一輪の花4〜エリンジューム・ブラヌム

■シリーズシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月30日〜08月02日

リプレイ公開日:2006年08月02日

●オープニング

 あの決闘から数日。
 ヴェルグの姿は街の中では見なくなってしまった。
 ノイツとのあの一戦で、如何に自分が戦場では未熟なのかを知ったから。

「お嬢様、そろそろ行かねばなりませんぞ?」
「ノイツ‥‥私には、慕う人が出来たの」
「しかし、お父上は縁談を‥‥」
「若い騎士の人なの。私のお花を毎日買ってくれていて‥‥とても優しい笑顔を持つ人なの。私はその人の事が忘れられない‥‥」
「お嬢様‥‥」
「ノイツ。どうか私をこのままこの街にいさせてくれないかしら? 私はどうしても彼から離れたくないのです」
 ノイツとユーリ。真剣に話し合う姿を、街の人々が見ていた。
 その会話の内容から疑問は一気に確信へと変わった。
 彼女が大商人の娘である事を。

「ヴェルグ殿はおられるか?」
「ヴェルグ様は今どなたにもお会いしたくないと‥‥」
「剣士ノイツが会いに来た。そう言ってくれると助かるのだが?」
 ヴェルグの屋敷を尋ねていたノイツ。
 ノイツの名を聞けば侍女は彼をすんなりとヴェルグの部屋へと案内した。
 その部屋にいた若い騎士は落胆にも似た雰囲気を漂わせていた。
「俺に、何の用ですか?」
「今日、お嬢様を連れて帰ろうと思ったのだが‥‥お嬢様に拒絶された」
「そう、ですか‥‥」
 安堵したのか、それとも当然といった所なのだろうか。
 ヴェルグは深い溜息をついた。
「お嬢様に好きな人が出来たらしい。私は、其れはお前だと認識しているのだが‥‥名をもう一度聞かせて貰えぬか?」
「‥‥! ヴェルグ・エーヴァーハルトですが‥‥」
 この時、ノイツは一つの事に確信がついた。
 驚いた様子は見せない。ただ、この胸に秘めて‥‥。
「そうか。エーヴァーハルトか‥‥お嬢様を貴殿に預けたい。今日、お嬢様の父上がこの街に迎えに来る」
「なっ‥‥!? 僕に任せても、いいんですか‥‥?」
「貴殿ならば信用出来る。そう言っているのだ」

 そして、数時間後。
 大きな馬車が一つこの街へとやってきたという。
 其れは立派な大商人の馬。
「ユーリ、迎えに来たぞ」
「私は‥‥帰らないわ。私が帰ったら、この子供達はどうすればいいの? また路頭に迷ってしまうのよ!?」
「あまり我侭を言うな、ユーリ。エーヴァーハルト家の若騎士との結婚を何故そうまでして断る?」
「‥‥」

 理由を言えず、結局黙り込むとユーリはそのまま部屋を、家を飛び出してしまった。
 飛び出ればヴェルグの姿。彼は彼女の目に浮かぶ涙の理由を知らない。

「どうしたんです、ユーリさん!? まさか‥‥」
「ヴェルグさん、私と一緒に逃げてくださいっ!」
「ちょっと、ユーリさん‥‥!?」
 一輪の花‥‥其れを手に、涙を流して‥‥。
 愛する人との逃避を選んでしまった。

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea1390 リース・マナトゥース(28歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3641 アハメス・パミ(45歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea8765 リュイス・クラウディオス(25歳・♂・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb4039 リーザ・ブランディス(38歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb5802 ペルシャ・シュトラザス(29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

サー・ブルクエルツ(ea7106)/ フィラ・ボロゴース(ea9535)/ サティー・タンヴィール(eb2503

●リプレイ本文

●約束
 消えた二人。不安がる父。
 されどその二人には知られざる真実があった。
 その真実は、今開花される。

「わ、わんちゃんだ‥‥」
「そう、わんちゃんだ。それで、俺のお願いは聞き受けて貰えるか?」
 オラース・カノーヴァ(ea3486)が一匹の犬と共にユーリが世話をしていたという子供と話をしていた。
 子供は犬とオラースを交互に見、尋ねた。
「おかーさん、助けてくれるの?」
「あぁ、そいつが俺の依頼だからな」
「おかーさん、幸せにしてくれる? おかーさんがここからいなくならないって‥‥」
「‥‥約束する」
 子供達にとって、ユーリはかけがえのないただ一人の母。
 しかし、彼女は話し合わなければならない。
 父親と、今後の事を。
 オラースは、子供に連れられユーリの部屋へと向かった。

●真実の確認へ
 冒険者達が集う酒場。
 其処に彼、ノイツもいた。
 アハメス・パミ(ea3641)とエリーシャ・メロウ(eb4333)が呼び出したのだ。
「ノイツ殿、お呼びたてして申し訳ありません。私達の尋ねたい事が理解しておられるのでしたら‥‥」
「お嬢様は‥‥心優しい人だ。家を出たのも、きっと覚悟していたのだろう‥‥」
「という事は、ユーリさんは大商人さんの‥‥」
「エーヴァハルトの騎士と結婚するという話が持ち上がり、家を出られて数ヶ月。連れ戻しに来てみればその騎士と恋仲‥‥なんとも言えぬよ」
 ノイツの表情には哀愁が漂っていた。
 幼き頃から守り続けていた娘。まるで、娘を手放す父親かのようにも見える。
 そんなノイツに、エリーシャが小さく笑って肩を叩いた。
「私でよろしければ、ここ数ヶ月のユーリさんの働き、お聞かせいたします」
「‥‥よければ、聞かせてくれ。お嬢様のご成長の話を‥‥」

●捜索へ
「どうだった、オラース? 臭いはとれたかい?」
「ああ、ばっちり。だが子供に釘を刺された気分だ」
 オラースが合流したリーザ・ブランディス(eb4039)にそう告げる。
「どういう事だ?」
「其れがな‥‥子供達はユーリを連れて帰らせたくはないっていうんだ」
「‥‥今まで親しんできた街ですからね。離れたくないのでしょうね」
 リース・マナトゥース(ea1390)がそう言うと、溜息をついてレフェツィア・セヴェナ(ea0356)が森へと先行しようと立ち上がる。
「レフェツィア、一人で行くのは‥‥」
「こうしてたって始まらないよ。とにかくまずは二人を見つける! 森の中は得意だし、任せてよ!」
「レフェツィアの言うとおりかもな。よし、ペペロ頼むぞ?」
 そう言うと、オラースは犬の紐を長くし、歩かせる。
 二人の命が消える前に。二人が森の闇へと消える前に。
 一刻も早く探し出さなくてはならなかった。

「私は彼女を買い被りすぎていたのか?」
 森の中、歩いている途中。ペルシャ・シュトラザス(eb5802)がそう呟く。
 分からないでもない。ユーリが今までしてきた行いと、今回の彼女の行動。
 矛盾が生じているからだ。
「はぁ‥‥アハメス達の情報からよれば、二人は婚約者同士確定って事だしな。色々と思いつめてた部分があったんじゃないか‥‥?」
「親という楔から家出という自由を得たユーリさん‥‥今また楔に囚われる事、心潰される気持ちだったのかも知れません。ですが、立ち向かって頂きましょう」
「リースの言うとおりだな。が、無理強いするのもよくない。‥‥子供達の事もあるだろ?」
 オラースの危惧している部分は子供達のこれからだ。
 ユーリが面と向かうにしても、子供達は一時期でも路頭にいなくてはならないのだ。
 そうなる事をユーリは望まない。決して。

 そんな時、オラースの犬がワンワンと元気よく吼えた。
 リュイス・クラウディオス(ea8765)が目をこらしその先を見れば、泣いている少女と其れを慰める青年の姿があった。
「見つけた!」
「ユーリさん、ヴェルグさん!」
「‥‥皆さん‥‥」
「父に、頼まれたの‥‥?」
「王都警邏隊の者だ。こちらの御仁から捜索願いがあった」
 オーラスが咄嗟に嘘をつく。
 それに仲間ものるかのように、小さく頷いた。
「事情は私たちにも聞き及んでいます。ですが私たちは今までどおり、お二人が一緒に居られるようお手伝いしますから!」
「‥‥冒険者の方々には申し訳ないと思っています。ですが、私は‥‥」
「ユーリ。少し誤解してるんだよ」
 リーザが溜息一つつきながらそう告げる。
 怖がらないよう、ゆっくりと近づきながら。
「その誤解の紐も解かなきゃならない。今ここでユーリが逃げたら誰が子供達の面倒を見るんだい?」
「ユーリさん、戻りましょう。俺‥‥両親に話すから!」
 ヴェルグもリーザ達と同じ気持ちのようだ。
 連れては来られたものの、子供達の事を心配し、何よりもユーリの体の事を心配していた。
「ちゃんと面と向かっていかなきゃ。せっかく二人想い合ってるんだからそれじゃダメだよ」
「ユーリさん、貴方の恋は確実に上手くいく。私が保証します」
「貴方達に保障されたって‥‥!」
「それが保障出来るんだ。ユーリとヴェルグ。確か二人は結婚を迫られている人がいたよな?」
「はい‥‥いましたけど‥‥」
「ヴェルグ。家名を言ってみろ」
「エーヴァハルト‥‥ですけど」
 リュイスの言葉に素直に答えるヴェルグ。
 その答えを聞いて驚いたのはユーリだ。
 自分の父が薦めていた結婚の相手の家名と同じなのだから。
「これで分かったろ? ユーリ、あんたの婚約者は彼なんだよ」
「そんな‥‥私‥‥そんな事にも気付かないで‥‥家を‥‥」
「ユーリさん、戻りましょう! 俺も一緒に行きますから、どうか自分の親と話し合いを‥‥!」
 ヴェルグの一言もきっかけとなったのか。
 冒険者達の応援もあってか、ユーリは戻る決意をした。
 もう一度、父と話し合う為に。

●交渉
 町に戻ってきた冒険者達は、ユーリの父である大商人をユーリの部屋に呼び出した。
 その意味は、子供達の事を交渉する為とアハメスが言ったからだ。
「おお、ユーリ! 戻ってきてくれたか!」
「お父様‥‥私、お父様の言う通りの人と結婚します。ですが‥‥この街からは離れません」
「ユーリ!?」
「私がいなくなれば子供達はどうするの? 路頭に迷わせるの? そんな事、出来ない‥‥」
「その事ですが」
 ユーリと大商人が話すのを、途中でアハメスが言葉を挟んで止めた。
「提案があるのです。花の栽培と販売を行う生花部門を新規に起こし、子供達を労働者として正式に雇用し、責任者にはユーリさんを置くのはどうでしょう?」
「アハメスさん‥‥貴方‥‥なんて事言うの‥‥!?」
「子供達は、実際にユーリさんの手伝いをしています。それなりの技術を既に習得していることも考えられますから当面は保護しつつ自立していく道を‥‥」
「子供達にまだ仕事なんて無理です! 私は、あの子達に仕事として花売りをお手伝いさせていたわけではないの!」
 アハメスの提案に、ユーリは必死になって反対する。
 確かに、自立して貰おうと思って始めた事だった。けれども、子供達は其れを
「みんなで一緒にやると楽しい」
 と言ってくれた。だから仕事というより共にいる時間を楽しむ為と‥‥願っていた。
「でしたら」
「おい、ヴェルグ‥‥!」
 リュイスの制止も振り切って、今まで黙っていたヴェルグが立ち上がった。
 そして、とんでもない一言を口にするのだ。
「俺が引き取ります。子供達も、ユーリさんも。俺が、幸せにします!」
「君は‥‥誰かね?」
「ヴェルグ・エーヴァハルトです。それなら異論はありませんよね、ユーリさん? この町に留まれる理由にもなりますから」
「し、しかしそれでは私の家が‥‥!」
「なら、貴方がこの町にいらしてください。大切な娘が願うなら‥‥其れを叶えてあげるのが親ではないですか?」
 ヴェルグの一言に、冒険者達も大商人も沈黙する。
 返す言葉が何処にもないからだ。

 結局、大商人は渋々承諾しユーリはこの町に留まる事となった。

●最後の告白
「ヴェルグ! あんたいい事いうじゃん!」
 大商人が出て行った後、オラースが思わずヴェルグの頭をヘッドロックする。
 其れはもう、親しみの意味を込めてだ。
「ホント、男らしかったよ」
「でもいいのか? 子供達まで引き取ってしまって‥‥」
「大丈夫ですよ、ペルシャさん。俺、頑張りますから」
「頑張るだけじゃあ頼りないけど‥‥ま、何かあったらまた俺達を呼べよ」
「そうです! 私達がどんな時でも駆けつけますから!」
 リュイス、リーザが口々にそう言うと、ヴェルグも少し安堵したかのようだった。
 まだ未熟な騎士である為、この先何が起こるか分からないからだ。
「ユーリさん♪ 子供達、来たよ♪」
「レフェツィアさん、ありがとうございます。みんな、お話があるの」
「おかーさん、どーしたの?」
「おかーさん、もう何処にも行かない?」
「帰っちゃうの?」
 口々に質問する子供達をレフェツィアが宥める。
 まずは、話を聞こうよ? と。
「私ね、この街に残る事にしたの。それでね‥‥この人と結婚して、貴方達を私達の子供として引き取りたいの」
 無論、嫡子が家を継ぐ必要や貴族のしきたりがあるから、法律上の本当の子供にはできない。しかし、それがなんであろう。心の絆で結ばれた家族である以上。
「おかーさんが‥‥僕達のおかーさんになるの‥‥?」
「じゃあ、この人おとーさんなんだ!?」
「家族になれるんだ、僕達!?」
 子供達の歓喜の声。ここに未生の二世は、何者にもまして得難い兄弟を得た。
 そんな声が響く中、リュイスがヴェルグの背を突っついた。
 オラースも軽く笑って頷いて、ユーリの前へとヴェルグを立たせた。
「最後の一言があるだろ?」
「私達が証人になりますから♪」
「だから、びしっと決めちゃいなよ〜?」
 冒険者達に背を押され、ヴェルグは大きく深呼吸をして真顔でユーリの顔を見つめた。
「ユーリさん。‥‥俺と、結婚してください。俺、幸せにします。子供達も、ユーリさんも。一生守り通します。騎士として、この命ある限り」
「‥‥はい。不束者ですが‥‥よろしくお願いします」
「よく言えました、ヴェルグさんっ!」
「でもちょーっとクサかったかもねぇ? 若さってヤツなのかしら?」
「何はともあれ、結婚式には呼べよな!?」
 オラースの一言で、二人は顔を真っ赤にしながらも笑って頷いた。

 ある日。ユーリの机に何通かの手紙が置かれていた。封蝋の押されたその手紙には【招待状】と書かれている。
 これが冒険者達の手に渡る日は、そう遠くはないことだろう。