大レストラン繁盛記2
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■シリーズシナリオ
担当:マレーア
対応レベル:4〜8lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 40 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月30日〜11月04日
リプレイ公開日:2004年11月07日
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●オープニング
ダルラン氏のレストランは、今日も大勢のお客を迎えて大忙し。従業員達はクビをかけた課題その1を無事にクリアし、ほっと一安心の今日この頃だ。自分の仕事に幾らかの自信もつけて、今日も元気に働いている。
「まあ、俺達が本気になって取り組めば、その辺の屋台になんか負ける筈無いんだよ」
「それもそうか。心配するだけ損だったかな」
そう言って、笑い合う彼ら。
「ほう、大した自信だな、結構結構」
口髭を扱きながら現れた彼らのボス、ジャン・ピコーは、一緒に笑いながらこう言った。
「ならもう暫く『その辺の屋台』と競ってもらう事にしようか。一流のお前らにかかればチョロいもんだろう? 黒字の半分はお前達の給料に上乗せしてやるよ、赤字だったらサッ引くけど、まさかそんな事は有り得ないよな。良かったな、いい小遣い稼ぎが出来て。給料少ない問題も一気に解決じゃないか、いやはや、一挙両得とはこの事だ」
わはは、と笑って去っていくピコー。毎日屋台を出す羽目になるのか、と天を仰いだ従業員達だが、一応、一度は成功している事だ。準備を整えて、翌日から意気揚々、街へと繰り出したのだった。
彼らが屋台を出したのは、冒険者ギルドや酒場からも近い裏通り。屋台がたくさん集まり、人々を楽しませている場所だ。売り物は、ゴブリンを模したパンにハーブに漬け込んだ野菜とじっくり煮込んだ肉を挟んだゴブリンパンと、小麦粉と砂糖を捏ねてふっくら蒸し焼きにした甘いお菓子、蒸気パンだ。彼らの屋台は珍しがられ、最初の2、3日は大いに儲かった。しかし、それを過ぎると思う程には売れなくなってしまった。彼ら苦心の料理も舌に慣れ、たくさんある屋台のひとつになってしまったのだ。似たような料理を出す屋台が現れたせいもある。売れると見れば、恥も外聞もなく盗んで自分のものにする。屋台の主人達は、恐ろしく貪欲で逞しかった。
「こんな事になるなんて‥‥ くそ、人の料理を盗むなんて許せない!」
「けどさ、その憎っくき泥棒屋台にこっそり行ってみたけど、見事に俺達の調理法を盗んだ上に改良までしてあってさ、確かに美味いんだよ。お客さんは正直だよな」
「‥‥仕込みの量、調子に乗って増やすんじゃ無かったよ」
ちっとも減らない売り物を前に、落胆を隠せない彼ら。
「何かまた、新しいメニュー考えるか?」
「そうは言ってもなぁ。ここには、手軽に手入できる材料を使った料理なら、ありとあらゆる物があるよ。庶民の食の展覧会って感じでさ、とても太刀打ちできないよ」
溜息と共に、頭を抱える。更にもって来て、弱っているところには不幸が手を繋いでやって来るもので。
「おい、貴様ら誰の許しがあってここで商売してやがんだコラ!」
見るからにガラの悪そうな男達が、屋台をぐるり取り囲んだ。周囲の者は見て見ぬ振りだ。
「ここは天下の公道だ、誰が商売しようと勝手じゃないか!」
「‥‥おい、この坊ちゃん方に世間ってものを教えてやんな」
後はもう、お決まりのパターンだ。彼らは嫌というほど殴りつけられ、料理も屋台も無茶苦茶になってしまった。
「明日からも出すつもりなら、ちゃんとショバ代用意しときな!」
肩で風切って行く兄さん達を睨むことさえ出来ず、悔し涙を流しながら片付けを始める従業員達。と、
「お前、こんなとこで何やってんだ? 一流レストランに勤めてたんじゃなかったのかよ」
少々場違いな執事風の青年に声をかけられ、見習いシェフ君、大いに慌てた。
「こ、これはあの、その‥‥」
使いにでも出た帰りなのか、ぱりっとした身形の旧友が驚いた表情のままじっと自分を見つめている。それに引き換え、場末の屋台で殴られて顔を腫らしている自分の姿の情けなさ‥‥これは修行とは言うものの、クビ寸前の崖っぷち。自分が惨めで恥ずかしくなった見習い君は、顔を真っ赤にして逃げ出した。
「おーい、待てって! ちょっと話が‥‥」
呼び止める声にも耳を貸さず、彼は店へと逃げ帰ってしまったのだった。
惨憺たる有様で店に戻った彼ら。
「あいつ、どうしてる?」
「泣きながら野菜洗ってる。もう行きたくないってさ」
あんな目に遭っちゃあなぁ、と仲間達。相談の末、課題の中止を願い出た彼らに、ピコーは言った。
「面倒事は災難だったが、それなら冒険者を雇うなり、言う事聞いてショバ代払うなりすればいいだけの話だろ。何で泣きが入るんだ?」
「しかし、それではとても黒字なんて出せません!」
興奮気味に言う従業員達に、ピコーは呆れ顔で首を振る。
「本当にお前らは色んなところで間が抜けてるよな。ちゃんと人の話を聞いてるのかよ‥‥ まあ、中止したいならすればいい。年末にお前らにも辞めてもらうだけだ。諦めるなら早いほうがいいぞ、でないと職を無くした上に借金まで作る羽目になるからな」
取り付く島も無い。悩んだ末に、彼らは再び冒険者ギルドに足を運んだ。
●リプレイ本文
●一食入魂
「前回の成功はあなた達の慢心を埋めただけだったみたいね‥‥」
溜息交じりに肩を落とす片柳 理亜(ea6894)。とうとうと諭す彼女を前に、従業員はすっかり萎びてしょぼくれていた。
「食の道だろうと剣の道だろうと何であろうと、技術は教えて貰うだけじゃなくて自分で盗んで取り込んで、向上させて行かないと取り残されていくだけだよ。盗まれたら盗み返すぐらいの心意気じゃないと」
18歳のお嬢さんの言う事だが、志士として冒険者として、日々己を鍛えている者の言葉にはそれ相応の重みがある。
「あなた達は一流レストランで働ける程の腕があるんだから、そこら辺気をつければもっと延びていくと思うんだけどねぇ‥‥」
はあ、申し訳ないことです、と従業員達。
「お前達には何かが足りないと思っていたが‥‥ それは情熱だな」
イワノフ・クリームリン(ea5753)にきっぱりと言われ、従業員達は言葉も無い。彼は見習いシェフに向き直り、こう言った。
「なぜ友人に会って逃げ出した? まだ修行中の身で、何の恥ずかしい事があると言うんだ。その浅薄なプライドがある限り、修行も上手くはいかないだろう」
はっきりと言われ、返す言葉もない見習い君。従業員一同、まるで葬式の様な有様だった。
「ここで鬱々としていても始まりません。収穫祭の屋台村にでも出かけましょうか。何か、ヒントがつかめるかも知れませんからね」
エルリック・キスリング(ea2037)の助け船は、曇天の空から差し込む一条の光だったに違いない。いそいそと出かける従業員達。その中でぽつんとひとり、店の片隅で物思いに耽っていた見習い君の横に、五所川原 雷光(ea2868)が何も言わず腰を下ろした。
「以前のシェフは、色んなことを事細かに教えてくれました。でも、ピコーさんは何も教えてくれない。ピコーさんは、私達の事が嫌いなんでしょうか」
そう思うでござるか? と雷光。見習い君、暫し考え、首を振った。
「鍛えてくれてるんですよね。でも、なかなか何かを掴めた実感が得られなくて、物凄くしんどくて‥‥。自分が空っぽに思えたから、友達の前から逃げちゃったんだと思います。イワノフさんの言うとおり、自分に格好をつけてたから恥ずかしかったのかも」
と、ふわりと現れたのはニィ・ハーム(ea5900)。
「元気出して。一流レストランに勤めてるのだけが自慢なんてつまらないですよ。どうせなら、一流の人に認められた事を誇れるように頑張りましょうよ」
せっかく貰ったチャンスなんだから、今は耐える時ですよ、とニィ。大きな身振り手振りで励ます彼に、見習い君、やっと笑顔を見せた。雷光が彼の肩をぽんと叩き、行こうか、と促した。
収穫祭。豊かな実りを祝うこのお祭り会場には、普段は商売をしない人までが店を出して、訪れる人々を楽しませていた。短期間の素人商売とはいえ珍しいものも随所に見られ、なかなかに侮れない。
「どうだった? 何か美味いもの見つけたか?」
一行は、ガゼルフ・ファーゴット(ea3285)の屋台で一休み。振舞われた謎料理『きびだんご入り特製シチュー』を恐る恐る啜りながら話し合いだ。
「珍しいものが色々ありましたね。どうやって材料を調達したのか、どういう調理法なのか、分からないものも多かったですけど」
見習い君、ああでもないこうでもない、と考え始める。シェフを目指すくらいだから、やっぱり料理する事は好きなのだろう。
「なんというか、とんでもない値段設定だよな」
「彼らはお祭りの余興だからね」
そんな事を言い始めた従業員達の鼻っ面に、ミーファ・リリム(ea1860)がゴスっと蹴りをお見舞いした。
「ほんっとにもうっ! みんな口ばっかりで、まるで行動してないのらよね〜? 行動起こす前に頭で考えて、否定しちゃうのが多すぎるのら〜っ!」
ミーちゃん先生ご立腹。
「こんなことでは、高級レストラン顔パスの日は遠いのらよ〜」
しくしく泣き始めるミーファを、まあまあと皆が宥める。確かにここの屋台は『商売』とは程遠いものだ。だが、従業員達もその口ぶりとは裏腹に、何かを感じ取っている様だった。1人でも多くの客を呼び込み、楽しませようとする工夫。並べる品書き、口上のひとつにも、彼らの気持ちが見て取れる。給仕はじめ食堂担当者達は特に思うところがあったと見え、何事か互いに話し合っている。エルリックも、提案した甲斐があったというものだ。
「それじゃあ今度は、本当の商売をしているやつらを見に行こうか」
響 清十郎(ea4169)、たっぷりと考える時間を置いてから、そう切り出した。
屋台通り。そこでは今日も、幾つもの屋台が犇き合って、客の獲得に凌ぎを削っている。美味そうな匂いと煙が辺りに漂い、胃袋を刺激すること甚だしい。
「くっ、まだまだ食べたいものがたくさんあるのに、は、腹とフトコロが‥‥」
無念げに呻きながら、ガゼルフばったり倒れる。ここで50C分も食いまくれば、いつお腹が破裂しても不思議ではない。
「あ、あのさ、いまふっと思いついたんだけど、『きびだんごパン』なんてメニューはどうかな‥‥ 中にイチゴジャムやクリームとかが入っててさ‥‥」
それの何処が『きびだんご』なのか、という突っ込みを受ける前に、彼はダウンしてしまった。
「で、繁盛屋台のレシピは盗めたのか?」
アルス・マグナ(ea1736)に聞かれた見習い君、ガゼルフに負けず劣らずのお腹を抱えて、力なく笑った。
「おおよそ想像できたものもありますけど、隠し味なんかで何を使ってるのか分からないものも結構‥‥。屋台のオヤジ、私の顔をみてにやにや笑うんですよ、悔しいなぁ」
でも、美味いんですよねこれが、と彼。ぬるま湯に浸かっていた彼らよりは、屋台の達人の方が一枚も二枚も上手だったという事だろうか。
「何言ってるのら! 『そこらの屋台』に味で負けるようならピコーの言うとおり、仕事辞めた方が良いのらよ〜っ」
ミーちゃん先生、なかなかに手厳しいが、両手に串を持って口のまわりをタレだらけにしていたのではあまり説得力は無い。従業員の中には、未だ盗み盗まれに納得していない者もいた。他人の料理を真似て、それを堂々と売りに出すとは信じられない無恥さだし、ましてや自分達が屋台の猿真似なんて我慢が出来ないという訳だ。
「その屋台の主が行なったことは、一見すると悪いことかもしれませんが、世間においては日常茶飯事と考えた方がよいでしょう。『基礎+α』精神が大切です。もちろんαは自分達で考えなければいけません」
イルニアス・エルトファーム(ea1625)の助言も詰まる所、ただ待つだけの者が何かを得られる可能性は低い、という事に尽きる。盗むという事は、己で考え学ぶ事に通じる。その姿勢があるか無いかで、その人物が育つか枯れるか、大きな差が生まれるものだ。
「あなた達に足りないのは、生きのびる為に行動する、その必死さだと思います」
今すぐそんな甘い考えは捨てて、出来る限りの事を全てするべきと訴えるニィ。彼の言葉に頷きつつ、清十郎は、
「お金を稼ぐってのは、簡単じゃないってことだよ」
そう、しみじみと言った。彼のこれまでの苦労が滲み出る様なその言葉に、ここ暫くその事を痛感させられていた従業員達は、黙る他無かった。
「そして、それは皆同じ事。生活がかかってるから、絶対に退かない筈なんだ。屋台も、ヤクザ達も」
清十郎の言葉に、従業員達が不安げに顔を見合わせた。
●大厄介
ショバ代をヤクザ者達に支払う事について、冒険者達は決して否定的では無く、従業員達もその助言に従って、支払いを了承した。冒険者達は経験上、そういう連中が何処にでも存在し、敵に回すと実に厄介で、用い方によっては有用な事を経験で学んでいたからだろう。無論、それもピンキリだから、彼らは事前に入念な聞き込みを行っている。
営業を始めた従業員達の屋台を横目に見ながら、雷光は籠を前にして、お経を唱えていた。時々人が足を止め、その籠に幾許かの寄進をして手を合わせ、去って行く。意外に入りが良く、思わずこっちに熱が入ってしまいそうだ。
と、路地の向こうに、例の2人組が現れた。旅の装束に眼帯姿のイルニアスが、屋台のオヤジに声をかけ、2人組を指差してみせる。
「ああ、奴らはこの辺りの屋台を仕切ってる顔役の子分達ですよ。まあ乱暴な奴らだが、私らみたいな日銭稼ぎには便利な事もあるんでね」
ニィがリシーブメモリーで、その言葉の裏を取る。内容に偽りは無い様だ。彼らはごく当たり前の掟を持ち当たり前に面倒で厄介な裏社会の人間だった。ただのチンピラではなく、衝突は厄介事を招くという判断により、冒険者達は交渉に入ると決定した。焼き菓子をぱくつきながらミーファが後を追うのを確認し、イルニアスは彼らの仲間が現れても阻止できるよう、その場で辺りを監視する。
雷光が、念の為に屋台の周囲にホーリーフィールドを張り巡らせた。屋台に近付こうとした2人組の前にエルリックが立ちはだかり、視線で横道へ、と彼らを導く。
「私は冒険者ギルドを介してあの屋台と関わっている者です。彼らは要求されている上納金を支払っても良いと言っている」
ギルド、と聞いて少し嫌な顔をしたが、男はそれはすぐに引っ込めて、そうか、と頷いて見せた。
「‥‥そういう事なら、事を荒立てる気はねぇよ」
話し合いは、さしたる時間もかからずに終わった。これまでの未納分もまとめて取られたので屋台の稼ぎは非常に苦しくなったが、すくなくともこれで屋台ごと破壊される事は無い。アルスはその様子を見、魔法の準備を解くと、大きな欠伸をひとつした。
「やれやれ、なんだかんだと面倒だな〜」
「そう言わずに。従業員達は料理が専門、冒険者は荒事が専門分野ですよ」
エルリックに笑われ、そりゃそうだけど、と頭を掻くアルスだった。
ヤクザの方は一先ず収まったが、屋台はその分、稼ぎを出さなければならない。ニィは、人気商品の蒸気パンを食べた感想を聞いて回った。概ね好評だが、問題は値段と風味。値段は砂糖を使うので、どうしても割高になってしまう。他の甘味では、あのふっくら感が出ない。菓子職人は黒糖を使いたいとかねがね言っているが、これがまたなかなか手に入らないときている。使えば更に値段が上がってしまうだろう。
「もうひとつ考えてみました。干した果物を入れた蒸しパンなんですけど‥‥ こう、やわらかくふっくら甘く蒸し上げて‥‥」
「日替わりメニューとか、エチゴヤの福袋のように中身がランダムで購入するまでのお楽しみ方式、というのはどうでしょう」
イルニアスの提案は目新しさは抜群だが、かなり手間はかかりそうだ。
「ゴブリンパンの要領で、肉のかわりに腸詰めを挟んだものなんてどうです? オーガーサンドとか名前をつけて」
これは、エルリックの発案。
「ゴブリンパンは、あの行事だからこそでござるよ。しかしその腸詰め挟みは美味そうでござるな。あとは、もてなしの基本は心配り。酒でも振舞って暖まってもらうでござるか? 古ワインであれば安く仕入れられる筈でござるが‥‥」
温かいお酒の振る舞いは、きっと喜ばれるだろうと雷光は考える。他の屋台の人気メニューで使えそうなのは? とアルスが振ると従業員達が
「昔ながらの炙り肉なんですが、じっくり時間をかけて炙る方法に工夫があって、実に美味でしたよ。大きなナイフで肉を削ぎ落として行くのは、なかなか野趣あふれるものがあります。これに少しスパイスを用いれば、更に美味くなる筈。幸い店に在庫がありますしね」
「‥‥美味そうだねそれ。じゅうじゅう焼いてれば、お客を引き寄せられるかも」
清十郎、思わずお腹が鳴ってしまう。
「でも、どれもこれもは無理だよな。何品かに絞らないと」
ガゼルフが言うのもごもっとも。
「ま、焦らずゆっくり考えればいいんだぜ!」
ああでもないこうでもないと、皆で楽しく検討していたのだが‥‥。
その日、ピコーは屋台の様子が気になったのか、こっそりと様子を見に来ていた。
「実は、黒字に出来るかどうか微妙で‥‥」
そう語る従業員に、彼は言ったものだ。
「だれが黒字にしろと言ったよ、それは前回の条件だろ。今回は『もう暫くその辺の屋台と競っていろ』と言っただけだ」
呆然としている従業員達を尻目に、試作品などつまみ食いしながらダメ出しなど始めたピコーさん。ところが、そこに折り悪く、例の2人組とその兄貴分と見えるひとりの男がやって来た。従業員に混ざり働いていた理亜とガゼルフがそれとなく皆をカバーするように前に立ち、3人の前にはイワノフが立ちはだかる。何の用件か、と問うイワノフに、男はばかに丁寧な口調でこう言った。
「色々と心得ておいてもらわなければならない決まりごともあるから、後でこっちに顔を出してもらうよ、いいね? それが終われば、我々は晴れてファミリーだ」
そう言った男は、ピコーに気付いて表情を曇らせる。
「あんた、ダルランのところのジャン・ピコーだろう? こんなところに何の用だ?」
「あーいや、何でもない。俺実は、屋台マニアなんだ」
うそをつけ、と一蹴され、ピコーは仕方なく、自分がこの屋台に関わっている事を白状した。正式な商工ギルドに属する者と非合法の組織。カチ合えば、色々とややこしいのは自明の理。
「高級レストラン様が、俺達の庭でままごと遊びとは恐れ入る。‥‥前言を翻すのは忍びないが、そういう事ならこの屋台、認める訳には行かないな。他の店に迷惑が‥‥ いや、まて」
男は言いかけて止め、意地悪げな笑みを浮かべて、こう言った。
「ならば、俺達のお遊びにも付き合ってもらおうか」
彼の提案で、第2の課題は変更される事になった。
「そんな無理難題ふっかけるなんて、父さんはそんな子に育てた覚えは無い!」
と、力いっぱい叫びたかったガゼルフだが、場の空気がそれを許さなかった。
「人生七転び八起き。倒れた分だけ立ち上がって強くなれば良いよ‥‥ね」
理亜は、困り果てる従業員達に、小さな声でそう呟いた。