【竜の古文書】遺跡砦2

■シリーズシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:9〜15lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 60 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月11日〜11月16日

リプレイ公開日:2005年11月19日

●オープニング

 パラの吟遊詩人が一人。愛想良さそうにギルドの奥に現れた。
「ここは‥‥」
「あたしはヘルガと言います」
 声を遮り木の割り符を見せる。秘密依頼のためにギルドに送られていた幾枚かの割符のうち、ひとつがひったりと一致した。割り印も札の割れ方も木目の模様までも。
 そして、ギルド側の割符には、使者の名前と特徴が書かれていた。
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 この者。パラの吟遊詩人ヘルガを名代として遣わす。
 詳しくは使者の口頭にて

                         ノアール・ノエル
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「‥‥失礼しました。ノアール卿のお使いですね」
「密かに隠し砦関係者に連絡を。子細がありまして、未熟な者でも良いからムーンロードの使い手が欲しいとおっしゃっていました。どうしても見つからない場合は、あたしが同行します」

 しばらくして、ギルドには次の依頼が張り出された。
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 わが友終焉の地を掃除して清める冒険者、友のために歌を捧げる吟遊詩人を求む。
 友の父はムーンロードの魔法を使えるものを所望す。
 彼は無学故、月道を開く魔法を持つものならば、
 天の御国に声を響かせると信ずる者なればなり。

 なお、食事・明かり等、一切はこちらで負担す。
 友終焉の地を清め、功を讃える冒険者を求む。

 我はパリに有りて卿らを求む。
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●今回の参加者

 ea0714 クオン・レイウイング(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3173 ティルコット・ジーベンランセ(30歳・♂・レンジャー・パラ・フランク王国)
 ea3651 シルバー・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea5804 ガレット・ヴィルルノワ(28歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 ea5840 本多 桂(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5929 スニア・ロランド(35歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6360 アーディル・エグザントゥス(34歳・♂・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●合流〜パリとドレスタットと
「葡萄の収穫は終わった?」
「後は踏まれるを待つばかり」
 先に決められていた合言葉による『仲間』の確認は速やかに終了。これより遺跡探索の仲間が増える事となった。ドレスタットで改めて雇われた冒険者は二人。ヘルガ・ブッセというパラの吟遊詩人とアーディル・エグザントゥス(ea6360)と名乗ったレンジャーの男である。ヘルガは同族が二人も並ぶというこれまであまりなかったパーティ編成に、一瞬驚いた顔を見せつつも笑顔で挨拶をした。ティルコット・ジーベンランセ(ea3173)と握手をすべく差し出した手は、ひどく慌てた様子のガレット・ヴィルルノワ(ea5804)に遮られた。
「あー駄目だめダメ、こいつには挨拶しなくていいよっ。握手しただけで汚れちゃう」
「何だよぉ、やきもち妬いてんのかいレディ? さすが俺ってば‥‥って、うお、ちょっと待て待て待てっ?!」
 ガレットの射撃の腕をもって全力で投げつけられれば、銅鏡だって立派な武器である。普段ではありえないような色のオーラを噴出させているように見えた、と後にクオン・レイウイング(ea0714)は語ったとか。
「しかし、共に依頼を受けた仲間が吟遊詩人で助かった。自分は詩を詠む事もスクロールを読み解く事も出来ないからな」
 パラ達のやり取りを傍らに、アーディルが一人一人に挨拶をする。スニア・ロランド(ea5929)が丁寧に礼をすると、ドレスタット組の二人に気になっていた事を問う。流石に周囲のテーブルには届かない程度の小さな声ではあったが。
「不躾な質問で申し訳ありませんが、貴方がた‥‥特にヘルガさん。依頼主からどの程度の権限を与えられているか教えて頂きたいのです」
 ヘルガとアーディルは顔を見合わせた。互いの顔に大きく疑問符が浮かんでいるのが端から見ていても分かる。ちなみにパリ組だけでなく、この二人も今この時間が初顔合わせであった。
「申し訳ありません、私はただこの依頼をギルドで受けただけなので」
「自分もだが‥‥あちらで何か、そのような報告でも?」
 ‥‥どうやら二人とも、詳しい話は何も聞いていないらしい。吟遊詩人の募集に合わせやってきたのだから何か特別な話があったのでは、と思ったのだが‥‥どうやら思い過ごしのようだ。
「遅くなりました」
 先に遺跡砦の付近を下見に行っていたシルバー・ストーム(ea3651)が仲間達の元に戻ってきた。合言葉の確認を終えると新入りに挨拶を交わし、下見の成果を報告する。直接砦に近付く事は出来なかったが、建物全体に結界が張り巡らされている事は確認出来たようだ。
「ところで‥‥小さな方々は?」
 クオンに貸し出すスクロールを手渡しながら、シルバーが本多桂(ea5840)に問う。ティルコットに
「今度何かおかしな事したら簀巻き」
 と告げていた桂が動いていないところを見ると特に問題行動はなかったようにも見えるが‥‥?
「ガレットは何か用事があるみたいでシフール便を頼んでるわ。後の二人はあそこ」
 ついと手を差し伸べた先には、何がなんだか良く分かっていない様子のヘルガとずっしりと影を背負って落ち込んでいるティルコットの姿。
「‥‥一体何が?」
「ヘルガが他を向いてる隙にティルがスクロール読んで身体光らせたらああなった、というのはとりあえず確認済み。多分エックスレイビジョンで服を透かそうとしたけどヘルガの重ね着に遮られて目的の部分まで届かなかった、というところかしら」
 随分と見事な観察眼である。

●呪歌(まがうた)
『過ぎた日の記憶を辿り、白い林を抜けた‥‥。稀少な  の群生地に至る。調査する内に  を発見。堅固な   で、手入れをすれば城塞として使用出来ると思われる。建物全体に魔法的な結界が        守護者に     入手していた  メダルを掲げ呪歌を   と道は拓かれた』
『ドレスタットから東南の森に入り  。まっすぐ歩ければ半日と思しき距離である。うち棄てられたと思しき古代の道のような跡を発見した。道にはドラゴン    道標もある。
 道標には     であると思われる文字が刻まれ、解読したところ森の  示していた。このため、実際の道標であったかは、いささか   ある。
 文面に従い進んで行くと、  注ぐ河の中島の丘に立つ石造りの建物を発見した。精霊信仰の  跡と推測されるが、詳細は未確認。
 この神殿跡を調査した結果、  国月道と地形が酷似しており、確認を要する』
 最近筆耕複写されたばかりの古いギルドの記録。シルバーとティルコットは熱心に読みふける。この度加わったヘルガが口にした、ギルドの依頼に似たような話があった。と言う発言で、急ぎ調べることになったのだ。
 その傍らで同じく難しい顔をして話を詰めるのはヘルガとアーディル。

♪歌え銀の糸よ 踊れ金の糸よ
 天には星よ 地には実りよ
 今こそ 宝を 渡し賜え

 歌え銀の糸よ 踊れ金の糸よ
 六つの翼よ 虹の力よ
 今こそ 祈りに 答え賜え♪

「どう見ても詩文の形式だな。宝が具体的に何を示すのか、六つの翼とは6種類の何か、虹の力とは7種類の何か‥‥」
 アーディルは数字に着目して解き明かそうと試み、
「天と地が対句ですから、星と実りも対句ですよね」
 ヘルガは詩の形式を重視して解析する。脂汗と共に時間が過ぎた。

「おい‥‥この記録‥‥」
 ティルコットは古びた記録を相棒に手渡した。どれどれと目を通すシルバーは、古い記録の中から今回の依頼と重なる物を拾い上げる。
「ノルマン復興戦争よりも遙か前、月道探索に行った人達の記録ですか‥‥」
 封印されし隠し部屋を護るゴーレムの話。それを無事に過ぎ越すための竜のメダル。関門のためにボロボロになり、一旦戻ってきた冒険者達が再び遺跡に赴き‥‥。彼らが二度と帰らなかった事が記されていた。
「7と言う数字がここにも在りますね。彼らの記録で出てくる歌の中です」

♪きらきら きらきら 降る星は
 三つ四つ 五つ 六つ 七つ
 徴(しるし)を受けし 者は誰(た)ぞ
 宝を拓く 者は誰ぞ
 
 大地と 水と 風と火と
 月影 日輪 他一つ
 精霊の加護 身に帯びし
 定めの人をば 吾待てり♪

●レクイエム
 いわく付きの隠し砦。今回は猪らとも遭遇する事無く、近くに至ることが出来た。季節が冬の入口に入っているせいか、森が明るくなった代わりに冷たい雨と泥濘が待ち受けていたが、道を識りかつ経験を積んだ冒険者達にはさしたる難事ではない。半日ほどで到着した。
 砦は長く放置されており、入口へ続く道も枯れ草に埋もれていた。
「いよいよ本番というわけだな。さて、何が出てくるのやら楽しみになってくるぜ」
 クオンは注意深く探りながら道を探す。
「一寸待った!」
 戦場での防御工事に詳しいティルコットが皆を制す。砦と言うからには敵をくい止めるための仕掛けを備えておくのが常道である。
「見ろ。ここに陥穽が掘られている」
 草に隠れて判りにくくなっていたが、人一人を飲み込むに足る穴が口を開けていた。見ると、朽ちてはいるが逆茂木が植えられている。V字型の掘りで落ち込んだらちょっと厄介だ。
「そこのロープを貸して下さい」
 身軽なシルバーが飛び越えて向こうの木立にロープを結わえた。そして造るのは即席の橋である。以降は、安全確認も兼ねて草を刈り、道を整えながら先へ進んで行く。そして、程なく朽ちた跳ね橋へ至る。
「小さな門ねえ」
 スニアの口から漏れる感嘆。建物の規模に比して確かに小さい。半ば朽ちた橋を渡り、門を潜ると、正面に窓のない塔。軽く10mの高さはあるだろう。
「何だろう? だいたいノルマン復興戦争時の隠し砦との触れ込みらしいが、こんな行くも帰るも一苦労な奥地にあって本当に砦として機能していたのか?」
 アーディルは訝しむ。砦の造りとしては変わっている。
「ん?」
 すっと示すスニアの指の先は左右のスリット。
「左右から交叉し、一方からは3つの角度で攻撃を受けるわよ。周りを囲む地形は、容易に攻城鎚を寄せ付けないから、ここから入るしか無いわね。それにしてもまるでブロッホみたいな変わった塔ね」
 その様は、彼女が昔見た故国の小島にある石の塔を連想させた。塔を迂回し進み行けば真の入口。
「ここはあたしが見張っているわ」
 志願したガレットを残し、一同は中に入る。広い空間を木の間仕切が区切っている毳立った木の肌は、軽い湿りを帯びて苔むす物もあり、放置された月日の長さを思わせた。
「これは‥‥」
 錆びた甲冑の白骨死体が入口に向かって前のめりに倒れている。手にはしっかりと剣が握られ、剣には無数のヒビと錆と刃こぼれがある。盾の紋章に小さく記されたユリの紋。彼が位の高い貴族であった証拠だ。
「見事な最後ね。鎧の前にのみ傷が付いているわよ。見て、鎧の前が傷だらけ」
 桂は勇敢な最期の証を示し息を吐く。ざっと見て30箇所は超える破断されたチェインメイル。肋骨の幾つかは砕け散り、起こした時に床に残っている。骨に混じって鍵が落ちていた。
「この紋章は、話にあったご友人の物でしょうね。王家の加増紋を賜るような身分の者は、他にいることは聞いていませんわ」
 スニアが紋章を改めて言った。ポロンと響く竪琴の音。ヘルガは天を仰ぎ詩を紡ぐ。

♪務めは重し身は軽し 数多(あまた)の敵をば引き受けて
 勲(いさお)を立てし者は誰(たれ) 身に負う傷は三十余
 己(おのれ)が身をば盾の如(ごと) 省みせじ勇士あり

 剣戟(けんげき)摩(ま)して鉄火散り 軍馬嘶(いなな)き矢は注ぎ
 寄せては返しまた寄せる 敵の新手の多かれば
 この地を敵に奪わるな 叫びし声も空しくて

 今はと退去の下知を出し 兵(つわもの)どもを逃がすため
 一人残れる勇士こそ ここに斃(たお)るる漢(おとこ)なり
 人よ鑑(かがみ)と讃(たと)うべし 偲(しの)べ彼の遺徳をば

 つくす誠は唯一つ 忠と勇との二文字(ふたもじ)を
 心の伽藍に刻みたる 勇士の背には傷は無し
 草むす屍(かばね)と潔よく 君に捧げしこの命♪

 勇ましき旋律に載せられた詩は、広間一面に広がった。
「味方を逃がすために、只一人残ったと聞いています。退却途中でその他の方々も多くは討たれたために、いままでここの行方が判らなかったのです」
 歌い終わったヘルガはそう付け加えた。

 埋葬が終わり調査を進める。倉庫らしき場所では炭化した小麦を発見。そして、塔に続く回廊を発見した。遺品の鍵束で奥まった部屋を開けると、下に続く狭い階段。
「水音‥‥水路だわ」
 桂がいち早く水音に気づく。小型の北方船が、朽ち果ててそこにあった。
「湖に続いているようだな」
 アーディルが行く手を確かめる。どうやら、湖や河を利用した基地として使われて居たらしい。
「どうしました?」
 シルバーは壁を調べているアーディルに声を掛けた。
「しっ。‥‥ここだ。ここだけ音が違う。スニアさん」
 スニアがハンマーで思いっきり殴りつけると呆気なく崩れる壁。そして、広間のような空間が現れたのだ。尚も探索を進めるために、ガレットら警戒組もこの場に呼ばれた。
 ガレットが明かりをかざすと、石像が奥に立っている。その影に扉のような物が見える。
「なんか嫌な予感がする‥‥」
 ティルコットはぼそりと呟いた。

●ゴーレム
 果たして、近づくと動き出す石像。ストーンゴーレムに違いない。
 ゴーレムは巨大な青銅の棍棒を振り上げて近づいてくる。あれにぶちのめされたら、たまったものではない。冒険者たちが一人また一人と後じさりする中、スニアは逆に前に歩を進め、ゴーレムの前に立ちはだかる。
「ここは、私に任せて」
 振り下ろされるゴーレムの棍棒を巧みにかわし、スニアはハンマーを叩き込むが、ゴーレムはしぶとい。
「ほらほら、こっちこっちぃっ!!」
 ティルコットが牽制のスリング攻撃。アーディルも牽制のためにナイフを投げつける。しかしゴーレムは、体に当たる石やナイフを気にする様子も見せず。
「天誅! 女の敵!!」
 スニアに代わり、桂がゴーレムの足を狙って斬り込む。ゴーレムは攻撃を桂に集中。どうやら、最も近くにいる者を攻撃するように出来ているらしい。しかし足を狙った攻撃も、ゴーレムの動きを封じるには一歩及ばず。逆にゴーレムの棍棒をくらって倒れる。スニアがゴーレムに突進してその気を逸らし、桂はティルコットとクオンに助け出される。
「ヤツを部屋の中央におびき出せ!」
 冒険者たちは後退。ガレットとシルバーが矢を放ち、ゴーレムを部屋の部屋の中央までおびき出しつつ移動。ところが遺跡が傷んでいたせいか、はたまたトラップか。いきなり床が崩れてガレットが飲み込まれた。ひょっとして、運命が二人を結びつけているのかは知らないが、ほぼ同時にティルコットの足下も崩れた。
 仲間たちが2人に手を差し伸べて引っ張りあげるも、その背後からゴーレムの棍棒が。棍棒をくらったり、棍棒から逃げようとして穴に落ちたりで、怪我人続出。それでも何とかゴーレムを部屋中央までおびき出すのに成功した。
「頼む。暫く押さえてくれ!」
 絶叫のようにクオンが吠える。そして先ずフレイムエリベイションを何度か失敗の後成功させた。続けてソルフの実を口にしながら急いでスクロールを取り出すが、慌てているためかなかなか上手く行かない。
「早く! 早く!」
 桂とスニアが交互に、ポーションで傷を癒しながら満身創痍の対峙する。
「二人とも離れて!」
 二人が危ないと見て、シルバーがフレイムエリベイションを使い飛び込む。ポーションで無傷まで回復している状態だ。ゴーレムは棍棒を振り上げた。
「一緒に撃て!」
 シルバーの声が合図でもあるかのように、クオンのマグナブロー。巻き込まれたシルバーも炎に包まれた。吹き上げた炎を浴び、ゴーレムの動きが鈍る。
「いやぁぁぁぁ!」
 スニアがハンマーで渾身の一撃。ズシンと重たい音を立ててゴーレムは倒れ、動かなくなった。

●開かずの扉
 既に全員ボロボロの状態。ポーションも切れ、使った矢はもう使い物にならない。布を裂き仮包帯をするガレットとティルコットを後目に、シルバーがゴーレムが塞いでいた扉を調べる。
「バトルハンマーに逢いて開く‥‥ですか」
 任せしてばかりにスニアが渾身の力を振り絞って叩きつけるがびくともしない。鍵穴は無くどうやって開くのか判らない。
「あ、なんだよそれ!」
「あんたこそ何よ?」
 後が騒がしい。又やっていると皆が目をくれると、ガレットの左手とティルコットの右の二の腕に精霊文字のような痣が出来ている。
「火と風と読めますね」
 ぼそりとシルバーは呟いた。
 文字は気に掛かるが、今回の探索はここで終わるしかないらしい。