っぱたいてでも目を覚ましてやれば良い‥‥簡単に事じゃ」
夫人は目を大きく見開いてから、泣き笑いのような表情を浮かべた。
●ここにいるよ
「うさぎさんが寝ている間も、頑張って歩いたかめさんは、勝つ事が出来たのです」
「かめさん、えらいね」
「勝負の最中に寝るなんて非常識ですよ」
「きっと疲れてたのよ」
「ていうか、うさぎならビューンっていって一気にゴールだろ、ゴール」
香織がめでたしめでたしで締めると、子供達は口々に感想を言った。
「そうですね。でも、かめさんのように日々努力をすれば油断しきった相手にも勝つ事が出来る‥‥こつこつ頑張る事はステキですよね」
「そうですよ。本も‥‥文字もそうやって覚えていけたら良いですね」
本を広げて、ニルナ。子供達に少しずつ文字の読み書きを教えている‥‥というか、こちらの言葉などを一緒に覚えているニルナである。
「どの本を、読みましょうか?」
「ゲルマン語の本なら僕が読むよ。その代わりノア君、こっちの本も読んでくれるかな?」
「うん。本、一緒に見てても良いですか? 先生達の世界の本も読めるようになりたいですし」
「いいよ、一緒に目で追おう」
「テュール兄ちゃん、俺も‥‥俺にも覚えられるかな? 俺、こっちの文字もまだ上手く書けないけど‥‥」
「勿論だよ。勉強すればきっと、読めるし書けるようになるよ」
テュールはおずおずと願い出たチコに、請け負い。
「ニルナ先生、この『海の魔物』って恐いヤツ? 強い怪物とか出てくる?」
「恐いのはダメよ、ジェイク。ショーン達が怖がるでしょ?」
「ん〜、だけどさ、悪い怪物をやっつけるってのは面白い‥‥あ」
曇ったサナの顔に、ジェイクがしまったと言う顔をする‥‥リオン兄ちゃんに頼まれてたのに俺のバカ、内心で自分をののしっているのがモロ分かりだ。
「そうですね。悪い事をしたら怒られないと、です。でも、今回は‥‥アイカちゃんは悪い事をしてないから、大丈夫ですよ」
気まずい空気、気づいた綾香が子供達を安心させるよう、優しく告げる。
「‥‥アイカは悪くなくて、じゃあ、悪いのはルリルーなの?」
少し迷ってのジェイクの問いに、ニルナはハッキリ首を横に振った。
「ルリルーも悪くないんです。それは、先生に黙って人形を交換したことは頂けません。でも、それはルリルーがあの子のことを思ってしたことなんですから‥‥」
そして、言葉を続ける。どこか、祈るように。
「きっとアイカも戻ってきます、きっと‥‥そしたら皆で本を読みましょうね」
「がんばっている先生方を信じてあげてください。あの方々はこの街でも名が知られるような活躍をされている立派な冒険者でもあります」
続く香織の言葉は、祈りというより確信の響き。
「今回も絶対にうまくやってくださいますよ。帰ってきたら、今回の大活躍を自慢してくださいますよ。楽しみですね」
ニッコリ笑うと、張り詰めていた空気がようやく、とけた。
「じゃあ、この本読もうか」
「それより、こっちのはどうですか? ノア君はどれが良いですか?」
「どれも興味深いですが‥‥そうですね、あまり難しくなさそうな、ニルナ先生のおすすめはどれですか?」
それでも残る微かな不安を、子供達は笑い声で隠した。
「いい子達だよな」
虹夢園を手伝いに来た陸奥 勇人の言葉に、リデアは
「はい」
と首肯した。
「だけど、ここに至るまでには色々と苦労もあったんだろ?」
「そうでもありません。元々、エヴァンス領の政策‥‥事業の一環ですし。半分は善意ですが、もう半分はイメージアップ戦略ですし」
エヴァンス領の特産は布を始めとする服飾品。慈善事業を行う事でエヴァンス子爵のイメージが良くなれば、布地の売り上げ等とも決して無関係ではない。だからこそ、虹夢園‥‥孤児院を領内でなくここウィルで作ったわけで。
「それに、全部の人たちを‥‥苦しむ子供達全てを救えるわけではありませんし」
リデアの表情が少し曇る。勇人は暫し考えてから、リデア・エヴァンスの‥‥14歳の少女の頭をポムと叩いた。
「でもな、それでも、救われる子供が居る。子供達に希望を見出す大人達が居る‥‥何もしないよりずっと良い事なんじゃないか」
顔を挙げたリデアに目で子供達を示し、勇人は照れたように笑った。
「‥‥」
ショーンはそんな会話を、聞くともなしに聞いていた。すぐ横、テュールの読み聞かせに
「きゃっきゃ」
と喜びの声を上げているパールを、見つめる。
この間、パールの『お母さん』が来た。カレンせんせいと色々話していた。パールを引き取るとか何とか話していた。この虹夢園は元々、エヴァンス領の親を亡くした子供たちの為のもので、だから、パールは例外措置で、ここは領地の民の税金で運営されているから、保護者が見つかったらこのまま置いておくのはマズいとか批判がでるとか‥‥幼いショーンにはほとんどが分からなかった。
ただ一つ分かるのは、もうすぐパールがいなくなってしまうかもしれない、その事だけ。
そして、ショーンにはそれだけで充分だった。
(「パールも、アイカおねえちゃんもいなくなっちゃうのかな」)
泣きそうになる、のを堪えた。おばあちゃんと約束した、から。
「‥‥大丈夫、大丈夫ですよ」
そんなショーンに気づいた香織が、その身体を抱き上げた。あどけない瞳をひたと見つめ、安心させるように繰り返し、繰り返す。
「アイカさんも戻ってくるし、誰も悲しい思いをしたりしませんから」
ショーンはその温もりにすがるように甘えるように、香織の服をギュッと掴んだ。
「後ね、タロットも教えてあげるよ」
一方。読み聞かせも一段落ついた頃。テュールは懐からタロットカードを出した。
「占いで使うカードなんだけど絵を見てるだけも結構面白いでしょ」
「うん、キレイだね」
「この人、偉い人なの?」
「これって戦車? カッコいいなぁ」
子供達は興味津々、テュールの手元を覗き込み。
「占ってほしい人がいたら占いもするよ」
「テュール兄ちゃん、占って」
「うん‥‥あんまり上手じゃないのは許してね」
チコを前に、カードを並べる。
「過去‥‥不安と迷い。あ、でも、今は豊かさや繁栄を示すカードが出てる」
「それって今、すごい幸せって事?」
「そうだね」
声を弾ませるチコに、テュールも何だか嬉しくなる。初めて会った頃‥‥虹夢園に来た頃はいつもジェイクの後ろでビクビクしていた頃の面影はすっかり薄れていて、それが嬉しくて。
「で、未来を暗示するカードは‥‥」
そうして、開き。テュールは僅かに沈黙する。
「テュール兄ちゃん?」
「うぅん、やっぱ専門家みたいにはいかないなぁ」
「わぁ、真っ白だ」
素早く入れ替えた白紙のカードに、チコが目を丸くする。
「未来はまだ決まってないって事かな‥‥さ、お勉強が終わったら、ご飯の準備のお手伝いだよ」
テュールは自然な動作で立ち上がり、チコや子供達を促した。
「きっとお腹空かして帰ってくるから、うんとおいしいの用意してあげようね」
続けて、ニッコリと提案した。
「みんなが帰ってきたら忘れずに『おかえり』を言うようにしない?」
「おかえりなさい、って?」
「うん。今回のことに限らず、外で大変なことがあってもその一言でほっと安心できるよね。うまく言えないけどきっとそういうのが家って言うことなんだと思う」
「そっか、ここは家で、皆、家族なんだものね」
顔をパッと輝かせるチコに頷くテュールの袖の中。悪魔を示すカードが息を潜めるように、隠れていた。
●よみがえる絆
「お父様、この人形はわたくしが望んで、交換してもらったものですわ。その方が盗んだなんて、お父様の勘違いですわ」
男爵に対面するとすぐ、キャティアは訴えた。
「だが、あの人形とそんな安っぽい人形を取りかえるなど‥‥」
「だってこの人形はカワイイ‥‥温かいですもの。見ていると、寂しさを忘れてくれますもの」
(「どうか思い出して下さい」)
涙ながらに訴えるキャティアに合わせ、イリアはそっと歌を口ずさんだ。メロディーに乗せ、過去を呼び覚ますような、歌を。
「あなた、いい加減になさいませ!」
そうして、男爵がどこか神妙な顔をしている中。ミカ達に連れられた夫人が、到着したのだった。
「本当に、目を覚まして下さいませ。ご自分ひとりならいざ知らず、たくさんの方に迷惑をかけて‥‥少なくとも昔のあなたは、もっと周りが、人の気持ちが見えていましたわ」
流れるメロディの中、ノイズが走る。それは、男爵の頬を打った、夫人の手が上げた音。
「本当に、本当に‥‥わたくしが、わたくし達が愛するあなたを、本当の自分を思いだして下さいませ」
「お母様っ!」
堪えきれず、キャティアが母にひしっと抱きついた。
「ごめんなさい、寂しい思いをさせてしまったわね」
抱き返す夫人、男爵はぶたれた頬を抑え、呆然とそんな妻と子を見つめ。
「俺は孤児の出だから貴族の事情は分からねぇけどよ。どんな立場にあろうとも子供の求めるものはいつも同じ、親の愛情に他ならねぇんだ。そうだろう?」
「キャティア様は温もりが欲しかったのだと思います。最近キャティア様や奥様とじっくりお話をした事はあったのでしょうか‥‥?」
ミカとカレンは、母親と抱き合うキャティアを見つめ、男爵に問いかけた。説明する際、あんなにぎゅっと抱きしめていた人形はおそらく、その代わり。
「素敵なプレゼントは、高価な品ではなく、美しい品でなく、心が篭った品‥‥そうではありませんか?」
「男爵様、此処まで出世出来たのは、家族を大切にしたい思いが有ったからでは無いでしょうか?」
カレンの指摘に黙りこんだ男爵に、イリアは言葉を重ねた。
「大切な物は身近に有り、大切な者が有るから、困難に立ち向かえるのでは無いでしょうか」
男爵が夫人と娘とを見る。母娘はその視線を受け止め、一つ頷いた。
「一時の慰めの為、大切な者を踏みにじれば、何時か恐ろしい災厄を招きます。人形を交換したキャティア様の思いを理解して欲しいのです」
「確かに高価な人形を黙って勝手に交換してしまうのは良くないかもしれません」
レオナは二人の少女を、二人が持つ人形を見つめた。
「しかし、子供達の絆を勝手に大人が断ち切ってしまうのも良くないと思います。もう一度、子供達の本当の声に‥‥心の声に耳を傾けて貰えませんか?」
「‥‥そうだな、本当に‥‥いつから私はお前達の声を聞かなくなってしまったのだろう」
男爵は掛けられた言葉を、思いを噛み締めるように、ゆっくり一歩一歩、歩を進めた。
それはカメの歩みの如く。かつて、遥か先を行く者達を、それでも諦めず追った自分を思いだすように。
「すまなかった、二人とも。私が間違っていた。高価な贈り物よりも‥‥最初からこうしていれば良かった」
そして、抱きしめる。かけがえの無い宝物‥‥家族をその腕に取り戻す。
「男爵が仕事も家族も大切にしていらっしゃることはよく分かります。でも、もう少し自分に自信を持った方がよいと思います」
しっかりと抱き合う親子三人に微笑みを贈り、麗はアドバイスした。
「例え、罵られたとしても、男爵を見ている人はちゃんと見ていますから。自分を偽らず、自信をもってください」
もう大丈夫‥‥恥ずかしそうに、バツが悪そうに頷く男爵に、麗はそう確信した。この親子はもう、大丈夫だと。
見守る者たちは確信したのだった。
●交わされる約束
「ね、キャティア。今度ルリルー達と遊んであげてくれるかしら?」
帰り際。屋敷の外まで見送りに出たキャティアに、クレアは尋ねた。
「はい。ルリルー達が許してくれるなら、ですが」
「許すも何も、大歓迎よ」
ルリルーの言葉に笑んでから、キャティアは母親を嬉しそうに見上げた。夫人はそんな娘の頭を愛しげに撫でてから、クレア達に改めて頭を下げた。
「この度は本当にお世話になりました」
いいのよ、と笑いながらクレアは続ける。
「また逢いましょう、今度は友人としてね‥‥もう家族を泣かせたりしたら、駄目よ」
そして、真摯に頷く夫人を前に、クレアは心に刻んだ。
(「私は護る為に闘う。救いを求める声が聞える限り。この身体が動く限り。我が生涯を終える、その日まで‥‥」)
「お疲れ様、ルリルー」
そして、帰り道。レオナはルリルーの頭を優しく撫でてから、ふと口調を改めた。
「ねぇ、ルリルー? 子供達は子供達の絆があって、それでどうしようと自由だと思う。でも、悲しい事だけれど、それを疑ってしまう大人もいるの‥‥」
身分というもの、環境というもの‥‥世界は色々な矛盾と隔壁を持っている。それは時に容易く、人と人を分け隔て絆を断ち切る‥‥切ないが、紛れも無い事実。
「だから、少しでもいい。何かあったら教えて頂戴‥‥疑う大人もいれば信じる大人もいる‥‥それだけは分かって欲しいの」
「‥‥うん、ごめんなさい。でも、隠してたわけじゃないの。それだけは‥‥」
「うん、分かってるわ。でもね、些細な事でもいいから話してほしいの。それがあなた達を守る事になるのだから」
頷くルリルーの頭をもう一度撫でて、レオナは今度はアイカへと視線を向けた。
「アイカも。嘘をついてでも守りたい気持ち‥‥守られる側にとっては辛い時があるかもしれないけれど、とても凄いと私は思うわ」
謝罪を口に仕掛けたアイカを優しい眼差しで留め。
「でも、そんな嘘をつく時は先生に言って頂戴。そんな嘘をつく前に私達が守りたい人を貴女ごと守ってあげる。それが先生というものよ」
レオナはアイカに手を伸ばした。
「頼られたいの。もっと頼ってもいいのよ。‥‥ね?」
そっと頬を撫でて微笑むレオナに、アイカはコクンと大きく頷き。
「そうですよ、本当に。もう‥‥なんでこんな嘘をついたの? こういう心配は、もうごめんですよ?」
「ごめんなさい、カレン先生レオナ先生、ごめんなさい」
そして、カレンに抱きしめられると大きく声を上げて泣き出した。今まで堪えていた恐怖からようやく、解放されたように。
虹夢園からもれる灯りが‥‥光が、とても温かく見えた。その玄関には、テュール達と子供達とが集まっていて。
「ほら、うまく行ったでしょう? すごい人たちですよね」
香織の言葉にサナはコックリ頷いてから。
「でも、それは香織先生や綾香先生も同じです‥‥わたしやジェイクだけじゃ、皆をあんな風に笑顔には出来ませんでしたから」
そう、恥ずかしそうに笑んだ。
「「「「おかえりなさい!」」」」
そうして、香織やサナ達たくさんの笑顔と一つの言葉とが、ルリルーとアイカ、カレン達を出迎えたのだった。
「あ‥‥何だか笑っているみたいですね」
そのルリルーの腕の中、人形もまた嬉しそうに見えて、麗は
「ふふっ」
と頬を緩めた。
「いつの時代も子供の宝物には想いがつまっているものですね」
それが何より、嬉しかったから。