一輪の花3〜ハイビスカス

■シリーズシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 99 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:07月19日〜07月22日

リプレイ公開日:2006年07月19日

●オープニング

「お花いりませんか? お花、綺麗ですよ」
 何時ものように花を売るユーリ。
 前の依頼でヴェルグといい仲になってから毎日が輝いていた。
 子供達と一緒に花を売る彼女に、一人の剣士が近づいて来たのだ。
「お嬢様、探しましたぞ」
「‥‥! ‥‥ノイツ?」
「さぁ、そろそろお家に戻って貰いますぞ? これ以上、父上様を心配させていいわけがありません」
「イヤです。私は戻りません。私は、この街で大切なものを見つけました! 子供達の笑顔もその一つなんです!」
「いい加減に聞き分けてください!」
 ノイツと呼ばれる男が怒鳴れば、子供達はユーリを庇うように立つだろう。
 その子供達を見ると、ノイツは少し表情を緩めた。
「お母さんをいじめるな!」
「みんな、ダメよ! 後ろにいなさいっ! ノイツ、ごめんなさい。本当に帰るつもり、ないんです」
「‥‥明日迎えに参ります。御用意だけしておいてください」
 そう言えば、ノイツと呼ばれる剣士は踵を返し、去って行った。
 ユーリは深刻な表情のまま俯いてしまった。子供達は其れを心配するだろう。
「!‥‥さぁ、早くお花を売りましょう!」
「う、うん‥‥!」

 そしてその日の夕刻。
 一人の子供がギルドに尋ねてきた。其処にはこの前のお礼を言いに来ていたヴェルグの姿もあった。
「大変、大変なの!」
「おや、君はユーリさんの所の?」
「一体どうしたんだい?」
「あ、お母さんの騎士のおにーちゃん! 丁度良かったの、大変なの!」
 子供がそう言えば2人は顔を見合わせて首を傾げた。
 一体どうしたのだろうか?
「おねーちゃんが、苛められてるの!」
「苛められてる!? ユーリさんが!? 一体何処で!? 俺が止めにいきます!」
「落ち着いてください、ヴェルグさん! どんな人にどう苛められてるんです?」
「あのね、怖い大きな剣持ったおじちゃんがねおねーちゃんに荷物を纏めろって言うの。連れて帰るとか、いい加減にしなさいとか言ってたの!」
 要するにこうだ。
 何処かへ連れて帰る為、早く用意をしろとの事。
 抵抗しても無理にでも連れて帰る。そういう事なのだ。
 子供にとっては何の事か分からなかった。が、ユーリの涙が見えていたから苛められてると思ったのだろう。
「俺、ちょっと行ってきます!」
「ヴェルグさん!?」
 早計なのかどうなのか。ヴェルグはその剣士がいるという場所を突き止め、尋ねた。
「貴方が、ユーリさんを連れて帰ると言っている人ですか?」
「‥‥そうだが、何か?」
 剣士がそう答えれば、ヴェルグは白い手袋をバンッと机に叩きつけた。
 そして、キッと剣士を睨めばこういうだろう。
「決闘を‥‥一騎打ちを申し入れるッ!」
「ほう? どういうつもりだ?」
「ユーリさんを連れて帰らせはしない、そういう事です!」
「なら、三日後。町外れの川辺。後悔するなよ、小僧?」
 こうして決闘の約束は成されてしまった。

 次の日のギルド。子供に事情を聞き、ノイツに話を聞いたユーリが慌てて尋ねてきた。
「あ、あの! ヴェルグさんが決闘するって‥‥!」
「‥‥らしいですね。私もヴェルグさんから聞きました」
「こんなの、私が望んでいる事ではありません。確かに私は、帰りたくないとは言いましたが‥‥」
「ご、ごめんなさいなの。おかーさんにも言っちゃった‥‥」
「出来れば、自警団の方々に変な噂されないようにして貰いたいのです。私だけの力ではなんとも出来ません‥‥」
「決闘の方はどうなさるおつもりですか?」
「決闘というのは、真剣勝負と聞きます。私みたいな女が口を出すわけにはいきませんから‥‥ただ、ヴェルグさんは騎士です。その騎士という名に傷がつかないようにだけしてくだされば‥‥!」
「決闘相手は御存知なんですか?」
「は、はい‥‥古くからの知り合いです。‥‥ノイツの剣の腕は確かです。手加減は、してくれないでしょう‥‥怪我するかも、知れません。あるいは‥‥」
 最悪なケースを考えて、顔が真っ青になるだろう。
「お願いします、もし最悪なケースまで起こるのでしたら止めてほしいですし、何よりヴェルグさんは騎士です! 騎士の名に傷をつけてはいけないです! ですから‥‥お願いします、どうか‥‥!」
 ユーリは、涙ながらそう頼みこんだ。
 すると、ギルド員も小さく頷こう。そして、最後にユーリはこう告げた。
「あの、出来れば‥‥ヴェルグさんにこの花を、渡してください。少しでもお守りになれば、と」
 渡されたのは紅いハイビスカス。元来、ウィルでは育たぬ花である。
 その花言葉を添えて、彼の無事を祈って‥‥。

 決闘は2日後。自警団が動かないように、邪魔されないように。
 そして騎士の名に傷がつかないように‥‥。

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea1390 リース・マナトゥース(28歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3641 アハメス・パミ(45歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea8765 リュイス・クラウディオス(25歳・♂・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb2805 アリシア・キルケー(29歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb4039 リーザ・ブランディス(38歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4375 エデン・アフナ・ワルヤ(34歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

夜 黒妖(ea0351)/ アレス・メルリード(ea0454)/ 平島 仁風(ea0984)/ シャー・クレー(eb2638)/ 本草 学(eb5570

●リプレイ本文

●決闘開始まで後二日
「訓練、ですか?」
 ヴェルグがいきなり素っ頓狂な声を出す。
 提案者はランディ・マクファーレン(ea1702)である。
 決闘するのであれば、ギリギリまで。という事を告げたのだ。
「確かに‥‥其れはしない事にはこした事はありませんね」
「騎士ならぬ私が騎士道を理解していないだけかもしれませんが‥‥決闘の申し入れ、適切ではないと思うのです。状況の確認ぐらいは‥‥」
「わかってます。でも、俺は騎士である前に一人の男です。本当なら、もっと違う形にしたかったですが‥‥騎士として考慮した結果なんです。すみません」
 謝罪の言葉を告げるヴェルグにアハメス・パミ(ea3641)はそれ以上何も言えなかった。
 彼には彼の思いがあるのだと。彼は騎士としてではなく、一人の男として挑んだのだと。
 たとえそれが無謀であったにしても‥‥。
「相手は、強そうなんだからさ〜ぎりぎりまで、特訓しろよな?」
「はい、其れは勿論です! 全力でやらせてもらいます!」
 気合が入った返事を返されて、リュイス・クラウディオス(ea8765)は苦笑を浮かべるのだった。

●その間に‥‥
 ヴェルグとランディが特訓をしている間。アハメスはユーリの情報を集めようとギルドへと来ていた。
 勿論、最初はギルド員も躊躇っていた。だが、観念したのか話す事となった。
「娘がいなくなった大商人について、でしたよね?」
「はい。そろそろ聞かせて貰いたいのです。きっと今後の依頼に‥‥と思いまして」
「そうですか‥‥。その大商人はここから歩いて二日ぐらいに行った都市にいると聞いています。何でも、花の種を売る商売だとか」
「花の‥‥種?」
 アハメスは首を傾げた。此方では育たない花。
 その花をもし実家から取り寄せたとすれば?
 そう考えれば、自然と彼女は実家に連絡をいれたという事になる。
「それで、その娘さんが飛び出した理由は‥‥何でも、親が無理な縁談を迫ったという事でした」
「縁談、ですか?」
「はい。その娘さんは何度も断りを入れたようなのですが、親同士が其れを許そうとはせず‥‥」
「そんなお話があったのですか‥‥で、その縁談先まではわかりますか?」
「どうやら、この地方の若い青年騎士のようなのですが‥‥特定までは至りませんでした」
 申し訳ない。と頭を下げるギルド員を見て、アハメスは首を横に振った。
 ここまで話が聞ければ十分だと感じたからだろう。

 一方此方は花畑。
 子供達の真ん中にアリシア・キルケー(eb2805)とリーザ・ブランディス(eb4039)。
 そして、花畑で花を摘むリース・マナトゥース(ea1390)がいた。
「お姉ちゃん達、何するの〜?」
「アンタ達にも手伝って欲しいんだ。これもヴェルグとユーリの為なんだ」
「騎士のお兄ちゃんとお母さんの為?」
「何をすればいいの?」
「ここにあるお花で花飾りを作って、町で売るんです。そうすれば、ユーリさん達は困りませんから」
 リースが諭すように子供に説明すると、子供達はふぅんとうなずくだけだった。
 すると、その中でも一番大きい子供が子供達の頭を撫でた。
「いいか、みんな? ユーリ母さんはいないけど、これもユーリ母さんの為なんだ。騎士のお兄ちゃんと仲良くしてる時のお母さん、笑顔だったろ?」
「うん、其れはわかるー!」
「だから、その笑顔の為にやるんだよ! いいなっ?」
 オーッ!という声があがれば、子供達はいっせいに花畑へと舞い込んだ。
 そして、綺麗な花を摘み取ってはこれをどういう風にすればいいのか。リースへと尋ねて来るのだった。
「どうだい? 何か見つかったかい?」
 リーザがアリシアに尋ねる。アリシアは、渡された花の事が気になって調べていたのだ。
 この土地では決して育たない花。なぜそれを彼女が持っていたのか。
 花畑に何かあるのでは? と思ったようだ。
「いいえ、何も見つかりませんでした‥‥私はまだ気になるのですが‥‥」
「そうだねぇ、其れはあたしも気になる。これはユーリに直に聞いた方がよさそうだね」
「そうですね、ユーリさんと接触を図っている方に頼みましょう」
 子供達の笑い声が、花畑に木霊していた‥‥。

●ユーリとノイツ
 その頃ユーリは一人の冒険者と共に歩いていた。
 レフェツィア・セヴェナ(ea0356)。彼女がユーリを呼び出したのだ。
「ねぇ、ユーリさん? ノイツさんの事、知ってるんだよね?」
「‥‥はい」
「どんな関係なの? 聞きたいんだけど‥‥ダメ、かな?」
「本当に、昔のちょっとした知り合いなんです‥‥今言えるのは‥‥」
「ユーリさん‥‥」
「でも、これだけは言えます。ノイツは負け知らずです。それほどまで剣の腕は確かなんです。昔は傭兵とかしていたみたいですし‥‥」
 ユーリが懸命に説明するのを見て、レフェツィアは少し笑って見せた。
 其れほどまで、心配しているという事なのだろう。
「ユーリさんは、二人の決闘をどう思うの?」
「本当は、戦ってほしくないんです。でも‥‥」
「でも?」
「それで二人が、お互い理解しあってくれるのなら‥‥」
「ユーリさんは本当にヴェルグさんが好きなんだね」
 レフェツィアの言葉に、ユーリは頬を赤く染めた。
 別に意識なんてしているわけではない、と言うのだがどうもそうには見えない、と。
「ねぇ、ユーリさん。明日、決闘の応援に行こう?」
「え‥‥? でも、私が行けばお邪魔になるのでは‥‥?」
「そんな事ないよ! ヴェルグさん、きっと頑張れると思うから!」
 にこやかなレフェツィアを見て、ユーリは小さく俯きながらもうなずくのだった。
 結局、そんなユーリに花の事は今聞けなかった‥‥。

●決闘当日
 冒険者達は、それぞれの情報を酒場で交換していた。
 そうしなくては、自警団を食い止める事にも響く。
 ある程度の情報は必要だから。
「そうでしたか。ユーリさんは、やはり教えてくれませんでしたか‥‥」
「仕方ないんじゃないか? 誰にだって知られたくない事はある」
「ですが、今はそんな事言っている場合では‥‥」
「大丈夫です。わたくしが立会人を務めます」
 そう言い出したのはエデン・アフナ・ワルヤ(eb4375)だ。
 遺恨を残さぬよう、穏便に。そう済ませたいのもあるのだろうが立会人なしでは泥沼になると察したのだろう。
「自警団の方はあたしに任せなよ。子供達と一緒に花を売り歩くのに警備して貰うからさ?」
「お願いします、リーザさん。‥‥それでは、私達も参りましょうか。きっとお二人はもう集まっていますよ」
 こうして冒険者達は二人がいるであろう川原へと向かった。
 リュイスが見張りにたつのであるが、やはり決闘が気になるのか見守るように見据えていた。
「来たな、小僧。逃げずに来た事は褒めてやる」
「貴方がどんな人なのか、俺は知らない。けど‥‥ユーリさんだけは絶対に渡さない‥‥!」
「ほざいたな、小僧! このノイツ、小僧に負ける程老いてはないっ!」
「‥‥遺恨を残さぬよう、全力でお願いします。それでは、このエデンが立会人を務めます。先に血を流した方が負け。良いですね?」
 エデンが開始の合図を促したと同時に、立会人のルールを了承した二人はそれぞれの得物を抜く。
 次の瞬間、その得物がキィンと金物音をあげて交わる事となる。
 応援に来ていたユーリは、あまり見たくないのか俯いてはいたものの。その音が聞こえるとビクッと震えてヴェルグを心配そうに見つめていた。
「あ、あの‥‥本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ、俺が特訓に付き合ったからな。あいつはそれなりに強くなっている‥‥だが」
 ランディの目が細くなった。その目線の先の決闘は、やはりと言うべきなのか。
 ノイツ優勢という形をとっていた。
 但し、その鋭いノイツの攻撃をヴェルグは反射神経だけで回避しているという形。
「ヴェルグさん‥‥」
「ユーリさん、見守っていてあげてください。アレが、彼の強い思いを形にしたものなのですから」
「でも‥‥」
「怪我でもされた場合は‥‥ユーリさんが手当て、してあげてくださいね?」
 リースが笑顔でそういえば、ユーリも真っ青な顔のままうなずきヴェルグ達の行方を見ていた。
「くそ‥‥! 川原と訓練所では違う‥‥!?」
「その程度か、小僧? その程度で私を倒そうというのか!?」
「ヴェルグ、訓練所で学んだ事を忘れるな! 川原も、訓練所も、戦場も! どこでもそれは同じだ!」
 ランディが叫ぶと、ヴェルグはぐっと唇をかみ締めた。切り結ぶ二つの白刃。きりきりと押しつけるノイツの得物。だか、ヴェルグは避けず体を沈め、剣を肩で担ぐ形に。全身のバネを使って膂力の劣勢を跳ね返す。
「ヴェルグさん‥‥!」
「凄いな‥‥あそこまで訓練したのか?」
「まぁな。いずれ戦場に立つんだ、これぐらいはしておかないとな?」
 得意気に言うランディ。リュイスの心からまだ不安は抜けきれないでいたが後はもうなるようになれとしか言えない。
 そして次の一閃で勝負がついたのだ。
「そろそろ終わりだ、小僧っ!」
「負けて‥‥負けてられないんだっ!」
「目のよさが命取りだ!」
 ノイツの得物が空を切った。ヴェルグの反射神経が其れを回避したのだ。しかしその軌道は突然変化した。角度を変えて斬りつける一撃。だが!
「なっ‥‥!? 投げやがった!」
 ノイツの頬から血が流れるのが先。次の瞬間まともに叩きつけられるノイツの剣。
 ユーリは慌てて倒れたヴェルグの元に走りより抱き起こす。
「ヴェルグさん、ご無事ですか!? ヴェルグさん!」
「これは‥‥ヴェルグさんの勝ち、という事でいいのでしょうか‥‥?」
「勝った‥‥」
 ぽつりと呟かれたヴェルグの言葉。かなりトーンが低い。先に傷を付けたのは彼だが、深い傷を負ったのも彼なのだ。執念でもぎ取った勝利。だが、これがルール有る決闘だから良いようなものの、戦場ならばはっきりとした負けである。
「とにかく傷です! 傷の手当てですっ!」
 ユーリが慌てて治療道具を取り出し、治療を始めるとリュイスは軽く笑った。
 笑える状況ではないのだが、今は勝ちは勝ちなのだから、と。
「なんかさ〜お前等、はたから見ていると恋人同士に見えるぞ?」
『えっ!?』
 リュイスの言葉で、真っ赤になる二人。テンションが下がっていたヴェルグも流石の不意打ちには耐えられなかったようで。
「ん? どうした? 二人とも顔赤いぞ?」
「ん? 決闘は終わったのかい?」
「えぇ、終わりました。ノイツさんが先に血を流しましたので‥‥」
「そうか。ヴェルグ、おめでとう。ユーリは‥‥これからどうするんだい?」
「‥‥もう少しだけ。時間をください」
 必死に悩んだ結果だ。まだ時間が足りないという。
 すべてを話すには、後少しの勇気を。そういう事なのだろう。

 自警団に知られる事なく、決闘は終わり、レフェツィアのリカバーでヴェルグの身体の傷は癒えた。
 しかし、それから暫くは町でヴェルグの姿を見る者はいなかったという事だ。