12の関門3〜宿命に牽かれぬ〜

■シリーズシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 97 C

参加人数:12人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月04日〜05月07日

リプレイ公開日:2005年05月09日

●オープニング

「今回はタツ、ミ、ウの試練場作りですな、短い期間ですが、頑張ってください」
 自警団長は船出までの短い一時、試験官を努める冒険者一同と懇談していた。
 47人まで志望者が減った事で、プレッシャーも幾分か減ったようで、心持ち最初の頃より明るそうに見える。
 これを更に絞り込むのだが、志望者達も前回の試験で、幾分か鍛えられた様で、冒険者達も予断を許さぬ状況となっている。
 とはいえ、幾つもの冒険を駆け抜けてきた一同から見れば、格下という事には違いはない。
「まあ、全員シフールでも構わないと言えば、構いませんよ。シフールはシフールなりの役に立ちようが有る筈ですから。何も屈強のもののふだけが、自警団員として有能だという事ではありません。ただ、試験は公平に行っていただきたい。あなた方の方からルール破りをする様な事は、厳に慎んでいただきたいですな」
 そう言って、古びたワインを飲み干す自警団長。
「では、出航まで少々質問時間を設けますが、そんなに長く質問を受けていると、せっかくの良い風が、収まってしまう可能性もありますからな、手短に済ませていただきたい」
 そう言って、冒険者達の手配した、様々な資材を乗せた船に向き直るのであった。
「では、早速質問を受け付けますか?」

●今回の参加者

 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2100 アルフレッド・アーツ(16歳・♂・レンジャー・シフール・ノルマン王国)
 ea3693 カイザード・フォーリア(37歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea3738 円 巴(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5970 エリー・エル(44歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5985 マギー・フランシスカ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6151 ジョウ・エル(63歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea6905 ジェンナーロ・ガットゥーゾ(37歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea8851 エヴァリィ・スゥ(18歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb1259 マスク・ド・フンドーシ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

オルステッド・ブライオン(ea2449

●リプレイ本文

●ミーティング
「ちと提案したい事があるのだ」
 ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)は船出までの自警団長とのミーティングの席で切り出した。
「前回はそれぞれの試練で各自脱落者を振り落としていたのだ。そうなると全員不合格の試験が生じたり、試験ごとに傾向が偏って特定の職や種族が有利になるのだ」
 その場に居合わせた一同は頷く。
「前回は、思わぬ失態を行い申し訳有りません」
 義に厚いファング・ダイモス(ea7482)がひとりの失態は皆の失態とばかりに、言葉を返す。
「いえ、処分はもう、ついていますから、ビジネスライクにやりましょう」
 との自警団長の言葉にファングは。
「ありがとうございます。それでは、皆に助けて貰った分の恩返しに、精一杯働くぞ」
 しかし、カイザード・フォーリア(ea3693)は気恥ずかしげにそっぽを向いていた。
 ヴラドが言葉を続ける。
「せっかく3人1組の試験ゆえ、3つの試練の総合評価で人数を減らしてゆくのはどうであろう?
 そういう方法になったら採点基準が必要であるが、その点で自警団から要望はあるであろうか?」
「あなた方にそういう事を考えて貰うため、冒険者ギルドへ依頼したのです。ルールが減点でも加点でも公平であれば何も問題はないでしょう」
「では、余がうさぎの試験官になるのだ。伝統と信頼の浪漫輝くローマの古式フットボールにアレンジを加えて集団戦の様子を見てみたいのだ」

 ルールは──。
・1チーム6人
・玉を持って相手のいる陣後方のゴール地帯に到達すること。
・玉は10点の大1つに、1点の小3つ。
・攻撃は可だが、相手を行動不能にしたチームは失格。
・魔法は禁止。
・試合時間は砂時計で計る。

 途端に嫌な顔をする周囲のノルマン人、11年前まで、ノルマンを征服していたのはどこの国家だったろうか?
 そんな空気もお構いなしにエルフの怪老婆マギー・フランシスカ(ea5985)は笑う。
「ほーほっほっほ。
 平らな長方形の試合場に、軟らかくて弾性のある球形の玉とは。岩だらけの土地で、それをやろうとはなかなか難度の高い要求をしてくるものじゃな。
 歯ごたえがあって結構。全力で設計してやろうじゃないか。もっとも、測量の方が大変そうじゃがな、黄金比でフィールドを作ってやろうじゃないか?」
 そこへ歯切れ悪く、ファングが言葉を返す。
「す、すまないが、どれくらいの大きさなんだ? あちこちに魔法で石壁を増設したり、トラップを仕掛けたりして、あの島での滞在期間の1日ではとてもじゃないが──いや、1週間でも、岩場を造成するなんて不可能だ」
「30×51メートルといったところを考えて居るが?」
「絶対無理です。その前に潮が変わって帰れなくなります」
「では、少々危険だが、確か虎の試練場が改装されていないので、そこで岩場のフットボールとして集団戦のチームワークを見るの事にするのだ、むぅ」
 ヴラドが些か不満そうに結論づける。
「ボールはのう。直径10cm程の木の玉を芯にし、その周囲を軟質のロープなどでぐるぐる巻きにし、直径30cm程度になった所で、玉の周りを牛皮で覆い、牛皮を縫合する、といった所じゃろうか」
「おお! マギー、それは素晴らしいアイディアなのだ、じゃあ、小のボールは我が作るのだ」
 マギーの言葉にヴラドも感嘆する。
「ただ、運動競技をする、という事自体は面白いのじゃが、『兜を奪われる、あるいは破壊される事で、試験の終了』というルールは、うかつに変える事はできぬと思うのじゃ。
 例えば、玉の中に兜を入れておき『玉をゴールに入れる=兜を奪う』という事にするなら、ルールを変更せずに競技を持ち込む事ができるかもしれんな」
 マギーの言葉にヴラドは腕を組み、考え込む風体であった。

●ツッコミ
 一方でシフール少年のアルフレッド・アーツ(ea2100)が自警団長に話を振る──。
「もう‥‥次が僕の番ですか、兜は直ってますよね‥‥というわけで‥‥次回のタツの試験のための準備です‥‥場所は‥ヤングヴラドさんのフットボールコートをそのまま使わせてもらうつもりです‥‥一対一で受験者同士がサイコロを振り合って、大きい目を出した方が竹刀で相手の頭を殴る。小さい目を出した方は自警団から貸し出した楯で、それを防ぐ。先に相手の頭を叩いた方が勝ちという事で。ただし、シフール相手には僕と勝負してもらいます。ちょっと殴り合いみたいのは苦手ですけれど、頑張ってみます。シフールとジャイアントで真剣勝負したら、死人が出かねませんから‥‥これが駄目なら‥‥組み手をやってもらうつもりなので‥‥」
「それはご裁量にお任せしますよ」
「で、タツ、ミ、ウ、の試験場作り‥‥ですか? 試験の順番はウ、タツ、ミでいいのですか?」
 それを聞くと自警団団長が空中に目をやり、しばらくきょろきょろさせた後、おもむろに席を立つと、どこか別の部屋に向かった。
 待つことしばし。
「はっはっはっは、ウ、タツ、ミ。当然じゃありませんか。今までのただのジョークですよ。いやー、突っ込んでくれる方がいて良かった」
 アルフレッドは自警団長の頭全面を被う冷や汗を見逃さなかった。
「と‥‥最後に‥‥この自警団の名前‥‥なんていうのですか?」
 素朴な疑問。
「今まで‥‥名前も知らずに試験官をしていたんだな‥‥って‥‥」
「いえ、特に変わった呼び名はありませんよ。騎士団等ではあるまいし、凝った名前をつけてもしかたがないでしょう」
「そういうものなんですか?」
「そういうものです」
「判りました‥‥試験用の机と椅子は干し煉瓦を石化させたものをファングさん達に斬ってもらって、代用してエリーさんや以心さんが、うまくジョウさんの試験用の羊皮紙を調達できなかった時の為、羊皮紙か、最悪でも木版か、石版を入手して‥‥」
 腕を組みながら考えに耽り、いつしか窓を出てしまったアルフレッドの耳元に息が吹きかけられる。
「うわっ、何をするんですか?」
 そこに小悪魔じみたエリー・エル(ea5970)の顔がどアップで迫っていた。
「心配のしすぎよん☆ 巴ちゃんが金貨100枚の大枚はたいて、試験用の各種道具を買いそろえたから、アルちゃんたら心配ばかりしてると禿げちゃうぞ。次はお父さんの番みたいだねぇん。たまには親孝行でもしてみようかなぁん、とかおもっているのに、試験官が何黄昏れてるの」
 思わず帽子を押さえるアルフレッド。
「金貨100枚、いつもいつも良く出ますね」
「こ・な・い・だ・の冥途神社の建立費その他は3人で割り勘したの☆」
「それでも、保存食を皆、持参で来たのだから、儲けはない」
 淡々と円巴(ea3738)が指摘する。
「でも、今度こそ本物の白馬の王子様を見つけるんだ、きっといつかは冥途神社にも春が‥‥」
 とのデイドリーマーな、エリーの発言に、巴は抑揚の無い声で‥‥。
「春? 春ならもう終わりではないか? ジャパンでは藤の花もそろそろ散っている頃だろう」
「うひゃー、エルの姐さん、先に行かないでくださいよ」
 と商人から筆記用具その他諸々多数の荷物持ちをさせられた以心伝助(ea4744)が悲鳴を上げながらエリーを追いかけ、自警団本部に戻ってくる。
「しかし、うちの道場で使っている奴より軽いですね、竹刀って奴は。松明程度の軽さしかない。ロッドは木刀なみの重みがありやすからね」

●商人I
 羊皮紙や筆記用具一式の確保に関するエリーの『年増』あるいは『熟女』の色仕掛けは商売上、人を見抜く目に優れている商人には通用しなかった。デリケートな品故、リースも却下。
 何とか、伝助の口利きで、前回の大口購入をつてに、47人分の諸道具を購入する方向に持って行けた。しかし、試験を行うにはドレスタット中の羊皮紙をかき集めなければいけないと商人で説き伏せられ、結局の所、預り金として金貨100枚という大枚を叩く事になった。
 出したのは巴である。
 商人は腹の中で
(「やれやれ、本当に集めるのか? まあ何とか今日中かけずり回れば、どうにかなるだろう」)
 と、ほくそ笑みながら。それを微塵も表に出さず。非常に難しい仕事であると強調しながら。
「と、とにかく、集まり次第順次お届けしますので、どうかお待ち下さい」
 営業スマイルは欠かさないのが商売の秘訣であり、駆け引きであった。但し、需要が多く供給が少ないときに値がつり上がるのは、古今東西共通した真理であることは付け加えておく。なんとなれば、羊皮紙は子羊の皮を鞣した物で大量生産できる代物ではないからである。

●油
 在庫の羊皮紙の束は全て伝助に押しつけられる悲喜劇が商人から、自警団まで繰り広げられていたのであった。
「はっはっは、修行が足りないね、伝助君。レディからの荷物を運ぶくらい優雅かつエレガント・アンド・スマートにやらなければ」
 体重だけなら伝助10人分位はありそうな、筋骨隆々な体格の蝶を模した衣装の装飾と、そして、下半身は褌一丁のジャイアント、マスク・ド・フンドーシ(eb1259)が夕日をバックに歯を光らせながら笑う。
 ドレスタットの荒くれ者どもはそのプレッシャーに押されながら、こう確信していた。
(「「あいつは絶対に『本場の』イギリスから来たに違いない」」)
「さあ、会議の時間は短い。急いで話をつけないと船の出航に間に合わないではないか?」
「せめて、フンドシを隠してくださいやし」
 伝助が嘆願する。
「それは間違ったジャパン文化でやす」
「んん〜我輩ずっとこの格好であるぞ!」
 聞く耳持たぬマスク。
「噂では、以前パリで治安悪化が騒がれてそれが褌のせいだと言われたそうっす。その格好では下手をすれば、ノルマンから見たジャパン・イギリス両国の印象悪化を招きかねないと思うんすけど‥‥」
「‥‥それ以前に、褌は常時見せびらかして歩く物じゃありやせんがね」
 ぼそりと付け加えた言葉にも、右手でサムアップサインするマスク。
 そこへ現れる自警団長。
 Guy Meets A Guy‥‥。
 服装センスその他にも思うところがあったらしく口を開く。
「すばらしい体格をしておりますな。どうでしょう、試練は5対1の武器、魔法抜きの素手戦闘で、あなたの背中を地面に着かせて判定するというのは? もちろん、あなたも体に油を塗り込んで掴みにくくして」
「超サイコーッな気がするが。まあ、そういう細かいことは次に回すとさせてもらおう。とにかく、船の中でツェペッシュ坊やのフットボールに関する集中講義を受けなければならない身。そんな先の事を考えてもしかたがないのである」
 エヴァリィ・スゥ(ea8851)はマスクの後ろを申し訳ばかりの荷物を持ってついてきていたが、騒ぎになって出てきた巴に声をかける。
「この前はありがとうございました。伝助さんにもポーションを渡そうとしたんですけど‥‥『また、死にそうになった時、助けに行ってやれないかも知れないから、持っててくれでやす』ってふられちゃいました」
「そうか、失恋か‥‥悲しいものだな。船の中では一杯やって忘れよう」
「いえ、冗談ですってば。そういう所も変わってませんね」
 そして、一同は島に渡る。
 潮風に晒された、ジャパネスクな建造物は明らかに潮風で荒れていた。

●商人II
 ジョウ・エル(ea6151)は船の上では執筆作業が出来ないと、自警団の一同を総動員して、試験問題の『筆写』をしていた段階、最初の一枚目が上がった時、平自警団員のひとりがジョウに尋ねた。
「で、これって何て書いてあるんです?」
 識字率は決して高いわけではない。自分の名前さえ書ければ十分に役付きの資格有りであった。この為、自警団長から筆記試験は望ましくないとだめ押しされる。読み書きは自警団員に必須の素養ではない。冒険者とはまた違った素養が求められるのだと、ジョウは老いて尚、新たな知識を知ったのであった。
 結局、試験は一部分のみ採用となり、問題を口頭でのべ、○×でのみ、返答するシンプルなものにならざるを得ない。

 ただ問題は、大量の余剰羊皮紙は商人に引き取ってもらい、続く取引自体もキャンセルと成ったことだ。
「まあ、そちらの事情もお察ししますが、あちこちに払った銭金の回収の都合がありますので、返せるのは頭金の半分だけですよ」
(「やりぃ、これで走り回らずに金貨50枚が降ってきた」)
 あくまで大変なお客には沈痛な面持ち。結局、巴の所に戻るのは金貨50枚のみとなった。これが腕利き商人のやり口であった。

●嵐の前
「ほら、トロトロしない、急いで、そこの岩をどかさないと、潮が変わって、帰れなくなっちまうよ」
 現場監督のマギーの声が飛ぶ。
 島ではジェンナーロ・ガットゥーゾ(ea6905)が絶叫する。
「むむっ、そうか、あの岩も邪魔か‥‥気になりだしたらきりがない‥‥えぇい、全部どかしちゃえ! 燃えろおいらの何とか!!」
「はっはっは、岩など海に落としてしまえばいいではないのかね!?」
 とジャイアントコンビの片割れマスクが突っ込む。
「まあまあ、此れは、何処に動かせば良いかな」
 ファングが勇む彼を制するように穏やかな物言いをする。
 ふたりとは裏腹に贖罪の如く、岩を少しずつ動かしていくカイザード。
「まあ、まあ今回はスペースを取る試験が多そうだから、改装していないトラで使うはずだったステージで出来るだけ広い空間を作ることに専念しようではないか?」
 一段落ついて──。
 動かしてきた岩で急場の椅子や、卓を作り、一息つく一同。
 フットボール会場は相も変わらず、岩のラビリンスである。
「野心、功名、希望‥‥名を馳せんと試練へ向かう者たち。うん…いい吟遊詩の題材だね」
 少女エヴァリィはマスクの手伝いで痛む筋肉に悩まされながらも食事を冥途神社でとる。
 巴としては保存の利く食料や、自前で作れる漬け込み系の魚・肉を準備。すぐ次なら水の樽も搬入したかったのだが、羊皮紙の代金が痛すぎた。
 それにやってくる面子は例外なく保存食を持ってくる。
 新鮮な魚を捕るにもこの辺りは漁場ではない。
 ともあれ、ファングの声が響く。
「仕事の後は、飯が美味しいな」
「だが、どかせない岩が有りすぎる。フットボールとかには危険じゃないか? 特に魔法使い系」
 ファングの楽観に対し、ジェンナーロが憂いを隠せない。
 だが、試験は間もなくの事であった。