マスカレイダー5〜陰険、毒吐き蛇女・後編
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■シリーズシナリオ
担当:マレーア
対応レベル:9〜15lv
難易度:やや易
成功報酬:4 G 50 C
参加人数:12人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月11日〜08月16日
リプレイ公開日:2005年08月19日
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●オープニング
ドレスタットからさほど遠くない場所、街道の途上にその十字路はあった。どこにでもあるような変わり映えしない十字路だが、土地の者は『嘆きの十字路』と呼んでいる。何でも昔、この近くに処刑場があり、少なからぬ数の罪人がこの十字路を通って処刑場へと引き立てられていったのだとか。
ある者は絶望の涙を流し、ある者は死にたくないと叫び、またある者は黙したままうつろな目を見開き、屠られる家畜のごとく刑吏に引き立てられて行く。そんな哀れな光景を、十字路を見下ろすように立つ楡の木は、何も言わずにただ見つめてきたのであろう。だが、それも今は昔の話だ。
その日は夏の盛りの暑い日。夕暮れ時になり、ようやく涼しい風が吹き始める頃、街道の十字路にウィステリア・トーベイが姿を現した。目立たぬ姿で、夕闇に姿をくらますようにひっそりと。
朽ちかけた石造りの道標の前で、ウィステリアは足を止める。道標の傍らに置き石がされていた。注意の無い者は見過ごしてしまいそうな、さりげない秘密のサイン。ウィステリアは道標の後ろ側に周り、その根本を手でまさぐる。道標と地面との間の隙間に、羊皮紙の手紙が押し込んであった。
「確かに、受け取ったわよ」
手紙を懐に忍ばせると、ウィステリアは周囲に視線を走らせ、誰もいないことを確認すると早々とその場から立ち去った。
骨十字軍対策担当としてアレクス・バルディエ卿から仕事を貰っているウィステリアが、冒険者ギルドに依頼を持ち込んだのはその翌日。
「過去の依頼の報告書により事情はお分かりのことと思いますが‥‥バルディエ殿を煩わすナージョ一味のおびきだしに成功しました。ついては冒険者の手配をお願いしますわ」
対応の事務員、心の中でニヤリと笑う。ここだけの話だけれど、実は事務員もいわゆるマスカレイダーの隠れファンなのだ。彼ら仮面の剣士たちと骨十字軍の奇天烈な戦いっぷりが面白くて面白くて、報告書が仕上がるたびに真っ先に目を通し、何度も何度も読み返したものだから、今ではマスカレイダーの『中の人』全員の実名と暗号名を諳んじてしまえる程。とはいえ、仕事に私情を挟まぬだけの分別はあるし、ウィステリアに見せる顔もあくまで仕事人の顔だ。
「承知しました。それでは、今回の方針についてお伺い致しましょう」
「先の依頼で、私は冒険者の一人に頼み、ナージョ達をおびき出すためのサインを送りました」
「もしや、それは小指に巻いた赤い糸のサインですか?」
「その通りです。あれは骨十字軍を裏切ったとされる女怪人『赤き蜘蛛のアルケニー』のサインなのです。そして、その返事がこれです」
ウィステリアは例の手紙を事務員に示す。
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赤き糸の宿縁にて結ばれたるかつての最愛の姉妹、
そして今は憎むべき裏切り者に告ぐ。
10日後の夜、嘆きの十字路を西に曲がった先、
処刑場跡に間近い教会堂の廃墟にて、
決着を着けようぞ。
毒蛇の女王ナージョ
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あのナージョの手紙にしては、いやに文体がマジだな。──ふと、事務員はそんな事を思った。ウィステリアが続ける。
「手紙にある教会堂の廃墟に、ナージョ一味は必ずや姿を現すはず。それを我らマスカレイダーが取り押さえ、二度と悪さの出来ぬよう成敗するのです。これが今回の作戦です」
「分かりました。ですがしかし、一つだけ気になることがあります。今回はナージョ一味をおびき出すために、『赤き蜘蛛のアルケニー』を利用するわけですが、それがアルケニー本人に知られたら後で面倒な事になりませんか?」
「ああ‥‥それについてはご心配なく。アルケニー本人には既に話を通してあります。私とアルケニーの間には特別なコネがありますので」
特別なコネねぇ‥‥。物は言いようだな。だって、アルケニーの『中の人』は、あんたじゃないか? ──とか、事務員は思ったり。
「もしや、アルケニーご本人もこの作戦に参加なされるとか?」
仕事人としてさりげなく口にする事務員。しかしファンの本音としては、あの真っ赤な蜘蛛女のことが妙に気になってしょうがない。
「ええ、それは‥‥本人が望むなら、彼女も姿を現すでしょう。でもアルケニーはともかく、ナージョ一味は手強い相手揃いです。月魔法を使うナージョ本人はもとより、彼女の護衛のグリームーとジョゴラーも、新しく雇われた氷華とクシュリナも、なめてかかるべき相手ではありません。ただし今回の作戦については、もはやアレクス卿から課された条件を気にする必要はありません。戦いの場所となるのは、物を壊したり人を傷つけたりエイリーク殿の配下に見つかる心配のない場所ですから」
「分かりました。では、依頼書を作成させていただきます」
いつものように手慣れた仕事を続けながら、事務員は思う。
「(もしかしたら、今度はナージョとアルケニーの壮絶なる因縁バトルになるかもなぁ〜。こりゃ報告書が出来上がるのが楽しみだ。わくわく)」
●リプレイ本文
●ナージョ一味を倒せ!
決戦に先立ち、フー・ドワルキン(ea7569)は避難民の居留地を回っては歌を歌い続けた。彼らの心をナージョの月魔法の悪影響から解放すべく、歌にメロディーの魔力を込めて。
♪気をつけろ 気をつけろ
毒蛇ナージョがやって来る
ナージョが魔法を唱えれば
誰もがすっかりナージョの虜
ご用心 ご用心
ナージョの魔法に油断めされるな♪
「あなた、しばらく外出は控えましょう」
「うん、そうだね。家の中で静かにしてよう」
表に出ていた避難民のカップル達が、歌を聞くなり次々と家の中に閉じこもる。これで、避難民が決戦の場所に押し掛ける心配はなくなりそうだ。
一方、ヴェガ・キュアノス(ea7463)は先の依頼で教えられた通りに『嘆きの十字路』の楡の木の枝に白いリボンを巻き、農民の娘の姿で待ち続けていた。すると、夕刻になってナージョが現れた。
「あなた、仲間になりたいの? 今夜は用事があるけど、用事が済んだらここに戻って来るわ」
「一つだけ教えてください。アルケニーとあなたには、どういう関係があるのですか?」
ナージョの表情に警戒心が現れた。
「あなたは何者? 後でじっくり話を聞かせてもらうわ」
ナージョは足早に立ち去り、ヴェガも決戦の場所へとその足を向けた。
●いざ決戦
その夜は月の明るい夜だった。
教会堂の廃墟にやって来た冒険者たちの目の前に、ナージョがいる。朧な月の光を浴び、竪琴を爪弾き歌っている。
♪幸せな夢を見ていた少女 あの頃の私はもういない
あんなに愛したあの人は 私を裏切り姿を消した
私が毎日夢見ていたのは あの人との幸せな結婚式
でもあの人は私を売り飛ばした パリのどん底の娼窟へ
荒れすさんだ暮らしの中で 少女の心は死んでしまった♪
「キミに話があるのだが?」
フーが歩み寄ると、ナージョは歌うのを止めて睨みつける。
「あなたは何者? 私はアルケニーに用事があるのよ」
「私は彼女の代理のようなものだが、ここは平和裡に話し合いで解決したい。その為ならこの私の細首を賭けてもよい」
「お生憎様。あたしが欲しいのは貴方の首ではなくて、アルケニーの首よ。それに貴方のお仲間さん達は、戦いたがっているようね」
やがて、廃墟の物陰からナージョの仲間達が一人また一人と姿を現した。
「‥‥そうか。残念だ」
引き下がったフーに代わり、マスカレイダーの装いの5人が横一列になって敵の前に立ちはだかる。キウイ・クレープ(ea2031)、マクファーソン・パトリシア(ea2832)、ハイラーン・アズリード(ea8397)、石動悠一郎(ea8417)、そしてレオン・クライブ(ea9513)。
「マスカレイダー・ブラウン見参!」
「マスカレイダー・ウォーターブルー見参!」
「マスカレイダー・イエロー見参!」
「マスカレイダー・グリーン参上!」
「マスカレイダー・ブラック見参!」
対する敵の数も5人。ナージョの右手側にグリームーとジョゴラー、左手側には氷華とクシュリナ。
「5対5で勝負アルか? チョロイものネ」
氷華が不敵に言い放つと、頭上から声が飛んできた。
「おっと! 俺を忘れちゃ困るぜ!」
見上げれば、天井を失った教会の壁の天辺に劉蒼龍(ea6647)の姿が。
「久々のマスカレイダー・ブルー見参だぜ!!」
言い放ち、蒼龍は舞い降りる。ここに戦いの火蓋は切られた。
●乱戦模様
先頭切って氷華に突っ込んだキウイと悠一郎に向かって、ナージョの魔法が放たれた。高速詠唱のシャドウボムだ。
ボンッ! キウイと悠一郎の足下の影が爆発。体勢が崩れた隙を突き、氷華が二人を蹴り飛ばすが、マクファーソンの放った高速詠唱ウォーターボムが氷華のさらなる攻撃を阻んだ。
「えぃ、そりゃ、喰らえ!」
氷華の顔面に水球が立て続けに炸裂する。
「どう? 私の攻撃も捨てたもんじゃないでしょう?」
ぷしゅっ! マクファーソンの首筋に傷みが走り、ざっくり切られた傷口から血が噴き出した。その目に刀を構えたクシュリナの姿が映る。
「しまった‥‥!」
「マクファーソン! 伏せろ!」
その叫び声でとっさに身を伏せるや、高速詠唱でレオンの放ったライトニングサンダーボルトの稲妻がクシュリナを撃つ。だが次の瞬間、クシュリナの姿は彼らの視界から消え失せていた。
グリームーとジョゴラーの相手は蒼龍とハイラーン。さらにキース・レッド(ea3475)とフーが二人を援護。
「足止めは任せろ!」
蒼龍がグリームーの足下に回り込み、隙を見て膝の裏に蹴りの一撃。グリームーがバランスを失って転倒する。
「やるな! お返しだ!」
突き出されたグリームーの拳から、ソニックブームの衝撃波。宙を舞う蒼龍を弾き飛ばす。すると、どういうわけかジョゴラーがグリームーに襲いかかる。
「何をするジョゴラー!?」
「しまった! 敵の魔法にしてやられた!」
「さては、貴様の仕業だな!」
衝撃波がコンフュージョンの魔法を放ったフーをぶちのめし、倒れたフーに向かってグリームーとジョゴラーが突進。咄嗟にハイラーンが阻もうとしたが‥‥足が動かない! ナージョのシャドウバインディングで動きを封じられていた!
「お〜っほっほっほっ! 私を甘く見ないことね!」
転倒したフーに敵2人を寄せ付けまいと、キースはホイップを振り回して牽制。ジョゴラーが剣を振りかぶり、咄嗟に身構えるキース。だが敵の刃は、方向を転じて敵の背後に向けられる。そこには新たに駆けつけた二人の仲間がいた。白の覆面で顔を隠した剣士に、武道家の巴渓(ea0167)。
「渓! 来てくれたか!」
「ああ。あいつを放っとけねーからな。それより、肝心の大将はどこ行ったんだよ!?」
その声に答えるかのごとく、壮絶なる雄叫びが響き渡る。
「マッチョムキムキムッキンキ〜ン☆ 我輩こそマスカレイダーの新戦力!! その名も輝く黄金のナイスガイ、ゴォォルデン・マッチョォォ!!!」
一度目にしたら脳裏に焼き付いて離れない肉体美をひけらかし、マスク・ド・フンドーシ(eb1259)が登場! その顔にはお馴染みのバタフライ仮面に代わり、燦然と輝く黄金のマスカレード。だけど翻るマントの下は、例のごとく褌一丁。一瞬、その姿が淡いピンク色のオーラを放つ。‥‥いや、マジで。
その神々しいばかりの姿に、ナージョの目が点になる。だがすぐに我を取り戻す。
「ふん! どこの変態だか知らないけど、私の魅力の虜にしてやるまでよ!」
ナージョはチャームの呪文を放った。
「効かぬ、効かぬ、効かぬぞぉぉぉ〜!!」
雄叫び上げてマスクはナージョに突撃。先ほどの発したピンクのオーラはオーラエリベイションのオーラ、チャームに対する守りは鉄壁だ。仲間の援護を受けてナージョに迫ったマスク、あれよあれよという間に彼女の両手をがしっと握りしめ、
「な、何をするの!?」
「力の弱いレディを折檻したとあっては、イギリスのナイトの名折れである。だからダンスを踊るであるよ」
そのままダンスを踊り始めた。
「しまった! これでは魔法が使えない!」
両手を封じられては魔法印が結べないのだ。
●激闘
「クシュリナ、隠れても無駄だ」
クシュリナの姿が崩れた壁の向こう側に見え隠れするが、レオンはブレスセンサーの使い手。敵の位置を見失いはしない。
「‥‥そこか!」
狙いを定め、高速詠唱でライトニングサンダーボルトを放つ。だが惜しいかな、魔法の稲妻は教会の崩れた石壁に吸い込まれた。
「あははは! 石壁の向こうの私を倒せるかい!?」
クシュリナが笑いながら挑発する。
「ならば、俺の手で引きずり出してやる」
石壁に向かって足を踏み出すと、刃の閃きが目に映った。
「何!?」
シフールサイズの剣だけが宙を舞い、襲って来る。
「これが噂のサイコキネシスか!」
剣の切っ先を無我夢中でかわした途端、背後から首筋を斬りつけられた。
「私の剣が一本だけだと思ったかい!?」
レオンの首の急所を狙い、さらなる攻撃を繰り出すクシュリナ。近接戦に持ち込まれてはサンダーボルトも放てず、レオンは無様に地面を転がって逃げ回る。だが、それも作戦のうちだ。
「そろそろ止めをさしてやるよ」
剣の切っ先を向け、クシュリナが急降下。レオンはすんでのところで身をかわし、クシュリナの剣は何も無い空を斬る。──と見えた刹那、電撃がクシュリナの体を貫いた。レオンが高速詠唱で咄嗟に唱えたライトニングトラップにより、電撃の罠が張られた空間にクシュリナは飛び込んでしまったのだ。
「おのれ‥‥よくも!」
ダメージを受けたクシュリナがふらふらと舞い上がる。
「させるもんですか!」
マクファーソンのウォーターボムが、クシュリナを撃ち落とす。クシュリナは歯を食いしばり、再び宙に舞い上がろうとしたが、いきなりその体が硬直し、バランスを失った人形のように倒れた。
「マスカレイダー・サファイア、ここに見参じゃ」
物陰からコアギュレイトを放ったヴェガが姿を現し、マスカレード越しににこりと笑った。マクファーソンの首の傷は、いち早くヴェガが施したリカバー魔法ですっかり癒されていた。
氷華相手の戦いは目まぐるしい動きを見せている。悠一郎がニードルホイップで、キウイがロングクラブで交互に攻撃を繰り出すも、氷華はぎりぎりでかわしつつ反撃を繰り出す。既に3人の体は生傷だらけだ。一瞬生まれた隙を突き、キウイがロングクラブを振り下ろす。だが氷華の反応は早かった。大きく跳躍すると、キウイの側面に移動。そのままキウイの次なる攻撃を待ち受ける。カウンターアタック狙いだ。
(「悪いが、カウンターは撃たせんよ」)
悠一郎が攻撃に出た。
(「こちらも勝負に出させてもらう!」)
リュートベイルの盾を思いっきり突きだした。氷華が咄嗟に身を屈め、悠一郎にカウンターアタックを繰り出す。その拳を盾で受けようとしたが受けきれず、悠一郎はもろに拳を身に受けて倒れた。だが、これで氷華の攻撃タイミングは完全に狂った。
渾身の力を込め、キウイがロングクラブを氷華に叩きつけた。鎖骨の折れる音と共に、クラブは深々と氷華の体にめり込む。一撃必殺の技が決まった。
「げうっ‥‥!」
うめき声と共に倒れる氷華。それでも戦闘を諦めずにじたばたと両手を振り回すが、その拳は空しく宙をさまようばかり。見かねてキウイは言った。
「そろそろいいんじゃないか? あんたを心配してる奴も居るんだからさ」
●決着
グリームーとジョゴラー相手の戦いは、まだ決着が着いていない。それでもダメージの蓄積で、敵の動きが鈍っているのは明かだ。
「そろそろ決めるか」
ハイラーンがロングソードを大きく振りかぶる。そこへジョゴラーが猛攻をかけ、ディザームの技でロングソードを叩き落とした。間髪を置かず、ハイラーンはジョゴラーに組み付き、隠し技のスープレックスを発動。教会の崩れた壁めがけてジョゴラーを投げ飛ばした。壁に激突したジョゴラーはそのまま地面に転がる。これでもう動けまい──だが、ハイラーンがそう思うのは早かった。ジョゴラーが大きく息を吸い込んだかと思うと、その体が淡いオーラの光を纏う。そしてジョゴラーはむくりと起きあがった。
「見事な技だ。だが、俺はまだまだ戦える」
続いてグリームーの体がオーラの光を帯びる。キースが叫んだ。
「こいつら、オーラ魔法の使い手か!?」
グリームーとジョゴラーは、それまで受けたダメージをオーラリカバーで回復。猛然と反撃を開始した。真っ先に狙われたのがハイラーン。右と左から挟み撃ちだ。
「危ない! ここは私が‥‥!」
白覆面の剣士が無理矢理に割り込む。日本刀を叩きつけるや、ジョゴラーの剣がそれを受ける。その一瞬、背後ががら空きに。グリームーはそれを見逃さなかった。凄まじい勢いの蹴りが、白覆面の剣士の背中に炸裂。弾き飛ばされ地面に倒れるや、またも情け容赦ない蹴りが加えられる。強烈な痛みで体が思うように動かない。気が付けば喉元にジョゴラーの剣が突きつけられていた。
「ダンスは終わりだ」
ジョゴラーのその言葉に、ずっとナージョと踊り続けていたマスクの動きが止まる。
私には構うな──白覆面の剣士が微かに首を振り、懸命に伝えようとする。その姿を目の当たりにしながらも、キースは言い放つ。
「彼女は仲間だ。見殺しには出来ぬな」
「では、我らの大事な仲間を返していただこう」
マスクがナージョの手を離す。ジョゴラーも白覆面の剣士を解放した。
「今夜の勝負は痛み分けといったところね。でも、今に必ず決着を着けてやるわ」
言ってナージョは立ち去ろうとしたが、その目がヴェガの上に止まった。
「あら、こんな所にいたなんて。何か言いたいことでも?」
「わしが避難民の娘として語った話、あれもまた一つの民の声。おぬしらの虚言で奉公出来ずに居た村娘の実話じゃ」
「私がここで歌って聴かせた歌、あれも本当の話よ」
それだけ言うと、ナージョは二人の護衛とともに夜の闇の中へと姿を消した。
「終わったかい。ところで‥‥」
渓は白覆面の剣士に駆け寄ると、
「この顔の一文字、刻んだ相手ぐれェ忘れちゃいねェよな‥‥アマツ?」
言いざま、その顔を思いっきり殴り飛ばした。
ぼがあっ!!!!
勢い余って剣士の体が派手に吹っ飛び、慌ててキースが渓を押さえにかかる。
「おい、今のはやりすぎだぞ!」
「ちゃんと手加減してるじゃんか!」
「渓、君は少し冷静になるべきだ。例え、親友の為とは言え‥‥だ」
「安心しろ、キース。俺はどこまでも冷静さ」
どこがだ? と、言いかけた言葉を呑み込み、キースは倒れた剣士に駆け寄った。怪我の治療のためにその覆面を取り去ると、その下から現れたのはアマツ・オオトリ(ea1842)。
「やはり、君だったか。実は、君の大事な人からの手紙を預かってきたんだが」
しかし、アマツは頑なに拒む。
「私は‥‥あの方の愛に‥‥答えられぬ。‥‥破廉恥な女だ」
それでもキースは半ば無理矢理に手紙を手渡し、言い聞かせる。
「君のその命、君一人だけのものだとは思わないことだ」
こうして戦いは終わり、傷ついた仲間たちの傷も全てヴェガの魔法で癒された。なお捕らえられた氷華とクシュリナだが、冒険者達の説得が功を奏して改心。バルディエの悪評を広めるというナージョの企みに直接荷担しなかったこともあり、厳しい処罰は免れた。