大レストラン繁盛記3

■シリーズシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 88 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月14日〜11月19日

リプレイ公開日:2004年11月20日

●オープニング

 クビを賭けた、ジャン・ピコーとの課題勝負。屋台の営業を課せられた従業員達は、土地のスジ者にショバ代を支払う仕儀となった。
「色々と心得ておいてもらわなければならない決まりごともあるから、後でこっちに顔を出してもらうよ、いいね? それが終われば、我々は晴れてファミリーだ」
 そう言った男は、ピコーに気付いて表情を曇らせる。
「あんた、ダルランのところのジャン・ピコーだろう? こんなところに何の用だ?」
「あーいや、何でもない。俺実は、屋台マニアなんだ」
 うそをつけ、と一蹴され、ピコーは仕方なく、自分がこの屋台に関わっている事を白状した。正式な商工ギルドに属する者と非合法の組織。カチ合えば、色々とややこしいのは自明の理。
「高級レストラン様が、俺達の庭でままごと遊びとは恐れ入る。‥‥前言を翻すのは忍びないが、そういう事ならこの屋台、認める訳には行かないな。他の店に迷惑が‥‥ いや、まて」
 男は言いかけて止め、意地悪げな笑みを浮かべて、こう言った。
「ならば、俺達のお遊びにも付き合ってもらおうか」
 彼が言い出した『お遊び』とは?
「私が推す3つの屋台と、売り上げ勝負をしてもらおう。どれか1軒でも追い越す事が出来ればそちらの勝ち。そうでなければ、こちらの勝ちだ」
 愉快げに笑う男。周りの屋台のオヤジ達も、興味深々でこちらの様子を伺っている。その視線には同情の色は無い。紛れ込んだ異物の難儀を、面白がっている様子がありありと見て取れた。ピコーがちっ、と舌打ちをする。
「つまり、勝てば引き続きの出店を認めるという事か?」
 そう聞いたピコーに、男はいやいや、と笑いながら首を振った。
「勝てば、何も言わず撤退を認めてやろうというのだよ。負ければ引き続きここに店を出してもらう。晒し者となって、この通りにたくさんの客を呼び込んでくれたまえ。逃げても構わないが、その時は大いに吹聴させてもらうからそのつもりでな」
 ピコーは暫く男を睨みつけていたが、スジ者がゴネ始めたらもう道理は通じない。いいだろう、と了承の意思を伝えた。
「そういう訳だから、お前ら頼んだぞ」
 ぽん、と肩を叩いて言うピコーに、従業員達、暫し呆然。手伝ってくれないんですか!? と縋る彼らに、ピコーは難しい顔で腕組みをしながら言った。
「俺には店があるからな。この屋台は元々、お前達に任せたものだ。どういう結果が出ようとそれは俺の責任だから、そこのところは安心しとけ」
 言い残し、去っていくピコー。スジ者達も満足したのか帰って行く。
「どうしよう‥‥」
「どうって、やるしかないだろ。この勝負にはうちのレストランの名前がかかってるんだ」
 以前は店の名前で課題を乗り越えようとしていた彼ら。だが、いざ看板を背負うとなると、その重さに押し潰されてしまいそうだ。
「でも、あいつらまともに勝負してくれるのかな」
「勝負を宣伝するつもりみたいだし、それで集まるお客さんに危険な通りだとは思われなくないだろうから、もう直接屋台を壊しに来たりはしないと思う。でも、裏での妨害はあるかも知れないな。材料の運び込みを邪魔したり、同じ様なメニューを出す屋台を隣に出したりとか‥‥」
 考えるだけで鬱々として来る。それでも、逃げる事は許されない。
「‥‥そういう訳です。冒険者の皆さん、引き続きよろしくお願いします」
 頭を下げる従業員達。勝負は、5日間の利益合計で競われる。

 窓口で、ギルドの係員は解説する。
「従業員達の屋台の出し物候補は以下の通り。2つの屋台の売り上げは別々に計算される。候補メニューの推薦、別メニューの提案は、君たちに任せる。品揃えが多いほど客は呼び易くなるだろうが、客捌きが難しくなり、経費が嵩むだろうな」
 そして、以下のメモを提示した。

 屋台1:
  確定:煮込み肉サンド(ゴブリンパン)
  候補:腸詰めサンド
  候補:炙り肉
 屋台2:
  確定:蒸気パン
  候補:フルーツチップ入り蒸しパン
  候補:きびだんごパン(クリームパン、ジャムパン)
 アイデア1:従業員乗り気:古ワインサービス
 アイデア2:従業員乗り気:日替わりメニュー導入
 アイデア3:従業員否定的:福袋

 勝負相手の出し物は以下の通り。
 屋台A:炙り肉、ワイン:夜の大繁盛店。炙りの技法とタレに秘伝有。営業昼〜夜。
 屋台B:鹿肉と野菜のシチュー:安定した人気。営業朝〜夜。
 屋台C:ゴーフル:甘い匂いで客を呼ぶ。女性子供に大人気。営業朝〜夕方。

●今回の参加者

 ea1860 ミーファ・リリム(20歳・♀・ジプシー・シフール・イスパニア王国)
 ea2843 ルフィスリーザ・カティア(20歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 ea2868 五所川原 雷光(37歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea3188 クリス・ハザード(29歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3285 ガゼルフ・ファーゴット(25歳・♂・ファイター・エルフ・ノルマン王国)
 ea5900 ニィ・ハーム(21歳・♂・バード・シフール・イギリス王国)
 ea6044 サイラス・ビントゥ(50歳・♂・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea6894 片柳 理亜(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●作戦会議
 店の名前をかけて、屋台と勝負する羽目になってしまった従業員達。
「グチグチ言ってても始まらないし、頑張っていこー」
 片柳 理亜(ea6894)がパンパンと手を叩いて注目を促す。
「とにかく、今のままじゃ足りない物が多すぎるよ。情熱、思想、理想、気合、根性、向上心、勤勉さ、そして何より、料理の匂いが足りないよ!」
 彼女の指摘に、従業員達が唸った。予め考えていたメニューの中で最も匂いに力があるのは炙り肉だが、相手方と被ってしまう。普通に商売するならそれも良いだろうが、勝負となると如何にも不利だ。そこで、冒険者達が勧めたのが、肉や野菜を一口大に切って串に刺し、焼いたもの。串焼きだった。
「香ばしく焼けたのを、ハフハフいいながら食べて発泡酒でぐびっと流す‥‥ いいですよね、最高ですよ〜」
 うっとりと妄想するニィ・ハーム(ea5900)
「ジャパンでは醤油を使ったタレで味付けするのが一般的なんだけど‥‥」
 理亜が呟く。ジャパン人には無くてはならない調味料となっている醤油だが、残念ながらパリでの入手は難しい。幸い店には研究用に仕入れたものが少量あり、彼らはその味を確認する事が出来たが、商売に使える量でも値段でも無い。
「異国風の味付けというのは、売りになると思いますよ。パリで手に入る材料で何とかならないものでしょうか」
 ルフィスリーザ・カティア(ea2843)が、それとなく促してみる。と、見習いシェフ君がぽん、と手を打った。
「ガルムを使ってはどうでしょう。風味は異なりますけど、きっと似たような味が出せると思いますよ」
 彼の言うガルムとは、古代にもてはやされた魚醤の一種。かなり廃れてしまったが少量ならノルマンでも製造されていて、店では昔風の味を再現するのに自家製のものを使っている。
「肉料理にはワインが合うと聞く。一緒に売ってみたらどうだろうか」
「うむ。古ワインならさほどの負担にもなるまい。いっそ、一杯は無料で進呈という事にしては如何でござろう」
 いかにも肉と酒が好きそうな筋骨隆々のサイラス・ビントゥ(ea6044)と雷光の言葉には説得力があって、これはすんなりと決まった。実はサイラス、肉は全く口にしないのだが。思い込みとはオソロシイものである。
 その横では、ガゼルフ・ファーゴット(ea3285)が新しいきびパンの素晴らしさをB屋台担当の菓子職人に力説していた。どうやら陥落寸前の様子。
「甘味のおともには、ハーブティーなんかいいかも知れませんよ」
 ニィも我に返って助言を開始。菓子職人、大いに悩む。
「どの屋台に勝つ事を目指すのか考えて作戦を練って、メニューの改良もして行くべきだと思いますよ」
 色々言いたいニィだったが、敢えてそれだけを言って、後は従業員達に任せる事にしたのだった。

 従業員達は自分達なりに頭を捻り、メニューを決定した。A屋台は朝〜夕方まで煮込み肉サンドと腸詰めサンド、昼〜夜に串焼きと古ワイン、発泡酒を出し、酒の肴に煮込み肉と腸詰めも出す。B屋台は終日、蒸気パンとフルーツチップ入り蒸しパン、ハーブティをメインに、ガゼルフ提案のきびパンを日替わりで出して行く事にした。シチューを推す声もあり確かに魅力的だったが、相手屋台複数と被る為、悩んだ末に却下となった。
「それにしても、あなた達も大変だよね。再現の神様にでも好かれてたりして」
 苦笑しながら言った理亜を、従業員達がまじまじと見る。
「理亜さんから労いの言葉をもらえるなんて‥‥」
「あなた達、普段あたしの事どういう風に見てるのよっ、さあ、さっさと準備を進めましょ!」
 半ば照れ隠しに怒ってみせる理亜。見習い君は、雷光や理亜から味の印象を聞きながら、ガルムをベースにタレの味を調整して行く。肉は鶏、牛、豚、羊の生肉を用意するのだが、実はこれ、なかなか贅沢な選択だ。一般庶民にとって、肉といえば塩漬け肉。生の、特に鶏肉などはそれなりに張り込まなければ口に出来ないものなのだから。
「大丈夫かなこれ」
「うん。数さえ捌ければ1串に使う肉はそれほどでもないから、値段は抑えて行けると思うよ。新鮮な肉は、うちの店のツテで確保できる筈だし」
「野菜はポロネギにアスパラ、エシャロット辺りでいいかな?」
「古ワインなんだが、無料で振舞うものだけど、もう少し何とかならないものかな」
「そうだな‥‥。そうだ、店でも温めて出すワインはそれほど高級品じゃないだろ? ハーブで風味を付けたり、ハチミツで少し甘みを加えたり。食前酒の感覚で手を加えればいいんじゃないか?」
「肉も下ごしらえに同じ古ワインを使えば、味に統一性が出ていいかもな」
 ああでもない、こうでもないと話し合う従業員達を、こっそり見守る冒険者達。
「頑張ってますね、みんな。やっぱりこの仕事が好きなんですね」
 微笑んで言うルフィスリーザに、うんうんと頷くニィ。彼らはそっとその場を離れ、警備についての打ち合わせを始めた。

●屋台勝負!
 当日。ヤクザ達が吹聴して回ったおかげで、通りには普段の倍以上の人通りがあった。各屋台にも意地がある。威勢の良い口上を交えながら客を引き、香りと味以外のところでも人々を楽しませていた。
 こちらだって負けてない。A屋台では、ミーファ・リリム(ea1860)がガゼルフからもらった踊り子の衣装を着て客引きだ。
(「ガゼルフちゃん、なんていい人なのら〜っ」)
 自然に踊りにも力が入るというもの。くるくると舞いながら縦横無尽に踊り回るミーファの姿に、通行人達の視線はくぎづけになる。そこに、ジャパン情緒溢れるキモノガウンを羽織ったルフィスリーザがひとくさり。

♪ちょっぴりお腹が空いた時は ジャパンから来た串焼きはいかが?
 『どれくらい美味しいの?』 それはもう、ほっぺが落ちちゃうぐらい!♪

 陽気な節をつけて歌い聴かせる。そこに漂う、炭火で炙られる醤油の匂い。滴った油が焼ける煙。こいつはなかなか強烈だ。抗しきれず、人々が屋台に吸い込まれ始める。派手な串焼きに隠れてしまっているが、隠し味にガルムを使って深みを増した煮込み肉サンド、自家製腸詰めで一見地味ながら実は一流の味が楽しめる腸詰めサンドもじわじわと売れ行きを伸ばしている。
 一方、B屋台では、クリス・ハザード(ea3188)のオカリナに合わせ、ガゼルフが大道芸を披露して客を集めていた。
「蒸気パンにフルーツチップ入り蒸しパン、きびだんごパン略してきびパンはいかがっスか〜! 今ならお安くしておきますよ〜!」
「もう! 売り上げ勝負なのに勝手に値引きしてどうするのよっ!」
 放っておくと何処までも行ってしまうガゼルフに、理亜は振り回されっ放しだ。しかし客引きの腕前は、衆目を集めるのに慣れているガゼルフに一日の長があった。
「それ、初めに人参の空中斬り〜!」
 剣のジャグリングに黄色い人参が混ざったかと思うと、いつの間にか切れている不思議に通行人の足が止まる。続いてレタス、そして皿‥‥
「〜って、やらんわい!」
 笑いが起こって客がほぐれた所で、一口サイズに刻んだきびパンを試食に配る。
「おっ、チビっこいの、これ食うか? 美味いぜ!」
 ガゼルフのキャラクターのせいか、はたまた甘い香りのせいか、店には子供達がよく集まった。もうひとつ売り上げに繋がらないのはご愛嬌。
「仕方ないなぁガゼルフさんは」
 苦笑するニィの傍らで、菓子職人は黙々と蒸気パンを焼いている。蒸しパン用のフルーツチップは何種類も用意して、色んな組み合わせにするつもりだ。忙しい中、ハーブティの効用を聞くお客に一生懸命説明している従業員の姿が微笑ましい。
 彼らの商売は順調だった。それは、相手にとっては面白くない話な訳で。
(「むむ、敵意剥き出しの人、発見なのら!」)
 ミーファのリーヴィルエネミーに怪しい人物がひっかかったのは、2日目の午後の事だった。ミーファの合図に、ルフィスリーザが頷いてみせる。
「はっ、お高くとまった高級レストラン様が、片手間に庶民どもにも憐れみを施しましょうってか? 肉料理なら断然オレース爺さんの炙り肉だ、そうだろうみんな!」
 そうだそうだ! と調子を合わせているのはもちろん仲間だ。そこにすすっと進み出たルフィスリーザ、手にした串焼きを、おひとついかがですか? とにっこり笑って差し出した。興味深々で見つめる野次馬達。退くに退けなくなった男は串焼きを手に取って、ガブリと食いついた。一瞬、表情が緩む。そりゃあ美味しくない訳が無いのだ。だが、と男が次の行動に出る前に、ルフィスリーザが歌い出す。

♪ちょっぴり意地悪な気分の時は ジャパンから来た串焼きはいかが?
 『どれくらい美味しいの?』 それはもう、思わず笑顔になっちゃうぐらい!♪

 どっと野次馬達が笑う。待て俺は、と男が慌てたがもう遅い。舌打ちしながら去っていく彼らに、ルフィスリーザはほっと胸を撫で下ろした。
「この調子で、頑張ろうね」
 うん、がんばるのら! と厳しい表情で答えたミーファさん。しかし、彼女が見やったのは逃げ去る男達ではなく、屋台の方だった。そこでは串焼きがじゅうじゅうと美味しそうな音を立て、匂いを振り撒いている。
「うう、ミーちゃん始まって以来のピンチなのら‥‥」
 美味しそうなのに食べられない生き地獄。彼女にとっての試練の時は続く。
「くそ、あの女めどうしてくれようか」
 裏路地で荒い息を吐きながら、悪態をつく男達。と、賑やかな音曲を奏でながらやって来た大男、雷光が彼らを睨みつけながら言った。
「商売の邪魔でござる、苦情はこっちで受けるでござるよ」
 ささ、飲み物をお入れ致そう、と彼は取り出した林檎を握力だけで粉砕、絞り切った。召し上がられよとカップを渡され、男達は腰でも抜けたか、その場にへたり込んでしまった。
「用件が無いのであれば、これで失礼するでござるよ」
 何食わぬ顔で『ジャパン串焼き』『蒸気パン』などと縫いつけられた衣装を調え、下手糞だが楽しげな演奏をしながら通りに出、練り歩いて行く雷光。男達は、ほうほうの体で逃げ出した。
 店で仕込んだ大鍋と材料を運ぶ驢馬車に、馬車が突っ込みかけたのは3日目の事。護衛についたクリスがウォーターコントロールでこの暴走馬車を逸らし、事無きを得た。
「‥‥もう止めましょうこんな事。正々堂々、勝負で決すればいいじゃないですか」
 説得に耳も貸さず、覚えてろ! と分かり易い捨て台詞を残して逃げて行った男達。彼らを捕らえなかったのは、そうする事で更に話がややこしくなりそうに思えたからだ。
 4日目。こちらの屋台の周囲に、似たような物を出す屋台が露骨に増えた。
「ふふふ、遂に来たのらね〜」
「屋台が動けぬからには已む無し。正面から挑みかかるのみにござる」
 彼らに訪れた厄災は、シフールとジャイアントの姿をしていた。彼らの見事な食べっぷりは、見ている者にそれだけで絶対的な空腹か、もしくは満腹の感覚を与えずにはおかなかったという。いわば、食のデットorライフ。
「あのジャイアント、屋台ごと食っちまうんじゃないのか?」
「いや、それよりシフールだ、まだ食ってるぞ!」
「あの娘の体の、一体何処にあれだけの量が入るっていうんだ!?」
「恐るべし底なしの食欲、無限の胃袋‥‥」
 彼らが居座った屋台には恐れて誰も近寄らず、主は血の涙を流したという。何でも安上がりなこの通りでひとり2G分も食ってしまった2人の名は、屋台の主たちの胸に深く刻まれる事になる。
 5日目。勝負最終日となり、各屋台とも全力を傾けて売り上げ増に力を注ぐ中で、暗い情熱を燃やしている者もいた。
「こうなったら最後の手段だ。兄貴達の言いつけには背く事になるが、なにちょっとした事故ってことにしてしまえば‥‥」
 路地から屋台を見やりながら、剣呑な相談を交わす男達。雷光がいなくなるのを見極めてから飛び出そうとした彼らの前に、エクセレントマスカレードにふさふさ襟飾り、豪華なマントに赤い袈裟を装着した筋肉ムキムキのヘンタ‥‥いや、ジェントルマンが立ち塞がった。
「素敵に無敵! そして怪しさ大爆発! 僧侶仮面、ただいま見参!!」
「貴様!? いや違うな、奴らと一緒にいた筋肉ダルマか! なんて格好をしてやがる!」
「わた、いや我輩がその者に似ておるからといって、なぜ決め付ける?」
 丸分かりなんだよ木偶の坊、ふざけるな禿野郎などと口汚く罵るのを黙って聞いていたサイラ‥‥いや、僧侶仮面だが、だんだん面倒になって来たらしい。
「ぬぉりゃ! カァーーーッ!!」
 話の途中で行動開始。鍛え上げた鉄拳をまともに食らい、男が木の葉のようにぶッ飛んだ。
 屋台はこの日、最高の客入りを記録していた。従業員達はこの5日、未熟なりにタレを熟成させ、下ごしらえに工夫をし、焼きの技術も向上させた。1日目より、今日の方が確かに美味かったのだ。勝負期間中ということもあり、興味をもって何度もやって来た客は、敏感にこれに反応した。味が完成されている他屋台では有り得ない、未熟故の力と言えるだろう
 そして、勝負終了の時。結果、勝負の1位は炙り肉、2位がシチュー、3位にA屋台が食い込み、4位ゴーフル、5位B屋台となった。この炙り肉屋の周りには酒を専門で出す屋台や、他にも工夫を凝らした肴を出す屋台が集まっていて、相乗効果で圧倒的な強さを見せた。気風の良い女主人が仕切るシチュー屋も、安定した強さを見せつけた形だ。甘味と創作パンで頑張ったB屋台がゴーフル屋を牽制し、A屋台の捲りを演出した。辛勝だったが、彼らは熟練の屋台と戦って見せたのだ。
「誰か、早くこの結果をピコーさんに知らせてあげないと」
 半ば脱力状態だった従業員達、ルフィスリーザに言われて大慌て。ひとりが全速力で駆けて行った。
「みんなで行けばいいのに。片付けはしておきますよ?」
「いえ、ピコーさんに常々、片付けるまでが料理だって言われてますから。今日まで頑張ってくれた屋台をほっぽって帰ったら、大目玉ですよ」
 いそいそと片付けを進める彼ら。最初はあれほど嫌がっていた屋台を、今は愛しげに仕舞っていた。
「帰ったら、みんなで一緒に祝杯あげよう。ワイン、用意して来てるから」
 理亜の言葉に、従業員一同、顔をほころばす。お世話になりました、と屋台の主達に別れの挨拶をしたルフィスリーザ。従業員達もそれに倣う。彼らは、おう、頑張れよ、とぶっきらぼうに、しかし心のこもった言葉を返し、一同を見送ってくれたのだった。