進め我らの海賊旗7

■シリーズシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:9〜15lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 40 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月08日〜11月13日

リプレイ公開日:2005年11月16日

●オープニング

 行き場のない怒りと追い払いようのない焦燥感が、マレシャルの心に取り憑いていた。
 いっそのこと、目の前にドラゴンでも現れて、それを相手に死に物狂いで剣を振るっていた方が、よっぽどマシだった。だが今、マレシャルを飲みこもうとしているのは、実に覚えなき悪評という名の怪物。剣で傷つけることも切り殺すことも叶わぬ厄介な敵だ。それは魔物が吐き出す毒の息にも似て、マレシャルの心を手ひどく蝕んでいく。
 あの海賊相手の海戦で大勝利を収め、行く先々で賞賛に包まれた日々が嘘のよう。かつては笑顔でマレシャルを迎えた貴族たちも、今はその顔に嘲りと蔑みの色を浮かべ、道行くマレシャルに後ろ指をさし陰口を叩く。今日もマレシャルは事態を打開すべく、とある貴族を訪ねてその助力を求めたが、冷たく門前払いを食らわせられる始末。
「俺が何をしたというのだ‥‥!」
 なぜ人の心は、悪意をもって流れた嘘偽りをこうも安々と受け入れてしまうのか? 貴族たちの間では今や、マレシャルは海賊の宝を隠匿した疑い濃厚な、世にも浅ましき人物。しかもマチルドという婚約者がありながら女遊びに狂い、ブロンデル家の小間使いの娘を孕ませた挙句、口封じに殺害しようとまでした。そんな疑いまでかけられている。
「かならず見つけだしてやる! 俺になりすまして娘たちに宝石をばらまき、小間使いのアンナを殺そうとした真犯人を!」
 気がつけばマレシャルは、ドレスタットの裏町のごみごみした界隈を歩きまわっていた。獲物を求める狼のごとくに。
 あちこちにたむろしている男たちに、やかましくお喋りしている女たち。その誰もが真犯人かその手先に見えてくる。
「よお、マレシャルの旦那、また女遊びかい?」
 道端から声をかけてきたのは、薄汚い格好の男。
「商売女にお宝ばらまくほど物持ちなら、この俺にも恵んでくれよ」
 その言葉がマレシャルの怒りを爆発させた。
 腕が男の胸倉を掴む。そのままねじ伏せ、顔を地面に押し付ける。怯えた男の大きく見開かれた目がマレシャルを見ていた。
「言え! 俺の偽者はどこだ!?」
「知らねえ! 俺は何も知らねえよ!」
 ふと険悪な視線を感じ、周囲に視線を走らせれば街の男たちが遠巻きにマレシャルを取り囲んでいる。その時になってようやく、マレシャルは我を失った自分を知った。
 地面にねじ伏せた男から手を離し、背を向ける。その場から立ち去り際、自分を取り囲む男たちの間をすり抜ける。マレシャルに陰険な視線を向ける連中の中には、その手にナイフを隠しもっている者もいる。素振りでそれが分ったが、構わずマレシャルは歩き去る。堂々と、しかし背後への注意は怠らず。男たちは背後から襲ってくることもなく、マレシャルが去るにまかせた。
「あんなゴロツキにまで嘲られるとは!」
 辛うじて自制心だけは保っていたものの、自分を陥れた何者かに対する怒りはますます燃え盛るばかり。一体ヤツはどこに隠れている!? 必ずその尻尾を掴んで穴倉から引きずり出し、首を刎ねてやる! だが、ヤツの手がかりは何処に!? ──そう考えを巡らすうちに、さる教会に保護されているアンナのことに思い当たった。
 そうだ、アンナのところへ行こう。アンナを問い詰め、彼女の体に刃を埋め込んだ下衆野郎のことを聞き出してやる!
 足を速め、マレシャルはアンナのいる教会へ向かう。だがその途中で、自分の後をつけてくる何者かの姿に気づいた。
 誰だ!? 海賊の仲間か!? ブロンデル家の手の者か!? それとも‥‥!?
 通りの角を曲がると、マレシャルは建物の影に身を隠し、尾行者を待ち伏せた。耳を澄まし、その足音を伺う。そして気づいた。さっきまで聞こえていた足音が聞こえない。
 何処だ!? マレシャルは建物の影から道の真ん中に飛び出した。
「殺すのに失敗したアンナを、これからまた殺しに行くところかい? マレシャル殿?」
 声はマレシャルの背後から聞こえてきた。振り返ると、そこにスレナスが笑いを浮かべて立っていた。
「スレナス! いくら君でも今の言葉は‥‥」
 思わず声を荒げたマレシャル。スレナスの顔から笑みが消える。
「世間ではそう受け取る輩も大勢いる。そんな事にも気づかないのか? 冷静さを失っている証拠だ」
 友の言葉に諭され、マレシャルは我に返った。
「そうだ‥‥。俺はどうにかしていた」
 マレシャルは踵を返し、今来た道を引き返す。その友も歩みを共にする。
「サロンでの話は聞いた。またずいぶんと危ない橋を渡ったものだね。あのマルクの剣から身をかわそうともしなかったとは」
「俺はマルクに勇気を示したかっただけだ」
「あそこで君の首が飛んでいてもおかしくなかったんだぞ。マルク・ド・ブロンデルの自制心に感謝だ」
「マルクとのことはいい。スレナス、俺に成りすましたヤツを見つけ出すのに力を貸してくれ」
「やめておけ。それこそ敵の思う壺だ」
「何!?」
 二人の歩みが止まった。
「いいかマレシャル、敵の立場になって考えるんだ。敵は失った戦力の建て直しを企んでいる。しかし首尾よく事を運ぶには、ある男が邪魔だ。だから男の注意を他に逸らす為に一連の騒動を起こし、今やその企みは成功しつつある」
 スレナスに諭され、マレシャルはようやく悟った。迂闊だった。冷静さを失い、まんまと敵の術策にはめられていたとは。
「スレナス、今の俺は何をすればいい?」
「まずは教会に籠れ。冷静さを取り戻すまで、外には出てくるな。することがなければ、マチルドに手紙でも書けばいい」
「ご忠告、感謝する」

 街中でマレシャルと別れたスレナスは、一人考えを巡らす。冒険者が行っている海賊の偵察に、ゴザンとの取引のこと。
「そういえば、ゴザンは千本の矢を欲しがっていたそうだな。ならば、くれてやろう。千本と言わず、二千でも三千でも。大物を釣る餌は、大きくて美味そうなほうがいい」
 既にスレナスは、その仕える主から少なからぬ軍資金を預かっていた。一兵団の装備を整えるに足る大金をである。その金をつぎ込んで成功すればよし、失敗すればその責はスレナスに負わされる。
「さて、この道の行き着く先は、天の栄光か? それとも地獄の苦難か?」
 スレナスの足は冒険者ギルドへと向かっていた。

●今回の参加者

 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea4331 李 飛(36歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea5644 グレタ・ギャブレイ(47歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea5858 音羽 朧(40歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea6284 カノン・レイウイング(33歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea7348 レティア・エストニア(25歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea8046 黄 麗香(34歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea9907 エイジス・レーヴァティン(33歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0953 竜胆 零(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1350 サミル・ランバス(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●夜の英雄マレシャル?
 噂は噂を呼ぶ。その結果、悪い噂はあっという間に広まる。
「それにしても、何でこうも次から次へと‥‥」
 マレシャルを巡る悪い噂の数々、その出所を突き止めようというイリア・アドミナル(ea2564)の試みは、徒労に終わりそうな雲行きだった。噂というものは草原に広がる野火にも似ている。くすぶり始めた最初のうちならともかく、噂が大きく広まってしまえば最初の火元というものを見極めにくい。ましてやマレシャルの悪評は、今やドレスタット中に広まってしまい、1つの噂が静まる気配を見せるや次の噂が広まり出すという状態だ。
 上は貴族から下は街のゴロツキまで、マレシャルの噂で盛り上がっている。街の酒場で
「マレシャルの噂だけど‥‥」
 と訊ねれば、
「ああ、あの女たらしが」
「許せねぇ」
「海の男の恥だ」
「鮫に食われちまえ」
 などという言葉が異口同音に返って来る始末。噂を流していると見られる連中、これまで調べただけでもざっと30人ばかり。それらの連中と付き合いのある者をマークして、調べて噂の伝わる経路を調べるとなると‥‥もうお手上げである。
 同じくレティア・エストニア(ea7348)も街での聞き込みに励んでいたが、こちらは探すべきターゲットを絞り込んでいた。すなわち、マレシャルの偽物に会ったという人物をである。
「マレシャルと会って一夜を共にしたという人を捜しているのですけど。街に流れる噂は本当なのでしょうか?」
 手始めに船乗り達がよく集まる酒場で訊ねてみる。煌びやかな服を着てマスクを付け、いかにも珍しい話を語る語り部だという装いで。
「おや、姉ちゃんはバードかい? ここじゃ初めて見る顔だな」
「バードといっても駆け出しで、竪琴も弾けず歌も歌えませんが、物語を語ることにかけてはそこそこに。噂の渦中のマレシャルのことをよく知れば、世にも面白い物語が出来ると思いまして」
 その言葉を聞き、周りの船乗り達は大笑い。
「確かに、面白い物語が出来るわな」
 そして、彼らの一人が親切に教えてくれた。
「もしも度胸があるなら、通りにあるパン屋を曲がった先にある路地に行ってみな。マレシャルと一夜を共にしたご令嬢に会うなら、そこだ。ただし行くなら朝か昼間がいい。夜は何かと忙しいからな」
 次の日の朝、レティアは教えられた路地に足を運んだ。気怠い空気の漂う場所だった。派手な割には安っぽい飾り付けをした飲み屋に床屋に服飾店が連なる中、ひときわ目を引く大きな建物が一つ。派手に飾られた玄関口と、やたら凝った装飾の看板、そして玄関に飾られた悩ましい乙女のレリーフを見て、レティアはその建物の正体に合点がいった。
 娼館である。それも貴族や大商人が大枚叩いて入り浸るような高級娼館だ。
 こんな場所に足を踏み入れてしまったことに、一瞬戸惑いを覚えるレティア。夜ともにれば見目麗しく着飾った夜の貴婦人たちが立ち並び、にこやかな笑顔で殿方に一夜の誘いをかけるであろうその界隈も、朝は人気がなくひっそりと静まり返っている。
 と、レティアの耳に人の話し声が聞こえた。娼館の裏手に回るとそこに井戸があり、若い娘たちが洗濯物をしながらお喋りに興じている。
「あの‥‥」
 話しかけようと近づくと、きつい香水の匂いが鼻をついた。
「あら? どこの誰だったかしら?」
 レティアの顔を見て、娘の一人が小首を傾げる。どうやらレティアを同業者と思いこんだらしい。
「いえ、私はここで働く者ではなくて‥‥」
「なら、これからここで働くわけかしら?」
「違います。私はただ、マレシャルのことを知りたくて、ここに‥‥」
 娘は笑い出した。
「ああ、貴女もマレシャルの追っかけというわけね。今時、珍しいわ」
「マレシャルと会ったこと、あるんですか?」
「マレシャルは、金髪・童顔で胸とお尻の大きな子が好きだった。店の中では紳士だけど、ベッドの上では暴れ牛」
 娘の口からこぼれたとんでもない言葉に、レティアは唖然。それを見て、娘は笑い出す。
「客の話は本当は秘密にしなきゃいけないけど、今じゃ誰もが知っていることだから教えてあげるよ。まったく、誰が秘密をバラしたんだか」
 そして娘は話し始める。
「この店にはマレシャルのお気に入りが何人もいてね。私もその一人だったのさ。毎週金曜日になるとマレシャルはここへやって来てた。それはそれは立派な礼服に身を包んでね。顔は仮面で隠してたけど、話しっぷりからマレシャルと分かったよ。熱き一夜の秘め事が終わると、いつも海賊退治の自慢話さ。自分とは決してマレシャルとは名乗らなかったけど、海の戦いのことを本当によく話してくれた。それに、裸になった時の逞しい体には、たくさんの傷があったし。ちょうど、街中の皆がマレシャルを英雄、英雄と褒めちぎっていた頃のことだから、あれは絶対に噂のマレシャルに違いないと皆で思ったよ。それに、気前もよかった。毎回、金貨をたっぷり払ってくれたし、時には綺麗な宝石をくれることもあった。こんな綺麗な宝石をどこで手に入れたのって訊ねたら、海賊からのぶんどり品だって答えてくれたよ。だけどマレシャルも、噂が広まってからさっぱりこの店に姿を見せなくなったね」
「ところで、仮面をつけないマレシャルと会ったことはおありですか?」
 訊ねると、娘は否と答える。
「私たちは、真っ昼間に貴族のサロンに出入りできる身分じゃないからね。他にもマレシャルの行きつけの店を知っているけど、行ってみるかい?」
 いや、これだけ聞けばもう十分。レティアは頭を振る。そして娘に別れを告げて背を向けると、娘の声が飛んでけた。
「もしも、うちのお店で働きたければ、いつでもおいで。お店のご主人様に話を通してあげるからね」

●護るべきもの
「全く、マレシャル殿も狡猾な輩を敵に回したものだな。だからと言って退く気は毛頭無いがな」
 まずは教会に篭っているマレシャル殿の激励を。思い立った李飛(ea4331)は、マレシャルの隠れ家である教会に赴いた。人目を避け、周囲に人気の絶えた日没後に教会の門を叩く。現れた司祭に話を通し、飛はマレシャルの部屋へ案内された。
「この度の件では皆に心配をかけた。そのことをすまなく思う」
 対面するや詫びを入れたマレシャルは、飛に二通の手紙を示す。共に、冒険者仲間のレティアから届けられたものだった。手紙には二つの願いが認められている。マレシャル宛ての手紙には、積極的に教会のミサに出席してくださいと。教会の司祭宛ての手紙には、マレシャルの行動の記録を付けて下さいと。
「レティアが心配するまでもなく、私は悪い噂の広まる前から教会のミサには必ず出席していた。時間だけはたっぷりあったからな。この教会に滞在中の間、私が何をしていたかも司祭殿がよくご存じのはず。ただし、貴族のサロンでその事を明かす事はできなかった。この教会を余計な騒動に巻き込みたくもないし、海賊に手の内をさらすわけにもいかない。しかし斯様な悪しき噂が広がり、貴族の誰もがそれを信じ込むとはな。貴族界というものが、あれほど浅ましき連中の集まりだったとは」
 飛の前でマレシャルは口惜しさを隠そうともしない。
「マレシャル殿。賊の背後関係を暴く為、皆も駆け回っております。今しばらくのご辛抱を。俺は例のアンナの身辺を警護に。純朴な罪の無い町娘です。我等と賊の争いにこれ以上巻き込みたくは無い故」
「分かっている。アンナのことは貴殿に任せる。思えば、アンナもか弱き一人の娘。今の私が悪戯に事を荒立てれば、その安全を脅かすばかり」
 ふと、マレシャルの表情が和らいだ。
「今朝、シフール便で母君からの手紙が届いた。領内で最近起きた出来事や、マチルドの様子を色々と知らせてくれた。ドレスタットでは散々な評判の私だが、それでも故郷の父君と母君、そしてマチルドは私のことを信じてくれている。今の私には、その信頼さえあればいい」
 色々とあったものの、今のマレシャルの様子ならさほど案ずることはなかろう。飛はマレシャルに別れを告げると、アンナの保護されている教会へと向かった。途中、街の花屋へ立ち寄る。
「心落ち着ける様に、香りの良い花が良かろうか‥‥むう」
 柄でも無い事をしている自覚は有ったが、香り良さそうな花を自分で選び、その花束を携えて教会の門を叩いた。
「これを、アンナへ」
 現れた尼僧イルザに花束を渡すと、自分は教会の中へ入らずに教会の外の警護へ回る。何度か顔を会わせた近所の者が通りかかったので、表情を固くせずに挨拶すると向こうもあいまいな笑顔で挨拶を返してきた。
 昼間は薪割りなど、教会の雑事を手伝いながら警護を続ける。やがて日もだいぶ傾いてきた。
「さて。襲撃が有るならば、やはり夜であろうか」
 侵入者に備え、飛は教会の正面玄関と裏口に警報のための仕掛けを設ける。細めの糸を張ってその先に鈴を繋ぎ、何者かが侵入すれば鈴が鳴る仕組みだ。
 流石に、この時期になると夜は冷え込む。飛は教会の老司祭に頼み、教会の中に寝泊まりできるよう取り計らってもらった。ただしアンナとは顔を合わせずに済むよう、入口からすぐの所を寝床とし、そこで毛布を被って寝ることにした。

●蝮の子
 翌日、教会にイリアがやって来た。
 丁度、カノン・レイウイング(ea6284)がアンナに歌を歌って聞かせていた時のことである。
「カノン殿、貴女の仲間だという娘が玄関口に見えておるが?」
 老司祭に言われて玄関口に出て見ると、そこに立っていたのがイリアだった。
「遅くなってすみません」
 色々あって、事前の打ち合わせにも参加できなかったイリアだったが、それでもアンナの護衛を希望すると、老司祭は快く承諾してくれた。
「紹介するわ。わたくしの冒険者仲間のイリア・アドミナルよ。ノルマン王国最強って噂されるくらい優秀なウィザードなの。たとえオーガやトロルが襲ってきたところで、イリアがいれぱ安心して眠れるわ」
 護衛としてアンナに付き添うカノンが紹介すると、アンナはぎこちなく微笑み、途切れ途切れの言葉を返してきた。
「アンナです‥‥。ブロンデル家で小間使いを‥‥していました」
 既に何回か顔を合わせているカノンとは、うち解けて色々と話すようになったものの、初対面の人間の前では心を閉ざしてしまう。深い心の傷は未だに癒えていない。
「アンナさん、音楽や歌というのはお腹の中の赤ちゃんにも、とても良いそうなんですよ。お腹の中にいた時から楽しい音楽や歌を聞いて育った赤ちゃんは、とても心豊かに成長するそうなんです。さあ、次はどんな歌がいいですか?」
「何でもいいわ‥‥カノンの好きな歌を‥‥」
「それでは、故郷イギリスの歌を」
 幼い頃に聞いた懐かしいメロディーを竪琴で爪弾き始めると、小さな足音と共に幼い兄弟が部屋に入ってきた。
「アンナお姉さん、お見舞いだよ」
 今日も近所に住む兄弟が、焼きたてのお菓子を持ってきたのだ。しかも今日は、バスケットいっぱいの沢山のお菓子を。
「わあ! これ全部、あなた達のお母さんが焼いたの?」
「うん! 僕たちのお母さん、お菓子作りの名人なんだ。教会のみんなにも分けてあげてよ!」
「ありがとう。お母さんによろしく伝えてね。さあ、あなた達も召し上がって。しばらく教会でゆっくりしていくといいわ」
 兄弟に礼を言い、バスケットの菓子を小皿に取り分けるカノン。焼きたてのお菓子の香ばしい香りが、とても心地よい。
「アンナさん、あなたも‥‥」
 言いかけて、ふとカノンは思い出した。仲間のヴェガと最初にこの教会に来た時、ヴェガは食事に毒を仕込まれることを警戒して、外から届けられた食べ物を決してアンナに食べさせようとはしなかった。しかしヴェガは今日、教会に来ていない。毒味役と称してつまみ食いし、イルザに小言を言われていたアスターも、今日は教会に来ていない。
(「もしも毒が仕込まれていたりしたら‥‥。でも、あの子たちのお母さんが焼いたのなら、大丈夫かな? 今まで何度もお菓子を届けてくれたけど、何ともなかったし‥‥」)
 ふと、イリアが言った。
「カノンさん、ちょっと二人だけで話したいことがあるのですけれど‥‥」
「分かったわ。あなた達、先に食べていてね」
 兄弟二人に告げると、カノンはイリアと共に礼拝堂の隅へ。人気のないことを確認すると、イリアがカノンに訊ねてきた。
「今回の事件のことで、何かアンナさんから聞き出せましたか?」
「わたくしは、あえて質問することを避けてきたわ。それでも歌や音楽を聴かせる合間に、アンナさんが思い出すようにぽつりぽつりと語ってくれたことを纏めるとね、こういう事になるの」
 カノンはアンナから聞き出せた範囲のことを伝える。
 まず、アンナのお腹の中の子どもだが、父親はアンナが働くマルク・ド・ブロンデルの屋敷で働いていた若い御者だった。その男から何度もアプローチをかけられ、何度か逢瀬を重ねて夜を過ごし、そして妊娠。しかしアンナが身ごもったことを知った男は、主人に咎め立てされることを恐れて、周囲には何も告げ知らせず屋敷を去った。
 一人残されたアンナは途方に暮れ、お屋敷の小間使いの間ではアンナの噂が広がるばかり。アンナは毎日を思い悩んで過ごしていたが、そんな彼女の元へ1枚の手紙が届けられた。

『困窮した貴女に救いの手を差し伸べたい。ぜひとも貴女にお会いしたい』

 そう書き記された手紙に差出人の名は無く、ただ『M』という文字が記されたのみ。手紙に示された密会の場所に出向いていると、そこには立派な礼服を着た覆面の男が待っていた。
『貴方は誰?』
『名も無きより身を起こし、日々の努力の甲斐あって武功を成し遂げ、今やドレスタットに名を轟かす英雄の一人──と言えばお分かりかな?』
『もしかして、貴方はあのマレシャル様?』
『そう呼びたければ、呼ぶがよい』
 そんな会話が交わされたが、以来、アンナはその男をマレシャルと信じて疑うことがなかった。
「それで、その先の話は? アンナがマシレャルさんの偽物に出合って、そして殺されかけるまでに、一体何があったのでしょう?」
「それは、まだ聞き出せてないわ。これだけ聞き出すだけでも大変だったのよ」
 過去の話をする度に、アンナは時には激しく泣き出したり、時には無表情になって口を噤んでしまったり。未だに癒えぬアンナの心の傷を思うと、こちらから不用意に質問することは憚られた。
「そろそろ戻りましょう。おやつのお菓子も待っていることだし」
 部屋に戻ると、兄弟二人はお菓子を早々にぱくついていた。しかしアンナは手をつけていない。
 尼僧イルザが部屋に入ってきて、兄弟に注意する。
「あなた達、食べる前にきちんとお祈りしたの?」
 兄弟二人は首を振る。
「まず、祈りなさい。食べるのはそれからです」
 言われて、兄弟は神妙に祈り始める。そしてカノンとイリアも。
「主よ、今日も食べ物をお与えくださったことを感謝します」
 祈りを終えたカノン、老司祭の姿が見当たらないのでイルザに訊ねた。
「司祭様はどちらへ?」
「告解室で罪人の懺悔を聞いてやっていますよ。あの様子だと長くかかるでしょうね」
「そうですか。後でお菓子を召し上がってもらって下さい」
 カノンは竪琴を手に取る。このところ毎日そうしているように、アンナに歌を聞かせてあげるのだ。少しでもアンナの元気づけになればいい。今日は幼い二人もいることだし、子ども心にもわくわくするような冒険の歌を歌ってあげようか?
「歌や音楽は人の心を豊かにして幸せにする素敵な魔法です。みんなで心のままに、楽しく一緒に歌いましょう」
 最初に竪琴の弦をポロロンと優雅にかき鳴らし──。
 どん! 突然、兄弟の一人が体を崩し、床に倒れた。続いてもう一人も。
「どうしたの!?」
「お腹が‥‥痛いよ‥‥」
「助けて‥‥」
 身をよじり、かすれた声で呟く。顔が蒼白だ。ただの腹痛ではない。
「司祭様! 大変です!」
「何事じゃ!?」
 カノンに呼ばれて老司祭がすっ飛んできた。
「これは! 毒を盛られたか!?」
 勢い、解毒の呪文を唱える老司祭。魔法はたちどころに効果を発揮し、幼い二人は苦しみから解放された。そして老司祭は菓子の一つを手に取り、それを二つに割ってじっくりと検分。その鋭い目が、金属に似た輝きを放つ砂粒のようなものを捉えた。
「毒砂を仕込まれたな。一部の鉱山で産するという、鉱物性の毒じゃ。もう何度も目にしておる」
 容態の回復した兄弟に、カノンは訊ねる。
「このお菓子、本当にお母さんが焼いてくれたお菓子なの?」
 兄弟は二人して首を振った。
「本当は、違うんだ。最近、街で出合ったおじさんから貰ったんだ。アンナさんのお見舞いに渡すように頼まれたんだけど、僕たちのお母さんからのプレゼントだって言ったほうが、アンナさんも喜ぶって言われてたから。いつも僕たちに優しくて、お駄賃をたくさんくれるから、いい人だって思っていたのに‥‥」
 ごんっ! 響いた音は、老司祭が拳をテーブルに思いっきり叩きつけた音。
「蝮の子よ呪われよ! いたいけな子どもを騙し、こんな汚い手を使いおるとは! 主の裁きを受けるがよい!」
 しかしその言葉は、アンナにショックを与えてしまった。
「私のせい‥‥私のせいなの‥‥? あの子たちが死にかけたのは‥‥私のせいなの?」
「アンナさん! 悪いのはあなたじゃないわ!」
 カノンがアンナの肩を強く抱きしめ、その心を落ち着かせる。
「大丈夫です。僕たちが付いていますから」
 そう言い聞かせるイリアだったが、敵は腕に物を言わせて襲撃してくるものとばかり思っていた自分が口惜しかった。
「おお、私は何という暴言を。主よお許し下さい。どうか、我が心に平安を‥‥」
 老司祭は怒りに囚われた自らを戒めると、静かに祈りを捧げた。

●海賊のルール
 先の失敗にも懲りず、黄麗香(ea8046)はまたも港の魚市場へ。
「なんだい、あんたまた来たのかい?」
「ぜひとも海狼団のことを知りたいんです。ジョーさんのこととか、アメリアさんのこととか、何か知っていることはありませんか?」
 麗香が訊ねると、市場の男は市場の一画に固まっている海狼団の男たちを示す。
「俺の口からは何も言えないね。まずは、あんたから詫びを入れておきな」
 早速、彼らの元に出向いた麗香、
「この前はすみませんでした。ちょっと昔、色々あったモノで‥‥つい、反射的に」
 詫びを入れると、男たちがにんまり笑う。
「なら、詫びの印にこれから一杯付き合わねぇか?」
「お詫びにお酌ぐらいならしますよ、奢りか割り勘なら」
「なら、姉ちゃんの奢りってことで、決まりだな」
「え? 待ってください、そんな腕を引っ張らないで。女の気を引くのに力づくじゃモテませんよー? いや、冗談ですって、暴力反対ぃ〜」
 そのまま酒場へ連れて行かれて、飲まされて歌わされて踊らされて、それでも肝心なことについては口を滑らすことはなく、男たちのお酌をしつつ訊ねてみる。
「私、アメリアさんの『あたしは物みたいに女を売り買いする奴らが許せなくってね』って台詞が気にかかってるんですよねー。それに、この前の財宝の引き上げの時も、やろうと思えば私達全員消すとかできたかも知れないのに、とりあえず命は取られませんでしたし。う〜ん、仁義とか任侠の人達なのかなぁ?」
「ぶははは、笑わせるない!」
 酌をしていた相手の男は吹き出した。
「俺たち海賊ってのは、ただ暴れ回るだけのモンスターじゃねぇぞ。始終、物騒な面してたら、早々に目をつけられて退治されちまうじゃねぇか。いいか、海賊がここ一番に智恵を絞るのは、殺すことでも奪うことでもねぇ。どうやったら自分が生き延びられるかだ。余計な殺しをすりゃ、その仇を討とうとするヤツに付け狙われるかもしれねぇ。だったら、与える物を与えてご退散願った方が得策ってもんだろが? だけどよ、いざとなったら何十人何百人とぶっ殺すだけの度胸はあるぜ。握手の右手をにっこり笑って差し出し、されど背中に回した左手は研ぎ澄まされたナイフを握る。それが海賊の生き方ってもんだ。とりあえず姉ちゃんたちは色々と俺たちの縄張りを騒がしてくれたが、殺される程のことはやらかしちゃいねぇ。だから、足に重石を付けられて海に沈められずに済んでるってわけさ。さて姉ちゃん、これから俺たちといい所へ遊びに行くか?」
「いいえ、遠慮させていただきます」
「そうか。なら、この店の払いは任せたぞ」
「え?」
 男たちはぞろぞろと席を立ち、店を出て行く。後に残された麗香の前に、店の主人が立っていた。
「お勘定をお願いしますよ。しめて3ゴールド」
 うっ、と言葉に詰まりながらも、自分の財布から金貨を差し出す麗香。そうとも、これが海賊のやり方なのだ。

●取引の裏で
 グレタ・ギャブレイ(ea5644)はふと思い出す。
「英雄マレシャルも若いね。スレナスさんが友としていなかったら、猪突猛進して破滅していたよ。それでも友の忠告が間に合ったという点で、運が尽きた訳ではないことが見て取れる。それにしても‥‥これだけの大金‥‥余り詮索しない方が身のためね」
 スレナスから預かった金を安全な場所に保管すると、グレタは護衛のサミル・ランバス(eb1350)と共に街へ出た。向かう先はゴザンの所ではない。ゴザンに依頼を持ち込んだそもそもの依頼主であろうはずの、貴族グラヴィエールの所へである。
「早々にお呼び出しかい。ともかくゴザンの時みたいに、在庫抱えた上で足元見られるなんてダサいのはご免だよ。前は依頼の事で焦っちまった。ありゃ、もう汚点だね。このままじゃ恥ずかしくってパリに戻れないよ。あたしの名に掛けて、もう下手には出ない」
 邸宅を訪れて執事に用向きを告げると、サミル共々豪華な応接室に通された。そこでかなり長いこと待たされた末、やっとのことでグラヴィエールが姿を現した。
「待たせてすまなかった。例のマレシャルとマルクの一件がこじれにこじれてね。ついに今日、マルクがマレシャルに決闘裁判を申し込んだ。おかげで私も大忙しだ。ところで、君はゴザン抜きで取引がしたいそうだね? そのために私のことを色々と調べていた。私はその筋の者からその話を聞き、君をここへ招いたというわけだ」
 また随分と手回しが早い。
「そのゴザンだけどね。海賊の襲撃に備えての武器と防具を彼の頼みで買い揃えたのはいいけれど、ゴザンは金を出し渋るし、上前を撥ねる気配があるし‥‥」
 これまでの経緯を話しつつ、グレタは相手の様子をじっくりと観察。グラヴィエールは終始、にこやかな笑みを崩さない。
「その件については私から一言、ゴザンに言い添えておけば、ゴザンも君を煩わせることはするまい。後は君の残る仕事、弓矢の調達のほうを宜しく頼む」
 そしてグラヴィエールは船の出航の日を告げる。11月下旬の某日だ。
「丁度、マレシャルとマルクの決闘裁判の日の前日だな。もっとも私には、あの決闘にはさほど興味は無いがね」
「それより、きちんとした契約書を交わしてもらうよ。矢を千本以上集めるのだもの」
「良かろう。私の名で契約を取り交わそう」
 グラヴィエールのサインの入った契約書を手にすると、グレタは八方手を尽くして買えるだけの弓と矢を買い揃える手筈を整えた。間もなく弓矢は手元に届き、グレタとサミルはそれらを馬車に積んでゴザンの元に向かう。
 ゴザンは先回の取引の時とはうってかわって、顔を輝かせた。
「いや流石だな。短い間にこれほどの数の弓矢を揃えてもらえるとは。実は、私は君の事を見くびっていた。だが、これからは宜しく頼むよ」
「だけど、あんたが欲しいのは千本の矢とそれに見合う数の弓だろう? それだけ揃えるのは大変だよ。ここにある数は、やっとその半分を超えたばかりさ」
「で、残りはいつ用意できる?」
「今月中には何とか」
「早いとこ頼むよ。船の出航が迫っているんでね」
 取引が終わると、グレタとサミルはゴザンの事務所を後にする。しかし、なおも物陰から様子を伺う陰一つ。その正体はジャパンの忍者、竜胆零(eb0953)である。
(「サミル、後の仕事は引き受けた」)
 去りゆくサミルに密かに目配せ。
 以前、ゴザンに引き渡された武器と防具は、まだ倉庫の中だ。零のその目で確認した。
 日も暮れ、辺りが薄暗くなった頃、一人の男が事務所にやって来た。やがて男が出て来ると、零は尾行を開始。隠密行動には馴れたもので、疾走の術を使って物陰から物陰へと素早く移動しながら追跡。気付かれることなく、男を追って裏町の路地の奥深くへと足を踏み入れた。
 路地の陰から別の男が姿を現し、尾行してきた相手の男と話を始めた。
「大きな取引はもうすぐだぜ」
 その話に耳を傾けていると、いきなり背後に敵の気配。
 敵か!? 思わず振り返って身構えると──そこに立っていたのは仲間の音羽朧(ea5858)だった。朧もまた、男の後を尾行してきたのだ。ジャイアントの図体にも関わらず、朧がここまで踏み込めたのも、その優れた隠密行動力に加え、疾走の術と湖心の術の使い手であるが故。零はにこりと笑い、朧も目元で微笑んだ。そして二人して、男たちの話に耳を傾ける。
「この取引さえ成功すれば、いよいよ大量の武器と多額の軍資金が手にはいる。マレシャルなど何するものぞ。また昔のように暴れ回ってやるぜ」
「で、取引の日はいつだ?」
「マレシャルの決闘裁判の前日だ」
「分かった。ヴァイプス殿にも伝えておく」
 会話を終え、男二人は何処かへ消え去る。零と朧も静かにその場を立ち去った。

●怪盗参上!
 真夜中。人気の絶えた港に、夜空からフライングブルームが舞い降りる。さして音を立てることもなく、見張り番は空から忍び込んできた者に気付かない。
(「うまくいったな。さて、仕事はこれからだ」)
 乗ってきたフライングブルームを背負い、エイジス・レーヴァティン(ea9907)は目指す倉庫に忍び足で近づく。ゴザンに引き渡された武器と防具が収められた港の倉庫だ。正体がばれぬよう覆面を付け、その全身には猫を模した防寒着『まるごと猫かぶり』を着込んでいる。端から見れば大笑いだが、これでも本人は真面目にやっている‥‥はずである。
 その忍び足が、ふと止まる。倉庫の中に灯が点り、何やら人の話し声がする。耳を澄ますがよく聞き取れない。
 突然、真夜中だというのに激しい叫びと物音が聞こえてきた。仲間のサミルがエイジスの倉庫侵入を手助けするべく、囮役となって騒ぎを起こしたのだ。エイジスは素早く物陰に身を隠す。
「一体、何の騒ぎだ?」
 中で話をしていた男たちが騒ぎを聞きつけ、倉庫から飛び出していく。扉に鍵もかけずに。エイジスはまんまと倉庫の中に忍び込んだ。目の前には山と積まれた武器と防具。大量の弓と矢もある。そしてエイジスが忍び込んだ目的は、引き渡されたそれらの物品の始末。
「こいつらがそっくり海賊の手に渡ったら、えらいことだな。しかしフライングブルームを使っても、全部丸ごと持ち出すには手間がかかる」
 火を放って燃やしてしまおうかとも思ったが、ふと傍らのテーブルに目が止まる。ランプの光に照らされたそこには、海図が広げられていた。ドレスタットからさほど遠くない、『グリフォンの鼻』と呼ばれる岬の辺りの海図だ。海図の上には3つの駒。それぞれに船の略図が描かれてある。
「あいつら、ここで何を話していたんだ? この3つの駒は‥‥この辺りの海で3つの船が出合うということなのか?」
 海図の傍には折り畳まれた手紙も置かれていた。エイジスが手紙を広げて中味をあらためると、そこにはルビー、サファイアなど宝石の名前が書き連ねられ、それぞれに数字が書き添えられている。手紙に差出人の署名はなく、その代わりに黒い蛇の印章が押されていた。
 先ほど出ていった男たちが戻って来る気配がした。
「なんだ、もう戻って来たか」
 倉庫の扉が開いた途端、エイジスは拳で男たちをぶちのめす。1人、2人、3人と、ぶちのめすのにものの10秒もかからない。ところが最後の4人目をぶちのめそうとするや、男は逃げ出して大声で叫んだ。
「大変だ! 倉庫に侵入者だ!」
 その声を聞きつけ、港の衛兵たちがわらわらと駆けつけてくる。
「うわっ! 何て警戒厳重なんだ! こいつはヤバイぞ!」
 フライングブルームに跨るエイジス。さあ逃げだそうとした時、机の上の手紙が目に入る。これは何かの手がかりになるかも。咄嗟にエイジスは手紙を掴んで懐に入れ、代わりに用意しておいた置き手紙を残す。

『怪盗シャノワール(黒猫)参上! お宝は頂いた!!』

 そしてエイジスを乗せたフライングブルームは、出口に向かって一直線に進む。倉庫の中に踏み込みかけた衛兵を突き飛ばすと、フライングブルームはそのまま夜空に舞い上がり、エイジスの姿はあっという間に夜空に瞬く星の中に紛れ込んで見えなくなった。