築城軍師3〜契約を取り戻せ

■シリーズシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月18日〜08月23日

リプレイ公開日:2006年08月19日

●オープニング

 校舎が出来てから、子供達は日々其処で学ぶようになった。
 子供達の笑い声。遊ぶ声も途絶えない。
 表向きではしっかりと復興しつつあるウィンターフォルセ。
 だが、内面は‥‥。

「医療に関しての問題‥‥どうしましょうか」
「器具を揃えるにも資金がかかりますわ‥‥私達の自費では、これ以上は‥‥」
 ユアンとルーシェが深い滑息をつく。
 机の上に広げられているのは、図面。そして器具のサンプルとされるもの。
 資金の少ないウィンターフォルセでは、到底無理なものは無理と判断せざる得ない。
 だが、プリンセスの意向でもある為、悩むしかないのである。
 そんな時、部屋の扉が勢いよく開かれた。
 其処に立っていたのは、軍師であるルキナスである。
 その表情は、とてつもなく渋い。息も荒げ、肩で息をしている状態だ。
「どうしたんですか、ルキナスさん?」
「また女に殴られましたの?」
「違う! そんな暢気な事じゃあないっ!」
「そうだ、ルキナスさんにも器具の件について意見を‥‥」
「それどころじゃないって言ってるだろ!?」
 机に置いてあった図面や器具を荒々しく退け落とす。
 そして、数十枚の書類を机の上に置くのだった。

「こ、これ‥‥なんですか?」
「‥‥全部王都の商店、組合からの絶縁状のようなもんだ‥‥」
「え‥‥?」
「フェーデが起こって数日立っても納品がない。其ればかりじゃない、買い付けに来た商人がフェーデで死んだ。この状況で輸入は困難と見られ、契約は全て凍結されたっ!」
 ウィンターフォルセはフェーデがあった領地。
 其処の領地と契約を交わしていた商店、組合は全て契約を凍結するという結論を出した。
 無理もない。復興を目指してから数日。産業には一切手をつけていないのだ。
「更には、エーガン王から頂いた資金‥‥出所は各地の諸侯からだ。このままじゃ、他の領地にも敵を作り兼ねない‥‥!」
 下手をするとウィンターフォルセ発の内戦勃発だ。そんなことになった日には、夥しい罪のない人達が巻き込まれることに為りかねない。
「‥‥建物を建てるのを後廻しにした方が良かったですね‥‥」
「今更後悔しても遅いし、建設に踏み切ったのは俺だ。俺が全て責任をとる」
「ルキナス様? まさか、軍師をお止めになる気では‥‥!」
「そうじゃない。今現在生産され、保存してあるチーズ、ミルク、バター。其れを全て持って王都へ行く。そんで、商人とか組合に何とかして契約凍結解除を願い出るッ!」
 自ら王都へと向かい、頭をたれようというのだ。そうでもしなければ、商人達は動きはしない。
 何より、他の領地にいる諸侯への印象も悪くなるばかり。其れを塞き止めれるかも知れない。
「当主交代による契約も、エーガン王と結ばねばなりません。其れだったら僕が行って‥‥!」
「ユアン様、ダメですわ。貴方様が行き、もし持病が出られたらどうなさるのです? ここは私が‥‥」
「ルーシェもダメだ。お前が行ったらその間、誰が民の世話をするんだ? 相手出来るのはお前だけだ。俺が行く」
 ルキナスはウィンターフォルセの旧領主、新領主とも仲が近い存在。
 側近といってもいいぐらいだろう。其れに軍師でもある。
 だからこそ、自分が行こうというのだ。

「チーズ、バター、ミルク。それぞれどれくらい保存されてる?」
「えぇと‥‥それぞれ馬車1台分ずつですわ。其れくらいとっておかないと、節約出来ませんし‥‥」
「それだけあれば十分だ。サンプルとして一つの商店にそれぞれ一つずつ渡す。後は口勝負だ。特にバターは傷薬の代わりにもなる。需要は高いはずだ」
「でも、これだけの量‥‥貴方一人では‥‥」
「なぁに。冒険者達に頼るさ。何せここは冒険者の街、ウィンターフォルセだ。其れに、器具を買うにもまずは資金だろ?」
 ルキナスは笑ってそう答えると、そのまま部屋を後にした。
 そして、その足でチーズ等を馬車に詰め、冒険者ギルドへと向かったのである。

●今回の参加者

 ea1984 長渡 泰斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea5876 ギルス・シャハウ(29歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb3033 空魔 紅貴(35歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 eb3770 麻津名 ゆかり(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4395 エルシード・カペアドール(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4412 華岡 紅子(31歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4426 皇 天子(39歳・♀・クレリック・人間・天界(地球))
 eb4434 殺陣 静(19歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4729 篠宮 沙華恵(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

アリシア・ルクレチア(ea5513)/ 孫 美星(eb3771)/ アリル・カーチルト(eb4245

●リプレイ本文

●合流
「よぅ、待ってたぜ。今回も宜しく頼む」
 街の広場でルキナスと合流する冒険者達。
 それぞれの思いを秘めて、この非常事態に付き合ってくれると集ってくれたのだ。
「不在が数名‥‥かね? 兎に角ようこそ王都へ、ルキナス氏」
「はは‥‥。ルーシェ達には留守を頼んでおいた。これで心置きなく此方に集中できる」
 空魔紅貴(eb3033)の挨拶にそう答えると、ルキナスは困ったように溜息をついた。
「どうしたんですか、そんな溜息ついて?」
「其れがな‥‥エーガン陛下との接見なんだが、夕刻なんだ。つまり、その夕刻までに店を廻る。間に合わなければ俺と‥‥そっちから出るのは誰だ?」
「私よ。私が同行するわ」
「紅子か。それじゃあ心強い。間に合わなければ俺と紅子だけ城へと向かう。後は任せたからな?」
 ルキナスがそう言うと、華岡紅子(eb4412)は笑って頷いた。しかし、今はこうやってゆっくりしている場合ではない。早く届けなければ。荷物に乗せた大切な品がダメになってしまう。
「そんじゃま、いきますか? とにかく目指すは再契約だ。うまーく頼むぜ?」

●再契約を目指せ!
「これは理系の私には難しい問題です」
 皇天子(eb4426)がうぅむと唸る。荷馬車はルキナスと紅貴で何とか押している状態だ。
「ウィンターフォルセの実権のほとんどない爵位を商人達に与えることはできませんか?」
「与えるって‥‥おいおい、商人達に与える権限なんて何もないぞ? 其れに、ウィンターフォルセは男爵領だ。決めるのはエーガン陛下だ」
「そう、ですか。すみません、政治に疎くて‥‥」
「それでは、ヨーグルトの開発はどうなのでしょうか?」
 横で聞いていた殺陣静(eb4434)がルキナスに尋ねた。
 ルキナスはちょっと笑って見せてこう答える。
「乳製品が生産出来る街だ。出来なくはないが、また此れは此れで一苦労するぜ? 何せ、人手が足りないからな」
「では、出来る‥‥と?」
「あぁ。まぁ、それにはまずどうやって保存しておくかだ。冒険者がずっといててくれれば魔法で何とか出来るが、其れも出来ないだろ?」
 つまり、生産は出来るが問題はその乳製品の保存方法だ。この世界に魔法以外の保冷方法はないのだ。冒険者達だけに頼るのも悪い、という事。頼りきりなのもダメだという事。牛乳にしても絞りたてを届けるのが関の山。

 そんな事を話している間に一つの大きな民家の前にたどり着いた。どうやらここが商人組合らしい。何人かの商人が慌しく出入りしている。
「いいか? 交渉自体は俺がやる。けど、お前達はお前達で言いたい事もあるだろうと思う。そういう時は頃合を見て頼む」
「『物を売ろうと思うな、信用を売れ』か。商人衆はよくそう言ったもんらしい」
 長渡泰斗(ea1984)がそう言うと、その言葉に同意するかのようにオルステッド・ブライオン(ea2449)も頷いた。
 かくして、冒険者達がルキナスと共にその民家に足を踏み入れると、カウンターの男がルキナスを見た瞬間、渋い顔を見せるのである。
「アンタ、ウィンターフォルセの軍師だな? 一体今更何の用だ?」
「おたくとちょいと‥‥再契約をと思ってね。フェーデも終わり、復興を始めた。これで輸出出来る状態となったんで、契約凍結解除をお願いするよ」
「貴様‥‥! ここの組合の商人が死んでも何一言もなく‥‥!」
「フェーデが起こったのは、偶然だ。商人さん達の命は情報。僅か半日足らずの場所の情報分析を誤ったのはどうかと思うがね。それに領民でない以上、表立っては動けない事、理解してるだろ?」
「うぐ‥‥だが‥‥!」
 そう言おうとしている商人を見て、静がルキナスの肩を叩き頷いて見せた。ルキナスは、彼女に任せようと一歩引いた。そして、自分は自分のなすべき事をしようと試みるのである。
「心からお詫びいたします。我々の不注意で肉親を失われた方々に‥‥‥‥どのように謝っても済む問題で無いことは重々承知致しております」
「‥‥ぬぅ‥‥!」
「今後、同じ様な過ちを防ぐ為にも、この戦いで生き残った街の人々の為にも私達に力を貸して戴けないでしょうか‥‥戦いを防げなかった、私達‥‥いえ、私を憎んで下さっても結構です。私にはその責任が有りましたので‥‥。しかし街の方々を憎む事だけは‥‥」
「あたしもあの時、あの場にいた冒険者です。あたしの力が至らなかったばかりに‥‥街は最悪の結末を向かえてしまいました‥‥。私の判断が、悪かったから‥‥」
「ぐぬぬぬ‥‥!」
「ここに34Gあります。慰弔金として受け取ってください」
 そう言うと、エルシード・カペアドール(eb4395)がお金が入った袋がカウンターに置かれた。
 相場以上の金額に、流石の商人達も言う言葉がない。
「あれ? そう言えばルキナスさんは?」
「まぁ‥‥! 此れ、いい品ね? ウィンターフォルセは確か王都から半日程でしょ? これ、仕入れてもいいと思うわ! 鮮度もいいしね?」
「さーすがお嬢さん! 見た目があるねぇ。御綺麗だけあるよー」
 何時もの如くナンパ。其れを見て、ギルス・シャハウ(ea5876)は小さく溜息をつくのであった。最近の事情もあり、容易に犬達をけしかける事が出来ない為。彼は本当の意味で今自由を手に入れていたのである。
「父さん、仕入れましょ? ほら、この人達だってお金出してまで言ってくれてるんだからー!」
「し、しかしだな‥‥!?」
「チーズやミルクは健康にいいっていう話もあるわけだし? 貴族方に売るにはもってこいなんじゃないかなぁ? そうしたらそっちも大儲け出来るわけだし?」
 ルキナスのこの一言がトドメとなり、商人組合は凍結解除を約束し契約書にサインをする事となった。

「まさか‥‥こうも簡単に行くとは‥‥」
「ははっ。此れも話術の賜物ってね。やっぱり女性は何時でも味方につけて置かないと、ね?」
「何だか、ルキナスさんらしいっていうか‥‥」
「‥‥頭痛の種です、此れでは‥‥」
 今の彼、ルキナスを止めれる者は誰もいない。仮令、紅貴が実力行使に出ても、彼ならばどんな手段を使ってでもナンパするだろう。
 目線だけで女を落とす。其れが彼の得意分野なのだから‥‥。

●サロンの貴婦人方‥‥。
「あら、見た事ある人だと思ったら。どうしたのです? 私に何か用事ですか?」
 ダイエットに勤しんでいると言う貴族のグードルーン・アミエのサロン。
 其処に紅子と篠宮沙華恵(eb4729)は来ていた。目的は一つ。このサロンにて、乳製品を取り扱って貰おうと言うのだ。
「実は、いい健康食品をお勧めしたくて来ました」
「健康食品、ですって?」
「摂取のし過ぎは勿論厳禁ですけれど、乳製品なんです」
「ご無沙汰しております。ウィンターフォルセで乳製品の生産が再開されましたので、是非にと思いまして‥‥」
 沙華恵の言葉に、グードルーンはなるほどね。と頷いて見せた。
「ウィンターフォルセの乳製品? という事は、ウィンターフォルセは復興しつつあるんですね?」
「はい。ですが、この乳製品が輸出されなければ収入が‥‥」
「その事に関しては聞き及んでます。大変だったでしょうね‥‥そういう事なら、私も協力します。但し、条件つきですよ?」
「条件、ですか?」
 紅子が尋ねると、グードルーンは頷いて見せた。そして、後ろを振り向くとちょいちょいと手招きして見せる。其処から顔を出したのはバンゴ商会の出張要員、エルネストだった。
「私の出す条件を満たすと約束してくれるのなら、彼女を紹介致しますわ。彼女なら、売りさばいてくださいますでしょうから」
「えへへ‥‥頑張るでございますよ〜?」
「それで、条件というのは?」
「チーズが作れるのでしたら、ホエイとヨーグルトを作ってもらえませんか? 美容にいいと評判なんですよ」
「えぇ、世の貴婦人様達はよくお求めになるのでございますっ」
 エルネストがそう付け加えると、紅子と沙華恵は顔を見合わせた。
 勿論、此れは自分達の一存では決める事は出来ない事。だが、これもウィンターフォルセの為。これさえ頷けば協力してくれるというのだから‥‥。
「分かりました。全力で生産させて頂きます」
「では、そのように。今度出来たものを持ってきてください。納品出来れば、契約するという事で‥‥どうですか、エルネストさん?」
「はい、私はそのようにして頂いて大丈夫ですー」
 こうして、彼等が望むように事が運んだ。
 これが成功すれば、確実に売り上げは見込める。
 但し、あくまでも成功すればの話ではあるが‥‥。

●接見
「ウィンターフォルセは以前よりも良い品を作るべく頑張ります。どうかいま一度お力添えをお願い致します!」
 麻津名ゆかり(eb3770)達の頑張りにより、一つ。また一つと凍結解除を約束してくれる商店が増えたのだ。彼等としてもフェーデが収束したウィンターフォルセとの取引を拒み続けることは危険であった。王都の食糧安定供給に支障を来した場合、財産を保つ保証など無かったからである。頭を下げれば無
碍に意地を張れない理由があったのだ。
 その影では、ルキナスが大いに自由爛漫にナンパを満喫している。下は赤ちゃんから上は老婆まで。まるで野に離れた猛獣の如く。
「‥‥フオロの通りと主要施設の記入だけで良いから地図とか駄目か?」
 なるだけ多くの商店を廻れるように考えていた紅貴だが頭がショートしたらしい。
 その為、近くの商店で地図だけくれないかと交渉している。サンプルをわざわざ持ってきてくれたという事で、商人は快く貸してくれた。
「さて‥‥そろそろ夕刻か。ゆかり、オルステッド。後は頼んでいいか?」
「あ、はい。出来れば分担したいと思うのですが‥‥」
「そうさな? ゆかりとオルステッドはそれなりの情報持ってるからペアで。泰斗と静は生傷が絶えないって事を売りにして廻ってくれ。ギルスは‥‥遺族に祈りを捧げにいってやってくれないか?」
「え? でも、交渉が‥‥」
「‥‥俺だって心苦しいんだ。俺の為に行ってきてくれ‥‥」
 ルキナスがそう言うと、ギルスはちょっと笑って頷いて飛んで行く。
 彼は遺族の事を忘れてなどいなかった。ナンパをしながらも覚えていたのを、嬉しく思っているのである。
「エルシード、天子、沙華恵。なるべく女性の店を当たってくれ。契約はしやすいはずだぜ?」
「はい、分かりました」
「俺が戻るまで頑張ってくれ。戻ったら俺が最後の一軒‥‥廻るからさ?」
 ルキナスは軽くウインクして見せると、すぐ紅子の方へと向きなおった。
「それじゃ、行きますか。約束の時間に遅れちゃいけねぇからな。手にしときたい書状は持ったか?」
「えぇ、大丈夫よ。行きましょうか、ルキナスさん」
 こうして、二人はフオロ城へと向かうのであった。エーガン王と接見する為に。

 城内。ルキナス達は接見室へと通されていた。流石の紅子も緊張しているのか、沈黙したままだった。
「緊張、してるのかい?」
「緊張? ‥‥勿論してるわ‥‥」
「軽くほぐしておけよ〜? ‥‥王の前では、俺の手は握れないぞ?」
 にっこり微笑んでルキナスがそう言うと、エーガン王が接見室へと入ってきた。
 流石の二人も私語を慎み、片膝を着き頭を垂れる。
「うむ。よくぞ参った、ウィンターフォルセ軍師ルキナス。して? 何用で参ったのか?」
「この度、陛下のお力沿いによりウィンターフォルセ、復興の目処が立ちました。そのご報告に‥‥と」
「うむ、よくやった。聞けば学問に力を注いでいると聞く」
「は‥‥其れに伴いまして、お借りした金額、少しずつではありますが返す所存にございます。まずは此れを‥‥」
 そう言うと、ルキナスは目で紅子に合図を送った。紅子も頷いて、今まで契約金として集めて金全てをエーガン王へと献上する。
 付き添いの兵士が其れを受け取ると、エーガン王は大きく頷いた。
「此れが、その方らの誠意というのだな?」
「はい。少しずつではありますが、何年かかるか分かりませんが‥‥それでも、お借りした金、確実に返す所存であります。これ以上の支援は必要ございません」
「うむ。良き働きを期待している」
「もう一つ。領主が変わり、男爵達も変わり‥‥つきましては新なる契約を結びたく存じます」
 もう一度紅子に合図を送るルキナス。
 すると、紅子もすかさず書状をエーガン王に手渡す。其れは、レヴンズヒルド男爵、ハーヴェン男爵、そしてプリンセスの署名の入ったウィンターフォルセにおける不戦の誓約書であった。三家は二度と当地で相争わず、問題が有ればフオロ王家に訴え、その裁きに従うと記されている。
「此れをもって、契約を更新して頂きたく存じます‥‥」
「一つ条件がある。先代との契約通り、産物の一部を王家に納め、残りの納品を王都優先にせよ。そして、王都に全てが行き渡った後に、他の街や国に売るがよい」
 王都とウィンターフォルセは隣接している。その為、ウィンターフォルセから持ち込めばその分王都は安上がりになる。
 ウィンターフォルセは、アーメル街道とルーケイ街道の合流点。王都を優先し、あまれば其れはルーケイにも輸出が出来るかも知れない。
 此れはある意味いい条件といえばいい条件である。尤も、鮮度の維持を解決できればの話ではあるが。
「承知しました。確実に王都への納品をお約束致します」
「うむ。それでは宜しく頼むぞ」
 こうして、エーガン王との接見は終わった。
 ルキナスはやる事がある、と紅子を先に合流させる。

「おやりになりますね、ルキナス様。ウィンターフォルセでの活躍お聞きしております」
「其れは何よりです。マリーネ姫様、貴方みたいな愛らしいお方にそう言われると、俺は益々頑張れますよ」
「ふふ‥‥お世辞がお上手ね」
「お世辞? 俺は貴方を愛しているから言ってるんですがね‥‥あぁ、勿論‥‥臣下の分は弁えております。俺に、姫を恋い慕い、我が身を省みず奉仕する特権をお与え下さい。姫をお守りする幾千の騎士達の末席に加えて頂ければ幸いです」
 本気で口説けば殺され兼ねない。其れはルキナスも承知しているのだ。
 但し、プラトニックであるのならば何も言われない。いい口実だ。
「それで、姫にも試して欲しいんですよ。その為、サンプル持って来ましたから」
「まぁ。此れがウィンターフォルセの乳製品ですね? 分かりました、此れは大切に頂きます」
「はい、其れでは‥‥」
「この契約が上手く行く事を切にお祈りしていますわ」
 ルキナスの狙いはただ一つ。マリーネ姫に好感を抱かせる事。此れさえ成功すれば、後ろ盾になりうるのだ‥‥。

●依頼、終わって‥‥。
「ですから、其れは‥‥」
「ええい! 冒険者の話など信じられるかッ!」
「あわわ‥‥ゆかりさん達、大ピンチですー‥‥!」
「どうするんだ、ギルス? ルキナスが戻ってないんじゃ‥‥」
「‥‥ウィンターフォルセは冒険者の町として新生した。確かに一部の心無い冒険者はこの国の平和を乱している‥‥だが、新生ウィンターフォルセに名軍師ルキナスと我々がいる限り、そんな事にはならないと、約束しよう‥‥」
「其れがこの間のフェーデの如く崩れたらどう責任とるつもりだ!? 大体、そのルキナスって男も‥‥!」
「何? 俺がどうしたって?」
 やっと合流を果たしたルキナス。帰って見れば自分の話がされているではないか。
 どうやらここが最後の一軒。ゆかりとオルステッドが何とか頼み込んでいるのだが、信用出来ないの一点張りである。
「ルキナスさん、やっと戻ってきてくれたんですね!」
「すまない‥‥どうしてもこの店だけが‥‥」
「まー‥‥ここのおっさんならこうなると思ってたよ。ここは唯一の頑固親父がいる所でねぇ。俺が最後にやろうと思ってた所だよ」
 そう言うと、ルキナスは軽くゆかりの頭を撫でると笑いながらその商人の前に立った。
「俺の言う事も信用出来ない。冒険者の言葉も無理。じゃあなんだったら信用してもらえる?」
「お前等の言う事全て信用出来んのだ! 帰れといったら帰れ!」
「あーあー‥‥ここがこんな事ばっかり言ってると‥‥契約を纏めて欲しいと願うマリーネ姫様がお嘆きになるだろうなぁ‥‥」
「マ、マリーネ様!?」
「先程お会いして来たが‥‥この事も言わなきゃならないのは心苦しいねぇ? 姫様の悲しむ顔が浮かんでくるよ‥‥」
 そう言うと、ルキナスは目頭押さえて泣き真似を演じる。この時ようやく理解出来たのだ。紅子だけ先に返した理由が。
「ルキナスさん‥‥」
『マリーネ姫様口説いてたんですかッ!?』
「や、プラトニック、プラトニック。問題は何処にもないっ!」
「つ、遂に王家の人まで‥‥なんて人‥‥っ」
「し、仕方ない! お前等の為ではない! マリーネ姫様の為に契約してやるっ!」
 商人はヤケになってそう言うと、契約書にサインをする。ここはアネット家恩顧の店であったためだ。
 その契約書を持って、ルキナスはサンプルを手渡し店を出る。此れで、全ての契約は成功である。

「や、お疲れさん。本当に助かったよ」
「ルキナスさん、お城では格好よかったわよ?」
「ははっ。紅子も綺麗だったさー。また紅子と一緒にああいう場所に行きたいねぇ」
「貴方が冗談で居たいなら、私も冗談で居てあげる。でも‥‥」
 紅子が何か呟いたのをルキナスは聞き逃さなかった。
 されど、あえて聞かなかった振り。其れは、何を意味しているのか‥‥。
「さて! 皆が待ってるわ。冒険者酒場で打ち上げしましょ♪」
「‥‥冗談、ねぇ‥‥。俺もそろそろ、覚悟を決める‥‥かぁ?」
 彼の言葉は、風に乗って消える。彼の姿は冒険者酒場へと消えるのである。

 その中に一人だけ。共に飲まぬ者がいた。
「冬の名付く都市の繁栄を日と月に願う‥‥か‥‥下賎の身で何言うかね俺は」
 そう最後にぼやいて、酒を飲み干す。
 そして、彼の荷物にこっそりと‥‥金を忍びこませるのだった‥‥。

●翌日は‥‥
「ルキナスさん、出来れば此れ‥‥受け取ってほしいんですが」
 ギルスが差し出した金袋。中身は70Gと大金である。
「此れ、何?」
「礼拝堂が火種にならないよう‥‥個人的な依頼としてお出しするんです、受け取ってください?」
「‥‥ありがとな、ギルス。本当にお前にゃ頭があがらねぇや‥‥」
「ついでに此れもだ。戦に出てると、傷が膿んだりで、生かす為に戦で落ちなかった筈の腕や足を切り落とさねばならんとか、そんな場面をよく見聞きする。医療の業が発展していけば斯様な戦傷病も少なく出来るであろう」
「い、医療関係の寄付‥‥ッ? しかし、返せる見込みは‥‥!」
「無利子無利息だ。返済期限は俺が死ぬまで。ルキナス殿を見込んでのものなのだ、受け取って欲しい」
 泰斗にそう言われると、ルキナスも深く頭を下げて其れを受け取る。
 今の所、資金となるものは何が何でも欲しい。だから、こうやって提供してくれるものは有難く受け取りたいのだ。
「さて、そろそろ俺はウィンターフォルセに戻るよ。あの二人も心配だしさ!」
「えぇ、お気をつけて帰ってくださいね、ルキナスさん?」
「ゆかり。‥‥お前の懸命な姿、結構輝いてたぜ? 勿論、他の女性もそうだけど♪」
「る、ルキナスさん!?」
「はははっ。ま、こういうのもいいじゃん? 押されるよりかは押せ、だ♪」
 そう言うと、ルキナスは馬に鞭を打ち荷馬車を動かすのだった。

 帰り道。自分の荷物の中にある見覚えのない物を見て、ルキナスは小さく微笑んだ。
「アイツも、素直になりゃいーのになぁ?」
 そんな言葉をぼやき、笑いながら‥‥
「そろそろ、あいつ等の事も決着つけねーとなぁ‥‥。ま、決めてるっちゃ決めてるかも知れないなぁ‥‥ま、恋文でも来たら考えるかぁ」
 そんな冗談じみた言葉をぼやきながら。ウィンターフォルセを目指すのだった‥‥。