進め我らの海賊旗3
|
■シリーズシナリオ
担当:マレーア
対応レベル:4〜8lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 40 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月02日〜08月07日
リプレイ公開日:2005年08月10日
|
●オープニング
そこは質素な部屋だった。簡素なベッドにテーブルと椅子、飾り気の無い壁に掛けられた唯一のものは、木の十字架。
「このみすぼらしい部屋が、海賊退治の英雄の隠れ家というわけか? 追っかけのご婦人方に知られたら、噂のタネにされること間違いなしだ」
軽口めいた客の男の言葉に、マレシャルは苦笑しながら答えた。
「困ったものだ。私を噂のタネにするだけならともかく、訓練の場にまで押し掛けたり、私の三度の食事や寝泊まりの場所まで詮索したり。街中ではまるで落ち着けないから、ここに逃げ込んだというわけだ」
海賊との戦いで大勝利を収め、ドレスタットにその名を轟かせたマレシャルだが、その名声がもたらした過剰なまでの人々の注目には辟易していた。だからマレシャルはこれまでの逗留場所を離れ、ドレスタットの街外れの辺鄙な場所に建つ教会に部屋を借りた。空き部屋は使用人が寝泊まりする為の部屋しかなかったが、マレシャルには十分に満足である。依頼、生活は落ち着きを取り戻し、マレシャルは日々武術の鍛錬に励みつつ海賊相手の作戦を練り、なおかつ教会の礼拝にも毎日欠かさず参加している。尤もこの辺りの住人はマレシャルの顔を知らぬ者ばかりなので、煩わしい有名人扱いからはすっかり解放されていた。
「人々は一度の勝利で海賊全てに勝ったつもりで、私を英雄、英雄とちやほやするばかり。戦いはまだ終わっていないというのにな。それはともかくとして、スレナス殿の見解を聞かせて欲しい。先の放火と脅迫状の一件だ」
意見を求められたスレナスだが、真相は分かりかねた。
「あの一件だけでは判断尽きかねるな。海賊が手を引いているとも取れるが、マレシャル殿の名声を妬む者の嫌がらせの線も考えられる。もっとも、これが最初で最後というわけではない。今後も二度、三度と同様の事件が起こるだろう。事件が重なるに連れて手がかりも増え、自ずと敵の正体も明らかになるはず。ところで、脅迫状のことをマチルドには知らせたのか?」
「いいや。マチルド農園の関係者で全てを伝えたのは、お目付役のタンゴにだけだ」
「それが賢いやり方だ。僕達の間に動揺が広がれば、敵を利するばかりだからね」
「あともう一つ。今後の戦いについての助言が欲しい」
そのために呼んだ客人だ。マレシャルはテーブル上に広げられた海図をスレナスに示した。ドレスタットの港湾部やその小島は詳しく記載されているが、港から離れるに従って空白部分が多くなる。先の大海戦の舞台となった海域から先は、『岩礁地帯』と大ざっぱに記された空白部分が広がるのみだ。
「この空白となっている海のどこかに、海賊の本拠地があるはずだ。そこに乗り出すには、この空白部分を少しずつ埋めていかねばなるまい。それなくして戦いに臨むことは、ドラゴンの巣穴へ丸腰で乗り込むようなものだ。併せて、これまでの記録を総点検すれば、何らかの手がかりが見つかるかも知れない」
重要な記録としては、生きて捕虜となった3人の海賊の取り調べ記録がある。また、海賊の元から逃げ出して、勝利の契機となる情報をもたらした二人の少年の証言録もある。冒険者ギルドに保管されている冒険記録も、また重要だ。
「いい線を行っていると思う。ただし、その本来の目的が『来るべき戦いの準備』にあるとしても、今の時点でそれを公にするのは不味いだろう。味方には要らぬ警戒心を与え、敵には先手を打たれることになりかねない」
スレナスは率直に意見したが、マレシャルにとってもそれは百も承知のことだ。
「何か別の理由づけか。さて、どうしたものか‥‥」
しばし黙考していたマレシャルだが、やがてその脳裏に一つの閃きを得た。
「名案を思いついたぞ」
程なく、マレシャルは冒険者ギルドに依頼を持ち込んだ。
「先の海戦の結果で、ドレスタット近海の海賊たちの勢力図は大きく変わろうとしている。大打撃を受けて勢力を削がれた海賊に代わり、近辺の同業者たちがかつてのその勢力圏に手を伸ばしつつあるのだ。もっとも、彼らの主たる目的は通行料や護衛料の徴収だが、縄張りを巡って抗争が発生する恐れもある。中には手ひどい悪事に手を染めようと企む者も出てくることだろう。そこで、これまで海図にもろくに載っていなかった島々の一つ一つを虱潰しに調査し、海賊たちの動向を押さえておきたいのだ。それと、依頼に当たって一つ条件がある」
「お聞かせ下さい」
「この依頼で冒険者達の見聞きする全ては、秘密厳守で頼む」
マレシャルのその言葉を聞き、ギルドの事務員ははたと思い当たった。この依頼には裏の目的がある。しかしマレシャルは信頼に足る男。たとえ裏があったとしても、それは人の信義を損なうような裏でしない。
「分かりました。冒険者諸氏には秘密厳守を徹底するよう、私からも強く念を押しておきましょう」
●リプレイ本文
●海のハゲタカども
ドレスタットの港から船を出し、海を北に進むと小さな小島がある。小島の近辺は海賊たちの縄張りだが、漁場としても豊かなので、海賊にショバ代を払ってこの海域で漁を営む漁師は多い。
その日、漁師たちが仕事に励んでいると、どこからともなく見慣れぬ船が現れた。
「ありゃ、余所者の船だな」
一見すると漁師たちを乗せた小さな漁船だが、舟に乗るのはマレシャルの依頼を受けた冒険者たちだった。『来るべき海賊との戦いに備えての調査』という本来の目的を隠すため、遠方よりやって来た漁師を装っているのだ。
冒険者たちの船が小島に近づくと案の定、海賊の船が近づいてきた。その旗印は黒い鮫のマーク。
「おう、止まりやがれ! てめぇら、ここに何しに来た?」
船の舳先に立った髭もじゃの海賊が、脅しをかけるように強面で怒鳴りつける。
「私たちは遠くに住む漁師ですよ〜。このところ不漁続きでしてね〜。魚を求めてあちこちの海を彷徨っているうちに、こんな所まで迷い込んじゃったってわけで〜」
漁船の船頭のふりをしたキャプテン・ミストラル(ea2248)が答えると、海賊は横柄にも要求してきた。
「ここは俺達『黒鮫団』の海だ! 俺達の縄張りで漁をするなら、ショバ代を払ってもらうぜ! 船一艘につき100G、とっとと前金で払いやがれ!」
「ショバ代が100G!? いくら何でも高すぎますよ〜!」
すると海賊は、冒険者の船の中へずかずかと乗り込み、キャプテンの胸ぐらを乱暴に引っ掴んだ。
「うわっ! 何するんですかぁ!?」
「げへへ。良くみりゃべっぴんじゃねぇか。人買いの所に連れていけばいい値がつくぜ! ショバ代の代わりに売り飛ばしてやろうかい! ‥‥うぐぁ!」
ドン、と海賊を突き飛ばしたのは、李飛(ea4331)である。海賊はざぶんと音を立てて海に落ちる。
「大変だ! お頭が!」
「てめぇら、よくもやりあがったな!」
手下の海賊達が続いて3人、船に飛び移ってきた。飛は手近の棒を掴み、その先端を覆う布を取り去る。下から現れたのは鋭い槍の穂先。それを見て海賊たちがたじろいだ刹那、黄麗香(ea8046)が立て続けに鉄拳と足蹴りを見舞って2人を海に突き飛ばす。残る1人も飛の体当たりで海へ突き落とされた。その後で、さらに凄まじいことが起きる。海賊の船めがけて、空から火球が立て続けに降って来たのだ。
ボオゥン! ボオゥン! 海賊船の船縁が砕け、甲板に穴が開き、乗っていた海賊たちが海へ吹き飛ばされる。
「うわぁ!」
「助けてくれぇ!」
空から偵察していたグレタ・ギャブレイ(ea5644)が、冒険者の船に舞い降りてきた。火球の正体は、彼女が放ったファイヤーボムである。
「これだけ痛い目に遭えば、尻尾を巻いてとっとと逃げてくれるだろうさ。‥‥あれ? 逃げてくれないじゃないの?」
逃げるどころか、逆に海賊の仲間の船がわらわらと集まってきた。逃げ出す羽目になったのは、冒険者の船の方である。
キャプテンの胸ぐらを掴んで海に落とされたあの海賊が、またも船の舳先に立って喚いている。
「よくもやりやがったなぁ! 俺様を鮫殺しマグナスと知ってのことかぁ!?」
「知らぬな、そんな雑魚の名前は」
クールに言い放つ飛。その言葉が聞こえたのかは分からぬが、怒鳴り声が返ってきた。
「てめぇら全員、八つ裂きにして鮫の餌にしてやらぁ!」
「船を岩礁の多い場所に進めれば、やり過ごせるかも‥‥と思ったけど、あいつらの方が船足早いじゃない! 追い付かれちゃうよ!」
後方を見やっていた麗香が言うや、船の前からも音羽朧(ea5858)の声が。
「前方をご覧あれ。新手が来るでござるぞ」
船の進行を阻むように、新たな海賊団が船団を組んで現れた。麗香は思わずげんなり。
「前と後ろから挟み撃ち? 面倒な事になったわね。大暴れして逃げ切るしかないかも‥‥」
「いや、それにしては様子が変でござる」
「あれ、本当だ。向こうはニコニコ笑って手を振ってるよ」
●海狼団
新たな海賊団の船は皆、狼のマークの旗印を掲げている。その先頭を行く船から、陽気な男の声が響いてきた。
「難儀しているようだな! ここは俺達、『海狼団』に任せておけ!」
海狼団の船団は冒険者の船を素通りし、追ってくる黒鮫団の船団の真正面に割り込んだ。黒鮫団の動きが止まる。やがて海狼団と黒鮫団の間で交渉が始まったが、怒り狂ったマグナスをなだめるのに苦労している様子である。
ややあって、海狼団の船が冒険者の船の所へやって来て、精悍だが抜け目なさそうな海賊が乗り込んできた。
「俺は海狼団の使い走り、減らず口のジョーって呼ばれるケチな野郎でね。早速だが、黒鮫団との間で話がまとまった。迷惑料1000Gを即金で払えば、今回のことは見逃してくれるそうだ」
またこれかい! キャプテンは手で額を押さえ込んだ。
「うわ、10倍に増えた〜! もうそんな大金、ありませんよ〜!」
するとジョーはキャプテンの顔を、次いで麗香の顔を覗き込み、最後にグレタの姿をマジマジと見つめて言う。
「金が無いなら仕方ねぇ。年頃の娘2人、シフールのペットもおまけに付けて、貢ぎ物としてマグナスに差し出すしかねぇかな〜」
「そんな、私達が貢ぎ物なんてぇ〜」
「仲間を皆殺しにされて、鮫の餌にされるよりはマシだろが? ‥‥うわぁ!」
ドボン! ジョーが投げ飛ばされて海に落ちる。投げ飛ばしたのは、いつの間にか船に乗り込んできた女海賊だ。日焼けした肌に筋肉質の体、その全身から荒々しい色気を放っている。歳は三十路を過ぎたくらいだろうか?
「あたしに聞こえる場所で二度とそんな口を叩いてみな! おまえを細切れに切り刻んでイワシのエサにしてやるよ!」
海であっぷあっぷしているジョーに怒鳴ると、女海賊はキャプテン達ににっこりと微笑んだ。
「手下が失礼したね。あたしが海狼団の頭、牝狼アメリアさ。あたしは物みたいに女を売り買いする奴らが許せなくってね。で、今回の一件だけど、あたしが直々にマグナスと話をまとめてやろう。で、あんた達は金もなさそうだし、ここはあんた達の漁の収穫の4分の3を、黒鮫団との和解を取り持つ報酬としていただくってことでどうだい? それに‥‥」
アメリアは飛と朧の二人にちらりと目をやって、話を続けた。
「力仕事を任せられそうな男手もいることだし。こっちが忙しい時には、仕事の手伝いもしてもらおう。ああ、安心しな。殺しとかのヤバい仕事じゃない。船を漕いだり、荷物を積み下ろしたりとかの、簡単な仕事さ」
「それなら異存ありませぇん! 命あっての物だねですっ! ありがとうございますっ!」
キャプテンは精一杯の笑顔で答えた。やがてずぶ濡れになって船に上がってきたジョーに、アメリアは命じた。
「こいつら、この海のことは何も分かっちゃいないからね。おまえがしっかりくっついて、色々教えてやりなよ」
こうして、漁師として漁を続けながら、海賊たちの縄張り内を調査するという冒険者たちの仕事が始まったのである。
「この北の小島を境にして東側は黒鮫団の縄張り、西側は海狼団の縄張りってことになっている。で、島から遠へ離れると、他の海賊たちの縄張りがひしめいているんだ。『青シャチ団』とか『虎鮫団』とか、色々な。漁に夢中になって島の西側の海に迷い込んだり、島から離れ過ぎたりするなよ。厄介なことになるからな」
「ところで、聞いてもいいですか?」
キャプテンは案内役のジョーに訊ねる。
「この辺りの海で、危ない場所はありませんか?」
「小島の北の海が危険だ。あそこは岩礁だらけで、潮の変化が激しい。おまけに幽霊が出る」
「え? 幽霊ですか?」
「難破したり、海賊に殺されたりした者たちの幽霊さ。小島の北の岩礁地帯は、そういう幽霊のたまり場になっているから、うかつに迷い込んだら海の中に引きずり込まれるぞ」
「ぶるる、怖いですねぇ」
「まあ、小島の南側の海は、北側のように危険じゃねぇが、それでも夜になると北側に住む幽霊がこちら側にも迷い出たりするからな。いやな物を見たくなければ、夕暮れになる前に漁を切り上げて陸に上がることだ。ところで、あんた達はどこからやって来たんだ?」
「フランクとの国境に近い、ラースという漁村だ」
答えたのは、それまで黙々と漁を続けていたサミル・ランバス(eb1350)。
「フランクとの国境? そりゃまたずいぶんと遠くからだな? ところで、あんた漁師は長いのか?」
「いいや。つい最近、村に流れついた一人だ。あの村には、ワケアリな人間が多い」
「だと思ったぜ。漁師にしちゃあ手つきがぎこちねぇ」
海では朧が水遁の術を使い、深い所まで潜って貝を獲っている。ついでに海の底を観察する。岩礁の多い場所だけに、海底の地域は起伏に富んでいる。
「(ふむ、思ったよりも複雑でござるな‥‥地図を元に、積み木あるいは木彫物で立体的な模型を造り、入念な把握が必要やもしれぬ。古に標高差を考慮せずに進軍に失敗した軍隊もあるとか)」
海底のそこかしこには色々な物が沈んでいる。難破した船の残骸に、その遺留品。あちこちに散らばる白い欠片は、人間の骨かもしれない。
大きな貝を手にして船べりの水面に顔を出すと、ジョーが声をかけてきた。
「あんた、潜りは得意そうだな。そのうち、海に潜る仕事を頼むかもしれないから、よろしくな」
夕暮れになり、冒険者たちは漁獲の4分の3を海狼団に引き渡すと、陸へ引き上げた。
ドレスタットの港では、一人の男が待っていた。漁に不慣れな冒険者たちのために、サミルが同行を求めた地元の漁師である。海賊と直に接触するのは危険だからと、漁師は同行を拒んだが、その代わりに色々なアドバイスをしてくれた。出身地について聞かれたら、こう答えろ等々。
「そうか。それは良かった。しかしずいぶんと危ない橋を渡ったもんだね」
人気の無い場所でサミルから報告を受けると、漁師は忠告する。
「だけど、決して海賊たちを甘く見るなよ。奴ら、見ていないようでしっかりあんたらを監視しているからな。それに奴ら、これからも色々な事を聞いてくるはずだ。故郷の村のこととか、過去の人間関係とか。ボロを出さぬよう、しっかり仲間内で口裏を合わせておいてくれよ」
●海賊たちの秘密
秘密厳守の依頼ということで、あえて個人の趣味で行動している冒険者を装い、ギルドの記録の閲覧を求めたドロシー・ジュティーア(ea8252)は、かえって事務員に不審がられてしまった。その事でマレシャルに報告が行き、ドロシーはマレシャルに呼び出された。事情を聞いてマレシャルは納得したものの、その後できつく注意する。
「秘密厳守だからといって、何でも隠せばいいというものではない」
ともかく今後はマレシャルの名前を出すことを条件に、依頼に必要な資料を閲覧する許可はギルドから貰えた。
「結構、沢山ありますね」
なるほど、海賊と名のつく報告書に関係資料なら山ほどある。しかし今、依頼の対象となっている海域については、参考にできる物が少ない。
一方、協同で調査を行うファルネーゼ・フォーリア(eb1210)とレティア・エストニア(ea7348)の二人だが。
「では、始めましょうか」
マレシャルから許可を貰い、生き残った3人の海賊の取り調べ記録の封印を解く。そこには次の言葉が記されていた。
──自分たちは海賊団『海蛇の牙』に雇われた下っ端である。
──『海蛇の牙』を束ねる首領は、『海蛇公ハイドラン』を名乗る謎の男だ。
──ハイドランが皆の前に姿を現す時にはその素顔を黒い包帯で隠している。
──ハイドランの隠れ家については、少数の側近しか知らない。
──北の小島は『海蛇の牙』の拠点の一つで、その近辺に縄張りを持つさまざまな海賊団には全て、ハイドランの息がかかっている。ハイドランは必要とあらば彼らの全てを目と耳として、また手足として使うことができる。
知らず知らず、レティアとファルネーゼは顔を見合わせていた。海を調査中の仲間たちにも、早くこの情報を伝えねばなるまい。
ただし、記録に書かれた言葉は、取り調べに当たった冒険者が、海賊達を文字通り死ぬような目に遭わせて聞き出した言葉だ。本来なら海賊たちが絶対に漏らしてはならぬものである。もしも冒険者たちが、その内容を不用意に漏らせば、それは深刻な結果を招きかねない。秘密を知る余所者に対して、海賊たちは容赦しないからだ。
続いて、冒険者たちに救出された二人の少年の証言録に目を通す。捕らえられていた彼らが聞いた海賊たちの話によれば、自分たちは『海蛇の穴』と呼ばれるアジトに運ばれるはずだった。運良く逃げ出せた少年たちの他にも、捕らえられていた者達は大勢いるはずだが、彼らの消息は依然として知れない。
次いで二人は商人ギルドの記録保管庫を当たる。
「敵は浚ったシフールやエルフを売りさばくのに、特定のルートを持っているはず。海からのアジト攻撃は攻城戦のようなもの。それより、交易ルートを潰して補給を断つことを考えた方がが効率が良いでしょう」
それがレティアの持論。だが、前回から長い時間をかけている割には、商取引関係の調査からは何も浮かび上がって来ない。どだい、闇取引に手慣れた連中は、一目で分かるような悪事の証拠を商取引の記録に残さぬものだ。となれば、別の方面から攻めるしかあるまい。
「ところで、便利屋ピエールの情報はないじゃろうか? ワシはあの男がどうにも胡散臭く感ずるのじゃが‥‥」
思い立ったファルネーゼは、ギルドの住所録を当たってみた。住所は難なく見つかった。下町の外れ、胡散臭い店がひしめく通りにピエールは店を構えている。
調査を終えると、護衛役のエイジス・レーヴァティン(ea9907)が先頭に立って部屋を出る。出入り口での襲撃に備えての用心である。だが今のところ、怪しい何者かが姿を見せる気配も無い。
「さて、どうしたものでしょう?」
油断なく周囲に気を配り、エイジスはファルネーゼに問いかけた。
「資料の字面からだけでは分からぬ真実もある。生身の人間の声から真実を聞き分けることも必要じゃ。差し当たっては、ピエールの店を当たれば何か掴めるかも知れぬが、こちらも敵に顔を知られる危険があるからのう」