進め我らの海賊旗4

■シリーズシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 74 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月29日〜09月03日

リプレイ公開日:2005年09月06日

●オープニング

 その日朝早く。まだ朝靄の晴れきらぬ時分から、マレシャルは馬に乗って遠出した。人里を離れた森道を進み、手頃な朽ち木を見つけると、それを敵の姿に見立てて剣を振るう。刃は幾度も食い込んで朽ち木を切り刻み、剣を振るった回数が六十を越えた頃、不意に背後からの人の視線を感じる。
「誰だ!?」
 振り返った彼の目に映ったのは、年端もいかぬ子供の姿。恐らく、この辺りに住む樵か森番の子供であろう。マレシャルの顔が恐ろしかったのか、子供は一瞬怯えた目を向けると、何も言わず一目散に逃げて行った。その姿を見てマレシャルは苦笑し、呟く。
「いかんな。私は焦りすぎかもしれぬ」
 今はマレシャルにとって試練の時。こういう時こそ気を鎮めねばならぬことは、頭では分かっているつもりだったが‥‥。
 隠れ家の教会に戻ると、マレシャルは部屋の海図を見つめながら考えを巡らす。その視線はドレスタットの港より遠く離れた北の小島に注がれ、次いで小島からさらに北の『岩礁地帯』とだけ文字の書かれた空白域に移った。
「この小島には、そしてその北の海には何がある?」

 その日の夜遅く。人目を避けるように夜闇に紛れてマレシャルが訪れた、商人ギルドの奥まった部屋にて。
「あの島に上がり、さらにその北の岩礁地帯に乗り出さねばなりませぬか。となれば海賊たちも黙ってはおりますまい」
「分かっている。だが、それ無しには先へは進めぬ」
 そう言って、マレシャルはしばし黙考する。テーブルを挟んで目の前にいる相手、商人ギルドを代表してマレシャルと対峙する男は、何も言わずマレシャルの次の言葉を待っている。
 戦うべき敵の姿は次第に明らかになりつつあった。海賊団『海蛇の牙』を束ねる謎の首領『海蛇公ハイドラン』、それがマレシャルにとって、文字通り命がけで倒さねばならぬ宿敵だ。
 先の海戦で生き残ったたった3人の海賊を、文字通り死ぬような目にあわせて掴んだ情報によれば、北の小島は海賊団『海蛇の牙』の拠点の一つ。島周辺を縄張りとする大小の海賊団には、全てハイドランの息がかかっているという。『海蛇の牙』に浚われた大勢の者たちの安否は未だに知られず、『海蛇の穴』と呼ばれるアジトがどこに存在するかも謎のままだ。
「島に上がり、さらにその北の海へ進む口実が必要だな。聞けば、あの島の北の海は幽霊どもの巣だという噂が広く流されているようだが、怪しいものだ。おおかた、海賊どもが余所者を近づけないための作り話であろう。となれば、あそこには何かが隠されているはず。いっそのこと、私が幽霊退治の名目を立てて、冒険者を引き連れて乗り込むか?」
 言って、マレシャルは苦笑する。
「いや、あの辺りに探りを入れるためのうまい口実が、どうにも思いつかぬ」
「マレシャル殿、焦りは禁物です。忍耐強く待てば、やがて好奇も訪れましょう」
 相手の男の口調は、いたって冷静だ。既に猟師を装った冒険者たちが、漁を装いながら少しずつ調査を始めている。忍耐と慎重さなくして、海賊たちに怪しまれぬよう事を進めることはできない。
「それはともかく、あの取り調べ記録の情報については、冒険者たちに口外厳禁を徹底させねばな。北の小島を縄張りとする海賊たちの前で、うかつに『海蛇の牙』や『海蛇公ハイドラン』の名前を出したら、いつ喉を掻き切られた死体となって海に放り込まれても不思議はない」
 仲間内の秘密が余所者に漏れることに対して、海賊たちは並々ならぬ警戒心を抱くものだ。
 続いてマレシャルの話は、陸での調査のことに移った。
「裏で海賊の関わる闇取引の手がかりを掴もうと、冒険者たちは努力している。しかし、これまでにかなりの数の商取引関係の文書に当たってきたにも関わらず、これぞという情報を見つけられないでいる。さて、どうしたものか‥‥」
 不意に相手の男は立ち上がり、マレシャルに歩み寄るとその耳に小声で囁いた。
「真っ当な商取引として記録に残るものだけが、取り引きの全てではございませぬ。わざと相手に盗ませる、あるいは奪わせるという取り引きのやり方もございます。では、私は大事な用事がありますので」
 男は立ち去り、。マレシャルの顔には得心の笑みが浮かんだ。恐らく商人ギルドの男はドレスタットの商取引の裏事情にも通じている。しかし商人ギルドの一員という立場上、、その秘密を外部の者に明かすことはできない。それでもマレシャルの為に、許されるギリギリの線で大きなヒントを与えてくれたのだろう。
「成る程、手がかりは犯罪の被害記録にありというわけだな」

●今回の参加者

 ea4331 李 飛(36歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea5644 グレタ・ギャブレイ(47歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea5858 音羽 朧(40歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea7348 レティア・エストニア(25歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea8046 黄 麗香(34歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea8252 ドロシー・ジュティーア(26歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea9907 エイジス・レーヴァティン(33歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1210 ファルネーゼ・フォーリア(29歳・♀・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb1350 サミル・ランバス(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2560 アスター・アッカーマン(40歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

アルフレッド・アルビオン(ea8583

●リプレイ本文

●偵察
 その日の海は波も穏やか。夏の終わりも近く、太陽の日差しもさほど苦ではない。
「俺は‥‥南宋生まれの‥‥漁師だったのだがな」
 海に網を投じながら、李飛(ea4331)が言う。ゲルマン語に不慣れな華国人の口調で、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「商用で遠方に赴いた際に‥‥地元の連中と揉め事を起こした挙句、手違いから‥‥そこの役人を殺めてしまい‥‥国に居場所が無くなってしまった。それで‥‥故国を離れて逃亡の旅に出て‥‥最近になって‥‥ラースの村に辿り着いたわけさ」
 もちろんこれは海賊を欺くための作り話だ。漁師を装って調査中の冒険者の中でも、華国出身の者たちは地元の民とかなり雰囲気を異にするため、何かと注目を引きやすい。だから入念なカモフラージュが必要だ。
「そんなに華国人が珍しいですか?」
 案内人の海賊ジョーが、さっきから黄麗香(ea8046)に惚れ込みでもしたかのような視線を送っている。
「いやぁ、君があまりにも可愛いもんでね。生まれは華国のどの辺りだい? 君の家系はさぞかし美人が多いことだろうねぇ」
 ジョーはお喋りしながら根ほり葉ほり訊ねてくる。こういう時のための作り話を、麗香も用意してあった。
「私、拾われ子なんです。実の親は絹道の貿易商だったそうですけれど‥‥私が小さい時に山賊に‥‥私だけが‥‥」
「分かった分かった。悪いこと訊ねちまったな。許してくれ」
 俯いて、声のトーンを落として語った麗香の言葉を、とりあえずジョーは真に受けた様子だった。
 漁に励みながらも、麗香は周囲の風景をしっかりと目に焼き付けて覚えておく。すぐ間近には北の小島の島影。さらに北方へと目を転じれば、そこは海図上では『岩礁地帯』とだけ記されている海域だ。その名に違わず、大小さまざまな岩が海面から頭をのぞかせている。中には島と呼べるほどの大岩さえあり、その上に家の二つや三つは建てられそうな大きさだ。
 ただし岩礁地帯はその海域だけには留まらず、小島の周辺のそこかしこにも散らばっている。暗礁も多くて大型船の通行には適さない反面、魚の集まる良き漁場ともなっている。
「この辺りは、先の海戦で海賊の死人がたくさん出たところでね。聞いた話だと、マレシャルの海賊討伐隊にハーフエルフの悪魔が混じっていたらしい。船に乗り込むや一人で暴れ回って、乗っていた海賊たちを皆殺しにしちまったそうだ。悪魔の申し子の力を借りたマレシャルめ、今に呪われて地獄に落ちるぞ」
 そんなジョーの話を黙って聞いているサミル・ランバス(eb1350)だが、内心では緊張の連続である。ハーフエルフの耳をバンダナで隠して別人を装っているものの、あの海戦で海賊たちを殺しまくった当人が自分であることをジョー達に知られたら、何をされるか分かったものではない。ともかくも漁師になりきって仕事に励む。
「この辺りは魚がよく獲れるな」
「だろ? しかも人間の死体という上等なエサをたらふく食って、大きく育ってやがる」
 やがて日もだいぶ傾き、夕凪の時間がやって来た。
「今日も大漁だったな。ありがとよ」
 先に交わした約束通り、漁獲の4分の3を分け前として海狼団のジョー達に与えると、冒険者たちの小舟はドレスタットの港へ向かう。彼らからかなり距離を置いた場所には、同じく港へと向かう海狼団の小舟が見える。獲れた魚をドレスタットの夕市で売り捌くのである。海賊達にとっては結構な小遣い稼ぎだ。

●フェイク作戦
 ここは、関係者以外に訪れる者のない密室。
「調査は本格化しています。こちらの行動が敵に読まれれば、今後の行動に影響が出かねません。そこで敵を欺くための行動を起こし、その注意を分散させることが得策かと思います」
 ドロシー・ジュティーア(ea8252)はそう前置きして、仲間と共に立案した計画の詳細をマレシャルに告げる。
「なるほど。それはいい考えだ」
 話を聞いたマレシャルは全面的な協力を約束し、日を置かず行動に出た。ドレスタットに近い小さな漁村にマレシャルが姿を見せたのは、その翌日。ドロシーを供に従え、馬に跨って街道を行くマレシャルの姿は、晩夏の太陽の光に照らされて遠目からでも輝いて見えた。騎士の名に恥じぬ完全武装、ドロシーの手でピカピカに磨き上げられた剣と盾。人目を惹きつける装いも作戦のうちだ。
 訊ねた村の村長はマレシャルの顔を知らずとも、海賊討伐で大勝利を収めたという若き騎士の名は聞き及んでいた。村を訪ねて来た立派な装いの騎士がそのマレシャルだと知るや、深々と一礼。その来訪は村中に知れ渡り、漁に出ていた者以外の殆どがマレシャルの前に集まった。
「私がここに来たのは、海賊どもの悪行を誅せんが為だ。ドレスタットでの海賊討伐は成ったものの、遠く離れた海での事件には私の目と耳も届き難い。そこで海岸沿いの村々を一つ一つ回り、土地の者達の声を聞くことにしたのだ。この村には海賊どものせいで難儀している者、過去に海賊の被害に遭った者はいないか?」
 マレシャルの問いかけに、数人の村人から返事があった。曰く、この村の近くに小さな海賊団の縄張りがあって、そこで漁をする村人からしばしばショバ代を取り立てる。払えない額では無いので払ってはいるが、その横柄な態度は鼻につくので何とかしては貰えぬだろうかと。マレシャルは村人たちに支援を約束し、漁村を後にした。
「さて、次なる村は‥‥」
 ドロシーは地図を広げ、次なる訪問先を確かめる。
「何とか日の暮れるまでにはたどり着けそうですね」
 これから暫くの間は、海岸線沿いに村々を訪ねて回ることになる。もちろん敵の目を欺くための行動だから、敵の尻尾を掴むことに直接結びつきはしない。
「それでもジャパンの諺にあるような、『瓢箪から駒』とは行きませんかね。少しくらい収穫があった方がいいですからね」
 ふと呟いたドロシーだが、その言葉が遠からず的中するような奇妙な予感を感じていた。

●災難続きの船
 マレシャルとドロシーが漁村回りを地道かつ威風堂々と進める一方、レティア・エストニア(ea7348)とアスター・アッカーマン(eb2560)はドレスタットのあちこちの登記所や記録所を当たっていた。レティアは服装と髪型を普段の装いとは変え、さらにフードで頭を覆う。護衛役のアスターもフードを被って、顔を目立ちにくくする。
「こういうのは仮装行列のようで趣味ではないのですが‥‥」
 敵の余計な注意を引き付けぬためには致し方ない。
 港のさる記録所を訪ねた時、二人の姿に事務員は胡散臭そうな視線を向け、フードの下の彼らの顔を確かめると、皮肉っぽく言った。
「ここでは初めて見る顔だな。何しに来たんだね?」
「マレシャル・サクス様の使いで参りました。冒険者ギルドで訊ねましたところ、こちらに求める記録があると伺いましたもので」
 レティアの言葉で事務員の顔つきが変わる。
「ほう。あのマレシャル殿のね」
「こちらがマレシャル様からの書状でございます」
 レティアは携えてきた書状を見せる。マレシャルに頼み込んで書いてもらった書状にはこう記されていた。──我が大切にする物品が、何者かによって奪い去られた。金銭的には高価ではないものの、私にとっては大切な思い出の品なので、何としてでも取り戻したい。ついては代理の者を遣わし、類似の盗難事件の記録を調べたい。協力を宜しく願う。
「そういう訳で、宜しくお願いします」
 この事務員、鼻薬を効かせねば何かと難癖つけてくる手合いと見たアスターは、幾ばくかの金をこっそりその手に握らせた。事務員は愛想笑いを浮かべ、二人を記録保管庫へ案内すると、後はご自由にとだけ言い残して姿を消した。

 同じ頃、グレタ・ギャブレイ(ea5644)はとある酒場を訪ねていた。
「ここにゴザンっていうお役人がいるって聞いたんだけど」
 グレタの問いかけに、店の親父は店の奥のテーブルを示す。そこにお目当てのゴザンがいた。かの人物は港の仕事に携わる役人だが、そのテーブルでは何やら激しい口論が行われている。
「お取り込み中失礼するわね。ゴザンさん、貴方に用事があって来たの」
「初めて見る顔だね?」
 人当たりの良い笑顔でグレタに訊ねるゴザンだが、油断は禁物。関係筋のあちこちに金を握らせ、事前の情報収集を念入りに済ませたグレタは、目の前にいる男が金次第でどうとでも転がる男であることを掴んでいた。ゴザンを金で釣ることで、海賊の動きに関わる情報を手に入れられたならしめたもの。それを期待しての接触である。
「まずは、お近づきの印に一杯。あたしからの奢りよ」
 店員を呼び、ゴザンの杯になみなみと酒を注がせる。ゴザンは上機嫌で酒を呷り、愛想良くグレタに囁いた。
「では、用件を聞かせてくれないかな?」
 グレタは自らを駆け出しの商人だと自己紹介し、話を切り出した。
「武器や防具とか、防犯用品の良い売りつけ先を知りたいんで、ここ数年の間に盗難や強奪の被害にあった商人を教えて欲しいの」
「これは奇遇だな。こちらのウッズ船長も、半年ばかり前に海賊の被害に遭ってね」
 テーブルの向かい側に座る老人に、ゴザンは話を向けた。ところが、
「その話はもういい! とにかく、俺はあの呪われた積み荷には二度と関わらんぞ!」
 そう怒鳴ったきり、老船長はそっぽを向いてひたすら酒を呷るばかり。
「その話は私がしましょう。私はピエール・アンドレ・マイヤール。街では便利屋ピエールの名で通っています」
 同じテーブルにいたゴザンの連れが自己紹介する。便利屋ピエールといえば‥‥! その名にピンときたものの、グレタはさり気ない風情を装った。
「で、詳しい話を聞かせてくれない?」
「実は、船長はロシアの呪いで難儀しておりましてね」
「ロシアの呪い?」
「いやもう、あれは呪いと呼ぶしかありません」
 ピエールの話によれば、ウッズ船長はさる貴族の依頼で、積み荷をロシアへ届ける仕事を半年前に請け負ったという。ロシアへ向けての長い船旅に備えて物資や食料をたっぷり船に積み込み、港を出て一昼夜が過ぎた頃、船に病気が発生して船乗り達がばたばたと倒れた。運悪くそこへ海賊が襲いかかり、船乗り達は抵抗らしい抵抗も出来ぬまま、積み荷はおろか備え付けの武器・防具までもごっそり奪われてしまったのだ。
「実は同じ依頼主からの同じ依頼をその前の年にも、さらにその前の年にも受けていましてね。その度に災難が降りかかるんです。座礁したり、舵が壊れたりした挙げ句、海賊どもの餌食になってしまうという具合でして」
「で、ロシアに届ける積み荷って、一体何なの?」
「ここだけの話ですが‥‥」
 ピエールは声を潜めて囁く。
「王国復興戦争の真っ最中にお亡くなりになられた、さるロシア貴族の遺品だそうです。海賊に襲われた時も、その遺品だけは手つかずに残るというのですから、不思議な話ですよ」
「ところで‥‥」
 ゴザンがグレタに話しかける。
「君が扱っているという防犯用品だが、近いうちに見本を持ってきてくれないかね? 良い品々を出来るだけ安く仕入れたいんだ。一つ宜しく頼むよ」

●報告会
 北の小島の海賊たちの間で、マレシャルの漁村回りは早くも噂のタネにされていた。
「マレシャルは馬鹿だぜ。あんなに派手に嗅ぎ回ったら、海賊たちは残らず姿をくらましちまうぞ」
 侮った物言いをする海賊たちの話を幾度も小耳に挟みながら、音羽朧(ea5858)は漁を続ける。水遁の術があるから深い海に潜るのもお手の物。海底に転がる貝を漁って小舟に上がって来ると、ジョーが話を持ちかけてきた。
「実は、頼みたい仕事がある。沈没船からのお宝の引き上げだ。かなり深い所に沈んでいるもんで、これまで手が出せなかったんだが、潜り名人のあんたになら出来るだろう。ただし、近くには鮫がウヨウヨしてるし、黒鮫団の奴らもお宝を狙っている。仕事を引き受けてくれるにしても、一戦交えることだけは覚悟しておいてくれよ」

 冒険者各自の調査が一段落すると、ドレスタットの某所で秘密の報告会が行われた。陸での調査に携わった者たちからは、『ロシアの呪い』に纏わる情報がごっそり集まった。
「これらの事件については記録にも残されていました。被害に遭った船は『赤鷲号』。船の所属は‥‥ええと‥‥」
 報告者のレティアが記憶を探っていると、アスターがすかさず助けを入れる。
「船の所属はクラセン商会。積み荷の移送を頼んだ依頼主は、エドモン・ド・グラヴィエールという名の貴族です」
「有り難う、アスター様。そして一連の事件は決まって、『グリフォンの鼻』と名付けられた岬の沖合で起きています」
 それを聞いて、ドロシーが色めき立つ。
「その岬なら知っています! マレシャル様との漁村回りで訪れた地に、そういう名前の岬があって、船が沖合で海賊に襲われた話も近くの村人から聞きました!」
「しかし、妙な話だな」
 訝しげにエイジス・レーヴァティン(ea9907)が言葉を挟む。
「僕は冒険者ギルドと自警団を当たって、ドレスタット近辺で起きた襲撃事件について調べてみた。収穫はさっぱりだったが‥‥。なのに、赤鷲号の事件はどちらの記録にも載っていなかった。それほど大きな事件なら、冒険者ギルドや自警団に話が持ち込まれてもいいはずなのに」
 これにファルネーゼ・フォーリア(eb1210)が答えて言う。
「わしの調べた商人ギルドの記録には、赤鷲号の事件のことが確かに乗っておった。冒険者ギルドや自警団に話が行かなかったのは、依頼主の事情によるものじゃろう。じゃが、この事件によって相当な量の物資や食料が海賊の手に渡ったことになる。その中には武器や防具も含まれておる。それから便利屋ピエールについても、面白いことが分かったぞ。ピエールは骨董関係の仕事にも手を伸ばしており、その方面に色々と顔が利くようじゃ」
 続いて、小島周辺の調査に携わる者たちからの報告。最後にアスターから要請があった。
「ファイヤートラップの魔法が船の上でも有効かどうか、敵に気づかれずに実験したいのですが。何か良い方法は無いでしょうか?」
 マレシャルの答えは簡単明瞭だった。
「船を沖合に出し、実験中はその回りを天幕の布か何かで囲ってしまえば良い。少なくとも外からは分かるまい」