築城軍師2〜学問の街への一歩

■シリーズシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月11日〜08月16日

リプレイ公開日:2006年08月11日

●オープニング

 前回の依頼にて。ウィンターフォルセは大きな一歩を踏んだ。
 冒険者による街。冒険者による政治。冒険者による仕事。
 それなりに街は復興を始め、街ではチラホラと行商人の姿も見えてきた。

「どうやら、街は少しずつよくなっているみたいですわね」
「そうみたいです。後は、プリンセスの計画が上手く行く事を願うばかりです」
 不安気に言うのはハーヴェン家男爵であるユアン。
 その傍らで苦笑を浮かべているのはレヴンズヒルド家男爵であるルーシェ。
 二人はプリンセスの補佐を勤めるべく、領主の屋敷で日々政治に勤しんでいるのである。
 今回二人が頭を痛めているのは、プリンセスにより提案された人材育成の為に設立しようという【アカデミー】の事である。
「場所と資材は確保出来ましたの?」
「はい、場所はルキナスさんが確保してくださいました、土地条件もいいみたいです。資材の方は先日冒険者の人達が診療所設立で余った石等がありますから、それで」
「後は人手の問題、ですか‥‥私達両家の騎士全てをもってして実行してしまいますと‥‥」
「そうなんです。この街の警備等が手薄になってしまうんです。街の人を使うなんて事は論外です。ただでさえ女性が多いのに‥‥其れに‥‥」
 ユアンは口篭る。もう一つ心配事があるというのだ。
「何か、他に問題でもありますか?」
「‥‥設計図、です」
「やぁ、其処の美しい侍女さん。俺と一緒に素敵な風の中で語り合わないかい?」
 その部屋へと通じる廊下の途中。声が聞こえてくる。ルキナスが侍女をナンパしている声だ。
 この声を聞いた二人は、米神を押さえ渋い表情を浮かべる。

「まだ、続いてるんですか‥‥あれ?」
「はい‥‥かれこれ二時間、ああやって此方に来る侍女を口説いてるんです‥‥」
「設計図担当って‥‥まさか‥‥」
「当然の如く‥‥彼しかいないんです」
 くっ、と目頭を押さえるユアンを見てルーシェも更に深い溜息をつく。
 そして、廊下へ出てルキナスを見つけると耳を引っ張るような形でユアンの元へと彼を連行するのだった。
「な、なにするんだよ、ルーシェ!?」
「情けないですわ‥‥軍師としてウィンターフォルセのお抱えになったと言いますのに‥‥またナンパですの?」
「ほら、これは俺の日課。つまり日常茶飯事っていうワケでだな?」
「そんな事よりもです。‥‥出来たんですか、設計図?」
 ジロリとユアンに睨まれてそう言われると、ルキナスはギクリと背筋を震わせ顔を明後日の方角へと向けた。
 つまり、出来ていないらしい。
「やはり当面の問題は設計図と人手にありますね」
「人手は冒険者の方に頼むとして、設計図はどうしましょう?」
「こうなったらあの手しかありません」
「そうですわね。あの手で行きましょう」
「え? なに? 何の事さ?」

 数分後。彼は自室に放り込まれ、外側から鍵をかけられたという。
 更には部屋の前に二人の見張りを置き、お茶等差し入れする時だけ扉は開かれる。
 更には、入れるのは【男のみ】とされてしまったようだ。
 女人が入れば絶対仕事をしないから。という補佐二人の強いお言葉から成り立ったのである。

 後日、ギルドには【建築手伝い募集】の張り紙が出されていた。

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2606 クライフ・デニーロ(30歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea5876 ギルス・シャハウ(29歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea8247 ショウゴ・クレナイ(33歳・♂・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb3033 空魔 紅貴(35歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 eb3653 ケミカ・アクティオ(35歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb3770 麻津名 ゆかり(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4412 華岡 紅子(31歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4426 皇 天子(39歳・♀・クレリック・人間・天界(地球))

●サポート参加者

山下 博士(eb4096)/ ザナック・アレスター(eb4381)/ 中州の 三太夫(eb5377

●リプレイ本文

●設計図はまだか!?
「っだあぁぁぁぁぁぁぁ! 集中力きれたあぁぁぁ!」
 大声をあげるルキナスを空中からギルス・シャハウ(ea5876)が呆れた様子で見ていた。
 設計図が出来なければどのように立てていいか分からないからである。さらに困ったことにルキナスにはまだアカデミーのイメージもはっきりしてないとの事。
「ダメですよ、ルキナスさん。完成したら女性陣からご褒美が出るかも知れませんよ〜? それなのにそんな事言ってちゃあ‥‥」
「其れはそれであった方が嬉しいが、ここまで缶詰とやらにされると切なくなってくる!!」
「其れは、貴方が早く仕上げないからです」
 怒った様子のギルスがそう言うと、ルキナスはがっくりとうな垂れ机に突っ伏せる。机に顎を乗せて、ルキナスはギルスを見やる。
「そういやさ、そっちの世界でもそう言う学校みたいなのはあったんだろ? どんなんだったんだ?」
「そうですねー。ケンブリッジっていう学校みたいなのがありましたねー」
 ギルスはルキナスに身振り手ぶりで其れを説明して見せる。ルキナスは何時になく真剣な様子で其れを聞き、机の上に広がる用紙に何かを書き入れては消しを繰り返していた。
「ルキナスさん、やれば出来るじゃないですかー♪」
「へぇ、そうやって地図って描くんだね〜?」
 ルキナスの描く図形や地図に興味を持つケミカ・アクティオ(eb3653)。シンブンとやらの為らしいのだが、ルキナスは其れを少し不機嫌と思っている。
「いいか、こういうのは絶対にそのシンブンとやらに転載は禁止だ!」
「え? 描き方もダメなの?」
「当然。地図絵師として、其れだけは絶対にやられちゃ困る。もし其れを公開して偽装地図なんて出てみろ。地図絵師である俺が疑われる」
 地図。其れはとても高価で珍しい為、作り方を教えてしまえば贋作やらも出回ってしまう。更には偽装地図までも出回り、ルキナスの命さえ危うくなるかも。
「じゃあシンブンについては考えてくれるの?」
「其れは其れ、此れは此れ。本人に会うまでは本契約はしないよ」
「じゃあ清書手伝うわ。それならいいわよね?」
「此れも其れも俺の仕事! 俺以外の人間に任せたくない。此れが俺の仕事!」
 どきっぱりと言うと、ルキナスはまたギルスの話に耳を傾ける。
 その用紙には、少しずつだが校舎の形が出来ていく。その隣には、ギルスが望む教会の姿もあった‥‥。

●建設現場は大忙し
「鍛錬の代わりにもなり、依頼料までもらえる、ねがったりかなったりだな」
 乾いた布で一汗ぬぐいながら風烈(ea1587)が呟く。
「たまにはこういう依頼もいいものだね。色んな人とも触れ合えるし」
「ま、俺達は体力仕事しかないからな。ルキナスって奴には女達が徹底するんだろうし?」
 クライフ・デニーロ(ea2606)の声に、空魔紅貴(eb3033)が苦笑いを浮かべてそう答える。
 石や木の板の運搬等を先に済ませているようだ。軍馬もいい働きをしてくれている。
「ちょっとちょっと。あたしもここにいるんだけど?」
「まぁまぁフォーリィさん。別にそういう意味で言ったわけでは‥‥」
「いーわよ、別に? あたしは力仕事の方が向いてるんだし。あ、これそっちにお願い」
 楽々と石を持ち上げ、フォーリィ・クライト(eb0754)はショウゴ・クレナイ(ea8247)に其れを渡す。が、其れはずっしりと重くショウゴは少しふらついた。
「ちょっとー。それくらいでふらついてどうするのよー?」
「そうだぞ? 男だったら、それくらいは持て」
「いいですよね、紅貴さんは。ジャイアントだから‥‥」
「いや‥‥それくらいなら俺でも持てる‥‥」
 小さく呟かれた烈の言葉に、ショウゴはほろりと涙を零すのだった。
「とりあえず、地均しや基礎の建築だけやってしまってもいいと思います」
「問題はないな。よし、じゃあ始めるか!」
 少しでもルキナスの負担を減らそうと。少しでも早く校舎を作ってあげたいと。そう願って、彼等は働き始めるのだった。

●お昼休み。
「ねぇ、みんな? ルキナス先生にお手紙書かない?」
 子供達を集めて華岡紅子(eb4412)がそう提案する。ルキナスは今、子供達の為に学校を作ってくれるお仕事をしている事。そして、其れを応援してあげたい事を伝えた。
「ほんとー? 学校出来るのー?」
「先生、応援してあげよっかー?」
「じゃあ、この布にルキナスさんを応援するメッセージを書きましょう。私が教えてあげるから」
 子供達の元気な声。紅子にとっては其れが嬉しかった。何より、このメッセージが彼に届けばと‥‥。

「もーだめ。俺だめ。限界。無理」
「ルキナスさーん‥‥」
「いいか、ギルス? 人は少し休みっていうものをとらなきゃならないわけだ。その休みを俺にくれっ!」
「でも仕上げないと怒られますよー?」
 ギルスが懸命にルキナスを説得していると、扉をノックする音が聞こえた。二人が扉へと振り向くと、其処には麻津名ゆかり(eb3770)が立っていた。
「どうやって其処の兵士言いくるめたんだ?」
「お茶菓子あげたら通してくれました。紅子さんからの手紙も預かってます」
 にっこりと笑って、ゆかりがその手紙を差し出す。ルキナスは封をあけて見て、ふぅんと小さく頷いてその手紙をしまい込む。
「私、すぐに出て行かないといけませんが‥‥伝えたい事があるんですっ!」
「んー? 何だい?」
 ルキナスがゆかりの目を見やると、流石のゆかりも真っ赤になって硬直する。
 頑張って、伝えたい気持ちがあるのだけれど‥‥其れが声に出ないのだ。
「あ、あの‥‥その‥‥」
「どうしたんだよ? 何時ものゆかりらしくないな? 何だ、熱でもあるのか?」
 ルキナスがゆかりの額に手をあてた瞬間、ゆかりは耳まで真っ赤になって急いで部屋を飛び出した。
「頑張ってください!」
 という、言葉を残して。
「‥‥? どうしたんだ、あいつ?」
「‥‥ゆ、ゆかりさん」
 首を傾げるルキナスの後ろでほろりと涙を流すギルス。
「さってと、仕事の前に‥‥そろそろ時刻かね」
「ん? 何かあるんですか?」
「さぁ? 窓の外見ろって、紅子がさ?」
 そう言って、ルキナスが窓を開け顔を出した瞬間の出来事だった。
「ルキナス先生、頑張って!」
 子供達の声が聞こえた。下を見れば大きい布にその文字が書かれている。
 子供達が書いたのであろう。文字が少しぐにゃぐにゃとしている。
 その子供達の隣で紅子がにっこり笑って投げキスをおくる。
「は‥‥ははっ。なんっか、ここまで期待されると‥‥」
「頑張らなきゃですよー、ルキナスさん?」
「おう。もうちょい付き合ってくれ、ギルス」
「はいっ!」

●二人への面会
 お昼休みは現場で一息ついている烈。まだ動き続ける紅貴。子供達に色々遊びを教えているフォーリィ。それぞれの休憩の時間。其処に訪れたのはユアンとルーシェ。
「皆様もご休憩をとられてください。美味しいお茶、持ってきましたから」
「お、其れは有難い。頂くか、烈」
「そうだな。少しは休憩もいれよう。おーい、ショウゴもこっちへ!」
「あ、はいっ!」
 現場の隅っこで、石を懸命に積み上げていたショウゴも休憩と聞いて集まってくる。
 クライフは、ユアンを見やるとすかさず隣について
「先日は期待通りの働きが出来なくてすみません‥‥ワインの件は手ぶらではあんまりな気がしたのと血行が良くなれば体調が少しでも良くなるのでは‥‥と思った次第で‥‥」
「あぁ、僕は気にしていません。人は誰だって失敗しますから。其れに、ワインは美味しく頂きました。街の人達と飲んだんですよ?」
 と、にっこりと笑うユアン。どうやら先日の事をクライフは少し気にしていたようだったのだがユアンは全くといっていい程気になどしていなかった。
「あ、御二人共此方に来てたんですね!」
「ゆかり様。ご機嫌よろしいようで‥‥何よりですわ」
 ルーシェが会釈するとゆかりもつられて会釈する。ルキナスの方に顔出しも終わり、作業を手伝いにきたのだ。
「アンジェさん、最近元気?」
「姉様ですか‥‥? はい、家の為もあって、ご結婚なされましたが‥‥あまり大きく表には出られないので‥‥」
「そう‥‥ねぇ、ルーシェさんの事どう思う?」
「ルーシェさんは気立てもいいですし、お優しいです。僕は好きですけど‥‥」
 と、そんな答えを返す。子供である為、そのような答えしか出ないといった所だろうか。

「ルーシェさん、ユアンさん。アカデミー建設の際には是非とも、医学部の設立を希望したいです」
「医学部、ですか?」
「はい。それなら、私は医者としての案を出せます。保健室があれば、子供達が怪我した時治療が出来ますし‥‥」
「其れは便利ですね。‥‥検討してみます。器具については、また後程という事になりますが」
 ユアンがそう答えると、皇天子(eb4426)も嬉しそうに笑って見せる。
 ここで医学を教えれたら‥‥そんな希望を持つ彼女だったから。
「ルキナスさんの事ですから、余分に設計図を書いてくれているかも知れません。小さな校舎ですし、一気に出来るわけがないので追々となりますが」
「はい、それだけでも嬉しいです。後はバリアフリーというものを作ってみては? 体が不自由な方でも気軽に学校を利用できる為の施しなのですが」
「まぁ! 其れは是非とも検討したいですわ! お手伝いしてくださいます?」
 ルーシェにとっては魅力的な話である。ユアンの病弱もある為そういうものがあるとよりよいのだ。
「其れと、ユアン君。後で私と一緒に来て貰えるかな? 貴方の病気の事、調べれる所まで調べてみたいの」
「‥‥はい。何だか、ご迷惑おかけしていますよね‥‥すみません」
 小さくうな垂れるユアンの姿が、何処か寂し気にうつっているのだった。

●設計図と土台と‥‥完成?
「出来たっ! ギルス、出来たぞ!」
「本当ですかー? わぁ、教会の部屋まであるんですか!?」
「あぁ。宗教的なものは違うかも知れないが、精霊を崇めるっていうのは悪くないだろ?」
「じゃあ、この設計図を早速現場にもっていってくるわね」
「頼んだぞ、ケミカ」
 ルキナスがそう言うと、ケミカは大きな用紙をくるくる丸めて急いで現場にいるみんなの所へと運んでいく。
 ようやく一息つけた。といった様子でルキナスを大きく伸びをする。‥‥が。
「次、やる事あるんですから行きますよー?」
 振り向けば可愛い犬二匹。ルキナスの服の裾をがっぷりしている。
 そして、その後ろには紅子の姿もあった。
「さあ次は現場監督ね♪」
「‥‥俺、ちょっと眩暈が‥‥」
「子供達の為に頑張って♪」

 現場ではルキナスの設計図がやっと届き、土台から次は外装へと取り掛かっていた。この速度なら二日で外装は出来る。小さな校舎である為だろう。
「へぇ‥‥案外頑張ったじゃないか。どれ、後は俺が指揮をとるかな」
(「あれが彼女が言っていたルキナスか‥‥案外真面目そうな‥‥」)
「あ、可愛いおねーさん! 今度俺と一緒にお茶でも‥‥!」
「前言撤回‥‥」
 一瞬でも感心した自分がバカでした。と言わんばかりに烈は溜息をついて首を横に振る。
 烈はとある女性との関連で、彼の名だけは知っていた。しかし、今実物を見て確信したのである。
 その女性がああなったのも無理はない、と。
「よし、其れは其処。土を少し練って、接着させていけばいい。建物自体は簡単なものでいいからな?」
「此れはこっちでいいんだな?」
「そうだな、板をきっちり挟めよ? 柱がしっかりしてないとヤバイからな。そうさな、紅貴。お前が適任だから頼む」
 テキパキと指示を出していくルキナス。横顔に見入る二人の乙女。ゆかりと紅子である。恋のライバル?
「な、何だか見透かされているようなんですけど‥‥」
「どうかしらね? でも、今回はよく働いているじゃない?」
 こうして、夜になって作業の工程は半分を終え終了。後は此方でやるのでお疲れさん。というルキナスの声と共に。

 一段落して。ルキナスと冒険者達は、領主の屋敷の一室でのんびりとした時を過ごしていた。其れは、労いを兼ねての食事会にも似たようなものだった。
「いや、助かったよ。後はこっちで工面して完成させる。近日中には小さいながらも学校は出来るだろう」
「其れはよかった。頑張った甲斐があったな」
「そうですね。僕も楽しかったですよ」
「今はとにかく食べてくれ。食事ぐらいは俺の自費だ」
 ルキナスがそう言うと、冒険者達はその心を素直に受け取り食事をとり始めた。
 その時、ゆかりが大きく溜息をついたのである。昼間の事を考えると、失敗した、という思いがあったようだった。
 其れを見ると、ルキナスは口元だけ緩めて小さく笑った。
「ゆかり」
「はいっ!?」
「今度、またあのお茶飲ませてくれな? 美味しかったよ」
「は、はい! 喜んでっ!」
 本当に気付いていないのか。それとも本当は気付いているのか。
 其れは本人以外、知る人ぞいない。
「それにしてもルキナスさん。今日は‥‥本当に、お疲れ様」
「紅子もありがとうな。まさか子供達があんなにも楽しみにしているとは思わなかったからさ?」
「此れ、ご褒美よ」
 紅子の唇がルキナスの頬に触れる。ルキナスは
「何? 俺に顔洗うなって?」
 などと冗談めいた言葉を。そしてまた言葉を続ける。
「本当に助かった。これが成功すれば、この街は学問の都市となりうるかも知れない。だけど、これは第一歩にしか過ぎない。天子の意見もあったし、それなりに考えてみるつもりだ」
「本当に検討してくださるんですか?」
「あぁ、今まで手伝ってもらったのもあるし、何よりそれがプリンセスの意向であるなら。俺達はなぁんにも言わないさ」
 答えに天子は嬉しそう。ここで医学を教える事が出来るとなれば、とても幸せなもの。そんな笑顔を見て、ルキナスもまた喜ぶ。

「其れとゆかり。今度会ったらユアンの事で色々と話したい事がある。その時は付き合ってくれ」
「あ、はい。ご気分、害されました? ユアン君」
「そうじゃない。ただ、彼もまだ子供だ。重い病気だという事を理解しているつもりみたいだけど、そうじゃないからさ」
 ゆかりは今回ユアンにエックスレイビジョンをかけ内臓を透視しようと試みたのである。
 ただ、そうやって気を使われ病気の原因を探される事によって、子供である彼は皆の手を煩わせていると感じている部分があるそうだ。勿論、非は彼等にはない。と言っていたようだ。
「さて、明日からまた建設、建設!」
「倒れないでくださいね、ルキナスさん? 私、これでも心配しているんですからね?」
「ゆかりと紅子が応援してくれたら頑張るかもな? あ、侍女のおねーさん達もねっ?」
「だーめだ、こりゃ。直球ストレートが一番なのかしらねぇ?」

 フォーリィの小さな溜息とその言葉は、賑やかな食事会の声にかき消された。